――トブルク 司令部――



俺「帰国命令、ですか」


 アラメイン防衛戦の数日後、司令部に呼び出された俺に伝えられたのは、扶桑本国からの帰国の指示。
 『試験は十分にされたものと認む。第1混成航空隊は内地に帰還せよ』とのことだ。


ロンメル「うむ。俺中佐ほどの者を帰すのは非常に惜しいのだがな。
     ……中佐には随分と助けられたよ、ありがとう」


 名残惜しそうにしながらも握手を求めてきた将軍の手を握り返す。


俺「いえ、自分は感謝されるほどのことはしておりません。
  自分に課せられた任務をこなしただけです」

ロンメル「ふっ、謙遜しなくても良い。アフリカが君によく助けられたことは事実だ。
     私だけではなく、アフリカ軍団は皆君に感謝している。
     ……ああ、特にカトーやマルセイユは随分と君に感謝していたよ」


 加東は、お互いわだかまりが消えてすっきりしたといったところか。
 マルセイユは自分の進むべき道は見えたことだろうし、もう大丈夫だろう。


俺「自分のような者が皆の力になれていたならば……光栄なことです」

ロンメル「うむ、今後も君の活躍には期待しているよ。
     ……さて、1週間後に扶桑の飛行艇がトブルクに到着する手筈になっている。
     俺中佐はそれで帰国することになるだろうが、それまではここでゆっくりしていると良い」


俺「そうさせてもらいます」


 そうして、適当なところで話を切り上げ、司令部を辞する。

 すると、司令部の外に出たところで竹井が駆け寄ってきた。
 この様子だと、俺が出て来るのを待っていたのか。


俺「どうした、何かあったか?」


 俺に報告するようなことでも起きたのかと思ったが、どうやらそういうことではないらしい。


竹井「いえ、中佐が司令部に入っていくのが見えましたので」


 どの程度時間がかかるかもわからないのに、ずっと待っていたのか。……忠犬かこいつは。
 そのことに若干呆れつつも、労いの意味も込めて竹井の頭を軽く撫でつつ、少し忠告しておく。


俺「貴様も軍人とはいえ、一人の女性であろう。
  少しは自分の体を大切にしておけよ」

竹井「あ、はい……」


 それに対して頬を若干赤く染めながら俯く竹井。
 む、やはり無理をして体調でも崩したのか?


