持込君物語

登録日:2018/02/13 Tue 18:35:18
更新日:2023/12/12 Tue 21:34:03
所要時間:約 7 分で読めます





マンガ界に僕という名の、期待の新星登場だ!





持込君物語とは「ギャグマンガ日和」のシリーズ物の一つ。
名前の通り漫画の持ち込みがテーマで、漫画家志望の青年が描いた漫画を漫画雑誌の編集者が評価する話。
ギャグマンガ日和では夢野カケラシリーズといった漫画家をテーマにした話があるが、
連載中の漫画について電話越しで相談するのに対して、こちらは全くの素人が描いた只の落書きを雑誌編集者が直接ツッコミを入れる面接のような形式で話が進む。
比較すると、夢野の作品は独りよがりな展開や伏線放置などの低クオリティが目立つものの、曲がりなりにも漫画としての最低限の体裁は保っていたことがわかる…かもしれない。
初心者にありがちな作画ミスの数々や商業誌に載せる上での留意点、
持ち込みのマナーといった漫画家志望の人にとっては主人公を反面教師として見るといいかもしれない。


【登場人物】

●持込高志(持込TAKASI)
主人公。19歳。GBからは20歳になる。
漫画家の卵でマンガ界に革命を起こすべく上京する。
しかし単なる意識高い系で実力はからっきしであり、
  • 商業誌に載せるのに不十分な低い画力
  • 少年誌なのに女性キャラばかり登場させる
  • 拙い台詞回し
  • やたらとアニメ化・グッズ化といった商業主義に拘る
等デビューするには力不足である。
編集者のダメ出しや母親のフォローに対して素直に聞き入れず、
一々反論したり辛辣な事を言われるとすぐ泣き出す等、かなり子供染みた性格であり向上心は皆無に等しい。
仮にこのままデビューさせたら第二の夢野になる事は間違いないだろう。


●母親
持込君の母親。 過保護な性格で息子のことを「たっくん」と呼んでいる。
毎回同伴で編集部に来て編集者のコメントを聞いて持込君に突っ込みを入れる。
また同行する理由は交通費の都合や編集者のコメントをしっかり聞く為もあるが、
1番の理由は持込君が自分が居ないとまともに話せなくなる所謂場面緘黙症*1であるからと思われる。


●編集者
持ち込み作品の添削を担当する編集者。
持込君の漫画を冷静な対応で当たり障りのないようにアドバイスする。
夢野カケラの担当みたいにデリカシーのない発言や非常識な行為をしないお人好しな性格だが、
それが災いして持込君の自己顕示欲を促進させてしまい深く後悔する。


【持ち込み作品一覧】

●ラブファイト! 来夢(11巻収録「第212幕 いざ東京!持込君物語」)
記念すべき一作目。自称テコンドー美少女来夢(らいむ)が活躍する格闘漫画。
少年誌なのに女の子が主人公である事を突っ込まれる*2所から始まり、作画のクオリティの低さを指摘される。
1話目にして持込君の実力の無さが露呈される。

◇問題点
  • 左向きの顔は安定しているが、右向きになると作画崩壊を起こす。
  • アングルが少しでもズレると亀みたいな首になる。
  • 効果線を描きすぎて硬直した状態で凄い勢いで動いているように見える。
  • 肝心のバトルシーンは化け物同士の取っ組み合いに見えて何が起こっているのか伝わらない(編集者曰く「病気の時ののような殴り合い」)。
  • バックドロップをかけるシーンで何の脈絡も無く謎の男と不思議生物が登場
    (持込君曰く「アニメ化を意識すると女性ファン獲得のためにイケメンは必要」「動物キャラはグッズ化しやすい」)デビューしてもないのに商業主義に走っている。
  • 持ち込み作品(つまり一話完結式が普通)なのに最後は「つづく」で締めくくる。


●鎌倉メロディ(14巻収録「第276幕 持込君物語~二作目~」)
神奈川県鎌倉市を舞台に女子高生のガールズバンドが活躍する音楽漫画。
今作ではいい加減な取材や建物や器物のトレースに対する意識がメインに描写される。
ちなみに作中では指摘されていないが、扉絵からして「今初まる青春グラフティ」という誤字をやらかしている。

