リバティアイランド(競走馬)

登録日:2023/07/17 Mon 08:32:14
更新日:2025/05/16 Fri 16:31:54
所要時間:約 8 分で読めます






君には冠がよく似合う。

大外一気の桜花賞。圧勝劇を演じたオークス。
大歓声に包まれ、悠々と駆け抜けた秋華賞。
ターフを駆けるたびに輝きを増す彼女が、
次に掴む冠は何色の光を放つのだろうか。

JRA ヒーロー列伝 No.96


リバティアイランド(Liberty Island)とは日本競走馬
ドゥラメンテ産駒初の2歳GⅠウィナーにして史上7頭目の三冠牝馬であり、彼女の活躍によりドゥラメンテは3世代連続GⅠ及びクラシックウィナー、そして三冠牝馬輩出を成し遂げた。
馬名の由来はアメリカ・ニューヨーク州にあるリバティ島*1

目次

【データ】

誕生:2020年2月2日
死没:2025年4月27日(5歳没)
父:ドゥラメンテ
母:ヤンキーローズ
母父:All American
調教師:中内田充正 (栗東)
主戦騎手:川田将雅(全戦で騎乗)
馬主:サンデーレーシング
生産者:ノーザンファーム
産地:安平町
セリ取引価格:-
香港表記:自由島
通算戦績:12戦5勝
主な勝ち鞍:22'阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)、23'牝馬三冠(桜花賞(GⅠ)、オークス(GⅠ)、秋華賞(GⅠ))
表彰:22'最優秀2歳牝馬・23'最優秀3歳牝馬

【誕生】

2020年2月2日生まれの鹿毛の牝馬。
父は社台グループ*2が生んだ日本競馬の結晶体ともいえる超名血馬にして、2015年のクラシック二冠馬ドゥラメンテ
母のヤンキーローズはオーストラリアの生まれで、現役時代はオーストラリアのGⅠレースを二勝しており、現役引退後は繁殖牝馬として日本に輸入された。

父ドゥラメンテも所有した名門一口馬主クラブ・サンデーレーシングの所有馬となった彼女は総額4000万円(1口100万円×40口)で募集され、栗東トレセンの中内田充正調教師に預けられることとなる。

【現役時代】

2歳

2022年7月に新潟の新馬戦でデビュー。鞍上には全国リーディング争いを繰り広げるトップジョッキーにして、中内田調教師と幼少期から縁がある*3川田将雅騎手が迎えられた。
そのレースで上がり3ハロン31.4という異次元の末脚を繰り出して圧勝、ドゥラメンテ産駒第3の大物として早くから大きな注目を集める事となる。
一方、この新馬戦前後での陣営の見立ては「能力は絶対的なものがあるけど取り扱いが難しすぎて下手したら1600mでも長いかも」というくらいだったそうな。

次戦は重賞初挑戦となったアルテミスステークス(GⅢ)。1番人気で出走するも直線で前の進路を失ってしまい、末脚を不発させてしまう。それでも最後は見事に脱出して前を目指すものの、父の同期であるキタサンブラック産駒のラヴェルをクビ差逃してしまい2着敗北。
後に陣営が語るところによると、中内田師からは牝馬三冠レースを見据えて馬群で我慢させる競馬をさせてほしいというオーダーがあった一方、川田騎手は身動きが取れなくなるリスクを危惧していた。最終的には鞍上が折れる形となり実際に2着という結果になったが、同時に「進路さえ開けば間違いなく脚はキレる」確かな感触も抱いたという。

とはいえそこで賞金も積めたので次走は2歳女王決定戦となる阪神ジュベナイルフィリーズに出走。前走は不利があった事もあって変わらず1番人気で支持される。
新型コロナウィルスに感染しながらも復帰した主戦・川田騎手を背に迎えて出走すると、直線で一気に決め手の末脚を弾けさせ、凄まじい勢いで各馬を抜き去るとそのまま後続に2馬身1/2差を付けて圧勝。力の違いを周りに示す快勝であった。
この功績が評価され、2022年度JRA賞では最優秀2歳牝馬のタイトルを勝ち取った。

