ヴァニジア総合アカデミーは、アユラ大陸の東部に位置するヴァニジア共和制連合(Varnizia Republic Nation)の学術都市ラーニにある幼稚園~大学院まで存在する国立総合学園である。学園の方針は3年前に就任した学園長曰く「熱い魂を滾らせる若人の育成」とのこと。
産業基盤である魔術学を中心に、錬金術・機械工学・経済学・法学・医学・物理・化学などの様々な学科が存在し、若手の教育に力を注いでいる。大きい学園ではあるのだが街の中心から離れた郊外の山間部に存在するので、交通の便は非常に悪い。
そのため学園に通う生徒はもちろん、教師の大半も学園内の寮で暮らしていたりする。なぜそんな場所に存在しているのかには理由があり、元々は約100年前に山間部で発見された古代遺跡を解析するための施設が学園の始まりらしく、高等部や大学部に存在する研究棟などは当時発掘された遺跡の一部を改修し使用されている。
そのため学園に通う生徒はもちろん、教師の大半も学園内の寮で暮らしていたりする。なぜそんな場所に存在しているのかには理由があり、元々は約100年前に山間部で発見された古代遺跡を解析するための施設が学園の始まりらしく、高等部や大学部に存在する研究棟などは当時発掘された遺跡の一部を改修し使用されている。
つまるところ学園は古代遺跡に隣接するように建設されており、共和制への移行や周辺小国との連合とともに総合学園化され、様々な学科の棟や中等部・小等部が増築されるという複雑な造りの学園となっていた。立地条件のためか今ではすっかり観光名所としても有名になっており、外部の人間も多く訪れている。
学園内の一部では生鮮食料品や服飾雑貨などを扱う店舗も存在し、それなりな規模のショッピングモールが形成されており、交通の便が悪いとはいえほぼ一つの街のように機能しているため、ここに通う人間の大半は特に不便さを感じていない、らしい。
学園内の一部では生鮮食料品や服飾雑貨などを扱う店舗も存在し、それなりな規模のショッピングモールが形成されており、交通の便が悪いとはいえほぼ一つの街のように機能しているため、ここに通う人間の大半は特に不便さを感じていない、らしい。
そんな学園も今年で100周年を迎え、その5月も終わりに差し掛かり学園の周りの木々も緑の葉を色濃く茂らせ始めていた。
この日カトリアをはじめとした数名は、6月から始まる教育実習の見学のために高等部へと訪れていた。
この日カトリアをはじめとした数名は、6月から始まる教育実習の見学のために高等部へと訪れていた。
「しっかし、今更高等部の案内されても・・・そもそもうちらって大半がこの高等部出身やろ?意味あるんかこれ・・・」
高等部の各教室や施設を案内されながら、カトリアの前方を歩く教育実習生の一人であるトータ・クラダがぼそっとぼやいた。
もうすっかり飽きているといった雰囲気を全身からだしている。
トータの隣を歩く、健康的な褐色肌が印象的なミゼルがトータを小突いて小声で注意する。
もうすっかり飽きているといった雰囲気を全身からだしている。
トータの隣を歩く、健康的な褐色肌が印象的なミゼルがトータを小突いて小声で注意する。
「そういうことは思ってても口に出して言うもんじゃないの。それに学科によっては行ったことのない教室だってあるでしょうが。」
「いてーよ、わかっとるって。行ったことない教室へ行く時は決まって迷子になるんがこの学園の特徴やからなー。」
そんな二人のやりとりを見てカトリアはくすくすと笑いながら、4年ぶりに訪れる高等部の廊下を懐かしんでいた。
トータの言うとおり、増改築を重ねて今の形になった複雑な形状の学園のため、外部の人間でなくとも行ったことのない場所へ行かなければならない時はほぼ8割が迷子になるという生きた伝説をもっている。
トータの言うとおり、増改築を重ねて今の形になった複雑な形状の学園のため、外部の人間でなくとも行ったことのない場所へ行かなければならない時はほぼ8割が迷子になるという生きた伝説をもっている。
「笑い事じゃないでしょーカトリ。あんたの方向音痴のおかげであたしがどんだけ苦労したかわかってるかしらー?」
ミゼルとは中等部からの付き合いで、昔から学園の広さとカトリア自身の方向音痴もあり、彼女には迷子になるたび探しにきてもらっては一緒に授業を遅刻したりしていた。
矛先が唐突に自分へ向けられ、カトリアは両の手をあわせてミゼルに謝る。
矛先が唐突に自分へ向けられ、カトリアは両の手をあわせてミゼルに謝る。
「うっ、ミゼルぅ。それは言わない約束にしといて・・・ほんと感謝してます・・・」
それを聞いてぶっ、とトータが吹き出す。
「なんやカトリ、おまえ昔からそんなんだったんか。さすが学園一のドジっ子属性持ちやな!」