俺「……竹井、ちょっといいか」


 そう言ってから、それまで撫でていた手を竹井の額に移し、顔を覗き込む。


竹井「えっ、……!?」


 ……ふむ、熱はないか。
 しかし、頬が少し赤いのは気になるな。
 そんなことを考えつつ、額から手を離す。


俺「竹井、気分が悪いようなら少し休んでおけ」

竹井「……はい」


 少し呆けた表情で頼りなく返答する竹井を見て、また少し心配になる。
 うーむ、脱水症か?アフリカの昼は暑い上に乾いているからな。


俺「貴様、本当に大丈夫か?辛いようなら少し休んだ方が良いぞ」

竹井「あっ、別に体調が悪いわけでは――
   ……いえ、中佐の天幕で少し休ませてもらってもいいでしょうか?」


 俺の?
 まぁ、確かにここ司令部から見える場所に俺の天幕があるわけだが……。


俺「……そうだな、自分の天幕まで戻るのが辛ければ俺のとこに来ても構わん」

竹井「では、お言葉に甘えて!」


 そうして急に元気になる竹井。
 ……貴様、先ほどとは全然違うじゃないか。

 その変わり身に若干呆れつつも、俺は自分の天幕に足を向ける。
 隣を歩く竹井の姿を確認しつつ、ふと竹井に伝えるべきことを思い出した。


俺「あぁ、先ほど本国から我々に帰国命令が出た。
  出発は1週間後になるだろう。覚えておいてくれ」

竹井「1週間後ですか?」

俺「うむ。今度補給のためにトブルクに来る二式大艇に乗り、我々は扶桑へ帰国する」


 整備士と技術士もその便で共に、彗星は主翼を取り外して積み込むらしい。
 ……これほどの荷を積めるとは、流石に傑作飛行艇と噂されるだけのことはあるな。


俺「そういうわけで、1週間後だ。
  ……場合によっては貴様に直掩を頼むことになるかもしれん、それまでに体調はしっかり整えておけよ」

竹井「わかりました」


 竹井の返答を確認し、気がつけば既に到着していた俺の天幕に竹井と共に入る。
 竹井をベッドに寝かせ、水を飲ませたところで俺は自分の作業に。
 そこまで多いわけではないが、今のうちに荷を纏めておくか。




――――



マルセイユ「俺!」


 数少ない自分の荷を纏め、竹井と談笑しているところで、マルセイユが大声と共に俺の天幕へと突入してきた。
 よく見れば、その後ろには加東の姿も見える。


俺「騒々しいぞ、マルセイユ」


 そう窘めるが、意に介さずにマルセイユは俺の傍まで大股で近づいてきた。


マルセイユ「……お前、扶桑に帰るんだってな」

俺「ああ、その通りだ。今回のアフリカ派遣における主目的は達せられた、と判断されたらしい。
  ……まぁ、まだ1週間ほどはここにいるが」

マルセイユ「むぅ……」


 その言葉にマルセイユは押し黙り、責めるような目で見つめてくる。
 いったい何なんだと思って加東を見ると、苦笑しながら説明し始める。


加東「これからは気持ちよく一緒に飛べると思った矢先のことだったので、ね」

俺「……なるほど」


 ――『娘』の反抗期は終わった、ということか。


 口に出さずともそのことが伝わったらしい加東と共に少し笑いあう。
 と、笑われたことに対して不機嫌になったのか、マルセイユは口を「へ」の字にして俺と加東を睨んできた。

 その微笑ましい態度にまた笑いそうになりつつも、マルセイユの頭を撫でつつ宥めにかかる。


俺「すまんすまん。まぁ、そう怒るな」

マルセイユ「む……むぅ……」


 幾分か機嫌が直ってきたな。もう一押しか?


俺「まだ1週間はここにいるんだ。その間に共に飛ぶ機会もあるだろう」


 だからそれで許してくれ、と懇願すれば、マルセイユは渋々といった感じで頷く。
 その様子を眺めていた加東と竹井は、何かに思い当ったのかこっそりと話し合う。


竹井「……まるで、単身赴任の父と遊びを強請るパパっ娘の図ですね」

加東「あら、それなら父の不在の間は母の私がしっかりと面倒を見ないとね」

竹井「既に捨てられたような母はさておき、中佐は私が責任を持ってお相手させていただきますので、ご安心を」

加東「……あんたねぇ……」

竹井「何か?」


 ……はぁ、またこいつらは険悪になりおって。
 最早見慣れてしまった光景に呆れつつ、先ほどからずっと撫で続けていたのが功を奏したのか、
 いつの間にかご満悦な状態になっているマルセイユを眺めて現実逃避をする。

 同じ『鷲』同士、何やら黒い雰囲気を撒き散らしている二人を尻目に、仲良くしばらくそのままでいると――


 ――ウウウゥゥゥーー!!――


 突然の警報。
 咄嗟のことではあったが、加東もマルセイユも竹井も、
 今までの雰囲気は嘘のように、皆慣れたように俺の方に向き直って指示を待つ。
 ……加東とマルセイユは俺の隊ではないから指示を待つ必要は無いはずだが、最早気にするだけ無駄か。


