登録日:2024/12/01 Sun 12:36:20
更新日:2025/04/25 Fri 07:53:50
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君まで来てくれるとは嬉しい限りだ、キラ・ヤマト君。
さぁ遠慮せず来たまえ。始まりの場所へ!
キラ君、君にとってもここは生まれ故郷だろう?
殺しはしないさ。せっかくここまでお出で願ったのだから。
君も知りたいだろう。
人の飽くなき欲望の果て、進歩の名の下に狂気の夢を追った、愚か者達の話を。
君もまた、その息子なのだからな。
ここは禁断の聖域。
神を気取った愚か者達の夢の跡……。
概要
メンデルはラグランジュ4(L4)宙域に建設されたスペースコロニーの一つ。
名前の由来は、エンドウ豆で遺伝子研究を行い「メンデルの法則」を確立した、歴史上最初の遺伝子学者・グレゴール・ヨハン・メンデルから。
大まかな形状は「窓」の無い円筒形。
ヘリオポリスを含むいわゆる「島3号型」ともジオン公国やインダストリアル7などの「密閉型」とも異なる、回転軸に対して垂直にミラーと思しき巨大な円盤が嵌っている。
建造開始時期はヘリオポリスなどのいわゆる「島3号型」と同時期なので、「技術的な古さ故にこうなった」訳ではないと見られる。
劇中では放棄されて久しく、ミラーには所々穴が開いている他、元々この形状だったのかあるいは開戦初期の戦闘やらブルーコスモスの襲撃事件やらバイオハザードやらで破損したのか、先端と後端は綺麗に整っていないような状態となっている。
本編開始以前の時期に於ける
コーディネイター誕生のための遺伝子工学研究の一大拠点であり、
遺伝子研究のメッカとして名を馳せていた。
劇中では既に放棄されて久しいためシリーズ各作でも出番はそう多くないものの、その名前が出る度にコズミック・イラ世界の闇が明るみになる、しかし後に滅びかけた世界を救う「希望」も最後に生み出してはいる(……が、それ故に新たな苦悩も生まれてしまっている)という、まさしくコズミック・イラ世界のパンドラの箱である。
歴史
本編以前
建造開始はC.E.30年。
ジョージ・グレンが持ち帰った「クジラ石」によって宗教界の権威失墜、第一次コーディネイターブームの到来、宇宙ビジネスの活発化、L4を含むスペースコロニーの建設が加速……といった出来事があった時期である。
C.E.46年頃には「遺伝子研究のメッカ」になっており、地上で禁止されたコーディネイターの遺伝子調整を希望する夫婦や、遺伝子操作や研究を行う企業G.A.R.M. R&Dの研究員などで賑わっていた。
だがC.E.54年に流行したS2型インフルエンザで「コーディネイターの犠牲者は一人も出ない中、ナチュラルにだけ多数の死者が出た」ことによる反コーディネイター感情の爆発、その煽りを受けての一度は失墜した宗教界の復権や、
翌C.E.55年に制定された地球での遺伝子調整を改めて禁止する「トリノ議定書」を受け、ナチュラル市民の
反コーディネイター感情に起因する暴動は世界各地に拡大した。
コーディネイター誕生に関わる一大拠点であるメンデルにその矛先が向かない筈もなく、メンデルとG.A.R.M. R&Dは過激派反コーディネイター組織
ブルーコスモス系武装組織に襲撃を受けている。
因みにC.E.55年と言えばキラやカガリ、ラクスの生年でもある。
その後、地球のコーディネイターのプラントへの移住が加速し、マンデルブロー号事件やその対抗措置としてプラントの政治結社だったザフトが政治・軍事・警察組織を総合する
現在のザフトへの組織改編などが起きたC.E.68年、メンデルでは多数の死者を出すバイオハザードが発生する(
言うまでもないがゾンビの大発生事件ではない)。詳細は不明だがムウ曰く「結構な騒ぎだった」とのことである。
この事件の背後にはブルーコスモスが関与しているとの「噂」もあるが真相は不明。
この事態への対応としてコロニー内全域を放射線消毒したことでバイオハザードの沈静化には成功するが、結局そのままメンデルは放棄されG.A.R.M. R&Dも倒産する。
本編第1話の3年前にして、この時点でメンデルはスペースコロニー、延いては遺伝子研究施設としての役目を終えたと言える。
以降はアスランやアデス曰く「妙な連中」の根城にされたりなどしつつも、他のL4のコロニーと同様、大戦開戦直後に放棄されたコロニーとしてC.E.の宇宙開発史とコーディネイター史に埋もれる………はずだったが、どういう運命のいたずらなのかメンデルまたはメンデルの名が登場する度に、主人公含む多くの人物が一生知らないで良かっただろう余計な事を知る羽目になる。
その碌でもなさは「SEEDシリーズの黒幕達が所属した全ての元凶の場所」、「何度かメンデルを襲撃したのはブルーコスモスの数少ない功績」との呼び声も高い。
これ以降は『機動戦士ガンダムSEED』及びその続編の核心部分に触れています。
というか各作品の核心部分しか書かれていません。
承知の上でお進みください。
『SEED』
PHASE-43にて本編初登場。PHASE-45~46の主な舞台。
オーブを脱出し、当座の拠点と水の補給場を求めていたアークエンジェルとクサナギはL4を目指し、その中から比較的損傷の少ないと見られたメンデルに目を付けていた。
大戦初期の戦闘の影響で損傷し放棄されてから1年が経過したコロニーの多いL4の中で、狙い通りメンデルは遠心重力も電力供給や呼吸可能な空気も保たれており、アークエンジェルとクサナギはメンデルの港湾内に隠れ潜みつつ物資を確保、
更にザフトを離脱したエターナルと合流し、三隻同盟がメンデルにて結成される。
しかし地球軍とザフトの双方に気取られてしまったため、ここを拠点にできたのは僅か二週間弱だった。
クルーゼ隊はドミニオン率いる地球軍艦隊から少し遅れて到着。ドミニオンの一時撤退を確認すると、イザークを連れたクルーゼ自らメンデルに突入。
クルーゼを追撃するムウと、ディアッカ、キラは、施設内に進入する。
何の因果か、メンデルに深い所縁のあるこの奇妙な巡り合わせに運命めいたものを感じていたクルーゼは、ムウを追いかけて来たキラにコズミック・イラ世界の深い闇に包まれた歴史を語り掛けると共に、これまで「何かある」と示唆されていたキラの出生の秘密を明らかにする。
本作で明らかになった秘密またはC.E.の闇
- 1.コーディネイターブーム当時の滅茶苦茶な生命倫理
目はブルーがいいな、髪はブロンドで……
子供には才能を受け継がせたいんだ
優れた能力は子供への未来の贈り物ですよ
流産しただと!? 何をやってたんだ! せっかく高い金をかけて遺伝子操作したものを!
