鵺(妖怪)

登録日:2011/04/30 Sat 01:34:46
更新日:2024/11/25 Mon 15:35:38
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(ぬえ)


画図百鬼夜行』等では“鵼”と表記されている*1
その他恠鳥、奴延鳥とも。

平家物語』にて平安時代末期に現れたとされる怪異。


概要的なもの

文献により多少の違いはあるが、
頭はで体は、手足がで尻尾は
といった感じで表される場合が多い。誰が呼んだか「日本のキマイラ」。

決して未確認飛行少女でも、雷撃を操るロリ太転依でも、妖怪化した安倍晴明でもない。
源頼政に二度も射落とされる好き者である。

(ぬえ)という名前も正式な呼称ではなく、「()のような声で鳴く変な生き物」と言われていただけに過ぎない。
この()も正体不明の夜鳴く鳥とされていたが、*2時代の流れと共にいつしか妖怪の名前として定着。
「フランケンシュタインの怪物」がそれ単体でフランケンなどと呼ばれているのと同じ。

現代でも正体の知れない人などを「みたいな人だ」と表現したりする。…が、ほぼ死語である。

酒呑童子、羅生門、土蜘蛛、疫病神…
ホント平安京は地獄だぜ! フゥハハーハァ!!


伝承

時は平安時代末期、仁平(1151~1154)の頃。
当時、天皇の住む御所の屋根上に、毎夜丑三つ刻に黒い雲が懸かり妖しげな鳴き声が響くという事件が起きていた。

この
ウキョロキョキョーン!! フギャッフギャッ!!
という感じの身の毛も弥立つ恐ろしい鳴き声に恐怖した幼い近衛天皇は遂に身体を崩し、床に臥せるようになってしまった。

これを知った世のショタコン共の怒りが爆発。
「政府は何をやっているんだ!!」
との声が上がっていた。

大臣達も色々と手を打ってはみるものの、一向に成果は挙がらない。
で、次の一手として、故事にならい武人による討伐を試みる。

で、その『武人』として選ばれたのが、
かの酒呑童子や土蜘蛛を退治したことで有名な源頼光の四代目、源頼政であった。

その夜、頼政が御所の床下に身を潜め様子を窺っていると、早速屋根上に黒い雲が降りてきて、
トッピロキー!! キロキロー!!
といった感じの気味の悪い鳴き声が響いてきた。

頼政はすかさず床下から飛び出し、雲に向かって矢を放つ。
このとき用いたのは雷上動(らいしょうどう)という、頼光から受け継がれてきた弓であるという。

すると雲の中から何かが転がり落ちてきた。

頼政の部下・猪早太は、その何かに飛びかかるや短刀で一突き、何かはそのまま息絶えた。


頼政は大臣等と共に月明かりの下、死んだ何かをよく見てみると、
頭はで体は、手足がで尻尾は
と、面妖としか言いようのない風体。
皆口々に「キメェ」という始末。

しかしこのまま放置も出来ないので、やむを得ず死体はぶつ切りにしたのち船に乗せ鴨川へと流された。


二度目の鵺退治

時は平安時代末期、応保(1161~1163)の頃。
上文の「近衛天皇」を「二条天皇」に変えてそのまま読み直して下さい。


おしまい


後日談

後日、この功により頼政は天皇より「獅子王」という刀を賜ることになった。

殿中、大臣が刀を渡そうとした時偶然ホトトギスが二、三度鳴いた。
これを聞いた大臣は

「時鳥なほも雲井にあぐるかな」
(訳:あのホトトギスみたいに遥か空まで名を上げましたね)

と上の句を詠うと頼政はその場で、

「弓張月のいるに任せて」
(訳:弓に任せて射ただけですよ)

と返した。
この一件で頼政の名声は更に高まったとか。

その頼政だが、鵺の正体は彼の母だとする説もある。
源氏再興を龍神に願った結果鵺となり、息子に手柄を取らせたという。
いい話……っぽいけど、ぶっちゃけ自作自演のような……

一方鵺はというと、

鴨川を一人(?)漂いながら、
「この扱いは無いわ~」
とぼやいてる姿が目撃されたとか何とか。

その後は芦屋川と住吉川の間に流れ着き、そこで「鵺塚」が造られ弔ってもらっている。

鵺塚の場所

  • 兵庫県芦屋市
  • 大阪市都島区
  • 京都市左京区(伝承との関連性は不明。どうやら古墳時代の墳墓らしい。)