俺「ふむ、存外早く機会が訪れたな。……スクランブルだ!各自出撃準備!」


 その言葉に、弾かれたように加東とマルセイユは自分のユニットの許へ向かう。
 俺も竹井を従えて彗星の許へ。


俺「竹井、貴様、体は良いのか?」

竹井「ええ。もう大丈夫です」


 彗星に乗りこむ前に、気になっていた竹井の状態を確認する。
 いつも通りの調子で返答する竹井を見て、ひとまずは安心。
 足取りも目もしっかりしていることであるし、これなら大丈夫だろう。

 ……しかし、そうするとますます先ほどまでの様子が謎になってきたな。


俺「……まぁいい」


 今はとにかくネウロイを撃退することを考えるべきか。
 そう考えて機体を発進させようとしたところで、通信が入ってきた。


モントゴメリー『――こちらモントゴメリーだ。出撃中止。
        奴等はこちらではなく、アルアシブ市場に向かっている』

竹井「えっ……?何を言って……!?」

モントゴメリー『町の防衛はエジプト軍の管轄だ。君達の任務ではない!』


 ……つまり、「我々は町がどうなろうと知ったことではない」ということか?
 戦力温存の慎重派の将軍だとは聞いていたが、市民を見捨てるほどとは……!


俺「……竹井、出撃中止」

竹井「中佐!?」

俺「……整備士!」


 竹井の抗議の声を余所に、機体の近くにいた整備士に声をかける。
 俺の呼びかけに応じて操縦席の傍まで駆けつけてきた整備士に、いくつかの質問をする。


俺「今、彗星の武装はどうなっている?」

整備士「はっ、前回の出撃時と同様の翼下の37mm航空機関砲に加え、爆弾倉に五十番があります!」

俺「機関砲の弾数は?」

整備士「前回の倍の、片側30発であります!」

俺「ほう、これはまた重武装だな。……ところで、これは『試験的』な武装かね?」


 わざと「試験的」を強調して質問した俺に、整備士は少し面喰っていたが、
 俺が何を言いたいのかを理解すると、少し意地の悪い笑みを浮かべながら同調してきた。


整備士「ええ、この重装備は『試験的』な武装でありますので、
    操縦性等の実際に運用した際のデータが欲しい、と技術屋も言っていましたね」

俺「わかった、下がってよい」

整備士「はっ、……ご武運を!」


 そして、整備士は一つ敬礼をしてすぐに立ち去る。
 その間にこちらに近づいてきた竹井を一瞥すると、俺は再度エンジンの出力を上げる。


竹井「中佐!」

俺「竹井、我々の出撃は無しだ。
  よって、俺はこれからこいつの試験に出かけてくるとするが……貴様はどうする?」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべつつ、竹井に問う。
 ここにきてようやく事態を把握した竹井も、控えめに笑いながら同調する。


竹井「……ふふっ。……では、私もお供させてもらいます」

俺「よろしい、では俺の直掩につけ。ネウロイと鉢合わせるようなことがあれば目も当てられんからなぁ」

竹井「了解です」


 竹井の了承の意を受け、俺は彗星のエンジン出力を最大に叩きこみ、機体を勢いよく加速させる。


管制官『俺中佐!出撃は中止だぞ!俺中佐!』


 ここで、滑走路上を加速していく俺と竹井に気付いた管制官が止めに入ってきた。
 だが、もう遅い。
 設計時の想定以上の武装を備えた彗星は、今まさに地上から足を離したところだ。


