グリーン・ワイアット

登録日:2020/03/13 Fri 14:32:45
更新日:2020/05/07 Thu 10:22:26
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「お茶の用意を。私はダージリンが良いな」



グリーン・ワイアット(Green Wyatt)は『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の登場人物。
CV:田中秀幸

地球連邦宇宙軍ルナツー方面軍第2守備艦隊所属の大将。
艦隊旗艦のバーミンガムと共に、デラーズ・フリートが引き起こしたデラーズ紛争に対抗する。



◆経歴

「うむ……紳士は時間に正確でなくては、な」

一年戦争から連邦軍に所属する白髪の老将。
一年戦争時は中将で、ア・バオア・クー攻略にも参戦。レビル将軍亡き後の混乱する連邦艦隊をまとめて再編成し、困難な戦いを勝利に導いた殊勲者のひとりである。

連邦軍内のタカ派であり、自らの派閥も持っている政治屋。そのため他のタカ派連邦高官とは折り合いが悪い。
大将という階級と宇宙軍を任される立場にありながら、デラーズ紛争の収束のために活動する。


◆活躍

「ふっ、これでは内通したがる者が出るのも、無理ならんかな」

八話の「策謀の宙域」から登場。
シーマ・ガラハウに接近し、「シーマ艦隊への永住権を手配する代わりに星の屑作戦阻止に協力する」という条件の密約を交わそうとする。
……のだが空気の読めないアルビオン隊に発見されると、密約を誤魔化すため、やむなくシーマ艦隊を攻撃して離脱する。
その気になればシーマ艦隊の三隻を丸ごと消滅させることも可能ではあったが、あえて僚艦のムサイだけを撃つことで「シーマを逃がす」ことを伝えていた。
彼女も「いい男だったかねぇ……」*1とこぼしており、案外気性は通じた模様。

結果的にこのアルビオン隊の介入は、シーマ様の攻撃でバニング大尉は戦死し、貴重な情報を失い核攻撃阻止を失敗させ、シーマ様はコウ・ウラキに恨まれ最終的に殺されるという、三方一両損どころではない大惨事を引き起こすハメに……。

というか、「総旗艦であるバーミンガムが護衛も連れず、迎撃も救援要請もせずに、ジオン艦隊と接近している」という、ちょっと頭を働かせれば「なにかあるかな」と察せられる状況である
戦略を俯瞰するワイアット大将とあくまで戦術レベルしか考えないアルビオンの齟齬といえばそれまでだが、「愚直であればよいというものではない」といえるだろう。



「来るなら来いだ! このような散漫な攻撃でなにをしようというのだ」

それでもコンペイトウに戻り、連邦の総力を結集した観艦式を挙行。
同時に、軍艦はいつでも攻撃できる体勢のうえ、MS隊、有人偵察機・無人攻撃衛星など、あらゆる監視網・迎撃網を張り巡らせていた。

果たしてワイアット大将の読み通り、デラーズ・フリートは各地のジオン残党を呼び込みつつ攻撃を仕掛けてくる。
しかし迎撃網は極めて堅固で、接近する敵を手当たり次第に迎撃、デラーズ・フリート本隊にも主力ジム隊を差し向け、優位に立つ。


しかし敵の切り札であったアナベル・ガトー2号機は、もっとも侵入困難とされた区画を突っ切りコンペイトウの真上に出現。
放たれた核攻撃を受け、艦隊ごと戦死した。

「これが……星の屑か!」


なお、彼の死後も艦隊はステファン・ヘボン(ヘップバーン)少将が再編して追撃を開始する。
彼は核攻撃直後にアルビオン隊が助けると言い出した時には何を今さら!!!! 無用だといってやれ!! 港は混乱してむしろ迷惑だと!!」と激怒している。
彼もワイアット大将の腹心であったと思われ、シーマ様との取引も知っていたとすると、冷静沈着な彼がこれほど怒った理由も察せられる。


