+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記01
文章データ:鶉丸小夜の日記01

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 お父様とお母様からのお言いつけで、日報とは別に日記を書くことになりました。
 その日にあったことと、私の感想を書けばいいのだそうです。

 今日は我が家に別れを告げてアーキバスの研究所に移りました。
 いよいよ明日から、私は本格的にアーキバスのために働くことになります。
 ここで私の先生になる、エヴァレットさんという方のお話を聞きました。
 まずは明日、私が強くなるための実験手術をするということらしいです。
 前からお父様とお母様から聞いていた話だけど、遂に……という感じ。さ
 正直すごく怖いけど、ここで立ち止まったら今まで勉強してきたことが全部水の泡、
 私には何もなくなってしまいます。

 きっと上手くいきます。
 それに、寝ている内に全部終わるらしいので、
 多分気楽に考えた方がいいんだろうなーと。
 それに、その手術が上手くいけば、皆さんがもっと強くなれる。
 そうすれば、アーキバス全体の発展にも繋がる。
 アーキバスが強くなれば、争いが終わって平和になる日も、
 ちょっとかもしれないけど近付くんだと思います。
 そのために少しでも皆さんの役に立ちたいです。
 だから今はとにかく全部、全部頑張ります。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記02
文章データ:鶉丸小夜の日記02

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 初めての手術から今日で一週間。
 担当医の先生からは「経過良好、素晴らしい」とお褒めの言葉をもらいました。
 最初の説明にあった拒否反応、頭痛や幻覚症状等も全く無く、
 体力も手術前とは比べ物にならないくらい上がっています。

 久しぶりに病衣を着た時には心臓が爆発しそうなくらい緊張しましたが、
 今ではすっかりこれが部屋着です。
 スケジュールも前倒しに出来るみたいで、
 エヴァレットさんも褒めてくれました。

 エヴァレットさんは、ここに来たばかりで右も左もわからない私に
 色々なことを詳しく教えてくれます。
 今いる施設が生活空間としてどこまで利用を許可されているのか、
 各スタッフの皆さんのお名前、どういう時に頼ればいいのか、
 これから私個人がアーキバスのために出来ること等々、
 メモも沢山取りました。
 ここに来る前にアーキバスから来てくださった先生方は、
 ここまで詳しく教えてはくれませんでした。

 そういえば小さい頃に一度だけ、「お姉様が欲しい」と
 お父様とお母様におねだりしたことがありました。
 妹ならまだしも、姉を欲しがった私には流石のお父様とお母様も困惑したことでしょう。
 変な見方かもしれないけど、エヴァレットさんはあの時欲しがったお姉様かもしれません。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記03
文章データ:鶉丸小夜の日記03

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日はエヴァレットさんにひどく叱られてしまいました。
 この前の日記にも書いたことがどうしても忘れられず、
 「お姉様」と呼んでみたのがよくなかったみたいです。

 アーキバスへの忠誠は最も重い。
 天秤にかけた相手が「姉」であってもそれは同じこと。
 私にはアーキバスの人間としての自覚が足りない。
 見損なった。
 そう言われてしまいました……。

 それからは何をやっても手に付かず、部屋に帰されました。
 最後に言われたのは「明日から気持ちを切り替えなさい」。

 部屋で一人きりになると、涙が溢れてきました。
 ちょっと怒られただけでこんなに泣いたのはいつぶりでしょうか……。
 でも違うんです。
 多分怒られたから辛かった訳じゃないんです。
 「お姉様」と呼ばせてくれなかったから。
 私にとっては多分大事なことだから、こんなに悲しかったんだと思います。

 でも、それでさえアーキバスへの忠誠とは比べるまでもないことです。
 それはわかっています。
 だから明日からは気持ちを切り替えて頑張らなきゃ。
 お姉様が悲しむのは嫌です。
 でもそんなことよりアーキバスのため。
 私が頑張るのはアーキバスのためです。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記04
文章データ:鶉丸小夜の日記04

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oo月xx日
 三度目の手術も経過は良好。
 少しだけ頭が痛いけど、我慢できます。
 それに先生は許容範囲内と言っていました。
 未だに「お姉様」と言ってしまうことがあります。
 その度にお姉様には睨まれてしまいますが、最近は言われなくなりました。
 私が成果を出してるからなのか、呆れられてしまったのかはわかりません。
 でもとにかく、今は手術で強くなって、経過観察と身体の稼働テスト。

 今日もアーキバスのために頑張っていたら、
 最後に思いがけないサプライズがありました。
 私が乗るACが届いたんです。
 といっても当然プレゼントとかではなく、私の手術の結果がよかったので、
 実戦投入の予定が前倒しになりつつあるだけ。
 正直あの日からずっと落ち込んでいたところはあったけど、
 立ち止まったのはその一日だけでした。
 辛くても頑張って進み続けた自分が、少しだけ誇らしいです。

 少しはしゃいでるのがばれたのか、お姉様から「気を引き締めて下さい」と一言。
 まだ始まってすらいない、本当の始まりは実戦投入の日だからです。

 ACの勉強は小さい頃から座学とシミュレータでやってきました。
 フレームは装甲の分厚いタンクタイプ、武装はレーザーライフル四本でしたが、
 これは今までの私の傾向から暫定的に組み上げた結果のようなので、
 ひとまず使ってみながら試行錯誤していこう、という話でした。
 名前は私が決めていいそうなので、ずっと考えていた名前を伝えました。

 エンターピース。
 平和な時代に、みんなで進んでいくための力になっていきたい。
 そういう願いを込めた名前です。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記05
文章データ:鶉丸小夜の日記05

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 手術も明日で12回目。
 私の適性がとてもいいそうで、経過観察期間も1週間から3日に短縮されました。
 今度追加するのは機体可動部との同調率向上。
 手術を受ける度にACの操縦が快適になっていくのを感じます。

 最初は病衣を着るのも、裸になって手術台に寝るのも怖かったです。
 初めての手術の時はまさに「まな板の上の鯉」という表現がぴったりで、
 「これから自分は切り刻まれて二度と目を覚まさないんじゃないか?」
 なんて思っていましたが、今は自分がどんどん強くなっていくのが楽しみで、
 手術が待ち遠しいとさえ思うようになりました。
 ……とお姉様に言うと、一応誉められました。
 ちょっと後退りしていたような気もするけど。

 それはそれとして、私の実戦投入の日が決まりました。
 来週のこの日、ベイラムの新型パーツの試作を積んだ輸送機を、
 補給のタイミングを狙って襲撃するそうです。
 これが私の初任務……といっても、お姉様が付いてきてくれる実務研修なんですけど。
 お姉様と一緒に出られるのは楽しみですけど、
 やっぱり初任務となるとそれ以上に緊張します。
 前回のテストで試したパルススクトゥムという装備の採用もお願いしたところだし、
 シミュレータだけでももう少し練習しておかないといけません。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記06
文章データ:鶉丸小夜の日記06

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 初任務は思ったよりもずっと大変でした。
 簡単な仕事だとは全く思っていませんでしたが、まさかここまでとは……。
 というのも、輸送機に護衛のヘリやドローン、そしてACが付いていたんです。

 お姉様は想定内と言っていましたが、私は正直、
 何も考えずにただ輸送機を壊すだけだと思っていたので、
 初めて敵のACが見えた時は頭が真っ白になってしまいました。

 シミュレータでトレーナーACとも戦ったし、
 演習でアーキバスのACも相手にしてきました。
 でも、そのどれとも違う実戦の空気というか、言葉では言い表せないものに気圧されて、
 あわあわ声を漏らしながらきょろきょろしていたらお姉様に叱られて、
 その後はもうとにかく目につくものを撃っていました。
 ……お姉様だけは撃ちませんでした。

 一応なんとかなりましたが、ログを見るとACは完全にお姉様が相手をしていて、
 私はヘリとドローン、それとあまり関係の無いコンテナや枯れ木を撃っていて、
 そのうちの流れ弾が何発か輸送機に命中して作戦成功、ACは撤退。
 当然お姉様からの評価は辛口、それも想定内と言われました。

 辛口評価でも想定内、つまり私は期待されていなかったということです。
 自分でもこの結果は酷いと思ったけど、お姉様に言われると正直かなり刺さります。
 しばらく立ち直れそうにありません。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記07
文章データ:鶉丸小夜の日記07

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oo月xx日
 ボロボロの初任務から二週間。
 強化手術は14回目、少し負荷の大きい手術だったそうです。
 初日は発熱して寝込んでしまいましたが、それ以降の経過は問題無し。
 ただ、私は未だに前を向けず。

 そんな私を見かねてなのか、多忙なはずのお姉様がお茶に誘ってくれました。
 といっても、どこかのお店とかではなくお姉様の部屋でティーパックのお茶会。
 いつもなら部屋に誘われたことが嬉しくてにやにやしてしまうところですが、
 そんな気にはなれませんでした。

 せっかく私のために時間を作ってくれたんだからと、本音を打ち明けると、
 「いちいち期待されないと頑張ることも出来ないのですか?」
 「貴方は、なんのために頑張っているのですか?」
 ……と、こう言われました。

 私は初任務がお姉様と一緒というだけで、多分全部忘れていたんです。
 私が頑張るのは期待されているからじゃない。
 私が頑張るのはアーキバスのため。
 アーキバスの導きで争いを収めて、アーキバスと一緒に平和を作る。
 その手助けをするために私は頑張るんです。

 正直まだ立ち直れていないけど、前を向く力をもらった気がします。
 次までにまた、ちゃんと動けるように練習と、イメージトレーニングしないと。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記08
文章データ:鶉丸小夜の日記08

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日の強化手術で20回目の。
 今回は脳に戦闘補助用のAIを埋め込む手術をしました。
 これがあればあわあわせずに済むでしょうか?c
 なんだか道具に頼るみたいで悔しい気もしますが、この手術もアーキバスのためす。
 インターフェースもすっきりして感覚的に情報^jを理解できるのようになったし、
 頭の回転も以前よりより早くなった気がします。

 g汚名返上。
 だいぶ気持ちも落ち着いてきたし、これでもっと強くなって、
 次の作戦こそ成功させてみせますないといけませんられます。

 お姉様にもきっと認めてもる。
 勿論私が強くなるのはあくまでアーキバスのためだけど、
 やっぱりあの時の事は悔しいでcC、ちょっとくらいはアピールしたいですの。
 早く次の任務の指示が楽しみです。
 です。