3歳

期待に応えた一冠目

年が明けて2023年、牝馬三冠路線に乗り込んだリバティアイランドは第一戦・桜花賞に直行。
多くのトライアルを経てなお「リバティ一強」ムードのまま迎えた桜花賞。しかし陣営は当日のリバティアイランドをパドックで見てこう思ったという。
「あれだけ扱いが難しい馬だったのに不気味なほど大人しい

いざレースが始まると3番枠からゲートだけはどうにか出したものの全く二の足がつかず後方4番手での競馬になってしまった。
遅いスタートによって内枠がかえって仇となり、中盤まで全くポジションを上げることができない展開が続く。様子を見守っていた中内田師曰く「俺の人生終わったかな思うた」
3コーナーから4コーナーにかけても同じく出遅れていたドゥーラが早めにポジションを上げに行ったことで外はブロックされていた格好となり、身動きが取れるようになった頃にはもう先団が600mのハロン棒を通過していた。
ここでようやく馬群の後ろから外へ持ち出し、最終直線へは最後方2、3頭のところから進入した。
先行したコナコースト、ペリファーニアが粘る展開の中、万事休すかとも思われたが、全体の上がり3F34.5に対して32.9という文字通り他馬が止まって見える大加速の末にまとめて差し切り、最後は3/4馬身差を付けて勝利。
当日週の阪神競馬場の芝コースは極端なイン前有利の馬場状態*4だったにもかかわらず、4コーナー16番手から不利な大外を通って、前が止まらない展開を直線だけで強引にゴボウ抜きしてしまったのである。
ドゥラメンテ産駒は3年連続クラシック勝利達成、桜花賞はディープインパクト産駒以来の連覇達成となった
鞍上の川田騎手も相まって、その勝ちっぷりにかのハープスターを思い浮かべた人多数。

川田騎手は前年の桜花賞もスターズオンアースで勝利したことで史上6人目の桜花賞連覇を達成。
なお2023年からJRAが一部GⅠレースでジョッキーカメラの導入を開始、桜花賞がその第1弾として公開された。
海外同様迫力のあるレース中はもちろんレース後引き上げるまでが公開されており、そこでは彼から「お嬢さん」と呼ばれていることが明かされた。
レースも馬が前に行こうとせず結果後方からの競馬になったことを2着コナコーストの鮫島騎手と言葉を交わし、彼の騎乗を褒めるなど短い動画ながら好評を博している。

父を彷彿とさせる衝撃の二冠目

圧倒的なパフォーマンスから日本ダービー出走の噂もあったが次走は順当にオークスへ。ここでも桜花賞と同様に、否それ以上に「リバティ一強」ムードが強くなり単勝1.4倍の圧倒的一番人気に推される。
なおそれでも母系と騎手と調教師が短距離血統*5と言う事を危惧する声もあった模様。
本番は3枠5番と内よりの枠から今度はスタートダッシュに成功。これを受けて川田騎手は無理に控えることはせずに中団の7番手につけ、最内で脚をためていく。そして、4コーナーを抜けると勝負所とばかりに直線で馬を外に出した。この時点で先行勢を既に射程圏に捉えており、馬なりで2番手に躍り出ると、残り250mで鞭を入れて先頭にいたラヴェルを交わす。
ここから更に後ろで脚をためていたハーパーとドゥーラが必死にリバティアイランドを追いかけるが、差は詰まるどころか広がる一方だった。

もはや敵なし!もはや敵なし!

まさに別格!!

これほどまでに強いのか!!!

結局、リバティアイランドは一度先頭に立ってから誰にも影を踏ませず、二冠牝馬の栄誉を手にした。2着のハーパーとの間についた差は実に6馬身グレード制導入後のオークス馬最大着差記録であり、これ以上の記録はJRA発足後*6だと1975年のテスコガビー(8馬身差)という大記録だった。
勝ち時計も2:23.1と超高速であり、これは父のダービーから更に0.1秒も速い。そしてゴール時にはフジテレビで父のあの名実況もパロディされることとなった*7
しかもレース展開が前半1000m60秒フラットから残り1400m全ハロン12.0より速いペースでなおかつ減速ラップを一度も挟まず加速しながらゴールまで雪崩れ込むと言う逃げ先行殺しのペースであり、
自分より前や隣にいた馬が4着に粘り込んだラヴェル以外は全撃沈の中で上がり最速でこれである。

