野戦指令部天幕
大きなテーブルにこの辺り一帯の地図。
乾いた熱風が頬をこする中、卓上の古びたラジオからは穏やかな声と共にニュースが流れていた。
『引き続き、頭頂部の欠落が確認されたクフ王ピラミッドの情報をお送りいたします』
『第31統合飛行隊の報告により判明した今回の事件』
『確認したウィッチからの情報による「ネウロイの接触」の線が濃厚とエジプト政府は意見をまとめ』
『政府は
アフリカ部隊へのより一層の支援を発表しております。しかし、目撃者によれば――――』
ロンメル「…見事なものだったな。キャップストーン」
モンティ「………そうだな」
パットン「…ああ、頂点から引き摺り下ろされて尚、美しい」
モンティ「ポエムを語っている暇があるなら指示を出さんか!!」
エル・アカキール
≪よう!どの位持ちそうだ!?≫
少佐「分からん!だがここを押し返せば、エル・アラメインが見えるぞ!!」
≪いよっしゃ、待ってろ!10秒で行ってやる!!!≫
雑音混じりの通信を切り、少佐は火炎瓶の詰まった木箱に走る。
兵士の気力で保たれていたこの隊も、そろそろ限界が近い。
箱に手をかけた途端、壕の中に大地を揺るがす爆発音と切羽詰まった若者の叫びが響いた。
兵士A「指令!アハトアハトがもう…!!」
少佐「後10秒で虎が来る…総員突撃するぞ!!」
兵士A「…ッ了解!!」
少佐「俺も出る。他の隊に後れを取るなよ!そして死ぬな!今日はアフリカの星が帰って来るんだぞォ!!」
壕から駆け出し、弾丸の嵐へ飛び込む。
火炎瓶を放りながら駆ける指令に、男達は一様に頷き、喊声を上げて続く。
兵士C「中尉が帰って来るってのに死んでちゃもったいねえ!オラ、地雷持ってこい!」
兵士F「持ち堪えるぞ!防衛陣地を再構築!!怪我人を守れ!」
兵士D「アハトアハト後20門!撃ち惜しむなよ!んで避けろ!!」
兵士B「男の意地って奴を見せてやれ!接近してブチ込むぞ!」
兵士達が迫り来る陸戦型ネウロイに接近して地雷を叩きこむ。
熱砂を巻き上げ、唸りを上げて襲い来る機銃の波を越え、火炎瓶を多脚の隙間にぶつけながら走る。
立ち止まった瞬間撃ち抜かれる。極度の緊張と恐怖の中、陣地をじりじりと侵して行くネウロイの群れを縫って攻撃を当てる。
生き残る為に、この僅かな力が人類の未来を繋げると信じ、地雷で陸戦の装甲を弾き飛ばす。
絶妙なタイミングで放たれたアハトアハトの弾が陸戦と共に砂を抉った。
一人13体の陸戦を屠らなければこの師団は終わる。
隊が一つでも退けばエル・アラメインは攻略できない
少佐「馬鹿野郎、行き過ぎるな!後少しなんだぞ!!」
兵士B「気を抜いたら押し戻されます!少しでも、少しでも数を!!」
兵士F「五体満足で帰れたら万々歳さ!第3小隊、突っ込めぇえええ!!」
兵士I「やく…早く来てくれ虎ぁあああ!!!」
頭を掠めた弾丸に慄きながら兵士が叫ぶ。陸戦に突っ込んで行った仲間達が倒れ行く姿が陽炎に歪む。
ドロドロと音を立てて近寄る陸戦に、無意識に涙が溢れた。
兵士E「畜生!!こんなに長い10秒は始めてだ!後いくつだ!?」
絶望を吐きだす様に天に叫ぶ。1秒が鉛を背負っているかの様に重く、苦しかった。
目の前から目を逸らし見た砂原の果てより、刹那、金色が瞳に映る
「待たせたな!兄弟!!」
轟と唸る風より早く、眼前の陸戦に金色の虎が襲いかかった。
真っ向からの拳を理解できぬまま陸戦は装甲を喰い破られ、弾ける火花がEの視界を埋める。
兵士E「はっ…馬鹿野郎、早かったじゃねえか……!」
崩れ落ちながら強がるEを一瞥し、俺は鋭い牙をぎらつかせて笑う。
俺「さすが俺の兄弟達だ…その心意気や良し!」
ぎちぎちと陸戦が俺の腕を体内に残したまま再生を開始する。
赤い光が点滅を
繰り返し、ネウロイは俺から逃れようとその身を捻じる。