◆人物像

「デラーズの艦隊こそ、海の藻屑だ」
「モビルスーツのない艦隊はどうなるかを、教えてやる……!」

腐敗した連邦軍人の代名詞のような扱いを受けることが多いが、星の屑阻止とジオン残党の弱体化のため、割と筋の通った行動をしている
密約の件もアルビオン隊とは違った方向から星の屑阻止へ動いているのであり、シーマ艦隊の「戦争犯罪者」という悪評を考えても、十分取引可能な相手だったと考えられる。

シーマ様を取り込むことでジオンの悪行を白日の下に晒し、ジオン残党の大義名分を叩き折り、精神的に弱体化させることを目論んでいた模様。
実際、ジオンの悪業(コロニーへの砲撃や毒ガス注入や地球墜落、条約を破っての核攻撃、休戦協定の一方的な蹂躙と奇襲、etcetc……)は枚挙にいとまがなく、証人・生き残りも非常に多い*2ため、シーマ様からの告発と合わせて公表すればジオンの大義を徹底的に崩せた可能性は高い

一方で「ジオンの脅威からスペースノイドを庇護する慈悲深き地球連邦」を演出することで連邦による支配を盤石なものにしようと画策していたともされるので、真の意味でアースノイドとスペースノイドの共存を願っていたかは不明。イギリスの二枚舌は旧世紀からのことだし。
ただ、たとえ「共存」が建前にせよ、「スペースノイドを殺してアースノイドの利権を優先しよう」という考えは言動からは一切読み取れない。
母国からも裏切られ心身共に擦り切れていたとは言えシーマがすり寄ろうとした上、上記の通り評価している事を考えると割と本気で共存を図っていた*3可能性は高い。


真意はともかく、少なくとも密談や観艦式に臨む行動力、敵の窮状を見抜く観察力、ジョークを忘れないコミュニケーション能力など、優秀な将軍であったことは間違いないだろう

ジオンに裏切られ猜疑心に溢れている上に何かと辛辣だったシーマ様も彼のことは一定の評価を下していたことも、その手腕故と言える。

柔軟な対応により被害を最小限に抑えた上で事態の収束を図り、後のことまで考えているなど、ジョン・コーウェン中将やアルビオン隊以上に、政治面で有能な存在として描かれている(無論場当たり的とはいえ緊急出動して追い続ける彼らも必要な役割を担っているが)。


一方で「テロリストに核兵器搭載MSを盗まれる」という非常事態にも関わらず、連邦内の派閥争いから逃れられていないことに関しては、「腐敗した~」という評価もやむを得ないかもしれない。
密約を潰されたのもアルビオン隊に発見されたからであるが、アルビオンを支援していたコーウェンと意思疎通が取れていれば回避できた可能性はあった。

ただし作中で2号機奪還はコーウェン一派が中心になっているらしき描写もあり、そこから考えるとガンダム開発計画の責任者であるコーウェンが、派閥の異なるワイアットを排斥していたという面も結構考えられる。

自ら密約に出向いたり、元々の予定でもあったにせよあれだけの戦力を導入したりなど、
敵対派閥との戦いの側面もあるが、それを抜きにしてもこの事態を非常に重く捉えていたと言えるだろう。

そもそも派閥争いが起きたのは当時の連邦の状況こそが原因であり*4、ワイアットひとりがどう奔走したところで「派閥闘争もなく一致団結して事態にあたる連邦」など、作ることは不可能である。
むしろ自らが置かれた状況を理解したうえで、多くの派閥と連携しつつあれほどの戦力を動員し、かつ主導できたというのも、優れた政治家の素質である。


