2023年第43回ジャパンカップ

登録日:2024/11/24 Sun 01:53:21
更新日:2025/01/09 Thu 15:56:45
所要時間:約 4 分で読めます



さぁ、日本競馬を楽しもう!
~ラジオNIKKEI 山本直アナウンサーによる実況~


2023年11月26日、府中・2400mで開催されたGⅠレース。 その日、日本競馬界はひとつの悲願を果たした。

【馬柱】





馬名 性齢 騎手 人気
1 1 リバティアイランド 牝3 川田将雅 2
2 イクイノックス 牡4 C.ルメール 1
2 3 タイトルホルダー 牡5 横山和生 4
4 スタッドリー 牡5 T.マーカンド 13
3 5 ドウデュース 牡4 戸崎圭太 3
6 フォワードアゲン 騙6 黛弘人 16
4 7 イレジン 騙6 M.ヴェロン 10
8 パンサラッサ 牡6 吉田豊 7
5 9 ヴェラアズール 牡6 H.ドイル 9
10 ダノンベルーガ 牡4 J.モレイラ 6
6 11 トラストケンシン 牡8 萩野極 17
12 チェスナットコート 牡9 田辺裕信(※) 15
7 13 クリノメガミエース 牝4 吉村智洋 18
14 ディープボンド 牡6 和田竜二 8
15 ショウナンバシット 牡3 M.デムーロ 12
8 16 インプレス 牡4 三浦皇成 14
17 スターズオンアース 牝4 W.ビュイック 5
18 ウインエアフォルク 牡6 藤田菜七子 11

※当初、田中学騎手が騎乗予定だったが持病の腰痛が悪化したため乗り替わり。


【前夜】

激突、『無双の閃光』VS『怪物令嬢』

『世界に通用する馬づくり』を掲げ設立された国際招待競走ジャパンカップ。43回目となる本レースは、3年前に匹敵する頂上決戦の舞台と化した。
主役は2頭。かたや現役世界最強馬に君臨する『無双閃光イクイノックスGⅠ初制覇から圧倒的強さと変幻自在のパフォーマンスを人々に見せつけ、ここまで破竹のGⅠ5連勝。そして彼は、かねてより表明していたドバイシーマクラシックとの同年制覇による褒賞金が出る本レースに参戦。
かたや本年度、史上7頭目の牝馬三冠を達成した『怪物令嬢リバティアイランド父親譲りの剛脚をもって最優秀2歳牝馬、三冠牝馬の栄光を勝ち取り、アルテミスSでの2着以外全勝、GⅠ4連勝の彼女は初の古馬戦として本レースに参戦。
当然人気もこの2頭に集中しており、単勝オッズはイクイノックスが1.3倍の1番人気、リバティアイランドが3.7倍の2番人気と、実質2頭立ての様相と化していた。

俺達もいるぞ!歴戦のライバル

そんな2頭に後れは取らんと言わんばかりに国内の強豪馬達も参戦。
まずは3番人気のドウデュース前走ではまさかの乗り替わりやトチ狂った異様な展開が逆風となり7着となってしまったが、リベンジを果さんと続投。本来なら武豊騎手が復帰する予定であったが、怪我の治りが遅く断念。引き続き戸崎騎手が手綱を握ることに。
次に4番人気のタイトルホルダー。本年の春天にて跛行・競走中止の憂き目にあった彼は、オールカマーで復帰しローシャムパークの2着とした後、本レースでジャパンカップ初参戦*1。イクイノックスとは前年の有馬記念以来、リバティアイランドとはドゥラメンテの代表産駒同士の初対決となる。
続いて5番人気のスターズオンアース。前年に桜花賞とオークスを制し二冠牝馬となるもそれ以外は2着3着ばかりと歯がゆい戦績。本来はミルコ・デムーロ騎手を背に秋天で復帰予定であったが、挫石の症状があったため本レースに延期。ルメール騎手はイクイノックスに騎乗するため、自身はウィリアム・ビュイック騎手を背に参戦。尚リバティアイランドとは二冠以上牝馬同士の対決であり、これによりドゥラメンテの代表産駒が3頭も集うことになった。
更に9番人気のヴェラアズールを彷彿とさせる異次元の末脚で前年度のジャパンカップを制し、連覇をかけて参戦。ちなみに鞍上のホリー・ドイル騎手はスタッドリーに騎乗するトム・マーカンド騎手とは夫婦であり、JRAのGⅠ競走では初の夫婦騎乗。それにしても前年覇者が9番人気に甘んじるとかどういうことなの…
そして8番人気のディープボンド。未だGⅠ未勝利なれど3年連続春天2着等、息の長い活躍を見せる彼もジャパンカップ初参戦*2
加えて、なんとパンサラッサが7番人気で飛び入り参戦。当初はチャンピオンズカップ(中京ダート1800m)との両睨みであったが、走り慣れないコースより距離不安を承知で走り慣れた舞台のほうがいいという判断で、前年の秋天以来となる挑戦状をイクイノックスに叩きつけた。

