吹替の帝王

登録日:2016/05/21 Sun 23:32:14
更新日:2025/06/01 Sun 00:02:43
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吹替の帝王とは20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンが展開していた洋画ソフトシリーズ。


◎概要

元は20世紀フォックス作品の吹替声優や翻訳家へのインタビュー記事などを掲載したホームページのタイトルだったのだが、そのタイトルを使用する形で始まった洋画ソフトのブランドである。

洋画と言えば字幕派か吹替派かで色々議論が分かれたりもする所ではあるが、近年では吹替声優による熱演によって作品に更なる魅力が増すという風に考えるファンも出始めている。
1990年代までは民放各局で映画番組が編成されており、局毎に様々な吹替音声を収録して放送していたことも多く、単純に原語音声を見るだけなのとはまた違った思い出を持っている人も多いことだろう。

吹替の帝王はそんな吹替音声に思い入れのある人たちの期待に応えるべく、発売時点で現存している各種吹替音声を可能な限り収録した上で再版されるシリーズなのである。

ネット上でも未だカルト的人気を保ち続けているシュワ映画の名作、コマンドーが2013年4月18日に発売された皮切りに、年に3~4本程のペースで20世紀フォックス関連の名作洋画が多数の吹替音声と共に再版されている。

しかも単に音声を追加収録するだけに留まらず、元のホームページと同様の声優や翻訳家へのインタビュー冊子や、当時の資料を基に復刻した吹替台本まで付いてくることもあるなど、マニアにはたまらないたくさんのおまけもついてくる。
その分通常版のソフトと比較すると値段がだいぶ高めなのがタマにキズではあるものの、純粋に吹替好きなファンからすればそこまで法外な値段設定というわけでも無い。

たまーに余計なおまけはいらないからそれを減らして値段を下げてほしいという声も出てくるらしいが、実際の所、制作費の大半は吹替音声の二次使用料とその他諸々に充てられているのでそれも難しいとの噂。

基本的には当時のテレビ音声をそのまま流用しているのが多いので、カット部分については字幕に切り替わることもしばしばだが、コマンドーやプレデターでは放送当時のキャストを可能な限り再集結させ、カット部分の追加収録を敢行したノーカット版が発売された。

こういう形式になった理由がそもそも、吹替音声を収録したコマンドーのDVDを出したら売上数が爆発的に伸びたらしく、原語版しか販売してなかったブルーレイ版で同じことをしても既にDVD版を持っている人には見向きもされないだろうということで、ならばDVD版には無い豪華仕様にしなければ、という考えから始まったとのこと。

また、本企画がきっかけで、ワーナーやユニバーサル、ソニーピクチャーズなど多くのソフトメーカーも追随し、似たような趣旨の洋画再販ブランドを立ち上げたり、テレビ版吹き替えを標準収録したBlu-rayが多数発売されるようになった。


◎主なラインナップ

コマンドー

「来いよベネット! 銃なんか捨ててかかって来い!!」
「来いベネット! そんな銃なんておもちゃは捨てて!」

吹替の帝王の始まりにして根強い人気を持つ筋肉モリモリゴリ押しマッスルアクション大作。
ネットでも特に知名度の高い通称玄田版ことテレビ朝日版の吹替音声に加えて、屋良版ことTBS版も加えた一品。
さくら家の親子喧嘩メイトリックスベネット某バ○ライカシンディなど、玄田版に負けず劣らずで小気味良いジョークに満ち溢れた吹替である。

記念すべき第一弾だからなのか、お馴染のインタビュー冊子や吹替台本に加え、わざわざその部分だけを追加収録までしたディレクターズカット版のDVD2枚組までついてくるなど至れり尽くせりな内容となっている。

