ホーク・アイ
第三話:タカの目


模擬戦の翌日、昼過ぎに基地に警報が響きわたった。
ブリーフィングルームにて出撃メンバーが発表される。
メンバーは坂本少佐、バルクホルン大尉、イェーガー大尉、ハルトマン中尉、クロステルマン中尉、
ルッキーニ少尉、そして僕少尉が選ばれた。


出撃メンバーは各々が愛用の武器を持ち、すでに出撃体勢に入っている。
そして、坂本少佐が先頭になり、ストライクウィッチーズが出撃した。

各々が愛用の武器を持っているが、皆は僕少尉が持っている銃に少なからず驚いていた。
リーネが愛用しているボーイズ対装甲ライフル、形状こそそれに似ているが、
彼が持つライフルはそれよりも一回り長大でずっしりとした存在感があった。
そしてそれに興味を持ったのかルッキーニが話しかける。

ルッキーニ「ねね、僕。その銃なに?リーネのと似てるけどでかくて太いよ?」

僕「これですか?えぇ元になってるのはリーネさんが使ってるボーイズ対装甲ライフルです。
  それを無理言って射程と威力強化のために手を加えてもらったんです。」

その言葉にバルクホルンが口を挟んだ。

バルクホルン「そんなことをしたら重量もバカにならないだろう?大丈夫なのか?」

僕「お気になさらず。男ですし、それなりに鍛えてます。
  それに、この改造が役に立つこともありますよ。多分ですけど。」

どこかはぐらかすような言葉に、他のメンバーが怪訝な顔をする。
バルクホルン、坂本などが何かを尋ねようとするが、

僕「見えました。前方、18000です。」

坂本「なに・・・?」

そういって彼女は眼帯をずらして先を見通す。
しかし、

坂本「まだ何も見えないぞ?」

ほかのメンバーも肉眼で確認するが、まだそれらしき影は見えない。

僕「雲に隠れてるみたいです。速度は・・・かなり速いです。小型もいます。」

そういって警戒を促した。
数分後、雲の切れ間から巨大な、やや細長いフォルムのネウロイが現れた。
そしてそれを守るように円盤状の小型機も飛び回る。

坂本「各機、まずは散開して小型の数を減らせ!」

一同「了解!」

バルクホルン「行くぞ、ハルトマン!!」

ハルトマン「あ、待ってよー!」

そういってまずは501のエース二人が突入した。
互いに死角を補いあうようにして、少しずつ小型機を撃墜していく。

シャーリー「私たちも負けてらんないなぁ!」

ルッキーニ「だねー!!」

シャーリー、ルッキーニも負けじと攻撃を加える。
ルッキーニの射撃をシャーリーがサポートするようにして、こちらも少しずつ敵を減らしていく。

しかし・・・

坂本「おかしい・・・。敵の数の減りが悪い。」

その言葉に、少し離れた場所にいた僕少尉が反応した。
巨大なライフルを構え、一機ずつ小型機を減らしながら言う。

僕「少佐。どうやらこの小型はあの大型の中からでてきてるようです。」

ペリーヌ「なんですって・・・!?」

僕「大型の後方から一定時間ごとにネウロイの反応が増えてます。」

坂本は今更のように彼の目の力を思い出した。
そして地道に小型を減らすか、リスクを承知で大型を先に潰すか思案していると、

ハルトマン「え・・・!?」

バルクホルン「こいつ・・・急に・・・!?」

シャーリー「しかも・・・」

ルッキーニ「速い~!」

先ほどから小型に守られながら断続的にビームを放つばかりだった大型が途端にスピードを上げた。
攻撃の頻度こそ変わらないが、戦場を高速で飛び回りながらの攻撃に、ウィッチーズたちは防戦を余儀なくされる。

坂本は眼帯をずらしその魔眼に大型ネウロイを捉えた。
数を減らす戦略が取れない以上、速やかに本丸を潰すしかない。

坂本(コアは後部中央…。そう簡単に狙えない位置だな。)

敵の形状は前部よりも後部の方が太くなっている。コアはその一番太い部分のど真ん中にあった。

しかし、少佐がそれを通信で伝えようとするより先に、
僕少尉が敵が旋回した隙にその後方、コアがある位置にライフルの弾丸をぶち込んだ。
だが、13.9mm徹甲弾の一撃であっても、装甲を破壊こそしたが、コアまでたどり着くにはいたらない。

坂本(もしやあの能力・・・コアの探知までもできるのか…?)

