古代魚(魚類)

登録日:2017/8/29 (火曜日)13:23:00
更新日:2025/08/10 Sun 00:40:20NEW!
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古代魚とは、祖型的(原始的)な性質を持ったまま、現代まで絶滅せずに生き残ってきた様々な魚達のことである。

概要


古代魚という言葉は、日本の観賞魚業界が発祥とされ、80年代後半から用いられ、90年代には定着したようである。
従って、英語には相当する単語が無いが、直訳してAncient Fishと呼ぶこともある。

科学的な定義もないが、概ねデボン紀以降の古生代からジュラ紀以前の中生代に出現した系統で、尚且つ当時の形質を色濃く残す「生きた化石」と呼べるものを指すことが多い。
一般的に生物図鑑では系統の古い順に種が掲載されていることが多く、従って、古代魚は魚類図鑑では最初の方に載っていることが多い。
逆に、理由は不明だが、観賞魚業界関係者が主導で執筆・出版される熱帯魚カタログの類では最後の方に載っていることが多い。

遺存的なグループであることが多く、コイスズキといった「普通の魚」とは一線を画すような特徴的な外観の種が殆どで、観賞魚としては大型で長寿、更に肉食性のものが多い。

現存する魚類全体で見た場合、最も系統が古いのはヌタウナギやヤツメウナギなどが属する無顎魚類であり、次に古いのは軟骨魚類の全頭類に属するギンザメ、そして板鰓類の各種のサメと続くが、これらの魚にはネコザメHeterodontus japonicusやイヌザメChiloscyllium punctatusなどのごく一部の種を除いて、観賞用に供される種がいないため、古代魚として扱われることは少ない。

本項目では、

  • 板鰓亜綱エイ区(Elasmobranchii/ Batoidea)
  • 肉鰭亜綱(Sarcopterygii)
  • 条鰭亜綱(Actinopterygii)

のいずれかに属し、観賞魚として一定の流通量がある(あった)種を中心に紹介する。

板鰓亜綱(ばんさいあこう)エイ区


鰓を支える骨である鰓弓(さいきゅう)一つに、鰓裂(さいれつ)と言うスリットがほぼ一つずつ割り当てられ、全身を楯鱗(じゅんりん)という、歯に近い構造と成分を持った鱗に覆われるグループで、鰓裂が体の側面にあるものはサメ、腹面にあるものはエイと呼ばれる。
観賞魚業界では、特定のエイがしばしば扱われる。

◇淡水エイ

日本のアカエイやその近縁種は、しばしば河川の汽水域に侵入し、時に淡水域まで遡上するが、世界には一生を淡水域で暮らすエイがいる。
南米産のポタモトリゴン科Potamotrygonidaeのエイは、その名(ギリシャ語で「川のエイ」の意味)が示すように、完全に淡水域に適応したグループである。外見こそ海産のエイと殆ど変わりないが、直腸の塩類腺が小さくナトリウムイオンや塩素イオンの体外排出を抑えていたり、尿素の腎臓の透過率が高く、体内保有量を少なくしていたりと、浸透圧関係を始めとして生理学的には特異な形質を有する。
南米の大河川の殆どが大西洋側に開口するため、かつてポタモトリゴン科は大西洋産のアカエイ科が河川を遡上し、徐々に淡水域に適応したものが期限だと考えられてきたが、エイの寄生虫のDNAを解析したところ、太平洋産のアカエイ科の寄生虫のDNAと配列が近いことが判明し、アンデス山脈が隆起する以前の新生代第三紀中新世(約2000万年前)頃に、当時は太平洋側に流れていた南米大陸の諸河川を遡上した、あるいは陸封されたエイの末裔であるとのことである。

70年代の熱帯魚ブーム頃から輸入が開始され、90年代から00年代には様々な種が日本に紹介されて、一時期は専門店に近い店舗が経営されるほどのジャンルとなった。近年は環境破壊や乱獲が祟り、ワシントン条約によって商取引が規制される種もおり、非該当の種でも主要産地のブラジルやペルーからは自然保護政策の積極化に伴い、中々輸出許可がおりなくなっており、更に、東日本大震災の影響による大型魚飼育の不人気化など、ジャンルとしては下火になりつつある。
一方で、台湾やシンガポール、インドネシアでのブリード個体の流通が安定しつつあることや、淡水魚展示に力を入れている水族館では希少種の生息域外保存を兼ねて定番展示種化しつつあるなど、前向きな状況も存在する。

  • モトロ

  • ポルカドットスティングレイ

  • タイガースティングレイ

  • クロコダイルスティングレイ

  • アハイアグランディ

  • プレシオトリゴン


肉鰭亜綱(にくきあこう)