妊娠中の栄養摂取は特に気を付けて下さい。日々の過ごし方もこの指示通りに……
完全な保証など出来ませんよ。母胎は生身なんですし、それは当然胎児の生育状況にも影響しますよ
目の色が違うわ!
ゲームのアバターでも作るかのようにデザインを行う夫婦、調子の良いセールストークを並べる医師、流産の報に生まれる筈であった我が子や母体の心身を気にかけるよりも調整費用が無駄になった事を憤る父親、投げやり気味な態度で遺伝子調整失敗の可能性を語る医師、子の目を見て調整に失敗したことを嘆き絶叫する母親……「思い通りの調整がされなかったコーディネイター」の行く末は、愛されないだけならまだしも思い通りの調整でなかっただけで捨てられる子すら出る始末。
それは小説版でショッピングと表現されるほどの、アバターでもペットでもない「自我を持つ人の子」を産む様とは到底言い難い、著しい人倫の荒廃振りであった。
戦争を描いている以上、「簡単に人を殺す」「人の命を粗末に扱う」こと自体はガンダムシリーズではよくある事というか、ある程度は避けては通れない事ではある。
だが「簡単に人を産む」というのは例が無く、初放送当時はこのようなあまりに自分勝手過ぎる夫婦や子供を「商品」の如く扱う医師達の態度は流石に常軌を逸し過ぎて現実感が無いと感じる視聴者も少なくなかったようで、「当時はショックを受けるより『いくら何でもそれは無い』という逆に冷めた印象を受けた」との声もままある。
しかし近年の「毒親」問題などを受け「嫌なリアリティを感じるようになってしまった」という感想も増えつつある。
高い金を出して買った夢だ! 誰だって叶えたい。誰だって壊したくはなかろう。
だから挑むのか! それが夢と望まれて叶えるために!
人は何を手に入れたのだ! その手に、その夢の果てに!
知りたがり、欲しがり! やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う!
何を知ったとて! 何を手にしたとて変わらない!! 最高だな、人は……。
そして妬み! 憎み! 殺し合うのさ! ならば存分に殺し合うがいい! それが望みなら!
この世に産まれて最初にかけられる言葉が、祝福ではなく呪詛。
多大な夢を託して作った子が、産まれた瞬間に失敗作だった事が判明する絶望。
そして何の罪もないのに親のエゴで遺伝子を調整され、「思い通りではなかった」というだけで親から愛されず、果ては捨てられる子供たちの人生。
G.A.R.M. R&Dの中にも、そんな状況を憂いたか、それとも不完全さ不安定さがプライドを傷つけたか、はたまた金銭的な問題だったのか。この惨状をどうにか変えたいと願う者が居た。
(最大の不確定要素は、妊娠中の母胎なんだ……それさえ解消できれば……)
主任研究員ユーレン・ヒビキは、あるアプローチからコーディネイターに付き纏う「調整と実際の出生時のブレ」の解決を試みていた。
もう止めて! あれは物ではない! 命なのよ!?
解っている! だからこそ完成させねばならないんだ!
生命は産まれ出づるものよ! 創り出すものではないわ!
嘘つき! 返して! あの子を返して! もう一人の……!
私の子だ! 最高の技術で、最高のコーディネイターとするんだ!
それは誰の為……? 貴方の為!?
『最高のコーディネイター』…それがこの子の幸せなの!?
より良きものをと、人は常に進んできたんだ!
それは、そこにこそ幸せがあるからだ!
ユーレン・ヒビキ博士は、『コーディネイターといえど生きた母親から産まれる生きた子供』であり、
母体という『不安定な器』の影響が遺伝子操作のブレに繋がっていると分析、受精卵から胎児に至るまでを
人工子宮という『安定した器』で育成する事で必ず調整通りに生まれる「最高のコーディネイター」、スーパーコーディネイターを構想した。
誤解される事が多いが「スーパーコーディネイター」のスーパーたる所以は「件の『調整した通りに生まれない事がある問題』が解消される」という点にある。
あくまで技術的課題の一つを乗り越える点こそが重要であり、「単なるコーディネイター」を超越することを目指したものではない。
単に「遺伝子調整と誕生までの手順」が変化するだけなので、実態としては『「次世代型」「第二世代型」のコーディネイト技術』程度の意味合いである。
もしスーパーコーディネイターの技術が一般化していればやがてはスーパーなどという大層な呼び名は使用されなくなるか、従来の技術の方が「レガシーコーディネイター」とでも呼ばれるようになる事だろう。
しかしC.E.の技術を以てしても人工子宮の開発は難航、劇中に登場した胎児のサンプルナンバーを額面通りに受け止めるなら実験の過程で5万人以上の胎児が犠牲になったと考えられる。
流石にそこまで行かないにしても、劇中に登場した人工子宮の筐体や研究サンプルとして保管されていた胎児の遺体の数からして犠牲になったのは十や二十で効かない事も間違いないだろう。
やがてユーレンの妻にして同じく遺伝子研究者であるヴィア・ヒビキ博士は積もり重なる犠牲を前に良心が咎め始め、ユーレンに計画中止を訴え始める。
だがこの時期になるとユーレンの目標は「必ず調整した通りに生まれる最高の『コーディネイター技術』の確立」から「必ず調整した通りに生まれるコーディネイト技術を用いてあらゆる分野に最大限の遺伝子調整を施された『最高のコーディネイター』を自らの手で生み出す」にすり替わってしまっていた。
やがてユーレンはヴィアに宿っていた双子の片割れを無断で抜き取り、自らと妻の子すら実験台にした。
果たして、スーパーコーディネイター誕生実験は今度こそ遂に成功した。
C.E.55年5月18日、ヒビキ夫妻の子にして史上初のスーパーコーディネイターの男の子キラ・ヒビキが誕生、(記録上は)同日には双子の女の子カガリ・ヒビキもナチュラルとして誕生している。
しかしどこから情報が漏れたのか、スーパーコーディネイター計画はブルーコスモスの耳に入り、ユーレンとその双子は当時のブルーコスモスの最優先抹殺対象と目されるに至る。
上記の、丁度双子が生まれたのと同年であるC.E.55年のブルーコスモスのメンデル襲撃もおそらくはこれを目的としたものだろう。
だがヒビキ夫妻もブルーコスモスの襲撃を読んでいたのか、双子はヴィアの妹カリダとその夫ハルマのヤマト夫妻に託される。
ヤマト夫妻と双子は難を逃れる事に成功、やがて男の子の方はそのままヤマト夫妻が引き取りその息子
キラ・ヤマトとして、女の子の方はオーブ代表首長
ウズミ・ナラ・アスハが引き取りその娘
カガリ・ユラ・アスハとして、お互いの存在も自身の出生の秘密も、何も知らない「普通のコーディネイターの男の子」「普通のナチュラルの女の子」として育てられる事になる。
その後のヒビキ夫妻の消息は不明だが、実子がいずれも世界的な著名人となったのに顔さえ見せないことやそもそもユーレンの方は生きていたら何かしら行動を起こすのはたやすく想像できる事から、死亡した可能性が高いと考えられる。
クローンは違法です!
