ハルファヤ峠
兵士A「っぐ、増援は!?ウィッチ隊はまだか!?」ガガガガッ!!
兵士B「指令達に任せとけ!―――来るぞ!発射用意!!照準合わせ!!」
兵士C「アハトアハトを守れ!飛行杯共をこっちに―――っがぁ!?」ドサッ
兵士A「Cィーー!
衛生兵!っくしょお!数が…まだ彼女もいねぇのにこりゃねぇよ!!」ガガガガガガガガ
ッドグシャァアアアアアアアア!!!
兵士E「くそがぁあああ!!防衛線突破!っはは、死んだな…せめて――――」
兵士D「バカヤロォ!んなこと言ってる暇あったら撃てェ!!」
通信室
着弾の激震に穴倉の様な通信室の天井の木板からパラパラと砂が零れる。
次第に近くなる音、兵士たちの悲鳴と怒号。
司令は噛み付く様に無線機に吼えたてた。
≪ウィッチ隊、聞こえるか!?ウィッチ隊!!≫
≪っくぅ、後20分!!こちらも…必ず行きます!持たせて下さい!!≫
兵士A「指令!防衛線突破されました!…もう、撤退しか……!!」
応答が来た通信からは、向こうの戦況の激化を伝えるには充分の、切迫した声が返ってきた。
幾多の要請が来る中で、決して希望を失わずに戦う少女たちに、指令は胸が熱くなるのを感じた。
…もう己の戦線の維持は不可能。ならば、やるべき事は唯一つ。
≪………ウィッチ隊、援護は不要だ。そちらの戦闘に専念してくれたまえ……そうだろう?A≫
指令がにやりと兵士を見る―――――全てを悟ったように、Aは唇を噛みながら敬礼で返た。そして、再び戦場へと飛び出し、大声で告げた。
兵士A「伝令!……我々は撤退を良しとしない!!死ぬのならば―――――!!」
≪徹底抗戦だ。化けて出てでもネウロイ共…貴様らに――――――≫
兵士A「この北アフリカを、渡しはしない!!!」
兵士「「「「「「うぉぉおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」
無線越しから聞える男達の咆哮に、たらりと嫌な汗が頬を伝う。
させるものかと、マイルズは必死に呼びかけた。
≪ッ!?何を考えているんですか?…あきらめちゃ駄目です!!≫
≪…君達とこのハルファヤ峠を防衛出来た事、誇りに思う。男79人、ここで――――!!≫
≪やめてください!……お願いですから、すぐに、後10分だけ……必ず行きますから…!≫
死刑宣告様なその言葉に、次第に涙声になって行く彼女にありったけの感謝を伝えた。
あの花咲くような笑みを、決意を秘めた真っ直ぐな瞳を、もう自分が見る事は叶わないのだから…
≪…ウィッチ諸君、感謝する。君達に、神の加護が有らん事を……≫
≪待って――――!≫ブチッ
縋る様な声を一方的に切る。がちりと叩きつけられた受話器を見詰めながら、
背後で司令部に報告を行っていた通信兵が、そっと全ての無線機のスイッチを切った。
通信兵「指令……ここまでですか………」
指令「…ここが、引き際だということだ。行くぞ」ザッ
通信兵「………ハイッ!!」ザッ
指令「男に生まれ、男に生き、男として死ぬのなら…派手に散って、この命、乙女らに捧げよう!!!皆に告ぐ!!一匹たりともこの防衛線の外に出すな!!
たとえ命散らせてでも…一匹でも多くを道連れにしろォ!!!!」
兵士「「「「「「おおぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」
≪ザザッ、ハッ…ザー…ガガ…でこそ、男って…ンだ!≫
誰もいない通信室に声が響く。からからと向こう側からは場にそぐわない陽気な笑い声が流れる。
≪ザザーッ…れもいねぇのか?ガピーザッ…から突貫すガガッ…伏せろ≫
…応答なし。――おそらく全員外に出たのだろう……己の命を掛けて――
男は自分の声すら聞こえない轟音の中で深く息を吸い、インカムに叫んだ。
≪てめぇら全員、頭下げろォオオオオオオオ!!!!!≫
雷鳴の様な咆哮が穴倉から襲い来る。
天井からは、一握の砂が零れ落ちた。
兵士B「うわっ!?……兄貴…なのか?」
兵士D「~~~ッ痛ってぇ!…今の通信は!?頭下げるってなんで?」ホワイ!?