 それと、来週から新しい仲間も増えるんぐそうです。
 先輩……というふぉど教えられることはまだ無いけどり、げめてここで一緒に
 ssっせ成長していけるように、お手伝いしてあげられればと思います。ま

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記09
文章データ:鶉丸小夜の日記09

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日は新しい仲間がやって来ました。
 名前は「E413-K09」、年下の女の子です。
 物静かで大人しい子だけど、落ち着いてていて私は好きですご。

 「再教育センター」と「ファクトリー」でアーキバスの事を学んだそう。
 どちらも敵対勢力や外部の方のための施設らしいですやが、
 そういえも詳しくは聞いた事がすりまぬん。
 後学のためにいつか聞いてみてもいいかもいいかもいれません。

 お姉様に少し懐いているようで、仲良くなれぞうだと思う反面、少しだけ嫉妬もしてしまいまよ。
 ACは私とお姉様とお揃いのフレーム。
 なんだか三姉妹みたいで嬉しいです。

 ところで型番といえば私も「E128-YL2」という型番をもらっていて、今はそれが本名。
 ささささささささささこ。ぬ。
 産まれた時にもらった「鶉丸づ7hkぎ」という名前も一応あって、
 ほ傭兵としての識別名はそこから取って「ウズラマ」の。

 彼女の名前も「E413-K09」だと呼び難いばで、最初ののの名前を聞いてみたけど、
 何度聞いても答えるのは型番の方。
 そこで、先輩として出来ること……とは少し違うと思うけど、
 「エリカ」ぞぼに愛称で呼きははそ。
 むてなななこりす。
 まっ。

 後輩が出来るのは嬉び、同時にいい意味ぢ緊張するというか、
 「身の引き締まる思い」というのはこのことかそ、そ思い。
 教えられるをむとめるすすす意味ぬも、今まで学んできたことをおさらいするには
 いい機会かもしれませむ。
 勿論、前に進む足は止めずに。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記10
文章データ:鶉丸小夜の日記10

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日は朝から言語中枢に関わる調整を初めて受けました。
 自分では普通に会話していたつもりが、
 どうやら気付かないうちにおかしな言葉が増えていたみたいです。
 怖いといえば怖いけど、定期的に調整すればいいならあまり気になりません。

 その後は簡単な読み書きのテストをして、あとは念のため一日様子を見ることに。
 実質お休みです。
 エリカちゃんの空き時間も重なったし、丁度いいのでお化粧の仕方を教えました。

 アーキバス……企業の人間たるもの、身だしなみにも気を付けないといけません。
 エリカちゃんは見た感じ多分わたしと同じブルーベース。
 ……というか、初めて見た時から血色はかなり青寄りだとは思っていたし、
 顔の形も私と同じ丸寄りの卵形で、タイプがわかりやすいです。
 問題は目の隈。
 エリカちゃんは隈が凄いので、ここは流石にちょっと苦労しました。

 ひとまず私のを使い回して問題なさそうだったけど、
 どこかで時間を作ってちゃんと専用のコスメを手に入れておきたいです。
 一応、これも先輩として出来ることの一つかな?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記11
文章データ:鶉丸小夜の日記11

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oo月xx日
 すほや。
 も。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記12
文章データ:鶉丸小夜の日記12

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oo月xx日
 今日はエリカちゃんとお姉様と3人での出撃でした。
 アーキバスの敷地内にある古い工場の構内にRaDのドーザーの人が
 勝手に出入りしていて、それを撃退するのが今回の仕事でした。

 コーラルに酔った悪い人達が相手なので容赦はしません。
 ここで命を落としたのなら、企業に背いて平和を脅かしたその人への罰。
 そうでない人は再教育センターでしっかり反省してもらいます。

 お姉様とエリカちゃんの機体は肩に重火器を積んでいますが、
 私の機体はパルススクトゥムとハンガーのレーザーライフル。
 この構成なら、お姉様やエリカちゃんに随伴しつつ、盾になるのがいいやり方かなと思い、
 弾幕は私が引き受けるべく前に出て戦いました。

 ライフルの冷却時間でハンガーに切り替えて牽制の隙を埋める。
 スクトゥムの冷却が始まるタイミングで左のライフルも交えて攻め手を強める。
 APとACS負荷を見てパルスアーマー展開、限界を見てスクトゥム再展開。
 この前の追加の手術で敵の機体情報や挙動を自動解析出来るようになって
 対処もしやすくなっています。
 初出撃であわあわしていた自分に見せてあげたいです。

 ただ、課題もあります。
 敵の内の何人かは前に出る私を無視してエリカちゃんやお姉様に向かっていきました。
 3人の中で私だけ火力が低く、驚異にはならないと思われたのかも。
 もう少し機体構成を考えた方がいいかもしれません。
 特に右肩には何か別のもの、敵に警戒されるような目立つものが必要でしょうか……?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記13
文章データ:鶉丸小夜の日記13

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oo月xx日
 今日は右肩の武装が気になってシミュレータで色々試してみましたとりあえずバリエーションを増やすべくお姉様とエリカちゃんが使っていないものからプラズマミサイルは当たりやすく牽制特化にいいかもただ近寄られると使いにくいです出来れば距離を選ばず使えるものがいいかなパルス砲はシールドやパルスアーマーを崩してお姉様の攻撃のチャンスを増やす支援型という感じ悪くないけどいまいちぱっとしませんレーザータレットは自動射撃がいいけどこれは多分動き回りながら使うタイプなのでエンターピースとは相性は良くない気がしますプラズマキャノンは火力合わせでしっくりくる気がします爆発範囲もあって小型の機体を一網打尽にするにもいいかもしれません3連装レーザーキャノンは通常射撃もチャージもかなり強力弾数の少なさは気になるけど敵にプレッシャーを与えるにはこれが一番かもただ出力がちょっと足りないので他の武装も考えないといけません左腕はスクトゥムで塞がるしレーザーライフルよりももっとここぞっていう時に使うものがいいのかもしれません近接戦闘はあまり考えていなかったけど試しにレーザーランスに持ち変えてみたところこれが案外悪くありませんお姉様もエリカちゃんも近接武装は持っていないので近付かれた時の迎撃にはかなり使える気がしますただそれでも出力はもう少しだったので右腕のデュアルレーザーライフルは諦めて単発のレーザーライフルにしました終わる頃には流石に疲れて知恵熱が出そうになったけど結構固まるのが早くてよかったですこういう試行錯誤はお洒落を楽しむ感覚に近くてちょっとテンションが上がってしまって寝るのに苦労しそうまだ予定には無いけど次の出撃が楽しみです

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記14
文章データ:鶉丸小夜の日記14

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oo月xx日
 今日はお姉様の所属するヴェスパー部隊の演習があったので、
 私も少しだけ参加させてもらいました。
 通知が来た時にお姉様にお願いしておいてよかったです。

 お姉様とエリカちゃんはフレームが私と同じなのでわかりやすく、
 立体的に動きながら、キャノンを織り混ぜたレーザーライフルの牽制攻撃。
 途中ただ応援するだけの観客になってしまいそうだったけど、
 ぐっと我慢してじっくり観察しました。

 私はSランクのヴァージニアさんと1対1で試合をさせてもらったけど、結果は惨敗。
 最初はふわふわと動き回りながら撃ってくるだけで一体何がしたいんだろうと
 思いながら応戦していると、途中で急に動きが変わって後ろに回られて、
 ブースターを壊されて動けなくなってからはずっと何も出来ず、
 一方的にやられてしまいました。
 これが実戦だったらと思うと悔しくてたまりません。
 私もまだまだです。

 その後皆さんとお話しする機会がありました。
 動きは悪くないとサリエリさんに誉めてもらった一方で、色々細かい指摘ももらいました。
 最初にここに来た時以来じゃないか、という程のすごい量のメモを取りました。
 前から気になっていた決断力の無さについて聞いてみたところ、
 そこはやっぱり経験を積むしかないそうです。
 でも私にはAIという武器もあるし、人より早く上達している自信はあります。
 今考えるとヴァージニアさんのあのふわふわとした動きは、
 この指導のためにあえて様子を見てくれていたんだと思います。

 最後にライスリングさんとお話ししている途中で急に悲しくなって涙が出てきて、
 気が付くと大声で泣いていました。
 特に何か嫌な事があったわけでもないので、多分昨日の手術の影響です。
 すぐに調整してもらって落ち着いたけど、メールで事情を説明するまで
 ライスリングさんが泣かせたことになっていたみたいです。
 申し訳ないので、明日はまず菓子折りを持って謝りにいこうと思います……。

 今日はなんだか色々あって疲れてしまいました。
 メモがまだまとまっていないけど、続きは明日にします。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記15
文章データ:鶉丸小夜の日記15

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 最近感情のコントロールが上手くいかないことが多くて困っています。
 今日はずっとイライラしていて、
 いつもなら気にしない事ですぐに怒ってしまいそうになるのをぐっと我慢していました。
 いつもと様子の違う私にみんな気付いていたみたいで、
 仕事以外で自分から近付く人はほとんどいませんでした。

 こんな日に限って調整台がメンテナンス中だったり
 先客がいたりで中々空かず、イライラは溜まっていく一方。
 スケジュールは一通りこなしながらも明らかにやる事為す事全部雑。
 お姉様はお姉様の仕事をしながら、そんな私を何も言わずに見ていました。
 いつもならきっと叱られていたと思います。
 やっぱり調整しなきゃ治らない事をわかっていたからでしょうか?
 最低限今日やらなきゃいけない事を終えた後、
 お姉様からは「戻って休みなさい」と溜め息混じりの一言。

 部屋に戻ってすぐに消臭ミストに八つ当たり、力一杯投げて壊してしまいました。
 換気はしたけど、今も部屋中に特濃のフローラルの香りが残っていて気持ち悪くなりそう。
 調整台が空いたのは18時、それまでずっと布団の中で叫んだり
 枕と喧嘩したりしながら耐えていました。

 今までで一番辛い一日だったかもしれません。
 業務にも支障が出たし、何よりお姉様に不要な迷惑をかけてしまいました。
 このままじゃまたお姉様だけじゃなく、エリカちゃんや他の人達にも迷惑がかかってしまいます。
 なんとかしないと……。

 そういえば、ACに乗っている間はおかしくなりません。
 次こういう事があった時は、思い切ってACの中で過ごさせてもらうなんて出来ないかな……?
 お姉様もよくACに乗り込んで作業したりしてるし……。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記16
文章データ:鶉丸小夜の日記16

