ジョン・コーウェン

登録日:2021/08/06 (Fri) 17:34:58
更新日:2025/05/01 Thu 23:16:21
所要時間:約 14 分で読めます





「エギーユ・デラーズ!ギレン・ザビの亡霊が!」

ジョン・コーウェン(John Kowen)は『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の登場人物。
CV:渡部猛

地球連邦宇宙軍第3地球軌道艦隊司令を務める中将。
作品の主人公であるコウ・ウラキらアルビオン隊の上官で、隊にガンダム追撃作戦を命じ、デラーズ紛争に立ち向かう。


【経歴】



ガンダムシリーズでも少数派の黒人系キャラ。しかも派閥の長にまで上り詰めた、黒人界の出世頭である。ん?どっかのゲームではラッキーボーイだぜとか言うリュウが黒人だった?

『0083』以降に作られた作品だが、一年戦争で戦う技術少将*1時代のコーウェンを『機動戦士ガンダム戦記Lost War Chronicles』で見ることができる。
この頃はノエル・アンダーソンの手がけたMS戦術に関する論文を評価し、彼女をMS特殊部隊第三小隊(マット・ヒーリィの部隊)に配属。こちらでも主人公一味の上官として活躍を見せた。
当時からMSの有用性を評価し、今後の実戦運用に関するデータ収集を担い、同じ目線を持っていたレビル将軍とも良好な関係にあった。

当時から改革派であり、その旗頭であったレビル亡き後、事実上の後継者としての地位を築いていくこととなる。
レビルと共に先見の明があったことから、関係者からは高い評価を受けていたのだろう。
その後ガンダム開発計画の責任者となり、新しい時代の連邦軍を目指して行動することとなる。

このような経歴を持ち、連邦軍では少数派である改革派に属する人物。
そのため保守派の面々とは折り合いが悪く、特にジーン・コリニー中将の一派からは完全に敵視されている。
しかし派閥争いが描かれる本作の中、彼の副官や同盟者ポジションの人物だけ出てこない。
実はバスク・オムは当初コーウェン派についているのだが、後述するように最後はコーウェンを無視してコリニー、ジャミトフに与して行動している。
あの感じでリベラル派のバスクとか想像がつかない。


【本編での活躍】



トリントン基地に搬入された二機のガンダム。
しかし突然の襲撃によって核弾頭を搭載したガンダム試作2号機強奪され、残されたもう一機のガンダムであるガンダム試作1号機と、アルビオン隊による追撃を許可し、以後彼らを陰ながら支えることとなる。
その後エギーユ・デラーズ率いるデラーズ・フリートの宣戦布告演説を目の当たりにした際には「エギーユ・デラーズ!ギレン・ザビの亡霊が!」と切り捨てた。

しかし各地を転戦するアルビオン隊の奮闘も虚しく、2号機はコンペイトウに対して核攻撃を敢行。
この時の戦闘により2号機の撃墜には成功したものの、デラーズ・フリート自体は健在し奪われたニ号機のパイロットも脱出。
追撃の主力たる1号機を失ったアルビオン隊に対して、コーウェンは新たなガンダムの存在を語り、それを託す。

その後デラーズ・フリートの真の目的がコロニー落としにあることを知り、その阻止の為に動き出すが、その時連邦軍内部では既に、戦後を見据えた激しい派閥争いが巻き起こっていた。
保守派の実力者、ジーン・コリニーによって自らはガンダム開発計画の責任者という任を解かれ、3号機はコーウェン(に従うアルビオン隊)の手を離れてしまう。

こうした事態にコーウェンも不信感を強めていく。
何よりもコロニー落としを阻止するはずの連邦軍艦隊は阻止限界点の後方に展開しており、これではコロニーが地球へ落下するのを阻止することなどできない陣容であった。
その真意を確かめるべく、自らコリニーの元へと向かうコーウェン。
しかしそこで目撃したのはコリニーらがシーマ艦隊と内通している現場であった。
驚愕し、その腹の内を問い詰めるが……

「て、提督……」

「提督、何をお考えですか!?いや、この状況を、何に利用しようとしているんです!?」

阻止限界点よりも後方で事態を静観する連邦軍艦隊では間に合わない。
一刻も早く行動しなければ手遅れになると主張するコーウェンだが、ジャミトフに銃を突き付けられてしまい、遂に自身が拘束されてしまう。

実はコリニーやジャミトフは既に、切り札のソーラ・システムⅡを用意していた。
これでコロニー落下を阻止することで、連邦軍内の主導権はコリニー派のものとなる。
シーマ艦隊との内通も後方に備える艦隊も、すべてはコリニーらの計画通りであった。
そして改革派の長として厄介な敵であったコーウェンを排除することも、彼らの計画に含まれていたのだが、当のコーウェンがそれに気づいたのはあまりにも遅すぎたのである……

