登録日:2021/11/30 Tue 17:26:37
更新日:2026/10/30 Fri 20:54:17
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すなわち われわれはどのように 生きたらよいのだろうか……
『
死神大戦記』とは、数多く発表された
鬼太郎シリーズの一作であり、かつてはファンの間で「幻の作品」とも呼ばれていた長編漫画である。
初出は1974年。学習研究社(学研)から刊行された学研劇画文庫『日本の妖異』シリーズの第11巻・第12巻として、上下巻構成で発表された。
水木しげるは同シリーズで『耳なし芳一』や『東海道四谷怪談』なども手掛けている。
その後、1985年に朝日ソノラマのサンワイドコミックスから上下巻で再刊。1993年11月には、ぱる出版のぱるコミックスから一冊にまとめた版が刊行された。
物語のモチーフとなっているのは、平安時代中期の僧侶・源信が著した仏教書『往生要集』。地獄や極楽浄土をはじめとする仏教的な死後の世界を題材に、鬼太郎たちを巻き込んだ壮大な物語が展開される。
しかし、ぱるコミックス版の刊行後は長らく新刊で入手することが難しくなり、次第に知る人ぞ知る作品となっていった。
- 地元の図書館に所蔵されていればラッキー。なければ古書店を虱潰しに当たるしかない
- 仮に見つけたとしても大体プレミア価格
- そもそも書き下ろし作品であるため存在そのものを知らないファンも少なくない
こうした事情から、かつてはまさに「幻の鬼太郎作品」と呼ぶにふさわしい存在だった。
現在では2007年に
KADOKAWAから発売された文庫版のほか、2015年に刊行された講談社の『水木しげる漫画大全集』第35巻『ゲゲゲの鬼太郎(7)死神大戦記 他』でも読むことができ、『漫画大全集』版は電子版もある。
作品の評価と成立事情
長らく入手困難だった本作だが、実際に読んだファンの感想はぶっちゃけ微妙なものが多かったりする。
その理由の一つは制作体制にある。
本作には、脚色担当として宮田雪の名前がクレジットされている。
この宮田はアニメやテレビドラマの脚本を手掛けていた人物で、水木しげるとも公私にわたって交流があった。
本作以外の水木漫画でもシナリオを担当したり、海外冒険旅行のコーディネイターも務めるなど、単なる仕事上の付き合いにとどまらない関係を築いていた。
脚色協力とは早い話が原作者のことであり、つまり本作は水木がストーリーにほぼ全く関与していないのである。
そのため、いつもの水木漫画に見られる独特の脱力感や世俗的な人間観察、妖怪と人間の距離感を期待して読むと、かなり違った印象を受ける。
物語の展開もスケールが大きく、仏教的な死後の世界、西洋の悪魔、日本の妖怪、宇宙的なエネルギー論など、さまざまな要素が次々と登場する。
全体的に、いつもの水木節とは明らかにノリが違っていて、故にファンからは微妙という烙印を押されているのだ。
さらに本作の評価を複雑にしているのが物語上の位置づけである。
『死神大戦記』は、講談社の少年マガジン版『ゲゲゲの鬼太郎』の後日譚として発表された『その後のゲゲゲの鬼太郎』の続編という
体で話が進む。
『その後のゲゲゲの鬼太郎』は、1969年に連載を終了した少年マガジン版の
真の完結編として1970年に発表された作品で、鬼太郎が日本を離れて南方の「幸福の島」に移住、
最後には島の酋長の娘と結婚し平和な生活を手に入れるという
ハッピーエンドを迎えていた。
ところが『死神大戦記』では、ヒーロー稼業から解放され、朝は寝床でグーグーグーとやっていた鬼太郎が再び大きな事件に巻き込まれてしまう。
せっかくの大団円に対する蛇足という意味でもファン評価はあまり宜しくなく、水木しげるの弟子の一人である小説家の
京極夏彦も、『水木しげる漫画大全集』関連のトークで本作に言及した際、「少々引っかかる作品」と遠回しにダメ出ししているほど。
ちなみに上述の『水木しげる漫画大全集』では『その後のゲゲゲの鬼太郎』と『死神大戦記』が同じ巻に収録されている。両作を続けて読むことで、前作の幸福な結末から本作の大騒動へと、物語がどのように接続されているのかを確認できるので、この項目を見て興味を抱いた方にはこちらで読むのをお勧めしたい。