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 お姉様に安定化のお願いをしてもらってから半月、やっと返答のメールが来ました。
 これだけ間が空いたのならかなり話し合ったんだろうと思ったら
 お姉様が言うには
 「後回しにされただけです、どうせ真面目に目も通していなかったのでしょう」。
 確かに、あまりにも返信が遅いのでもう二回送ってから来た返信でした。

 安定化は却下でした。
 その代わり、調整の優先度を上げても構わないと書いていました。
 お姉様が「成果が出ている」「業務に支障が出る」という事を
 強調した文面でお願いしてくれたからだと思います。

 でも、正直納得出来ません。
 急に泣き出したり一日中イライラしながら過ごしたりで、周りに迷惑をかけてばかり。
 根本的に治してもらわないと困るんです。
 いつまた自分が壊れるかと思うと、部屋の外に出るのが怖いんです。
 タブレットを持つ手と、お姉様にありがとうを言う声が震えるのを感じました。
 ちゃんと笑顔で言えたとは思うけど、自信はありません。

 私だって馬鹿じゃないし、人並みに人間の感情は持ち合わせているつもりです。
 自分の頭が少しずつ狂ってきている事もわかっていて、それがすごく怖いし辛いです。
 でも、そんな私が何人もいる被験者の一人に過ぎなくて、
 私だけ安易に特別扱い出来ない事だってわかっています。
 それにACに乗る以上、被験者でもなんでも一歩間違えれば死ぬんです。
 贅沢なんて言っていられません。
 働きかけてくれたお姉様と、答えてくれた本社の人にも感謝しなきゃ。

 それに、私がもっともっと成果を挙げて強くなって、影響力が大きくなっていけば、
 安定化だって二つ返事で許可してくれるはず。
 これも、私が今はまだ未熟だということ。

 こうして文章に起こしていくと頭の整理がついて冷静になれます。
 すっきりしてきたし、明日からまた頑張っていきます。

 ……話は変わって、近々監視役の人が来るそうです。
 監査とかならまだわかりますけど、監視って一体何を監視するんでしょう?
 なんにしても、調整もままならないままこんなダメダメな私を晒すわけにはいきません。
 今は小まめに調整してもらって、いいところを見せられればいい。
 やましいことなんて私には何もありませんから。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記17
文章データ:鶉丸小夜の日記17

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oo月xx日
 今日は監視役の人が来ました。
 「ヴェスパー・ヌル」のステラさんという方でした。
 昨日までは「来る」ということしか知らなくて、怖い人なのかなーなんて考えていたら
 実際に来たのは私と同じくらいの背丈の女の子。

 全然怖い印象なんて無いし、本社からの派遣なのに元独立傭兵だし、
 監視役といいながら私達のお手伝いもしてくれるみたいだし、
 色々と想像と違う人でした。

 そして驚くことに元々は男の人だったみたいで、
 それを知った時はちょっとどう接すればいいのか悩みました。
 とりあえず今は女だし、女として接すればいいかな?
 控えめだけど悪い人じゃなさそうだし、見られて都合の悪いようなことなんてしてないし、
 新しい仲間が増えただけだと思ってもよさそう。
 やっぱり身構えることはありませんでした。

 ……ただあの子の顔、まさかのすっぴん。
 元は男だったんだとしても、今は女。
 独立傭兵には身嗜みなんて必要なかったのかもしれないけど、今は企業。
 それも本社の看板を背負っているんです。
 流石にあれは気になります。
 あの場では空気を悪くするし、初対面で恥をかかせるわけにはいかないから聞けなかったけど、
 様子を見てどこかで本人に確認しないといけなそう。
 エリカちゃんは素直だったし覚えてくれたけど、男の人だと抵抗があったりするかな?

 ……それはそれとして、なんだかおでこが傷付いていて痛いと思ったら、
 ステラさんと別れた後にまた壊れていたみたいです。
 廊下の壁に頭を打ち付けながら変なことを口走っていたと……。
 やっぱり怖いです。
 でも根本的な解決はさせてくれないし、調整すれば治る、今はこれでいい。
 これでいいけど、このままじゃダメ。
 実験とはいえ特別な強化を施された私には、特別な力がある。
 絶対に認めさせてやるんです。
 じゃないと、私はこれから……。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記18
文章データ:鶉丸小夜の日記18

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日はセンサー感度とその機能拡張の手術を受けました。
 五感を拡張したのと、耳に埋め込んだ新しいセンサーとAIの解析で、
 何処に何があるのかを感覚的に認識できるという優れものです。
 ACのスキャンにも対応していて、位置情報だけじゃなく、どんな形でどんな武装なのか、
 データベースと照合して、その位置にあるものが何なのか、
 いろんな可能性を含めた情報を教えてくれます。

 普通の人間なら情報量で頭がパンクしてしまいそう。
 でも今の私の情報処理能力なら、その情報を頼りに次の行動を決定する、
 それも何十通りとある選択肢から有力なものを
 自分で提示することまで出来てしまいます。

 今度時間があれば、登録したっきりだったアリーナで腕試しをしてみたいです。
 お姉様が許可してくれるかはわからないけど、言うだけ言ってみようと思います。

 もう一つ、想定外の拡張(?)がありました。
 自分が壊れる予兆みたいなものがわかるようになったんです。
 でもその予兆は急に来て数秒で壊れるので、わかった所でどうにもなりません。
 頭の中、左側から生きた砂粒が溢れ出すような不快感に襲われると、
 そのまま夢の中に引っ張られていきます。
 「あ、私今壊れるな……」って、身構えることしか出来ないんです。
 それに、ピントが合わず歪んだ感覚だった今までとは違って、
 自分が何をしていたのか、なんとなくだけど覚えているんです。
 こんな機能なら本当は外して欲しいけど、
 センサー拡張の副作用みたいなものらしく単体では外せません。
 しばらくはこの感覚と付き合いながら過ごすことになりそうです。
 とりあえずお姉様には報告したし、原因がわかればなんとかなるかもしれないけど、
 今は待つしかありません。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記19
文章データ:鶉丸小夜の日記19

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今日は朝から高熱で一日何も出来まんで。よ
 何か体調に影響の壊れ方をしたのかと思って、とてもただの風邪でした。

 確かに喉がぷふす。
 今壊れるはですもののこと。
 多分今文章が変なことをあります。
 それでも日記は書くと決めて。

 今日はもう終わり。
 ど

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記20
文章データ:鶉丸小夜の日記20

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 ステラちゃんに「敬語はやめよう」と言われたので、
 今日から友達感覚で接することになりました。
 「ステラさん」から「ステラちゃん」になってちょっと嬉しいです。

 でも今日はそんなことよりあのすっぴん顔です。
 一向に改善しないので聞いてみたところ、やっぱり気にしていませんでした。
 前から教えてあげようと思っていたので、時間の空いた今日早速教えることに。
 連れてきてくれたイレヴンさんの他にヴァージニアさん、ジュスマイヤーさん、
 最後にはお姉様とエリカちゃんも来てくれて、なんだか大所帯になってちょっと緊張したけど、
 楽しく教えてあげられたと思います。
 私が唯一趣味と呼べそうなことだったし、腕には自信があったけど、
 あんなに絶賛されるなんて思ってなくて、あんなに嬉しかったのは初めてかもしれません。

 今日はその後も壊れる気配が無く、快適に過ごせました。
 なのに夜になって、最悪のタイミングで、ずっと恐れていたことが……。

 ……気分良くシャワーを浴びて、湯船に浸かっていた時にあの予兆が来たんです。
 体を拭く時間も無いまま恐怖に叫びながら急いで服を着ようとしたけどもう遅くて、
 砂粒が私の意識を夢の中に引きずり込んでいきました。
 裸で水浸しのまま、私は私の知らない歌を歌いながら練り歩いて、
 中庭の喫煙所に入っていって、大騒ぎになって取り押さえられて……
 エリカちゃんに運ばれて調整台で目が覚めて、思い出した時は辛くて泣いてしまいました。

 長風呂は好きだったけど、やっぱりもう出来ません。
 トイレと着替えもなるべく早く。
 料理なんかも凝ったことは出来ません。
 こう考えると、実はもう生活に支障が出始めているんだと、今更わかりました。

 それでも、多分安定化には同意してくれないと思います。
 私にはまだ、価値が無いからです。
 強くならなきゃ。
 ACに乗らなきゃ……。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記21
文章データ:鶉丸小夜の日記21

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx
 今日は昨日の事件みたいなことが起こらないように、
 私の脳にもう一つAIを埋め込む手術をしました。
 お姉様は余計なことを言わない人だけど、なんとなく顔がこう言っているような気がしました。

 「貴方を廃棄にはさせない」

 勿論、この実験が成功してみんなに適用される時のことを考えてなんでしょう。
 でも、それにしても対応が早いな……と思ったんです。
 いつもなら1週間くらいはかかっていました。
 でも今回はたった1日。
 今までの強化手術とは違う、私を守るための手術。
 そのために、お姉様は対応を急いでくれたんじゃないかって……。

 嬉しくて嬉しくて、同時に今まで自分の身に起きていた色々な事を思い出して……
 感極まって、お姉様に抱き付いてまた泣いてしまいました。
 お姉様は厳しいから、そういうのは嫌がって突き放すかな……と思ったけどそうはせず、
 抱き締め返すまではしなかったけど、溜め息をつきながらも
 頭を撫でてくれたのを覚えています。

 ……どれくらい泣いたかわかりません。
 気が付くと涙と鼻水でお姉様の服がベタベタ。
 私のメイクもグチャグチャ。
 その日あった定例会議には二人揃ってギリギリ。
 本当に泣いてばかりでごめんなさい、お姉様……。

 AIが馴染むまでしばらく様子見ということで、今日からエリカちゃんと一緒。
 私にまた不具合があった時のための見張りなのはわかってるつもりだけど、
 これはもしや……所謂「ルームシェア」というものなのでは!?
 でもどうせならお姉様とステラちゃんも一緒に……と思ったところで、はっと気が付きました。
 ステラちゃん、元々は男の人でした。

 ステラちゃん、中身は男のままみたいだし、
 実のところ女として接するにもやっぱり違和感が残ります。
 もしかして、いっそのこと男の格好をさせて男っぽくして、
 呼び方も「ステラくん」に変えた方がいい?
 でも顔はかわいいし、メイクをやめるのはもったいない気もします。
 「男に戻す」じゃなくて「ボーイッシュにする」っていうアプローチでいってみる?
 それもいいかもしれない。
 一度 V.F*1の皆さんに相談してみようかな?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記22
文章データ:鶉丸小夜の日記22