何もかも失ったコーウェンの目の前で、地球へと落ちるコロニーはジャブローへ迫る。
しかしコロニーはジャブローではなく、北米の穀倉地帯へと落ちていった。
それを見つめることしかできないコーウェン。

「この一撃こそ、歴史を変える……」

そう呟き、彼の星の屑を巡る戦いは終わりを告げた。

後に彼はこのたびの混乱の責任を取ることとなり一階級降格。自らが率いていた改革派勢力も影響力を失っていった。
その後コリニー派と、ジャミトフが設立したティターンズが勢力を強める連邦軍にあって、コーウェンがどのような道を歩んだのかは明らかにされていない……


【人物像】



主人公の上官であり、色々と汚いことばかりやっている連邦軍上層部とは異なり、一心にデラーズ・フリート追撃に取り組む軍人。
が、劇中ではガンダムの開発計画を主導した人物として描かれており、結果として試作2号機の開発を命じた責任も彼にある…というキャラに合わない設定を背負わされている
……という役柄のはずなのだが、『0083』のストーリーを振り返ると「派閥争いしながらも各々が考えて星の屑阻止に動いているのに、現場でアルビオン隊が邪魔する形となってコロニーが落下」という最悪の流れであり、コーウェンはそれに悪い形で大半関わっている。
こんな前提設定を置いているせいで

  • 核弾頭搭載用ガンダムを製造し自分が主導して開発し、実物の核弾頭を載せる試験を行おうとしていた。
  • その試作二号機を「使ってはならない兵器」と発言する。
    • この発言から抑止力としての運用を考えていたのかもしれないが、ジオン軍はたびたび南極条約違反を繰り返しているためお互い「自分には打たれたくない」と考えなければならない抑止力論争が通じない相手であることは明らかであり、「使ってはならない兵器」を製造するメリットがない。
    • 核抑止論の大前提として、相手が誰でどこから撃ったのかわかっていなければ全く意味がない。ミノフスキー粒子がある世界ではオーバーキルに直結しかねない。
    • コーウェンは連邦軍の中将という立場であるのでいつガンダムを取り上げられるかわかったものではない、取り上げられたのちに大量虐殺に使われる危険性も充分にあったし、コーウェンの部下の中にはバスクのような問題人物もいた。
    • そもそもオデッサの戦いにおいて、マクベが停戦を受け入れなければ核を打つと脅してきたにもかかわらず、レビルは前進を続け、マクベは核弾頭発射してしまったため、核弾頭は抑止力にならないという前例がある世界でもある。
    • しかも公式サイトでは「トリントン基地で戦術核発射テストを行う予定であったが、」となっており周囲に通達をしていなければ爆風と放射能で大問題になるところであった。通達してあったとすれば後述の通り計画自体が雑である。
      • この発言は流石に不味かったのかリメイクの漫画リベリオンでは「使わせてはならない兵器」ということになっている(逆を言えば先制攻撃する気満々だったということで余計にヤバいことになるのだが)

  • その核兵器搭載MSを盗まれる。
    • ↑基地内部の人間のほとんどが核弾頭の貯蔵庫であることを知らなかったためか、警備はガトーに呆れられるほど手薄*2、単なるテストパイロットのコウとキースを素通りさせてしまうほどザルである。
    • 本来ならば警備だけでも数百人体制で行わなければいけないクラスである。計画を主導しながらそれらの人員を配備しなかったコーウェンの責任は重い。
    • その結果、追撃や防衛を行ったトリントン基地のMS部隊、司令部が壊滅するという大損害を被る。
    • 本編で軽く扱われているが「過激派テロリストに核弾頭を奪われた。」という点は歴史に残る大事件になるはずである。
    • この時点で何をされるのか分かったものではない、第一話の時点で連邦軍は完全敗北といっても過言ではない。
    • 盗まれた核による攻撃で宇宙艦隊が大打撃。

