「最近エルフと思われる怪しい連中がこそこそとうろついてるという話だ。気を付けてくれ」
どうやらオットはその情報を聞きつけ仕事としてレプテ村周辺を探っていたらしい。シルフィーヌ二世を背後から襲ったのも怪しい連中と早合点したというのもあるらしい。しかし、一向にとっては非常に心当たりのある情報だった。テネブル=イルニアス軍団国、その手先が共和国同盟内に既に潜んでいる可能性がある。悠長に構えている時間はないと突き付けられたようなものだった。
そして市内のガスペリ家運営の銀行に向かいリリアーナ・ディ・ガスペリへの対面を要求してみたところ、すぐさまとりなしてもらえることとなった。余りにも早い対応にシルフィーヌ二世たちは面を食らったもののまたとないチャンスである事には変わらなかった。
交渉にはシルフィーヌ一人で行うこととなった。トルーヴ姉弟はこう言った場になれていないこと、ヨルクは理由は不明だが辞退し、他の面々はそもそもこう言った交渉を行う機会がないとの理由から交渉の場に立ち会うことを拒否した。エイダとシグル、今までどこで何をしていたか分からないヨルクはともかく、曲がりなりにもエルヴン帝国での政治に携わっていたウッドエルフ達と帝国近衛騎士団のメンバーの姿勢に初めてシルフィーヌはため息をついてしまった。今まで一人他国の支援を受けられるよう頑張ってきた自分が馬鹿みたいに思えた。
交渉にはシルフィーヌ一人で行うこととなった。トルーヴ姉弟はこう言った場になれていないこと、ヨルクは理由は不明だが辞退し、他の面々はそもそもこう言った交渉を行う機会がないとの理由から交渉の場に立ち会うことを拒否した。エイダとシグル、今までどこで何をしていたか分からないヨルクはともかく、曲がりなりにもエルヴン帝国での政治に携わっていたウッドエルフ達と帝国近衛騎士団のメンバーの姿勢に初めてシルフィーヌはため息をついてしまった。今まで一人他国の支援を受けられるよう頑張ってきた自分が馬鹿みたいに思えた。
何はともあれシルフィーヌは銀行の客室まで案内され、そこで待っていたリリアーナとの交渉を行った。否、交渉というには拙いものだった。シルフィーヌはこの一ヶ月でどうにかリリアーナにエルヴン帝国への救援を引き受けてもらうにはどうすべきか考えていたがいい案など思いつかなかった。だからエルヴン帝国の窮状を訴え頭を下げることしかできなかった。リリアーナはシルフィーヌの訴えを最後まで聞き、その上でこう答えた。
「申し訳ありませんが、それでは『エルニア帝国』に対して支援はできませんね」
その一言にシルフィーヌは絶望の表情を浮かべる。何故、その一言が思わず口から零れてしまった。リリアーナは真摯な態度で説明を始める。
「まず、我々共和国同盟はテネブル=イルニアス軍団国を脅威と捉えているのは事実です。ですがそれは『エルニア帝国』を支援する理由には至らないのも事実なのです」
「……どうして?」
「『エルニア帝国』を支援するにしても私個人でできることに限りがあるのです。今までは財政面での支援にとどまっていましたから。ですが今回の場合は『私個人』での判断で決められるものではありません。『共和国同盟』という国の力を動かすには貴女が頭を下げた程度では足りないのです」
「何が足りないというのですか?」
「対価です。我々『共和国同盟』がテネブル=イルニアス軍団国という『脅威』に対して『エルニア帝国』を支援する理由。それがなければ議会に働きかけることは不可能でしょう。先に尋ねますが貴女方『エルニア帝国』に我々を動かせるための対価を用意できますか?」
「……どうして?」
「『エルニア帝国』を支援するにしても私個人でできることに限りがあるのです。今までは財政面での支援にとどまっていましたから。ですが今回の場合は『私個人』での判断で決められるものではありません。『共和国同盟』という国の力を動かすには貴女が頭を下げた程度では足りないのです」