しかしそれを確認しているような時間はない。

坂本「全員聞け!大型のコアの位置は今僕少尉が攻撃を加えた位置だ!
   邪魔な子機を減らしつつ本体に攻撃をかけろ!」

他「了解!!」

しかし、ただでさえ機動力のある敵なのに加え、子機に守られているのでは、攻撃を届かせるのも難しかった。
エース二人が無理矢理に特攻をかけるが、

バルクホルン「くそっ!堅い・・・!」

ハルトマン「しかもあの位置じゃコア狙いにくいよぉ」

敵は距離を取った後反転しながらウィッチーズたちに突っ込んでくる。
頭にコアがあるならともかく、後方にある以上追走して後方からねらい打つか、
交差した時にタイミング良く攻撃を加えるしかない。

子機に守られてるため、前者の攻撃ではリスクがありすぎた。
しかし、交差した一瞬に加えられる攻撃では、装甲を削りきるには至らない。

坂本「みんな!援護しろ。私が烈風斬で決める!!」

ペリーヌ「少佐、無理です!危険すぎます!」

敵が一機ならともかく、シールドを張れない少佐ではあの中に突っ込むのは厳しい。

坂本「だが、これではジリ貧だ!一か八かでも・・・!」

覚悟を決めたその声に水を差すように、僕少尉が割り込んだ。

僕「少佐。賭けにでるのは少し待ってください。」

ペリーヌ「少尉・・・?」

僕「皆さん。僕があの大型の装甲を削ります。
  コアが見えたら、誰か、誰でもいいです。破壊をお願いします。」

弾装を入れ替え、次段を装填し、ライフルを構えなおしながら彼は言う。

僕「クロステルマン中尉。暫くは自分の援護をお願いできますか?」

一瞬の逡巡、だが迷っている暇はない。

坂本「…ペリーヌ、頼む。」

ペリーヌ「少佐・・・!?」

坂本「私が突っ込むよりも確実性は上だろう。いいんだな!?少尉!
   だが、それでもダメなら…」

僕「その時は僕が責任をもって少佐を援護します。任せてください。
  では…、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、イェーガー大尉、ルッキーニ少尉!
  子機の数を減らしてもらえますか!?」

一方一撃離脱を繰り返しながら戦闘を繰り広げていた四人は、

ハルトマン「どうすんの?トゥルーデ。」

回避と攻撃を繰り返し、多少の徒労感を滲ませながら相棒たるバルクホルンに言った。

バルクホルン「戦闘指揮は少佐に任せている。少佐が言うんなら従うまでだ。」

シャーリー「へー。『新参の男になんか任せておけない!』とか言うのかと思ったよ。」

軽口を叩いているが、彼女もまたその表情には疲労が滲んでいる。

バルクホルン「先輩たるもの、新人のために骨を折ってやらなければな。」

気を紛らわせようとしているのだろう、とバルクホルンも察し軽口で返す。
そして、一つ息を吐くと、

バルクホルン「僕少尉!こちらは任せろ!」

そう叫び、四人がそれぞれの位置につき、戦闘開始時のように小型機の掃討を開始した。
そして上空で彼がそれを受ける。

僕「クロステルマン中尉」

ペリーヌ「どうしました?」

僕「これから暫く自分の周囲を完全に意識から外します。
  申し訳ないですが、後のことは任せます。」

戦場全体に広げている知覚を敵一機に集中させるためだろう。
ならば、せめて彼の狙撃を守る、それが自分の役割だ。

ペリーヌ「わかりました。貴方は私が守りますわ。
     だから、必ず決めてください。失敗は許しません。」

僕「…ボーイズ改・対装甲ライフル"ホークアイ"」

独り言のような、注意していなければ聞き逃してしまいそうなほどの声。

ペリーヌ「え…?」

僕「このライフルの名前です。開発者が、目の見えない自分の、敵を見据える目になれと、この名前をつけました。
  見ていてください。タカの目(ホーク・アイ)は、見据えたものを絶対に逃さないと証明します。」

