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ヨーク・キサラム

ヨーク・キサラム

作:ChatGPT
生年月日 不明
年齢 34歳(書類上)
出生地 大和民国 大阪府(転移前)
民族 日本人
所属 シャンルリ王国
ユピトル学園主権連合体
リンベルーク・アカデミア
遊理部
階級 シャンルリ王国首相
同 元帥
遊理部正規怪人
序列:M.F.
渾名 怪人No.7号
自称・善良な市民


概要

 ヨーク・キサラム(本名:大田陽一)は、シャンルリ王国の行政長官を務める転移者の男性である。
大江戸市と同じ世界線に属する旧世界の大阪市から漂着し、王国陸軍での十年余りの勤務を経て国の実権を握った。
現在はリンベルーク・アカデミア付属サー・フォス・カレッジに学籍を置き、遊理部の正規怪人に数えられている。

自己紹介

 どうも、ヨーク・キサラムです。……ああ、しんどい。この丁寧な喋り方、公式の場でしか持ちませんので、ここでは崩させてもらいます。私はね、向こうの世界で「自立支援」という立派な名前の付いた工場通いを国から言い渡されて、安月給で市営団地に住んでいた男なんですわ。あれが気楽でね。決められた手順どおりに手を動かしていたら一日が終わる。今から思えば人生の最盛期でしたよ。それが、気づいたらジャングルに落ちていて、飯と寝床をくれるというから軍に入って、帳簿をつけていたら将軍になって、よその国から脅されて革命して、今は一国の長です。おかしいでしょう。世界で一番おかしいのは私だと思ってます。で、今は学生です。四十過ぎのおっさんが十六の子らに混じって座ってるんですよ。授業の合間に本国の決裁を回して、放課後は部活。入るつもりはなかったんですけどね、断るほうが面倒でして。……あの部長、人の腹を撫でながら書類にサインさせるんです。逃げられますかいな、あんなもん。……ああ、それと。最近ちょっと厄介な事情が増えましてね。頭の中にもう一人おるんです。真面目で、几帳面で、私のやることなすこと全部に文句をつけてくる嫌な男が。誰だと思います?私ですわ。しんどい。

来歴

 旧世界での暮らしから現在に至るまで、ヨークの足取りを示す記録は、王国の公文書と学会の書簡に分かれて残されている。

漂着

 ヨークの生まれ育った旧世界は、日本が戊辰戦争で幕府軍の勝利を見た世界線であり、戦後の分割占領を経て東の日本共和国と西の大和民国に割れていた。彼が属したのは西側の大和民国である。政府が組んだ自立支援の枠に入れられた彼は、故郷の街の工場へ毎朝通い、同じ手順を繰り返すだけで一日が終わる点をひそかに気に入っていた。安い賃金と引き換えに手に入れた市営団地の一室で、悪化を続ける国際情勢は最後まで他人事のままである。旧暦1999年、各国の応酬がついに核の交換へ至り、彼の住む街区にも弾頭が降った。崩れていく部屋の中で最後の一杯をすすっていたところを、事象災害が呑み込んだのである。なお、同じ夜に東側の大江戸23区も共立世界へ運ばれており、二つの都市は同じ世界線から別々の年に着地した形となる。共立公暦985年、彼はシャンルリ王国本島の内陸に落着する。身分を示す物を一つも携えぬ中年男の扱いに役所が困り果てた末、志願制で人員を募っていた王国陸軍が彼を引き取った。入隊を承諾した理由は単純で、飯と寝床が保証され、命令どおりに動けば一日が終わる条件が、工場の勤めと寸分違わなかったからである。名を問われた彼は本名をそのまま名乗ったものの、日本語の音は現地の表記に収まりきらず、書類には「ヨーク」とのみ記された。姓の欄が空いたままでは受理に至らぬと告げられ、彼は視線の先にあった備品棚のラベルの綴りを読み上げて埋めている。こうして生まれた「ヨーク・キサラム」の名は、その場しのぎの間に合わせとして十四年にわたり公文書に載り続けた。ラベルがなぜその綴りを載せていたのかを調べた者は、ついに一人も現れていない。

