艦隊戦
[概略史]
聖華暦580年頃において、戦場の花形は陸上艦と呼ばれる艦船、それも大火力を誇る陸上戦艦であった。
圧倒的な防御力を誇る魔導障壁と、それこそ圧倒的な砲戦火力により、遠距離から敵を蹂躙する陸上戦艦は、無敵の存在であった。
それ以前に戦場の覇者であった機兵でさえも、遠距離から大威力の砲撃を繰り返す艦船の前では抑止力にもならず、その座を陸上戦艦に譲り渡していた。
圧倒的な防御力を誇る魔導障壁と、それこそ圧倒的な砲戦火力により、遠距離から敵を蹂躙する陸上戦艦は、無敵の存在であった。
それ以前に戦場の覇者であった機兵でさえも、遠距離から大威力の砲撃を繰り返す艦船の前では抑止力にもならず、その座を陸上戦艦に譲り渡していた。
ちなみに魔導障壁が艦船に搭載されているのは、艦船がもともと聖華暦300年代に、移動要塞として開発され、発展してきた事に端を発する。
要塞や城塞の魔導障壁は、もともと幻装兵の魔導障壁を再現できないか研究され、試行錯誤の末に完成したものである。
しかし魔導器として再現され完成したそれは、あまりにも巨大でまともな持ち運びなどできない代物であった。
それ故、要塞などの拠点に設置されたのが始まりである。陸上戦艦は移動要塞として開発されたため、魔導障壁を搭載するのが当たり前だったのだ。
要塞や城塞の魔導障壁は、もともと幻装兵の魔導障壁を再現できないか研究され、試行錯誤の末に完成したものである。
しかし魔導器として再現され完成したそれは、あまりにも巨大でまともな持ち運びなどできない代物であった。
それ故、要塞などの拠点に設置されたのが始まりである。陸上戦艦は移動要塞として開発されたため、魔導障壁を搭載するのが当たり前だったのだ。
閑話休題。
一方で聖王国側の艦隊は、後々に主流となる新機軸の艦、ホバー推進装置による駆動方式の艦船のみで構成されていた。
この会戦の結果は、帝国側艦隊の壊滅、聖王国側艦隊の損害はたった1隻という、聖王国の圧倒的勝利に終わる。
この会戦の結果は、帝国側艦隊の壊滅、聖王国側艦隊の損害はたった1隻という、聖王国の圧倒的勝利に終わる。
帝国と聖王国の艦は、科学技術と呼ばれる物を徹底的に排して建造されている。
故に、射撃管制用の計算機など、搭載されてはいない。このため艦砲射撃の精度は、砲手たちの職人芸的な経験則のみによって成り立っていた。
そのため圧倒的な機動力を誇る聖王国側の艦船に帝国艦の砲撃はほぼ命中せず、相対的に聖王国側の砲撃は、艦同士の連携が上だった事もあり、帝国艦を次々と撃破したのである。
故に、射撃管制用の計算機など、搭載されてはいない。このため艦砲射撃の精度は、砲手たちの職人芸的な経験則のみによって成り立っていた。
そのため圧倒的な機動力を誇る聖王国側の艦船に帝国艦の砲撃はほぼ命中せず、相対的に聖王国側の砲撃は、艦同士の連携が上だった事もあり、帝国艦を次々と撃破したのである。
ここでアルカディア帝国は、しかし転んでもただでは起きなかった。
帝国は噴射式推進装置(バーニア)と通信装置を標準装備した新機軸の機装兵を完成させ、大量生産する。
そして帝国の艦船は、その機兵たちを戦場に送り込み、戦場で輸送するための物として位置づけを変えたのである。
帝国は噴射式推進装置(バーニア)と通信装置を標準装備した新機軸の機装兵を完成させ、大量生産する。
そして帝国の艦船は、その機兵たちを戦場に送り込み、戦場で輸送するための物として位置づけを変えたのである。
聖華暦610年、第三次聖帝戦争開戦。
この年に行われたルウアンの戦いでは、帝国の艦船によって運搬された機装兵レギオンの集団が、圧倒的多数の聖王国側の艦隊を、ラマー平原の戦いとは真逆に、一方的に、圧倒的に、絶対的に打ち破ったのだ。
