#2 辺境の村
今日の空は乾ききっていた。
そろそろ初夏の収穫の時期となり、村中が慌ただしくなっている。
今年も旱魃に見舞われ、畑の作物は枯れ、村人たちは肩を落としていた。
明日の食糧にも困るような生活だった。
小さなころから育ってきた家の牛も、仕方なく屠るしかなかった。
それでなんとか生きていた。
「向こうの川まで水汲みにいくよ」
「ああゼスナディ、遠いのにありがとうな」
年老いた村長は木綿と麻の荒い服を着ているが、土埃にまみれ、汗も染みている。
そこに、親友のフィーナが通りかかり、自分も手伝うと言ってきた。
川まで水を汲みに行って戻るころには、昼過ぎになるだろう。
こんな状況なのに、メリの役人はどうやら予定通り徴税に来るらしい。
川に向かっている途中に、フィーナが懐かしむように村長の庭で育てている作物について語った。
小さい頃の俺はいわゆるガキ大将で、腹が減ったら仲間の牧童と庭に忍び込んで作物を盗んで食べていた。
俺が作物を盗むのを主導したから、村長にバレた時にはそのリーダー気質を出して、自分が責任を持つっていって、一人で村長のもとに赴いて滅多打ちにされたものだ。
そんな昔話もしているが、今ではその作物も育たないで、盗もうとする余地もない。
川から水を汲み、帰路につくと、昼過ぎにもなって真上の太陽が燦燦と照りつける。
横を歩いていたフィーナが意を決したように、少し黙ったあと、ぽつりと言った。
「俺さ、今晩には王都に向かう」
彼の突然の発言に驚いていると、言葉をつづけた。
「飢饉で村が苦しんでいるんだ。王都には、村のことやゼマフェロスの窮状を訴える仲間がいる。俺たちの未来を変えたい。」
「じゃあ俺も向かう」
「いや、お前はダメだ。村はお前がいないと大変だ」
ばっさりと切り捨てられ、俺はたじろいだ。
村へ戻ると、すでにメリの役人が徴税に来ていた。。
青柳色の服を着た3人の役人は、村人を広場に集めさせていた。
村人たちは、俯いて青い顔をしている。
「なんだ、足りていないじゃないか!」
役人の一人が激昂し、村人に鞭を打った。
村人は身を縮め、背中に鞭を打たれながらも何もせず耐えていた。
正直、こんな光景に慣れてきた。
旱魃に見舞われて、ほぼ毎月決められた税に満たない。
「また税を納められてないな。足りないなら誰か責任をとれ。飢えようが死のうが、王国に納める穀物だけは減らすなよ。」
役人は俺たちに向かってそう言った。
おそらく労役のことだ。
どこかでただ働きでもさせるつもりなのだ。
子供たちは親の後ろに隠れて震えている。
俺はいつの間にか前に足が進んでいた。
横にいたフィーナが止めようと手を伸ばすが、とどまった。
「今年も旱魃なのです。どうか猶予を与えていただけませんか?」
役人の目の前に立ち、目を見張って言う。
「ふん、口答えか?」
そういうと、鞭を振って俺に打ちつけてきた。
あまりの痛さに倒れそうになるが、寸でのところで踏みとどまる。
「次も払えなかったら、この村ごと没収だな」
役人どもは、満足したようでそのまま帰っていった。
「すまない、ゼスナディ...」
「いや、大丈夫だよ」
村長は申し訳なさそうな顔をして言った。
この国はおかしい、俺はそう思い続けている、フィーナも同じ心持ちだ。
もうすでに夜は更けていた。
周りの家も明かりを消して、眠りについている。
フィーナと俺は、2人で村の広場で集まり、フィーナを見送ることにした。
「せいぜい1週間くらいさ、帰ったら一緒に酒でも飲もう」
「お前が奢れよ?」
ふっと笑って、奢る気なんてさらさらないように肩をすくめる。
「じゃあ、また今度」
そうフィーナは言って、馬にまたがり、夜道に消えていった。
最終更新:2026年07月16日 01:48