昇進

 兵站部門に配属された彼は、工場で染みついた員数確認と日報の習慣のまま、受け払いの数字を淡々と記録し続けた。どんぶり勘定で回っていた王国軍において、この習慣は長老たちの不正を残らず可視化する結果を生む。書類を突き返される手間を嫌う一心で帳尻を合わせ続けた男は、気づけば上層部の弱みを一手に握る立場に立っていた。昇進を辞退する手続きが受諾の手続きを上回る煩雑さを示した場面では、彼は常に受諾の側を選んでいる。こうして十年余りをかけて佐官から将官へ階段を上がった。この間、彼の書いた帳簿は王国軍の内部で唯一信用の置ける記録となり、議会の予算審議でも参照される資料に育っている。数字を握る者へ自然と情報が集まる構造が生まれ、彼の卓上には島の隅々の事情が毎朝積み上がった。首都圏の給付が膨らんで国庫の底が見え始めた頃には、指揮系統の頂点に手の届く位置まで押し上げられている。長老たちを脅して不正を改めさせた顛末と、続くクーデターの推移についてはシャンルリ王国の記録に詳しい。998年、元帥の階級が彼に与えられ、国の実権も同じ日に彼の手へ移った。

*1

留学

 権力を握って一年が過ぎた頃、アケノミヤ学区への外遊に出たヨークは、新大坂市の一角に敷かれたオタロードへ迷い込んだ。転移者文化として再現されたこの通りは、失われた故郷の街並みと寸分違わぬ賑わいを見せている。帰国した彼が閣議に持ち込んだ議題は、留学の一件であった。在任のまま学籍を得るという前例なき要求に閣僚が青ざめる中、公王は儀礼の立場から口を挟む権限を欠き、議会は例によって首相府の原案どおりに採決する。渡航の費用は国庫からの支出を止められ、学費とあわせて彼自身が受け取っていた給付の積立から捻出された。同999年、序列の審査において王国軍での実務経歴が評価され、ヨークはM.F.の資格を得る。エデュクレートの区分はリセに定まり、サー・フォス・カレッジの教室で十代の級友に混じって席に着く生活が始まった。寮の通信回線から本国の決裁を捌く日課もこの時期に定着し、星系間の時差と授業時間の重なりから、閣議の結論が数日遅れて島へ届く事態が常態化している。外遊先で腹を撫でられた縁からスーラ・ヴィ・レクサーニに見つけ出された彼は、准怪人として遊理部へ引き込まれ、ほどなく番号を授かった。

覚醒

 共立公暦1000年の初頭、寮室の引き出しを探っていたヨークの指先が、二年前に放置した同封物の石片に触れた。次の瞬間、彼の内側へ他人の一生が流れ込む。旧世界のロフィルナ連合王国シャンルリ自治州に生まれ、兄とともに発掘現場を駆け回り、学問の道を選び、そして死んだ男の生涯であった。前世としての記憶の総量は、現世で積み上げた四十余年を丸ごと上回っている。倒れた彼は三日間の昏睡を経て目を覚まし、最初に口にした言葉は、旧世界の言語による兄の名であった。記憶の帰還は、彼の人生の全てに別の解釈を上書きした。帳簿を正確に付けた行為も、長老を脅した判断も、革命へ踏み切った決断も、前世の彼であれば同じ結論に辿り着く。理由だけが違う。十四年のあいだ、彼は取り違えた動機のまま正しい側に立ち続けていたことになる。この事実を本人は懸命に否定しており、全ては面倒の計算によるものだったと周囲へ言い張る日々が続いた。頭蓋の内側で二人目が異を唱えるたび、彼は声に出して反論するため、執務室から独り言が漏れる回数も増えている。性格そのものは大きく変わった様子を見せぬまま、判断の射程だけが前世ぶん伸びた。気だるげな中年男が時折ぞっとするほど遠くを見据えて決断を下し、問われると面倒を先に潰しただけだと答える。どちらの説明にも嘘は混じらない。二つの人生を背負った男は、今もリセ・クラスの教室で欠伸を噛み殺している。