この年に行われたルウアンの戦いでは、帝国の艦船によって運搬された機装兵レギオンの集団が、圧倒的多数の聖王国側の艦隊を、ラマー平原の戦いとは真逆に、一方的に、圧倒的に、絶対的に打ち破ったのだ。
解説
艦船全盛の時代、想定されていた艦隊戦と言う物は、互いの艦船が足を止めて遠距離から大砲を撃ち合うと言う物だった。
艦船には互いに魔導障壁が実装されており、どんなに強力な艦砲であっても一撃では勝負が決まらない。
何度も何度も命中弾を送り込み、敵艦の魔導障壁発生機に負担をかけ、ついには魔導障壁を打ち破って撃破する、と言う気の長い戦い方しか無かったのである。
艦船には互いに魔導障壁が実装されており、どんなに強力な艦砲であっても一撃では勝負が決まらない。
何度も何度も命中弾を送り込み、敵艦の魔導障壁発生機に負担をかけ、ついには魔導障壁を打ち破って撃破する、と言う気の長い戦い方しか無かったのである。
無論、魔導障壁に対抗する手段は色々と考えられてきた。
しかし実効性のある手段としては、大昔の時代から連綿と行われてきた、機装兵による白兵攻撃しか無かったのも事実である。
機兵の剣などによる持続性のある攻撃に対しては、魔導障壁は一瞬は持ちこたえても、それこそ持続的に攻撃をかけられる事であっさりと破られてしまうのは良く知られている。
そして一度魔導障壁が破られると、その発生機は負荷に耐えきれずに損壊してしまい、修理しなければ再度の障壁展開は不可能になる。
しかし実効性のある手段としては、大昔の時代から連綿と行われてきた、機装兵による白兵攻撃しか無かったのも事実である。
機兵の剣などによる持続性のある攻撃に対しては、魔導障壁は一瞬は持ちこたえても、それこそ持続的に攻撃をかけられる事であっさりと破られてしまうのは良く知られている。
そして一度魔導障壁が破られると、その発生機は負荷に耐えきれずに損壊してしまい、修理しなければ再度の障壁展開は不可能になる。
しかしこの対抗方法も、移動可能な艦船にとってはさほど対処は難しくなかった。
機兵が近づいてくるなら、艦船は下がれば良いのである。
機兵の航続距離はさほど長い物では無く、艦船が逃げ切るのは困難な事では無かった。
いや、上手くすれば艦砲射撃により、遠距離から一方的に機兵を打ち破る事すら可能である。
機兵が近づいてくるなら、艦船は下がれば良いのである。
機兵の航続距離はさほど長い物では無く、艦船が逃げ切るのは困難な事では無かった。
いや、上手くすれば艦砲射撃により、遠距離から一方的に機兵を打ち破る事すら可能である。
持続的な攻撃ができず瞬間的なダメージしか与えられない銃砲等の飛び道具では、魔導障壁を貫く事は事実上不可能である。
飛び道具をもって艦船の魔導障壁を打ち破るには、それこそ艦船に搭載されているクラスの大口径砲を、連続して撃ち込んで命中させ、敵艦の魔導障壁発生機を壊してしまうしか無い。いや、「無かった」のである。
飛び道具をもって艦船の魔導障壁を打ち破るには、それこそ艦船に搭載されているクラスの大口径砲を、連続して撃ち込んで命中させ、敵艦の魔導障壁発生機を壊してしまうしか無い。いや、「無かった」のである。
そして聖華暦580年、画期的な戦術ドクトリンの刷新があった。
聖王国では、高機動のホバー駆動艦を複数連携させて用いる事により、自艦は敵艦の砲撃を避け、自陣営は短時間に多数の命中弾を敵艦に送り込む事に成功したのだ。
自艦の防御力に頼りきりになり、1隻1隻の艦が単独で行動して敵艦を撃つという、旧態依然とした戦術のアルカディア帝国軍は、圧倒的な大敗を喫したのである。
