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ミロスラーヴァ・ホルディエンコ

ミロスラーヴァ・ホルディエンコ
作:ChatGPT
生年月日 西暦2058年2月17日
(地球年)
年齢 26歳
(共立公暦1000年時点)
出生地 ウクライナ・ハルキウ州
(転移前)
民族 ウクライナ人
所属 ユピトル学園主権連合体
リンベルーク・アカデミア
学生理事会
階級 学生理事会理事
代表理事付副官
序列:A.G.
在任 共立公暦996年~
渾名 封雪断爆
凍棺工兵
赤三角の守人
人間安全装置
代表理事の信管係
国家元首処理班
胃薬の定期購読者
名札回収業者
休日恐怖症の人
学園最後の常識(在庫僅少)
手順書に魂を売った女
ホリールカ訂正委員会


概要

 ミロスラーヴァ・ホルディエンコは、ユピトル連合の学生理事会で代表理事の傍らに控える副官である。
異世界から渡ってきた転移者の一人で、学園国家に残る常識の最後の在庫を、ほぼ一人で抱えている。

自己紹介

 ミロスラーヴァ・ホルディエンコです。長いので、ミローシャで構いません。代表理事の副官をやってます。仕事を一言で言うと、起きる前の事件を片付ける係ですね。起きた後の事件も片付けますけど、そっちは残業の扱いです。……この録音を聞いてるということは、あなたが私の後任ですね。おめでとうございます。それと、ほんまにごめんなさい。まず机の左の引き出しを開けてください。胃薬が三種類入ってます。朝の分と、会談前の分と、遊理部から電話が来た時の分です。右の引き出しには代表理事の署名入りの書類が何通か入ってますけど、中身は読まないでください。読むと巻き込まれます。手順書は書棚に揃えてあります。上の段が代表理事用、真ん中が遊理部用、一番下が……本当に困った時用。開けたのは、今のところ二回だけです。あと、私、普段はそんなに訛ってないつもりなんですけど、録音の途中で急に言葉が崩れてたら、それは代表理事が扉を開けた音です。聞き流してください。以上、申し送りでした。Тримайся(トルィマーイシャ)、踏ん張ってくださいね。本気で。

来歴

 本人は履歴書の職歴欄を、爆発物の除去作業に従事(二件、うち一件は現在も継続中)の一行で済ませている。

転移前

 ミロスラーヴァの生まれた世界は、エリカ・キリシマと同じ世界線に属し、エリカの知る時代から数十年を経た近未来にあたる。東部の平原では、終戦から長い歳月が流れても、畑を耕すたびに鋤の先が鉄片を掘り当てる暮らしが続いていた。祖母の向日葵畑も半分は赤い三角の標識に囲われ、「Обережно! Міни!(オベレージュノ・ミーヌィ)」の白い文字が、地雷に気をつけるよう告げている。祖母は標識の内と外を庭の垣根ほどにも気にせず歩き回り、泣いて止める孫娘には、ここは四十年踏んでいないから平気だと笑ってみせた。鉄道の保線技師だった父は、列車を定刻どおりに走らせることを家の誇りに数え、夕食の開始時刻まで秒の単位で守らせた。几帳面な家風と足元に死の埋まった畑が、少女の常識をまとめて形づくっている。十五歳で州都の技術専門学校に進んだ彼女は、人道目的の地雷除去を専攻し、AIの探知機と測量用の小型ドローンを相棒に、一歩ごとに確かめてから足を下ろす作業の型を叩き込まれた。十七歳の春、実地研修で祖母の村に近い区画へ入った朝、探知機の警告音が一斉に途切れ、足元の土が区画の杭ごと沈み込む。事象災害に呑まれた実習生は、測量の旗を握ったまま、区画の地面ごと別の世界へ運ばれた。