兵士E「あ゙がぁ、鼓膜がァ!?…ッバカヤロウ!止まるな!死ぬぞ!!」
指令「っくぅ~~~!」(頭を下げろ?奴は何を言っている!?…調子に乗るなよ、野良猫が!たった一人で…何が――――!?)
突然起こった大音量に頭を抱える。怒りのままに天を見上げ、いきなり現れた星に指令はうっと目を細めた。
――――星か?……いや、今は昼間…まさかッ!?――――
倒れた体を無理矢理起こし、双眼鏡でもう一度真昼の星を見る。
指令「……ははっ、地獄に連れてく奴が増えやがった…!!」
その機体、色は黄にして、時に黒。敵を食らうその様たるや、まさに虎…!!
兵士C「お、おい!アレ!!」
兵士A「ッカヤロ!敵は陸戦が6と大型が1だぞ!?飛行杯だっている!…なんでわざわざ、死にに来た!!」
奴はぐんぐんと高度を下げ、こちらに向かって来ている。速度から見るに墜落か?操縦不能?…どうでもいい、すでに捧げた命だ。好きに使うがよろしい。
墜死でも爆死でも何でも付き合ってやる!!貴様の最後の希望に、しがみ付かせてもらおう!!
指令「総員、直ちに地球にキィイイッスゥ!!」ガバッ
兵士「「「「「「「イエッサァアアアアア!!!!」」」」」」」
多くの兵が砂に身を投げる。轟音が迫る戦否、落ちてくる。垂直落下の形だ。このままくれば奴は墜死、こちらの数名は味方機の墜落に巻き込まれた、と不名誉な死を迎えるだろう。
追突まで数秒の所で奴の機首が軽く持ち上がるのが見えた。
まだ立っている者がいる。あいつは正常な精神を持っているのだろう。こんな賭け、誰がするか。
しかし今、俺達が持っている切符はたったの2枚…ネウロイ共と共に地獄に落ちるか、
虎を信じて基地に帰るか……奴は俺達を信じてここに来たのだろう。だったら、選ぶ切符は、選べる切符はたったの一枚―――!!!
兵士B「俺はあんたに賭けるぞ!虎ぁ!」
飛行杯を撃つ友人をタックルで倒す。ぎゃあぎゃあと喚かれるが次々と倒す。
良いんだ。たとえ死んだとしても、俺は、自分で決めた!!
機首はまだ上がっていない
指令「上がれ……あがれぇええぇぇえええええええええ!!!!!!」
ゴオォオオオオオオオオオオオ!!!!
接触の寸前、黄金の風が彼等を撫ぜた。荒々しく熱砂を巻き上げながら。
弾丸が辺りに降り注ぐ。誰一人として動けない。あっという間に飛行杯共は薙ぎ払われた。
そのまま奴は砲台に登った陸戦を2機程撃ち抜き、大型への針路を取る。
兵士A「うえっぺっぺッ!ごほ……生きてる?」
兵士F「何暢気なこと言ってやがる!見ろ!」
ラダー操作と言うのだろうか。奴は辷る様に大型へと向かっていく。
下では目標を奴一点に定めた陸戦、大型が光線やら弾を乱れ撃つがかすりもしない。奴にも、そしてこちらにも。
兵士C「お、おい、なんでこっちに一発も来ないんだ?」
兵士B「…来ないんじゃない!派手に出てきて敵の注意を全部引き付けたんだ!だから流れ弾の一つも飛んで来ない!」
兵士D「なあ、それってすごいんだよな…?」
少年の様な眼で彼等は奴―タイガーバウム―を見詰める。その間にも陸戦が火花を散らし、その数を減らしてゆく。
大型まで後数秒。急速に敵の固定砲座に赤い光が集まるのが指令の双眼鏡に映った。
指令「奴め!ぶっとい奴をブチ込む気だ!!」
隣で口角泡を飛ばしながら指令が叫ぶ。それでも奴はスピードを緩めない。針路も変えず、まっすぐに敵の懐へ飛び込んでゆく。