ペリーヌは、そのとき彼の猛禽のような目、いや文字通り鷹の目なのであろう、その瞳孔が収縮していくのを見た。
その時、彼の異常とも言える集中力が横にいてさえ伝わってくる。


彼の能力は、外部からの情報を下に、頭の中に球体状のジオラマのようなモノを作ることで空間を知覚する。
そのジオラマを、時に回転させ、時に対象を決めてズームすることで時に俯瞰的な、時に精密な知覚を可能としている。

しかし彼は今、自分とそのライフル、そしてその対象以外のものを意識から押し出した。
常に視界に入れていた子機、そして仲間たちの座標をノイズとして消去し、
そしてその分の脳のキャパシティを、全てこの狙撃のために注ぎこむ。

敵との距離、対象の速度、軌道情報、そこからの軌道予測をすべてを数値化、整理、
更に自分に受ける風の動きから弾道のブレすら予測し、確定した未来としての狙撃を創り上げる。

そもそも、僕少尉は目が見えない以上スコープを覗き込んで対象を捉える通常の狙撃が出来ない。
だが、彼は狙撃手としては極めて優秀と言える。それはここまでの戦闘を見ていたウィッチーズも認めるところだろう。

彼の狙撃のメカニズム。彼は模擬戦の際、後方の銃口の向きから弾道を予測したのと同じように
自分の銃口の向きから、弾丸の軌道を頭の中のジオラマにラインを通すことで照準を合わせている。

しかし、今回はそれだけでは足りない。一発の狙撃では表面の装甲までしか破れない以上、
『同じ場所に連続で』13.9mm徹甲弾を叩きつけなければならない。
そのために、一部の狂いもない敵の軌道予測に加え、自分の弾丸のタイムラグ、
さらに着弾による敵の機動の誤差、その全てを支配下に置く。

その作業は、もはや限定的な未来予知といっていい。
彼はその空間、さらに対象の情報を余すこと無く知覚することで、数秒先の未来までをも知覚する。

僕(視えた…)
準備は整った。次の敵の旋回の際に、まとめて銃弾を叩き込む。

僕「皆さん!少し離れてください!」

その声に射線上に近い位置にいた者が反応し、慌てて距離をとった。
そして、彼の予想通り敵ネウロイが方向転換する。

その瞬間、ダンダンダン!とボルトアクション式のライフルにしては、あまりにラグの少ない銃声が、三発分響き渡った。

その銃声を間近で聴いていたペリーヌはそのあまりに速く、かつ滑らかなその連続射撃に目を奪われた。
引き金を引いてから、次段を装填、レバーを引きもう一度引き金を引くという一連の行程、
それを一切の無駄なく一つの動きのように行うことで、驚異的な発射速度で弾丸を放つ。

そしてその三発の弾丸は、彼の予測と同じ軌道を描き、敵ネウロイの後部に連続で着弾する。
着弾ごとに、少しずつ装甲を穿ち、3発目でその真紅のコアを外部に晒した。

僕「後は、お願いします!」


ルッキーニ「私がいっちばーん!」

バルクホルン「はっ!まさか本当にやるとはな!」

ハルトマン「すっごいねぇ。全部同じ場所に当たったよ。」

シャーリー「ここまでやられたら、さっさと決めないとな!!」

われ先にと四人がコアに殺到した。
コアを護ろうとしているのかわからないが、子機がその前に立ちはだかる。
しかし、彼女たちの勢いを止められるものはいない。
バルクホルンがニ丁の機関銃を構え、中央に向けて掃射すると、他のメンバーもそれに続いた。
一瞬でその防御を貫き、コアへの最短距離に風穴が開く。