ただ、本作を単に「いつもの鬼太郎とは何か違う作品」として片付けてしまうのも惜しい。
本作の大きな見どころの一つは、仏教的な地獄の描写である。
水木は生前、「妖怪博物館」の設立を構想していた。これは後年の水木しげる記念館へつながっていくが、常設展示としてVRによる地獄巡りを企画していたらしい。
同じく水木の弟子の一人である荒俣宏も、水木の異界表現や展示構想に関連づけて本作の地獄描写を評価している。地獄の各階層を訪れ、そこに住む死神や怪物と遭遇していく構成は、単なる冒険漫画としてだけでなく、仏教的な死後世界を視覚化した作品として見ることもできるだろう。
本作は仏教書をモチーフにしているだけあって、漫画の最後、9ページにわたって説教めいたメッセージが展開される(項目冒頭の文章はその一部)。
この当時、宮田がそうした仏教系宗教に傾倒していたことや、日本赤軍による事件や過激派によるテロ、海外ではクーデターや政変などが相次ぎ、国際情勢が不安定だったことも無関係とは言えないだろう。
そういう意味では、今の時代にあえて本作を読んでみるのも悪くないかもしれない。
あらすじ
突如として
太陽が消失し、地球は闇に包まれてしまった。
太陽が消えたのに月は普通に輝いてるが気にしてはいけない
原因は、地獄の支配者
サタンが、太陽を司る神器「
ユニコンの鏡」を奪い去ったことにあった。
この異変の真相を知ったアイヌの少年・兵太とその友達の少年少女たちは、世界を救うため、鏡を取り戻すべく
地獄へと向かう。
一方、サタンの勢力は地上にも侵攻を開始していた。闇に包まれた世界各地では、西洋妖怪たちが次々と勢力を拡大。南方の幸福の島で平穏な暮らしを送っていた鬼太郎も、島を襲った異変をきっかけに再び戦いへと身を投じることになる。
地獄へ向かう水木しげると少年少女たちの冒険、そして地上での鬼太郎たちの戦い。
一見別々に進行していた二つの物語は、やがて交わり、最終的にはユニコンの鏡を巡る戦いを通じて宇宙の真理が明らかになる……。
主な登場人物
とにかく登場人物が多く、地獄巡り、地上での戦い、神々の世界と舞台が次々に移り変わる。
その一方で、キャラクターの扱いにはかなりの落差があり、重要人物のように紹介された者があっさり退場したり、登場したきりその後の出番がなくなったりすることも珍しくない。
鬼太郎陣営/地獄巡りの一行
地上パートの主人公。
『その後のゲゲゲの鬼太郎』にて南方にある「幸福の島」へ移住し、現地の娘と結婚して初代自由酋長となり平和に暮らしていた。
しかしながらサタンの配下によって島の輪廻転生システムを乱され、久々に戦いに赴くことに。
原作者が異なるせいかリモコン下駄の設定が大きく変更されており、悪魔すら殺す猛毒のヘドロを加工した危険物となっている。
『その後のゲゲゲの鬼太郎』では終盤に悪事が露見して終身刑になったはずなのだが、本作では何事もなかったかのように幸福の島で暮らしている。
社会情勢が不安定になったことに金儲けのチャンスを見出し、鬼太郎と共に日本へ帰国。その後
「日本沈没破滅滅亡教」という新興宗教を立ち上げ、教祖の座に収まる。
その後は地位と金銭への欲望からサタン側に取り込まれ、日本侵略の先兵として活動するようになる。
鬼太郎シリーズではあまりにも度が過ぎる悪事を働いた際は相応の罰が与えられることが多いのだが、本作ではかなりのことをやらかしているのに
一切お咎めがないまま終わりを迎えている。この当時は猫娘がレギュラーキャラじゃなかったからなあ……。
『その後のゲゲゲの鬼太郎』では鬼太郎と一緒に幸福の島へ移住していたはずだが、本作ではいつの間にか日本へ帰国しており、日本妖怪軍を編成して西洋妖怪との全面戦争に備えている。
鬼太郎がファラオの呪いによって行動不能になった際には救出のため南米へ赴き、お揃いのソンブレロを被って帰国している。
漫画家。地獄パートの主人公。
アイヌの取材で
北海道を訪れていた際、兵太たちと出会い、それを運命と感じて同行を申し出る。
少年少女たちの保護者役を務める立場なのだが、性格はかなり楽天的で、いざという時にも頼りにならない。その姿は保護者というより子供たちと一緒になって冒険を楽しむガキ大将に近い。
なお、作中に登場する水木はあくまで「漫画のキャラクター」であり、現実の水木しげる本人とは別人。その証拠に