俺「おおおおおおおおお!!!」
僅かな動きも、逃げる事も、倒れる事も許さず、俺が鉄の体を抉りながらコアを握る。そのコアを握りしめ、唸りを上げて腕を抜き去る。
その勢いに吹き飛ばされた陸戦は、砂に飛び込んだ瞬間砕け散った。
この作戦の為に補充された兵達にとっては始めて見る虎の戦闘。全てを蹂躙する圧倒的な力。
目を剥いて俺の戦闘を見る兵達の目に再び闘志が揺らぎだす。
兵士G「す、すげえ…」
少佐「良く見ていろ、お前達。アイツこそが今のアフリカを支える要が一人…」
掌に掴んだままのコアを捻り潰し、今だ戦闘を続ける陸戦に向かって吼え猛る。
唸りを上げる大気を纏い、迫り来る陸戦に牙を剥く。
少年に帰った様な瞳で俺を見る兵士達に少佐が誇らしげに続けた。
少佐「ロマーニャの虎…俺少尉だ!」
俺「行くぞ、兄弟!何も考えずに着いて来い!!」
咆哮に続いて起こった鯨波を背に、数多と蔓延る黒の渦に飛び込む。
右に左に上に前。全ての陸戦と飛行杯の照準が己に向くのを肌で感じ、虎は口角を上げた。
俺「ハッハー、大歓迎って奴だな…嬉しいねェ!!」
兵士B「少尉!後ろは我々にお任せを!」
兵士E「おうよ!まっ、マルセイユ中尉とまでは行かねえがな!!」
背後に立つ大勢の兵が気合充分に叫び、武器を構えて不敵に笑う。
俺「当然!さあ、嬢ちゃん達が来る前に終わらせるぞ!!」
砂埃の中蠢く陸戦に、腰のベルトからポテトマッシャーを取り出し放る。爆発で吹き飛ぶ脚やら欠片はマントで防ぐ。
後ろから悲鳴が聞こえたが何とかなるだろう。罵声も聞こえるし。
兵士D「虎てめぇ、死ぬだろうがあああ!!」
兵士C「バカヤロー!お前の所為で死んだらかーちゃんになんて言えばいいんだ!!」
俺「叫ぶ元気があるなら投げろ!オラ左だぁああ!!」
火炎瓶と地雷の飛び交う中で、砂塵に紛れた飛行杯が地上への掃射を開始する。
急いで射程内でスコップを振っていたCの首根っこを引っ掴んでブン投げ、再びベルトからポテトマッシャーを投げて爆破する。
俺「ッハァ、危ねえな!」
兵士C「ゲホッ…はっ、助かった……」
俺「少佐!地上への砲撃増やせ!なーに、こいつ等は気合で避けらぁ!」
インカムを叩いて陣地で指揮を執る少佐に吼え、空を隠す飛行杯を睨み付ける。
丁度陸上競技の
スタートの形を取り、ふうっと息を吐く。
兵士I「えっ少尉!?」
俺「俺は―――制空権を獲って来る!!」
思い切り砂を蹴り、風を引き連れ、弾をばら撒きながら走る陸戦にジグザグに進路を変えながら突進する。
足元に弾丸が刺さっても頬を裂いても尚速く。目の前で機銃を放つ陸戦の前面に飛び乗った。
軍靴は装甲に沈み、ごしゃりと歪な音が鳴る。
脚の筋肉を縮小させ、金の炎を脚全体に灯す。そのまま上空の飛行杯に狙いを定め、全身の筋肉をしならせ跳ね上がった。
踏み台にされた陸戦が板金で捻じ曲げた様な形で砂に叩き伏せられたのが脚から伝わる。
風が唸る。大気の擦れが耳に届く。それさえも構わず空を、天に居座る飛行杯を目掛けて一直線に飛ぶ。
突然大砲の様に飛んで来た物体に、驚き揺れる飛行杯の上にがんと飛び乗る。
急な重さに高度を下げ、日後輩が暴れるが、俺は器用に尾でバランスを取りながら黒い鋼に鉤爪を突き立てる。
俺「激しいのがお好みかァ?……ッハァ、お望み通り、激しくしてやるよ!!」
燃える輝きと共に前肢に力を込めて更に爪を深く立て、黒い鋼を力任せに引き裂く。
眼下に輝く赤い塊を踏み砕き、再び金色を纏う。
崩れ始めた飛行杯を蹴り、近くの飛行杯にしなやかに飛び出した。
黒い鋼に爪を立て、辺りを見渡す。
俺「チッ、掃いて捨てる程いやがる。将軍達もここまで計算して無かったか…」
≪ストライカーも無しに飛ぶ人間も計算外だよ!!≫
突然頼りの飛行杯に弾丸が突き刺さる。