「何が足りないというのですか?」
「対価です。我々『共和国同盟』がテネブル=イルニアス軍団国という『脅威』に対して『エルニア帝国』を支援する理由。それがなければ議会に働きかけることは不可能でしょう。先に尋ねますが貴女方『エルニア帝国』に我々を動かせるための対価を用意できますか?」
リリアーナの問いにシルフィーヌは一瞬エルヴン帝国に受け継がれてる『レガリア』が脳裏をよぎる。だが、それが共和国同盟にどの程度の価値があるのか分からなかった。更には一ヶ月の間でエルフ達とレガリアを対価にする案を出してみたが猛烈な反対を受けてしまった。特に純血派である帝国近衛騎士団からは『国そのもののを売り渡すようなものだ』とすら言われてしまっている。だが今はどうにか救援を引き出さねば。その考えからレガリアに関する情報を伝えるがそれでもリリアーナはいい顔を浮かべなかった。
「確かに国の重要な財産を引き渡すのは他国の救援を要請するのに最上級ともいえるでしょう。個人的にはそんな簡単に言うべきではないと思いますが国を率いる者としての判断と考えれば、特に小さな国の皇帝がそのような判断を即座に下せたのは個人的に評価に値します。ですがそれでも共和国同盟の救援を引き出すのは難しいでしょうね」
「理由をお伺いしても……?」
「共和国同盟にとっての価値に値するかどうかです。ただ宝物を差し出すといった程度ではこの国は、『共和国同盟』は動かせません。貴女方が古来より受け継ぎし『レガリア』はこの国にとって『貴重な歴史的資料』としか映らないからです。この国にとって他国を助けに入るほどの価値あるものとは判断されない。申し訳ありませんが――――――」
「……いえ、結構です……。こちらこそ無理難題を申し込んでしまいました……。申し訳ありません」
「理由をお伺いしても……?」
「共和国同盟にとっての価値に値するかどうかです。ただ宝物を差し出すといった程度ではこの国は、『共和国同盟』は動かせません。貴女方が古来より受け継ぎし『レガリア』はこの国にとって『貴重な歴史的資料』としか映らないからです。この国にとって他国を助けに入るほどの価値あるものとは判断されない。申し訳ありませんが――――――」
「……いえ、結構です……。こちらこそ無理難題を申し込んでしまいました……。申し訳ありません」
そう言ってシルフィーヌは絶望のあまり、うなだれてしまった。国を率いる者としてそのような態度をとるべきではないと分かっていた。それでもそうしてしまう程に現状に絶望してしまった。エルヴン帝国という国の小ささに、リリアーナ・ディ・ガスペリに自国が価値あるものだと示せなかった己のふがいなさに、何もできない自分の情けなさに。リリアーナはその様子を見て、表情こそ替えなかったもののその瞳に同情心と自責、わずかな期待がよぎる。しかしうなだれ俯くシルフィーヌはそれに気づくことはなかった。
シルフィーヌが客室を出た後、一人執務室に戻ったリリアーナは一筆取っていた。羊皮紙に何かを書き終えた後、封にしたため近くで控えていたメリーザ・エル=トリアに手渡す。メリーザは頷き、執務室を後にした。
「さて、これが吉と出るか邪と出るか……。貴女次第ですわよ、シルフィーヌ二世?」
一人執務室に残されたリリアーナは難しい表情を浮かべながらそう独り言ちた。
憔悴した表情で戻ってきたシルフィーヌ二世に対し、近衛騎士団とウッドエルフ達は失望に満ちた表情を一様に浮かべた。だが、悠長にしている暇はないと切り替え、次の国への交渉に移るべく一行は奔走した。
その努力もすべて失敗に終わった。