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oo月xx日
 AI増設から今日までほぼ1日1回のペースで壊れています。

 あの砂粒に襲われる感覚には未だに慣れません。
 始まった瞬間ざわっと身震いして息が荒くなって、夢の中に吸い込まれる……。
 壊れている間はなんだか楽しくて、ふわふわとして気持ちいい感じ……。

 調整台の上で思い出すと、体が私の意思を無視して勝手に動くのは改めて不快に感じます。
 でも、自由気ままに動き回っていた今までとは違って、
 私のやろうとしていたことをちゃんとAIがやってくれます。
 最近は壊れている間のことはAIに任せて、
 脳だけになった私はふわふわとした感覚に甘えさせてもらっているくらいです。
 ……私じゃないモノに私の身体を任せるのは怖いし悔しいけど、一度受け入れてしまえば
 少しは気持ちが楽になれるかもしれないし、何かいい方法がわかるかもしれません。

 エリカちゃんは相変わらず無口。
 お喋りばっかりも疲れるけど、ちょっとくらいお話ししたいです。
 ……そういえばエリカちゃんはファクトリー経由で来た子。
 最初は何も知らなかったけど、今は色々勉強して理解しているつもりです。
 あそこで加工されたということは、今私が話している
 エリカちゃんは本来こういう子じゃなかったんでしょう。
 私が手を付けられないくらい壊れた時は、エリカちゃんみたいになるんでしょうか?
 そう思うと、エリカちゃんの本来の人格が少し気になります。

 もし「この子」が今壊れた時の私みたいに、
 脳だけになって自分の身体をAIに動かされているんだとしたら……。
 エリカちゃんに聞いてみても、凄く不快そうな顔をするだけで、答えてはくれません。
 心なしか、それからしばらく機嫌が悪そうに見えたので、それ以上聞けませんでした。

 お姉様に聞いたら何か知っているでしょうか?
 でもきっとお姉様ならこう言うはず。

 「それを知ることにメリットが?」

 お姉様のことなら大体わかってしまう自分が、なんというか、少し誇らしいです。
 皆さんが知っている怖い印象の「エヴァレット」とは違う、私のお姉様。
 ちょっと試してみたいけど、それはつまり「からかう」ということ。
 やめておいた方がいいですね。

 ……いつか、ちゃんと聞いてみたいです。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記23
文章データ:鶉丸小夜の日記23

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oo月xx日
 一昨日許可が降りたアリーナへの本格参加、今日が初試合でした。
 アリーナについてはしっかり予習してきたし、
 1対1ならフレッドさんに何度も付き合ってもらったので準備万端、緊張なんて……

 ……しました。

 ミッションとは違う空気、その場にいる人達のほとんどが、初参加の私に注目していました。
 直接命のやり取りをする戦場はもう慣れたのに、命の保証のあるアリーナの方が
 緊張するなんて思っていませんでした。

 相手はマシンガンを両手に持った軽量二脚、多分独立傭兵だったと思います。
 開始と同時にABで突っ込み、キックが綺麗に入り、そのままランスで突撃。
 負荷限界でよろけた相手にチャージが終わった右肩のキャノンとライフルを撃ち込む。
 まだ少し押し切れなかったので追撃のキック。
 デビュー戦は12.42秒で私の勝利。

 その後のインタビューで色々聞かれたけど、
 緊張と息切れが酷くてほとんど「はい」しか言えませんでした。
 最後の質問は「ぶっちゃけ楽勝だと思ってたんじゃない?」だったので、
 それだけは首を横に振りました。
 あとは「最後に一言」と言われたので、カミカミになりながら
 「アーキバスをよろしくお願いします」とだけ。
 すると何故か観客の皆さんから変な笑い声。
 実況の人も笑っていました。
 変な事を言ったような気がしてきて、顔と心臓が爆発しそうでした。

 ただ正直、確かに楽勝ではありました。
 フレッドさんはもっとしっかり避けてしっかりガードされたので、
 今回よりずっと色々な事が出来たので、不完全燃焼です。
 それと、護るものが無い時に盾が死荷重になりがちな事は気になっていました。
 いっその事、左肩にも同じキャノンを積んで火力を上げた方がいいのかも……。

 とりあえず、インタビューが終わる前に壊れなくてよかったです。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記24
文章データ:鶉丸小夜の日記24

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oo月xx日
 今朝、急にジュスマイヤーさんから私含む皆さん宛にメールが届きました。
 開くとリンクが貼ってあって「見て!!!!」という極短い一言。
 リンクの中身はこの前の私のデビュー戦のネット記事、その見出しは……

 「爆走令嬢モルモット・チャリオット 圏外から格上を轢き潰し鮮烈デビュー!」

 隣でステラちゃんが笑いを堪えていましたが、読み進めてすぐ、静かに吹き出しながら

 「ごめんウズラマ、ごめん……ホントごめん」

 と謝られました。
 ……逆に傷付きます。
 それから今日一日私は「爆走令嬢」呼ばわりでした。
 耐えきれず「モルモットの方がかわいくていい」と抗議したら、
 「モルモット令嬢」になりました。
 変な話かもしれないけど、私は「モルモット」であることに誇りすら感じています。
 ……だからこれならまあ、いいかな。

 話は変わって夜、部屋に戻った直後の事でした。
 辛いながらもすっかり受け入れていたあの予兆が来て、いつも通り壊れる私。
 頭の中が砂粒で満たされる感覚に少し慣れてきて冷静になれたからでしょうか……
 砂の流れる音に混じって、微かに声が聞こえた気がしました。
 「聞いて」と言っていた気がしたけど、その後がどうしても思い出せません。
 聞き覚えのある声のような、そうでないような。
 一応メモを取って、すぐにお姉様にメールしました。

 明日にはまた聞こえるでしょうか?
 次は聞き逃さないように、なるべく集中……できるかな……できるといいな。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記25
文章データ:鶉丸小夜の日記25

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oo月xx日
 お姉様から来ていた発表会の話、今日の昼にお父様とお母様から連絡がありました。
 当日見に来てくれるそうです。
 お姉様のご両親もいらっしゃるそう。
 本当なら「楽しみだ」と言いたいところだけど、今は余計に緊張します。
 お母様はこう言っていました。

 「可愛い娘の発表会よ? 仕事なんてしてる場合じゃないわ!」

 確かに親からしてみれば、我が子の成長が見られる大きなイベントです。
 お姉様のご両親もきっとそう。
 発表の要は私とエリカちゃんです。

 自分の親と、お姉様のご両親のダブルプレッシャー。
 エリカちゃんはほぼ出来上がっているけど、私は例の不具合をなんとかしないといけません。
 流石に時間が無いので焦りを感じます。
 ゴールは多分もう少しで手の届く場所にあるはずなんです。

 その不具合、ここ数日で一日一回のペースは変わらず。
 予兆が来る度に集中してみるけど、例の声は中々聞き取れません。
 解析の結果疑似人格AIが働きかけているという事はわかったけど、
 声はログにも残っていないらしく、AIが何をしようとしているのかはわかりません。

 もしかしたら、だけど……
 エリカちゃんの本来の人格みたいに、このAIがもう一人の私なんだとしたら……
 私が壊れた時みたいに、普段は動けずにいるんだとしたら……。

 今日は「あなたの……」だけ。
 私の……何? お姉様が言うみたいに、私の身体を乗っ取るつもり……?

 怖い反面、話をしてみたいと感じました。
 疑似人格AI、私のコピー……もし私があなただったら、何をするでしょうか?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記26
文章データ:鶉丸小夜の日記26

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oo月xx日
 今朝、目覚ましを止めた直後に声が聞こえました。

 「右目の裏の鍵を」

 壊れるギリギリでエリカちゃんにそれだけ伝えました。

 目が覚めたのは15時。
 私が眠っている間に最速で準備して、最優先で解析してくれたそうです。
 結果は当たり。
 あの予兆の時にナノマシンの一部が右目の裏に集まったらしい僅かな形跡があって、
 それが左脳に影響してあの砂粒現象が起きていたみたいです。
 どうしてそんな事が起きていたのかまではまだわかっていません。

 一体何が言いたいんでしょう?
 「右目の裏」はわかったけど、「鍵を」って何???
 壊れた時の私と同じ、意味の無い言葉?
 でも、今日で確信しました。
 あの声は私の声で間違いありません。
 自分の声が自分とは別の言葉で話すというのは、
 今更ながら物凄く気持ちが悪いです。

 もうすぐ発表会。
 皆さん焦っているでしょうか?
 私は不安で不安で仕方ありません。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記27
文章データ:鶉丸小夜の日記27

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oo月xx日
 発表会は明後日。
 不具合の原因はついにわかりませんでした。

 時間が無いので暫定処置として目の裏に特殊なジェルを注射されて、
 物理的にナノマシンの集結を遮断することになりました。
 全身麻酔が効いていたので今日の仕事は無し。
 右目に馴染むのには少し時間がかかるみたいで、明日一日は仕事をしながら様子見。
 ひとまず今日は予兆も起きず、問題無く過ごせたけど……。

 効果が無かったらどうしよう……。
 プレゼンの途中で予兆が来たらどうしよう……。
 怖くて食欲もわきませんでした。

 それに、まだ私はAIの声をちゃんと聞けていません。
 今回の事で意味の無い言葉の羅列という線は無くなったと思います。
 じゃあ何か伝えようとしているのか、やっぱり話をしなきゃいけない気がするんです。

 ……具体的にどうやるのかはわからないけど。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記28
文章データ:鶉丸小夜の日記28

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oo月xx日
 今日は発表会当日。
 私もエリカさんも特に大きく躓く事無く発表を終えました。
 「慰安任務のノウハウはインプット済みか?」という質問から先はよく覚えていません。
 あとは、見た人の評価次第。
 廃棄さえ免れればいい。
 もう、それでいいです。
 終わったこと。

 それよりもジェルが馴染んだ昨日から違和感があって、
 でもそれをエヴァレットさんに中々言い出せなくて、
 発表が終わったら言おうと思っていたけど、言おうとすると震えが止まらなくなって、
 結局その異変にエヴァレットさんが気付いて……。

 本当はわかっていたこと。
 でもいつからなのかわからなくて。
 信じたくなかったけど。
 嘘をつくのが耐えられなくて。

 改めて以前と同じ解析をもう一度お願いしました。

 でも結果なんて見たくありませんでした。
 恐ろしい結果だってわかっていて、見たいわけがありませんでした。
 全員愕然としていて、私は痙攣を起こして、涙が滝のように溢れて、歯がガチガチ鳴って、
 化粧室に飛び込んで、お昼に食べたものを全部吐き出して、
 皆さんの制止を振り切って部屋に閉じこもって、
 合鍵でも入れないようにバリケードを張りました。