海外、そして地方から

国際招待競走ということで海外から参戦してくる馬もいる。
今回はフランスからロワイヤルオーク賞とガネー賞を制したイレジンが出走。本来ならハーツクライ産駒のアイランド調教馬でセントレジャーS覇者コンティニュアスも参戦予定であったが、遠征を前に歩様の乱れが確認され回避。
他の日本馬からはダノンベルーガがドウデュース同様に秋天からの連投、ショウナンバシットがリバティアイランド以外で唯一の3歳馬として参戦する他、なんと条件馬や地方から参戦する馬もおり、トラストケンシンウインエアフォルクチェスナットコート*3クリノメガミエース等がやって来た。

閑話~枠順と有利不利~

さて、気になる枠順についてだが、競馬の神様がはっちゃけたのかよりによって最上位の人気馬2頭が揃って1枠に収まり、他の有力馬も大体内寄りの枠に。そんな中で大外枠に放り込まれるンアーちゃんェ…
予想される展開については、イクイノックスが中3週ローテかつ前走レコード勝ちによる反動という不利要素を抱えているのに対し、対抗馬筆頭のリバティアイランドは身体能力の高さに加え『3歳馬+牝馬』によるハンデとして他馬より4kg軽い*4斤量54kgでの出走、先行策に比較的有利な最内枠発走、秋華賞から中5週で充分な休息と調教を熟しているだろうという好材料から、充分勝負に持ち込めると見られている。
そしてゲート入りの際に落とし物(意味浅)をするウインエアフォルク。まぁ白いアレ産駒だから仕方ない……か?



【レース】

前半~中盤-極限の『1』VS『千変万化』の天才-

ゲート開放直前でタイトルホルダーがゲートに突進するアクシデントこそあったが全頭好スタート。
やはりというかパンサラッサとタイトルホルダーがハナを主張しあい、最終的にパンサラッサがいつもの大逃げを敢行。
離れた位置でタイトルホルダーが2番手を確保、その2〜3馬身後方でイクイノックスが追走、更に2馬身後方にリバティアイランド…とその外側にスターズオンアースが並走。その2馬身後方にディープボンドとドウデュース。
イレジンやヴェラアズール、トラストケンシン等が中団に位置取り、遅れた位置にインプレス、ウインエアフォルク。
本来1800〜2000mが適性であるパンサラッサにとってハイペースで2400mを爆走するのは厳しく、吉田豊騎手も一旦抑えようとするが『アクセルとブレーキを一緒に踏んでいるような状態』はパンサラッサに合わないとするや、ペース維持を選択。その結果、前半1000mの通過タイム57秒6という2400mのレースとしては破滅的なラップを刻んでいた。その光景は距離こそ違えど前年の秋天の焼き直しが如き展開。されどそれは、如何なる舞台であろうと己の走りを貫き続け、ひとつの技を磨き上げ、ついに世界に届いた逃亡者の勇姿だった……



なんと1000mの通過は57秒6…!? 早いペースでいっている…!!



後半-その走り、曇天を切り裂いて、果てに到る-

大欅を越え、測りきれない程の差をつけて直線に向かったパンサラッサ。

「さぁ、先頭はあっという間に4コーナーのカーブに向かってくる!」
「パンサラッサの逃げ、パンサラッサの逃げ、これだけのリードがある!果たして直線、どこまで脚を残しているか!」

「2番手以降は団子になって、4コーナーカーブから直線コースを迎えている!」

後続がほぼ一塊になって4コーナーを抜ける頃には、パンサラッサは直線の上り坂に差し掛かっていたが、距離適性の限界を超えている故にほぼ根性で走り続けている状態。

「さぁ世紀の一戦、いよいよジャパンカップがハイライトを迎える!」

まず一番に直線に入ったタイトルホルダーがパンサラッサを捉えんと追い上げる。しかしすぐにイクイノックスに差され、直線の半ばでリバティアイランド、スターズオンアースにも交わされる。