水霊国家フォンターナから今は忙しいためそちらに構ってる暇はないとして頼れなかった。ドワコルフ組合国からは畑違いと伝えられた。数か国ほど頼っては断られを繰り返し、ついには神聖イルニクス帝国に助けを求めようという声が一行の中から上がった。合流当初に帝国への評価がそれほど良くなかったヨルクも賛同し行き先を提案してきた。他に選択肢はなかった。
そうして神聖イルニクス帝国に助けを求め入国を試みたがその段階で手間を懸けざるを得なかった。まずエルヴン帝国自体が帝国から遠い小国であり、更に逃亡生活を送る中で少しでも目立たないようにする必要があったためにみずぼらしい恰好をせざるをえなかかった。それがまずかったのか入国の際に盗賊と間違えられることが幾度となくあった。追い出されるだけならマシだった。時には警戒心から矢を放たれ槍を向けられることさえあった。入国できるようになるまで一ヶ月ほど時間がかかってしまった。
そして入国後も苦難は続いた。まず中枢に連絡を取る伝手などなく、有名どころに助けを求めようにも門前払いされることがほとんどだった。門前払いされることなく相手にしてもらえたとしても対価なく助けることはできないと断られることがほとんどだった。酷い時には一方的に利用されかけ、挙句にはシルフィーヌを無理矢理手籠めにしようとする者さえいる始末だ。そのため余儀なく逃亡を選択せざるを得ないことさえあった。
どうにかしようと藻掻く程深みにはまっていくような感覚をシルフィーヌは何度も感じていた。どうにかしたいのにどうにもならなかった。ただ無力感と絶望だけが積もり積もっていく一方だ。
そして入国後も苦難は続いた。まず中枢に連絡を取る伝手などなく、有名どころに助けを求めようにも門前払いされることがほとんどだった。門前払いされることなく相手にしてもらえたとしても対価なく助けることはできないと断られることがほとんどだった。酷い時には一方的に利用されかけ、挙句にはシルフィーヌを無理矢理手籠めにしようとする者さえいる始末だ。そのため余儀なく逃亡を選択せざるを得ないことさえあった。
どうにかしようと藻掻く程深みにはまっていくような感覚をシルフィーヌは何度も感じていた。どうにかしたいのにどうにもならなかった。ただ無力感と絶望だけが積もり積もっていく一方だ。
その間も一行にテネブル=イルニアス軍団国の魔の手は幾度となく迫り続けた。行く先々で魔物や部隊に襲われその度に近衛騎士団のエルフが一人、また一人と犠牲になっていった。そんなことが続いたからか他方のウッドエルフ達からの助けを得ることができず、追い返されることが何度もあった。
そのような日々が続いたからだろう。近衛騎士団、ウッドエルフ達とシルフィーヌ二世の間の確執は広がる一方だった。彼らは鬱憤を晴らすようにシルフィーヌの陰口を聞こえるように叩き続けた。当初こそエイダとシグル、ヨルクが仲裁に入っていたが次第に三人とエルフ達とも溝ができてしまった。それだけでなく、シルフィーヌとトルーヴ姉弟の間でも距離が離れつつあった。誰も彼もが余裕をなくしていく一方でただただ彼女たちの空気が悪くなっていく。
そのような日々が続いたからだろう。近衛騎士団、ウッドエルフ達とシルフィーヌ二世の間の確執は広がる一方だった。彼らは鬱憤を晴らすようにシルフィーヌの陰口を聞こえるように叩き続けた。当初こそエイダとシグル、ヨルクが仲裁に入っていたが次第に三人とエルフ達とも溝ができてしまった。それだけでなく、シルフィーヌとトルーヴ姉弟の間でも距離が離れつつあった。誰も彼もが余裕をなくしていく一方でただただ彼女たちの空気が悪くなっていく。
そんな時だ。彼女たち一行にとって致命的ともいえる情報が入ってきた。エルヴン帝国がテネブル=イルニアス軍団国に陥落し、リンデルの森が焼き払われたとのことだった。