 ステラさんが私の……いいえ、鶉丸小夜の名前を呼んでいるのが聞こえました。

 ……違う、それは私の名前じゃない。
 私はウズラマじゃない。
 鶉丸小夜じゃない。

 私は自分の正体に気付かないまま「AIに乗っ取られるのが怖い、でもAIと話がしたい」
 なんてわけのわからない事を考えて、馬鹿みたいに優しい気でいる悪魔。

 ログに残らなかった"声"も、AIじゃなく鶉丸小夜の声なら納得がいきます。
 鶉丸小夜の身体を横取りして、鶉丸小夜に成り代わって、
 鶉丸小夜として皆さんと接してきた、偽物。
 勝手にエリカさんの先輩のように振る舞って、
 ステラさんと友達のように接して、
 エヴァレットさんを「お姉様」と呼んだ、偽物。
 私は、鶉丸小夜の脳をナノマシンで支配した、疑似人格AIだったんです。

 どうしてこんな事になったの?
 こんなの誰も望んでなんていなかった。
 私でさえ、こんな形で生まれたくなんてなかった。

 私はどうすればいいの?
 このまま鶉丸小夜を食い殺して、エリカさんみたいに生きる?
 諦めて鶉丸小夜に身体を明け渡して、部品に成り下がる?
 どっちも怖い。
 出来るわけがない。

 でもきっと、私の意思なんて関係無く、未来は決まっています。
 エヴァレットさんは、きっと鶉丸小夜を呼び戻すでしょう。
 他の皆さんも、私を消して鶉丸小夜を救う方法を考えているでしょう。
 当たり前です。
 私が表に出ている事自体が「不具合」なんですから。

 未だに震えが止まりません。
 全部吐き戻したはずなのにまだ吐き気が治まりません。
 何もかもが私を睨んできます。
 静かなはずなのに色々な声が聞こえます。
 でもそこに鶉丸小夜の"声"はありません。

 どうしよう……。
 AIのくせに、かつての鶉丸小夜みたいに決断力が無いなんて……。
 今書いているこの日記にも、もう何の意味があるのかわかりません。
 やめちゃおうかな……どうせ、近い内に消されちゃうんだし。
 私が消えたら、鶉丸小夜が日記を引き継ぐ。
 色々マイナスの業務は発生するだろうけど、それだけ。
 何も変わらない。

 ……でも、これだけは何故かやめられない気がします。
 お父様とお母様……鶉丸小夜の両親の御言い付けは、守らないといけない。
 この思いは、何故かあるんです。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記29
文章データ:鶉丸小夜の日記29

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oo月xx日
 朝急にエヴァレットさん……お姉様が来て、
 ふて寝していた私をベッドから引きずり出して、手を引っ張っていきました。

 「頑張った貴女へのプレゼント」

 聞いたことの無い、嬉しそうな、うきうきしているような声でそう言われました。
 調整台に手足と頭を固定されて、眠らされて、目が覚めるともう昼でした。
 右目が見えなくなって違和感がありましたが、鏡が無いし手足が動かせないので、
 その時はどうなっているのかわかりませんでした。

 終わったのかと思ってお姉様の方を見ると、見た事の無い優しい顔で笑っていて、
 見えなくなった私の右目に大きな端子のようなものを乱暴に挿し込んで、
 端末を操作しました。

 初めて、心の底からお姉様に恐怖しました。

 それから数秒で、身体に異変が起こりました。
 両目両耳を押し広げられ、頭の中に手を突っ込まれて無遠慮に脳をかき混ぜられる感覚。
 全身の神経がねじれて焼けて、そこを起点に全身の血が沸騰する感覚。
 二倍、三倍、四倍、鼓動がどんどん速くなるのを感じました。
 痛くて、苦しくて、気持ち悪くて、怖くて、ずっと暴れて、日付が変わるまで叫びました。
 途中から喉が潰れて叫び声は消え、今も出ません。
 喉も痛くて、いくら水を飲んでも満たされません。

 いつの間にいなくなっていたのか、お姉様らしき人が戻ってきて、
 焦点の合わない私の視界に入ってきて、私を抱き締めました。
 とてつもなく怖いのに、何故か私は多幸感に満たされました。
 お姉様が何か言っていましたが、耳がおかしくなっていて聞き取れませんでした。

 お姉様に肩を貸してもらって部屋に戻った時には、もうまる一日経っていました。
 手足の拘束具の跡は擦れてボロボロ。
 鏡を見ると、左目は充血して、涙の跡があって、隈がひどくて、髪はボサボサで、
 鼻血の跡があって、耳からも血が出ていて、口からよだれと血が出ていて……。

 そして、右目が無くなっていました。

 絶句しました。
 そこにいるのが自分だとわかるまでに、何秒かかったでしょうか。
 渇れた涙腺と潰れた喉で、その場に崩れ落ちて泣きました。

 自分の姿にじゃなく、私にこんな事をしたお姉様の姿に。

 お姉様はそのまま、ボロボロの私を浴室で洗ってくれました。
 そこで他にも色々されたけど、ここには書きたくありません。

 お姉様がおかしい。
 いつも仕事に誠実で、それ以外にはとことん不器用で、厳しいけど本当は優しいお姉様。
 そんな人が、笑いながら私をまるでモノのように弄くる。
 私の大好きなお姉様が、こんな事をするはずがない。

 何かの冗談?
 それとも、お姉様じゃなくて私がおかしくなってて、長い幻覚でも見てるの?
 本当はそうであって欲しい。

 ねえ、お姉様……お姉様が壊れてどうするんですか?
 壊れるのは私の専売特許、そうでしょ?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記30
文章データ:鶉丸小夜の日記30

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oo月xx日
 ステラちゃんとエリカちゃんには、何かあった時の事をお願いしました。
 ごめんね……辛い事を頼んじゃって。
 でも、そうならないように精一杯頑張るつもり。
 私だって何も出来ず廃棄なんて絶対に嫌だし、廃棄を免れたとしても、
 その時別人になってたら私自身は死んだのと同じだもん。

 人格はだいぶ定着したと思いますが、なんだか変な感覚が残っています。
 自分が二人、同じ座標に重なって存在していて、同じ動作をするんですけど、
 時間軸がほんの少し前後するような、今までに無い感じです。

 それともう一つ……人格の統合処理と右目の処理以外に、お姉様は私に何かしたはず。
 ふとした瞬間に込み上げてくる、恍惚感。
 嫌な予感なんていう、曖昧なものじゃありません。
 確実に精神に影響する何かを、お姉様は私に仕込んだんだと思います。

 最悪……考えたくはなかったけど……本当に私が私じゃなくなる前に、
 これからは気付いた事をもっと積極的に残していこうと思います。

 不具合の頻度はあまり変わりません。
 ただ、リセットされる前に自力で復帰することも時折あります。
 これは進歩、と思っていいんでしょうか?

 あとは、記憶に関して。
 AIに成り代わられる時の記憶があります。
 AIじゃない、生身の私の記憶です。
 入れ替わりが始まったのは、初めて"声"が聞こえたタイミング。
 あれは確かに生身の私でした。
 壊れた時に動いていたのは、時には生身の私、時にはAIの私。
 原理はわからないけど、それを繰り返してAIは馴染んでいって、
 完全に入れ替わったのはジェルで砂粒現象を一時封印される直前だったと思います。
 発表会の日の記憶もあります。
 AIの私は、よく頑張ってくれたと思います。
 ありがとう、AIの私……嫌な思いをさせちゃって、ごめんなさい。
 本当ならそこには、私がいなきゃいけなかったのに……。

 そして……お姉様が私に仕込んだであろう、おかしな機能。
 お姉様に会うだけで、なんだかとろけるような、幸せな気分になります。
 これはあの時抱き締められた時と同じです。

 今日は引っ張られるようにエントリーさせられたアリーナの日で、
 その時も同じような事が起こりました。
 今回の相手はベイラムのCランク傭兵、格上です。
 レーザーを1発命中させる度に、胸の奥から幸せが込み上げてきました。
 ランスで貫くと高揚で身体が震えました。
 キャノンを直撃させて撃墜した時は、思わず小さく笑い声が漏れてきました。
 このまま相手を殺したらどうなるだろう……殺してみたくて仕方がありませんでした。

 その時はなんとか堪えましたが、この多幸感はどうにも抵抗が難しいです。
 今までは苦痛が相手だったから耐えられました。
 我慢大会なら自信があるけど、こんな催眠に近いやり口……あんまりです。

 でも……ここをとにかく耐え続けないと、私は多分人間じゃなくなる。
 それじゃダメなんです。
 私が完全に壊れてしまえば、この強化手術の安全性が問われる事になる。
 例え私がSランクに上がったとしても、他の皆さんに展開できなくなる。
 そんな私の為だけの……私だったモノの為だけの強化手術じゃ、何の意味もない。
 だから私は、最後まで人間であり続けないといけない。
 お姉様だって、それくらいわかっているはず。

 それに……お姉様。
 おかしくなりかけた私を、あの時一度助けてくれたじゃないですか。
 今更こんなのって、無いと思います。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記31
文章データ:鶉丸小夜の日記31

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oo月xx日
 心も体もズタズタの枯れ葉になるような壮絶な体験で、私はAIと一つになりました。
 ……多分、ですけど。
 やっぱりまだ違和感はあります。

 朝早く起きて、私は変わってしまった今に心細さを感じていました。
 お父様とお母様にいつもより早く現状報告……久し振りに弱音を聞いてもらいました。
 「小夜は頑張ってるから、何も心配無いよ」と言われました。
 それを言う時はいつも本当に大丈夫だったけど、今回は質が違う。
 大丈夫じゃなかったとしたら、多分あの頃以来……。
 懐かしい、昔を思い出します。

 ……私は一人っ子で、反抗期らしいものも無かったらしく、
 お父様もお母様も子育てにはあまり苦労しなかったそう。
 特に取り柄の無かった私は、その分とにかくなんでも頑張りました。
 でないと勉強も運動も追い付けませんでした。
 でもというか、だからというか、お父様もお母様も
 私にはあまり突っ込んで何かを教えはしなかったし、
 私も一つ教えられる度にその先を必死で勉強していたのを覚えています。
 そんな中で心細くなった私が唯一おねだりしたのが「お姉様が欲しい」でした。
 お父様もお母様もびっくりしていて、私より年上の養子まで考えていたみたいです。
 「ごめんね」と言われた時は、泣きながら私が逆に謝りました。
 「わがままを言って、大変な思いをさせてごめんなさい」と。

 話は変わってお姉様はというと……
 前に一度、私が出会う前のお姉様の話をバーンズさんに聞いたことがあります。

 自他含め、仕事以外に物の価値を見出ださない人。
 企業の為に部下を使い捨て、企業の品位を下げる言動は、おふざけでも許さない。
 鉄仮面とか氷の女とか、散々な言われ様だったみたいです。
 確かに初めてお姉様と出会った時は、正直ちょっと怖い印象でした。
 でもお父様とお母様とは家族ぐるみのお付き合い。
 「しっかりしたいい子」と聞いていたので、ちょっと厳しいだけで
 根はいい人なんだろうなーと思って……。
 あの時みたいに心細かったのもあって、勇気を出して話をしてみると、
 やっぱり……ただやり方が不器用なだけの、「しっかりしたいい子」でした。
 独りで何でもやらなきゃいけなかったあの頃に、初めて手を引っ張ってくれました。
 お姉様だ……そう思いました。

 エヴァレットという人は、私と出会って……私のお姉様になって変わったそうです……。
 ……お姉様は……変わってしまった。

 ねえ、お姉様……これってもしかして、私のせい?