俺「こちら俺中佐。出撃が無いようであれば、我々は機体の試験を行わせてもらうことにする。オーバー」


 市民を守らずして、何が軍人だ、何が軍隊だ。
 町が襲われている様を腕を組んで眺めているなど、言語道断。

 そうして一方的に通信を切り、俺と竹井は大空へ飛び立っていった。




――――



マルセイユ「……む、あそこを飛んでいるのは、俺の機体じゃないか!」

加東「ちょっと、マルセイユ!出撃は――」

マルセイユ「モンティはケイが適当に言い包めておいてくれ!私は先に上がってるぞ!」

加東「ああもう、待ちなさいって!……まったく」

稲垣「け、ケイさん、どうしましょう……?」

加東「……ライーサはマルセイユの後を追って。マミは私と一緒にモントゴメリーにちょっと挨拶しに行くわよ」

稲垣「挨拶、ですか?」

加東「ええ。……『出撃がないなら、市場にお買い物に行ってきます』ってね!」



――アルアシブ市場近辺上空――



竹井「中佐、見えました」

俺「……ん、あれか」


 管制官の制止を振り切って出撃し、ようやく遠目にアルアシブ市場を確認できるところまでやってきた。
 見たところ、多数の小型航空型ネウロイ、および多脚多砲塔の歩行型ネウロイが襲来している。


俺「ネウロイはまだ町の中心部には到達していないようだな」

竹井「ええ、即座に動いたことが功を奏しましたね。しかし、このままでは……」


 砲火や爆煙の位置の推移から、エジプト軍の地上部隊とネウロイの交戦エリアが徐々に中心部に近づいているのがわかる。
 このままネウロイが攻め込み続ければ、町が壊滅するのは免れないだろう。


俺「現地の詳しい状況はわかるか?」

竹井「混線が激しく、はっきりとはわかりません。しかし、それだけ混乱が生じているとなると……」

俺「住民の避難が終わっていない可能性もある、か」

竹井「ええ」


 避難がまだ済んでいないとすると、ネウロイに更に前進されると不味いことになるな。
 そう状況を分析していると、無線機から加東の声が聞こえてきた。


加東『――こちら加東。俺中佐、聞こえますか?』

俺「ああ、どうした」

加東『既に、現地に北野軍曹が到着しているかと思われます。
   私達もすぐに駆けつけますが、それまでは軍曹と共になんとか凌いでください!』

俺「北野軍曹?……確か陸戦ウィッチだったな、駆けつけたにしては早すぎるが」


 偶然、何かしらの用事でそこに居合わせた、と考えるのが自然か。
 ウィッチがいるのは予想外であったが、戦力としてはあまり計算できないだろう。
 まともな武装を携行しているとは考え難い。


俺「竹井、どう見る?」

竹井「軍曹のシールドがあれば、ある程度は時間を稼ぐこともできるかと思われますが、
   一人では近いうちに抜かれるでしょう」

俺「我々がネウロイの数を減らさないことにはどうにもならんな」

竹井「はい。しかし、制空権が無い現状での対地攻撃は危険極まりないかと思われます」

俺「攻撃を仕掛ける前に撃ち落とされる可能性大、か。
  ……もう少し、味方の増援があればだいぶ楽になりそうなものだが……」


 どうにも、加東達が到着するまではまだ時間がかかりそうである。
 それを待ちたいのは山々だが、そんなに悠長に待っている暇はない。


加東『その点については大丈夫です。とびっきりの護衛を先行させましたから』

俺「とびっきりの?いったい誰が――」




マルセイユ「私だ!」




 俺の言葉を遮るかように、唐突に後方から彗星の頭上を飛び越えるかのように現れたのは、「アフリカの星」ことマルセイユ。
 一度彗星を追い越したマルセイユは大きく右に旋回、回り込むようにして彗星の横につく。


俺「……なるほど、これほど心強い護衛はいないな」

マルセイユ「そうだろう、そうだろう」


 俺の言葉に、得意げに胸を張って頷くマルセイユを、どこか少し羨ましそうな目で見つめる竹井。

 ……何を考えているのかはなんとなくわかるが、最早それについて俺から何かを言う必要は無いだろう。
 本人もそれをわかっているらしく、俺を見て、小さく笑いかけると、すぐにいつもの調子に戻る。


 ――本当に、よくここまで強くなったものだ。


 竹井のその様子を見て、ウラルにいた頃を思い出しながら誰にも聞こえないようにそう心の中で呟く。
 そうしているうちに、ペットゲンも少し遅れて到着し、マルセイユの二番機の位置に。