その強さは大いに評価され、着いたレートは驚くことなかれ、120
一見父には及ばない数字だが、実際はレーティングを付ける際には牝馬には(軽斤量によるバフ等を考慮して)-4して査定がつくため、牡馬換算だと実に124。つまり、このオークス一戦で昨年レコードで宝塚記念を勝利したタイトルホルダーのパフォーマンス並と評価されたわけである。
これは当初JRAレーティングだったが、後に世界的な競走馬格付けランキングである「ロンジンワールドベストレースホースランキング」で正式に認められた
ちなみに同ランキングでは牝馬としてはエミリーアップジョン(レーティング121ポンド)に次ぐ世界第2位であり、それだけオークスで見せたパフォーマンスが高く評価されたことがうかがえる。

川田騎手はジェンティルドンナで制した2012年以来11年ぶり2度目の制覇。
ちなみに先述のハープスターはリバティアイランドと同じようにオークスでは圧倒的1番人気に推されるも2着に敗れており、川田騎手は今回そのリベンジを果たすことに成功した。
そして川田騎手は去年史上4人目の騎手大賞*8受賞者となるなどトップジョッキーの一人として大活躍を続けていた一方、「運命の相棒」がいないと言われる事が多かった騎手であり*9ようやく川田にも運命の相棒が出来たと一部では言われる事に。

史上7頭目への最後の一冠

そして夏休みを挟み、勢いそのままに最後の一冠・秋華賞へ直行。
本番では三冠達成への期待や春二冠で見せつけた圧倒的パフォーマンスから、春から続く「リバティ一強」ムードが更に強まり、最終的にジェンティルドンナアーモンドアイのオッズをも凌ぐ単勝1.1倍(複勝1.0倍=100円元返し)に支持される*10
出足良くいつもより前目でレースをすすめ、道中では案の定熾烈なマークを受けるも1000mを通過してから外へと持ち出し、最終コーナーを抜ける頃には今回も涼しげな顔で先頭に立つと、後続をみるみる突き放していく。
そのまま脚は衰えることなくむしろ最後は流す余裕すらみせ、鬼脚で追い込んできたマスクトディーヴァを退けて史上7頭目の三冠牝馬の座に就いたのだった。
これまで三冠全て1番人気で三冠牝馬になったのはメジロラモーヌ・アパパネ以来3頭目の快挙でもあった。

「ありがとう、お嬢さん。素晴らしい走りだ…よくやった…!」

JRAが公開しているリバティアイランドのジョッキーカメラには、川田騎手による彼女への感謝と称賛の言葉が収められており、以後はリバティの愛称として「お嬢さん」が定着しつつある。

父ドゥラメンテにとっては自分や昨年度のスターズオンアースが成し得なかった悲願達成となり、鞍上の川田騎手にとっても待ち焦がれた三冠であった。
やはり相当なプレッシャーを感じていたらしく、普段感情を表に見せない彼も優勝インタビューでは堪え切れずに歓喜の涙を見せている。
いつも冷静な彼が騎手たちから見てもプレッシャーで顔色が悪かったようで、ジョッキーカメラには彼を祝福する騎手たちの姿と声が収められていた。
そしてスタンド前では厩務員たちと喜びを爆発させ感動で涙声になる、と三冠を手にすることはいつも冷静な彼を以てしても感情を爆発させるに足りる快挙だった。
なおネット上では彼女や川田騎手への祝福の声と同時にドゥラメンテの早逝を惜しむ声が木霊したのはいうまでもない。翌週にはドゥレッツァが菊花賞を勝っちゃうもんだから余計に…

余談だが、秋華賞が開催された10月15日は川田騎手の38歳の誕生日*11でもあった。
勝利騎手インタビューでこの事が話題に出た際、彼は「ジョッキー生活20年目にして競馬の神様がくれた最大のプレゼント」との発言を残した。
またこの秋華賞制覇により、川田騎手は史上4人目の3歳限定GⅠ全制覇騎手*12、及び史上2人目の世代限定GⅠ全制覇騎手*13となっている。