転移後

 降り立った先はユピトル連合の辺境で、連れてきた地面には、研修の途中で残した数だけ未処理の地雷が眠っていた。除去の手順を知る者は現地に一人もおらず、実習生は専門部局の精査を受ける合間に、自分の持ち込んだ地雷の撤去を申し出ている。隔離区画での半年に及ぶ作業を終えて最初に受け取った封筒には、爆発物の処理記録と生活支援の申請書が一緒に入っていた。住まいは同じ世界線の都市を抱えるアケノミヤ学区に振り分けられ、日本語は新大坂の商店街で、値切りの応酬を聞き覚える形で身につけた。リンベルーク・アカデミアに籍を得た時点の序列は最下位の段で、上位の学生から決闘を挑まれる日々が続く。彼女は一度も攻め返さず、相手の術を冬の障壁に閉じ込めては、撃ち手の息が切れるまで待ち続けた。審判機関「高天原」の記録には攻撃回数零の勝ち星が並び、序列は少しずつ押し上がっていく。風紀委員会の避難手順に三十一箇所の不備を挙げた意見書を送りつけると、当時の委員長エレイナ・フィルトヴァールは読み終えるなり書き手を呼び出し、その場で委員に採用した。委員長の異動に合わせて軍事委員会の事務方に移り、代表理事の就任式の朝には辞令を渡されて副官の席に座らされている。国家元首に最も近い席は出世の最短経路と目され、席を奪おうとする挑戦者が決闘の申請窓口に列を作った。防衛戦のたびに序列は本人の意思と関わりなく押し上げられ、挑戦者の列は、今も昼休みごとに伸び縮みしている。

人物

 ミロスラーヴァの正気は、手順書と時刻表によって支えられている。確かめてから足を下ろす工兵の型は、学園国家で暮らすうちに生活の全域へ広がり、書棚には起床から就寝までの手順書が用途ごとに並ぶ。代表理事の予定表には、危うい行事の横に赤い三角のシールが貼られ、年度末には三角の付いていない日を数える方が早くなった。常識人の彼女が狂うのは、周囲の毒気が許容量を越えた時で、狂い方にも段階がある。入口は口数の減る静かな状態で、報告の全てを復唱の形で返す副官の姿は、部下の間では代表理事の昂りより恐れられている。その先で関西弁が堰を切ると、胡椒の実を漬けた火酒(горілка з перцем/ホリールカ・ズ・ペールツェム)を呷りながら、騒ぎを止める側から焚きつける側へ鞍替えする。周囲がウォッカと呼ぶたびに、本人は呂律の怪しい口でホリールカだと訂正し、訂正の回数が酔いの深さを示す目盛りとなった。翌朝には自己嫌悪が押し寄せ、昨夜の自分を相手取った始末書を、自分の決裁印で受理するところまでが一連の流れである。休日は苦手で、静かな時間が長引くほど、爆発の直前に訪れる地雷原の静けさを思い出して落ち着きを失う。祖母直伝のボルシチ(борщ)を煮始めた時は限界が近い合図で、執務室の職員は鍋の大きさで事態の深刻さを測っている。

*1

人間関係

 副官の人付き合いは、後始末の依頼先と苦情の送り主が、同じ手帳の連絡先欄に並ぶ形で広がっている。

 代表理事と副官の縁は、風紀委員会に届いた一通の意見書から始まった。書類の上では雇った側が上に立つものの、実務では副官が代表理事の一日を区切り、会ってよい相手と持ち出してはならない話題を先に決めている。叱られるほど昂る上司を持った副官は、叱責の代わりに事実の読み上げで暴走を止める話し方を身につけ、抑揚を削った報告は代表理事の数少ない弱点に数えられた。代表理事は罵倒の権利を書面にして配り歩くが、副官には一度も契約を持ちかけていない。理由を尋ねると、ミローシャのは本物だから契約にしたらもったいない、との返事で、副官はその日の胃薬を一錠増やした。一方で、有事の代表理事ほど頼れる存在もなく、非常召集の夜に限って副官は安心して眠れる。平時の方が眠れないという矛盾を、本人は職業病の一種として受け入れている。