また非常事態にも関わらず、自ら観艦式に臨むというのは無謀に思えるが、自動砲台やMS部隊に守られた状態で、37機のMSを撃破しており、ジオン残党を一網打尽という目的は結構果たせている
むしろ核バズーカ背負っただけの鉄砲玉みたいなMSが、鬼神のような強さで単騎駆けして防衛線を突破して、
更に射出した核弾頭も妨害されなかったのが異常なだけであり(作劇上の都合にも近い)、発想は何らおかしなものではなかった。
仮に観艦式を中止したとして、それは矮小な勢力のジオン残党の一部に戦略的敗北を喫する形となる上に、問題の先延ばしに過ぎず、
むしろその後いつどこでこの核を撃たれるのか分かったものではなくなり、更に厄介な事態が予想される。


先述したように連邦軍内で派閥争い中であったが、シーマ様との密約を利用して星の屑を阻止できていれば、その後の歴史が大きく変わったことも考えられる

デラーズ・フリートの行動はティターンズの設立に大義名分を与えたが、それを与えずに済むことに加え、
対立していたジーン・コリニー中将はジャミトフ・ハイマンの上司でもあるので、上手く行けば連邦軍内から急進派を一掃することも夢ではなかったか。
あのジャミトフのことなので、「ジオン贔屓」とでもレッテルを張られて逆に追放されそうであるが。

あるいは、これほど大局的な視野・手腕・権力を持つワイアットがジャミトフと組んでいれば、ジャミトフの「真の理想」も叶っただろうか?
少なくともワイアットについて、スペースノイドを「ども」をつけて見下すセリフこそあれ、アースノイドを特別視する発言はないのである


一指揮官としても、バーミンガムの指揮管制能力と防衛衛星などを組み合わせた迎撃の巧みさや、艦隊を集めた状況でありながらMSの重要性に言及する点など、
大艦隊の司令官としての優秀さが演出されている。


◆漫画「REBELLION」

「観艦式が終了次第わたしはスペースノイドにジオン公国の凶行を大々的に喧伝し、そしていまだジオンの思想にかぶれた者どもを一掃する!!
スペースノイドどもは知るであろう!! ジオンが「悪」で我々が――――……地球連邦が彼らの「絶対的守護神」であったのだと!!
これが政治的「征服」というものだよ。諸君!!」

リメイク漫画である本作では、ワイアットの思想がよりわかりやすく描かれている。
上記のセリフのように、戦略家のみならず世界の政治そのものを導ける(※少なくとも間違ったことは言っていない)政略家であることも強調されている。
その意味では、(劣悪な環境という違いも大きいとはいえ)どこまでも戦略レベルしか見れないエギーユ・デラーズとは対照的である。

ビグ・ザムを「ソロモン戦の象徴」としてあえて回収・改造し、嫌がらせを兼ねてぶつける一面も。それがなかなか強力であるから侮れない。

また「ジオンの大義」によって立つデラーズやガトーの正体を「一年戦争の敗北を受け入れられずに宇宙を徘徊していた連中」とも喝破している。
例えばガトーのセリフに「怨恨のみで戦いを支える者にこの私は倒せん! 私には義によって立っているからな!!」というものがある。
しかしガトーの「義」とは本人も無自覚ながらその前大戦の『怨恨』によるところが大部分であり、彼らの言動はまさしく「敗れたという現実を認められず徘徊していた連中」のそれである。
またアルビオン隊に「まるで厄介事の元凶だ!!」とも発言しているが、
上司のコーウェンが核兵器の製造を主導し、責任者にも拘らず核兵器をまんまと奪われ*5、追撃作戦もことごとく失敗し、黒星ばかり重ねた彼らの行状を考えるとこれも正鵠を射ている。
そのため本来なら何かしらのツッコミどころを担いそうな役回りなのに、こちらでもツッコミどころが意外と少ないという問題が生じた。