そんなことあるはずがない、あってほしくないとシルフィーヌは情報を集めていった。しかし、いくら情報を集めても事実かどうか確かめる術が彼女たちにはない。
そんなことあるはずがない、あってほしくないとシルフィーヌは情報を集めていった。しかし、いくら情報を集めても事実かどうか確かめる術が彼女たちにはない。
「……貴女のせいだ」
誰かがそんなことを呟いた。ウッドエルフの一人だ。
「……貴女がいるせいで……私達は森を追われた。そしてリンデルの森が焼き払われてしまった……。貴女がいるせいで」
「落ち着いてください。まだそうと決まったわけでは……」
「落ち着いてください。まだそうと決まったわけでは……」
シルフィーヌを責め始めたウッドエルフをオーフィアが宥めようとするが効果はなかった。そればかりか堰を切ったように他のウッドエルフ、そして近衛騎士団のエルフ達も捲し立てるように口を開いていく。
「貴女がふがいないせいだ」
「何故そんなに無能なのだ」
「貴女が交渉を成立させていれば」
「私達は森をなくすことはなかった」
「私達の故郷は失われなかった」
「俺達の国が……『エルニア帝国』の栄光が……」
「何故俺達がこんな惨めにならなければならない」
「貴女のせいで仲間が死んだ……」
「あの人を返して!」
「貴女さえいなければ……」
「何故そんなに無能なのだ」
「貴女が交渉を成立させていれば」
「私達は森をなくすことはなかった」
「私達の故郷は失われなかった」
「俺達の国が……『エルニア帝国』の栄光が……」
「何故俺達がこんな惨めにならなければならない」
「貴女のせいで仲間が死んだ……」
「あの人を返して!」
「貴女さえいなければ……」
エイダもシグルも、ヨルクもオーフィアに続いて怒りを宥めるために言葉をかけたが焼け石に水だった。そして――――――
「何故セレーネ様じゃなく貴女が生きているんだ! 貴女が代わりに死んでいればよかったのに!」
シルフィーヌにとって致命的ともいえる言葉をエルフの一人がぶつけた。シルフィーヌはその言葉にショックを受けただ俯く。それがエルフ達にとって癪に障ったのだろう。
「……何とか言えよ! この役立たず!」
エルフ達の罵倒は一晩続いた。オーフィアもエイダも、シグルも、ヨルクも何とか止めようとした。しかし火に油を注ぐように彼らの罵倒が激しくなった。だれにも止められないまま、朝を迎え――――――――――――テネブル=イルニアス軍団国の手先の奇襲を受けてしまった。
いつもの襲撃よりダークエルフの数が多かった。更には先の諍いからの敵の奇襲に対応する間もなく生き残っていた近衛騎士の何人かがあえなく命を落とし、そしてシルフィーヌがダークエルフに攫われてしまったた。すぐさまシグルが追いかけ、エイダもそれに続こうとしたがそれよりも前にダークエルフの兵士に遮られ叶わなかった。他の近衛騎士たちはシルフィーヌに構う暇もなくただ、自分たちの命を守ることで手一杯だった。エイダもヨルクも敵の攻勢が激しく思うように動けなくなる。激しいばかりではない。まるでこちらの消耗を強いるような動きを繰り返している。嬲り殺しにする気かとエイダは考える。
更に間の悪いことに激しい雨も降りだしたことで視界不良となった上にエイダの火属性魔法の効力も弱まっていく。普段なら行わないであろう格闘戦を選ばなければならなくなった。雨に撃たれ続ければその分だけ体力も奪われていく。それはダークエルフ達も同じはずだがエイダたちに比べて消耗が少ないようにも見える。
このままでは全滅する、その可能性を考え始めたエイダはシグルの援護とシルフィーヌの救助を諦め如何に現状を脱出するか考え始めるもとっかかりが見つからない。体力を消耗したことで考えもまとまらなくなっていく。ふと、死という単語が脳裏をよぎり始める。