「まずはイクイノックスが行く!まずはイクイノックスが単独の2番手に上がった!タイトル苦しい!タイトル苦しい!」

そしてイクイノックスはそのまま加速、逆噴射するパンサラッサを10秒足らずで捉え、振り切った。尚この時、パンサラッサは自身を追い抜いていくイクイノックスの方に一瞬顔を向けていた。


「イクイノックスが、早くもパンサラッサを捕まえた!」
「これが『世界最強』だ!!あとは二強の争い!」


一方、リバティアイランドはタイトルホルダーを交わした後凄まじい剛脚でスターズオンアースを抜かさせないままイクイノックスを追撃。だが全力で追っているにもかかわらず、その差は一向に縮まらず、むしろジワジワ差が開きつつあった…


「リバティアイランド追う!!しかしその差縮まらない…!!」

「イクイノックスか!?イクイノックスか!?リバティアイランドは2番手…!スターズオンアース3番手!」


「『世界最強の証明』!!イクイノックス見事……!!!」

「この強さに異論はなかった…!!」


結果は上がり3ハロン最速33秒5を出したイクイノックスがまたもや最後流しつつ悠々とゴールイン。2016年に制したとの親子制覇にしてGⅠ6連勝*5

リバティアイランドはコース条件の同じオークス時を上回る上がり3ハロン33秒9、ゴール通過タイムは0.6秒速い2:22.5で入線するも4馬身及ばず2着*6。3着は大外枠発走ながら早めに先団についてロスを抑えたスターズオンアース、4着はドウデュース、5着はタイトルホルダーという、人気上位5頭(上から1→2→5→3→4番人気)が掲示板に並ぶ結果となった。
尚、前年覇者ヴェラアズールは7着、海外馬イレジンは9着、パンサラッサは直線で逆噴射しながらも粘りに粘って12着、意地でもブービーは回避した。

【レース結果】


1着 イクイノックス 2:21.8
2着 リバティアイランド 4
3着 スターズオンアース 1
4着 ドウデュース 3/4
5着 タイトルホルダー 2
6着 ダノンベルーガ 1
7着 ヴェラアズール クビ
8着 スタッドリー クビ
9着 イレジン 1.1/2
10着 ディープボンド 1/2
11着 ショウナンバシット 1
12着 パンサラッサ 1.1/4
13着 インプレス 7
14着 フォワードアゲン 3/4
15着 ウインエアフォルク 5
16着 トラストケンシン 2
17着 チェスナットコート 2.1/2
18着 クリノメガミエース 5


上がり4F 46.1
上がり3F 34.7

払い戻し

単勝 2 130円 1番人気
複勝 2 110円 1番人気
1 110円 2番人気
17 210円 5番人気
枠連 1-1 180円 1番人気
馬連 1-2 180円 1番人気
ワイド 1-2 130円 1番人気
2-17 310円 3番人気
1-17 440円 7番人気
馬単 2→1 260円 1番人気
三連複 1-2-17 600円 2番人気
三連単 2→1→17 1,130円 2番人気


勝ちタイムは2:21.8。何の因果か、レコード決着となる程の接戦の末2着に敗れたダービーと同じ舞台で、ダービー時のタイムを0.1秒上回る決着となった。



【その後】

1着のイクイノックスは1着賞金5億円に加えドバイシーマクラシックとの同年制覇を達成し褒賞金200万ドルを獲得、これにより総獲得賞金が22億1544万6100円となり初の20億越えホース、日本馬ではアーモンドアイを上回り歴代1位となった。
レース後は一旦放牧に出され今後の予定を協議した結果、秋天とJCの連投による疲労で有馬記念を万全に迎えるのは難しいことと社台スタリオンステーションステーションからのオファーがあったこともあり、引退・種牡馬入りを決定。世界最強のままGⅠ・6勝、10戦8勝2着2回の完全連対という好成績でターフに別れを告げた。
そしてこれ程凄まじい成果をあげたことで最優秀4歳以上牡馬及び2023年度の年度代表馬に選ばれた。

2着に敗れたリバティアイランドはファン投票2位となった有馬記念を回避し休養。それでもここまでの戦績を高く評価され最優秀3歳牝馬に選ばれた。

3着のスターズオンアースは鞍上にルメール騎手が戻り有馬記念に続投…するのだが、枠順抽選会でまさかの大外16番を引き当ててしまうが、レース本番では好スタートから即座に2番手を確保することで不利を緩和。最終的に2着となり、なんと16番発走では史上初の3着以内…どころか連対圏入りとなった。

