見るなのタブー

登録日:2018/06/11 Mon 13:30:06
更新日:2024/09/10 Tue 15:14:00
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「見るなのタブー」とは、世界各地で見られる創作の典型の一種である。

概要

「見るな」と言われるとかえって人間はそれに興味を抱いてしまうもの。
「見てはいけない」「開けてはいけない」とされたものに対し好奇心を抱いたばかりに取り返しのつかない結果を招いてしまった神話は世界中に存在する。

「触れてはいけないもの」に対し、みだりに触れないようにすることはある意味では人々が平穏に生活を送る上では非常に重要なことである。
「好奇心猫を殺す」ではないが、平凡な人々にとって「知らなくてもいいこと」に触れてしまうことは決して幸福につながるとは限らないのだから。
そういう意味ではこれらが教訓的な意味合いを持って世界中で広まったことにもやはり需要があったのかもしれない。

これらの神話は基本的に主人公が何かしらの幸福を得る代わりに「見てはいけない」というタブーを課せられ、最終的にそのタブーを破ったがために幸福を逃がす、あるいは不幸が訪れる、というパターンが大半を占める。
そのため、このタイプの神話は そのほぼ全てが悲劇 である。

因みに、「ダメだと言われると余計に気になる」現象は、 カリギュラ効果 *1*2と呼ばれており、心理学用語では「 心理的リアクタンス 」とも呼ばれる。
なお英語圏の「見るなのタブー」とはもう少し範疇が広いようで「見てはいけない」と定められたものならば含まれるらしく
英語版Wikipediaの「Looking taboo」にはギリシャ神話のメデューサ(直接見ると石にされる魔物で鏡の盾に映した姿を見て退治した)なども例として入っている。あとゴディバ夫人も。

以下、世界各地の代表的な「見るなのタブー」を破った際のペナルティと共に紹介していく。

代表例

ソドムとゴモラの悲劇

破った際のペナルティ:塩の柱になる

旧約聖書に見られる「見るなのタブー」。ソドムとゴモラが神の怒りに触れて滅んだ際に、天使により助けられたロト(勇者ではない)の家族だったが、
「逃げ切るまで決して振り返ってはならない」と言いつけられたにもかかわらず振り返ってしまったためにロトの妻は塩の柱と化してしまう。

パンドラの箱

破った際のペナルティ:世界中に不幸がまき散らされる

最も有名な「見るなのタブー」。なお、原典では「パンドラの壺」。
決して開けてはいけないと渡された箱を興味本位に開けてしまったために……というエピソードで、現在でも「触れてはいけないもの」の代名詞となっている。
開けた際に世界中にあらゆる災厄が飛び散ったが、パンドラが慌てて箱を閉めたため、ただ一つだけ箱の中に残されたものがあるという。
それは「希望」であるとも「絶望」であるともされており、前者の解釈なら「人間には唯一残された希望がある」とされ、後者なら「最も深い絶望はまだ解き放たれていない」とされ、実は意外と前向きなオチだったりする。

ただ、希望こそがパンドラの箱から出てきた最悪のものであるという解釈もあるのだが。
希望は一見見眼麗しい姿をしているが、実のところ人を底なし沼に引きずりこむ悪女である。
人はそこに希望がある限り、たとえごくごくわずかなものであってもそれを掴もうと血反吐を吐きながら手を伸ばし続けるのだ
その他にも最後に残った希望とは「未来」のことであり、「未来が存在すること」は希望であるが、「未来がわかりきっていること」は最悪の絶望であり、それが箱に残ったままで誰の目にも映らなかったからこそ希望が残されたという解釈も存在する。

オルペウスとエウリュディケ

破った際のペナルティ:現世に帰れなくなる

亡くなった妻エウリュディケを追って冥界に向かった吟遊詩人のオルペウスだったが、
冥界の王ハデスはエウリュディケを現世に連れ帰る事を許可する代わりに一つだけ条件を付ける。
それは「地上へたどり着くまで絶対に後ろを振り返るな」というものだった。
しかしオルペウスは、エウリュディケが本当に自分の後を付いてきているかと不安感に負け、現世に帰りつく直前に振り返ってしまう。
その結果エウリュディケは冥界に連れ戻され、オルペウスは地上に戻った後に失意のどん底に沈む事になる。
オルペウスは死後は天に上げられこと座になったとも、冥界でエウリュディケと再び結ばれたともされる。後者なら多少なりと救いのあるエンドとも言える。

イザナギイザナミ

破った際のペナルティ:死の始まり

亡くなった妻イザナミを追って黄泉の国に向かったイザナギだったが、イザナミは既に黄泉の国の一員となっていた。*3
暗闇の中、イザナミは「地上に戻れないか、黄泉神と相談して参ります。決して私の姿を見ないでください」と言って奥に引き下がってしまった。
残されたイザナギはやがて痺れを切らし、櫛の歯に火を灯し黄泉の国の奥に進んでしまう。
そして腐敗しきった自分の顔を見られ、怒りのあまりイザナミは「日に千人殺す」と宣言。
つまり、 日本人が死ぬようになったのは空気読めないイザナギの仕業 である。

別の資料では「地上への帰還中は決して振り返ってはならないという言いつけをイザナギが破った結果、イザナミの腐敗した姿を見てしまった」ともされる。

見ても分かる通り、ほぼ上のオルペウスの件とストーリーが同じであり、古代日本とギリシャの繋がりを示す証拠の一つである。
また日本神話には他にもギリシャ神話と類似するエピソードが存在する。

玉手箱

破った際のペナルティ:老人になる

日本で最もよく知られた「見るなのタブー」。「決して開けてはならない」と渡された玉手箱を開けたところ、浦島太郎は老人となってしまった、というお話。
その後浦島太郎は鶴になって飛んでいったというのが本当の物語の結末。