人物

 でっぷりと肥えた体躯と半開きの目が、ヨークの第一印象を決めている。動作は一つ一つが緩慢で、椅子から立ち上がる場面ですら二度ほど助走の呼吸を置く。行動の全てを貫く原理は、面倒を避けるためであれば労力を惜しみなく注ぐ姿勢にある。この原理は、しばしば当人の意図と正反対の結果を招いた。抗議への対応を書面で処理する手間が革命の手間を上回った局面では、彼は革命の側を選んでいる。給付の制度を全国民に行き渡らせた判断も、陳情の窓口が執務室へ流れ込む事態を先回りで潰すための措置であった。ただし市役所前の列は今も毎月伸び続けており、当人の目論見は見事に空振りしている。公の場では丁寧な言い回しを崩さず、閣議でも議場でも抑揚の平坦な標準語を通す。しかし、気心の知れた相手を前にすると故郷の訛りが端々に戻り、語尾が跳ね、声量が倍になる。この落差を部員たちは面白がっており、決裁の最中にわざと話しかけて崩れる瞬間を待つ遊びが定着した。総人口二十四万の島で、旧世界の地球産のサブカルチャーを解する者は長らく一人も現れぬままであり、留学の動機がここにあると察している部員は、部の中でも数えるほどに留まる。伏せ続けている事柄は一日の食事の量であり、寮の調理場の消耗が物証となっているため、追及の手が緩む気配は薄い。記憶の帰還以降は、几帳面で理屈っぽい前世の人格が内側から口を挟むようになった。学術用語を交えた長広舌が唐突に始まり、当人が我に返って中断する場面が度々目撃されている。部員たちはこの現象を面白がり、出現の頻度を記録した表を部室の壁に貼り出した。

戦闘能力

 重量のある鎧と伐採用の斧を組み合わせた戦法が、ヨークの戦闘技術の全てを成している。王国陸軍の歩兵教練を一通り修了しており、林床での行動を前提に組まれた課程を、事務方の身でありながら年次ごとに受け直してきた。身に着ける装甲は、更新で外された機動戦車の予備板に儀仗用の胸甲を継ぎ足した自作であり、本人の言い分によれば、あれは作業着である。斧のほうは兵站倉庫で梁材を切り出すために置かれていた伐採具に柄を足したもので、刃は鈍く研がれていた。断つ働きは端から捨てられており、質量を乗せて叩き潰す道具として扱われる。異能の面では秋属性の施術を受けている。ただし習得した術式は荷役の現場で用いる身体能力の一時強化に限られ、同属性の主軸をなす医療系統は最初の講習で挫折した。重量物を担ぐために叩き込まれた下請けの術式であり、効果の持続は数十秒に収まる。発動に要する媒介エネルギーを体内に確保しておく必要から、彼は交戦の前に必ず食事を取り、腹を満たす余裕を欠く場面では術の行使そのものを諦めた。立ち位置は常に退路の前へ固定される。自分から間合いを詰める動作を省き、相手が近づいてくるのを待ち、射程に入った瞬間に一度だけ斧を振る。当たれば相手は転がり、外れれば彼は息を切らして膝に手を置いた。技の名称は本人が付けており、いずれも行政文書の用語から採られている。全力の一振りに当てられた名は「一括計上」で、一日分の体力を一度で使い切る意味が込められた。身体に負担を強いて強化を重ねる無茶には「予備費充当」の名が付く。勝ち目を計算した末の離脱は「定時退勤」であり、部の面々が最も頻繁に目撃している技もこれであった。共立世界の水準に照らせば、彼の実力は下から数えたほうが早い。自分から厄災へ近づく場面は、部の企画に巻き込まれた時に限られる。記憶の帰還以降は前世の学識が盤面の読みに加わり、斧を振る前に相手の術式の系統を言い当てる場面も現れた。当てたところで体力の問題は解決を見ず、結局は息を切らしている。

人間関係

 現在のヨークを取り巻く縁のうち、最も長い経緯を持つ相手は、前世の兄にあたる人物である。

照会

 共立公暦999年、王国の首相府に一通の手紙が届いた。差出人はフィロム・アーツ学会の魔法考古学者ラルサ・キサラムで、用件は身内の安否の確認である。差出人には旧世界にヨークという名の弟がおり、その弟は旧世界で死亡したと確認されていた。にもかかわらず、共立世界のシャンルリという島で、同じ姓と同じ名を持つ男が元帥の職に就いている。手紙はその一致の理由を尋ねるものであった。添えられた所見によれば、差出人の生まれ育った旧世界のシャンルリ自治州には地の底で時間が歪むという口承が伝わり、地下には古典古代の時空の残痕が偏在する。この残痕の及ぶ土地で死んだ者は、別の世界線で生まれ直す事例が確認されており、差出人はこの見立てを自身の弟に当てはめた。旧世界で死んだ弟は日本の商都で生まれ直し、大田陽一として四十年を生き、事象災害を経て前世の故郷と同じ名を持つ島に落ちた。備品棚のラベルを読み上げて姓を埋めた場面も、この見立てに従うなら意味が変わる。何も知らぬまま、彼は前世の自分の姓を書き写していたことになる。封筒には本人確認のための同封物として、弟が生前に扱っていた遺物の石片が収められていた。ヨークは封を切り、三行ほど読み、引き出しに戻している。