また静岡県の浜名湖四方に鵺の死体が落ちてきたともされており、浜松市北区の地名「鵺代」「胴崎」「羽平」「尾奈」はそれぞれ鵺の頭部、胴体、羽、尾が由来となっている。


その後の頼政

ここで名を上げたという頼政だが、この後は史実では保元の乱*3で、以前より接近していた美福門院*4の支持する後白河天皇方に付き勝利者の一人に。
続く平治の乱*5でもやはり美福門院との縁から乱を起こした藤原信頼に付くも、その美福門院がほどなく信頼から平清盛に鞍替えしたため、彼女と同行を共にした頼政も結果的にまた勝者に。
この二つの乱で源為義と源義朝親子のように主だった源氏の有力者がいなくなったこともあり、破格の従三位にまで昇進し、清和源氏の長老的立場となる。
……ここまでは良かったのだが、平家物語で有名な治承・寿永の乱では以仁王と共に乱の口火を切り、宇治川の戦いで命を落とす。

この乱の後に鎌倉幕府が開かれるのは有名だが、彼の子孫が栄達を極めることはできなかった。


創作での鵺


  • 『鵺』
平家物語を題材とした世阿弥の演目。
摂津国芦屋の里(現代でいう兵庫県芦屋市)を訪れた旅の僧が川沿い*6の御堂に泊まった日の晩のこと。
朽ち果てた小舟に乗って現れた異様な姿の男は自らを鵺の亡霊と称し、頼政に退治された事とその顛末を語る。


アニメ

本作での鵺の正体は、他の星から地球を調べに来た調査員、つまり宇宙人である。
夜な夜な奇声を上げて天皇を恐怖のどん底に陥れたのは伝承通りなのだが、なぜそんなことをしていたのかと言うと、実は地球の美しさに感動して喜びの歌を歌っていただけだった。
だが地球人、それも平安時代の人間にとっては恐怖以外の何物でもなく、頼政に射殺されてしまう。
35話と36話では、殺された鵺の息子であるクエ星人ムエが、復讐の為に21エモンをつけ狙う。
なぜ全く関係のない21エモンが狙われたのかと言うと、「地球人がクエ星人の外見的区別が全くつかないのと同様に、クエ星人の目から見ても地球人は全く区別がつかなかった」「地球人の寿命が100年もないことを知らなかった」この二つの要因が重なったため。
最終的に誤解が解けて和解し、モンガーと力を合わせて惑星を破壊するために飛来したミサイルの信管を破壊した。

ちなみにこの話は『モジャ公』のエピソードを由来にしており、そっちでは「なぜクエ星人が地球を訪れていたのか」という理由は明かされなかった。


ゲーム

ダンジョン「風神宮」で初登場する妖怪。
下位種のフシギダネ鬼灯や上位種のカマクラ雪童子と同様に、
四足歩行しつつ飛行時はガメラのように回転しながら飛んで戦う。
他の創作物では見ない特徴として、分福茶釜の要素を取り入れてるのか胴体(つまり狸部分)が茶釜になっている。
普段は火を吐いたり尻尾の蛇を鞭のように投げたり飛行中に玉を飛ばして攻撃してくるが、
一定回数攻撃を加えると気絶するためそこで初めてダメージを与えられる。
ただしこの状態では通常攻撃を加えると熱湯を吹き出すカウンターを仕掛けてくるため、
筆業[一閃]や勾玉などで遠距離から攻撃を加えるか、鏡の裏装備でガードするのが良いだろう。
ちなみに熱湯はこのダンジョンで手に入る筆業[疾風]で吹き飛ばす事も出来る。

正体不明の正体、虎だったり鳥だったりする奴。「正体を判らなくする程度の能力」を持つ。
"ぬえ"と言う名を冠し種族も"鵺"だが、上記の伝承に登場する鵺と同一の存在というわけではない。
詳細は個別項目を参照。

  • 女神転生シリーズ
「妖獣」の一体として多くの作品に登場。
何気に「女神転生」から「真・女神転生V」までのナンバリング全作品で皆勤賞。種族もずっと妖獣という筋金入り。
目立った扱いを受ける事こそ少ないが、シリーズおなじみの悪魔として完全に定着している。