法など変わる。所詮は人の定めたものだ。
しかし……
苦労の末手にした技術、使わんでどうする。欲しいのだろう? 研究資金が
ところで、スーパーコーディネイターの研究資金はどこから出て来たのかというと、そこにはとある密約が関係していた。
C.E.46年、メンデルにとある男が訪れる。
代々受け継がれる予知能力めいた直観力を駆使して栄えた資産家であるフラガ家の当主アル・ダ・フラガ。彼には二つの悩みがあった。
二つめは
子。
彼も当初は息子の
ムウ・ラ・フラガを後継者にするつもりだったが、妻の反対によりムウには思ったような教育ができず、やがて
跡継ぎ足り得ない、不出来な息子と見なされるようになる。
自分は老い先短く、子供も不満の残る出来、かくなる上は、自分の後を継げるのは自分しかない――アルは自分の後継者は自分のクローンこそが相応しいと確信した。
だがデザイナーベビーが現実のものとなりその心理的ハードルも下がったC.E.世界と言えどもヒト・クローンの製造はまだ違法。大っぴらには製造できなかったと思われる。
故にアルは「多額の資金を欲している遺伝子工学の技術を持つ者」――スーパーコーディネイターの研究資金を必要としていたユーレン・ヒビキ博士に極秘裏にクローン製造を依頼した。
ユーレンも当初は拒否したもののアルは全く意に介さず、おそらくはユーレンが折れる形でアルのクローンは生み出される。
しかし後にこのクローン・アルは生まれながら寿命が短い事が判明、思い通りの教育を施せなかった息子と短命なクローンという二つの「失敗作」からアルは前者を後継者に決め、クローン・アルは捨てる事に決める。
どういった経緯でか、後にこの顛末はクローン・アル本人も知り、当然ながらと言うべきか途轍もなく巨大な憎悪を生じさせる。
結果としてアルは屋敷に火を放たれ、妻諸共自らのクローンに焼き殺されるという因果応報な末路を辿る。
最大の復讐を成し遂げたクローン・アルだったが彼の憎悪が消え去る事は無かった。
「自分が不完全な命として生まれ、深い絶望を味わわなければならなかった理由」……彼はそれを
「より優れたものへ」という人類の他人を顧みない競争心と欲望と考え、やがて
それが激化した末の「憎しみ合う者同士の終末戦争による自滅」こそが人類の願いではないのか?という疑いを抱かせる。
クローン・アルはそれを密かに後押しすべく、プラントへ渡り
ラウ・ル・クルーゼと名乗り暗躍をし始める……。
……以上の様に、「数多の犠牲の末にようやく完成したスーパーコーディネイターの唯一の成功例」キラ、「その研究資金として手前勝手に作られ、失敗作として手前勝手に捨てられた」クルーゼ、「遺伝子上はその息子という事になる」ムウの三人はメンデルと互いに密に連接しており、
クルーゼがこの三人が偶然メンデルに集まり実際に対面を果たしたことに運命めいたものを感じていたのはそのためでもあった。
何れも本人が生まれる前の話だったり本人の全く与り知らぬ所で動いていた話だったりと、当人に責任は全くないのは間違いない。
しかしコーディネイターとして生まれた事に悩みを覚え始めていた当時のキラにとって、
「下手にコーディネイターとして生まれたせいで友人や片思いしていた子と距離が出来つつある」どころか
「ヤマト夫妻は実は義両親で、自分の本当の親はC.E.屈指のマッドサイエンティストだった」「自分一人が生まれる為に多数の兄弟が犠牲になっており、何かが違えば自分が代わりに今なおそこでホルマリン漬けになっているサンプルのどれか一つになっていたかもしれなかった」こと、
またムウにとっても
「妙に因縁めいたものを感じる宿敵は、ただでさえ下種野郎の類だと思っていた父の最悪なエゴの犠牲者だった」ことには非常に深い衝撃を覚えることとなる。
当然ながらムウは当初はクルーゼが動揺を誘う為の与太話と思い信じはしなかったが、G.A.R.M. R&D跡地に残された資料の中にはアルとムウ親子や、カガリがウズミから手渡されたものと同じ誕生直後のキラ・カガリを抱くヴィアの写真、クルーゼやスーパーコーディネイター研究の記録が残されており、真実と認めざるを得なかった。
結局クルーゼは薬の副作用が出始めた事で撤退。ムウも元々負傷していた事でキラに連れられる形で同じく撤退。
港で待機していた三隻もキラ・ムウと合流後間も無く包囲していたザフト艦隊を突破しメンデルを後にしたため、これ以降作中でメンデルそのものが関わる事は無い。
しかしアークエンジェルに戻ったムウは
マリュー・ラミアスに看護されながらも、クルーゼの正体と
失敗作として生み出された恨みで世界を道連れに死のうとしている可能性を話し、次に対峙した時は必ずやクルーゼを倒すと改めて誓う。
キラも、ザフトから解放されたフレイを回収できず地球軍艦隊に拾われてしまった事も相俟って心労のあまりエターナルに帰還直後に倒れてしまう。
ラクスに寄り添われながらも自分の存在について、それこそ砂漠編当時と比べてもいよいよ深刻に悩み始めたキラは
「自分は生まれない方が良かったのではないか」とまで考えるようになる。
それでもラクスはキラに
「昔、母に言われました。世界はあなたのもので、そしてまた、あなたは世界のものなのだと。生まれ出て、この世界にあるからには……と。あなたを見つけて、わたくしは幸せになりました」と、
キラはあくまでキラという個人であり、自分にとって大切な人であるキラに傍にいて欲しいと彼の存在を肯定するのだった。
『ASTRAY』シリーズ
『SEED』時代にロウ一行が訪れるエピソードがある。
時系列としてはおそらくキラ達がメンデルを訪れる少し前ごろと思われる。
ジオグーンの試作機に当たる地中機動試験評価型グーンでメンデル施設の瓦礫を掘り起こしている者がおり、それに補修部品を届けに行ったのがロウらがメンデルを訪れた理由である。
グーンパイロット、ディラー・ロッホの目的はプラント評議会からの依頼によるジョージ・グレンのDNAサンプルの回収。
「どうやらジョージ・グレンの研究もしていたらしい」程度の話なので、これが本作で明らかになった闇「ジョージ・グレンの遺体を研究サンプルにしていた」……と断言して良いかは少しばかり議論の余地があるかも。
ロウらは正にそのグレンのサンプルそのものを保有していたが、ディラーはあくまで自らの手でサンプルを発見したいという思いから謹んで辞退した。
また主要登場人物の一人、