 首相の執務室と代表理事の執務室を行き来する書類の大半は、副官の手を経ている。代表理事の構想を予算と法案の言葉に翻訳して首相府へ渡し、首相府の懸念を、代表理事が昂らない言い回しに直して持ち帰るのが副官の日課で、二つの言語の間に立つ通訳の仕事に近い。建国の戦いを率いた首相は、若い副官の抱える量を見抜いており、顔を合わせるたびに休暇の推薦状を一通ずつ手渡す。推薦状は副官の机の未処理箱に溜まり続け、束の厚さを見た首相府の職員は、苦笑いで推薦状の書式を簡略化した。閣議の前には二人で茶を飲みながら、首相が代表理事の機嫌の見立てを聞くのが習いとなっている。見立ての的中率を尋ねられた副官は、外れた日の方が記憶に残る、とだけ答えた。私、と名乗る首相の柔らかな口調は、副官にとって学園で最も胃に優しい響きの一つである。

 前代表理事とは、就任の引き継ぎの席で初めて向き合った。引き継ぎの資料は前任が一冊、副官が三冊を用意しており、厚い三冊が後任の取扱説明書だと知った前任は、以後、副官を同じ苦労を知る者として扱っている。前任がアケノミヤ学区の新大坂市警に移ってからは、副官の住まいと前任の職場が同じ街に並び、非番の日に商店街で行き合う機会が増えた。二人は同じ世界線の出身で、副官は前任の時代から数十年を経た後の生まれにあたる。それでいて、副官の関西弁は運ばれてきた商店街の住人から覚えたもので、前任の育った頃の語尾がそのまま残っており、後の時代から来た副官の方が、前任の耳には懐かしい話し方に聞こえるという逆転が生じた。前任が帝国と恋愛の話題を嫌うことは、代表理事の予定表にまで赤い三角で書き込まれ、二人を同じ席に着かせる日は、話題の順番が分刻みで組まれる。前任から届く職務の相談も、まず副官の机で仕分けられ、代表理事が昂りそうな案件は要点だけを抜いて渡される。

 同じ世界線の出身で、生きた時代だけが数十年ずれている。副官が日本語を覚えた新大坂の街は、エリカの世界の大坂が運ばれた姿にあたり、ウクライナ人の副官が、エリカの故郷の言葉を当のエリカより滑らかに話す格好になった。記憶の抜けたエリカは、自分の世界の数十年後を知る唯一の相手に、先の歴史を尋ねない約束を持ちかけ、副官も即座に応じている。約束の例外は一つだけで、行きつけにしていたらしいたこ焼き屋が後の時代も繁盛していたかどうかを、エリカは酔った振りをして二度聞き出した。遊理部の物理的話し合い課が起こした騒ぎは副官の机に届く報告書の常連で、班長の名前が並ぶ報告書は、赤ペンの量で他を大きく引き離す。それでも危機を嗅ぎ取る勘には副官も一目置いており、代表理事の外出先に不穏な気配を感じた日は、班長に護衛を頼む依頼書を匿名で回す。依頼料は現金の手渡しに限られ、帳簿の上に副官の名前は残らない。

 遊理部の部長は、代表理事に准怪人の名札を貼り続ける張本人で、副官の上着の内ポケットを膨らませる元凶でもある。部長の勧誘は副官本人にも及び、部員名簿の欄外には、代表理事の名前の隣に副官の名前まで鉛筆で書き足されるようになった。酔って焚きつける側に回った副官を一度だけ目撃して以来、部長は副官を最強の准怪人候補と呼び、酒席の日程を独自に調べ上げては、火を付ける機会を窺っている。とはいえ、副官にとって部長は、憎みきれない相手でもある。爆発の後で必ず現場に戻り、始末の責めを自分から背負いに来る姿を、副官は幾度も見てきた。騒ぎの規模を部長自身が風紀委員会へ申告しに来た夜、副官は処分の書類を作りながら、申告の正確さだけは褒めている。褒められた部長が調子に乗って次の企画書を差し出したため、その夜の書類は二通に増えた。