瞬間、機体が傾く。機銃を放ちながら大型ネウロイの懐、脚と地面のスキマにその身をねじ込んで―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
班長「こ、の、馬鹿虎!」ゴィン
俺「あでっ!……スパナは
整備士の魂じゃねぇのかよ」サスサス
班長「あのなぁ、飛行杯は分かる!…戦闘機で陸戦4と大型1って何やってんだ!?」
俺「あん?共同撃破だからそんなに落としてねえぞ?」
整備1「また数えてなかったんですか?共同を引いてこれですよ。今の所週間トップですね」ガチャガチャ
俺「仕方ねぇだろ。常に全開じゃなきゃ治まらんからな!」フンス
整備2「まあ、そのお陰で整備のやり甲斐があるってもんだ。増えた分尾翼に描き加えとくからな~」
ワイワイ サッサト カエチマウゾー! オー! ナア、オーバーホールスルカ? ンー チョットシタラヤルカ リョーカイ ガチャガチャ
班長「…ったくよォ、お前は無茶したって構わねえよ。だがな、コイツがぼろっちょになるのは我慢ならん!」ズビシッ
所は格納庫。先程の戦闘は終了。現在は再出撃の為の調整中の様だ。
そして整備班長の指差す先には、脚のもげたBf 109もといタイガーバウム。ついでに両翼にも弾を受けている。
そんな愛機を見て満足げに頷くと、俺は操縦席の後ろに積んであった酒瓶を傾ける。
俺「ハァッハー!良くあるこった、気にすんな!」ガブガブ
班長「フゥーー……状況を整理しようか、少尉。大型は確かにデカイがその股をくぐるなんて戦闘機でやるもんじゃないぞ?
しかも超低空飛行でエンジンに砂が入るわ、もうちょっと労わってやってくれ」
俺「すまんすまん。ここに来てからあんまりにも調子がいいから、もっと飛ばしたくてな。やっぱお前らの腕は最高だな。
動きが全然違う、まさに人機一体って感じだぜ。ありがとな」ニシシ
班長「…礼を言うならこのトンデモエンジンの開発者と機体の制作元に言うんだな。
一度魔法力を流せば、長距離航行可能。運動性の上昇…機体の方もそれに付いてこれる安定性に格闘性能。それに戦闘機型のBf 109なんざ聞いた事もないしよ」
俺「エンジンの設計は扶桑だ。機体はメッサーシャルフで…あーエンジンは調整し直しだったな。コイツは俺の給料30ヶ月分で作ってもらったのさ」
班長「おおう…ストライカーも大分高いが、コイツはすげえな…オーダーメイドか」
俺「そんなモンだな。まぁ、12ヵ月分にまけてもらったけどな」
班長「どうやって!?」
俺「全員に女紹介してやった」ドヤ
班長「……まあ、そうだよな…うん」
俺「ハッハッハ!そいつも本当だが、大方の理由は設計図さ!扶桑でもらったな!」
班長「設計図だァ?」
俺「そ。最初に乗ってた九六式が限界に近かったんでダイナモ作戦の後に変えたんだ。
そんでメッサーシャルフに、今出てる最高のストライカーと同性能の戦闘機を作ってくれって頼んだら、エンジンの設計図を見せろって言われてな」
班長「分かるなぁ…その気持ち。で、企画、設計は誰なんだ?これは実験機だったんだろ?」
俺「イチローだよ。実験内容は男でもウィッチと同等に飛べるか。だけど適合者がいないから駄目になったんだと。で、そいつを俺が拝借。」
班長「運がいいというか何というか……」(イチロー…はて、どっかで聞いたような…?)