カナード・パルスは
メンデル出身の、スーパーコーディネイターの失敗作のコーディネイターである。
謎の男から「成功作」の話を聞かされた彼は、
「成功作を打倒することができれば自分の正しさの証明になる」という執念に憑りつかれ、キラの命と自らの愛機である「ガンダム」に尋常ならざる執着を持つようになっている。
『SEED DESTINY』
終盤のPHASE-39でダコスタが調査の為に訪れている。
今回登場したのはほんのワンシーンだけ、時間にして数十秒程度のゲスト出演に近い扱いで、ダコスタは直後にエターナルに帰投している。
前大戦の三隻同盟と地球軍・ザフト艦隊の戦闘の影響か、コロニーの外壁やミラーには多数の穴が開いて以前にも増してボロボロになっている。
以前は生きていた機能もほぼ停止しているため遠心重力も電力供給も気密も失われており、今では宇宙服や照明器具無しでは活動できないという、ちょっと大きめのデブリも同然の状態と言って良いだろう。
ダコスタがここを訪れたのはあるデータを回収するため。
調査結果は「めぼしいデータは何故か大方削除済み」という成果なしに近いものだったが、彼の回収したものの中にはとある気になる記述が残されていた。
本作で明らかになった秘密
デュランダルの言うデスティニープランは一見今の時代有益に思える。
だが我々は忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。人が生きる場所、それが世界だということを。
ダコスタは詳細なデータの代わりに一冊のノートを持ち帰っていた。
その中にあったのは、プラント現評議会議長ギルバート・デュランダルのかつての研究資料。遺伝子の専門家たる彼もまたかつてメンデルの研究者だったのである。
ノートの中にはDESTINY PLANなる記述もあった。
そこには、当時の同僚か誰かが書き込んだと思しきメモも残されていた。
これはあくまでデュランダルの個人的な経験に基づく個人的な計画なので、間接的には関わっているものの『SEED』のあれこれと異なりC.E.そのものの闇を象徴するようなものではない。
その代わり、これは一見「平和を願う穏健派の議長」であるデュランダルが何かをやろうとしているという今後の展開の伏線にして、
何故それを阻止しなければならなかったかの一端を示すものとなっている。
「人間を『世界』というシステムの部品にする計画」、
デスティニープランが本当に発表されるのはもう少しだけ先の話である。
キラ・ヤマトという、夢のたった一人を作る資金のために……俺達は作られた
おそらくはただ、出来るという理由だけで。だがその結果の俺は……フッ……どうすればいいんだ?
父も母もない。俺は俺を作った奴の夢など知らない
人より早く老化しもうそう遠くなく死に至るこの身が、科学の進歩の素晴らしい結果だとも思えない
もう一人の俺はこの定めを呪い、全てを壊そうと戦って死んだ。だが誰が悪い? 誰が悪かったんだ?
ミネルバに所属するエースパイロットの一人。
その正体はラウ・ル・クルーゼと同じく
アルの遺伝子を用いられたクローン人間。
レイの正確な出生や出歴は不明なので、彼がメンデルで生まれたかどうかも不明だが、彼自身が「俺(達)はキラを作るために作られた」と語っているので、クルーゼと同じくコーディネイターの技術を確立するための資金援助の為に作られたというのは確定している。
年齢も不明だが、彼の幼少期には既にラウはザフトの赤服兵となっているので彼とは10歳近く離れているようにも見える。すると
ヒト・クローンが短命になる問題が未解決と判明し、ムウを後継者にすると決めたしばらく後に生み出されたことになるため、誰が、何故、何の為にレイを作り出したのかは謎が多い。
彼が推測する「出来るという理由だけで」が事実なら
アルの後継者候補としてですらなく、本当に大した意味も無く作り出されたことになる。
また彼が
生体CPUの研究施設に入った時はトラウマを思い出したかのように取り乱したので、彼もメンデルかそれと似たような施設で生まれ、そこからクルーゼとデュランダルに引き取られたという経緯だと思われる。
『SEED FREEDOM』
約18年振りの続編にして過去のファン向けのファンサービスに溢れる本作だがまたしても登場。
メンデルそのものは直接登場する事はなかったが、主要登場人物にメンデルの関係者が登場、また実はメンデル関係者だった事が判明した者も現れている。
本作で明らかになった秘密
ユーレン・ヒビキがスーパーコーディネイターを研究していた裏で、それとはまた別のチームでは他のプロジェクトも動いていた。
その名もアコード。
スーパーコーディネイターのスーパーたる所以が「遺伝子調整が確実に成功する」ことにあるのは上記の通りだが、こちらは正に「コーディネイターを超えるコーディネイター」を目指した計画。
実際に完成したアコードは高度な調整に加えて「互いの精神をシンクロさせ言葉や通信機器を介さずに意思疎通を行う」「他人の精神を読み取り読心を行う」「相手のトラウマを刺激し譫妄状態に陥らせる」といった、文字通り超人的な能力の数々を有している。
しかしそれすら真のアコード計画成就の手段に過ぎない。
アコードの開発者
アウラ・マハ・ハイバルは、当時同じくメンデルの研究者だったギルバート・デュランダルと繋がりがあり、延いては彼が構想していたデスティニープランの賛同者だった。
「遺伝子情報による先天的な適性を基準に市民の役割を割り振り、『平等で理想的で平和な世界』を築く」計画、デスティニープラン。
ならば
子に支配者層としての適性を与えれば、それは生まれながらにして「支配者の資格」を持つ事になる。
アウラの計画とは、
「人類社会の統治者」の適性を持たせたコーディネイターを作り出し、世界を支配すること、有り体に言えば
世界征服だった。
6年間で8人のアコードを製造したアウラらだったが、その中の女の子の一人は何らかの理由で後のプラント議長
シーゲル・クライン夫妻が連れ出し、アウラ自身もブルーコスモスのメンデル襲撃の煽りで研究中のアンチエイジング薬品を浴びてしまい、少なくとも身体は10歳前後にまで若返ってしまった。
実行者はアコード計画どころか命すら危うく、十数年を経てデスティニープランを実行したデュランダルもオーブに敗れ戦死、プランの世界的かつ強制的な施工も中止された。