砕け散る前に慌てて違う飛行杯へと飛び出し、脚部分にぶら下がった。
俺「わったった…ライーサ?もう終わっちまったのかよ!?」
≪他の地区は全部攻略完了。ここが最後!ケイ、先に行くね!≫
≪今全部隊がここに向かって来てます!…ケイさん!≫
≪分かってる。制空権を一気に獲るわよ!地上部隊!気合入れて行け!!≫
少佐「……ありがたい!聞いたかお前達!かわい子ちゃん達が俺達の為に来てくれるぞ!!」
兵士「「「「「「イェアアアアアアアアア!!!!」」」」」」
砲撃音が再び激しくなり、ネウロイ達を押し返して行く。
俺「ハッ、現金な奴らだぜ…マミ!コイツを撃ち落とせ!」
≪ええ!?俺さんがくっ付いてて危な――――≫
俺「ハッハッハ!射撃の腕は上がってるはずだぜ?ほら、撃ってみろ!」
≪大丈夫よ真美。アハトアハト位じゃ俺は死なないわ≫
≪……了解です。しっかり避けてくださいね≫
≪行くわよ……発射!!≫
歪む陽炎から飛び出した弾が上で暴れる飛行杯の上半分を吹き飛ばす。
連戦の疲れもあるのだろう。だが着々と命中に近付く弾痕に口元を緩める。
≪あ……また……≫
俺「安心しろ。コアが出た」
そう言ってコアを砕こうと拳を作った瞬間、俺のぶら下がる飛行杯に槍が突き刺さる。
ばちりと大きく火花を散らすと、飛行杯は落下しながら黒い体を白へと変える。
≪慢心は死を招くぞ、虎≫
俺「マティルダ!?ッお前の攻撃で死にそうだ!!」
≪そんなんで死なれちゃ困るわ。全車、行進!!≫
一際大きくなった喊声に落下しながら下を見れば、次々と陸戦を撃破していく陸の魔女達の姿。
そしてスリングで陸戦を破壊するマティルダが見えた。
俺「お前等……良く来た、なッ!!」
彼女の前に飛び出した陸戦を、抜いた槍で重力と共に串刺しにする。
連鎖する様な爆発音と共に砕ける装甲の上から素早く飛び去り、マティルダの隣に着地した。
マティルダ「鷲の使いの命が無ければ何もしない…槍を返せ」
俺「あいよ。んー…もう一仕事ってとこか?」
マイルズ「あの大型二機を吹き飛ばせば終了よ!俺、片方頼んだ!」
アビゲイル「じゃあ俺は右の奴ね。応援してるわ」
俺「おいおい、アレを一人でやれってか?」
大きな駆動音と共に近付いてくる大型陸戦型ネウロイ。
周りには陸戦型がちらちらと、上空には飛行杯をくっ付け、さながら戦艦の様にどろどろと近づいて来る。
マイルズ「安心しなさい。シャーロットを付けるわ」
シャーロット「ええええええ!!?わっ私!?」
俺「いよっしゃ!虎虎コンビの完成だな!!」
ペットゲン(ネーミングセンス……)
マントを風に靡かせ、
ティーガーの平面装甲を叩く。ちょっとへこんだが問題ない。
マイルズが上空の三人に合図を送り、素早く陣形を整える。
右の大型を俺、シャーロット、加東からの押しで稲垣の超火力で撃破。左をそれ以外の全員で撃破。
一部から反論が聞こえたがこの作戦が一番成功率が高い筈だ。
先行した左への部隊を見ながら『虎虎猫トリオ』がたたずむ。
隊長の俺がぐいぐい準備体操をする横で稲垣とシャーロットが弾の装填に勤しんでいた。
俺「野郎共!援護射撃開始!!俺はいいが、嬢ちゃん達には当てんなよ!」
稲垣「覚悟…完了です」
シャーロット「ja.いつでも行けるよ」
スタートの体勢を作り、炎を纏う。
突撃進路上にある障害物は約16。半分以上壊せば行ける。
俺「虎虎猫……ファレッズ、突貫!!」
稲垣・シャーロ「「了解!!」」
咆哮と共に砂を撒き散らし、大型との距離を一気に詰める。
途中陸戦が機銃を放って応戦してきたがマントを脱ぎ去り盾にして弾丸を防ぎ、更に速度を上げる。
≪俺さん!後で修繕しますからマントは回収してください!!≫
≪ルコー!前見て、前!!≫
≪みゃあああああ!!?≫