俺「ハッハー、運も実力の内ってな!」
「ふふん、相変わらず良く回る口だな」
突然後ろから羽交い絞めにされ、持ち上げられる。ストライカーの音からして彼女だろう。まあ、持ち上げると言っても数センチ浮いた位だが。
俺「おう、中尉。上がりか?」
マルセイユ「とりあえず午前は終わりだな……おも…」
そう言いながらそのままよろよろと飛び、発進ユニットの方へと進む。
道中、重そうに持ち上げた俺にマルセイユが楽しそうな声色で話しかけた。
マルセイユ「さーて、今日は何機落とした?」
俺「ハッハー、聞いて驚け!飛行杯5に陸戦4、大型1だ!」
マルセイユ「……飛行杯なら私の勝ちだな、7機だ」
俺「…午後から巻き返してやるよ」
ペットゲン「その前に服を着なさい」ゴンッ
ライーサがMG34で俺を殴る。
難なくゴーグルで受け止めながら、甘いなと、笑った。
俺「下来てるから良いじゃねえか!」ブーブー
マルセイユ「まあ、暑いのは分かるがなぁ…たかがタンクトップ一枚だぞ?」
俺「キャビンの中は蒸し風呂みてぇなもんだ。少しでも涼が欲しいの!―――ぐぅぅ―――オゥ…」
マルセイユ達は長袖にも関わらず汗は少しかいているだけ。対する俺は上半身裸にも関わらずだらだらと汗をかいていた。
ウィッチとしてのシールド、彼女らは障壁を張って暑さを凌いでいるのだが、俺にはその機能は備わっていない。
それに操縦席は窓が無いのだ。直接風を受けられる彼女たちは何と羨ましいことか…
ペットゲン「っぷぷ、体は正直ね」クスクス
マルセイユ「よし、さっさと食べに行こう。ライーサ、早く脱ぐぞ」ブロロロ
ペットゲン「はい、ティナ。俺は先に行ってていいよ?」
俺「ハハーン、レディを置いて先に頂戴しようなんて事考えると思うか?…って聞いてねえし…班長ー先に飯貰うぜー」
班長「おーおー両手に花たぁこの事だな。次までには仕上げとくから早く行け」シッシッ
俺「ハッハッハ、さーて今日は何かなーっと……」
呟きながらハンガーを出る。今日も太陽さんは絶好調だ。ぎらぎらと辺り一面を焼いている。
半裸でも関係なく汗がどっと出てくる。じりじりと皮膚が焼かれる感覚にはもう慣れたが、これ以上日焼けしたら立派なアフリカ人になりそうだ。
暑さに思わず呻き声を漏らすと後ろから二人分の駆け足の音が聞こえてくる。
――何も走らなくてもいいのに――
振り返ろうとすると、背中に衝撃と幸せの感触、そしてライーサのため息が聞こえた。
マルセイユ「そんなに肌出してると火傷するぞ?」
俺「ハッハー、俺は火傷しない体質なんだ!…うん、マントがあった方がいいなァ」
ペットゲン「ティナ!飛び付かなくてもマントは渡せるよ?」
マルセイユ「お、ライーサもやるか?」
ペットゲン「やりません……俺、変な事考えて無いでしょうね?」
俺「あ?美女に抱きつかれて考えない方が失れゔ!?」ゴシャア
蹴りが飛んだ瞬間、マルセイユがその素晴らしい視力を使って俺から離脱。
首に巻き付いた手が離れた瞬間、左手を前にその足を顔面ギリギリで受け止める。
マルセイユ「ナイスキック、マティルダ!」グゥレイト!
俺「ハッハ、今日もばっちりだな!」
マティルダ「ふん、今日はマミが当番だ。早くしろ」
俺「扶桑料理か!……マミはまだ訓練期間か?」
ペットゲン「…俺、ちょっと……」
振り向きざまに見たライーサの顔は、…なるほど。
俺「ご相談なら何なりと…お嬢さん」
紳士とは、女の子達の願いを叶えてこそ輝くものだ。
――――――――――――――――――――――――
――――――お昼休憩
帰ってきた俺達の話す今日の戦闘を聞きながら、加東は漬物をかじる。
稲垣と氷野兵曹ら扶桑の整備兵達が漬けた物で誠に美味。扶桑最高。
両隣では俺とマルセイユがまた戦果を競いながら、もっさもっさとご飯をかきこんでいる。
加東「今日もハイスコアね…よろしい」モクモク
俺「今の所俺が一歩リードだ。今度こそ引き分けかァ?」モギュモギュ
マルセイユ「ふふん、私は午後だって出撃だぞ?まだ勝ちは譲らないさ」モグモグ
稲垣「あ、おかわり要りますか?」
俺・マルセ「「頼む!」」
競争競争競争。俺が来て早3週間。二人が勝負と言わない日は無かった様に思う。
どっらがご飯を早く食べ終えるか、どっちが多く腹筋出来るか、シャワー終わりの牛乳をどっちが早く飲み干すか…