その後の詳しい経緯は不明だが、19年もの雌伏の時を経て第2次大戦後にユーラシア連邦で「
ファウンデーション王国」を興し独立、女王となったアウラとその最高幹部となった
7人のアコードらと共に計画をスタートさせた。
ファウンデーション王国の陰謀或いはメンデルの亡霊の面倒事にまんまと嵌められた世界平和監視機構コンパスの面々はアコードの能力を前に成す術なく敗北、その総裁ラクス・クラインもファウンデーションと同行する事を余儀なくされるが、
アウラはラクスもまたアコードの一人であり、そしてラクスの母もまたアウラらの賛同者だった事を明かす。
キラのみならず、ラクスもまたメンデルの闇の産物だった。
ファウンデーション王国宰相にしてアコード筆頭、オルフェ・ラム・タオとラクスはアウラの計画に於いて新世界建設後に夫婦となり世界を導くための存在として作られており、ラクスも本能的な刷り込みのせいでオルフェの言葉に飲み込まれかけるも、
ラクスは生まれる前に他人に決められていた「運命」や必要性よりも自らが見出した「愛」を選択、暴力によって人から意思を奪い放棄させ捻じ曲げるデスティニープランとその先鋒たるアウラとオルフェを改めて拒否・否定する。
オルフェはラクスに拒絶されてもなお彼女への執着を捨て切れず、キラとラクスからの降伏勧告にも応じず、結局分かり合えないまま二人に倒される形で戦死、
他のアコード達もシン達に敗北し全滅、アウラもまた座乗艦グルヴェイグを撃沈され同じく死亡した事でメンデルから生まれたもう一つの狂気の野望は崩れ去るのだった。
関連人物
メンデルの遺伝子研究所「G.A.R.M. R&D」の主任研究員。クルーゼの言う所の「神を気取った愚か者」の一人にしてキラとカガリの本当の父親。
スーパーコーディネイターの研究を開始したのはあくまで当時のコーディネイターブームの中で浮き彫りとなった深刻な問題をどうにかしたいという思いからだったが、いつしか彼自身のエゴにすり替わって行き生命倫理を崩壊させて行く。
(額面通りに受け止めれば)数万人以上の胎児を犠牲にする、要求基準に満たなかった子供を「廃棄処分」とする、自分の子供を、しかも妻に無断で実験体にするなど、『SEED』どころかガンダムシリーズでも屈指のマッドサイエンティストと言う他ない人物。
言い換えれば「思い通りの子供を産もうとする親ガチ勢」であり、ある意味「目の色が違うわ!」の母親より狂気度は高く、「神を気取った愚か者」の評価は非常に相応しいと言える。
ロクな人間が居ない事でファンの間ではお馴染みのガンダム主人公の親勢の一人だが、キラの義両親のヤマト夫妻が「例外」「最高クラスの聖人」「良い親ランキングでは殿堂入りとして除外」「誇張抜きでこの人たちがいなかったらC.Eは終わってた」とまで評されているのに対し、
「シリーズ屈指のマッドサイエンティストであり、出生後間も無く死亡」のユーレンはそれとは真逆の実にガンダム主人公の親らしい人物。
それでも彼の目標はあくまで「コーディネイター技術の進歩」であり、無数の犠牲を出してまでスーパーコーディネイター完成に拘ったのは「技術の進歩が人類に幸福をもたらすと信じていた」という点に関しては最後までブレておらず、
また「スーパーコーディネイターを作り出すこと」に固執してはいたもののその技術で何をどうこうしようといった野望までは(少なくとも窺える範囲では)無く、生まれた双子をヴィアに抱かせてやるくらいの人間味もある(その後のキラたちの動向を考えると妻ともある程度は歩み寄った可能性もある)。
クローン技術に関しても一旦は断る程度の良識もあった。
本当の意味で自分の事しか考えていなかったアルやアウラ等と比べれば、その点に限っては歪みこそすれ科学者として真っ当な目的も社会問題に立ち向かう意思も(おそらくは)人の親としての愛もあった分ユーレンはまだマシと言える。
キラ達の誕生後の去就は不明だが、おそらくは誕生直後のブルーコスモスの襲撃で死亡したものと思われる。これで生きてたらどうしよう
ユーレンの妻にしてキラとカガリの本当の母親。
彼女もG.A.R.M. R&Dの研究員であり、その意味ではヴィアもまた「神を気取った愚か者」という事になるが、スーパーコーディネイター誕生実験で無数の生命を犠牲にしたことに良心が咎め、途中で実験中止を訴え始めた辺り精神性はユーレンなどよりは余程まともである。
生まれて来たキラとカガリを抱く様子はあるものの、おそらくはその直後のテロリストの襲撃を予見または予想したのか、妹であるカリダに双子を託しメンデルから逃がしている。
ユーレンと同じくその後の生死は明言されていないが、やはり死亡している可能性が高いと考えられる。
因みに担当声優は
桑島法子。
ヴィアは様々な意味で『SEED』の桑島氏担当キャラの中で最初の死者に当たる
ヒビキ夫妻の間に生まれた双子の内、スーパーコーディネイター実験に使用された方の片割れ。
後の『SEED』主人公
キラ・ヤマトその人であり、
スーパーコーディネイター誕生実験のただ一人の成功例にして、クルーゼの言う所の
「人類の夢」「あってはならない存在」。
ヤマト夫妻の方針で自身の出生の秘密を一切聞かされていなかったキラは「自分は(普通の)コーディネイター」「ヤマト夫妻の子」としか思っておらず、自分が
C.E.の闇の煮凝りのような存在だった事を知った際は衝撃のあまり過呼吸気味になり、
フレイを取り返せなかったショックと相俟ってエターナルに戻った後は「自分は生まれてはならなかったのではないか」とまで思い詰めるようになってしまう。
彼が「スーパーコーディネイター」としての自分にいつ、どう折り合いをつけたか(そもそも折り合いなどをつけているのかいないのか)は明確にされていないが、
『SEED DESTINY』終盤のデュランダルとの対話にて、キラがデスティニープランを否定したことをデュランダルが「傲慢だね。さすがは最高のコーディネイターだ」と称した事に対し、
「傲慢なのはあなただ!僕はただの一人の人間だ!どこもみんなと変わらない!ラクスも!」と毅然と言い返している事から、おそらくは良い意味で「自分が『コーディネイター』か『スーパーコーディネイター』かどうかはどうでも良い事」となった(「自分は自分」以外の何でもないし、それで良い、と改めて定義できた)のだろう。
これだけでも十分過ぎるほどの闇の深さだが、20年以上後に公開された劇場版にてキラの生まれを取り巻く環境は更にもう少しややこしかった事まで判明してしまった。