  • 民間人のオービルが一人で作戦詳細を知れるほど情報統制もザル。
  • しかも、計画の中の重要なエンジニアである彼に車での外出を許可している。事故や事件に巻き込まれたり、テロリストに「従わなければ殺す」と脅される危険性もあったために、護衛もなしに外出許可は能天気にもほどがある。
  • トリントン基地襲撃後もスパイであるオービルの存在を一週間放置、彼は自分がスパイだと示す書類を持っていたため襲撃直後に船内点検すればすぐに発見できたはず。それが原因で一週間も追撃の機会を失う。
    • 軽く流しているが、民間軍事会社のエンジニアが、軍の最新鋭のしかも核弾頭搭載可能兵器の情報をテロリストに流すという、いかなる巨大組織であっても膨大な罰金や即取引停止、アナハイムの幹部の逮捕・処刑になっても文句も言えないとんでもない大事件である。
    • コーウェンの落ち度として、ガンダム強奪の事件自体オービルによる情報漏洩が原因であるため、民間人にその存在や作戦の詳細まで調べ上げられてテロリストに伝えられているという時点で軍の情報統制としては非常に甘く、この時点でコーウェンとシナプスは拘束されてしかるべきであった。
    • 度々自分以外に対して「危機感が薄い」という発言をするが、この体たらくでは彼の方が「認識が甘い」と言われて当然である。

  • 宇宙空間に逃げられた二号機を手がかりなしでアルビオンに探せという無茶な命令を出す
    • ミノフスキー粒子のある世界なので目視捜索以外不可能でありどこに居るのかわからないので捜索範囲は(地球から月までの距離の半径38万キロを基にした球体)と考えて(地球の表面積×厚さ1㎞)の体積をスキャンして調べたとしても4億回以上かかる計算である
    • 実際には目視ではそこまで高性能なスキャン能力はないため、不可能と断言してもかまわないはず。そもそも暗礁空域にあったり、黒い布のようなもので隠したり、どのような船で運ばれているのかわからなければ意味がない。
    • さらに見つけたとしても軌道と速度を合わせる必要があるため接近できるとは限らない。地球から宇宙に出る最低限の速度とされている第一宇宙速度は地球の大気の標準でマッハ23である。
    • 接近できたとしてもその上で敵に逃げられずその場で倒さなければならないという無茶ぶりであるこんな無謀な作戦に戦力を回すのはあり得ないといっても過言ではない。
    • 二号機を奪取とするのであればワイアットのように敵からの内通・調査か戦略的に予測して迎え撃つ以外に方法はないと言っても等しい状況である、例えコーウェンに100万隻戦艦を与えたとしても発見確率は限りなくゼロに等しい。これは宇宙工学から見れば初歩中の初歩であり、この点を考えられないのではほかの連邦幹部から協力を得られなかったのも当然である。この作戦を受けるシナプスの方も大概である。

  • (アルビオン隊が)裏で頑張っていたワイアットとシーマ様の会談を(短慮な考えで)ぶち壊す。
    • 水や空気の抵抗のない広大すぎる宇宙空間で敵艦と一緒に並走しているという明らかにお互い示し合わせた上で何らかの交渉を行っている現場に「敵と遭遇し戦闘している」と勘違いして突撃。宇宙に人類が飛び立ってから80年以上過ぎている世界の艦長とは思えない行動である*3
    • ワイアットからしてみると常識的にわかる行動が取れないということなのでバカと怒鳴られても仕方のない行動である。例え目視では不可能な10㎞離れていたとしても加速をつけていれば宇宙では数秒である。誤解を解いている暇すらない。
    • アルビオンに情報を渡していれば回避できたのかもしれないが、スパイを1週間放置するほど情報管理意識が低く、限りなく可能性がゼロに近い無意味な作戦行動をとっている船に情報を回すと言う方がおかしい。そもそもアルビオンの補給ポイントが近かったのが原因でそれがなければまず見つかることはなかったはずである。

  • (指揮権は既にないが)アルビオン隊がコリニーの管理下に置かれた試作3号機を強奪した挙げ句、友軍となったはずのシーマ艦隊を粉砕、彼はそれを止めようともしなかった。
    • 結果コロニー落とし阻止の可能性があったソーラ・システムⅡの防衛に失敗。

  • 絶えず関係各所に対しての反発を言うばかりで、反省しているシーンが一つもない。
    • 核弾頭を奪われた時点で関係各所に謝罪して回るというシーンでもあれば話は別だったのだろうが 本編では自分の対応が正しく周りの対応が間違っていると決めているため擁護し辛い。0083の被害全般「大体お前のせいだ」で済んでしまう。


という点が彼の責任として重くのしかかってしまった。
さらにこのせいで紛争後は完全に失脚し保守派(ティターンズ)への対抗馬になれなくなるという結末に導かれてしまう。

