…ある日の金曜日。明日はどうせ休みだし、ちょっとぐらい夜更かししても大丈夫だよね。
こうやって布団に包まって、思いっきり苦いコーヒーを飲む。ホラー映画のDVDなんか見ながら…。
いやさ、こーゆーのって怖いってわかってるんだけどねー…
わかっちゃいるんだけどついつい見たくなっちゃうんだよね。怖いもの見たさってやつかな。

おっと、自己紹介が遅れちゃったね。これは失礼。あたしの名前は世田谷らいか。
ごくごく普通の女子高生……のハズ、なんだけど、実はあたしには困った秘密があるんだよね…。

さてさて、見ていたホラー映画もいよいよ大盛り上がりのシーン。
緊張で背筋が凍り、心臓がバクバクと音を立てる。
あたしの視線は画面の中の出来事にすっかり釘付けとなり、興奮が全身をざわつかせる。
身体は震えのせいか熱くなり、あたしは口を開けたまま息を荒くしていた。

『はっ、はっ、はぁっ…』
映画の中の美女がみるみるその姿を変えていく。
その美女の指の爪は急に尖りだし、胸の辺りから体毛がざわざわと生えてきた。
それだけじゃない、呼吸のたびに漏れる獣の唸り声。やがて顔の形も変わっていく。
数分後、男がドアを開けるとそこにあの美女の姿はなく…。

『アリア、いないのか?アリア?』
男が部屋をうろうろしている。ひたすらヒロインの名前を呼び続けているみたいだ。
しばらくして、脱ぎ捨てられていた服を男が拾った…次の瞬間だった。

『ガァァァァァウゥゥッ!』
『うわっ…あぁぁあーーーーー!!』
突然男の後ろから、かつて美女だった人狼が襲い掛かり、男の首を食いちぎってしまったのだ。
こういう展開だと薄々わかっちゃいたけど、やっぱりいきなり来るから怖いったら。
あたしは恐怖のあまり………大きな叫び声を上げた………。

「わおぉぉぉぉ~~~~~~~ん!!」

………え?
……何これ。
やだ、冗談でしょ?これって人の叫びって言うか狼の遠吠えじゃん。
自分が発した声に驚いた私は、プレイヤーを一時停止し、近くに置いてあった手鏡を手に取り…

……自分の姿を映してしばらくしたあと、そのまま…ぺたん、と座り込んでしまった。

「あぁ…またコレだよぉ~……どうしたもんかなまったく…」

そこにさっきまでのあたしの姿はなく…その代わり、鏡に映っていたのは、
全身を白い体毛で覆われ…黄金色の瞳を持つ人狼の姿だった。
…ま、流石に服までは脱げなかったみたいだけど。

そう、あたしの困った秘密とは…『興奮すると人狼に変身してしまう』こと。
ちょっと恐怖映画を見ると、一番の大盛り上がりのときにこうして変身してしまう。
なんか、あたしって感情の起伏が激しいと自分でも思うんだけど……。

にしても、事あるごとにこうなっちゃうのはどうにかならないもんかね?

「がう!?」
ふいに誰かの視線を感じる。
部屋を見回してみると…なぜかドアが開いていた。
…なーんか、おかしいぞ。ドアは閉めて、鍵もかけてあるはずなのに。
恐る恐るドアに近づき、ドアノブを持って勢いよく開け放してみる。

するとそこには、あたしより一回り大きく、銀色の体毛に包まれた人狼の女がいた。
あたしの姉で、普段はデザイン会社の社長をやっている世田谷ルナだ。
あぁ、なんてこったい。どーやら変身の一部始終をルナ姉ちゃんに見られてたようだ…。
姉ちゃんはニヤニヤしながらこっちを見て、汗ダラダラのあたしに一言、こう呟いたのだった。

「……見てたよ?」
……あたしは恥ずかしさのあまり、そのまま気絶してしまった…。

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最終更新:2010年06月26日 21:56