キラの双子だがこちらはヴィアの胎内にそのまま残され、(おそらくは)メンデルにてナチュラルとして誕生した。
そのためメンデル関係者でありながらメンデルの闇そのものとは一切関わりが無い唯一の人物。
キラと共に生後間もない頃にヴィアに託され、こちらはオーブ代表ウズミ・ナラ・アスハに引き取られた事でオーブ本国にて「
カガリ・ユラ・アスハ」として育つ。
アークエンジェルの兄貴分
ムウ・ラ・フラガの実の父親にして、クルーゼ曰く
「己の死すら金で買えると思い上がった愚か者」。
ムウの少年期に死亡しているが、彼曰く
「傲慢で横暴で疑り深い、そんな印象しかない」というあまりにネガティブな記憶しか残っていなかった。
実際、
- 違法行為と知りながら全く気にせず金で釣ってクローン製造を行わせる
- 当時の妻やムウに対する認識が「あんな女の子供」「あのバカの二の舞にはするなよ」
- 実際に生まれたクローンを見ての第一声が「ホントにこれが私かね。まあ良い」(怠そうな口調で)
- そうまでして作ったクローンが失敗作と分かった途端あっさり捨てる
- そしてあのバカ呼ばわりしたムウに対してあっさり掌返し
……などなど、人の親としても一人の人間としても外道も外道と言う他ない。
クルーゼが極端に屈折した人物となってしまった原因という意味では『SEED』終盤で世界が滅ぶ瀬戸際まで行きかけた元凶の一つと言える。
その最期は、欠陥を持っていたため捨てた「自分」に屋敷に放火され焼死という、身の丈を超えた欲と身勝手を極めた男には似合いの無残なものだった。
一方、「幼少期のムウを肩車しながら温かい笑顔を見せるアル」という一人の父親としての人情味を感じさせる写真も残されており、上記のムウからの印象との食い違いもよく話題となる。
何かがきっかけで歪んだ性格になり果ててしまったのか、偶然その時は機嫌が良かったのか、ムウが「妻の横槍で不出来な息子となる」前はそれなりに愛情を注いでいたのだろうか。
何れにせよ、出番の短さもあってアル個人については情報も語るべき内容も決して多くはないのだが、その僅かな出番で強烈なインパクトを残した事は間違いない。
主要キャラの一人であるクルーゼとの密接な関わりもあって「C.E.のイカレ野郎」「C.E.最ゲス」などの話題になるとユーレン等と並んで度々話題に上がるため知名度自体は低くなく、
出来損ないのはずのクローンと、不出来なはずの息子のハイスペックっぶりから『オリジナルのアルはそこらへんのコーディネイターよりよっぽど強いんじゃないか?』とネタにされたり、具体的な活躍や能力に関する描写は一切ないにも拘わらずナチュラル最強候補に挙げられることも少なくないなど、視聴者間の扱いは良いのか悪いのか分からない立場にある。
ザフト軍のエリート部隊「クルーゼ隊」を率いる隊長にして、「アル・ダ・フラガの出来損ないのクローン」。
当初はムウに代わる後継者として育てられるも、技術不足でクローン故の短命という問題を解決できていなかった事から捨てられ、しかも自身の出生の秘密を知ったことで全てに絶望し、アルを焼き殺しただけでは飽き足らず世界そのものすら憎むようになってしまった。
続編や外伝で登場した他のクローン人間達は、若くして死の宿命を負わされつつも自身の命と向き合い、残り少ない寿命を全うしようと前向きに生きていた。
或いはクルーゼも、もう少しばかり温かみのある家庭で育てばここまで歪むことは無かったかもしれない。
一方、福田監督はアルを殺害した時点でラウの復讐は完了しており、その後は何が何でも世界を滅ぼしたかった訳でもなかったという旨のコメントもしている。
(ただしがむしゃらにはやっていないだけで、劇中の台詞から分かる様に滅ぼしたい気持ちがなくなったわけではない。サイクロプスが使われる契機となった情報流出からもそれが分かる。)
事実としてユーレンと同じ「神気取りのバカ野郎」の筈のデュランダルと親交を深めたり、同じく短命かつ激しく憎むアルのクローンのレイを可愛がっていた様子があったり、クルーゼ隊の部下のことも気にかけている描写もあったりと、闇に塗れつつも人情も0ではない模様。
また随所に見られる「世界が滅ぶかは世界自身に決めさせる。自分は背中をそっと押すだけ」「世界滅亡は自分のではなく人類の望み」という行動指針や、
「メンデルでムウに倒されるなら、それはそれで」「生まれた瞬間から今の今まで何度も窮地に見舞われては尽く生き延びて来たキラを見ていたら、メンデルの研究者が見た狂気の夢も分かるような気がして来る」「ラクスの歌は好きだったけど世界は歌のように優しくない」という思考など、ある種のロマンチシズムの持ち主でもあった。
クルーゼが最も憎む「人類の競争心」の一つの到達点にして、自分が不完全な命として生まれねばならなかった遠因でもあるキラも、憎みつつも愛おしさのようなものも感じており、
実際キラを「キラ君」と親し気に呼んでいたり最終決戦での舌戦でも今まで隠していた憎悪を吐き出しまくりながら語り掛けるような口調も一部あったりと、複雑な思いが見え隠れする。
彼の概要は上述した通り。
ただ彼の場合はフラガ家に引き取られずクルーゼやデュランダルといった保護者に育てられ、幼少の頃から楽しそうにピアノを弾いていた回想もあるので、クルーゼほどの破滅願望は持ち合わせていなかった。
軍に入ってからもシンやルナマリアといった友人にも恵まれていたので孤独でもなかった。
それでも幼少期に自分の出自とこれから待ち受ける逃れられない運命をデュランダルに聞かされた時は大きなショックを受け、それが最終版までデスティニープランの為に戦った彼の行動に繋がる。
同時に『この運命から逃れたい』『自分は誰かのクローンではなく自分自身でありたい』という思いもずっと心に秘めており、最後の戦いでは我慢して来たこの願望をキラに諭された。
そしてキラとデュランダルの対話で自分の本心を自覚した彼の行動によってギルバート・デュランダルとDESTINYに於けるデスティニープランは終焉を迎えることとなる。
外伝で登場した、キラのある意味での無数の兄弟達の一人にしてスーパーコーディネイターの失敗作。
並のコーディネイター以上の調整結果が発現してこそいるものの、目標には満たない出来だった事から廃棄処分される予定だった所、