◇問題点
  • 鎌倉のシンボルである大仏が女座りしながら手を前に出している。
  • 江ノ島がファミコンのグラフィックみたいになっている。
  • 江ノ電も適当なデザインで某クイズ番組のイラスト伝言ゲームのように理解される有様。
  • 楽器のデザインや構え方も全て想像で描いている。
以上の件に対して持込君は「何でも見て描いたら実力がつかないから」(要はトレパクは絶対に許さないからしたくない)と言い訳している。

  • 肝心のライブのシーンは謎の風圧で会場を盛り上げるだけであり迫力が無い。
  • 台詞の方も一言が長すぎて読みにくい(本人曰く「セリフには一日の長がある」)。
  • 例によってアニメ化等の商業主義によって決め台詞「ぶっちゃけはっちゃけちゃえばいいじゃん!」を4回も連呼する。

これには編集者も前回から全く進歩していないと呆れ返る。
終いには正社員でもないのに取材の旅費を請求してきた。


●グルメファイト明美(15巻収録「第302幕 持込君物語~第3作~」)
料理コンテストで優勝を目指す少女達の奮闘を描いたグルメ漫画
画力の件は勿論だが、今回は台詞の拙さがメインに描写される。

◇問題点
  • グルメ漫画という事で料理を如何に美味しく見せるかがポイントであるが、
    肝心の画力の低さに加えて前後の台詞だけで何の料理なのかを説明するだけでありわかりにくい。
  • 盛りつけ用の器が深めの丼であり側面しか見えない。
  • 調理台が宇宙船のコックピットみたいであり、ガスコンロのがものすごい勢いで炎上している。
    (持込君曰く「料理の時火ってすごい出ることある*3から」)
  • 料理コンテストでは工夫点をアピールするのも肝なのだが、「ミディアム」「オリーブオイルを入れる」といったごく普通の行為で工夫になっていない。
  • 審査員のコメントが「ほうじゅんな〇〇が口の中に広がる」とワンパターン。

最後に「何を描くにしてもちゃんと勉強して下さい。知識が無いならそれを埋める努力が必要ですね」と指導されて添削は終了する。
母親が「料理のこと教えてあげるから描き直したら?」とフォローしたその直後「お母さんレベルの料理がマンガになると思わんといてほしい」と反論。
そして「うちはお金持ちじゃないからレストランとか行けてない」、
「僕の漫画はアニメ化した時に面白さが発揮される」「水掛け論はもう十分」と言い訳してキレてしまう。


澤穂希物語(GB2巻収録「第32幕 持込君物語」)
まさかの実在人物のサクセスストーリー。
持ち込みでノンフィクションを題材にした為早々に「なんでコレ描こうと思ったのかな……?」と突っ込まれる。
そもそもタイアップというのは編集部側と元ネタの関係者が企画して行われるものであり、
描き手側の自己判断だけで描く持ち込み作品でやるべきではない*4

◇問題点
  • まず自分が描きたい世界を描くオリジナルストーリーが要求される筈の持ち込み作品で、
    実在するアスリートの半生を描いたノンフィクションがテーマであり、持ち込みのマナーから一脱している。
    本人曰く「人と違う物描かないと生き残れない」「今僕が描きたい世界を描いた」だが、編集者は他の人が描かない物を狙ってこれを描いたように感じた。
  • 冒頭からWikipediaで軽く調べたようなプロフィールをサッカーをしながら紹介する。
  • ユニフォームのボトムスが何故かスカート。
    本人曰く「そういうのは試合に直接関係無いところだから……。調べるとこは調べてるんで揚げ足とらんといてほしい」必要不必要の取捨選択の条件が相当ズレている。
  • 肝心の試合内容も支離滅裂で、他の選手とのチームワークを蔑ろにして澤1人でゴールを決めている。
  • ゴールを決めた時に「誉れ高き穂希シュート!」「日の丸せおって澤ほ丸ってね」と実際の澤選手とは随分とかけ離れたキャラ崩壊をしている。
  • 決勝戦に至ってはドリブルをしながら相手チームを蹴散らすといったスポーツマンシップに欠けた行為をしながらヘディングシュートでゴールを決めて優勝。
明らかに試合内容を無視して描いている為、全然調べていない事が露呈されている。
  • 最後は「澤穂希の戦いはこれからも続く」と打ち切りみたいに締めくくる。

もはや澤選手に対するネガティブキャンペーン以外何物でもない問題作。漫画のレベル以前にこんなものを世の中に送り出したら出版社は一発で大炎上だろう。
編集者は「主人公の名前さえ変えちゃったら全部オリジナルでいけちゃいますけどね」とフォローしたのだが、
持込君は「いけちゃいます」の部分を採用が決定したのだと勘違いして、次の作品の執筆に取り掛かる為に即座に撤収してしまう。


いけるってそういう意味で言ったんじゃないのに……!