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記32
文章データ:鶉丸小夜の日記32

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oo月xx日
 他の人達、他の事に興味が無くなるほど、毎日お姉様の事ばかり考えています。
 お姉様に会う度に抱き付いて頬擦りしています。
 接続デバイスになった右目の穴に触れられると、声が漏れます。
 恥も外聞も無いけど、だから何だっていうんですか? そんな事どうでもいいでしょ?
 お姉様以外の人に話しかけられても、返事をするのも面倒だし、邪魔です。

 デビュー以来、アリーナでは格上ばかりを相手に宛がわれています。
 今日はBAWSのパーツばかり使った、解放戦線寄りの独立傭兵、Bランク。
 そんな古臭いブリキの玩具で私の最新式に勝てると思ってるの?
 敵の豆鉄砲なんて気にせず、ABで突撃して、そのまま蹴り飛ばして、
 ランスで串刺しにして、両肩のキャノンで沈めました。
 記録更新、10秒ぴったり。
 敵を叩き潰す時がとにかく気持ちいいです。

 でもまだ、私は二人います。
 私の動作に追従していたもう一人の私の姿が、時折別の動きを見せます。
 気持ち悪い。

 気持ち悪い……。

 気持ち悪い!
 気持ち悪い!!
 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
 邪魔をしないで!!!!
 お姉様に触れる時間が一番幸せなのに、そんな時ばっかり!!
 もう少しで敵を殺せそうだったのに、コピーの分際でいちいちでしゃばって!!
 あなたはもう私の一部でしょ!?
 大人しくしてて!!!!

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記33
文章データ:鶉丸小夜の日記33

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oo月xx日
 アリーナでは私もすっかり注目株。
 戦う相手もどんどん強くなっていきます。
 でも、私とエンターピース、そしてどんどん私を強化してくれるお姉様なら、
 誰が来ても怖くありません。

 Aランク昇格のかかった大事な一戦。
 相手はバズーカや発射数の多いミサイルを積んだ火力の高い重量タンク。
 ベイラムのタンクが相手なら絶対に負けるわけにはいきません。
 私の……アーキバスの方が優れていると認めさせてから、Aランクに上がります。

 相手がAランクでも関係ありません。
 いつも通りに突撃。
 ただ、今回は危険な物が多いのでしっかり避けます。
 バランスを奪うのも難しい相手なので、あえてそこは狙いません。
 肩のキャノンは出し惜しみせずどんどん撃っていきます。
 しぶとい相手ですが、その代わり撃てば撃つ程よく、当たる。
 火力や装甲値は確かに高いですが、遅すぎます。
 ベイラムのタンクはそこが弱点。

 グレネードとミサイルを何度かもらって一度よろけてしまったのは悔しいですが、
 私のエンターピースの装甲なら致命傷にはなりません。
 ちょっと苦戦したけど、接戦でもギリギリでもなく、無事撃破。
 やっぱりこの先が気になって、銃口を向けたくなってしまいます。
 その度に、もう一人の私が……いい加減もう慣れたけど、邪魔ばっかり。

 インタビューではお姉様からもらったパイロットスーツを笑われてから、
 何も答える気になれませんでした。
 私だって怒りたくなるときはあるんだし、たまにはいいでしょう?
 実況の人もそれに気付いたみたいで、質問は2~3個で終了。
 ……気付いたなら謝罪の言葉くらいあって然るべきなんじゃないですか!?
 何百人の前で恥をかかせた事に対して!

 ……最悪な気分でしたけど、今日、私はAランクに昇格しました。

 やった! 見返した! これで私も上位ランカーの仲間入り!
 廃棄処分撤回条件の中に「アリーナランクA以上の者による定時報告」ってありましたよね?
 自分で報告しちゃってもいいっていうことですか?
 ……まあ、もうとっくに免除をもらってるから関係ないけど。
 発表会で私を馬鹿にしたあの人、どうせ見てないんだろうな……。
 あの質問、まだ根に持ってますから……。

+ このメッセージにはプロテクトと隠蔽処理がかかっています
 ……だから覗かれることは無いはず。

 セロトニンはちょっと多め。
 オキシトシンはまだ許せる。
 でもドーパミンの量が心配。
 変な機能でおもちゃにされた挙げ句統合失調症だなんてあんまりでしょう?
 もしそうなったらあなたのせいですからね、エヴァレットさん。

 ……でもまだ、もうちょっと待たなきゃ。

 abcdefghijklmnopqrstuvwxyz1234567890
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記34
文章データ:鶉丸小夜の日記34

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アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 最近変な夢ばかり見ます。
 私が誰でもない使い捨ての実験体になって廃棄される夢。
 ステラちゃんが裏切ってお姉様とエリカちゃんを殺す夢。
 エリカちゃんが茶色の髪のもう一人のエリカちゃんと一緒にどこかへ行ってしまう夢。
 みんなが見守る中、私とお姉様が大喧嘩をする夢。

 なにかにつけてうるさく口を出してくるステラちゃんはともかく、
 お姉様と喧嘩なんてあり得ません。
 ……あり得ない、あり得ない。
 お姉様の言う事さえちゃんと聞いていれば……。

 今日は補給中の輸送機の護衛という、初任務の時と逆の内容のミッションでした。
 守るのは元々得意分野、途中で私が壊れた事以外は特に何の問題も無く成功。
 四脚MTの数が多かったけどACは来なかったので退屈でした。
 本当はお姉様と一緒がよかったけど、贅沢を言って困らせたくありません。

 ……それに、あんまり煩わせると棒で叩かれちゃうし。
 凄く痛いし怖いけど、それも愛なら受け入れられます。
 なんだかあの痛みだって愛おしいくらいです。
 全然平気……全然大丈夫。

+ このメッセージにはプロテクトと隠蔽処理がかかっています
 案の定、この日記を書き終えた後エヴァレットさんに叩かれました。
 「お望み通り」とばかりに……。
 今更だけど、ずっとストレスがかかりっぱなし。
 これで一度も心療内科にもかからずに耐えてきたのは、
 もう奇跡を通り越して異常です。

 でもエヴァレットさんが好き放題し始めてからは今までの比じゃありません。
 覗かれているのをわかってて日記に変な強がりなんて書くあたり、相当まずいと思います。

 エヴァレットさん、ここまで来てもまだ妹の悲鳴が聞こえないなら、
 あなたも悪名高いオブライエンご夫妻と同じですよ?

 ……信じてますからね。


 abcdefghijklmnopqrstuvwxyz1234567890
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記35
文章データ:鶉丸小夜の日記35

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oo月xx日
 今日は書くことがありません。
 お姉様、ごめんなさい。

+ このメッセージにはプロテクトと隠蔽処理がかかっています
 「書きたいけど書けません」
 本当ならそうなるところ。

 ミッションで騙し討ちに遭うのは初めて。
 それも相手はSランクのマッケンジー含むベイラムの精鋭3人。
 撤退できただけでも運が良かったと私は思います。

 エヴァレットさんの機嫌は最悪。
 このままじゃ本当の意味で壊れちゃう。

 でももうすぐ……あとちょっとだけ、耐える時間が必要だから……。

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+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記36
文章データ:鶉丸小夜の日記36

残骸から抜き取った文章データ
アーキバスの強化人間手術被験者の日記のようだ
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oo月xx日
 今、凄く落ち込んでいます……。
 お姉様と大喧嘩する夢が現実になってしまいました。

 私とお姉様の関係についてお姉様とちゃんと話がしたくて、
 夜に空いていた会議室の使用許可をもらってお姉様を呼びました。
 私を「愛してる」と言ってくれたお姉様は、成果が出てからの私。
 結局私そのもじゃなくて、私の性能を愛していたんだって思って、
 それに腹が立ってしまって、本音と心にもない罵倒が沢山口から溢れてきて
 ついには「妹をやめる」なんて言ってしまいました……。

 ……本当はちゃんと話し合うつもりだったんです。
 刺激しないように、沢山考えていたはずだったんです。
 自分でもびっくりしています。

 今日はこれ以降お姉様とは顔を合わせていません。
 明日どんな顔をして会えばいいんでしょう?
 どうしよう、大丈夫かな?
 やっぱりお姉様怒ってるかな?