ジャパンカップ〜あまりにも遠すぎた世界最強

日本競馬の歴史に新たな1ページを刻んだリバティアイランド。
陣営は次走に初の古馬混合戦となるジャパンカップを選択。早くもここを大目標とするイクイノックスを筆頭とする古馬勢との激突が期待されていた。
なおジャパンカップには同じドゥラメンテ産駒のタイトルホルダーとスターズオンアースも出走予定で、ドゥラメンテ産駒GⅠホース同士の初対決も実現することになる。*14
加えて海外からもGⅠ2勝を挙げたフランスのイレジンが遠征を決定している他、英セントレジャーを制したコンティニュアス(ハーツクライ産駒)が遠征を予定しているなど、国内・海外の強豪メンバーと激突することが期待されている。
なお、選択肢を残すためとして、陣営は香港カップへの予備登録を行うとのこと。もしこちらを選択しても初となる海外遠征でどれほどの実力を見せられるか期待されていた。

レース当日、コンティニュアスは出走取消となるも自身は1枠1番の最内枠で2番人気。事実上イクイノックスとの2強と見られていた。
そしてレース本番、パンサラッサの大逃げをイクイノックスの後ろからスターズオンアースと共に追いつつ、残り300mでタイトルホルダーを、そして猛追を仕掛けて来たドウデュースやスターズオンアースからも逃げ切り2:22.5というオークスから0.6秒縮めたタイムでゴール板を駆け抜けた。 

――――しかしイクイノックスは2:21.8というタイムで4馬身先にゴールしていた……………
そもそもリバティアイランドとイクイノックスにはこのレースでは斤量差が4kgあった。更にリバティは全力で追いレース後は今まで見たことがないほど疲弊しきっていたにもかかわらずイクイノックスはほとんど持ったまんまでレースを終えておりまさに完敗としか言えない結果となった。
2着にはなった物の世界最強の実力をまざまざと思い知らされられる結果となったリバティアイランド。これにて年内は休養となったものの、はたして怪物令嬢の次走は如何に………。
世界最強馬に敗れはしたものの2023年度JRA賞ではGⅠ3勝の成績から最優秀3歳牝馬を受賞した。

4歳

世界に挑む令嬢

翌2024年の初戦はドバイシーマクラシックへの出走予定が発表された。
前年の覇者で世界最強馬イクイノックスがジャパンカップを最後に引退。ジャパンカップでつき放した三頭が有馬記念上位を独占したことから、現役最強の立場にたったと言って良いだろう。
唯一の海外遠征で2着で終わったレース、昨年はタイトルホルダーも挑戦を視野に入れていたものの見送られ彼も引退してしまいドゥラメンテ産駒で初めてドバイでレースすることになる。前年レコード勝ちした因縁のUMAの幻影も追いかけているのかもしれない。

なおルメール騎手がスターズオンアースもドバイに遠征する可能性を示唆しており、もし実現すれば斤量有利が小さくなった*15彼女と2度目の対決になる。
日本総大将として、あるいはドゥラメンテの孝行娘として、ドバイを怪物令嬢が制することが出来るか目が離せない。

そして迎えたドバイシーマクラシック本番。
ゲートから出たあとは馬群の中団で機をうかがい、直線を向いたところで追い上げるが、残り100mほどから前との差が縮まらず前年の7着だったレベルスロマンス、前年5着のシャフリヤールに次ぐ3着。初めて連対を逃すことになった。
全体的に先行馬が結果を残す中、中段から伸びた脚力は流石のものだったが、メイダン経験豊富な歴戦古馬達に経験値の差分及ばなかったか。
また、同レースに出走していたスターズオンアースはドバイターフにてルメール騎手が落馬負傷したことによる乗り替わりもあってか8着、前年の春天覇者ジャスティンパレスは4着だった。

次走の予定は未定であったが、5月になってから、右前脚に種子骨靭帯炎を発症していたことが判明。已む無く春は全休となってしまった。
夏には一応回復したためか秋の天皇賞で復帰することが発表されたが、本年度の秋天にはドウデュースやタスティエーラソールオリエンスやジャスティンパレス、ベラジオオペラといったGⅠ馬達も出走を予定していた。