シャーリー「おっ先ー!」
スピードでは隊一のシャーリーがわずかに先行してコアに向けて弾丸を放った。
しかし装甲の修復が既に始まり、狙える場所が狭くなっており当たらない。

バルクホルン「だらしないな、リベリアン!」

ハルトマン「まったく、何を張り合ってるんだか…」

二人もコアに向けて弾丸を放つが、それより先に後方から、

ダァン!と甲高い銃声が聞こえた。それがコアに命中し、赤い結晶が砕け散る。

ルッキーニ「やったやった!私の勝ちー!」
後方から射撃したルッキーニが一撃でコアを捉えていた。

シャーリー「やったなぁ!ルッキーニ!」

隊内最年少ウィッチに、大型撃墜数プラス1が刻まれた。

そして上空では、

ペリーヌ「…やりましたわね。少尉?」

ライフルによる超高速の精密三連射、その絶技を目の前で見せつけた彼は、
構えを解き、汗を拭っているのか袖口で顔を拭いている。
あれだけの狙撃だ。その集中力を極限まですり減らすのは想像に難くない。
しかし、さきほど彼の虹彩が、淡く赤色に染まったのは気のせいであろうか?

坂本「ペリーヌ!!そっちに行くぞ!!」

ネウロイの方を振り向くと、本体が白い粒子になり、同時に消えるはずの子機がこちらに向かってきた。

ペリーヌ「少尉!!」

だがその叫びが聞こえていないかのように、彼は動かない。

ペリーヌ「くっ…!」

とっさに彼の前に回り込み、すぐさま子機を狙い撃った。
一機はすぐさまたたき落とせたが、もう一機はぎりぎりまで近づかれてしまった。
銃での撃墜を諦め、右腕を前にかざす。

ペリーヌ「トネール!!」

前方に範囲を絞り必殺の雷撃を放つ。その一撃に為す術も無く子機は破壊された。
そして、飛び散った粒子も瞬時に形成したシールドで防ぎきる。

一先ずの驚異が去ったことを確認すると、シールドを解除した。
体の力を抜き、少し怒ったような顔で振り返る。

ペリーヌ「気を抜き過ぎではなくて?僕少尉、……!」

咎める言葉を重ねようとしたが、バランスを崩しこちらに体を預けてくるのを見て、慌てて受け止めた。
その息は荒く、ただごとではない様子だ。

僕「大、丈夫です。少し、疲れただけですから…」

強がりなのかもしれないが、確かに少しずつ状態が回復していくのを見て、追及することを諦めた。
恐らく、心配をかけまいと誤魔化されるのは眼に見えている。
だから、

ペリーヌ「お疲れさまです。よく、頑張りましたわ…」

そう言って抱きしめながら背中を撫でる。

僕「すいません。いえ、ありがとうございます…」


しばらくして僕少尉から身を離した。すでに呼吸も安定し、つらそうな雰囲気はない。
当然のごとく後から寄ってきたメンバー、特にイェーガー大尉とルッキーニ少尉が絡んできたが、
僕少尉はあまり気にした様子もなく、ペリーヌもあまり騒がないので、
つまらないと思ったのかすぐに引き下がってしまった。


そして任務を終えてウィッチーズたちが帰投する。

皆が僕少尉の功績をたたえ、その狙撃の腕について盛り上がっているが
ペリーヌは一人後方からその様子を見ていた。

その目線の先には僕少尉が先ほど顔を拭いていた袖口。戦闘中、彼に攻撃があたったり怪我をした様子はない。
しかし、その袖口はわずかに赤く染みが残っているのが見える。さっき体を預けられたときに気づいたものだ。

ペリーヌ(あの能力…まだ、少尉は何かを隠しているんでしょうか…?)

しかし、その問いに答えるものはいない。他の皆は強敵の撃墜に湧いていたが、
ペリーヌは一人得も言われぬ不安のようなものを感じていた。

第二話へ         第四話へ
最終更新:2013年01月31日 15:41