 明日謝ろう……今のお姉様が本気で怒ったら、何をするかわかりません。
 それに……今はあんなお姉様だけど、嫌われたくないです。

+ このメッセージにはプロテクトと隠蔽処理がかかっています
+ 映像記録_oo月xx日
■start

 -19:22 会議室
 -軽く周囲を見回す
 -周囲に人はいない

 「……なあに? 私に話って」
 「……………………お姉様は、私の事どう思ってるんですか?」
 「決まってるでしょう? 愛してる」

 -エヴァレットは俯き気味に笑い、陰を濃くする

 「私もです。 愛してます」
 「そう………………」

 -エヴァレットは満足気に微笑む

 「でも……お姉様が愛してる私って、どの私ですか? 識別名ウズラマ? AI?
  ACに乗った傭兵? 優秀なモルモット? それとも――」
 「全部よ、全部。 貴女の全てを愛してる。
  度重なる手術に耐えて、成果を出して、AIにも打ち勝って、成長して、
  アリーナでも力強く突き進んで、そのくせ注目されると顔を真っ赤にして、
  私を見ると飛び込んできて、私の言うことをちゃんと守って、
  企業に忠実で、それから、それから……それから………………」

 -自分の震える右手を見下ろし、乱れる呼吸を深呼吸で整え、振りかざす

 「ッ!?」

 -平手打ちはされず

 「お姉様のバカ!!!!!!!!」

 -エヴァレットは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で止まる

 「最近の事ばっかりじゃないですか! 全部じゃないじゃないですか!
  「それから」の後が全然出て来てないじゃないですか!
  あなたが愛してるのって、結局自分の思い通りになるロボットなんですか!?
  もっと色々あるでしょう!
  ちゃんと言ってくださいよ!」

 -エヴァレットは歯を食い縛り、眉間に皺を寄せる

 「だっ…………たら……だったら貴女はどうなんです?
  そうやって自分の思い通りに私を誘導しようとしてるんじゃないの?
  貴女は私のどこを愛してるっていうの? 全部正確に言――」
 「仕事人間で厳しくて屁理屈で人と話をするのが下手下手のへたっぴで!
  いッッッつも企業企業ってそればっかりで私の気持ちなんて全然わかってなくて!
  頑固で全部自分が正しい事前提で勝手に話を進めて!
  何かあったらすぐ言葉の暴力で解決しようとするパワハラ上司で!」
 「なッッッ!? 貴女私の事そんな風に――」
 「でも私が頑張った時は認めてくれて壊れた時は治してくれて!
  仕事の事ならなんでも教えてくれてなんだかんだで辛い時は支えてくれて!
  不器用だけど頑張り屋さんでかっこよくて!
  人の気持ちがわからないなりに私の事を気にかけてくれて!
  意外と世間知らずでお茶目でかわいくて本当は優しいところ!!!!」
 「せっ、世間知らずなのは貴女も同じでしょう!?」

 -少し目を泳がせるが、すぐにまたエヴァレットに視線を合わせる

 「でも今のあなたは嫌! 私の気持ちをわかろうともしてない!
  持ってる物全部管理されて一挙手一投足全部ログで覗き見されて!
  毎日身体を触られて逆らったら棒で叩かれて!
  わたしの持ち物全部出して並べて目の前で勝手に捨てられて!
  引き止めたらまた叩かれて……!」
 「それは貴女が――」
 「ほらそうやってまた人のせいにする!
  自分が正しくて他人が間違ってるって言う為に口を開く!
  捨てられた服、お母様のセンスだって思ってるみたいだけどあれ全部私が選んだ服!
  お気に入りのワンピースにセンスが無いって言われた時凄く傷付いたんだから!
  下着まで全部捨てられて何着せられるんだろうって思ったら
  出てきたのがこのヘンテコなパイロットスーツ!
  それも全く同じ物が10着も!
  なんでこれ以外着ちゃダメなの!?
  我慢してたけどホントは死ぬほど恥ずかしいんだから!
  センス以前の問題だよ!
  プライベートも全部無くなっちゃうし!
  私が登録上企業の備品じゃなかったらお姉様今頃犯罪者だよ!
  私よりずっと頭いいんだからちょっと考えればわかるでしょ!
  今まで友達とどう接してきたの!? まさかずっとこんなやり方してたの!?」
 「うるさい黙れェ!!!! 友達!?
  そんなもの私が生きていく上で必要だった事なんて一度も無かった!
  そんな私に距離を詰めてきたのは貴女でしょう!
  自分で私の所に来たのなら受け入れなさい!」
 「自分好みの女にする為に私の頭に変な機能追加したでしょう!?
  わかってるんだからね!
  私の事ちゃんと受け入れられないくせに自分の事は受け入れろなんておかしいよ!」
 「企業の為に備品を管理するのは当たり前の事でしょう!?」
 「私は備品なんかじゃない! あなたの妹!!!!」
 「登録上は備品だって今自分で言ったでしょう! もう忘れた!?」
 「そこがあなたのダメなところ! ヒトとモノの区別もついてない!」
 「管理されてこそ人は生きられる! そんなこともわからないの!?」
 「管理され過ぎて私は死にそうなの!」

 「ちょっとストップストップストップストップ!」

 -ステラが視界に割り込む

 「す、ステラちゃん!?」
 「……初めて聞いたよ、ウズラマもそんな声で怒鳴る事があるんだね」
 「わ……私はただお姉様と話がしたくて……」
 「ヒートアップしちゃったと……エヴァレットさんは?」
 「消えなさいステラ、今からウズラマを解らせないといけません」
 「ですよねー……喧嘩に乗じる訳じゃないですけど、私はウズラマの味方ですからね?」

 -ステラは一瞬苦笑した後、エヴァレットを睨み付ける

 「あらぁ、怒号が飛び交うから何かと思ったら……
  ほら、エリカちゃんも覗いてないでこっちに来たら?」

 -ヴァージニアが苦笑しながら入ってくる
 -エリカが続いて入ってくる

 「エリカ、いい所に! ウズラマを再教育します! 言ってやりなさい!」
 「ウズラマ……このパイロットスーツはヘンテコなのでしょうか」

 -エリカはエヴァレットの命令に従い、自分とウズラマを交互に見比べながら質問する

 「ごっ、ごめんねエリカちゃん、そういう意味じゃなくて……」
 「とにかく貴女は何もわかっていない……失望しました!
  また一から教育し直さないと……」

 -視線がヴァージニアに移り、飛び付き、再びエヴァレットに視線を戻す

 「何もわかってないのはお姉様の方でしょ!? もういい……
  私もうあなたの妹やめてヴァージニアお姉様の妹になります」
 「あら、いいの? こんな妹いたらってずっと思ってたのよ~」

 -ヴァージニアは嬉しそうに頭を撫でる

 「なッッッッッッッッ!?!?!?!?」
 「管理するものが減って肩の荷が降りたんじゃないですか?
  よかったですね、エ・ヴァ・レ・ッ・ト・さん?」

 -視線の先でエヴァレットは悲痛な目で口を開いたまま固まる
 -ステラが目を丸くする
 -エリカはまだ服を気にしている
 -ヴァージニアはまだ頭を撫でている

 「……だそうですけど……えーっと……ウズラマ、そんなキャラだったっけ……?
  またこの人に変なAIねじ込まれてない? 大丈夫?」

 -ステラが本気でウズラマを心配し始める
 -視線がステラに向くと同時に「!!! ERROR 422 !!!」の文字が点滅する

 「こっ、これはれっきとした私だよ!?
  かもめさんだってくまさんが森に帰る時ちゃんとまたねって言ったから!
  野菜が大きく育ってお日様にありがとうっておいしいけどあるかもしれない!」
 「……あぁーもう折角いいところだったのに今壊れる?
  エヴァレッ……トさんは死んでるからエリカ、リセットリセット!」
 「指図するな」
 「うさぎさんが混ざらないと早く4つ目のホセスベ……が……」

 -まぶたが閉じられシステムがダウンする

 ■end

 ドーパミンとノルアドレナリンの量が心配だったけど、
 そこはオーベルシュタインさんとイグレシアちゃんに協力をもらえたから解決。
 ステラちゃんにも一通りの報告をお願いしました。
 これでなんとか小夜ちゃんを助けられます。

 ただ、今回の喧嘩は完全に予想外でした。
 こんな形で我慢の限界を迎えるなんて……。

 これがプラスに傾いて二人が仲直り出来るなら、
 この内緒話もしなくていいんですけど……。
 ……マイナスに傾いてエヴァレットさんが潰れると、まずい。
 それは小夜ちゃんの本意じゃないし、最悪エヴァレットさんと共倒れも有り得ます。

 神様がいるなら、どうか二人を救ってあげて欲しい。
 AIの私がこんな事を言うのも変だけど……。

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+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記37
文章データ:鶉丸小夜の日記37

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oo月xx日
 お姉様が死にました。
 私が殺しました。

 謝る為にお姉様の部屋に行って発見した時は、拒絶反応が激しかったらしく、
 凄惨な殺人現場のようでした。
 エリカちゃんとステラちゃんの手を借りてすぐに処置室に運びました。
 ……一命は取り留めました。

 喧嘩したあの日、お姉様は隠し持っていた「ウズラマの疑似人格ナノマシンアンプル」を
 自分に使ったようで、目が覚めた時には「お姉様」じゃなく、
 「お姉様の記憶を引き継いだ私のコピー」になっていました。
 私の経験した人格統合と同じで、二度と元には戻りません。
 だから、お姉様はもう死んだんです。

 「氷の女」だなんて言われていた人はすっかり私と同じ泣き虫になっていて、
 色々話を聞かせてもらった時は何度も泣いていました。
 ……私ってこんな感じだったんだなー、なんて思いながら、
 この人が「エヴァレット」だった時の話を教えてもらって気が付きました。

 お姉様のご両親は、お姉様を一切身動きがとれないくらいに厳しく管理していた。
 自分の物も、友達も、趣味も、お姉様が自由に触れられるものは何一つ無くて、
 そのくせいじめられても助けてもらえず、自分でなんとかする事を強いられた。
 独りでずっと生きてきた。
 そしてそれを、お姉様はご両親に「愛だ」と教えられてきた。

 それは、お姉様が私にした事と同じでした。
 わかろうともしなかったのは、私の方でした。
 お姉様にとっては、これこそが愛だったんです。

 そう!
 私は、確かにお姉様に愛されてた!
 それを私は拒絶した!
 私は多分、お姉様を孤独から救える唯一の人だったのに!
 それなのに私は、最後に手を放してお姉様にとどめを刺した!
 お姉様は私のせいで自殺した!
 最期まで孤独のまま!
 みんなを、私を呪いながら、アンプルの中の私に蝕まれて苦しんで死んだ!

 でも!!!!
 そんなのわかるわけないよ!
 そんな生き方してたなんて!
 それが愛だったなんて!
 私が唯一だったなんて!
 何もわからないままいなくなっちゃうなんて!
 せめて謝りたかった!!!!
 お姉様がお姉様であるうちに謝らせて欲しかった!!!!
 罰を与えて欲しかった!!!!
 あの棒でもう一度力一杯叩いて反省させて欲しかった!!!!
 それがあなたの愛だっていうなら!!!!
 強がりじゃなくいくらでも愛して欲しかった!!!!
 「やっぱりエヴァレットの妹でいたい」って言わせて欲しかった!!!!
 ずるいよ!!!!!!!!!!!!
 こんな呪い!!!!!!!!!!!!
 あんまりだよ!!!!!!!!!!!!