怪物令嬢、試練の時

秋初戦として迎えた半年振りの実戦となる秋の天皇賞。前週は川田騎手が落馬負傷する*16アクシデントこそあったが無事出走にこぎ着けた。
GⅠ馬6頭という豪華ラインナップの中、当日まででのオッズは圧倒的1番人気でこそあるが、『故障明け半年ぶりのレース』『(ジャパンCと比較しての)馬体重+22kgの大幅増加』『外枠14番』といった不安要素が懸念されていた。
本番ではゲートを出てすぐ中団前目に位置取って進める形に。そのままいつでも抜け出せるポジションで4コーナーを回るが、何故か直線でほとんど伸びず、残り200mを切ると馬群から後退する一方。13着と初の2桁着順で大敗。
靭帯炎が競走能力に響きかねない故障だったとはいえ、かなり厳しい出だしとなってしまった。*17後に陣営から「7割程の仕上がり」であった事が明かされ*18、物議を醸し出してしまっている。

馬体検査では異常が無かったため、次走は前年2着だったジャパンカップを検討していたが、結局回避することとなった。もしJC出走が実現していれば出走予定であるスターズオンアース、チェルヴィニアとオークス馬かつ牝馬二冠以上の馬3頭の共演となる…と同時に秋古馬三冠を狙うドウデュースとの3度目の対決、更に同期の菊花賞馬ドゥレッツァやオーギュストロダンやゴリアット、ファンタスティックムーン等海外の強豪馬としのぎを削ることになっていただろう。

その代わりに、「ローテの間隔が広く、距離も合っている」という理由から、先の秋天で2着に食らいついたタスティエーラと共に香港カップを次走に迎えることとなった。
目下最大のライバルは、これまで中距離域をメインに活躍してG1を目下5連勝*19、それを含めGⅠ8勝を挙げた地元香港の中距離王*20「浪漫勇士」*21ロマンチックウォリアー。彼は2022年からこのレースを2連覇しており、3連覇を懸けての出走だった。
レースは道中やや後方に位置取り、最終直線で差し脚を伸ばすが、ロマンチックウォリアーを捕らえられず2着。結局4歳シーズンは未勝利に終わったが、香港カップではこれまで通りの競馬ができており、馬体重も474kgと前年のジャパンカップと近い値に戻すことができていた。ひとまず、ドバイ後の怪我と天皇賞の惨敗からは立ち直れたと考えていいだろう。

5歳

怪物令嬢、その行く末は…

翌5歳シーズンに突入したリバティアイランドの初戦はドバイターフとドバイSCとの両睨みの結果、4月のドバイターフとなった。ロマンチックウォリアーも同レースを目標に中東遠征を敢行しており*22、早速リベンジのチャンスが訪れた。

迎えたドバイターフでは中団から進めるが、同じく日本から乗り込んだ逃げ馬メイショウタバルが作り出したハイペースに付いて行けず、前年ドバイSC同様に脚が伸びず
同期のエリ女覇者ブレイディヴェーグ共々沈んでしまい8着。肝心のロマンチックウォリアーはふたつ上の先輩で前年マイルCSを制したソウルラッシュが僅差で撃破した。

ドバイターフの後は、そのままQE2世Cへの転戦することになった。このレースは、香港Cと同じシャティン競馬場の芝2000mを舞台に開催されるのだが、ロマンチックウォリアーが中東遠征の疲労を考慮して休養に入り出走しないことが決まっていた。香港Cで2着に入ったリバティアイランドにとって、このレースは久々の勝利を手にするまたとないチャンスと言えた。その一方で、懸念事項もあった。それは、海外輸送を繰り返しながら中2週で出走するというタフなローテーションである。
日本からは他にタスティエーラ、プログノーシス*23も合流してきた。
レースはゲートを出るなり後方近くに控える形に。向こう正面の途中、3コーナー手前から徐々に押し上げていき一時は5番手程にまでくるも、直線入ったところで突如急後退。
タスティエーラがプログノーシスとのワンツーフィニッシュでダービー以来の勝利を飾る裏で、リバティアイランドはまさかの競走中止となってしまった。