俺「馬鹿ルコ!自分の戦闘に集中しやがれ!!」
シャーロット「ちょっと向こうの奴等片付けて来る!俺はゆっくり来てね!」
稲垣「上空の飛行杯、残り5です!」
陣地から飛んでくる榴弾に陸戦を誘導して撃破する。
前を行ったシャーロットを見つつ、稲垣からの報告を付近の陸戦の爆風に乗って上昇して確認。
俺「おおっ意外と飛べるもんだな!」
稲垣「わあっ!?俺さん、掴まってください!」
俺「心配無用!!」
マントを使って爆風と共に上空に上がった俺は、二機の飛行杯に爪を立て、そのまま砂原に叩き落とす。
叩きつけられた二機が圧力で砕ける。俺は稲垣に合図を送りながら砂上の陸戦目掛けて落下する。
爆音が轟き、背後の陣地から歓声が上がる。
どうやら右の大型は撃破したらしい。残るネウロイは後僅か
稲垣「……地上への援護、開始します!」
俺「イナズマァ…キィーックゥ!!」
急降下からフルパワーで下にいた陸戦にキックを叩き込む。
エーテルの共振で辺りの5,6機が衝撃波に巻き込まれて爆発。しなやかに着地を決め、再び大型へと突進を開始する。
俺「…高いな……シャーロットォオ!!!」
シャーロット「俺!?…了解!ティーガーの砲身を台にしてね!」
稲垣「上空の飛行杯0!障害物無し!!」
≪陸戦は全部私達に任せなさい!!≫
≪行っけえ!そいつを倒して帰るわよ!≫
シャーロット「この辺かな……来ーい!俺ぇ!」
俺「いっくぜぇええええ!!!」
熱砂を踏み抜き、ティーガーの砲身へ飛び出す
大型まで数十m。高さは5mか
呼吸を整え、シャーロットは足の着くタイミングを見計らう。
足が着いた瞬間、唸りを上げてティーガーを操り、俺を大型の真っ正面に弾き飛ばす。
砲弾の如き速度で飛ばされた俺が、輝きを増す砲門に吸い寄せられる様に突っ込む。
響く鯨波を背に受けて、右腕を力の限り振りかぶる。
空間を占める黄金が煌めき、俺の右腕が輝きを増して行く
俺「喰らえよ鉄クズ!…喰いきれるモンならなァ!!」
赤い光が溢れると同時に金を纏った拳が砲門に突き刺さる。
衝撃と熱とが交差しながら無差別に空間を粉砕し、大型の装甲を引き剥がす。
相対する俺にも同様の衝撃が襲い来るが、微量の魔法力を操作し、拳と同じ膜を造りだして衝撃を相殺する。
肉を裂き、骨を砕く銅鑼如き衝撃波を体内で反響させ、尚も拳を突き出し、鉄の内部を喰い荒らす。
焼ける鉄を左手で掴み、体を支えながら炎熱に歪む最奥に手を伸ばし、コアを握り潰した。
俺「ハッ……てめぇの、敗けだ……!!」
白く爆ぜた空間を眼底に閉じ込め、俺は、爆風と共に熱砂に叩きつけられた。
「っつぅ~~…まーた湿布と包帯まみれの生活かよ……」
「無茶するからだ。まったく、これだから虎は…」ハァ
「るっせえ。しかしここは埃っぽいなァ…」
お古のBf109F-4Tropを二人でいじくり回す。きらきらと塵が昼の太陽に照らされ幻想的だがストライカーの魅力には劣る。
加東「あなた達がしっかり掃除すればいいだけの話でしょうが」ゴンッ
俺「カトー…功労者に向かって何すんだ!」
整備班長「いってぇえええ……氷野兵長に言いつけてやる!」
加東「ええい、ストライカー弄ってないで働け!ご飯あげないわよ!?」
整備班長「ひぃッ!それだけはご勘弁を!」
俺「ひどいぜカトー!腹と背中がくっ付きそうな位腹減ってんのに!」
加東「…あなた達の頭を殴ったのは何だったのかしら?」
両手に持った銀のお盆を二人の前に出す。
大盛りのミートボールスパゲッティに班長には水、俺には酒。
俺「…格納庫に閉じ籠るのも悪くない…だが、貴女と一緒にランチを食べる方が俺は嬉しいね」グッ
整備班長「ああ、麗しの少佐…毎日貴女にご飯を持って来ていただきたい」キラキラ
加東「ええい、手を握るのをやめろ!変な目線を送るなぁああ!!」ガンッゴガンッ!!