ちなみに戦闘に置いてはマルセイユがリードしている。まあ、俺もしっかりと報告すれば同じ位だと思うのだが。
味噌汁を飲みながら、またご飯をかきこむ二人に注意を施す。
加東「腹八分にしときなさいよ?まったく食べれば良いってもんじゃないの!」
俺「腹が減っては戦は出来ぬってな!それにうまいから仕方ない!」モッシャモッシャ
ペットゲン「ティナもだよ?この前みたいに食べ過ぎで戦闘不能なんてやめてね」
マルセイユ「…分かってるよ。もう一杯」
――――――――――――――――――
――――――――――――――――
お昼寝ほど心地の良いものはなかなか無いと思う。たくさん食べて、その後少しのお休みを使って椰子の木の陰に寝転ぶ。
カトーが『食べた後すぐに寝ると牛になる』と言っていたが、虎だし心配ないだろう。
寝転べば、すっと眠りの泥に沈んでいく。少し暑いが風で汗が冷やされて気持ちがいい。そのまま意識はぬるい底なしの泥に沈んで落ちていった。
マルセイユ「えいっ」ピト
俺「……んお?」パチッ
椰子の木陰に寝転んでいた俺の頬に瓶を当てる。泥みたいに動かなかったから少し心配したが杞憂に終わったようだ。
もそもそと起き上がると大口を開けて伸びながらあくびをした。猫かコイツは…ああ、虎か。
俺「ふぁ~~…ゔぅー……中尉?どうした?」ゴキゴキ
マルセイユ「牛乳。マティルダから貰った」ポイ
二つ持っていた内の一つを投げ渡し、隣に腰掛ける。
ちょっと冷えた蓋付きの牛乳瓶。嬉しそうに俺が瓶を眺める。
俺「おーあんがとよ。………なあ、アレある?千枚通し」
マルセイユ「そんなものない」
俺「……あれなきゃ開けらんねぇんだよ」
マルセイユ「…女のはいじり慣れてる癖にか?」
俺「お前の口からその言葉が出るとは思わなんだ……あっ」どぶっ
俺「オゥ…指入んねぇ…蓋取ってくれ中尉」
マルセイユ「本当に駄目なんだな…ほら」
俺「ありがとよ。あ、指濡れちまったな」ハシ ベロン
マルセイユ「~~~~ッ!?」
俺「うん、うまい」
マルセイユ「………馬鹿か」
赤くなったマルセイユの反応を楽しみながら、ぐいっと牛乳を飲む。
ここに来てからほぼ毎日飲んでいるが、飽きないおいしさは素晴らしい。
俺「ハッハ、猫舌はこういう時便利なのさ。欠点はアイスキャンディーがすぐ無くなっちまうトコぐれぇだな」ニシシ
マルセイユ「…今度目の前でゆっくり食べてやる」チビチビ
俺「半分ぐらいもらうからな」グビグビ
マルセイユ「ハン、ジェラートでも食ってろ」
俺「お、じゃあ休暇が被ったらロマーニャ行くか?俺の庭だぜ?」
マルセイユ「時間があったらな」
俺「決まりだな…………さて、行くか」ザッ
牛乳を一気に飲み干し立ち上がる。この行動が示す事は唯一つ
マルセイユ「来たか…便利な耳だな。瓶はちゃんと木箱に入れろよ!」タタッ
俺「あ!待てコラ!今日は俺が勝たせてもらうからな!!」ダダッ
木陰からマルセイユが飛び去る。一歩遅れて俺も駆け出した。
テーブルを横切ると書類を書きながら
サンドウィッチを食べるカトーから今日の予定が飛ばされる。
加東「俺!2時頃にコンテナ届くからよろしく!!」
俺「あいよ!!」
雑用は大変だ。素早く敬礼し、俺はハンガーへ駆けだした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
俺「月の~沙漠を~はぁーるーばるとォー」フンフン
稲垣「旅のーラクダがー行きーましたー……お上手ですね」
俺「マミの方が上手さ。やっぱかわいい子が歌った方がいいなァ」
二人でコンテナを運びながら歩く。稲垣が一つ、俺も一つ。ちなみに俺は二つ持って行こうとしていたので稲垣が渾身の力で止めた。
稲垣「俺さんはこの後水浴びですか?」
俺「ハッハ、水浴びは最後だ。この後はマミと洗濯だぜ?」ニシシ
稲垣「忘れてなかったみたいですね」ニパ
俺「ハハー、当然だろ?さ、早く運ぼうぜ!」
稲垣「はい!」タタッ
――――――――――――――――――――――――
―――――3時近く 洗濯
ざぶざぶ
俺「あ、これボタン取れそうだな…ゆっくり着ろっての、まったく」ジャブジャブ
稲垣「…なんでこんな普通に洗ってるんですか……」ザブザブ
俺「いやだって…見慣れてるし? あ、カトーの奴コーヒーこぼしやがった」シミヌキット
稲垣「ヒモ?ってすごいんですね」
俺「まあなー養ってもらって女の子と遊べて、最高だ!