評価としては デラーズフリートは彼が何もしなくても ワイアットやコリニーの手によって殲滅されていた可能性も高かったため*4
「深い考えを持たず軽々しい気持ちで核弾頭を持ちだし、警備も情報管理も怠慢がひどく、自分の責任を自覚しないで他所の悪口を言い、部下に無謀な命令を出し、他派閥の邪魔をし続けた迷惑な人 」という評価にせざるを得ず。
結果、核兵器搭載MSを製造し、それを盗まれてあちらこちらで多大な損害を出し、後にジオン軍並の蛮行を働くティターンズを誕生させた
という、自分の対抗馬に対する完璧なアシストを意図せず決めることとなってしまう。
よって彼を快く思わない視聴者からは「デラーズ紛争の逆MVP」という不名誉なあだ名を貰っている。
登場人物への評価の毀誉褒貶が激しく変化する『0083』。
コリニーやジャミトフ、バスクなどは視聴者からの評価はともかく、作中で勝ち組となった
シーマ様は作中での扱いは悪いが、視聴者からは評価されている。ワイアットも発売当時に比べれば上手くいけば英雄になれたと評価されつつある。
アルビオン隊やデラーズ・フリートの人々は作中でも非難され、視聴者からも悪い意味で再評価されてしまったが、まがりなりにもロボットアニメの主役&敵役として戦闘シーンの評価は高い
こうした人たちに対してコーウェンは、作中でも地位を失い、一部からは「だいたいこいつのせい」と文句を言われ、ロボットアニメなのに終始ジャブロー勤務で見栄えがしないという*5
作中の行動全体を見ると必ずしも好評を下しづらい人物である。なまじ穏健派スタイルであるのが尚の事イメージとの不一致が甚だしい。

もちろん、劇中では味方の理解者として描かれており、主人公を支える熱心な理解者ポジション、としては十分尽力している。
その主人公が全然上手くやってくれなかったし、そのせいで自分も失脚するのだが。
新兵だらけ*6だった隊に、
2号機強奪の翌日には補充要員として「不死身の第四小隊」というベテラン+ジム・カスタム&ジム・キャノンⅡという優秀な機体を計5機配備してくれたのもコーウェンである。
個性的なベテランのおかげで、シナプス艦長とバニング大尉の心労を増やしたが。

舞台が宇宙に飛んでからはサラミスの増援、ユイリンナッシュビルを送ってくれたのも彼。
指揮が行き渡っていなかったせいで二隻とも合流したその話でいきなり轟沈。

初代でタムラさんが塩不足に陥っていたが、そうならない程度にきちんと補給も行ってくれたのも彼である。
一刻を争う戦況だったにもかかわらず、ヒヨっ子の好き嫌い克服のためにわざとニンジンをたくさん出しても咎められないほどの余裕ある航行が可能だったのだから、このあたりの手腕は素直に評価するべきだろう。

そうした武人系かと思えば、最終局面でコリニーを問い詰めた際に「この状況を、何に利用しようとしているんです!?」と、その意図を薄々見抜いていたり、落下するコロニーを前にして「この一撃こそ、歴史を変える……」と、将来の混迷の時代を予期する発言をしていたり、決して無能な人として描かれているわけではない。
汚く見えるけど戦略家としては優秀な人たちに対して、現場レベルでは間違いなく優秀な戦術家なのだろう。
これは部下のシナプスにも言えることだが、総じて政治的な立ち回りや腹芸は苦手なようで、レビル亡き後の連邦軍改革派の実力者として、本人の能力以上の立場に置かれてしまったのかもしれない……

派閥争いと縁遠い軍人という立場から、一番重要な地上戦での追撃時に大本の連邦から一番大事な支援行動をほとんど受けられないという不遇さもあった。
ジャブロー防衛の方が大事だし、アルビオンがスパイをすぐ見つけてくれていれば話は早かったんだけどなぁ…
コーウェンの部隊が独占していた、という認識もあるがこう解釈される原因となったパサロフ大尉の吐き捨て方と、それに呼応したモーリス少尉の愚痴を鑑みても政治的思惑や対立で戦力を回して貰えなかったという方が自然である。*7
警備が怠慢なトリントン基地の核弾頭を持ち出す判断をするところに戦力を回したくないのは当然だと思うんだけれどなぁ…


また、その愚直さはワイアットのようなタイプからは嫌われているようで、シーマ艦隊との会談に水を差された際に「バカめ、盛りおって……コーウェン麾下の(ふね)らしいわ……バカめ!」吐き捨てられている。
文字だとわかりにくいが発音から考えて*8、この時のワイアットの心中は「考えなしのコーウェンに似て、余計な行動を……!」だろうと推察でき、元から「コーウェン=脳筋」という認識を持たれていた可能性が高い。