レース後は様々な真偽不明の情報が飛び交っていたが、SNSでは川田騎手は号泣していたと普段の彼からは想像できない姿が激写されていたり、ターフ上で幕を張られたが
香港競馬では重篤でない怪我でも幕を張ることもあるため無事であることを願う声も多かった*24
一方実は幕内が見れる位置の客席からは幕の内側でターフに横たわるリバティアイランドの姿が投稿されていたためこの時からほぼどうなったかが確定していた。
そしてレースから約2時間後の報道でリバティアイランドは検査の結果、左前脚種子骨靭帯を内外共に断裂、更に球節の亜脱臼まで発症しており*25、予後不良と診断され安楽死処置を施された。享年5歳。
現役の競走馬が海外で予後不良になるのは11年前のアドマイヤラクティ以来で競走中の場合では27年前のドバイワールドカップのホクトベガ以来。
また牡牝三冠馬合わせて現役のまま死去したのはJRA史上初*26である
また明らかに血統的に丈夫ではないうえ、重篤な故障を経験した彼女に中2週で海外連戦させた陣営にも多くの批判が集まっている*27*28
なお競走中止となった際、リバティアイランドは外ラチに避けるまでの間、川田騎手を落とすまいと堪えており、川田騎手が降りたあとは救護スタッフが来るまで互いに顔を寄せ合っていた。
最後の直線に他の馬と接触したことが故障の原因ではないか?という声もあったが川田騎手本人が「他の馬は関係なく故障が起きた」と説明している。

ホクトベガやアドマイヤラクティ等の例もあり、リバティアイランドも日本には帰れず現地に葬られるものとファンの間では思われていたが、5月3日の報道で香港現地で荼毘に付した上、遺骨は日本へ返還された*29ことが明らかとなった。今後、北海道に墓が建てられる予定である。
これに合わせてJRAでも全国の競馬場・ウインズ・エクセルで献花台・記帳台が5/3~25まで設置されている。

時には強く、時には美しく、時には可愛く魅せてくれたリバティアイランド号のご冥福をお祈りします。


【競走馬として】

戦歴にあるようにリバティアイランドは父譲りの豪脚をもっており、他馬を抜き去ってそのまま押しきるという力強い勝ち方をしてきた。加えて、差し追込主体だった父と異なりある程度前目につけても勝負に持ち込めるくらいには脚質の融通が利き、実際にオークスとジャパンカップでは先団につけて好走している。他のドゥラメンテ産駒が大抵先団追走、後継であるタイトルホルダーやドゥレッツァに至っては逃げ切り勝ちも可能等父と真逆なレーススタイルが目立つなかで、リバティアイランドは1番父のレーススタイルに近い走りをしている。
また、普段は厩舎インタビュー時に居眠りするほどマイペース気味だがレース本番では一気にテンションが上がり臨戦態勢になる等、父の闘争心もしっかり受け継いでいた。
一方で父や他の多くのドゥラメンテ産駒に見られるような完治に時間がかかる故障も経験するなど頑丈とは言い難く、それが最終的に悲劇的な最期を遂げることにもなってしまった、


【余談】

近年GⅠ3勝が目安とされるヒーロー列伝だが、彼女は阪神JF・桜花賞・オークスでGⅠ3勝になったものの牝馬三冠がかかっていたためか
オークス後の安田記念でGⅠ3勝になったソングラインが先にヒーロー列伝が作られている。*30
その後有馬記念を制しGⅠ3勝を挙げたドウデュースと共にヒーロー列伝の制作が決定。24年4月にドウデュースと同時に公開された。

また、GⅠになった阪神JFを勝って三冠牝馬になったのは彼女が初めてだったりする*31

ジョッキーカメラを見れば分かりやすいが、リバティアイランドは毎回レースの際お手製の髪飾りをつけていた。
これは担当の松崎助手の奥様の手作りであり、桜花賞ではピンク、秋華賞では黄色とオレンジ*32、JCは日本国旗の紅白など、季節やレースのイメージが反映されている。
ヒーロー列伝の「冠」は彼女が勝ち取ったGⅠだけでなく彼女のチャームポイントである髪飾りも指しているようである。
こんなかわいらしいエピソードでも上書きできないほど本馬のゴリウーっぷりが凄まじすぎるのだが。