俺「さて……。マルセイユ、ペットゲン、一機たりともこちらに近づけるな。できるか?」

マルセイユ「ふふん、この私を誰だと思っている。
      ……この前は俺に助けられたからな。今度は私がお前を守る番だ」

俺「ほう、そこまで言うからには俺の背中は貴様が守ってくれよ?後ろは振り向かんぞ」

マルセイユ「ふっ、任せろ。お前は地面とキスをしないように前だけ見ていればいい!」


 そう言って、マルセイユはライーサを従えて勢いよく戦場に飛び込んでいく。
 ネウロイを圧倒していく様を見て、この調子ならば空は大丈夫だと確信。


俺「……それにしても、いつになく気合いが入っているな」


 キレの良すぎる戦闘機動にペットゲンですら戸惑っているではないか。


竹井「先ほど中佐の天幕で加東大尉が言っていた通りですよ。
   こうして中佐と共に飛べて嬉しいのでしょう」

俺「ふむ。……ならば、俺も『父』として良いところを見せねばなぁ」


 冗談めかしてそう言えば、竹井は何故か心配げな表情を。


竹井(そのまま、娘の位置に納まってくれればいいんだけど)

俺「娘に守られてばかりの父では格好がつかんし――っと、竹井、何か言ったか?」

竹井「いえ、なんでもありません」

俺「ん、そうか?」


 笑って誤魔化す竹井にそれ以上は追及はせず、改めてアルアシブ市場に視線を戻す。
 地上では、先ほど加東の話にあった陸戦ウィッチが、中心部の近くでなんとか持ちこたえている様子が確認できた。
 しかし、その後ろでは未だに逃げ惑う人々の姿も確認でき、最早一刻の猶予もない。


俺「我々もそろそろあの花火の中に突っ込むぞ。
  貴様はそのまま俺の直掩につけ。シールドを盾に攻撃を試みる」

竹井「了解しました」


 時間が惜しい今、機を窺う余裕は無い。
 多少強引ではあるが、竹井のシールドを使って攻撃を敢行するしかないか。


俺「北野軍曹には今しばらく一人で耐えてもらう。
  まずは他の戦線に殴りこみ、奴らの勢いを殺ぐぞ」

竹井「はい!」


 避難が済んでいない地区は何箇所かあり、北野軍曹が粘っている地区以外では押されっ放しだ。
 そちらから先に仕掛けるべきだろう。

 上空はマルセイユとペットゲンが航空型ネウロイを相手に大立ち回っており、こちらへの警戒は薄い。
 その中を、エジプト軍の地上部隊を突破しようとしている陸戦型ネウロイ数体に向かって降下していく。


竹井「中佐、私が前に――」

俺「いや、初撃は奇襲だ。先にシールドを展開すれば奴らに気付かれる」

竹井「しかし……」

俺「ならん。ギリギリまで控えていろ」

竹井「……わかりました」


 心配性の竹井を押し止め、俺の後ろに控えさせる。
 竹井を酷使させる戦術故に、温存できる場面ではできるだけ温存するべきなのだ。

 そうして、まずは一番手近な場所にいたネウロイに対し横っ面から37mm航空機関砲を数斉射。
 地上部隊に気を取られていたそのネウロイは、反撃をする暇もなくコアを破壊される。


