一九七X年。九月十日。関東を襲った未曾有の大地震により、首都東京は壊滅。
関東の広範な地域も他の地域と断絶した。
しかし、人外魔境と化した関東にも、その地に残り生き残ろうとする人々が居た。
……大地震から一年。
破壊された関東の土から立ち上がった天を衝くような巨人は、浮浪児達を率いる少年、逞馬 竜と出会う。
そして、この出会いこそが後に多くの人のの運命を巻き込みながら繰り広げられる、関東の未来を決める物語の最初のうねりを生むのであった。
※『バイオレンスジャック』のプロローグとなる物語で、シリーズ全体の最重要登場人物の一人である逞馬 竜が、如何に地獄地震から生き残り、浮浪児達のリーダーになるか、までを描く。
幸福だった逞馬家の様子を中心に描かれる作者入魂の大震災の場面は、単なるプロローグに留まらない程の迫力で、この異常な世界の成り立ちと凄惨な物語が繰り広げられる理由に説得力を持たせている。
【主な登場人物】
■逞馬 竜
震災直後の年齢は十一歳。
『デビルマン』宜しく、大地震の場面では
読者に語りかけてくる。
名前だけは立派だが、女系家族に生まれ、姉達や母親に甘やかされて育ったひ弱な都会っ子だった。
しかし、大地震から偶然から生き延び、更には最愛の姉 ユリ子に会うために自力で巨大な炎を乗り越えた辺りから大きな運命を味方につけていくことになる。
ユリ子と死別した後でたった一人となるも、ユリ子の最後の姿と言葉を受けて自分が誰かを守れる強さを持つことを決意し、自分より小さなブンタと出会い、彼を拾ったあたりから意識に変化が出始める。
それからも他の子供達と出会い、仲間を増やしていき、やがては浮浪児グループの一つのリーダーとなる。
自分達が獲ったハゼを力づくで奪っていた不良青年グループに逆らったことで痛めつけられるが、そこに現れたバイオレンスジャックにより救われる。
……この時、ジャックは逞馬のみを見つめていた。
当所は、自分達を助けてくれたジャックに無邪気にはしゃいでいたが、“腹一杯食わせてやる”と言うジャックに関東スラム街のレストランに連れていかれ、実際に豪華な食事にありつくが、
割り勘と称したジャックにより、店を守る用心棒達と対決させられる羽目に陥る。
大体はジャックが倒したものの、
この時に逞馬は初めて人を殺すことになった。
その後は、スラムキングに逆らったことでスラム街の周囲に住む浮浪児達が狙われる危険を他のグループに訴えるも、逆にこうなった責任を他のグループに問われ、仲間達がリンチを受ける。
ピンチの中で機転を働かせ、そもそもは
ジャックが原因であることを示し、流石にジャック相手では子供達ではリンチ出来ないという現実を示しておいてから、ジャックと共にキングから
浮浪児皆殺しの為に送り込まれた外道会と全員で戦う道を選ばせることに成功する。
そして、対決の場では大地震をも味方につけたジャックにより外道会は蹴散らされ、逞馬達も残ったヤクザを犠牲を出しながらも皆殺しにして平和を勝ち取った。
……かに見えたが、
ジャックは接触したものが破滅するバイオレンスジャックのジンクスを破り、平和を勝ち取ったと思い込んでいた逞馬の願いも空しく
自分からスラムキングに戦いを挑み、それも勝てた勝負を捨てて、キングに止めを刺さずに立ち去るという暴挙に出る。
怒り心頭のキングは、精鋭の
暗黒騎馬武者軍団“ドラゴン”を呼び寄せ、浮浪児達が籠る震災砦へ向かわせる。
この事態を呼び込んだ当のジャックは、自分への伝言を残して既に立ち去っていたと云うことを聞いて怒りに震える逞馬だったが、同時にジャックが自分の命を救った意味を考える中で、生き延びるために知恵を絞って、砦の廃車の山を利用した罠を仲間達と共に仕掛ける。
そして、これを利用してドラゴンを撃退させることに成功。
報告を聞いたスラムキングがドラゴンの名誉を守る為にジャックの不在を理由に追撃を諦めたことから、事実上の勝利を勝ち取ることになる。
この後は、勇気と機転を認められて団結した浮浪児達の親分に選ばれる。
