前話:第十三話


#15 始まりの日


 彼女ーードホジエ・アレスーーの、その深紅の瞳は俺を獲物に狙いを定める獣のように見つめる。
俺はそれに屈しず、ある一つの答えを言った。

「すまないが、その条件を呑むことはできない」
「ふん、やはりそう言うと思っていた」

彼女は嘲笑し、言い放つ。
俺は、彼女側の陣営に下れば今の命は保証されることが分かっていたのに、反対のことを言った。
なぜだろうか...?それは分からなかった。

「そんなこと、ただの独りよがりな正義感の振りかざしにしか過ぎない。次は冷静に考えることだな」

彼女はそんなことを言い、持っている(つつ)を俺の額に突き付けた。
その銃の無機質な銃口は俺の目の前まで来て、死の実感を限界まで押し付ける。

 しかし、恐れはしなかった。

 彼女はそのトリガーを引こうとした瞬間、どこかから声が聞こえてきた。
なにか、地響きのような、または雄たけびのような”叫び”が聞こえる。

 すると、部屋の扉が素早く開き、さっきの看守長が入ってきた。
彼は焦っているようだった。

カマキリ殿! 壁外にて群衆が押しかけてきました!」
「はぁ、すぐに対応しよう。お前はリーダーと思われる人物を探し出して話し合え」

どうやら、この町の市民が集まってこの牢獄に攻め込んできたらしい。
俺は事前にこのことを察していたのだろうか...
その脳裏に浮かんだ一つの解は甚だ信じがたかった。

彼女はその銃を構えなおし、

「たまたま恵まれたようだな。次はないと思え」

そう言って、部屋を出ていった。

■  ■  ■  ■  ■  ■  ■

 アシュテがノルメルの軍に捕まった...

届いた一枚の手紙はそんなことが書いてあった。
途中の街で待ち伏せされた軍に取り押さえられたらしい。
そして、王都郊外の牢獄で監禁されているという。

そんなの、やるべきことは決まっていた。
アシュテを解放するしかない...

 そう思ってからの行動は早かった。
すぐに馬を走らせ、行政庁に赴いた。

道中、何も考えられなかった。
アシュテの心配と先のことが気になって頭を離れない。

 とにかく1秒でも早く、動かなければならない。
そう思って、テントに入った。

「やっぱり来ると思ってたよ、もう情報は伝わってるから」

その場にいたラムノイはもう承知の上で話していた。

「アシュタフィテスのこと、助けてあげたいんでしょ?最大限、協力するよ」

彼女の発したその言葉は、俺を安心させるには十分だった。

「では、ゼスナディ君には前も言ったように市民の軍を結成して、彼の囚われている牢獄を襲撃してもらいたい」

テントの中にある机に座っていたもう一人の人物、レーシュネはそう提案した。

俺のやるべきことはもう決まった。
アシュテを救うために俺は動き出す。



次話:第十五話
最終更新:2023年08月28日 22:34