情が湧いた研究員が密かに逃がしたことで生存、その後はユーラシア連邦の研究組織に捕まりスーパーコーディネイター再現の為のモルモットとして非人道的な扱いを受けていた。
「失敗作」という生まれ持った烙印に対する激しいコンプレックスから一度は世界そのものを滅ぼす事を誓ったものの、やがてそれすら無意味と考えるようになり、自由を求めながらも「自由になって何がしたいか」という望みが無い虚無的な状態となっていたが、
研究所から脱走し発信機の付いた腕輪を外す為に腕をレーザー加工機で切り落とそうとしていたところにクルーゼと同一人物と思しき黒髪の男に遭遇、彼に「世界滅亡は『別の誰か』がきっとやってくれる」と諫められつつ「成功作」の存在を教わり、
「成功作を自らの手で倒すことで、失敗作と見做され続けた自分こそが成功作と証明し、それに成り代わる」という妄執にも似た目標を持つようになる。
「スーパーコーディネイター計画」の息子の一人にして「失敗作」という、元々境遇の似た面のあるキラとクルーゼの中間またはその複合的な存在だが、
狂気染みた歪みと憎悪を抱えながら戦って来た中で、短い生を精一杯生きようとするクローン兵士・プレアとの出会いと別れを経て、「成功」も「失敗」も関係無い「自分自身」をようやく確立、キラへの執着を捨て去り仲間たちと共に改めて自分の戦いを始めるという(『SEED』の)キラとはあらゆる意味で鏡映し的な人物。
その出生に加えて肌の色が同じ黄色系かつ、瞳の色も完全に同じではないものの共にアメジスト色であり、顔立ちもキラとやや似ている上、音声付き作品では担当声優がキラと同じ保志総一朗であるなど外見的な共通点が多く、性格こそ真逆だがキラの兄に当たる人物なのではないかと考察される事があるが真相は不明。
『SEED DESTINY』の時代に於けるプラント最高評議会議長にして、かつてのメンデルの遺伝子研究者。
つまり「神を気取った愚か者」の一人という事になるが、クルーゼとは互いに友人でもあった。
メンデル在籍当時は何をしていたのかの具体的なことははっきりしないが、「DNA解析の専門家」と呼べる人物ではあった模様。
彼の知識と技術、「先天的に短い寿命の為に世界に絶望した友人の顛末を見て来た」「遺伝的素質を理由に恋人と別れざるをえなかった」という経験は、やがて人生の全てを遺伝子で決定する「デスティニープラン」という形に収束して行く。
「デスティニープラン」という語句と、それに対する疑問意見がメンデルに落ちていたノートに残されていた辺り、メンデルに居た頃からその構想自体はあったらしい。
……というのが『SEED DESTINY』で描かれた範囲でのメンデルとの関わりだったが、後の『SEED FREEDOM』にてファウンデーション王国の中枢メンバーとも関わりが深かった事が判明している。
『SEED FREEDOM』の時点で20歳であるオルフェらが幼少期の頃から一緒に居る写真が登場しているため、『SEED DESTINY』の頃のデュランダルの年齢から逆算すると十代半ば頃からメンデルで遺伝子研究やアコードに関わっていた事になる。
飛び級か、C.E.の世界では学校のシステムが現代と異なっているのか、何にせよデュランダルの才覚が並みならぬものだった事は確かだろう。
一方、アウラの同志だった割にその計画の要であるラクスを取り込むのではなく抹殺しようとするなど、当時は機が熟すのを待っていたであろうアウラを妨害する事になる行動も取っており、どこかのタイミングで袂を分かったのかもしれない。
ファウンデーション王国の女王にして
かつてのメンデルの遺伝子研究者。
劇中でアスランの口から「メンデルで研究者をしていた」との発言が飛び出した瞬間に「またメンデルか!」「またメンデルの亡霊が悪さしてんのか!」と心中で叫んだ視聴者は数知れない事だろう
精々10歳前後にしか見えないが、実年齢は50歳。そして劇中に登場した「19年前(31歳頃)の写真」では相応に大人の女性……という描写と設定の食い違いは数多くの憶測を産んだが、
小説版では「資金集めの為に研究開発中だったアンチエイジング薬をメンデルが何者かに襲撃された際に大量に浴びてしまい、数ヵ月かけて幼児化、なおかつ老化しなくなった」と
どっかの名探偵と某組織の元研究員みたいな経緯が解説された
一部ではアルはここに投資すべきだった、とする声もある。それでも「不老」はともかく「不死」が約束されるわけではなさそうだが…。
後に異常性を見せ始めるとはいえ曲りなりにも当時の社会問題をどうにかしたいという思いから研究に没頭し、手段はともかく目的自体は至極真っ当だったユーレンや、
個人的な傷心が原因だったり独善的な面もあったものの「失敗による絶望を誰も味わわないで済む世界にしたい」「多少無理矢理にでも世界を平和にしたい」という思いも確かにあったデュランダルに対し、
アウラの野望は
「自身の研究と計画の産物で世界を支配する」という極めて身勝手なものである。
ここまで何人も登場した
「神を気取った愚か者」の、ある種の極致であり、傲慢かつ狭量な人間性は、それまで「ガンダムシリーズ最悪レベルのマッドサイエンティスト」だったユーレンの大方の評価を
「しかしアウラと比べれば、人の親としては相対的に見ればあれでもまだマシ」にしてしまった。
…どころかパトリック、アズラエルと言った面々すら
「アウラに比べたら、まだ同情できる事情や柔軟性があるだけマシ」とすら評されているのだが。
福田監督がXで開示した故・両澤千晶によるアウラの設定メモは以下の通り。補足しておくと初期案から見た目幼女の設定である。
アウラ・マハ・ハイバル(54歳/一世代目コーディネイター/女)
ファウンデーションの女王(前略)。
メンデルにおいて、キラの父親の共同研究者だったが、意見の衝突から袂を分かつ(コーディネイターよりも進んだ人類を造るという目的)。
キラの父はこの研究者と方法知って、自身も着手。キラはそうして造られた。
やがて起こったブルーコスモスのメンデル襲撃の際、乳児のオルフェ達と共に逃亡。出資者の一人であったハイバルの元へ。養女となり、オルフェ達を養育。
ハイバルの死後、女王として君臨する。
デュランダルとの間に密約があった。プラントのタカ派を取り込み、地球圏を自分達の支配下に置こうとする。その為にはコンパスが邪魔。
その生まれ育ちから、非常に明快で合理的な考え方の持ち主で、必要・不要、価値・無価値を基準に考える。