そして、成長と共に仲間達を鍛え上げて、大人をも従えて一大軍団を築き上げていくことになるのだった。
ドラゴンへの勝利以降、自分がジャックに選ばれた意味を正しく理解し、後にジャックと再会した時には余裕を見せつつ協力するなど、ジャックの望む男に成っていく。
物語の要所要所に登場し、青年となってからはスラムキングの軍勢の最大の敵となった関東の英雄の中の英雄。
終盤の活躍は後述。
■逞馬 ユリ子
逞馬の下の姉で、女子高生だった。
逞馬が最も甘えていた、じゃじゃ馬ながら健康的でエロい優しいお姉ちゃんで、ユリ子も弟に対しては過保護な所も。
大地震後、家族の無事を諦めて学校の仲間達と逃げていたが、自分を追って炎を乗り越えてきた弟と再会。
その中で、災害の中で人を守りつつも生き抜く強さを弟に示していく。
最後は火山の噴火に巻き込まれ、降り注ぐ火山弾で好きだった先生や、仲間達が死んでいく中で自らは弟に覆い被さり、火山弾で体中を貫かれながらも弟を守り切り、炎に包まれて消えていった。
その死は、甘えん坊だった逞馬の意識を変え、上記のような乱世の英雄へと変えていくキッカケとなった。
■ゴロ
長身で帽子を被った男子。
大地震前は番長の腰巾着として逞馬をいじめていたが、大地震後に再会してグループの一員となる。
当初は大地震前と同じく弱いものいじめをしたり、逞馬に憎まれ口を叩いたりしていたが、外道会との決戦時には気弱な本性をさらけ出してしまう。
生き残った後は本当は弱い存在だった自分を見つめ直し、真に逞馬をリーダーとして認めると、弱いものいじめも止めて後々まで彼を支える一人となる。
■順子
逞馬グループの女子で手先が器用。
廃材からまともな武器を作り出すなど、何が必要なのかを見極められる能力を持ち、弓矢も得意。
成長してからも軍の食事係を担当するなど、長年に渡り女房役として逞馬を支えていく。
■ブンタ
幼い子供で、天涯孤独となった逞馬が初めて拾った存在。
幼いゆえに、自分の身に起きた不幸の中でも明るさを失わなかったマスコット的存在。
当初はゴロに邪魔にされたりしていたが、銃を持ったヤクザと一騎討ちとなった逞馬のピンチをパチンコで救うなど、小さいながらも一丁前の勇気の持ち主である。
後に、少年ながら逞馬軍の戦士として成長する。
主役編は後述。
■新平
逞馬グループの一人で弓矢の名手。
■黒部
元は逞馬と同じく、別の浮浪児グループを率いていたリーダーだった。
顔に斜めに入った古傷がある。
頭の回転が早く、やるせない怒りから逞馬達のリンチにも加担していたが、原因が逞馬達に無いことをちゃんと理解しており、生きる為の戦いを訴える逞馬に賛同して、全滅を避けるべく共に立ち向かう為の手筈を整えた。
外道会との戦いに勝利した時点で逸早く逞馬をリーダーと認め、ドラゴンへの勝利で正式に逞馬を親分とすると、参謀役として彼を後々まで支えていくことになる。
■外道会
関東スラム街に拠点を置く、日本中のヤクザ組織から追い出された鼻摘み者達が集まって作り上げた、仁義無用の外道ヤクザ集団。と言いつつも割と普通なのはご愛敬。
スラムキングの刺客として、ジャックと浮浪児全員の始末を目論んで人質と重火器を用意して震災砦に向かうが、突然の大地震をも味方につけ、人質も通用しないジャックに、アニキを含む多数の組員が殺され、恐怖から逃げだした組員達も逞馬達により始末された。
■用心棒/荒くれ者達
外道会かどうかは不明だが、関東スラム街に屯してスラムキングの仕事のおこぼれに預かっている殺し屋や裏家業の人間達。
レストランで無銭飲食をしたジャック達に支払いをして貰いに行くが、過剰な精算を受けとる羽目になる。
生き残った者も多数いたが、報告を聞いて訪れたスラムキングの目の前で、スラムクイーン(火美子)の粛清を受けて殺された。
用心棒と荒くれ者の一部は、後に『真マジンガー』の“くろがね屋”の面々の元ネタになっている。
■オモライくん達
コジキ漫画『オモライくん』の主人公達。
原作通りの姿からもわかるように、完全なゲストでギャグ要員。
展開がシリアスな為に誰にも相手にされず、メタなことを言っていた。