「ちょ・・・トータひど!学園一なんてことはないもん!」
「・・・ドジっ子属性っていうのは認めちゃうんだ・・・」
「ちょ・・・トータひど!学園一なんてことはないもん!」
「・・・ドジっ子属性っていうのは認めちゃうんだ・・・」
ふくれっ面でどこかずれた反論をするカトリアに、すかさずツッコミを入れるミゼル。
「はいそこの3人! いつまで学生気分なのかしら? それとも高等部からやり直す?」
「「「あ・・・」」」
3人は気まずそうに振り返る。
いつの間にか声を大きくして話をしていたらしく、案内をしていた女性教師が呆れ顔で立っていた。
いつの間にか声を大きくして話をしていたらしく、案内をしていた女性教師が呆れ顔で立っていた。
「「「すみません・・・」」」
「もう来週から実習始まるんだから、もっと自覚しなさい。」
「もう来週から実習始まるんだから、もっと自覚しなさい。」
ため息をついて女性教師は再び歩き出す。3人もそれに従い、廊下を歩いていった。
午前中には案内も終わり、カトリアたち3人の姿は高等部の食堂にあった。
高等部特有の弁当やパンの争奪戦が繰り広げられる光景を楽しみながら、カトリアは花柄の薄いピンク色をした包みの結び目をほどくと黄色と赤のカラフルな弁当箱がでてきた。ミゼルはサンドイッチをほお張りながらカトリアの弁当を覗き込んだ。
高等部特有の弁当やパンの争奪戦が繰り広げられる光景を楽しみながら、カトリアは花柄の薄いピンク色をした包みの結び目をほどくと黄色と赤のカラフルな弁当箱がでてきた。ミゼルはサンドイッチをほお張りながらカトリアの弁当を覗き込んだ。
「おー、相変わらず凝ってるわねえ。」
タコさんウィンナーやそぼろと炒り卵で絵の描かれた、カトリアの弁当箱の中身を見てミゼルが関心した表情でうなずく。
「昔から作ってるからね、もうレパートリーもありきたりなんだけど。」
「いや、十分でしょー、そいえばカトリのお父さんって宇宙引越し公社で働いてるんだっけ。」
「うん、シャトルのパイロットやってるからこっち(地上)とコロニーを行ったりきたりだよ。
アカデミーに寮があってほんと助かったっていつも言ってる。」
「いや、十分でしょー、そいえばカトリのお父さんって宇宙引越し公社で働いてるんだっけ。」
「うん、シャトルのパイロットやってるからこっち(地上)とコロニーを行ったりきたりだよ。
アカデミーに寮があってほんと助かったっていつも言ってる。」
カトリアは母親が行方不明となって以来、12歳まで父親と2人で過ごしてきていた関係で家事全般をほぼ一人でこなしてきていた。アカデミー中等部への編入試験に合格した後はアカデミーの寮で父親と離れ、一人暮らしをしている。
「いやあ、久々に戦争を味わってきたわぁ!」
食堂のおばちゃん前の大混戦から生還してきたトータが、戦果であるらしい包みとコーヒー牛乳の入ったビンをもって席へ戻ってきた。戦い抜いたどこか満足げな表情で包みをあけると、中からなにやら妙な形と臭いのするパンがでてきた。
「トータ・・・なにそれ。」
「ん、ああ、ブタさんパンのことか?なんか売場んとこに『あの』有名人も絶賛!とか書いてあったから興味本位で買ってきてみた!」
「あの有名人って誰よ?」
「知らん。」
「ん、ああ、ブタさんパンのことか?なんか売場んとこに『あの』有名人も絶賛!とか書いてあったから興味本位で買ってきてみた!」
「あの有名人って誰よ?」
「知らん。」
どう見ても豚足がそのままサンドしてある、見た目的にも美味しそうに見えないパンである。カトリアとミゼルは微妙に引きつった表情でそのパンを食べ始めたトータを見つめる。
「なんや。ちょっと食うか?1個サービスしてもらったし意外とイケるで?」
「「いや、いい。」」
「「いや、いい。」」
完全に同調しながら否定する2人。
その時、食堂の外あたりから複数の女子生徒がキャーキャーと叫ぶ声が聞こえてきた。
その時、食堂の外あたりから複数の女子生徒がキャーキャーと叫ぶ声が聞こえてきた。
「な、なに!?」
何事かと振り返ると食堂の入り口から他の生徒をかきわけ、高等部の制服を着た・・・いや、制服のズボンを半分おろした男子生徒が食堂へ駆け込んで入ってきたところだった。男子生徒はズボンを上げながら何事もなかったかのようにパン売場の行列へと並んだ。
ほかの生徒同様、カトリアたちもあっけに取られてしまっていたがふと我に返り、3人は顔をあわせてひそひそと話し出した。
ほかの生徒同様、カトリアたちもあっけに取られてしまっていたがふと我に返り、3人は顔をあわせてひそひそと話し出した。
「な、何あの子。」
「生徒・・・だよね、多分。」