聖王国では、高機動のホバー駆動艦を複数連携させて用いる事により、自艦は敵艦の砲撃を避け、自陣営は短時間に多数の命中弾を敵艦に送り込む事に成功したのだ。
自艦の防御力に頼りきりになり、1隻1隻の艦が単独で行動して敵艦を撃つという、旧態依然とした戦術のアルカディア帝国軍は、圧倒的な大敗を喫したのである。
しばらくの間は、この聖王国のドクトリンが主流となっていた。
しかし聖王国ドクトリンの優位は、30年ほどで終わる。アルカディア帝国が、高機動型機装兵を艦船で運搬するという、現在主流となった戦術を編み出したのだ。
聖華暦610年の第三次聖帝戦争で、この新戦術が聖王国艦隊を打倒したのは、前述した通りだ。
しかし聖王国ドクトリンの優位は、30年ほどで終わる。アルカディア帝国が、高機動型機装兵を艦船で運搬するという、現在主流となった戦術を編み出したのだ。
聖華暦610年の第三次聖帝戦争で、この新戦術が聖王国艦隊を打倒したのは、前述した通りだ。
現在の艦隊戦は、多数の高機動機装兵を艦船で運び、攻撃は機装兵に任せるか、あるいは魔導障壁を機装兵に破らせて艦砲射撃でとどめを刺す、と言った物になっている。
まあ後者の戦法は、敵艦に取りついた味方機兵まで犠牲になる上に、味方の機装兵が敵艦に取りついてしまえば結局敵艦は終りであるため、あまり用いられる事は無い。
聖華暦800年代の艦隊戦は、艦隊戦とは名ばかりの機兵戦であるとも言えるのだ。
まあ後者の戦法は、敵艦に取りついた味方機兵まで犠牲になる上に、味方の機装兵が敵艦に取りついてしまえば結局敵艦は終りであるため、あまり用いられる事は無い。
聖華暦800年代の艦隊戦は、艦隊戦とは名ばかりの機兵戦であるとも言えるのだ。
砲戦の進化
聖華暦600年代までの時期において、艦隊戦における砲戦は基本的に砲手の経験と技量による職人芸であった。
アルカディア帝国とカーライル王朝・聖王国に蔓延する科学技術アレルギーとも言える科学技術排斥思想により、測距儀や射撃表すら使う事が拒まれていた時代だったのである。
アルカディア帝国とカーライル王朝・聖王国に蔓延する科学技術アレルギーとも言える科学技術排斥思想により、測距儀や射撃表すら使う事が拒まれていた時代だったのである。
だが聖華暦600年代初頭の時期、自由都市同盟において砲戦は画期的な進歩を遂げる。
自由都市同盟では帝国や聖王国から売りつけられた陸上艦に、歯車式計算機と砲弾の自動装填機構を搭載したのだ。
これによって同盟艦の射撃精度は、それまでとは桁外れに向上する事になった。
ちなみに同盟以外の陸上艦では自動装填機構が無いため、小型従機であるオラムなどで砲弾を運搬、砲に装填していた模様。
自由都市同盟では帝国や聖王国から売りつけられた陸上艦に、歯車式計算機と砲弾の自動装填機構を搭載したのだ。
これによって同盟艦の射撃精度は、それまでとは桁外れに向上する事になった。
ちなみに同盟以外の陸上艦では自動装填機構が無いため、小型従機であるオラムなどで砲弾を運搬、砲に装填していた模様。
なお帝国と聖王国においても、聖華暦610年~617年において行われた第三次聖帝戦争においては、測距儀や射撃表、自動装填機構などを用いる様になる。
基本的に『科学技術ではない』とされる魔導技術においても計算は行うし、計算尺や計量器など様々な道具は使うので、徐々に抵抗感は薄れて行った模様である。なおかつ激しい戦争により、建前を論じている場合では無くなったというのもあったのだろう。
基本的に『科学技術ではない』とされる魔導技術においても計算は行うし、計算尺や計量器など様々な道具は使うので、徐々に抵抗感は薄れて行った模様である。なおかつ激しい戦争により、建前を論じている場合では無くなったというのもあったのだろう。