更に更に吹替の帝王第8弾では『コマンドー』30周年記念としてディレクターズカット音声収録のブルーレイが発売。
ベネット役のヴァーノン・ウェルズ氏自ら宣伝してくれた。「プロですから!」
挙げ句に既存の吹替2つに加えて吹替の帝王限定の第3の日本語音声まで新録されるという気合の入りようである。
こちらは元の玄田版とそう変わらない物の、ベネット役がまさかの強力若本ということで話題になった。


ダイ・ハードシリーズ

「おっちゃん、よく来てくれたな!」
「パーティーにようこそ! アホンダラ!」
「やっとわかったかい相棒!」

『コマンドー』に続く第2弾として登場したのがブルース・ウィリスの出世作、不死身オヤジの奮闘記として名高いシリーズ。
同日に『初代』、『2』『3』のシリーズ三作分のソフトが同時発売されるという、『コマンドー』に負けず劣らずのインパクトで登場。
強気頑固オヤジの樋浦版、ひょうきんでノリの軽さがウリの野沢版、落ち着いた低音渋ボイスの村野版と、既存のソフト版に加えてテレビ朝日版、フジテレビ版を追加収録した合計3つの音声による『ダイ・ハード』が楽しめる。

そして第11弾には既存の中村秀利版にソフト版吹替担当である樋浦版を追加収録した『ダイ・ハード/ラストデイ』が発売。
唯一ラインナップに無い『ダイ・ハード4.0』に至っては通常版の時点で野沢版、樋浦版、2つの吹替が収録されているなど、シリーズ通して最も吹替収録に恵まれているといっても過言ではない。


ロボコップ

「貴方は過度の興奮状態にある、救急治療センターに連絡する」
「情緒が不安定になっているようですね、救急車をお呼びしましょうかお嬢さん」
「貴方はショック状態にあります、レイプ救済センターに連絡しましょう」

第4弾として登場したのが『ターミネーター』と肩を並べる低予算SF大作。
勇ましい渋声の菅原正志のDVD版に加え、ある意味ロボコップという役所に相応しい平坦で落ち着きのある津嘉山正種のビデオ版、そしてレイプ救済センター発言で別の意味で有名な磯部勉のテレビ朝日版、計3種類を収録している。
玄田メイトリックス、野沢マクレーンなどと同じで人気が高いことの多いテレビ朝日版音声だが、ロボコップについては「殺してでも連行する」の部分が吹替で聞けないのが惜しいところ。


スピード

「知ってるかい、異常な状況で結ばれた男女は長続きしないって言うぜ」
「言っとくけど、異常な状況下で結ばれた二人は上手くいかないって話だよ」

第5弾に登場したのがキアヌ・リーブス主演、怒涛のノンストップハイスピードアクション大作である『スピード』。
安定のソフト版の山寺版に加え、吹替ファンからは至高と名高い(最初期のキアヌ・リーブスのFIX声優としても名高い)宮本充のテレビ朝日版、やや変化球な江原正士のフジテレビ版を追加収録。
他の帝王作品にも言えることだが主役以外の吹替の比較も楽しみの一つ。
特に『スピード』は悪役のハワード役の吹替声優が穂積隆信、野沢那智、青野武とどれも見事な狂人っぷりを発揮しており、全員がハマリ役そのものである。

特典として続編である『スピード2』を初Blu-ray化した吹替音声完全版も同梱。
しかも『初代』と『2』それぞれに専用のケースまで付いてくるというコレクター感涙の品揃えである。


ターミネーター

「失せろこの間抜け」
「失せろブタ野郎」
「うるさいバカ野郎」


第9弾として登場したのが今やシュワ映画の大作の一つとして知らぬ者はいないSFアクションの金字塔である『初代ターミネーター』。
DVD版、ビデオ版、テレビ朝日版、テレビ東京版の計4種類の吹替音声を収録。
昨今、シュワちゃんの吹替と言えば玄田哲章というイメージが強いが、本作のような感情無き殺人マシーンのような役柄には、ビデオ版、テレビ朝日版の大友龍三郎の方が合っているという声も多かったりする。