しかしそうは言ってもこうした軍人としては真っ直ぐ過ぎる姿勢が、戦後軍閥政治に執心していた連邦の他派閥から敬遠され、協力を妨げた可能性は否定できない。
最終的にはアルビオン隊(=コーウェン派)を排除してソーラ・システムⅡによる迎撃作戦を練られた際も、完全に無視されていた。

ただ仮に積極的に協力して功労をあげたところで、普通の試作機ではなく、核兵器搭載MSを盗まれた以上、軍内での立場を取り戻すのはいずれにせよ難しかっただろう。
『0083』の連邦軍は派閥争いだらけだが、そもそもコーウェンはその辺りをあまり考慮した様子がなく、自身の進退について興味があったかも疑わしい。*9
と、紛争解決は当然のことながら、紛争後の政治的なことを考えて動いていた。
ワイアットやコリニーらが策謀を裏で巡らせてコーウェンは単純に事件解決のことだけを考えており、名誉欲がなさすぎたためにかえって後事を考えた様子がないような描写となっていた。
試作二号機をまんまと盗まれた時点でまず失脚確定(仮に強奪未遂で済んでいたとしてもコーウェン自身の立場が弱く、そこを突かれて失脚する可能性は高かった)ので、
将来の見通しもクソもあったもんじゃなかったのかもしれない。
その場合、連邦がコーウェンに追撃作戦をストレートに任された点が腑に落ちないが、発言力も立場も悪いコーウェンに丸投げしたということは尻拭いだけさせた後でいくらでも政治的地位を剥奪する準備はあったのかもしれない。
またコリニー派が用意した本命の「ソーラ・システムⅡ」もそう簡単に用意できる代物ではない*10=事前に入念に準備を整えていた以上、コーウェンの追撃が成功すればそれでよし、失敗してもフォローできる、という考えだったと思える。

デラーズに出し抜かれコロニーが迫る状況に対し「連邦軍の無能の証明ではないか」と言ってみせ、阻止すべく集まった連邦軍艦隊の配置を一目見て「間に合わん……提督は何を考えている……」と困惑する姿からは、
無能…というか権力闘争に終始する組織に振り回される苦労人といった感がある。これだけ振り回されながらも、礼儀正しくコリニーを「提督」と呼ぶのも真面目な人格を表している。
しかし結果的には排除されたことでソーラ・システムⅡの配備も防衛線よりも後方に展開した部隊が間に合うように考えられていたことも、コーウェンには伝えられなかった。
そしてコーウェン以外に情報ルートを持たなかったアルビオン隊がシーマ艦隊を潰す結果となったのも、彼の発言力と政治力・政治的手腕の無さ故のものである。
情報を伝えられていなかったのも、考えてみれば試作二号機関連であれだけ情報漏洩を犯した派閥に、重要な機密情報を伝えなかったワイアット・コリニー両派の判断も一理あったといえる。
ちなみに「シーマ艦隊の内通」は「ソーラ・システムⅡの投入計画」と一体だったと思われるが*11、このことから「ワイアット派」「コリニー派」「コーウェン派の一部(バスク)」「シーマ艦隊」は情報交換と意思疎通ができていた模様。しかし情報漏洩に加えてコーウェン派から「裏切り者=バスク」が出ても気付かなかった点も、コリニーたちから「見限られる」要因になったとみられる*12
さらに言うと「ソーラ・システムⅡ」はステファン・ヘボン少将にも秘匿されるほどの重要機密であって、「関係者ならだれにでも通達するべきもの」ではなかったということからも、「コーウェンに情報を回さない」というコリニーらの判断を否定することは難しい。

ただ3号機強奪とシーマ艦隊との交戦に関しては、この時点でコーウェンの権限が剥奪されていた上、ほぼアルビオン隊の独断な以上、直接責任があるわけではない。
むしろ新たな命令に従わなかった覚悟の上とはいえアルビオン隊(コウ)の方が問題であり、戦後に全責任と被ってシナプスが裁かれたのはどう取り繕ってもやむなしである。

…と、本編の根幹に関わる大問題を多々引き起こしながらも、その後の処分は自身の一階級降格だけで済んでいる。
一応レビル将軍の後釜ということと、事件そのものがなかったことにされたため(降格の名目が立たない)だろうか。だがそれでも力は大きく削がれており、シナプスを庇えず極刑にされた一因になってしまった。