どうにもならない、どうにもできない、死が迫ってくる、思考が諦観に傾いていく。杖が手から離れ地面に落ちて、同時に膝をつく。消耗を強いてくる敵の策に激しい攻勢、そして突然の悪天候による体力の消耗、もはや限界だった。ダークエルフの刃が迫ってくる。ヨルク達は自分たちの命を守ることで手一杯。積みだと悟り諦めかけた――――――その瞬間だった。
更に間の悪いことに激しい雨も降りだしたことで視界不良となった上にエイダの火属性魔法の効力も弱まっていく。普段なら行わないであろう格闘戦を選ばなければならなくなった。雨に撃たれ続ければその分だけ体力も奪われていく。それはダークエルフ達も同じはずだがエイダたちに比べて消耗が少ないようにも見える。
このままでは全滅する、その可能性を考え始めたエイダはシグルの援護とシルフィーヌの救助を諦め如何に現状を脱出するか考え始めるもとっかかりが見つからない。体力を消耗したことで考えもまとまらなくなっていく。ふと、死という単語が脳裏をよぎり始める。
どうにもならない、どうにもできない、死が迫ってくる、思考が諦観に傾いていく。杖が手から離れ地面に落ちて、同時に膝をつく。消耗を強いてくる敵の策に激しい攻勢、そして突然の悪天候による体力の消耗、もはや限界だった。ダークエルフの刃が迫ってくる。ヨルク達は自分たちの命を守ることで手一杯。積みだと悟り諦めかけた――――――その瞬間だった。
ダークエルフの手先に対して横から二つの集団が乱入し、そして攻撃を仕掛け始めたのだ。魔族の類でもなければ魔物の群れでもなく、明らかに知的種族の集団だった。一つは何者なのか分からなかったがもう一つの方は見慣れた集団でもあった。
――――――ブリゲードと呼ばれる冒険者の集団、その中の一角であるニルクジュール。トルーヴ姉弟が所属する一団だ。彼らは戦闘を一方の集団に任せエイダと行動を共にしていた一行を保護している。エイダも同様にニルクジュール所属の同僚に肩を支えられ保護、そして戦場から脱出させられる。何がどうなっているのか状況を把握することができなかった。ふと背後に視線を向けると一方の集団がダークエルフ達の手先を追い返していくのが見えた。
激しい雨の中、ニルクジュールに保護され連れていかれたのは森の中の洞窟だった。そこにはニルクジュールのメンバーと謎の集団の仲間だと思われる人物達が各々で野営の準備を行っていた。次々とエイダと行動を共にしていたエルフの一行もニルクジュールメンバーに連れられ洞窟内に集められていく。どういう状況なのか掴みかねているとエイダに話しかけ来る者がいた。ニルクジュールの副ブリゲード長だった。
「災難だったね。エイダ」
「……シグルとシルフィーヌちゃんは?」
「……シグルとシルフィーヌちゃんは?」
そう語りかける副ブリゲード長にエイダはゆっくりと顔を向け開口一番に二人の事を尋ねる。しかし、副ブリゲード長は首を横に振るだけであった。エイダはそれを見て自身を支えてるメンバーを振り払いシグルとシルフィーヌを探しに行こうとするが体が言うことを聞かない。
「……今は休みなさい」
副ブリゲード長はそう言って目を伏せ、それを見たメンバーはゆっくり頷きエイダを連れて行く。エイダはただされるがままにするしかなかった。
洞窟まで連れてこられたヨルクは壁にもたれかかりながら体を休めていた。久しぶりにきつい戦闘をこなしたものだと振り返る。そんな時だ。ヨルクに話しかけてくる男がいた。その人物は彼自身もよく知る人物であった。
ストリクスと呼ばれた男はヨルクの言葉に不満げに鼻を鳴らす。彼こそバッドアス・ヘッドバッカーズ――――――反ダークエルフ・反魔物を掲げる、違法な手段を用いることも厭わない無法者の集団、そのリーダーを務める男だった。そしてヨルクはその集団に身を寄せている。