両腕が存在する。
13歳のアイヌの少年。
太陽消失の原因がサタンによるユニコンの鏡の奪取にあることを知り、正義感から仲間の少年少女11人とともに地獄行きを決意する。
この頃のアイヌは和人との同化政策を取っていた人が圧倒的多数だったため、村の長老が民族衣装を着ている以外は兵太を含め誰一人としてアイヌ要素が無い。
ぶっちゃけアイヌと設定する必然性もあまり感じられない。
兵太の友人で12歳のアイヌの少年。たぶんあだ名なのだろうが本名は不明。
地獄でかつて飼っていた愛犬と再会したり幻術による攻撃を切り抜けたりと重要人物っぽい描写があったが、終盤に兵太たちと鬼太郎が合流する頃にはいつの間にか死亡んでいた。
ちなみに地獄巡りに参加した12人の少年少女のうち実に9人が何のドラマもなく死ぬ。
アイヌの伝承に登場する女妖怪。
ユニコンの鏡を取り戻すため地獄へ潜入したものの失敗し、瀕死の重傷を負って地上へ逃げ帰ってきた。
死の間際に兵太たちへ地獄の状況を伝え、後を託す。
アイヌの伝承におけるパウチは若い女性の姿をした
淫魔として知られるが、本作では鬼のような牙を生やした
顎の長い老婆という姿で描かれている。
アイヌの伝承に登場する、湿地に住む神。
パウチの紹介を受けて訪れた水木と12人の少年少女の魂を肉体から分離し、地獄へ向かうための手助けをする。
老婆の姿をしているとされ作中でも「おばあさん」と呼ばれている……のだが、どう見てもヒゲを蓄えたジジイである。
こんな感じで宮田と水木との間で情報の共有ができていないんじゃないかと思われる個所が、本作には他にもたくさん出てくる。
東洋の地獄を支配する存在にして死者の魂を裁く裁判官。
しかし、西洋の地獄から侵攻してきたサタンに政権を奪われ、現在はその配下として死者を地獄へ送る立場に甘んじている。
サタンからユニコンの鏡を取り返すという水木らの勇気を認め、道案内役となる極楽鳥を与える。
サタン一味
西洋の地獄の支配者。
ユニコンの鏡を奪い取ることで東洋の地獄を制圧し、世界の秩序を自らの支配下に置こうとする。
八大地獄に配下の死神たちをそれぞれ送り込み、自身は地獄の最奥部に宮殿を構えて全体の指揮を執る。
西洋の地獄の最下層・コキュートスを思わせる氷の海を生み出す能力も持つ。
その頭部のデザインは吉村周山が描いた白沢図をモデルにしており、後年の『妖怪なんでも百科』に登場するバクにも流用されている。
等活地獄を支配する、サタン配下の8人の死神の一人。黒い翼を生やしたグラマラスな美女で、戦闘時には口から火の玉を吐き、さらに体を蛇のように変形させて相手に巻き付く。
かつて等活地獄へ侵攻した際、現地に住む「化けがらす」と戦ったことがあり、それ以来、化けがらすを警戒している。
なお、サタン配下の死神たちはそれぞれ実在の悪魔や神話上の存在をモチーフとしているが、ブラックエンゼルだけは『神曲』に登場する地獄の裁判官ミノスに関係する存在の総称に由来している。女っ気が足りなかったのか?
黒縄地獄を支配する死神。
ソロモン72柱では序列15番目に位置する悪魔で、死者を加工して作った肉団子を好む。
変身能力を持ち、12人の少年少女の一人を殺して入れ替わるが、入れ替わった相手がメンバーの中でも特に臆病な人物だったことを知らず何度も勇敢な行動を取ってしまい、その不自然さから正体を疑われ、最終的には罠にかかって死亡する。
衆合地獄を支配する死神。カナン神話の神が零落した存在とされ、悪魔の中でも高い地位にある。
体を無数の毒蠅に変える「分身の魔術」を使い少年少女たちを襲うが、子供たちがどこからともなく用意した巨大なハエ取り紙に捕らえられ、そのまま焼却されてしまった。
鬼太郎シリーズでは『UFOの秘密』にも登場するが、こちらでは終始鬼太郎の味方として活躍する。
叫喚地獄を支配する死神。ローマ神話では冥府を司る神として知られるが、『神曲』ではサタンの配下として描かれている。
こちらでは死者をそのまま踊り食いしており、水木たちも一度は捕らえられ、食料庫に閉じ込められてしまう。
終盤、鬼太郎を追って地獄までやってきたねずみ男たちと合流し、休憩中の鬼太郎たちを襲撃するが、鬼太郎が護身用に持っていた魔法のひょうたんに不用意に触れた結果、そのまま吸い込まれて封印された。