俺「1体撃破!」


 続いて、そのすぐ隣にいた2体目に照準を定める。
 事態の推移についていけず、未だに地上部隊に気を取られているそいつも、同様にして撃破。


俺「2体撃破!」


 今度は、少し離れた場所にいる3体目を。
 しかし、そのネウロイは俺を地上部隊よりも大きな脅威と認識したのか、地上部隊を捨て置いて目標をこちらに変えてきた。


竹井「中佐!」


 それに対し、ネウロイからの反撃の気配を察した竹井が瞬時に俺の前に出て、シールドを展開。


竹井「くっ!」

俺「そのまま抑えておけ!」


 ビームを竹井が抑えている間に、そのシールドの下から俺が飛び出す。
 ネウロイが目標を竹井から俺に戻すよりも先に、こちらが放った徹甲弾が突き刺さり、爆散。


俺「3体撃破!……竹井、一度戦場を突っ切るぞ」

竹井「はいっ!」


 地上部隊とネウロイが砲火を交えているラインをなぞるようにして、先ほどと同様の攻撃を仕掛けつつも一度戦域を突破、離脱。
 竹井がついてきていることを確認し、大きく旋回しながら戦況を把握し直す。


俺「上空は……マルセイユ達が上手いこと抑えているようだな。地上は?」

竹井「未だに劣勢です。こちらの攻撃により一度は足を止めたようですが、後続がその背中を押す形で再度前進を開始しました」

俺「不味いな……。この数を我々だけで抑えるのは厳しい、か。
  だが、ここで立ち止まるわけにもいかん。竹井、もう一度――」


 態勢を整え、二度目の攻撃に移ろうかというところで、通信が入る。




『パットンガールズ、ただいま参上!』


『マイルズ中隊到着です!』




 味方の陸戦ウィッチ隊が到着したのだ。
 その通信に、竹井は喜色をあらわにし、それにつられて俺も少し口元を緩める。


竹井「中佐!味方です!」

俺「ああ、確認した」


 彼女達は戦場に着くや否や各所に展開、エジプト軍の援護を開始、瞬く間に全戦線でネウロイを押し返し始める。
 北野軍曹が一人で耐えていた地区でも、カールスラントのティーガーが到着したようだ。


加東「中佐!」

俺「加東か、よく来た」


 戦況を窺っていた俺のところに、加東が稲垣を連れて合流。
 地上部隊に指示を送りつつ、彗星の横につく。


加東「将軍には、『お買い物に行ってきます』と言っておきました」

俺「買い物、ね。……確かに市場に出向くには良い理由だな。
  だが、堅物のモントゴメリー将軍によくぞ言い放ったものだ」


 話のわかるパットン将軍やロンメル将軍ならともかく、な。


俺「まぁその話はまた後でするとしよう。我々も攻撃に参加するぞ」


 そう三人に言うや否や、戦場に信号弾が上がる。


『こちらアドラー1、信号弾東側のネウロイへの攻撃を求む!』

俺「よし、竹井と稲垣は俺に続け。支援要請に応える。
  加東は引き続き上空から地上部隊への指示を」

三人「了解!」


 加東を一人上空に残し、竹井と稲垣を率いて戦場に突入する。
 そして、妨害や反撃をほとんど受けずに射程距離まで接近することに成功。


俺「ふむ、最早我々の行く手を遮るものはなし、だな」


 ウィッチの援軍がネウロイを圧倒している今、ネウロイには空に注意を向ける余裕は無いのだろう。
 そこに三機編隊で突っ込み、俺と稲垣が徹甲弾の雨を降り注がせ、竹井が撃ち漏らしを屠る。

 支援要請に応えた後は、その直線上にいるネウロイもおまけと言わんばかりに撃破していく。
 そうして二度三度とそれを繰り返していくと、ネウロイも不利を悟ったのか市場から撤退、逃走を開始。
 これでこの戦闘の勝利は確定したが、まだ手は抜かん。