筋肉質の鰭(ひれ)を持つ事で分類される。この為、泳ぐというよりも歩くと言った方が近いかもしれない。
手足の発展途中とも考えられる事から、四肢動物(陸上脊椎動物)はこのグループから進化したものとも考えられている。


白亜紀(約6500万年前)の頃のシーラカンスの化石は種類・数共に多く発掘されていたが、それ以降の時代はパッタリと化石が途絶えた為、
白亜紀に大量絶滅*1したと考えられていたが、1938年に南アフリカで、1952年にはインド洋のコモロ諸島で、1997年にはインドネシアのスラウェシ島近海で現存種が発見された。
現存種は深海魚として生息しているが、深海は環境の変化が少ない為に生き残れてきたのではないかと考えられている。
もしかすると、日本近郊の深海でも生息しているかもしれない。
日本で「生きた化石」と言えば、シーラカンスを指し示すほど有名になった。
ワシントン条約によって飼育はさすがに難しいが、沼津港深海水族館では特別に許可をもらって展示されている。
詳細はシーラカンス(古代生物)の項目へ。


ハイギョ

デボン紀(約4億年前)にハイギョの化石が発見されている。
現存種は淡水にしか生息していないが、その頃の化石には海水で生息していたものも含まれている。
ハイギョ(肺魚)と呼ばれる通りに肺で酸素呼吸する点が特徴であり、幼体は鰓(えら)呼吸であるが、成長するに従って鰓が退化して肺が発達して肺呼吸となる。
数時間毎に水面に上がって肺呼吸する必要があるので、これが出来ないと水に溺れて死んでしまう。
また、二酸化炭素の排出は鰓から水中へと排出する為、水から上がってもやがて死んでしまう。
ハイギョが長らく生き延びられてきたのは、水の無くなる乾季になると「夏眠」といって体の周りに粘膜のカプセルを作って土の中で眠り続ける事が出来る為。
「夏眠」は一時的なものではあるが、環境変化に強い事は事実である。
ワシントン条約によって制限されていない、アフリカハイギョ・ミナミアメリカハイギョは個人でも飼育可能。
なお、跳躍力も高くて水槽から跳んで逃げるので、水槽のフタは厳重に。
こちらも項目があるので詳細はハイギョの項目を参照していただきたい。

主な条鰭綱(じょうきこう)


現生の魚類の大部分がこれに含まれる。肉鰭綱以外のグループといった方が早い。


近年ではワイルドの生育領域が限られており、流通しているほとんどは東南アジアで人工繁殖させた個体である。詳細はアロワナの項目へ。
特に「紅龍」と呼ばれるアジアアロワナは高価(数万~数十万)で取引されており、その真っ赤な身体が幸福の龍を思わせるのか中国当局が買い漁ったとも。
最大で1メーター越えとなるシルバーアロワナは人工繁殖によって稚魚が非常に安価で流通しているが、1年も経たずに30センチ越えの成長をするので、設備投資が想像以上にかかる。
この様に、生体価格よりも設備投資の方が超高くなる事もあって、安易にシルバーアロワナを購入して成長すると持て余す人も多い(放流ダメ、絶対)。

ピラルクー

アロワナ目に含まれるが、成魚はアロワナよりも大きくて3メートルほど。最大のものになると5メートル級で、「世界最大の淡水魚」とも言われている。
小魚等の肉食性ではあるが人食いではない。ただし、その巨体がぶつかってボート転覆などの被害が出る事はある。
また、ピラルクーが跳ねた時の尾が漁師に直撃して骨折したり、頭への打ち所が悪くて最悪の場合は死亡するといった事故もあるほどに力強い。
鱗自体が大きく固くて靴べらにも出来るほどなので、その直撃ダメージは然るべき。
個人的な飼育は可能ではあるが、小型のプール並の設備が必要になるので水族館で見て楽しんだ方が賢明だろう。
食用として現地の市場では販売されているが、個体数が減少している為にワシントン条約の保護動物に指定されている。

ガー

アリゲーターガーやスポッテッドガーが有名で、成体は2メートル越えとなる。
性質自体はおとなしく、肉食性ではあるが人食いではない。ピラルクー同様に生きた鈍器であり、鋭い歯やナイフを通さない鱗(ガノイン鱗と呼ばれる)を持ち、
捕獲した時に暴れられてダメージを受ける場合がある。現地ではスポーツフィッシングの対象魚となっている。
日本では誰かが飼育放棄して放流したガーが、琵琶湖や皇居や名古屋城のお堀などの河川に定着しており、近年問題となっている。
ブラックバスやブルーギルほどの深刻な悪影響を与える事は無いものの、生態系を脅かす事は十分に考えられる為、2018年に特定外来生物に指定された(放流ダメ、絶対)。