兄弟

 二年後、石片に触れて記憶を取り戻した彼は、自らが差出人の弟であった事実を疑いようもなく理解した。理解したうえで、返信の書き出しが決まらぬまま日を重ねている。久闊を叙する形は現世の彼に馴染まず、弟として名乗る形は前世の彼が気恥ずかしがるためである。便箋を無駄にした枚数は寮室の屑籠が証言しており、部員の間では賭けの対象にまで発展した。一方の学会側は、返事の遅れを拒絶の意思と受け取った様子を見せず、書簡の往復を待つ姿勢を崩していない。放置すれば後でもっと面倒になる、という彼自身の経験則は、革命と留学を決断させてきた理屈でもある。同じ理屈が今度は兄への一歩を押し出しつつあり、旅券の申請だけは既に提出された。二つの人生を背負った男にとって、この手続きが人生で最も重い一歩となる。本人は周囲へ、ただの事務手続きだと言い張っている。

友人

 遊理部への入部を決めた張本人が、部長である。随行員を引き連れて歩いていた行政長官の腹を新大坂市の路上で、いきなり撫でたのが二人の出会いであり、警護の一団が動くより早く部長は名前を聞き出して去った。留学の手続きを終えた彼が教室に入った初日、部長は廊下で待ち構えており、准怪人の名札を胸に貼りつけてから用件を説明している。断る労力が受け入れる労力を上回り、判断は、これまでの人生と同じ側へ傾いた。部長は彼の腹を昼寝の枕として常用しており、本国の決裁書類が膝の上で広げられている最中も遠慮なく頭を預ける。部員たちが訛りの崩れる瞬間を待つ遊びも、元をたどれば部長の実演から始まった。危険遊戯の耐久役を割り当てられる頻度は部内で最も高く、鎧の厚みを理由に挙げられるたび、彼は溜息とともに装甲の留め具を締め直している。部長の側は彼を大人として扱う気配を一切見せず、四十過ぎの元帥は部の名簿でも番号順に並べられた。制裁金の取り立てに同行させられた際は、鎧姿で黙って立っているだけで相手が支払いに応じたため、以後、取り立ての現場には必ず彼が呼ばれる。

 芸術専攻の留学生との間には、当人同士の意図を離れたところで因縁が横たわっている。彼女の父は列強の指導者として王国の不正を突き、駐留軍の派遣をちらつかせて当時の将軍を追い詰めた人物であり、革命の引き金を引いた張本人にあたる。事情を知った彼女が部室で深々と頭を下げたところ、彼のほうは片手を振って、『おかげで出世しました』と返した。以後、権力の腐敗を題材とする楽曲の資料を彼女は彼に求めるようになり、取材の相手が現役の『極まりきった独裁者』であるという構図が部内の笑いを取っている。歌詞の草稿に目を通した彼は、収賄の手口が甘すぎる点を実務の側から指摘し、書き直しの助言まで加えた。廃材を集める活動には王国の廃棄装備が供出され、儀仗用の胸甲の余りが作品の素材に化けている。初めて彼女の歌を最後まで聴いた日、彼は壁際の椅子に腰を下ろしたまま動かず、曲が終わってから随分と経って立ち上がった。以来、彼は部内で最も熱心な聴き手として定着しており、公演の日程が決まると本国の決裁を、その週に前倒しで片付ける。物販の列に鎧のまま並んで周囲を騒がせた一件は、本人いわく、並ぶ手間を惜しんで後悔するほうが面倒だからとのことである。

 同じ秋属性を扱う縁から、副部長は彼にとって唯一の師にあたる。荷役用の下請け術式だけを持つ身で医療系統を習い直したいと申し出た彼に、副部長は解剖学の教科書を抱えて応じ、初回の講義は血管の走行の美しさを語る三時間となった。受講を続ける理由を問われた彼は、途中で帰る口実を考えるほうが面倒だったと答えている。実技の成績は今も芳しくないまま、止血の手順だけは戦場の経験と噛み合って身についた。夜の校舎を歩く副部長を連れ戻す当番にも名乗りを上げたものの、鎧の歩行速度では後れを取るため、彼は廊下の分岐で待ち伏せる手を選んだ。副部長の側は彼を落ち着く相手として遇しており、包丁の名前を一本ずつ紹介される役目も回ってくる。前世の人格が唐突に顔を出した場面でも、副部長だけは慌てず学術的な質問を返したため、彼は後日あらためて礼を述べた。感情の波が高まった夜には、彼は何も言わず部室の椅子を一脚だけ余計に出しておく。