過大な責任や粗探しをされがちなコーウェンであるが、結局のところ本作最大の突っ込みどころである
「トリントン基地でニナがガトーに気づかなかったのに、実はガトーと恋人設定にあった」という超ご都合設定と同様、
コーウェンも事件の発端を作った人物として、人物像に合わない責任を用意されたあげく、連邦の派閥争いに巻き込まれる可哀想な穏健派…となってしまった。
立場とはあまりにも矛盾した責任を投げられた結果、総じて微妙な評価になってしまった人である。
ただコーウェンがこういった性格でなければシナプスが戦場においては有能である理由に説得力がつかないのも事実。
また、ニナの場合は明らかに後半からの設定変更による矛盾であるが、コーウェンがGP02Aの開発を承認したという設定は最初からの設定であり、それを「設定がおかしい」とフォローするのは贔屓の引き倒しである。
シナプスといいコウといいバスクといい、配下の手綱を握れず、最後は暴走を招いて全方面に被害をもたらし、自身も失意の人生を歩んだ……という点がガンダムにおける正史である。


ガンダム開発計画



自らが責任者を務めた計画。詳細は項目を参照。

計画のコンセプトに関しては、先見の明があったことは間違いない。
1号機、2号機の「フィジカルの強さと対応力で敵陣を突破する」点は、ジ・Oνガンダムに繋がっているし、3号機の「MSをベースに多数の武装を搭載した機動兵器」という点も、後の時代に数多くの類似機体が登場する。
元々技術方面への関心が強いという経歴と合わせても、この点では間違いなく優秀な将官だったと言えるだろう。
なお、やらかしたニ号機に関しても、一部技術がリック・ディアス等に応用されているため、決して無駄になった訳ではない*13核兵器MSは連邦にとってもトラウマになったのかこれ以降ごく一部を除いて見られなくなったが…

補足しておくと、コーウェンがどのような考えでこの計画に携わったかについては、実はあまり明らかになっていない。
レビル派の後継者として、周囲から(核兵器搭載MS開発の)プレッシャーを受けていた可能性も十分にある。

が……


【他媒体】



「むぅ…AHAジム-Cの使用を…許可する」

「勝たねばならんのだ!!なんとしてでも――…」

「戦術核をもって…事態を収拾する!!」

『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』にも当然登場。こちらでは名前が「コーエン」表記。
本作ではガンダム開発計画から外された後も、コロニー落としを阻止するべく奮闘。
「スピアーズ」と称される黒塗りのサラミス艦隊でコロニーの外壁をぶち破りダイナミック・エントリーするという、なかなか強烈な作戦を指示する。

そして突入後の部隊から、コロニーを粉砕するべく切り札のAHAジム-Cを出撃させる。
既に戦術核というとんでもない文字が見えているが、AHAジム-Cアトミック・ヘビィ・アーマー ジム・カスタムのこと。
要するに核バズーカを撃つジム・カスタムである*14
「特長がないのが特徴」

とはいえ、もはや、なりふり構わずコロニーをどうにかしなければならない状況だったのは間違いないし、なにより落下物を核で撃ち落とすのはロンド・ベルの人も同じような事をやっているし、これを批判するのはお門違いだろう。
MSレベルで運用できる核戦力を実用化していた要領の良さを評価しておくべきかもしれない。
もっともこちらでもコロニー破壊は果たせず、連邦艦隊の不審な動き(「提督は何を考えている……」のあの配置)を訝しんだ直後、コリニーらに拘束されてしまう。

……しかし本作のコーウェンはただでは終わらず、自身の解任前にアリス・ミラーに託した指令をアルビオンに下す。
それはアルビオンの任を解き、デラーズ紛争における全責任は自身が負うというものだった。本編でもこれくらい要領がよければ……
まぁこちらでもアルビオン隊は「独立部隊として決戦に参加する」と宣言し、中将の気遣いを無視したのだが。

このように見せ場が増えた作品だが、明らかにタカ派な思想でガンダム開発計画に関わっていたということもあり、逆に悪い出番も増えた。
先述のように「何故ガンダム開発計画を進めたのか」という点の謎を、コリニーから連邦本部内の実権を握るために画策したガンダム開発計画と言い切られてしまった。
またザクⅠの核バズーカを見た頃から核兵器搭載MSに興味があったとされ「周囲に流されて渋々核兵器搭載を許可したのでは?」と擁護するのも厳しくなった。
もっとも一年戦争時代には南極条約で違反であった核攻撃やコロニー落としをジオン側が行なった前科と、同作で現在進行形で失効済みとはいえ南極条約違反となるコロニー落としを行なっている事も踏まえると、最早ジオン側が条約を守る気など無いためやむを得ない判断するのは当然だろう。むしろこの時点で既に「MSによる核抑止」を想定していたことが、コーウェンの慧眼である。。
とどめにジャミトフにはガンダム開発計画が始まった頃から、いつかこれを巡って大問題が起きるだろうから、その時には混乱を利用してライバルを追い出せばいいやと、完全に手のひらで踊らされていた。