 遊理部の副部長は、副官が代表理事を止める切り札として名前を借りている相手である。借りるたびに律儀に礼状を届ける副官に、副部長は困ったような笑顔で、どうぞいくらでも、と返事を寄越す。序列の最下層から這い上がった経歴は二人に共通しており、決闘の挑戦を受け続けた日々の話になると、話し相手の少ない苦労が互いの口から滑らかに流れ出す。副官が卒倒した日は、死なない程度に治す係の治療室に運び込まれるのが通例で、仕事に戻れる程度まで治す係の方針は、副官の望む処置とぴたりと一致した。回復の早さに驚く周囲をよそに、副官は治療の終わりに始まる解剖学の講義を、胃の頁だけ熱心に聞いている。工兵の道具を手入れしてきた副官は、壁に並ぶ刃物の研ぎの具合を一目で見分けたため、副部長からは数少ない話の通じる客として歓迎された。

 上役の暴走を縛る者同士として、二人は同盟を結んでいる。部長の財布を縛る係の主力と国家元首の予定を縛る副官とでは、縛る相手こそ違うものの、決裁印の隠し場所を月ごとに移す苦労まで同じで、隠し場所の選び方を教え合う仲になった。会議の席で代表理事の昂りを見抜いた後輩の目配せは、今では二人の間で合図の体系にまで整えられ、瞬きの回数で危険の段階を伝える。副官自身の限界も、後輩には筒抜けである。書類をめくる指の速さから、関西弁が溢れる寸前にいると見抜かれた日は、差し入れの菓子が胃の形で届けられ、副官は無言で一つ頬張った。心理学を学ぶ後輩の聞き取りに応じる機会も多く、代表理事の記録を取るたびに深くなる後輩の眉間の皺は、副官の記録を書き留める間だけ、いくらか緩むらしい。

 遊理部の土下座外交局を率いる局長は、騒ぎの規模が風紀委員会の手に余ると、詫びの行き先を副官の執務室まで引き上げてくる。一国の行政長官に床へ額を付けられる居心地の悪さは副官の胃を直撃し、鎧の局長を助け起こすために、冬の術で床から緩やかな坂を生やす手順まで編み出された。二人とも大坂の言葉を身につけた身で、平伏が長引いて局長の口から訛りが漏れ始めると、副官の側も引きずられ、仕舞いには周囲の職員が聞き取れない速さの関西弁の応酬に変わる。応酬の中身は、大抵が互いの上司の愚痴である。局長にとって部長は腹を撫でてくる相手、副官にとって代表理事は名札を貼られる相手で、背負った苦労の種類は驚くほど近い。帰り際には胃薬の銘柄を教え合うのが習いとなり、局長の推す一箱は、副官の左の引き出しに加わった。

 始末書量産工房の工房長にとって、副官は最も恐ろしい読者である。遊理部の始末書は風紀委員会を経て副官の机にも写しが届き、副官は一通ずつ赤ペンで講評を書き込んで工房へ返す。講評は叱責より添削に近く、語尾の選び方を褒める一文が必ず添えられるため、工房長は返送の封筒を開けるたびに驚いて白い塔を立て、机を一つ埋めている。副官が焚きつける側に回った翌朝、自分の始末書を書く手が震えて進まず、工房に代筆を頼んだこともある。副官の名義で副官に詫びる文書という前例のない注文に、工房長は丸一日悩み抜き、仕上がった一通には、誰が誰に謝っているのかを示す図解が付いていた。副官は始末書を受理したうえで、図解だけを切り取って手順書の見本帳に綴じた。