金子一馬によってイラストが描かれたのは「真・女神転生」「デビルサマナー」「真・女神転生III」の3作。2000年代以降の作品では、ほぼ真IIIデザインで登場している。
むかし(真IIIあたりまで)はマヒ系の特技を得意としており、「葛葉ライドウ対超力兵団」で雷電属になった頃からは電撃属性使いにシフトした。
他、ケモノという事で噛みつき・ひっかき系の特技はどの時期でもよく使う。

『2』から登場したフシギ族の古典妖怪。
『2』ではムゲン地獄の6~7層、『3』では妄想世界に出現する。
スキル「閃光」は一度だけ先制攻撃ができる効果を持ち、必殺技「雷電落とし」は敵単体に雷を降らせる攻撃となっている。

色違いに風魔猿がおり、『2』では過去ガシャの黄色コインの大当たり枠として入手できる。
『3』だと「だるまっ塔」の3階にて出現。お供の聖オカン2体が回復持ちなのでそちらから先に倒したいところ。

「ヌエ」名義。アプリ版『3』にて開催された、三次もののけミュージアムとのコラボイベントで実装。
伝承の通り様々な動物(のフレンズ)の特徴が入り混じった容姿をしており、
ニホンザルの髪色にトラのアームカバーとニーハイ、腰からはヘビのような尻尾、そして胴にはタヌキのものと同じデザインのセーラー服を纏っている。誰だ胸はホルスタインだろとか言った奴は。

一人称「わっち」、二人称「おまはん」など、京都弁を中心に様々な方言が混じったような喋り方をする。
「妖怪は恐れられてなんぼ」をモットーとしており、その立ち振る舞いは飄々としながらも傍若無人。ライバルのライリュウはもちろん他のフレンズとも殆ど慣れ合おうとしない。

漫画

登場人物の一人、伏黒恵の使役する式神として登場。
外見は髑髏のような仮面をつけた鳥。人が掴まったまま飛行できる他、電気を纏う能力を持つ。

  • 鵺の陰陽師
本作の主要人物であり、名前もそのまま「」として登場。
作中の敵役である「幻妖」と呼ばれる存在の一角であり、主人公・夜島学郎の通う高校に60年以上は封印されているが、かなり人間に好意的。
時に人を襲う幻妖を退治するため、学郎と契約を結び力を与えた。
封印されている割には一通り最新の漫画やゲームを揃えているなど大のサブカル好きだが初対面の相手にも容赦なくハメ技を仕掛ける

その他

日本支部が収容しているオブジェクトに「SCP-115-JP 鵺」というSCPがある。
妖怪ではなく「謎の物質でできた、近くの人間の願いを無差別に叶える意思を持った六角柱」ではあるが、付近の人間の思考を読み取る点から鵺に喩えられたと思われる。
…が、このSCP、収容方法が明記こそされてはいないが非人道的な手段であることが報告書で示唆されている。

  • 江戸小咄
ある男が絵師の家の門をくぐり、「どうかお願いします」と頼みました。
「はい、どちらから?」
「いや、ちょっとお願いがありまして。どうか墨絵を一枚、描いていただきたいのです」
「はい、何をお描きしましょう?」
「ええ、猿と蛇が並んでいるところを描いていただきたいのです」
「かしこまりました。しかし、珍しいご依頼ですね。何か理由でも?」
「七つ目*7ですし、私が申年(猿年)生まれで、女房が巳年(蛇年)なので」
「なるほど、わかりました。ところで、お子様はいらっしゃいますか?」
「いえ、子供はおりません」
「はあ、それは残念。もしお子様が寅年(虎年)生まれであれば、これで鵺が一匹完成するのですが」
『諢話江戸嬉笑』より


余談

  • レッサーパンダ?
日本でレッサーパンダの化石が見つかっていることから、鵺の正体は平安時代に目撃されたこのレッサーパンダ*8の生き残りではないかという説。
SNS等で拡散され話題になったが、提唱者曰く思いつき程度の考察であり、そこまで支持しているわけではない様子。



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最終更新:2024年11月25日 15:35

*1 常用漢字では無い為に表示や変換されない場合もある。

*2 現在ではトラツグミと考えられている。

*3 後白河天皇と崇徳上皇、および両者の支持者の対立による内紛

*4 玉藻前のモデルともされる鳥羽法皇の寵姫

*5 後白河上皇側近の信西に対するクーデター

*6 海岸とも

*7 自分の干支から数えて七番目にあたる干支で、これを絵にして身近に置くと幸運を招くと信じられていた

*8 現代の種よりも大きかったとされる