このように本作では穏健派ではなくバリバリのタカ派として描かれており、「派閥力アピールのために」「やる気満々で」核兵器搭載MSを製造し、それを盗まれて多大な損害を出し、最終的に「ジャミトフの思うつぼで」ティターンズを誕生させたということに……
ハットトリック級のアシストで、本編以上にやらかした感じが増えてしまった。
同作では一部のキャラの名誉はどうすれば真っ当に見ている側に伝わったのか、を考えて描写されているが、ことコーウェンとニナは悪印象への誘導が凄まじくなっている。
確かのこちらの方が本編での違和感も薄まるが…。

ちなみに当作品は夏元雅人の作品で、過去作品に先述のガンダム戦記の漫画版があるため、コーウェンを描くことにやたら縁のある漫画家となっている。


【ゲーム作品】



ギレンの野望』シリーズにも当然登場。
能力が非常に高く、連邦でもレビル、ティアンムに次ぐレベル。本編だとジャブロー勤務で前線に来てないんですけど……
めちゃくちゃ弱く設定されているワイアットは論外だがライバルのコリニーやジャミトフよりも強い。一応デラーズよりはほんの少し劣る。
階級と能力が共に高い高官なので、ペガサス級はもちろんアルビオンを任せても活躍する。安心して各方面の作戦についてもらおう。

『アクシズの脅威』系ではなんと、エゥーゴシナリオで追加加入する。
たしかに反ジャミトフで一致しそうなので、if参加のメンバーとしては違和感がない部類。
エゥーゴはとにかく人材が足りない勢力で、カミーユ達も原作イベントに参加していることから、活躍が見込める。
しかし能力と階級の都合で総大将のブレックス・フォーラを上回るため、実質的な総大将を乗っ取ることになる。
作品名が「コーウェンの野望」になることに抵抗がない人は、その能力を存分に発揮してもらおう。
うまく進めると、新たな地球連邦政府の門出に加わることができるので「原作で果たせなかった、平穏な暮らしを手にする」妄想プレイができる。

条件はLawルートであることだが、そもそもエゥーゴでChaosプレイは一種の縛りプレイ扱いされるレベルなので問題ない。
エゥーゴでも2号機は使えるので「GP02の使用を…許可する」とかやると加入しないが。
対になるChaosルートだとリードとかゴップとか、ギレンの野望でも屈指の無能軍人が加入するのは内緒だ。

正直、作中の描写や立場を考えると過剰と言えるほど優遇されている感がある。きっとスタッフにファンがいたのだろう。
『新ギレンの野望』では流石に大分抑えられたが、それでも一線級の提督ではある。

スーパーロボット大戦シリーズだと、主に第4次Fαに登場。
特に重要な立ち位置になったのが第4次で、序盤は立場の弱いロンド・ベルの後ろ盾として色々便宜を図ってくれていたのだが物語中盤にドレイク軍との交渉に向かった途上で乗っていたミデアが撃墜され、行方不明になる
…行方不明とは言ったものの、機体の残骸から生存は絶望的と見られており、完全に死亡扱い。原作で死んでいないのにスパロボ初登場にして殺されてしまった。まるで同じく初登場の三輪長官みたいである
なお、下手人は交渉相手のドレイク軍、そして既にドレイク軍と接触して同盟を組んでいたティターンズと見られている。
コーウェンの死により後ろ盾を失ったロンド・ベルはジャミトフにより保有兵器を接収されそうになったが、一連の出来事に主要メンバーが激怒した事により三輪長官以外は全会一致で連邦軍からの離脱を決断。
コーウェン自身ティターンズの動きを察知したエゥーゴに身の危険を警告されていたので、何かがあったらブレックスを頼れと言い残しており*15、その言葉に従ってロンド・ベルはブレックスと接触、エゥーゴとの共闘路線に入る事になる。*16
…と、負の一面が一切描かれなかった上に彼の死が文字通り物語の「ターニングポイント」*17となっており、扱い自体は大きいと言えるだろう。
そのため、当時の攻略本では「いい人そうに見えるけどGP02を配備したタカ派」とツッコまれていた。まぁルートと選択肢次第ではGP02も自軍側で運用できるけど。

第4次のリメイク作であるFでは失脚こそするもののこちらでは殺されずに復帰してロンド・ベル解散の宣言に関わることが出来た。

一方でαシリーズでは失脚後に出番は無い上に立場が地球軌道艦隊司令→トリントン基地司令、階級が中将→准将へと格下げされており序盤でフェードアウトと不遇な立ち位置となっている。原作時空で准将だったのはαの8年前の一年戦争時代だろ!
まぁ、αの自部隊の後ろ盾となる人物で扱いが悪いのは彼だけではない*18のでそこは安心していい。
っていうかそういう立ち位置は岡長官イゴール長官で十分だったというのも多分ある
ちなみにこのせいで滅多にスパロボに出てこないシナプスが第2次α以降に出てくるのにコーウェンとは共演する事無くαシリーズは終わってしまった。