◆ゲーム作品

ギレンの野望シリーズには『ジオンの系譜』から登場する。
しかし異常に能力が低い。某無能大将よりは使えるレベル……と言いたいが、無駄に耐久だけは高いあのお方に対して「万遍なく弱い」のでどうしようもない。
原作ネタを拾おうにも、バーミンガムも「耐久力だけはある固定砲台」なので、高耐久のあのお方に乗ってもらった方がいい。とはいえたまには僻地でティータイムを楽しんでもらうのもいいだろう。
様々な連邦軍人のなかでも、もっと腐敗してそうなコーウェンとかコリニー、さらには裏切ってた上に作戦中に酒を飲むようなエルランよりも弱いのは謎である。

『ジオン独立戦争期』では策略や内政要素と登場と軍団制*6によってそれなりに利用価値が上がった。
また、彼をオリジナルモードの総大将にすると「皆が紳士の心を持てば世界は平和になるのだ。」というニュアンスの政策を打ち立てて本当に世界を平和にしてしまうと言うレビルでも出来なかった快挙を成し遂げた*7

『新ギレン』ではちゃんと前線で戦えるステータスにパワーアップした。
将官らしく指揮する部隊の攻撃命中率を上げるスキルを持ち、さらに占領した拠点の開発度低下を抑える珍しいスキルも持ち合わせている。


◆観艦式での演説

「宇宙暦、0079。つまり、先の大戦は、人類にとって最悪の年である。
この困難を乗り越え、いままた、三年ぶりに、宇宙(そら)の一大ページェント、観艦式を挙行できることは、地球圏の安定と平和を具現化したものとして、喜びに耐えない。
そも、観艦式は、地球暦1341年、英仏戦争の折、英国のエドワード三世が、出撃の艦隊を自ら親閲したことに始まる……」
「その共有すべき大宇宙の恩恵を、一部の矮小なるものどもの蹂躙に任せることは……」

宇宙世紀にもなって英仏戦争のうんちくは必要だったんですかね。


◆余談

エドワード3世の話を持ち出す、紅茶を好む、「紳士は時間に正確でなくてはな」と言いながら観艦式へ向かうなど、イギリス紳士*8としての立ち振る舞いが目立つ。
冒頭のセリフもその一つ。しかし「ダージリン『が』いいな」ということは、宇宙勤務なのに多種多様な紅茶を用意しているのだろうか……*9




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*1 ちなみに「いい男かもしれないがツキは無いようだねぇ」……というセリフが広まっているが、原作では「ツキ」はない。

*2 例えば小説版FGでは、連邦宇宙軍の将兵の大半は、ジオンによる開戦劈頭の大虐殺の生き残りである。これはテレビ版本編でもほぼ同様である。

*3 実際戦争の爪痕はこの時点でもかなり残っており、この後のジオンとの戦いが尾を引いた事で連邦は更に弱体化し最後には事実上の崩壊に陥った。 ワイアットがここまで先読みしていたかは疑問だが、共存はともかくとして「今は国力の回復が先で、ある程度はジオン側に譲歩しておこう。」位は考えてもおかしくはない。

*4 もっとも集団になれば争いの程度はともかく自然と派閥は形成されるものなのでこういった争いは仕方ない側面が強く(起きないのであれば全員日和見や慣れ合いに近い)、むしろレビル将軍によってほぼ一枚岩になれた一年戦争時がそれだけ特別な事態だったと言えるだろう。

*5 奪われた最大の原因はAE社の内通によるものだが、この件の最大の責任者はコーウェン指揮下の軍であることには変わりはない

*6 軍団長の階級によって配備可能数が変わる。軍団長が不在及び階級が低いと少数しか配備できない。

*7 尤も、「後にコーヒー派の猛反発で失脚した」と言うトホホなオチ付きなのだが…

*8 実在する名前が多い0083だが、ワイアットも英語圏の性である。

*9 一応、命のやり取りに関わる軍隊において糧食は「士気を維持する為に必要不可欠な物」であり、艦内での閉鎖空間においてはより重視されるのは言うまでもない。 後のアーガマにもケーキが配備されていた事を考えると嗜好品としてある程度の紅茶が艦隊に積まれていてもおかしくはない。