清掃班、整備班、設営班、観測班を中心に男達がバタバタと駆けまわる。
現在作戦はスパーチャージ作戦を経てエル・アラメイン攻略に成功。
貫徹で進められた作戦は昼前には終了し、ウィッチ、兵士達は治療、睡眠などを思い思いに取っていた。
基地を後退した際に残してきたロマーニャ軍基地に移し、長く砂に晒された内部、滑走路の清掃が慌ただしく進められている。
パットン「なんだ、こんなところで飯食ってたのか」
モンティ「おうおう、せっかく作戦が成功したってのに少なくないか?」
俺「あん?晩に食うからこん位で良いんだよ」
なるほどと言って俺の横に座る。
右から加東、整備班長、俺、パットン、モントゴメリーとすごいメンツだ。
格納庫に部品を搬入に来た兵士達がぎょっとして敬礼をしようと身構える。
俺「ハッハー、やめろい。飯食ってる時位面倒な事は無しだ」モグモグ
パットン「阿呆が…儂より先に言うな」
加東「え、良いんですか?」
モンティ「構わんさ。そんな事よりこのミートボールうまいな」モッサモッサ
整備班長「あれ?ロンメル将軍は置いて来たのですか?」
先程から影も見えないロンメルに整備班長が気付く。
そう言えば今回は珍しく三人とも前線に出ず、後方の天幕で指令を送っていたらしいが。
モンティ「あいつならノイエ・カールスラントに帰ったぞ」
俺「…はぁ?」
唐突に告げられた言葉で固まる三人を尻目にモントゴメリーがうまそうにパスタを食べる。
パットン「おいおい固まるなよ。モンティ説明が足りんぞ」
モンティ「違うぞ?病気が少し悪化したから国に戻って治すらしい。それと本部への報告だ」
加東「…なるほど。いつ帰って来るんですか?」
モンティ「一、二週間はかかるだろうな…ああ、補給で欲しいものがあったら頼んで置いたらどうだ?買って来てくれるだろう」
整備班長「さすが我等の親父殿!懐の広さが違いますな!」ハッハッハ
ソースを口にべったり付けた整備班長が笑う。
早速欲しい物をがりがりと万年筆で書きだす整備班長の横で俺が酒をあおった。
俺「ったく、体調が悪いなら先に言えってな」
加東「言わない誰かさんもいるけどね」
パットン「はっはっは!そうだな。まったくそうだ!」
俺「俺はいつでも健康だ」グビ
モンティ「今回はどうしてもあいつがこの作戦だけでもと言うのでな…マルセイユ中尉の仇打ちと言った所か?」
今回の作戦の途中で離脱を余儀なくされたマルセイユ。
同国の者として、命令を下した者としては何としてでも責任を取りたかったのだろう。
軍港で船が見えなくなるまで注意事項などを叫んでいたロンメルを思い出すと笑いが込み上げてくる。
モンティ「ロンメルと入れ替わりにマルセイユ中尉が帰ってくる方が嬉しいがな」ムフフ
俺「そりゃ仕方ない。ロンメルには早く復帰してもらわねえとなァ」
加東のミートボールを奪いながら俺が答える。すかさず加東がボディブローを叩きこむ。
俺「い゙っ!?……カトォ…そこは縫ったとこだぞ?」
加東「私のミートボールを食べたあなたが悪い!返せ!楽しみに取っといたのに!」
俺「ハッハー!口移しで返してやろうか?」
加東「この…一人でアレクサンドリアまで言って来い!!」
爆笑する俺に加東がフォークを突き付ける。作戦のおかげでしっかりとしたご飯を食べていなかった為、
現在食欲に対する耐性は基地全体で下がっているのだ!
俺「ほら、パットンのミートボールやるから怒るなって」ヒョイ
パットン「…俺、貴様少将に言いつけるぞ……?」
俺「はっはっは!最高だね!久しぶりに閣下に会えるぜ!」
加東「将軍、頂きます!」モグモグ
パットン「…………」
モンティ「ほらパットン。これやるから……」つミートボール食べかけ
パットン「……いらない」
――――――――――――――――
―――――――――
久しぶりの休息にぐたっと砂っぽい格納庫に寝転ぶ
周りでは加東とパットン、モンティが作戦会議と軍港への入港管理を、整備班長は整備兵達と共にタイガーバウムの組み立てを急いでいる。
整備班長「俺ー!寝てないで手伝え!」
俺「おう!もうちょっとか?」
整備班長「組み立てはそろそろ…残るは調整だ。ったく派手にぶっ壊しやがって」ガチャガチャ
俺「ハッハ、もともとオーバーホールの予定だったからいいじゃねえか」ガチャン
整備班長「前のは後20時間は飛べたの!それを……まあ中尉が助かったからいいけど…」
目の前に鎮座するタイガーバウムを整備班長が見上げる。