チョウザメ

水族館で見た人も多いであろうチョウザメは、高級食材であるキャビアの原料としても有名(お陰で乱獲されて個体数は減少したが)。
その肉質も美味なだけではなく、健康と美容に良いコラーゲンやタンパク質をたっぷりと含んているので、ヘルシーなチョウザメ料理は女性に人気。
蝶々のような鱗を持った鮫(に似た体型)なのでチョウザメと呼ばれているが、サメの種類では無くてサバやアジの仲間であったりする。
西洋ではロイヤルフィッシュと呼ばれ、中国でも煌魚(エンペラーフィッシュ)と呼ばれている。
1~2メートル級(種類によっては5メートル越え)で、150歳まで生きるものもいる。
昔は日本の河川でも産卵時に見かける事はあったそうだ。現在は北海道や茨城県や宮崎県で養殖されている。


ポリプテルスとは「多くの(Poly)ひれ(pterus)」という意味で、恐竜を彷彿とさせる複数の背びれが背中にある。
胸びれのつけ根の筋肉が発達して四肢動物の腕のようになっている為、むしろ肉鰭類に近い。
種類によって、30センチから1メートルと様々で、鰓呼吸と空気呼吸を併用している。
生息地はアフリカ諸国の川や湖でガーと同様にガノイン鱗を持っており、夜行性の為か猫と同じように目に光が当たると光って見えるのも特徴である。
肉食性で夜間になると小型の甲殻類や小魚やカエル等を捕食する。
比較的丈夫で、他の古代魚と違って複数飼育も可能なので、底面積の広い水槽で同種もしくは大人しい種とのんびり飼うのがオススメ。
意外と水槽の飛び出し事故が多いので、対策が必要。
詳細はポリプテルスの項目へ。

モルミルス

上記のポリプテルスと同じくアフリカ諸国の河川や湖に生息している古代魚。
全てが淡水性の種で目が非常に悪いのだがそれを補うために発電する魚として有名。
とはいってもデンキウナギやデンキナマズのように他の生物を殺傷する威力はなく、
あくまで目が悪いのを補うためにレーダーのように使う違いがあるのだが。
下顎が飛び出していたり、ストローのようになっていたりと特殊化した口を持った種が
多いのも特徴でその奇妙な姿からアクアリウムでも人気の種。
しかしその特殊化した口故に人工飼料は食べにくい(全く食べないわけではないが)ので
冷凍赤虫などを与えた方がよいとされている上、痩せやすいので意外と飼育は難しいとも言われる。
エジプトなどアフリカの国によっては食用にしている地域もあり、意外と美味だそうだ。
ちなみに体格比で見れば脊椎動物の中で最大の脳を持っており、ボールで遊んだりと
実際に魚類の中では高い知能を示すとか。
モルミルスと聞いてパッとしない人もいるかもしれないが水族館や図鑑で見た人も
多いであろうエレファントノーズフィッシュもこの仲間である。
詳細はモルミルスの項目へ。

ナイフフィッシュ

東南アジアや南アジア、アフリカの淡水域にかけて生息している古代魚。
鱗がなく、ツルツルとした体表と腹鰭がなく、尻鰭と尾鰭が一体化したオタマジャクシか
ウナギを思わせる鰭を持っている等何とも言えない体型が特徴で小魚や甲殻類、カエルなどを捕食する肉食性。
小型種もいないわけではないが基本的に大型化する種類であり、大きな種だと1mを超えることも。
あまり類を見ない形質からペットとしても人気であるが現地では食用としても漁獲、
養殖されており実際に美味であるという。
見た目からはわかりにくいが実はアロワナに近い仲間でもある。

ターポン

南北アメリカ大陸~アフリカ沿岸といった大西洋に面した国々に生息している古代魚。
銀色に光り輝く鏡のような鱗に覆われており、目の後ろまで裂けた大きな口を持っている。
力が強いので釣り魚として人気ではあるが、一方で肉は何故か金属のような匂いを放っており、とても食べられたものではないという。
平均して1mを優に超え、大きなものは2m以上もの巨体に成長する。
その寿命も長く、一説には50年以上生きるのではないかと推測されている。
近縁種のイセゴイは主に太平洋に面した国々に生息しており、日本でも沖縄県などの温暖な所には生息している。
こちらはターポン程大きくならず、最大1.5m程。
どちらも巨大なニシンやイワシを思わせる姿だが類縁関係は全くなく、こう見えてウナギに近縁という不思議な魚である。



詳細はイセゴイ/ターポンの項目へ。





追記・修正は餌やり後にお願いします 。


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最終更新:2025年08月10日 00:40

*1 多くの生物が一度に絶滅することは大量絶滅と呼ばれ、デボン紀以降では4回起こっている。