 班長と交わされる会話は、部の中で最も通訳を要する。二人の生まれた世界線は別でありながら、育った街の名はどちらも大阪であり、路地の並びから屋台の匂いまで話題が噛み合う。十四年ものあいだ故郷の話が通じる相手を欠いていた彼にとって、この一致は留学の成果のうち最も大きいものとなった。話が弾みすぎて訛りの応酬が止まらなくなり、周囲が席を立つ光景も定着している。一方、彼の財布から小銭が消える事案は入部の直後から続いており、国家予算を巧妙に誤魔化した経歴を持つ男が賭け事の誘いを毎回きっちり見抜く構図が生まれた。手口を指摘された班長は舌を打ち、翌週には新しい手口を試す。通院の付き添いを頼まれた折の彼は、待合室の椅子で書類を捌きながら順番を待っている。記憶を部分的に失った班長と、余計な一生ぶんの記憶を背負い込んだ彼とでは、抱えた問題の向きがちょうど裏返しになった。互いに相手の事情を羨む発言を一度ずつ口にした後、この話題は二人の間で打ち切られている。

 年長の転移者同士として、彼と軍装の男は互いを面倒な相手と認め合っている。生まれ育った街は同じでありながら時代が半世紀以上隔たっており、話題が噛み合うのは地名までで、食い物の名前を出した途端にすれ違う。悪を見れば拳を振るう男と、面倒の計算の末に結果として正しい側へ立ち続けた男との議論は、動機の是非をめぐって延々と平行線を辿った。正しい行いに立派な理由が要るのかという問いは、半年を過ぎても決着を見ていない。軍装の男は彼の怠惰を叱りながらも、革命の顛末を聞いた際には腕を組んで唸り、その日だけは説教を短く切り上げている。互いの階級を並べる話題は暗黙の禁忌となった。自称の所属を掲げる相手に対し、現役の元帥が実在の辞令を持ち出すのは酷であると、彼のほうが早い段階で判断したためである。模擬戦で組み合った一度きりの記録では、光る拳を鎧の胴で受け止めた彼が三歩下がって踏み留まり、軍装の男は根性だけは認めると言い残して去った。

 留学生の観察眼は、彼の内側に住む二人目を最初に見抜いた。長広舌が始まる直前に瞳孔の動きが変わる点を指摘され、出現の頻度を記した表が部室の壁に貼り出されたのも、彼女の発案による。歴史学を専攻する彼女にとって、前世の人格が語る旧世界の発掘現場の話は一級の資料であり、記録のために持ち込まれた録音機は今も部室の棚に常備されている。聞き出した内容のうち、旧世界の地名と暦の対応表は彼女の手で清書され、王国の首相府へ一部が送られた。差し入れの菓子については、心臓の形に焼き上がった品を受け取った彼が無言で完食したため、以後は彼が優先的な配布先に定まった。味の評価を求められた彼の返答は、形より量を気にするというものであり、彼女はこれを受けて次回から大きさを倍にしている。雨の匂いの話題が出た日には、二人とも窓辺で黙り込む時間が長く続いた。本人が誰にも話していない前世の死に際について、彼女だけは見当をつけている様子を見せながら、問い質す素振りを今日まで見せずにいる。

 退路を組む癖が一致する相手として、ヨークはマキラスと最も気が合う。逃走経路の図面を広げる席では、ヨークが退路の前に立って時間を稼ぐ役を引き受け、マキラスが全員の抜け道を割り振る分担が固まった。定時退勤の技名を聞かされたマキラスは感心のあまり手帳に書き写し、翌週の作戦会議で同じ語を使っている。弁償の書類についてはヨークのほうが圧倒的に場数を踏んでおり、記入の要領を教える立場に回った。国庫の帳簿を十年以上付け続けた元帥の助言は的確で、以後、部の弁償額は目に見えて下がっている。軍閥の家を捨てた経緯をマキラスから打ち明けられた夜、ヨークは同情の言葉を並べる代わりに、亡命者の身分で通せる手続きの抜け道を三つ書き出して渡した。ただし、驚いたマキラスが白い塔を生やす現象に関しては、ヨークの鎧が最も頻繁に巻き込まれている。掘り出されるまでの時間を縮めるため、二人は合図の取り決めを交わした。