前回の出撃の際にエンジンから何から何まで壊れてのを聞いた少将が新しい部品を手配してくれたのだ。
「よくやった」と一言書かれた紙切れと共に。
それを見た俺が嬉しそうに頬を緩めていたのを思い出す。
まるで親に褒められた子どもだと思って、思いっ切り背中をブン殴ったのは良い思い出だ。
その所為でスパナを3つも犠牲にする破目になってしまったが…。
整備班長「そういやお前、戦闘時間が延びたな。少佐が驚いてたぞ?」
俺「まあな…魔法力の細かい配分をやってみたんだ。疲れるけどよ」
整備班長「良く出来たもんだ。これで作戦の幅が広くなるし……腕が鳴るぜ」ニシシ
俺「もうちょい改良しないとな…まったく女の子達はすごいよ」
整備班長「あの子達は普通にやってるしなぁ」
俺「ハッハ、弟子入りしないと……ん?」
急に俺が耳を出して上を見上げて目を細める
いつもネウロイを探知する時と同じ動作に整備班長は思わず身構え、無線を取りだす
整備班長「…敵か?」
俺「…!ッハ、帰って来やがった!!」ダッ
整備班長「なっ、ネウロイが!?」
俺「馬鹿野郎!見ろ!!」
急いで報告を入れようとする整備班長の肩を叩いて外に連れ出し、びしりと天の一端を指差す。
黒い影ときらりと反射する太陽光、僅かに響くエンジンの音…
整備班長「……Ju…52!!」
俺「先に行くぜ!班長!」
再び肩を叩き、俺は飛ぶが如く滑走路へと駆けて行く。
他の兵士達も同様に空を見上げ、嬉しそうに笑い合っている…が、瞬時に青褪めて行く。
整備班長「…反射光が小さすぎる…?…まさか!!」
喧騒が大きくなる中、急いで双眼鏡を取りだして輸送機を見上げた。
加東「班長!まさか……」
整備班長「そのまさかですよ……!」
急いで駆けて来たこの人には超視力で見えているのだろう。窓の反射にしては小さい反射光…つまりゴーグルの反射光。
双眼鏡の向こう、Ju52側面の扉には少女が一人と必死に止めようとする兵士が二人。
何か大声で叫んでいるが少女は涼しい顔で受け流し軽々と大空へ飛び出した。
兵士a「しょ、将軍!飛びましたよ!!?」
パットン「ここの魔女達はなんて天真爛漫なんだ!!受け止めろ!」
加東「あんな破天荒なのは一人で充分です!」
モンティ「お前達受け止めろ!傷の一つも付けてくれるな!!」
兵士『イエッサァー!!』
付近にいた兵を滑走路へと向かわせるがどう受け止める?モントゴメリーは考えた。
慎重に、徹底的に、しかし考えている間にもどんどんと高度、速度は大地に迫る。
しかしその目が俺を捉えた瞬間、全てが杞憂である事を悟り、ポケットから葉巻を取り出した。
俺「お前等ぁ!道開けろォ!!」
道を塞ぐ兵士達を撥ね退け押し退け、濁流の如く走り、降って来る女神の真下に躍り出る。
抵抗を作るシールドから猛禽の鳴き声の様な音が溢れだし、巻き上げられた砂塵が辺りを埋め尽して行く。
俺「来いよハンナ!…俺の胸に飛び込んで来い!!」
声高く吼え、伸ばされた手を掴むように右手を天に掲げる。
空気が圧迫されて軋みだす。後少しまで詰まった距離の中で、彼女がゴーグルを取った。
輝く笑顔で飛び込んで来た女神に、全身に衝撃が走った。
受け止めた衝撃のまま、豪快に転んで背中を打ちつける。
うっと、息が詰まるが構わず、馬乗りになった彼女へ声を掛ける。
俺「おかえり、ハンナ」
マルセイユ「ふふん、ただいま」
腹辺りに馬乗りになった彼女の頭を撫でると、くすぐったそうに笑う。
楽しくて続けていると、起こした上体にむぎゅっと抱きついて来た。
マルセイユ「相変わらず傷だらけだな…聞いたぞ?生身で大型を仕留めたって」
俺「なんだ?もう情報が行ってるのか?」
マルセイユ「輸送機の中で聞いたんだ。さすがじゃないか」
俺「ハッハ、お前のいない間を任せられたんだぞ?これ位当然さ」ニシシ
マルセイユ「だが勝ち逃げは良くないぞ?勝負だ。俺」
自信に満ちた顔でマルセイユがニッと笑う。早く飛びたくて仕方ないと言う様な雰囲気だった。
俺は愛機を壊してからずっと砂を蹴っていた事を思い出し、まったくと笑って答えた。
俺「おうよ、いつでも受けて立つぜ」
マルセイユ「そうと決まれば急ぐぞ。ほら立て」
俺「このままでもいいんだがなァ…」ニィ
マルセイユ「…立て!」ベシッ
俺「ッふぐぅ゙!?」
俺の首に回していた手を解き、横っ腹に手刀を入れる
もがき苦しむ俺を睨んで手を差し出す
俺「…っつ~…嬉しいなら嬉しいって言えよ…」マッタク
マルセイユ「お前は何を言っているんだ!…ほら格納庫に行くぞ」
