雌鷹のために(理:jyjypkhul)とは、リパラオネの民族叙事詩『レーネガーディヤ』内の挿話の一つ。シュカーシャル(xkarxal)と呼ばれる地に住む狩りの名人である男と雌鷹に関する由来譚である。


『雌鷹のために』の位置

 『雌鷹のために』は、1660年『レーネガーディヤ』における第1部「出立」に属する。第1歌「英雄の目覚め」のうち、第2章「白の国」に属する。このうち、具体的には第53スタンザ(Lerne.1:1 2:53)から第91スタンザ(Lerne.1:1 2:91)の間(未訳了)を指す。

内容

 とある村男――シェフォールデャ(xeforrdia)は、山で狩りをしていると川辺で休んでいる乙女――シュカーシャフ(xkarxaf)を見つける。最初、彼女はシェフォールデャの前から逃げるように走り去るが、その場に髪を結ぶリボンを落としていってしまう。彼はそれを拾い、また次の日に同じ場所に狩りへと出かけた。再び川辺で会うことになった彼らはお互いに名前を交わして、それ以降逢瀬を繰り返すようになる。草むらを駆け、二人は次第にお互いを思うようになってゆく。
 しかし、ある日村の長老に呼び出されたシェフォールデャは、敵対する村の人間と出会いを繰り返す彼に刑殺に値する罪であると突きつけられることになる。長老によって、シェフォールデャはシュカーシャフを殺すことを命じられるが、最初はそれを拒絶する。しかし、長老の命で彼の妹がホートシェートに括られており、シェフォールデャが法を護らなければ焼き殺すと脅迫されたことで、仕方なくシュカーシャフを殺すために剣を佩いて山へと出かけるのだった。
 シェフォールデャはシュカーシャフと共に遊んでいるうちに殺そうと自らを決していたが、彼女とのこれまでの記憶が思い出されて、どうしても殺す気になれなかった。逡巡を繰り返すうちにシュカーシャフは彼を引き止め、最初からシェフォールデャを敵の村の者だと知っていたこととそれでも愛することを止められなかったことを告白する。彼女は愛する人を思い煩わせるのは心苦しいと言って、殺すように彼に願うが、シェフォールデャに選択することは出来なかった。シュカーシャフはそんな彼を見て、自ら崖から飛び降りてしまう。
 シェフォールデャは彼女の突然の行動に衝撃を受けた。自分が最後まで選択できなかったことを悔いて、彼女が死を選んだのであれば自分もまた死ぬべきかと思った瞬間、空に強い光を見る。それは神族の一柱であるケインテル(keintel)であった。ケインテルはシュカーシャフの死ぬ前の願いを彼に伝え、従うように命ずる。それは彼女の心臓を刳り抜いて、燃やすことでその煙を天に捧げるということであった。
 血の滴る心臓を敵の殺害証拠として持ち帰った彼を村の者たちは恐れた。一方で、かの恐ろしいサフィア・ド・ジェレニエ・サージェのような所業は長老を納得させた。彼の妹は解放され、彼女は兄に強く感謝を伝える。しかし、恋人の肉体を暴き、あろうことか火に焚べたあとのシェフォールデャは酷く憔悴しており、自分の行動に疑問を持っていた。
 ある日、シェフォールデャの家の軒先に一匹の鷹が止まっていた。近づいても人間を恐れない鷹を彼は不思議がったが、ややあってその鷹が聞き覚えのある声で喋り始めたのを聞く。それは紛れもなく、シュカーシャフの声であった。彼女はシェフォールデャが神の声の通りに行ったことで、自分とシェフォールデャが神の国で再会する前にこの形で再会することが出来たのだと語る。
 彼は再び再開した彼女とともに日課の狩りを続けると、多くの獲物が取れた。これによって彼と雌鷹となったシュカーシャフの名声は村の中に広がっていったという。

宗教的観点

 リパラオネ教に現世における転生の概念は存在しない。主要なリパラオネ教の世界観では、人間は死後に下の世界に向かいドルム(悪魔)になるか、神の世界に向かって苦が取り除かれた命を得るかのいずれかである。
 民俗学者の一部は、この観点から、ヴェラトイヤのこの説話はリパラオネ民話以外の影響を受けて成立したものであるかもしれないと考察している。

関連項目

最終更新:2025年05月24日 22:12