その代わりに掃除洗濯家事のあらゆる全てをこなし、なおかつ相手が好きな俺を保たなくちゃあならないけどな。まっ楽勝だけど」フンス
稲垣「わぁ…すごいんですね……!」キラキラ
俺「ハッハ、マミは正直だな!中尉に『ヒモのなり方』を教えてやった時には怒られたもんだぜ!」
稲垣「え?…そう言えば最初からマルセイユ中尉と知り合いだったみたいですけど、いつ会ったんですか?」
俺「ダイナモ作戦の時さ。あいつの部隊の支援に行った時に少し話したんだよ」
稲垣「それだけですか?」
俺「おう。いつか隣を飛べるようになるといいな、って言って別れたんだ。少しだったが、面白い奴だってのは分かったなァ」
稲垣「やっぱりマルセイユさんはすごいんですね…」
俺「ハッハ、信念を持った奴は面白いんだよ……マミ、訓練は辛いか」
稲垣「―――ッ!?い、いえ!全然平気です!むしろもっと頑張らないと、皆さんに……その、ご迷惑を…」
次第に声が小さくなる。無理もないだろう。たった14歳で戦場に来たのだ。
それも周りはみんな実力者。親しくなった者もいつ死んでしまうか分からない…
きっとここで話を終わらせてしまえばそこまで。だが、それはこの子の意思ではないだろう。一声、それだけでいいんだ。
俺「マミ」
洗っていた手を止めて、彼女の潤んだ瞳を見詰めた。
稲垣「…………私は、皆さんより弱いんです」
ぽつりと心の内がこぼれ出す。
俺「ああ、そうだな」
稲垣「…私も、出撃した事はあります。でも、いつも迷惑をかけてしまって」
稲垣「情けないんです。力があるのに、訓練してるのに、全然追いつかなくて……」
稲垣「…分かってはいるんです。ケイさんにも言われたし、まだ、追いつけないって」
稲垣「才能があるって言われても、なんだか……不安で…もしかしたら騙されてるんじゃないかって」
稲垣「……あの、俺さんは、どうして戦うんですか?別の道だってたくさんあったのに…」
俺「やりたかったからだ」
稲垣「………え?」
俺「俺は、俺の進みたい道を選んできた。それだけだ」
稲垣「え、その…その力が、ウィッチの力があるからじゃないんですか?」
俺「守りたいものがあったから、力を手に入れたんだ。仕方なくやってるんじゃねえよ」
俺「…誰に言われたか知らねえけどよ、まあ確かにヒモやってた方が楽だし、レーサーやってた方が女も金も手に入るぜ?