4着のドウデュースはその後、復帰した武豊騎手と共に有馬記念に出走、逆襲ゲージを解放して本来のパフォーマンスを発揮、見事優勝を果たしイクイノックスから世代代表の座を引き継いだ。
更に翌年のジャパンカップを日本総大将として制した。

5着のタイトルホルダーはラストランとして有馬記念に出走。外枠に放り込まれた前2年分と打って変わって内枠を引き当てた彼は後続を引き離す逃げを行い、有終の美とはいかなかったものの3着に食らいついて完全燃焼でラストランを全うした。

有馬記念ではジャパンカップの1着2着こそ不在だったが、ジャパンカップの残り掲示板内3頭が次走の有馬記念で馬券内を独占。ジャパンカップと有馬記念の両方でGⅠ複数勝ちの実力を示した結果となった。

7着のヴェラアズールはレース後放牧に出されたが、左前脚に屈腱炎を発症してしまい、引退・種牡馬入り。

12着のパンサラッサは8月の遠征予定時に発覚した繋靭帯炎とそれによる年内引退予定であることもあって本レースがラストラン。引退式は12月始めを予定していたが感冒で翌年1月に延期し、今後はシャトル種牡馬として活動することになる。

また、17着のチェスナットコートも61戦にわたる現役生活にピリオドを打った。

【実況担当者】


【余談】

  • 本競走での1・2着のワイド及び馬連の払戻金はなんとJRAのGⅠ競走における最低タイ*7、3連単にいたっては平地GⅠでの史上最低記録となった。しょっぱ過ぎぃ!

  • 本競走の勝者イクイノックスは国内レーティング最高記録となる133ポンドを獲得。ワールド・ベスト・レースホース・ランキングではエルコンドルパサーが1999年凱旋門賞2着で獲得した134ポンドを上回る135ポンドを獲得し、日本調教馬ではジャスタウェイに続く単独1位の座に輝いた。

  • また、本競走もIFHAにより126.75ポンドを与えられ、日本どころかアジア圏で初の世界最高レーティングのレースとなった

  • 前述の通り17着に終わり、このレースをラストランとしたチェスナットコートは2:27.0というタイムだったのだが、中央在籍時の最後の勝利、2018年早春ステークス(4歳以上1600万下、東京芝2400m)では負担重量54kgで同じタイムでゴールしていた。ラストランで58kgを背負ってこのタイムでゴールしたのは、昔の力を完全に失ってはいなかったということだろうか。

  • レース後、イクイノックスのルメール騎手と、リバティアイランドの川田騎手が馬上で握手を交わしたが、これが当時放送中だったウマ娘アニメ3期5話にあったそれぞれの父馬がモデルのキタサンブラックドゥラメンテの握手」にそっくりと話題になった。イクイノックスの父キタサンブラックは現役時代ドゥラメンテに3度挑むも1度も先着出来ず仕舞いだったが、ドゥラメンテの代表産駒3頭全頭に先着した為、「親の仇を3倍にして返した」と言われることに。
また、翌年アプリ版に実装されたあるウマ娘のシナリオのグッドエンディングでこのジャパンカップがそのウマ娘の夢想という形で触れられることとなった。



追記・修正は世界最強を証明してからお願いします。


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最終更新:2025年01月09日 15:56

*1 なんなら東京どころか左回りすら日本ダービー以来2年半ぶりである。

*2 タイトルホルダー同様、東京どころか左回りすら日本ダービー以来3年半ぶりである。

*3 地方移籍前はパンサラッサの調教師である矢作芳人調教師の管理馬であり、ジャパンカップの舞台で再会した。

*4 スターズオンアース、クリノメガミエースは牝馬ハンデのみなので斤量56kg。

*5 単にGⅠ6連勝だけならテイエムオペラオーロードカナロアが既に達成済だが、彼らは他の重賞での負けを挟んでおり、正真正銘のGⅠ6連勝はイクイノックスが初。

*6 一般的に、2000〜2400mの中距離レースでは斤量1kgにつき1馬身程の差がつくとされ、4kg差あった1着と2着の間には4馬身の差がついた。と言っても斤量不利なほうが引き離しているのだが

*7 2005年の秋華賞(1着エアメサイア、2着ラインクラフト)の馬連と同等。