俺「あいよ……ハンナは一週間何してたんだ?」
返事の後、少し考え込むようにして一歩隣を歩くマルセイユに問う。
背後では輸送機が着陸したらしく、操縦士達の死にそうな声が聞こえてくる。
後ろの声にくつくつ笑いながら、彼女は少し考えて口を開いた。
マルセイユ「んー…始めは上に報告して、罰も何も無かったからそのまま契約に行った」ピョコン
俺「…先代と一緒か」モフモフ
出て来た耳羽をもふもふする。綺麗な鳥の子と鳶色の羽は若々しく、力強かった。
先代の様な神さびた雰囲気はまだ無いが、先代と同じく気高い艶を太陽光に輝かせる。
マルセイユ「くすぐったいからやめろ。それに、先代の子どもだからな」フフン
俺「そんな事もあるんだなぁ…しかし良かった」
再び頭を撫でる。しばらく会わないうちに随分と香が変わった様に思い、絹糸よりも綺麗な髪を指に絡ませた。
それを見たマルセイユは薄く頬を染め、あうあう言いながら言葉を探した。
マルセイユ「……その後は妹の見舞いに行ったり」
俺「妹がいるのか?」
意外な言葉に驚く。冗談ではなさそうだった。
よほど可愛いのだろう。マルセイユは慈しむ様に目を細めた。
マルセイユ「ああ、妹が一人に兄が一人、後は両親だ。妹は病弱でな」
俺「へぇ…歳はどの位離れてんだ?」
マルセイユ「私と二つだから…12歳だな。兄は17歳だ……お前っていくつだ?」
俺「ん?……あー…19位だな」
マルセイユ「適当な…」
一週間の出来事を簡単にぱらぱら話しているうちに格納庫に着いてしまう。
将軍二人も滑走路に駆けだしていた連中も、誰もがみんな集まって嬉しそうに笑っていた。
加東「遅い」
マルセイユ「ふふん、私が居なくて寂しかったか?ケイ」
加東「まったく…言いたい事は沢山あるけど、まとめるから感謝なさい」
せぇの!と加東が後ろに向かって声を掛ける。
その瞬間、今か今かと待っていた背後の全員が待ってましたと言わんばかりに口を開く。
『おかえりなさい!マルセイユ中尉!!』
マルセイユ「……ただいま」
照れくさそうにはにかんだマルセイユに兵士達が歓喜の雄叫びを上げた。
再び煮え滾る様な熱気が風に混ざる。
暑苦しく心地好い風が基地に帰って来た。
―――――――――――――――――――
――――――――――――――
息を一吹きするたびに、炎はその身をより大きく、強く輝かせる。
熱を、赤を、純粋な力を見せつける様に揺らぐ炎をまた、一吹き。
俺「カトー湯加減は?」
加東「もうちょい熱めが好みね」
俺「ったく、無茶した罰とかよぉ……素直に風呂に入りたかったって言えよ!」
加東「黙りなさい。動じないあなたにビックリよ!」
ドラム缶風呂の中の加東が必死に火を大きくする俺の頭をに湯をかける。
あの後マルセイユと
模擬戦でもとタイガーバウムに飛び乗ろうとした俺を引き摺り、明日にしろと二人に説教。
その後俺にクーヘンを運転させ、見張りと言う名目で海辺に連れて来たのだ。
俺「あの時初心な反応見せといてそれ言うかァ?」
加東「…お盛んでしたね俺少尉」
俺「嫌がられた奴にまた手を出す程馬鹿じゃねえよ…こんなモンか?」
加東「バッチリよ……はふーお風呂最高!!」バシャン
俺「おうおう、そう言う親父くせえ事してっから男があっつぅ!!?」
加東「余計な事言う虎は洗わないとね」ザブザブ
熱くなったお湯が俺の頭にかかり、急いでゴーグルを掛けるが白く曇って役に立たない。
立ち上がって加東にうなる。
俺「カトォ!誰が水継ぎ足すと思ってんだ!!」
加東「あなたに決まってるでしょう?」
俺「………っち」
加東の目を見詰め、負けを悟った俺が草地に座る。
夕焼けが海に片足を突っ込み、夜は背後まで迫っていた。
加東「ねえ俺」
俺「んだよ」
加東「あなた、マルセイユの事好きなんでしょ?」
ばしゃっとお湯が揺れ、加東が俺の方を向く。
夕焼けに顔を染めた俺の表情が一瞬揺れたと思うと、すっと穏やかになった。
俺「………なんで分かった?」
加東「…あなたの目、幸せそうだったもの」
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診察室
整備班長「はぁ…こんなもので怪我するなんて……」
軍医「しかし良くできてますなぁ…」
軍医の日に焼けた手に握られているのは奇抜な色をした蛇。しかもかなりリアル。
やたら鱗も綺麗だし、すべすべだし…最近のおもちゃはすごい。
軍医「まあ、周りに注意を配っていればよろしい」