また計4種もあるということでターミネーター以外の吹き替えについてもやたらと多種多様で豪華。
サラについては洋画吹替御用達のアンパンヒーローだったりマサラ人だったりさくら家祖母だったり眠り探偵の妻だったり。
カイルについても金持ち巡査だったり赤い彗星だったりバーローの親父だったりまんま某バウアーだったりと実に様々。
特にテレビ東京版でカイルを演じた某バウアーこと小山力也は、何の因果かその後のシリーズ新作である『ターミネーター:新起動/ジェニシス』にてジョン・コナーの吹替をやっていたりする。




その他にも『猿の惑星』、『ホーム・アローン』、『エイリアン』、『プレデター』といった数々の名作がラインナップされている。
2016年にも新作に合わせてなのか6月に『インデペンデンス・デイ』、そしてブランド最多の計6種もの音声収録となる『エイリアン2』が8月に発売したが、2018年11月3日に『ポセイドン・アドベンチャー』が発売されるまでは本ブランドでのリリースが途絶えていた。

その間にもフォックス・プレミアム・ブルーレイの一部作品にテレビ版吹き替えを収録したりして、吹き替えに力を入れたソフト販売を継続していた。
ブランド再開から間もなく『プレデター(初代)&プレデター2(第1作は2013年発売版から一部音声を修正したバージョンアップ版)』、2019年4月に『エイリアン3(フジ版・テレ朝版・ソフト版・ソフト完全版収録)』・『エイリアン4』・『プロメテウス』らの発売など、まだまだ今後の新作についても期待ができそう……



……であったが……











◎ディズニーによる20世紀フォックス買収の影響

2019年、親会社である21世紀フォックスをウォルト・ディズニー・カンパニーが買収。
その為20世紀フォックスのスタジオはディズニー傘下となり、2020年には名称を「20世紀スタジオ」に変更した。

今後、フォックス時代の作品を4K UHD等で発売する際は当然ディズニーが発売元となるので、それまで販売を担当していた「20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント」は消滅、日本支社も解散してしまった。

そしてディズニーは吹替のオフィシャル化をどの映画スタジオよりも推し進めているため、他のソフトメーカーと違ってテレビ版吹き替えを収録したブルーレイを一切販売しなかった。
そもそもディズニー制作の実写映画の旧作は、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズやタッチストーン・ピクチャーズの作品を問わず、ブルーレイ化されないどころか4:3のレターボックス仕様のDVDの発売に留まっている映画が殆どだったりする。
フォックスがディズニーに買収された事で、吹替の帝王の存続を含めた旧作の新規のソフト化自体を危ぶむ声は少なくなかったが、テレビ版の吹替音声を収録するだけで二次使用料等が発生するこのブランドはディズニーの方針やビジネスの都合上割に合わないと判断されてたのか、現在このシリーズは事実上の凍結状態である。

解散前に発売された『ダイ・ハード』や『エイリアン』等の4K UHDパッケージには、2枚組の片方に吹替の帝王で発売されたものと同じディスクを収録しているが、解散後に発売された『スピード』や『ホーム・アローン』はソフト版吹替1種のみ収録の通常版ディスクである。

2021年にはホームページも削除されてしまった為、今後の展開はディズニーの方針が変わらない限り絶望的といっていいだろう。

会社である以上、余計な出費を抑えて運営していかなければならないので致し方ないのだが、ディズニーの吹き替えに対する方針を抜きにしても、テレビ放送で映画を楽しんでいた吹替ファンにとっては非常に残念な結末を迎えてしまった。
なお、フォックス・プレミアム・ブルーレイとしてBD化され、フォックスの解散後にディズニーから廉価版として再販された作品(『ヒート』、『L.A.コンフィデンシャル』、『Mr.&Mrs.スミス』など)は、テレビ版とソフト版の2種類の吹き替えを収録した仕様で発売された。




吹替っていいもんですよね。追記・修正お願いします。

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最終更新:2025年06月01日 00:02