因みに今回は持込君1人で編集部を訪れたのだが、
何故か無口であり編集者の質問に対してもまともに答えなかったので早めに切り上げようとした。
ところが母親が登場した途端に今まで通りのキャラに戻り漫画の添削が始まるという異様な光景を見せた。


【余談】

作者の増田こうすけ氏はこのシリーズのような持ち込みではなく、赤塚賞への投稿&受賞で漫画家デビューを果たしている。
しかもデビューまでの流れが

初めて専用のペンを買い、まともに完成させたマンガを赤塚賞に投稿
最終選考まで残る

「あれで最終選考なら、もうちょっと良いやつが描けるはずだ」と、もっと頑張った作品を投稿
→赤塚賞・佳作

担当がついたがネームを送っても反応が無かったので、再び赤塚賞投稿を決意
前作・前々作で「行き当たりばったり」の評価をもらっていたため、最初からストーリーのある歴史を題材に漫画*5を描く
→赤塚賞・準入選

その後、担当のアドバイスを受けつつ描いた「なめられペリー」が連載会議を通り、『ギャグマンガ日和』連載決定

……と、ビックリするほどトントン拍子。色んな意味で持込君とは真逆である。才能の化物……!
このおかげで本人も準入選を取ったあたりで「何でマンガのことだけこんなうまくいくんだ」「もうマンガ家になるしかない」と決意することになったのだとか。
ちなみに、2020年には漫画家になるまでの自伝漫画も出しているのだが、あまりにも華々しいイベントやトラブルがなさすぎてほとんど本人がビビりながら愚痴っているだけの内容になっている。最大の挫折が「名古屋に上京したら原付の前輪盗まれてビビって実家に逃げ帰った」という漫画家と一切関係ないトラブルなあたりお察しである




編集者「ひと通り項目を見ましたが、やはり乱文が多いのがネックですね。
    こことか吐き気を催す邪悪というワードを多用しすぎてます、
    いくら非道なキャラクターでも好きな人だっていますからこのような表現は良くないと思いますよ」
母親「ほらたっくん、やっぱり読む人の気持ちをちゃんと考えたほうがいいってよ」
高志「そんな事言ったってダメなものはダメなんだよ! そのような奴は徹底的に弾糾しないといけないの!!」
編集者「とりあえずアニヲタwikiの項目は当たり障りない文章が求められていますので、文章を書く練習をもっとして下さいね」
(ガタッ)
母親「あっ! ちょっとたっくん、どこ行くの?」
高志「糞項目を叩き直す為に追記・修正するんだよ!!」
母親「今日はどうもありがとうございました、息子もああ言っていますので項目の登録をお願いしますね」

(ガチャ)


編集者「そんなこと言われても………(運営に怒られるよ~!)」

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • ギャグマンガ日和
  • 持ち込み
  • 漫画家
  • 作画崩壊
  • 持込高志
  • 持込君物語
  • マザコン
  • コミュ障
  • 画伯
  • 澤穂希
  • あるあるネタ
  • 反面教師
  • 黒歴史ノート
  • 芳醇な香り
  • ラブファイト!来夢
  • 鎌倉メロディ
  • グルメファイト明美
  • 澤穂希物語
  • ダメ人間

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年12月12日 21:34

*1 会話自体は可能だが、特定の状況では上手く言葉が出せなくなる不安症

*2 もっとも、コロコロイチバン!掲載の「わざぼー」、週刊少年ジャンプ掲載の「約束のネバーランド」、週刊少年サンデー掲載の「舞妓さんちのまかないさん」、週刊少年チャンピオン掲載の「侵略!イカ娘」「あまねあたためる」「マジカロマジカル」など、女の子が主人公の少年漫画は少なくはないが

*3 所謂フランベの事。酒類を鍋に入れて旨味を引き出す際に一瞬炎上する事

*4 肖像権の侵害や名誉毀損になる可能性があるので。

*5 ギャグマンガ日和1巻収録の「夢 -赤壁の戦い-」