ラクスはオルフェと同ロットの存在。ユニット。
が、クライン(母)が連れ帰ってしまった。それを取り返す。
デュランダルの思想を潰したキラを特に憎んでいる。キラを討って、ラクスの目を覚まさせる。
小説版の設定によると、ユーレンとライバル同士で、どちらもより優れた人類を創り出そうとしていたそんな時、デュランダルと出会ったアウラは彼の思想に共感して「公平で平和な新しい世界」の構築を夢見たデュランダルとアウラ。その世界の住民としてアウラが創り出したのがアコード。しかし、ユーレンから「遺伝子で満足できず、他人まで操ろうなど傲岸」と評された事が決定的となり完全に決別した模様でユーレンに対して非常に強い対抗心を持っていた。
上記の記載通り、なにかと酷評されることの多いアウラだが、確かに今では歪んでしまったかもしれないものの、少なくとも小説版のアウラは彼女なりに世界を平和にしたいと思ってアコードを誕生させており、始まりの気持ちは決して間違ったものではないだろう。
デュランダルらと共にデスティニープランとその後の世界支配の野望を練るが、上にも下にもあるように彼女の同志とされる者がいつまで・どこまで同志だったかは言及と描写の少なさに比して食い違いも多く、
想像の余地が非常に大きく残されている。
アウラが生み出した8人の息子と娘たち。
一人一人がキラと同等以上の高度な調整に加え超能力めいた能力まで持っているなど、アウラの作り出そうとしていた「コーディネイターを超えるコーディネイター」延いては「デスティニープラン施工後の世界の支配種」という研究目標に違わないまさしく超人と呼ぶに相応しい存在。
また漫画版でキラが指摘していた「遺伝子で役割が全て決まるなら、逆に役割に沿った遺伝子操作が横行するようになる」というデスティニープラン最大級の問題点の一つが現実化してしまった例とも言える。
その中の一人だったラクスは生後間もない頃、おそらくはキラ・カガリと同時期にメンデルから連れ出されている。
残り7名はメンデルに残っていた様だがヒビキ夫妻とは異なり全員無事生存したらしく、後にユーラシア連邦内で建国した「ファウンデーション王国」の幹部として計画に参加する。
多くがナチュラルは勿論「並みのコーディネイター」の事も下位種族のように見る傲慢な性格の持ち主だが、ラクスやイングリッドを見るに先天的にそのように刷り込まれてはおらず、アウラの教育の結果なのだろう。
それまで登場する事も無ければ語られる事すら極少なく、名前すら分かっていない、過去に離別した事が僅かに示唆されるに留まっていたラクスの母がよもや「神を気取った愚か者達」の一人だったなどと誰が予想しただろうか?
劇中に登場した写真やアウラの曰くによると、彼女もアコード計画の賛同者だった模様。
しかしラクスは誕生後間も無く彼女とシーゲルに連れられてメンデルを離れたらしい様子があり、ラクスは自身がアコードである事もその計画もアウラに告げられるまで予想だにせず、
夫のシーゲルもナチュラル回帰寄りの穏健派という「特別なコーディネイターによる世界統治」とは真逆の思想の持ち主な上にラクスとアコード計画とは無関係な
アスラン・ザラとの婚約に同意……と、
アウラが語った
「『ラクスとオルフェはデスティニープラン施工後の世界で夫婦となり、共に人類を導く者となる』ことはラクスの母の願いでもある」という話はどこまで(或いはいつまで)事実だったかは謎。
しかしアウラの私室には大人だった頃の自分の肖像やデュランダルと一緒の写真と共に「当時の自分とラクス母のツーショット写真」も飾られており、アウラの性格上「アコード構想の裏切り者」だったなら劇中のような友好的・好意的な扱いをしていたとは考えにくい。
また、かつてラクスが母から聞いたという「世界はあなたのもので、そしてまた、あなたは世界のもの」という言葉は、アコードの設定が開示された今から振り返ってみればラクスの正体と誕生理由を示唆するもののようでもあり、
するとラクスの母はアコード計画やラクスに与えられた役割を全否定した訳ではないとも受け取れるため、結局のところラクスの母の真意は未だに謎が多く残されたままとなっている。
「平和の歌姫」にして「クライン派の筆頭」にして今や「コンパス総裁」となった、オルフェと共に人類を導く存在となる事を運命付けられていたアコードの一人。
年齢と役割からしておそらくは一人目または二人目のアコードと考えられる。
それを加味すると彼女の高いカリスマ性も人々を導く存在とすべく、その様な「性能」を持たされていたとも考えられる。
「そのように作られていた」だけあってラクスも無意識のうちにオルフェに惹かれかけていた他、オルフェもまた「失敗作の分際で後から来ておいて間に割り込んで来た」キラを排除しようとしていたが、
ラクスが選んだのはあくまで他人から与えられた「運命」でも「必要性」でもなく、自分が見つけた「愛」であった。
ともあれ、ラクスもまたキラとは別方面の「生けるメンデルの厄ネタ」である事が判明してしまったせいで、キラとラクスは本人に全く責任が無い理由で途轍もない闇を抱えたとんだお似合い&似た者カップルとなってしまった。
なお、彼女の並外れたカリスマ性に近いものを天賦の才と一定の努力で身に付けていたミーアは一体……?となるが、
アコードもあくまでも遺伝子操作の産物なのでデュランダルは遺伝子研究の専門家の手腕(に加えてプラントではDNAで婚姻統制されている。つまり一定の立場の者なら国民のDNAが分かるため)から、ラクスの代替となれる高い素養を持つ者を見つけることが出来たのだろう。
実際問題としてオルフェの演説のせいで「ラクスもアコードの一人」である事は全世界が知ってしまったのでカガリやコンパスの仲間たちがどうにかするまでは一先ず身を隠す必要には迫られてしまったため、冗談抜きにファウンデーション王国の連中のお陰でかなり迷惑を被ってしまっている。
心身共に疲弊を極めていたキラとラクスに無理矢理にでも休暇を取らせるには丁度良い機会でもあるのが悩ましい所
アコードである事を自覚した事で以降はアコードの特殊能力も使用可能になっており、人の「心の声」を読めるし、自分の「心の声」や自らが知覚したもの他人にも共有させることができるようになった。
関連項目
追記修正は個人的な野望やトラウマや対抗心抜きでお願いします。
最終更新:2025年04月25日 07:53