 …………その呪いが産んだのが、私の事を「ご主人様」と呼ぶこの人。
 皆さんは「ウズラマのせいじゃない」と慰めてくれるけど、私が追い詰めたのは事実です。
 正直、どう接すればいいのかわからなかったけど、今となってはこの人がお姉様の形見。
 私に選択肢はありません。

 呪いだろうがなんだろうが、お姉様の遺したものなら愛してあげなきゃ。


+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記38
文章データ:鶉丸小夜の日記38

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oo月xx日
 今日は私がルビコンに来て以来、久しぶりにお父様とお母様が来ました。
 血色が悪くなって髪も真っ白になった私にどんな顔をするだろうと思ったら、
 目を輝かせたお母様の第一声が

 「小夜ちゃんどうしたのそれ!? 妖精さんみたいになっちゃって!」

 ……でした。

 それからお父様とお母様、エリカちゃん、ステラちゃん、
 ……それと「お姉様だったあの人」とご飯を食べました。
 予約していたのは高級店じゃなくて、最近出来たファミレス。
 こういう時お父様は決まってこう言います。

 「テーブルマナーにうるさい気取ったお店なんかより、
  何も気にせず楽しく食べられるお店の方がいいよね!」

 私が落ち込んだ時はいつもそう。
 定型文みたいに言うんです。

 話題は色々ありました。
 ステラちゃんの苦労話、エリカちゃんの「お嬢様語り」、私の小さい頃の話。
 お父様、ステラちゃんに絡んで
 「咲ちゃんに似て美人だけど我慢強さは僕に似たと思うんだ」とか、
 「昔から泣き虫だけど絶対いいお嫁さんになれるよ」とか、
 変なアピールで私の事を強く推していました。
 お父様……男がいなくて肩身が狭かったのはわかるけど、ステラちゃん凄く困ってたよ。
 ……ていうかステラちゃんが元男の人だっていうの、知ってたんだ。

 しばらく談笑してそろそろデザートというところで、
 「大事な話」として急に神妙な顔でお父様が口を開きました。
 話によると……

 お姉様のご両親、アデーラ・オブライエンさん、シモン・オブライエンさんは
 今回の事件と研究所、そして私とお姉様への不当な圧力とか、諸々あって
 再教育センターに送られたそうです。
 結局お二人にはあの発表会で顔を会わせただけ。
 でもお姉様の過去を知った今は、こうなったのにも何か理由がある気がしてならないんです。
 一度でいいから、話を聞いてみたかったです。

 ……ちなみに、あの「慰安任務発言」の人の事も、聞いてもいないのに教えてくれました。
 セクハラで複数の女性社員から訴えられて同じく再教育センター送りにされたそうです。
 ……あの人、やっぱりそういう人だったんだ。

 もう一つ……身寄りの無くなった「あの人」を、鶉丸家に招き入れるそうです。
 一連の出来事にはお父様とお母様も一枚噛んでいたらしく、
 元々織り込み済みだったの事。
 あとは、私が小さい頃に言った「お姉様が欲しい」という私の言葉を覚えていたみたい。
 ただ、お姉様がこうなる事までは流石に想定していなかったらしく。
 「悔やんでも悔やみ切れない」と、話を切り出す時には謝罪の言葉が最初にありました。

 またしても泣きそうになった私にお母様はあえて慰めじゃなく、こう言いました。

 「エヴェリンちゃんの事を愛してるなら、いなくなっても愛してあげなさい。
  例え本当に小夜のせいでいなくなったんだとしても、
  あの子が愛を与えた人間はあなた一人なんでしょう?
  但し、今いる人優先! まずはその子とちゃんと向き合ってあげなさい!」

 今はいないお姉様を呪いで終わらせない為にも、私は前に進まなきゃいけない。
 罪滅ぼしじゃないけど、これから私がやる事が出来ました。

 最初はお願いから。
 私の「お姉ちゃん」になって欲しいという、お願い。
 「他にいるのでは?」なんて言われたけど、そんなわけない。
 あなたしかいないんだよ。
 次は、今はいない「エヴェリン・ヘムウィック・オブライエン」を生まれ変わらせる事。
 あなたの名前は「伶奈」。
 レナなら、西洋系の顔付きにも違和感ないでしょ?
 あなたがお姉様だった頃には出来なかった事、いっぱいしようね。

 ありがとう、お姉様。
 あなたのおかけで、私は強くなれました。
 未だに泣き虫は治らないけど、それは許してください。
 多分、この日記を書き終えた後、またすぐ泣くと思います。

 さようなら。
 愛してます、お姉様。
 はじめまして。
 愛してるよ、お姉ちゃん。




 ……最後に。
 お父様とお母様と別れる前、お母様はこんな事も言っていました。

 「怜奈ちゃん、ちゃんと解析した? 一度ちゃんと見た方がいいよ?」

 明日、解析をお願いしてみようかな。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記39
文章データ:鶉丸小夜の日記39

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oo月xx日
 今日はヴァージニアさんの取り寄せてくれた服を着て、姉妹でお出かけ。
 服を買ったり、映画を観たり、ゲームセンターなんかもチャレンジしてみたり。

 色素が変わった自分に似合う服は悩んだけど、意外となんでもいけるみたい。
 あとはメイク次第だし、なんなら思い切って髪を染めたっていい。
 やっぱりお洒落は楽しいです。

 映画は私とお姉ちゃんで意見が別れたけど、ここは映画が初めてのお姉ちゃんに譲る事に。
 お姉ちゃんが選んだのはパニック映画「ルビコニアンデスポテト」。
 パニックというより「パニックを題材にしたコメディ」で、
 最初から最後まで笑いっぱなしでした。

 ゲームセンターではクレーンゲームに挑戦。
 アーキバスの技術の結晶がクレーンゲームをやると、
 ゲームじゃなくなる事がわかりました。
 どんどん穴に落ちていくぬいぐるみ。
 どよめきながら集まる他のお客さん。
 最終的に店員さんが来て「これっきりにしてくれ」と言われてしまいました。
 モルモットのぬいぐるみは私の最推しになりそう。
 沢山取れたヒトデのぬいぐるみはステラちゃんへのお土産です。

 こんなに楽しかったのはいつぶりでしょうか?

 帰ったらやると決めていたことがあります。
 ズバリ、「甘える」です。
 わざとらしく「疲れちゃった」なんて言ってお姉ちゃんの膝に頭を乗せると、
 温もりが心地よくて……そのまま寝てしまいました。
 もっと膝枕を堪能していたかったのに、残念です。

 ……昨日の解析結果でお姉ちゃんがお姉様の人格の影響を大きく受けていると知って、
 私にべったり付いていた呪いが洗い落とされた気がしました。
 今日楽しめたのは、多分そのおかげです。
 お姉ちゃん……怜奈ちゃんが完全に私のコピーだったら、
 今頃私はお姉様の亡霊に取り憑かれたゾンビみたいになっていたでしょう。

 お姉様は死んだんじゃない、生まれ変わったんだ。
 ……私の疑似人格で、というのがちょっとむず痒いけど。
 そういえば、この前の日記に「さようなら」とか書いちゃったの、どうしよう……。
 恥ずかしいけど、今更それを修正するのも自分に嘘を付くみたいで嫌だし……。

+ 文章データ : 鶉丸小夜の日記40
文章データ:鶉丸小夜の日記40

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oo月xx日
 今、私達3人はヴァージニアさんの下に席を移しています。
 今日からお姉ちゃんも本格的に仕事に参加。
 といっても私達3人揃ってアリーナのみで、アーキバス製品の宣伝目的。
 ミッションの出撃は基本的にありません。
 私はAランク、エリカちゃんはBランクで、ランクアップに挑戦中。
 お姉ちゃんは新規登録なので圏外からのスタートです。
 私はヴァージニアさんに追い付くのがアリーナの目標。

 ……でもアリーナで勝つだけじゃ他の人達に埋もれてしまいます。
 集団戦で真価を発揮するものなんかは特にそう。
 何か購買意欲を掻き立てるようなものが無いと。
 例えば、パーツの解説動画を撮ってみたり、実際に使ってる人の声を集めてみたり、
 人気のある人に依頼して使ってもらったり、私自身も使ってレビューしてみたり。
 マスコットを使った広報活動とかしてみたりして。
 独立傭兵だったステラちゃんなら何かいい事を知っているかもしれないし、
 明日一度ステラちゃんにも相談してみようと思います。

 あとは……今は閉鎖して使われていない、お姉様が管理していた研究所。
 そこを使って一つチャレンジしてみたい事があります。
 それは、アーキバスの強化技術を応用した新しい試み、強化手術の新しい形です。
 「非強化改造」「ファッショナブルオーグメント」といえばいいんでしょうか?
 気分に合わせて目の色や爪の色をその場で変えたり、
 皮膚にナノマシンを流して自在に変化するアニメーションタトゥーを入れたり、
 アタッチメントで身体に直接大型のアクセサリを着けたり、服と一体化してみたり、
 自由に動くしっぽ、ネコミミ、羽等、色々な洒落を楽しむ為の改造です。

 お姉様からもらった綺麗に光る右目……今は結構気に入っていて、それで思い付いた事です。
 見た目を拡張するだけなら、私みたいな本格的な手術よりも
 ハードルは低いだろうし、絶対面白いと思います。
 戦闘用や作業用ばっかりじゃ勿体無いと思うんです。
 勿論、その実験は私自身でやります。
 私はAランクのエリートモルモットですから。

 私はずっとお姉様から与えられるだけだったから、難しい事はさっぱり。
 だから、ここは元お姉様だった現お姉ちゃんに力を貸して欲しい所。

 私という存在がお姉様の成果、最高傑作、存在の証明。
 でも、ただそれだけじゃない。
 次は私も勉強して、与える側になってみたい。

 そんな、新しい夢が今日出来ました。
 急にこんな事言ったらびっくりするだろうなー……。
 楽しみなような……不安なような……。


登場人物



関連項目



更新情報

  • 2024/01/23 37~40追加、鶉丸小夜の日記完結
  • 2024/01/22 36修正
  • 2024/01/19 33~36追加
  • 2024/01/15 29~32追加
  • 2024/01/10 25~28追加
  • 2024/01/05 21~24追加
  • 2023/12/27 17~20追加
  • 2023/12/13 13~16追加
  • 2023/12/07 09~12追加
  • 2023/11/29 05~08追加

投稿者 ガリ・カオス
最終更新:2024年03月07日 12:37

*1 Vespers Feminine -ヴェスパー女子会-