でもよ、それじゃ女の子を守れねえんだ」
稲垣「でも!…自分が死ぬかも知れないんですよ!?誰かを…失うかも知れないんですよ?それなのに、どうして―――」
俺「まったくもってその通り!…だがな、俺は手前の魂に嘘を吐きたくねえ!」
稲垣「―――――ッ」
俺「…それに、この力が無くたって俺は戦いに飛び込んだぜ?マミ、お前は違うのか?」
稲垣「なんで、そんなに…」
俺「後悔なんざしたかねぇんだよ、俺はな」
稲垣「……俺さんは、まっすぐでかっこいいです…」ポロポロ
俺「…」ポムポム
稲垣「いつも、考えてたんです…この力が無ければ、幸せだったんじゃないかって」グスグス
俺「…俺はな、いつも幸せだよ」ポムポム
俺「俺は全力全開で生きて来た。今もそうだ。その生き方しか知らねえしな」
俺「一つの場所に留まるのが嫌だった。だから走って来たんだ」
俺「…確かにその力はお前の意思じゃなかったかもしれない。でもよ、ここに来たのはお前の意思じゃねえのか?」
稲垣「…私は…まだまだですね」
俺「お前は俺達
アフリカの仲間なんだぜ?だから、転んだっていいんだ。焦らなくてもお前は、お前の強さに向かって進んでる」
稲垣「はいッ…」
俺「ハッハ、それでいい。一人前になるまでは俺達が守ってやる。
…力があるから戦うんじゃない、信念を、何かをもって、何かの為に戦ってんだ。マミだってもってんだろ?」ナデナデ
稲垣「…はいっ」(大きい手…何だろう、お父さん?ううん、私の知らない……)
稲垣「俺さんの手は大きいですね」
俺「おう。なんでも掴めるぞ?」ワシャワシャ
稲垣「いなかったから分からなかったんですけど……」
俺「おう?」
稲垣「俺さんって、お兄ちゃんみたいです」ニコ
俺「は……ハッハ、そうだなァ」ワシャワシャ
稲垣「うー…そんなにやらなくても良いじゃないですか」ブー
俺「ハハ、これだけ言えれば元気だな。みんな心配してたんだぜ?特にライーサがな」
稲垣「あははやっぱり…ごめんねライーサ…」
俺「ハッハッハ、大丈夫だ!うまい飯食って寝れば明日になる。だろ?」
稲垣「ふふっ、俺さんはやっぱりカッコいいです」
俺「かわい子ちゃんの悩みを聞いて、解決して差し上げるのも紳士のたしなみだぜ?
それにごちゃごちゃ考えるのが嫌なだけだ。さ、みんな待ってるぜ」
洗濯終了!と言うと俺が桶を抱えて立ちあがる。洗濯のものは全て綺麗に洗ってあった。
稲垣「俺さん、私が持ちます!」
俺「おう、頼んだぜマミ」ヒョイ
稲垣「っとと、…えへへ、今日のご飯は何でしょうね?」
俺「俺は肉がいいな~たまにはがっつり行きたいもんだ」
稲垣「じゃあ、お肉が届いたらみんなで食べましょう。炊事班の皆さんと頑張りますからね!」
俺「ハッハ、楽しみにしてるぜ」ナデナデ
稲垣「おいしいご飯は任せてください」ニコ
俺「任せた。さ、早く戻らないと炊事班の奴等にどやされちまう」ザッザ
稲垣「あ……はい!」タタッ
先行く大きな背中を追いかけるように、稲垣は走る。手に抱えた桶の重さを感じながら、俺の隣に並んだ。
その日見た景色は、どことなく故郷、扶桑の梅雨明けにも似た爽やかさを孕んでいるように感じ、
稲垣はふっと笑った。
――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――
「新型ストライカーねぇ……」
「今度こそ駄目か?」
「そこまで言うなら使って安全を確かめてみろ、だそうだ。実験はそっちでやれば良いだろうに」ギリ
「事故が多いと聞くからな…それにあの子の意見も尊重したかったがなぁ……」
「祈るしか無かろう。何もない事、何も失わない事…」
「壊したらどやされるかね?」ハッハッハ
「報告書も提出だ。馬鹿馬鹿しい…契約書まであるんだぞ?」
「死ねと言ってる様な物だな。確かにエースが履いて、成果を出せば評価は良くなるだろうが…」
「今まで散々突っぱねて来たお釣りが来たんだろ。諦めなかった執念だけは認めてやる」バサッ
「だからと言ってどう説明すればいいのだ!?」バンッ
「もう逃げられん。それに今から呼んで説明しなければ間に合わない」
「そうだな。おい!彼女を、マルセイユ中尉をここに。話があると」
「はっ」ザッザッ
「あとおやつもあるって!頼むぞ!」
右に座す男が拳を握りしめ、怒りに震える手を落ち着ける。
ぎりりと歯を合わせる音が天幕に響いた。
「我が輩の、失態だ」
「お前の所為じゃないさ…ここにいる全員が共犯者だ」
最終更新:2013年02月02日 12:59