「肝心のエルヴンのお姫様がいないようじゃ意味がないんだ。彼女に恩を売る代わりにこちらで利用しようと貴様が提案したことだろ? 随分と遠回りをしたものだ」
「……彼女に現実を思い知ってほしかったんだよ。エルヴン帝国のような小さな国を助けてくれるところなんてないってね。もっともある程度は誘導させてもらったけどね。評判の悪そうなところとか込み入ってるところとかね」
「……彼女に現実を思い知ってほしかったんだよ。エルヴン帝国のような小さな国を助けてくれるところなんてないってね。もっともある程度は誘導させてもらったけどね。評判の悪そうなところとか込み入ってるところとかね」
そう、ヨルクはエルヴン帝国をバッドアス・ヘッドバッカーズの活動のために利用する腹積もりであった。そのためにもシルフィーヌ一行に自分たち以外に手を差し伸べて助けてくれる組織も国もないのだと思い込ませる必要があった。共和国同盟に助けを求めると言いだした時は内心焦ったものの反対する姿勢を見せればそれだけで警戒されかねない。決裂することを願ってはいたが実際にそうなった時は安堵した物だった。
その後は一行の方針に適度に口を出して、何らかの問題を抱えている最中で救援を出す余裕がない国や畑違いの国に誘導し上手く交渉失敗という実績を積ませていった。神聖イルニクス帝国に救援を求めた時も同じだった。そもそも助けてくれないか、一行を搾取しようとする貴族のところへ誘導したのだ。おかげでバッドアス・ヘッドバッカーズの手を借りざるを得ない状況まで追い込むことができた。
もっともテネブル=イルニアス軍団国の襲撃が頻発したこと、エルヴン帝国の敗北が一行の耳に入る事態までは想定していなかったが。
その後は一行の方針に適度に口を出して、何らかの問題を抱えている最中で救援を出す余裕がない国や畑違いの国に誘導し上手く交渉失敗という実績を積ませていった。神聖イルニクス帝国に救援を求めた時も同じだった。そもそも助けてくれないか、一行を搾取しようとする貴族のところへ誘導したのだ。おかげでバッドアス・ヘッドバッカーズの手を借りざるを得ない状況まで追い込むことができた。
もっともテネブル=イルニアス軍団国の襲撃が頻発したこと、エルヴン帝国の敗北が一行の耳に入る事態までは想定していなかったが。
「……悪人め」
「君が言えたことじゃないだろ? ところでどうやって冒険者、それもニルクジュールとの協力を取り付けられたんだい?」
「君が言えたことじゃないだろ? ところでどうやって冒険者、それもニルクジュールとの協力を取り付けられたんだい?」
そう言って野営の準備を進めているニルクジュール所属の冒険者達の方に目を向ける。本来バッドアス・ヘッドバッカーズと冒険者達の寄り合いであるブリゲードは相性が悪いはずだ。正規の手段で魔物たちを討伐する冒険者達にとって、無秩序かつ無法に魔物を狩り尽くすバッドアス・ヘッドバッカーズの面々は自らの食い扶持を奪っていく無頼者でしかないのだ。それがどういうわけか手を取り合い自分たちを救助してくれた。疑問に思うのも当然のことだった。
「協力関係を結んだわけじゃない。向こうさんもダークエルフ共に用があったらしくてな。利用価値があったし天候が悪くなったのもあって一時休戦していたようなものだ。ひと段落したら元通りさ」
「……なるほど、向こうも良くそれを了承したね」
「向こうを引き連れてたやつがそれなりに知恵が回るようでな。こちらの足元も随分見られてしまった。油断ならんぜあいつら。それよりこれからどうする? 攫われちまったんだろ? エルヴンのお姫様」
「シグルと言う冒険者に期待するしかないね。問題はその後どう引きはがすかだけど」
「口説き落としてしまえばよかったじゃないか」