大叫喚地獄を支配する死神。カナン神話の豊穣神が零落した存在であり、ソロモン72柱では序列29番目に位置する。
毒物を利用した幻術を得意とし、相手に幻覚を見せて精神を破壊する戦法を使う。
……ところが、幻覚による洪水の描写では、幻覚のはずなのにカラスが普通に溺れて救助されていた。
焦熱地獄を支配する死神。零落したカナン神話の神にしてソロモン72柱のうち序列21番目に位置する悪魔。
アスタロトとどちらが先に水木たちを殺すかで揉めた挙句、最終的には同士討ちになってナレ死。
その出番はわずか2ページ。
大焦熱地獄を支配する死神。本来、ルシファーとサタンは同一視されることもある存在だが、本作では「
七つの大罪」などの悪魔学的なイメージに従い、別個の存在として登場する。
ナレーションでは「植物妖怪ルキフェルは無数の吸盤型伸縮自在の足でどんな相手でも動けなくしてしまう(原文ママ)」と説明されるが、
普通に人型で出てくる。足は二本だし吸盤も無い。
そもそも普通に腕で鬼太郎を捕まえている。
こちらの出番は3ページあるのだが、そのうち顔が描かれたのは
わずか4コマ。
ソロモン72柱では序列34番目に位置する悪魔。
サタン配下の8人の死神の一人として名前が挙がるが、物語の途中でフェードアウト。
八大地獄をそれぞれ死神が統治するという設定にもかかわらず、いつの間にかサタン自身が阿鼻地獄を支配する形になっていた。
サタン配下の依命(伝令)係。テレポーテーション能力を持ち、あの世とこの世を自由に行き来できる。
その外見はどっからどう見ても日本妖怪の「姥ヶ火」そのもの。
西洋妖怪
いつもの西洋妖怪の面々。今回はサタンの配下として登場し地上征服の指揮を執る。
ただし魔女のみ早々に日本妖怪にとっ捕まって捕虜にされ、最終的にはそのままフェードアウトしてしまう。
フランケンも登場することは登場するのだが、セリフすらないモブ扱いである。
ドラキュラの兄貴分。
エジプトから来日し、鬼太郎を永久の眠りにつかせる「ファラオの呪い」を使用する。
これによって鬼太郎を一度は行動不能に追い込んだ。
実写版『
悪魔くん』に登場した海の魔物。
本作ではサタンの配下として鬼太郎が暮らす幸福の島の近海を荒らし回っており、その結果鬼太郎が戦いに復帰することに。
神々
大日如来に仕える存在。
ユニコンの鏡を巡る戦いを終結へと導いた者たちを、神々の住まう西方浄土へ案内する役割を担う。
須弥山(極楽浄土)に暮らす聖人の一人。
須弥山と大日如来の住まう領域の間にある空間で「クロノスの文字盤」を
労働棒みたいに回すことにより、この世の時間の流れを動かしている。
宇宙の真理を体現する仏であり、本作の世界観における最高神。
ユニコンの鏡を所有し、その力によって太陽を輝かせている。
本作においてサタンが反旗を翻した相手は
キリスト教の
父なる神ではなく大日如来となっている。
サタンがユニコンの鏡を奪った理由も、壮大な世界征服の野望というより、過去の出来事に対する私怨に近いものとして明かされる。
最後には、サタンたちの入ったひょうたんを軽く息を吹きかけただけで宇宙の彼方へ吹き飛ばしてしまった。
用語
大日如来が所有する神秘の鏡。
宇宙磁流を放出し、太陽を輝かせるという重要な役割を持っている。
サタンがこれを奪ったことで太陽の光が失われ、地球全体が暗黒と寒冷化に見舞われることになった。
ねずみ男が立ち上げた新興宗教。世界的な異変によって人々の不安が高まっていることにつけ込み、破滅への恐怖を煽って信者を集め、全財産を巻き上げていた。
その後、ドラキュラと狼男に日本侵略の橋頭保として利用され、最終的には日本を乗っ取るための組織として機能する。
本部施設の外観は『ゲゲゲの鬼太郎(少年マガジン版)』に出てきた妖怪城と構図がそっくりだったりする。
大日如来が放つエネルギー。ピラミッドを利用することで宇宙から集めることが可能。
本作の鬼太郎は自身の霊力をあまり使わず、基本この力で戦う。
どうしてこうなったかと言うと、脚色担当の宮田が当時スピリチュアルに傾倒していたため。
追記・修正は地獄巡りから生還してからお願いします。
- 鬼太郎にこんなのがあったのは知らんかった。しかも微妙って… -- 名無しさん (2021-11-30 19:27:07)
最終更新:2026年10月30日 20:54