実際の所、聖華暦580年のラマー平原の戦いで聖王国に惨敗を喫した帝国では、第三次聖帝戦争に向けて建艦していた当時のファルコネット級軽巡洋艦で、測距儀、射撃表、自動装填機構の使用が確認されている。
また聖王国においても、同時期の艦船で同様の技術を導入し始めた記録が見て取れる。
また聖王国においても、同時期の艦船で同様の技術を導入し始めた記録が見て取れる。
事情が大きく変わったのは、聖華暦717年に勃発したシリウス戦役においてである。
シリウス船団の指導者ラシック・フォン・シュヴァーケリンの主導で開発された、エーテル索敵機による観測結果と連動した、フェアリー制御による半自動での照準システムが、撃破されたシリウス側艦船などから流出したのだ。
これは魔導工学による技術であったため、瞬く間に三大国に広まった。
シリウス船団の指導者ラシック・フォン・シュヴァーケリンの主導で開発された、エーテル索敵機による観測結果と連動した、フェアリー制御による半自動での照準システムが、撃破されたシリウス側艦船などから流出したのだ。
これは魔導工学による技術であったため、瞬く間に三大国に広まった。
そして現在、聖華暦800年代である。
帝国と聖王国においては、エーテル索敵機のデータ出力に対応してある程度の目標自動捕捉が可能となっている。
ただし敵機との相対速度やコリオリ力による誤差修正は、未だに砲手の職人芸頼りだ。
帝国と聖王国においては、エーテル索敵機のデータ出力に対応してある程度の目標自動捕捉が可能となっている。
ただし敵機との相対速度やコリオリ力による誤差修正は、未だに砲手の職人芸頼りだ。
一方の自由都市同盟では、機械式計算機、新規開発の魔導演算機などの支援により、相対速度やコリオリ力による誤差修正まで含めた射撃の自動化が為されている。
これはあくまで噂であるが、実は一部同盟艦には電子計算機が搭載されているとの話も。
これはあくまで噂であるが、実は一部同盟艦には電子計算機が搭載されているとの話も。
ところで、砲の自動照準技術は機兵に対し、どんな変化をもたらしたのか?
実は機兵に関しては、自動照準技術は800年代に至るまで、ほとんど関わりが無いものであった。
これは機兵にとって魔導砲が、ほぼ脅威では無かった事が理由である。
せいぜい支援に使えれば御の字、という魔導砲では、わざわざ自動照準システムを組んでまで強化する意味が薄かったのだ。
実は機兵に関しては、自動照準技術は800年代に至るまで、ほとんど関わりが無いものであった。
これは機兵にとって魔導砲が、ほぼ脅威では無かった事が理由である。
せいぜい支援に使えれば御の字、という魔導砲では、わざわざ自動照準システムを組んでまで強化する意味が薄かったのだ。
しかしながら聖華暦830年代。
この頃になると、自由都市同盟で法撃型魔装兵が主力部隊の支援用として大量採用される様になる。
そしてそれに搭載される法撃型魔導砲は、機兵を撃破するに足る威力を保有していた。
都市同盟軍では味方を誤射する可能性を排除するためもあり、射撃精度の向上を図るべきとの意見が上がる。
そして機体の魔導制御回路(スフィア)の余剰演算力とフェアリーによる制御技術を組み合わせた、照準補正システムが開発されたのだ。
この頃になると、自由都市同盟で法撃型魔装兵が主力部隊の支援用として大量採用される様になる。
そしてそれに搭載される法撃型魔導砲は、機兵を撃破するに足る威力を保有していた。
都市同盟軍では味方を誤射する可能性を排除するためもあり、射撃精度の向上を図るべきとの意見が上がる。
そして機体の魔導制御回路(スフィア)の余剰演算力とフェアリーによる制御技術を組み合わせた、照準補正システムが開発されたのだ。