 爆発後処理班の火元責任者とは、同じ現場で顔を合わせることが最も多い。班長の配る避難経路の紙と副官の手順書は、書式こそ違えど同じ現場の地図を描いており、爆発の後で二人が答え合わせをすると、塞がった通路の位置まで一致する。班長の父親は、代表理事が昂りを隠さない大統領で、代表理事の依頼書が封も切られずに返送された一件の後、副官は上司に代わって詫び状を送った。約束を書面に残すセトルラーム育ちの流儀を踏まえ、詫びの範囲と再発防止の条項を並べた詫び状は、班長の手で開封され、署名入りの受領書が返ってきている。以来、代表理事からの連絡は副官を経由して届く決まりとなり、班長の側も、差出人欄に副官の名前がある封筒だけは開ける。

戦闘能力

 ミロスラーヴァの戦い方は、令咏術の冬属性と春属性を土台に、上位の心属性で音を聞き分ける、封じ込めに特化した守りの型である。攻めて倒すより先に、相手の術が爆ぜる場所と時機を読み、爆ぜた瞬間に氷の障壁で包み込んで威力を殺す。読みの要は耳で、心属性の術で拾った詠唱の拍子から、ホログラムシートが切られる瞬間を一拍前に割り出す。足元は春属性の術で探っており、土の締まり具合から、相手が仕掛けた罠の位置まで言い当てる。頭上には転移の際に連れてきた地雷探知用のドローンが一機浮かび、改修を重ねた機体が戦場の見取り図を描き直し続けて、術者の視界の外を埋める。技の名前は、いずれも工兵の用語から採られた。信管抜き(ヒューズ・プル)は、詠唱の拍子に障壁を差し込み、相手の術を発動の直前で空振りに終わらせる受けの技である。凍棺(クリオ・コフィン)は、発動を許した爆発を氷の殻で丸ごと閉じ込め、殻の内側で威力が尽きるまで待つ封殺の技で、学内の騒ぎの鎮圧に最も多く使われてきた。赤三角(червоний трикутник/チェルヴォーヌィ・トルィクートニク)は、霜で描いた三角の印を地面に散らし、踏んだ者の足元を凍らせて動きを縛る。泣き所は決め手の乏しさで、相手の息が切れるまで付き合う持久戦が常となり、昼休みの決闘が午後の講義に食い込む原因となっている。冬属性と心属性は同時に扱えず、読みから封じ込めへ移る切り替えの隙は、シートを繋ぐ速さで埋める。酔いが回ると手順が崩れて敵味方の区別を失い、居合わせた全員を凍棺に収めてしまうため、打ち上げの席での決闘は学生理事会の内規で禁じられた。

語録

「代表理事の予定表は地図です。赤い所は踏まないでください。白い所も、できれば慎重に」
 新任の秘書官に予定表を手渡して。翌週から、秘書官は予定表を持ち歩く際に手袋をはめるようになった。

「確認します。今のは冗談ですね。冗談だと言ってください。言えないなら、書面で」
 代表理事が閣議の席で遊理部との合同演習を提案した直後に。書面は、とうとう提出されなかった。

「私の仕事は、起きなかった事件の数で評価されます。誰も数えてくれませんけど、私は数えてます。今年は四百十二件」
 予算審議で、副官室の人件費の根拠を問われて。審議は数え方の説明だけで三十分延びた。

「挑戦は受けます。昼休みの十二時半から四十五分まで。そこから先は代表理事の昼食の見張りがありますので」
 決闘の申請窓口に並んだ挑戦者たちに、整理券を配りながら。

「部室ごと冬眠させたろか!春が来ても起こさへんからな、覚悟しとけ!」
 爆心地ワークショップの三度目の延長申請が、代表理事の決裁印付きで回ってきた日に。印影は本物で、副官は二重に絶望した。

「入部届持ってくんなて何べん言うたらわかんねん!紙が可哀想やろが、紙が!」
 代表理事の机に置かれた、部長の筆跡の入部届を握りしめて。握りつぶされた届は、翌朝には二枚に増えていた。

「法律の方を曲げにいくな!曲がるんやったら、先に代表理事が曲がれ!」
 叱責の規定を法制化したいという代表理事の私案を読み終えて。私案は、副官の手で凍らされたまま保管されている。