なお、レース中に亡くなった例として挙げたホクトベガだが、この時鞍上を務めていたのは横山典弘騎手。
彼はあまり行きたがらない彼女を強引にいかせようとした結果馬場に足を取られ落馬、彼は馬が放り投げたおかげで大事には至らなかったが彼女は予後不良になってしまった。*33
この出来事は彼に大きな変化をもたらし、騎乗スタイルをそれまでの『騎手が主導を握る』スタイルから『馬の状態に合わせて無理はさせない』スタイルに変化した。


追記・修正お願いしますよ、お嬢さん。

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リバティアイランドの安楽死措置についてコメントが集中した場合、新規コメントを停止する可能性があります。リバティアイランドの安楽死を悲しんでいるのは騎手、調教師を始めとした陣営を同じです。誹謗中傷をやめ、ただリバティアイランドの死を悼みましょう。

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最終更新:2025年05月16日 16:31

*1 観光名所として有名な自由の女神像が立地する島。

*2 日本最大の競走馬生産牧場集団。ここに書ききれない程の幾多の名馬を生産し、現代の日本競馬に絶大な影響力を誇る存在である。競走馬生産牧場では「社台ファーム」「ノーザンファーム」「白老ファーム」などが、一口馬主クラブでは「社台レースホース」「サンデーレーシング」「G1サラブレッドクラブ」がこのグループに属している。

*3 中内田調教師の祖父は地方競馬の馬主をしており、川田騎手の父である川田孝好氏(佐賀競馬元騎手・現調教師)の厩舎に所有馬を預けていた関係があり、その縁で川田騎手は小学生の頃に中内田調教師の実家に遊びに行ったこともある。当時中内田調教師のことを川田騎手は「みーくん」と呼んでおり、その後海外へ修行に行った中内田調教師とはエアメールで何回かやり取りするなど親交を続けた。

*4 桜花賞当日の芝レースは本馬を除く全ての勝ち馬が4コーナー5番手以内を先行しており、その大半が馬場の内側を突いての勝利だった。

*5 主戦の川田騎手はトップジョッキーではあるのだが長距離になればなる程成績が悪化する傾向があり(最も分かりやすい例として3000m以上の「重賞」レースで勝ったのが2010年菊花賞「のみ」)、リバティアイランドが所属している中内田厩舎はこれまで勝利したGⅠが全てマイル、重賞でも2000が限界、2400m以上の勝利に至ってはオークス前週までの累計360勝中僅か「2勝」と明確に中距離以上の競走馬の育成を苦手としている。

*6 発足前であれば日本競馬会時代、1947年のトキツカゼの大差が最大着差記録であり、1943年のクリフジの8馬身差が次点。

*7 ちなみにこの時のフジテレビ実況は立本信吾アナウンサー(直近で有名な競馬実況では大逃げを敢行するパンサラッサとイクイノックスら差し馬勢の争いとなった2022年天皇賞(秋))だが、この時マイクには立本アナがあまりにも興奮したのか机か何かを叩く音がマイクに拾われている。

*8 JRA賞騎手部門の1つで、当該年度に「最多勝利騎手」「最高勝率騎手」「最多賞金獲得騎手」の3タイトルを獲得した騎手に与えられる賞。その都合上受賞には3タイトルを必ず獲得する必要があるため、受賞回数よりも該当者なしの年の方が多い名誉ある賞である。2023年現在、川田騎手以外には岡部幸雄氏(元騎手・現競馬評論家、1987年・1991年の2度受賞)、武豊騎手(1997年~2000年・2002年~2006年の計9回受賞)、クリストフ・ルメール騎手(2018年受賞)がそれぞれ受賞。

*9 近年ならラヴズオンリーユーは現役最終年のみの主戦、ウシュバテソーロに至ってはドバイ本番で乗り替わり…と所謂「デビュー当初や本格化から乗り続けて共に歴史的栄光を掴む、もしくは世代の王者に登り詰める」と言った馬が本当にいない。共にダービーを制覇したマカヒキですら前走の皐月賞含めて生涯2戦しか跨っていないレベル。