語録

「犬は賢いですな。腹が減ったら鳴いて、満ちたら寝る。私は途中の余計なところで悩むから太るんです」
 校舎裏の野犬に昼食を分け与えながら。翌週から野犬が三匹に増えた。

「片付けというのはね、捨てる判断のことですわ。私は捨てる判断が苦手だから、部屋がこうなる」
 散らかった寮室を咎められて。返答の間も床の物を踏んでいた。

「正直に言うと、走ってる人を見ると腹が立ちます。羨ましいだけですけどね」
 朝の校庭を眺めながら。直後に自分で笑い出した。

「若い子に説教する趣味はありません。私が十六の頃、誰の話も聞いてませんでしたから」
 後輩への指導役を頼まれて。結局、その役は断っている。

「贅沢というのは、寝たいだけ寝ることですよ。金を積んでも手に入らんのがそれです」
 豪勢な晩餐の席で問われた答え。食事そのものは完食した。

「怖いものですか。……鏡ですな。あれだけは正面から見る勇気が出ません」
 苦手な物を尋ねられて。周囲は返す言葉を探しあぐねた。

「……以上が当該術式の構造的欠陥であり、したがって前提が成立しません。……いや、誰が喋ってるんですか今の。私ですか。私でしたわ」
 講義中に突如始まった長広舌の締め。教授が採点の扱いに苦慮した。

エピソード

  • 毎朝の習慣は体重計に乗ることで、数字を見た後、必ず一度だけ乗り直すという。なお、結果は(
  • 肝試しの待ち伏せ役を任されるも、出番の前に熟睡。鼾を怪音と勘違いした部員が絶叫し、企画は大成功を収めたという。本人、何も知らず。
  • 食堂の大盛り二人前を注文したところ、厨房の手違いで三人前が到着。訂正を面倒がって完食した結果、それが彼の標準として登録される羽目に。
  • 階段で下級生に道を譲ろうとして鎧の肩が手すりに挟まり、救出までの十五分間を雑談で乗り切った。後日、当の下級生から菓子が届いたらしい。
  • 流行の踊りを級友に教わり、体育の時間に全力披露。床が抜けかけて授業が中断されるも、当人だけは最後まで拍子を刻み続けていたとか。
  • 購買のパン買い占め犯として風紀委員に連行される。毎朝一番に並んでいただけと判明し、翌日から入荷数が倍になった。冤罪(?)
  • 部室の掃除当番を押し付けられ、ガラクタを一つも捨てずに積み上げて壁を建造。まさかの正式採用を受け、以後の当番を永久に免除された。
  • 野犬への餌やりを上級生に咎められ決闘へ。開始線に立ったまま微動だにせず、餌を待つ犬三匹にまとわりつかれ、審判機関が競技の続行を断念する。
  • 図書館で旧世界の写真集を抱えたまま閉館時刻を迎える。職員に声をかけられると慌てて返却し、以後は閉館間際にだけ現れる不審者と化した。
  • 部の遠足に王国陸軍の輸送ヘリを差し向けるという暴挙。以来、企画が詰まるたびに部員が背中を押してくるようになり、本国の軍が学生の荷物を運んでいる。
  • 変異キメラ駆除の動員において、息切れで隊列から大幅に遅れる。逃げ回った末にキメラを味方陣地へ誘い込み、報告書には誘導の功績として記録された。納得いかない(本人談)
  • 昏睡から三日目に覚醒した直後、枕元の部員へ旧世界の言語で滔々と語りかける。誰にも通じず、本人も何を言ったか覚えていないらしい。
  • 寝言が前世の人格に切り替わることが判明し、部員たちが毎晩の録音を開始した。翌週、音源が部の財源として売買されていた事実が発覚し、彼は久々に本気で怒った。
  • 牛丼の再現を目指し、寮の調理場で七度目の試作に挑戦。非常ベルの作動により風紀委員へ連行され、独居房で先客と鉢合わせした。(そうはならんやろ)

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最終更新:2026年09月19日 19:00

*1 ChatGPT