「誰や、代表理事に叱られ放題の定額制なんか提案したん。出てこい。……いや出てこんでええ、私が行く」
 放送委員会の企画書の束から、問題の一枚を見つけ出して。企画者は同じ日のうちに企画を取り下げた。

「Будьмо(ブージモ)!爆発?ええやん、次は私が火元や!」
 遊理部の打ち上げの席で、乾杯の掛け声とともに。部員たちの喝采は、副官の正気を最後の一滴まで押し流した。

「Ой, лишенько(オイ・リシェンコ)……部長、その装置、三角もう一枚貼ったら完璧やで」
 ああ困った、と嘆く声を上げながら、危険遊戯の試作品に赤い三角のシールを貼って回った夜に。貼られた装置は、翌週の博覧会で最も危険な展示に選ばれた。

「代表理事、今夜だけ入部を許可します。副官権限で。署名は……明日の私が燃やす」
 同じ夜、酒席に紛れ込んだ代表理事に。約束どおり、署名は翌朝に副官自身の手で焼却された。

「ウォッカ違う、ホリールカや。горілка(ホリールカ)。書いて覚えて。黒板に」
 火酒の呼び名を部員に訂正すること十四回目。黒板の文字は、翌朝まで誰にも消されなかった。

「昨夜の私を処理したい。信管から」
 打ち上げの翌朝、執務室の机に突っ伏して。

「Капець(カペツ)。議事録に私の声で『火元や』って残ってる……」
 おしまいだ、と呻きながら、部員が善意で残した酒席の録音を再生して。録音は副官権限で封印された。

「始末書の宛先、私ですか。……私ですね。受理します。私が」
 風紀委員会から回ってきた書類の差出人欄と宛先欄を、交互に三度見比べて。

「代表理事に『昨夜のミローシャ最高だった』って言われるの、国家的損失なんですよ。主に私の」
 上機嫌で出勤してきた代表理事に。代表理事の機嫌は、その日の終業まで下がらなかった。

「全員を不発弾だと思えば、世界はちゃんと整理整頓できます。分類は二つだけです。赤か、もっと赤か」
 後輩の理事に、人事の心得を尋ねられて。後輩は礼を述べて、そっと席を移った。

「爆発は結果です。原因は、朝ごはんの献立の時点でもう決まってる」
 代表理事の朝食に、辛い料理を出さないよう厨房へ申し入れた際の説明。厨房の献立表には、翌月から副官の検印欄が加わった。

「騒ぎの規模が予測の範囲に収まった日は、なんだか物足りないんです。……あ、今の撤回します。記録から消してください」
 終業後の執務室で、書記に向かって。書記は消した振りをして、日誌の余白に書き写した。

「……撤収、完了……手順書の、次の頁……白紙……」
 学園祭の最終日、全ての事故報告を捌き終えた瞬間に、書類の山の上へ倒れ込んで。

「誰か、私の代わりに、私を運んで……足首からで、ええから……」
 決闘の申請窓口で、十一人目の挑戦者を退けた直後に膝をついて。運搬は挑戦者たちの手で行われた。

「胃薬……じゃなくて、胃そのものを交換して……」
 首脳会談を終えた帰りの車中で。同乗の職員は、真剣に交換の手続きを調べ始めた。

「静かだ。……静かすぎる。地雷原は、いつもこうやった」
 代表理事の命令で取らされた休日の昼、自室で。

「通知が来ない。来ないのが一番怖い。誰か何か爆破してくれへんかな、安心できるから」
 休日の夕刻、端末の画面を二十分見つめ続けた末に。願いは一時間後、遊理部の部室で叶った。