なお最近は出番がご無沙汰しているせいか、「スパロボ コーウェン」で検索するとこっちが出てくる。
「もし、私の身に何かあった場合、サイド1、ロンデニオンのブレックス准将に会いたまえ。彼なら力になってくれる」「う、うん、そうだねコーウェン君」


【余談】



「ジョン・コーウェン」で検索すると、同姓同名の「ジョン・キッシグ・コーウェン」というアメリカの政治家が出てくる。綴りは違うが。
別に米国の核武装を推進した人ではない。

演じた渡部猛は「凄味のある声で悪役の演技に定評がある」と評され、昭和特撮で何度も怪人役を演じているお方。
スパロボシリーズでも悪役として音声収録が行われた事もある。
今作では主人公目線では間違いなく善人なのだが、下手な怪人よりも甚大な被害をもたらすきっかけを作ってしまった、という現実は皮肉なところである。


「この追記・修正こそ、アニヲタWiki(仮)を変える……」


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最終更新:2025年05月01日 23:16

*1 レアな階級のせいか、ゲームなどでは准将扱いされることもある。

*2 連邦軍の軍服を着ているだけのものであり偽物の身分証や変装すらしていないにもかかわらず、誰も所属や名前すら聞かず、だれにも止められずに核兵器搭載MSのコックピットに入れるほどであり、格納庫に銃を持った警備員を数人配置するだけで簡単に阻止できた。

*3 遭遇してからその状況にするのであれば軌道と速度合わせにお互い大変な手間がかかり、そんなことをできる余裕があるのであればアルビオンに救援を求めているはずである

*4 それどころか実動部隊のアルビオンは、友軍まで攻撃しているため成果があったとは言いづらい。

*5 ガンダムとしてはともかく少将なら後方勤務はなんら珍しくもない

*6 バニングは負傷、トリントン基地所属のベテランパイロットであったディック・アレンは戦死しており、実質的に実戦経験が殆どなく未熟な部分を機体性能で補っていたコウと慣熟訓練自体はスムーズに行えたが同じく実戦経験が乏しいキースしかおらず、MSを動かせる者こそいたが、まともな戦力は殆どいない状態だった

*7 そのモーリスの発言もあって、当時の連邦は本拠地等の守りに執心していた、という解釈の方が普通である。

*8 「前線でラブロマンスか。ガルマ『らしい』よ、おぼっちゃん」の発音。

*9 自分のポカとはいえコーウェン自身は己の名誉よりも多くの人命が失われることを憂慮する発言を行っており、それをシナプスに語る口調も焦るようなそれではなかった。

*10 ミラーの展開自体は早いが、その多数のミラーを生産するのは時間を要する。ミラーを管理するコントロール艦も作らねばならない。ミラーやコントロール艦も初代とはまるで違う最新型であるため、一年戦争中の工場を再稼働させたものでもない。

*11 実際シーマはソーラ・システムの投入を知っていた。

*12 コーウェンはレビルの後継者ともいわれる。しかし、三年前の「内通者」エルラン中将もレビルの部下だったので、それらをひっくるめて評価された結果、つんぼ桟敷に置かれたのかもしれない。

*13 リック・ディアスはそれ以上にドムやゲルググの技術が使われているためニ号機の直系とは言えないが。どちらかというと「ニ号機の一部技術を使ったドム(ゲルググ)の後継機」という方が近い。

*14 半ば無理やり撃たせたザク系→冷却装備を外付けして安定させたAHA→戦略核クラスまで火力を上げた2号機、という系譜になる。

*15 ちなみに実はブレックスこそがエゥーゴの指導者である事は一切伝えていない。その意向は(そこそこ美人なオリキャラの)秘書を介してボイスメッセージという形で残しており、三輪長官に聞かれる可能性も有り得たので妥当な判断ではある。

*16 原作とは違い、エゥーゴとロンド・ベルは、ロンド・ベルの元メンバーにあたるクワトロやデュークが参加していたという立ち位置で原作とは因果関係がかなり異なる。

*17 コーウェンが消息を絶ってロンド・ベルが連邦軍を離脱するシナリオのタイトル。

*18 ブレックスやオイ・ニュングも序盤でフェードアウトして以後出番なしである。