俺「俺中佐より全部隊へ、これより追撃戦を行う。ネウロイを逃がすな」


 叩ける時に叩く。
 この鉄則に従い、即座に全部隊に追撃戦を指示する。


『了解です!マイルズ隊、射撃開始!』

『騎兵隊も追撃開始っす!』


 各隊が追撃戦に移ったのを確認し、自身も参加しようとしたところで、今度は壮年の男性の声が通信機から聞こえてきた。




『俺中佐といったかね?深追い無用、後は任せたまえ!』




稲垣「だ、誰ですか!?」

竹井「中佐、丘の上を」


 唐突の通信に驚きつつも、竹井の言葉に従って付近の小高い丘を確認してみれば、そこにはエジプト軍の野砲がずらりと整列していた。
 数は20、もしくはそれ以上か。


『ネウロイよ、エジプトの民からのプレゼントだ!』


 その言葉と共に、全ての野砲から次々と放たれる砲弾。
 火力に物を言わせた一方的な攻撃に、ネウロイはなす術もなく撃破されていく。


稲垣「す、凄い……」


 そして、野砲による煙が晴れた時には、ネウロイの影は一つとして残っていなかった。


俺「……加東、マルセイユ、敵影はあるか?」

加東『こちら加東、敵影認められず』

マルセイユ『同じく、こちらもネウロイの姿は確認できない』

俺「よろしい、これにて戦闘終結と認む。加東、司令部に報告しておけ」

加東『了解です』


 通信を切り、地上へ目を向ける。


俺「噂では、エジプトの軍と民は我々を嫌っていると聞いていたが……」


 そこではウィッチも民も軍人も、全て関係なく皆勝利に湧きかえっていた。
 今回の戦闘のおかげで感情が一気に好転したのか、負の感情は一切感じられない。


俺「なんにせよ、良い付き合いができるのであればそれに越したことはないな。
  ……竹井、稲垣、貴様らも行って来い」

竹井「中佐はどうされるので?」

俺「彗星ではここには降りられんし、燃料も心許ない。先にトブルクに戻っているさ」


 市街地戦だということを失念し、使う機会が無かった五十番を無駄に抱えてきたことを後悔する。
 余計に重量を増して燃費と操縦性を悪化させただけではないか。


俺「せっかくの機会だ、皆と交流を深めてくると良い。
  ……ああ、皆にはよろしく伝えておいてくれると助かる」

竹井「はっ、わかりました」


 二人が地上に降りて行くのを見届け、俺は彗星の機首をトブルクへと向ける。


俺「さて、と」


 竹井には言っていないが、俺だけが先にトブルクへ戻る理由はもう一つある。


俺「将軍からのお小言……で済めばいいんだが」


 アフリカにいる主力ウィッチがほとんど総出で出撃したんだ。
 今回のこの出撃に関しての懲罰は無いと思われるが……。


俺「ロンメル将軍やパットン将軍ならまだ話をわかってくれるとは思んだがなぁ……」


 モントゴメリー将軍には何を言われるのやら。
 皆がお小言を頂戴するぐらいなら、俺一人で勘弁してもらうことにしよう。
 そんなことを考えつつ、俺はトブルクへと飛んでいった。




――――




 その後、基地に帰還した俺を待っていたのは……。


モントゴメリー「けしからん!まったくもってけしからん!」

モントゴメリー「あの時もそうだった!スエズ防衛を命令したのに、連中は――」

モントゴメリー「そもそも軍隊というものは――」

モントゴメリー「大事な作戦の前に、貴重な戦力を――」

俺(もう5回は同じ話を聞いてるぞ……)


 他の二人の将軍は労ったと思ったらどこかへ行ってしまうし、残ったモントゴメリー将軍が予想通り延々と……。
 ようやく帰還してきたウィッチの面々も、遠巻きに眺めるかこっそり覗くのみ。


竹井(ごめんなさい、中佐!)

 申し訳なく思うなら、将軍をなんとかしてくれ。


加東(辟易としてる中佐なんて、かなり珍しいわね)

 珍しいからといって写真を撮るな。


マルセイユ(仕事明けの水タバコ、いーねー)

 体に悪いからやめなさい。


俺(はぁ、『ウィッチの分まで、俺一人で小言を全部聞いてやろう』なんて考えるべきではなかったか)


 そんなことを考えつつ、俺はしばらくモントゴメリー将軍の小言を聞き続けるのであった。




――――
最終更新:2013年03月30日 23:21