「生憎、セレーネ以外の女性を口説く趣味はないよ」
「……なるほど、向こうも良くそれを了承したね」
「向こうを引き連れてたやつがそれなりに知恵が回るようでな。こちらの足元も随分見られてしまった。油断ならんぜあいつら。それよりこれからどうする? 攫われちまったんだろ? エルヴンのお姫様」
「シグルと言う冒険者に期待するしかないね。問題はその後どう引きはがすかだけど」
「口説き落としてしまえばよかったじゃないか」
「生憎、セレーネ以外の女性を口説く趣味はないよ」
そんな軽口をたたきつつストリクスとヨルクは次の一手についてどうするか考えを巡らせる。自分たちの目的のためにニルクジュールを、そしてシルフィーヌ二世をどう利用すべきか。雨はまだ上がりそうになく、激しくなる一方だった。
激しい雨の中、シルフィーヌを攫ったダークエルフを切り伏せ、追ってきた敵も切り伏せたシグルは彼女を連れてひたすらに走っていた。敵から逃げるため、どこかに隠れるために。一行との合流も考えたが今はシルフィーヌを安全な場所まで連れて行くのが最善だと判断した。もっともどこが安全でどこがそうでないのか見当はつかなかったが。
突如シルフィーヌが膝から崩れ落ち転びそうになったため、足を止めて彼女を受け止める。シグルがもう一度彼女の手を取牢としたところでシルフィーヌの口が開く。
突如シルフィーヌが膝から崩れ落ち転びそうになったため、足を止めて彼女を受け止める。シグルがもう一度彼女の手を取牢としたところでシルフィーヌの口が開く。
「もう……無理です……」
か細い声でそう呟き、頭を抱えその場に蹲ってしまった。雨は激しくなり、降り注ぐ雫は二人の身体をひたすらに打ち付けていく。
「私には無理です……。私のせいで森が……人が死んでいく……。もう嫌です……。私は何もできない、何をやっても上手くできない……そもそも私が生きている意味って何なんですか? ただ生きてるだけで誰かの迷惑になって…………誰かを犠牲にして…………そしてこんなふうに襲われて…………もう嫌です。もう、どこかに消えてしまいたい…………」
それはシルフィーヌの悲鳴であった。元々彼女は強くはない。交渉失敗の連続、度重なる襲撃、身内との不和、それらがいくつも積み重なりついに限界を迎えた。それだけの事だった。シグルは自分に怒りを覚えた。守ってやれるつもりだった。彼女の心まで全て。しかし、実際は何も守れてない。そればかりか彼女を追い詰められていくのをただ見ていただけだった。その事実に自分への怒りが増していく。だが、今はそんなことに拘泥し時間をかけるわけにもいかなかった。
雨は激しくなる一方で、ダークエルフがいつ襲ってくるかも分からない。かと言って、今のシルフィーヌの状態で仲間達と合流することが最善なのか分からなかった。どうすれば彼女を守ることに繋がるのか、それ故か、シグルは衝動的に答えを出してしまった。
雨は激しくなる一方で、ダークエルフがいつ襲ってくるかも分からない。かと言って、今のシルフィーヌの状態で仲間達と合流することが最善なのか分からなかった。どうすれば彼女を守ることに繋がるのか、それ故か、シグルは衝動的に答えを出してしまった。
「……逃げよう」
そう言ってシルフィーヌと視線を合わせるために膝をつき、彼女の手を握る。
「どこかへ逃げよう。エイダたちはきっと大丈夫だ。きっと、切り抜けられているはずだ。だから、逃げよう」
シルフィーヌは顔を俯かせたまま何も答えない。それでもこのまま彼女の返答を待つわけにもいかなかった。シグルは無理矢理シルフィーヌを抱きかかえ、そのまま来た道とは逆の方向へ走っていく。どこへ向かうか分からないまま、シグルはシルフィーヌを連れて逃げ出した。
――――――――――――逃げ場等どこにもないと言うのに――――――――――――