鶴の恩返し

破った際のペナルティ:幸福が逃げる

玉手箱と双璧を為す日本昔話界のタブー。元の状態以上に不幸になったわけではないが、「決して覗いてはいけない」とされたものを見てしまったために、得られたはずの幸福が逃げていってしまった……というもの。

見るなの座敷

破った際のペナルティ:豪華なもてなしが消える

山奥で豪華な屋敷に泊めてもらい、女主人が場を離れるときに
「13あるうちの12の座敷は入ってもいいが、最後の座敷は開けてはいけない」
と言われた最後の座敷を開けるとウグイスが飛び去り、元の山奥に立ち尽くしていたというもの。

青髭

破った際のペナルティ:殺される

シャルル・ペローの童話。「青髭公」と呼ばれる貴族に嫁いだ新妻が「全ての部屋を自由にしていいが、一つだけ入ってはいけない部屋がある」とされたにもかかわらず、それを破ったために殺されそうになる。
実は青髭公は嫁いできた女を殺してはその部屋に隠す猟奇殺人者だったのだが、間一髪のところで兄が助けに入る。この手の話では珍しくタブーを破ったのにハッピーエンドとなっている。

振り返ってはいけない小道

破った際のペナルティ:あの世に引きずり込まれる

ジョジョの奇妙な冒険』第四部に登場する謎の場所。この世とあの世の境目にある不可思議な空間にある小道であり、現世に戻るためにはこの道を通る必要がある。
しかし、向こうにたどり着くまでに振り向いてしまうと無数の手によりあの世に引きずり込まれてしまう。一応、外的手段により無理矢理小道を脱出すれば逃れることは可能だが非常に困難なのは言うまでもない。
さらにこの空間に潜む「何か」は通る者を振り向かせようとあの手この手を使ってくる。直接的な暴力は振るってこないものの、精神的な責め苦は非常に多彩。
なお、結局この空間が何だったのかは最後まで謎のままである。

油屋の世界のトンネル

破った際のペナルティ:不明(帰ってこれなくなる?)

千と千尋の神隠し』に登場する駅舎のようなトンネル。物語冒頭とクライマックスに登場。
ラストシーンでは元の世界に戻ろうとする千尋がハクに「抜けるまで振り返ってはいけない」と言い含められた上でこのトンネルを抜けることになる。
千尋は一瞬振り返りそうになるが、ハクの言葉を思い返し、前だけを向いて歩きだすのであった。

海難法師

破った際のペナルティ:死ぬ

伊豆諸島に伝わる怪談に登場する幽霊。
海難法師とは水難事故で死亡した者の怨念の集合体であり、その姿を見ると同様の死に様を晒すと伝えられている。

ミミッキュの中身

破った際のペナルティ:呪われる? 死ぬ?
ピカチュウのような布を被ったゴーストポケモン。その布の中身を見ると呪われるとか病に侵されるとか言われている。
実際図鑑説明では中身を見た学者が死んだという逸話があり、アニメでは中身を見てしまったニャースが逝きかけている。

くねくね

破った際のペナルティ:精神崩壊し、くねくねと踊りだす。

ネットを中心に話題となっている都市伝説の1つ。
詳しくは項目を参照。

サンタクロースの正体

破った際のペナルティ:来年からクリスマスプレゼントがもらえなくなる

「早く寝なさい」という親の言いつけを破り、サンタの正体を見破ってやろうと夜更かししてしまった場合……

彼女の化粧を落とした顔

破った際のペナルティ:精神面に致命的な打撃

お察しください。
……え、俺の彼女はすっぴんでも可愛いって?はいはいよかったですね!!

シャイガイの顔

破った際のペナルティ:殺される

顔を網膜に移した相手を絶対に殺す恥ずかしがり屋さん

MUR鈴木の着替え

破った際のペナルティ:アッー!

なんで見る必要があるんですか

アーク《聖櫃》

破った際のペナルティ:死ぬ

遺跡から発掘された聖櫃をめぐる攻防と駆け引きの末にインディー・ジョーンズは敗れ、捕らえられる。
柱に縛り付けられたインディーの前で聖櫃を開ける儀式が執り行われた。
砂しか入っていないかと思われた聖櫃の中から精霊が現れ、幻想的とも言える光景が広がるが、インディーはあることを思い出し、咄嗟に目を閉じた。
その光景は精霊が悪鬼のような形相に変わったのと同時に地獄絵図に変わった。
その場にいた兵士たちはエネルギーに体を貫かれ、高熱に焼かれ、溶かされ、粉々になり、生き残ったのはインディーと、絶対に目を開けるなと言われたマリオンのみ。
インディーが助かった理由は映画版では省略されているのだが、小説版によるとメダルに「聖櫃を開け、中から出てきたものを正面から見た者は死ぬ」という主旨の警告が書かれており、それを思い出したからだとされている。

他人の日記

破った際のペナルティ:信用を無くす

たとえ家族でも仲が良くても、勝手に見るのはNG。
フィクションだと、見た瞬間呪いをかけられるなんて事も……。

呪いのビデオ

破った際のペナルティ:1週間後に死ぬ

映画化もされた、日本ホラー小説の金字塔。



追記・修正は見てはいけないものは見ないようにお願いします。

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  • 岸辺露伴
最終更新:2024年09月10日 15:14

*1 1980年の「カリギュラ」という映画があまりに過激な内容だったため公開禁止の措置が施された結果却って大きな話題になった事に由来する

*2 ほぼ日本だけの用語らしい

*3 「黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)」。死者の世界の食物を食べると地上に戻れなくなるとされる。同じ話はギリシャ神話のペルセポネのエピソードにも登場する。