*10 秋華賞での単勝1.1倍は2002年に制したファインモーション以来である

*11 川田騎手の父で、佐賀競馬で調教師として活動している川田孝好氏も同じく10月15日が誕生日で、この日67歳を迎えている。

*12 残りの3人は武豊、福永祐一、クリストフ・ルメール。

*13 他に達成しているのは福永祐一のみ。

*14 2023年10月時点ではドゥラメンテ産駒でも牡牝筆頭産駒といえる両者の対決はこの機会を逃すとタイトルホルダーは2023年末で引退がほぼ確定でJCの次は有馬記念を予定、リバティアイランドが有馬記念に出走しない限りは2度とない可能性が高く、事実タイトルホルダーは有馬がラストランとなった

*15 5歳以上馬を基準に4歳馬は0.5kg減。

*16 軽度とはいえ頭部負傷。翌日の菊花賞でシュヴァルグランの初年度産駒メリオーレムに騎乗予定であったが藤岡佑介騎手にスイッチすることに。

*17 リバティアイランドのジョッキーカメラを見ると、直線で追い上げる際に動きが乱れているのが確認出来る。

*18 https://idolhorse.com/ja/horse-racing-news/world/liberty-island-revitalised-for-hong-kong-test/

*19 2023年のコックスプレートを制してから、その後シャティンの芝2000mG1を年を跨ぎながら3連勝。2024年の春には来日して安田記念を制している。

*20 ただマイルや中長距離域と言える2400mにも対応できており、前者では先述した2024年安田記念を勝った他にもシャティンの芝1600mではリステッド1勝・GⅠ2着1回、後者では2023年にシャティンの芝2400mGⅠ・チャンピオンズ&チャターカップで2着に入っている。ただこの時の相手は当時の香港マイル界の覇者たるゴールデンシックスティと中長距離の覇者であるロシアンエンペラーであり、両者とかち合うことを懸念してか2000mでの活躍がメイン。

*21 ロマンチックウォリアーの現地表記

*22 この年の始動戦はサウジカップに出走。初ダートながらフォーエバーヤングとのマッチレースを演じ2着。そこからの転戦。

*23 リバティアイランドと同じ中内田厩舎の先輩でありQE2世C2年連続2着をはじめとするGⅠ善戦ホース。川田騎手のお手馬の1頭だが、今回ロマンチックウォリアーが回避したため同馬の主戦騎手だったマクドナルド氏が騎乗。

*24 特に「自分で馬運車に乗った」という写真掲載のない真偽不明の情報に惑わされた人が多かった

*25 馬との身体構造の違いを承知で例えると『脚先を保持する靭帯が切れて、足首の関節部で身体を支えてる』に等しい状態。

*26 海外馬も含めると香港の2017年三冠馬ラッパードラゴン以来。国内地方競馬を含めると岩手三冠のロックハンドスター以来14年半ぶり。

*27 同じサンデーレーシングのジオグリフ(ドレフォンの初年度産駒で2022年の皐月賞馬)にも似たような海外連戦のローテーションで走らせてレース後骨折故障が判明、帰国後更に重篤な状況だったことが判明したため余計に批判が集まっていた。

*28 ただし、同レースで3着入線したCalifもリバティアイランドと同じくドバイシーマ→QE2世Cの中2週ローテであるほか、過去には日本馬でもラヴズオンリーユーがCalifと同じローテで優勝しているので、結果的にリバティには厳しかっただけでこのレース選びが「非常識極まりない」ローテというわけではないことに留意。ラヴズの場合は1ヶ月近い間隔が空いてこそいるが。

*29 ホクトベガの客死したドバイやアドマイヤラクティの客死したオーストラリアは土葬文化なのに対し、香港は日本と同じ火葬文化が根付いている事も大きい。

*30 アパパネも阪神JFを勝っているが、当時は国際グレードが付いていないJpnIの扱いであった。GⅠになって以降で作られたのはソダシが阪神JF・桜花賞・ヴィクトリアマイルの3勝が初めて。

*31 ジェンティルドンナ・アーモンドアイ・デアリングタクトは何れも阪神JF未出走、アパパネは阪神JFに出走し勝利しているが先の注釈にある通り国際G1という扱いではない時代のものである。。

*32 秋華賞を制した時の写真が採用されたヒーロー列伝にも写っている。

*33 特に陣営としてはこれが引退レースで欧州で種付けを済ませ生まれ故郷で繁殖入り、というプランが練られていただけに最悪の結果となってしまった