「・・・いくらオープンな学風といってもオープンするところが違うで・・・」
「そういう問題じゃないでしょ。どうする? ああいうの注意しないとまずいんじゃ・・・」
「生徒・・・だよね、多分。」
「・・・いくらオープンな学風といってもオープンするところが違うで・・・」
「そういう問題じゃないでしょ。どうする? ああいうの注意しないとまずいんじゃ・・・」
カトリアは他に教師がいないかと辺りを見回したが、教師も生徒も誰も注意しようとしていない。まるで日常茶飯事のようにみんな食事に戻っていっている。
「あ、あれ?周りの反応が・・・」
「カトリ、いいよ。とりあえず忘れて食べよ。」
「カトリ、いいよ。とりあえず忘れて食べよ。」
ミゼルが手招きしてカトリアを席に戻す。
「な、なんで誰も注意しないのかな?」
「というよりは関わり合いになりたくないんとちがうか。」
「というよりは関わり合いになりたくないんとちがうか。」
ある意味最もな意見をトータがいう。
カトリアも気を取り直して、食事を再開しようとしたところへ今度は大きな声が響いた。
カトリアも気を取り直して、食事を再開しようとしたところへ今度は大きな声が響いた。
「多分ウンコだな!」
お茶を飲もうとしたミゼルが吹き出す。カトリアも箸が止まる。
声のしたほうを振り返ると案の定というか予想通りというか・・・さきほどの下半身露出男子生徒の声だった。
長身なもう一人の男子生徒と会話しているようだ。
声のしたほうを振り返ると案の定というか予想通りというか・・・さきほどの下半身露出男子生徒の声だった。
長身なもう一人の男子生徒と会話しているようだ。
「男子トイレでウンコなんてどんな変態だってんだよなー」
「俺が出てきたときもまだ居たから長いウンコだぜ!」
「俺が出てきたときもまだ居たから長いウンコだぜ!」
もう苦笑いしか出てないトータ。
男子生徒の近くの席に座っていた女子生徒数人が席を立ち食堂を後にしていく。
もう一方では遮音(サイレント)の力場を作り、声をカットする生徒もいた。
男子生徒の近くの席に座っていた女子生徒数人が席を立ち食堂を後にしていく。
もう一方では遮音(サイレント)の力場を作り、声をカットする生徒もいた。
「ちょっと非常識じゃない!?食堂であんな話するなんて!」
カトリアはあまりに酷い男子生徒の言動に対して、だんだん腹がたってきていた。
「ほっとけカトリ。ヘタに絡むとろくなことにならんで。」
「カトリ、ほっとこうよ。トータの言うとおり関わり合いにならないほうがいいって。」
「カトリ、ほっとこうよ。トータの言うとおり関わり合いにならないほうがいいって。」
ミゼルとトータが、カトリアをなんとかなだめる。カトリアは全然納得できてないといった表情だったが、渋々と食事を再開した。
様々な生徒がいることでも有名な学園であるが、とりわけカトリアは多少潔癖症の気があるためこういった下品な言動を堂々とする人間が苦手だった。
様々な生徒がいることでも有名な学園であるが、とりわけカトリアは多少潔癖症の気があるためこういった下品な言動を堂々とする人間が苦手だった。
食堂の喧騒もすこし治まってきてトータが3個目のブタさんパンを食べ始めカトリアとミゼルは弁当箱をバッグにしまいはじめた。
「・・・さすがにこれ3つはブタの油がきつい・・・」
ぼやきながらパンをかじるトータだが明らかにペースは落ちていた。
カトリアとミゼルはそんなトータを見てくすくすと笑う。
カトリアとミゼルはそんなトータを見てくすくすと笑う。
「自業自得。3個も買うからよ。」
「どう見たって多いもんね。」
「どう見たって多いもんね。」
「うるせー、ってか1個はサービスや!しかもおまえらにあげるつもりでー・・・!」
反論しかけたトータを、再び大きい声が遮った。
「いいコントロールじゃん!ちっこいの!」
「なっ・・・お前っ!」
「なっ・・・お前っ!」
3人は声のしたほうを振り返ると、さきほどの露出生徒の隣で男子生徒が頭を抱えている。
その先で小学生の・・・いや高等部の制服を着こんだ小柄な少女が男子生徒に向かって何かの塊を投げつけたところだった。
その先で小学生の・・・いや高等部の制服を着こんだ小柄な少女が男子生徒に向かって何かの塊を投げつけたところだった。
何かの塊は露出生徒・・・ではなく隣にいた男子生徒の側頭部に命中し、跳ねたその塊は・・・
・・・くるくるくるっ・・・ぽてっ。
カトリアのバッグへホールインワンした。
えー、再び長いこと時間かかってしまいました。ちょっと書ききれていないところもありますが
次回へのネタ用にとっておこうと思います。ではダウィさんどぞー
次回へのネタ用にとっておこうと思います。ではダウィさんどぞー
ねぎ