整備班長「ははは、申し訳ない」
ビックリして切ってしまった手にしっかりと包帯を巻いた班長が立ち上がり、扉に手を掛けた瞬間、バンと、扉が吹き飛ぶ。
整備班長「え…っちょ痛い、いったあああ!!?って中尉!?」
マルセイユ「ドクター…どうしようドクター……」
向こうに立っていたマルセイユが、手に思いっ切り扉があたってもだえる班長に手を貸しながら呟く。
やたら深刻な顔をしたマルセイユを整備班長が椅子に座らせ、その横で衛生兵から再び包帯を巻いてもらう。
軍医「どうかしましたか?中尉。ホームシックですかな?」
深く刻んだ皺を緩ませ、揃えた白髭を撫でながら穏やかに笑う。
たまにじじいと呼んでしまう軍医だがこういう余裕はさすが爺さんだと整備班長は思った。
そんな軍医にマルセイユが詰め寄り、一息に言い切った。
マルセイユ「どうしようドクター!私は病気なんだ!健康には気を使ってたのに!牛乳もたくさん飲んでたのに!!」
軍医「ふむ、どんな症状が出ますか」
真新しいカルテに名前とどんな様子かを万年筆で書き込む。
マルセイユは軽い怪我以外で来た事が無かった為、新しく作らなければならないのだ。
マルセイユ「その、俺といると気まずいんだ」
軍医「はて…仲はよろしい様に見えましたが……」
マルセイユ「一緒にいる時はそれほどじゃないんだが…なんだか恥ずかしいし…落ち着いてられないんだ!」
マルセイユ「手汗もかくし、鼻がツンとして、苦しくて、少し怖くて…それに……」
万年筆のペン先が歪む。
インクが真っ白なカルテを染めていく。
軍医「……はい」
マルセイユ「…どきどきするんだ」
ほんのりと頬を染め、真っ向に軍医を見る。
後ろでは班長と
衛生兵が間抜けた顔で固まっている。…いや、周りで聞き耳を立てていた全員が固まっていた。
窓の外の将軍も絶句したまま動かない。
軍医は溜息をつきながら真剣にこちらを見るマルセイユに結果を告げた。
軍医「…処方箋はありません。少尉のそばにいればよろしい」
マルセイユ「そ、それが出来ないから!」
軍医「大丈夫。戦闘では支障はありません」
マルセイユ「違う!私はっ!」
顔をばら色に染めたマルセイユが反論しようと肩を掴むが、軍医は楽しそうに目を細めて笑うだけ。
軍医「ほっほっほ…心配は要りません。その病気は、時間が治してくれますよ」
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海辺
俺「幸せ…か」
加東「ええ、マルセイユもあなたの事好きみたいだし……まさか手は―――」
俺「出さねぇさ。あいつまだ14だろ?」
加東「噂通りで安心したわ…」
俺「手を出せば良いってモンでもないしなァ」ファア
加東「そうね。さすが艶福家は違うわ」
俺「まあな」
眠そうに言葉を滑らせた俺が立ち上がる。
やっぱり背が高いなと、ぼんやりと考えながらその背中を見た。
そのまま夕焼けを眺める俺に声をかけようとした瞬間、低い囁きに遮られた。
俺「聞け、カトー」
加東「何?」
俺「最近、瘴気が濃くなってる…少しずつ、だがな」
加東「…巣が近いからじゃないの?」
俺「あ……そうか」
加東「あなたは本能のまま動いてた方が勘が利くわよ?」クスクス
俺「ハッハ、そうかもなァ」グビッ
こちらの言葉を笑ってまた酒をあおる。
琥珀色のとろりとした液体が夕焼けを通し、ひどく儚く、幻想的に見えた。
加東「まっ、参考程度にはしておくわ。ありがとう」
俺「おうよ」
いきなり話を振っていつもの様に笑って終わらせる。
いつだって朗らかなこの男は、いったいどんな気持ちで周りを見渡しているのだろうか。
そう思って、加東は背中を見せたままの俺の顔をのぞいた。
ぴたりと、海風が止んだ。
ぞっとして俺の顔から目を離す。獣の眼だった。鋭く眼を細め、光る双眼が海を越えた欧州を睨み付けていた。
帰って来た風が、再び音を連れて来る。
俺の周りを蠢く見えない何かがうなりをあげた。
海の向こうに、まっくろい雲が見えた。
見渡せば各各に点在す黒。ときおり雷光を光らせながら不気味にさざめいていた。
寒い。この空間はヒトのいる空間ではない。点在する黒が揺らめき、虎を誘う。
圧倒的な黒に背筋が凍る。加東は言葉を忘れてその光景を見た。
激烈な黒が風に乗って夕日の赤を取り込む空の下、陸の金が牙を剥き天を威かす。
天に吼える愚か者。それは束の間、加東に魂の欠片を見せた。
最終更新:2013年02月02日 13:02