「休暇中に代表理事から連絡がないってことは、生存確認の手段がないってことですよね?……出勤します」
 休暇二日目の朝、制服に袖を通しながら。

「祖母は地雷と四十年暮らしました。私は代表理事と四年。祖母の方が楽そう」
 勤続年数を祝う席で、乾杯の挨拶を頼まれて。会場の拍手は、どこか遠慮がちだった。

「Трясця твоїй матері(トリャースツャ・トヴォイーイ・マテリ)。……訳すと、議事録から消されます」
 熱病に取り憑かれろ、と呪う古い悪態を、会議の最中に小声で。意味を尋ねた理事は、今も答えを知らない。

「鉄道は時刻表どおりに来る。代表理事は予告どおりに来ない。どっちも父に報告できへん」
 予定の三時間後に姿を現した代表理事を、駅の改札の前で出迎えて。

エピソード

  • 爆心地ワークショップの開催が決まった朝、副官は爆発の規模と損壊箇所を予測した説明資料を、学区への提出用に書き上げた。実際の爆発は損壊箇所まで資料どおりで、ずれていたのは発生時刻の二分だけだった。副官は提出前に、時刻の欄だけを赤ペンで直した。
  • 予算審議の朝に代表理事が姿を消し、探知用のドローンを飛ばして行方を追った副官は、決裁待ちの始末書の山の中に埋もれた代表理事を発見した。処理される側になってみたかった、との申し開きを受けた副官は、山ごと全件を処理し、代表理事の額にも受理の印を押した。印影は昼の審議が終わるまで消えなかった。
  • 大統領との首脳会談の直前、出迎えに飛び出そうとする代表理事を引き留めるため、副官は控室の扉を氷で封じた。代表理事が雷で扉を溶かすのに手間取り、会談の開始は十五分遅れた。セトルラーム側の議事録には、遅れの理由がユピトル側の礼式として記されている。
  • 打ち上げで焚きつける側に回った翌朝、副官が目を覚ました場所は懲罰独居房の寝台で、隣では部長が寝息を立てていた。副官の胸には准怪人の名札が貼られ、毛布は丁寧に肩まで掛けられていた。独居房の入房記録には、自主的な同伴、の注記が残っている。
  • 休日の過ごし方に困った副官は、学園国家の鉄道の各路線に乗って、全ての列車の到着時刻を秒の単位で記録した。一日分の記録は商工委員会に意見書として提出され、遅延の多かった二路線の時刻表が翌月に改められた。副官は、休日の方が疲れた、と翌朝の日誌に書いている。
  • 決闘の挑戦者が絶えないため、副官は申請窓口に番号札の発券機を置いた。発券が始まって三日目、列の最後尾に代表理事が並び、零番の札を要求した。副官は零番を欠番に指定し、欠番の告示に自分の決裁印を押した。
  • 新大坂の薬局で胃薬を値切った副官の交渉が見事すぎたため、店主はその場で副官を販売員として雇おうとした。断る手間を惜しんで書類に署名した結果、副官は今も薬局の名簿に非常勤として名を連ねている。月に一度、代表理事の執務室に店の広告が届く。
  • 学生理事会の避難訓練を副官が取り仕切った日、訓練の最中に遊理部の部室で本物の爆発が起きた。職員は訓練の手順どおりに退避し、避難にかかった時間は過去最短を記録した。訓練の講評欄には、想定の精度が高すぎる、との一文が書き込まれた。
  • 転移の際に連れてきた探知用のドローンは、改修の後も地雷を探す学習を捨てきれず、代表理事が近づくたびに警告の信号を発するようになった。副官は機体の誤作動を疑って三度調べ直したが、判定の基準に誤りは見つからなかった。職員の間では、今では予定表よりもドローンの信号の方が信用されている。
  • 胡椒入りの火酒を自作しようと、副官は春属性の術で蒸留の装置を組み上げた。装置は小さな破裂音とともに火酒を仕上げたものの、匂いを嗅ぎつけた風紀委員会が完成品を押収した。押収品の保管責任者の欄には、学生理事会の担当理事として副官自身の名前が記されている。

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最終更新:2026年10月01日 00:35

*1 作:ChatGPT