青春18きっぷ

登録日:2020/12/06 Sun 18:10:21
更新日:2025/03/18 Tue 09:54:38
所要時間:約 35分で読めます






青春18きっぷとは、JR旅客鉄道6社(JR北海道JR東日本JR東海JR西日本JR四国JR九州)が共同で発売している特別企画乗車券である。

略称は「18きっぷ」。


【概要】

特定の期間のみ「JR旅客6社の全路線の普通列車が1日乗り放題」を1枚で5回利用可能な乗車券である。
現在JRが発売している誰でも入手可能な特別企画乗車券*1の中で最も通用範囲が広く知名度も高い商品。聖地巡礼や遠方のイベントに行く際にお世話になったアニヲタ民もいるのではないだろうか。

発売開始は国鉄時代の1982年より。名前は旅客局局長を務めていた須田寛(後のJR東海初代社長 現・相談役)が青少年・学生をイメージした「青春」とその象徴とも言える年齢で末広がりにも通じる「18」を組み合わせて名付けられた。
そのため時折若者向けと勘違いされがちだが、年齢制限等はなく、誰でも利用可能。ただし子供用はなく、小学生でも大人用と同じものを購入することになる。

なお、以下の解説では各種利用条件は2020年冬季のものを、ダイヤは2023年3月改正のものを使用する。

【切符の解説】

利用条件

学生の春季・夏季・冬期休暇に合わせる形で3月上旬~4月上旬、7月下旬~9月上旬、12月中旬~1月上旬に利用可能。詳細な日程は毎回微妙に変わるためJRのHPを参照のこと。
なお、発売期間は利用期間と若干ズレており、春季分は2月下旬~3月末日、夏季分は7月初日~8月末日、冬季は12月初日~12月末日が発売期間となる。そのため、例えば1月に入ってから急に使おうと思っても駅では購入できないので注意。

購入は発売期間中にみどりの窓口の他、指定席が発行できる多機能タイプの券売機があればそれでも購入可能。また、JTBをはじめJR券を取り扱っている旅行会社でも購入可能だが、この場合は発行手数料がかかる場合があるのでよく確認のこと。

価格は5回分で12,050円(2020年12月現在)。
発売当初は1日分×5枚のセット形式で販売されていたが、1996年3月以降の販売分は券面が5回分まとまったタイプに変更された。
変更の理由は明らかにされていないが、一説にはバラ売り券を金券ショップに流されるのを防止するためとも言われている。
また、余った場合でもその18きっぷの利用期間が終了してしまうと無効となってしまう。なので、夏に余ったからと次の冬に使いまわす、というようなことはできない。

なお、金券ショップやオークションサイトで余った18きっぷが購入できることもあるが、基本定価より高価になるうえに取扱数は少なく、さらにトラブルに発展する恐れもあるため利用は慎重に。

使用方法、有効期間

利用開始当日、最初に改札を通る際に駅員に1回分の日付印を押してもらうことで、その日の終わりまで有効になる。2回目以降は改札口で駅員に日付印を提示することで通ることができる。きっぷのサイズが大きいため自動改札は使用できない(そもそも乗降する駅に自動改札が無いことも有り得る)。

なお、一発目が無人駅の場合や、有人駅でも改札に係員がいないなどで日付印を押してもらえない場合、車内で車掌、ワンマン運転の場合は運転士に日付印やサインなどを入れてもらう。

1回ごとの有効期間は日付印の0:00まで(終電までではない)。もし列車が0:00をまたぐ場合、0:00を過ぎた後の最初の停車駅まで利用可能で、その先まで乗車する場合、0:00を過ぎた最初の停車駅からの運賃を精算するか、18きっぷの余りがある場合翌日分の日付印を入れてもらうのでも可。

○例
1.
4/1の日付印で
大府~(4/1 23:37発 普通大垣行き、名古屋4/1 23:59着 4/2 0:02発)~大垣
→この列車は名古屋駅停車中に日付をまたぐため、以降18きっぷを使わない場合名古屋-大垣の運賃を精算することになる。

2.
1/1の日付印で
高松~(1/1 23:29発 快速マリンライナー72号岡山行き、児島1/2 0:09発)~岡山
→この列車は坂出-宇多津-児島走行中に日付をまたぐため、0:00を過ぎて最初の停車駅の児島以遠である児島-岡山の運賃を精算することになる。


ただし例外として、東京・大阪地区に存在する「電車特定区間」は0:00を過ぎてもその日の終電まで有効。
※電車特定区間についてはJRのHPを参照。

○例
1.
8/1の日付印で
千葉~(8/1 23:50発 快速東京行き、津田沼8/2 0:01発)~東京
→この列車は稲毛-津田沼で日付をまたぐが、当該区間は電車特定区間なので東京まで利用可能。

2.
9/1の日付印で
天王寺~(9/2 0:19発 普通大阪行き)~大阪
→この列車は乗車時点で日付をまたいだ後だが、当該区間は電車特定区間なのでそのまま利用可能。

3.
8/15の日付印で
大阪~(8/15 23:34発 快速姫路行き、三ノ宮8/16 0:03発)~魚住
→この列車は日付をまたぐのは六甲道-三ノ宮だが、西明石までは電車特定区間なので西明石-魚住の運賃を精算すればよい。

4.
12/25の日付印で
蘇我~(12/26 0:20発 普通新習志野行き)~新習志野
→この場合、千葉みなと-新習志野が電車特定区間内で前日の日付印でも有効なので、蘇我-千葉みなとの乗車券を用意すればよい。



※複数人で利用するときは?
複数人で1枚の18きっぷを利用する場合は、日付印を改札で人数分入れてもらったうえで、全員で同一行程をとる必要がある。

この「同一行程」というのは、同じ列車に乗車し、改札の出入りも全員同時に行うことを指す。なので、同じ18きっぷをシェアしているグループのうち一人だけが買い物のために改札を出る、とか、一人だけを残して他のメンバーは次の目的地に先回りする、などということは不可。

○例
森田くんが東京駅で、南田くんが新橋駅で、六角くんが品川駅で乗車し、熱海まで旅行する場合
→この場合、まず森田くんは東京駅で1回目の日付印を押してもらう。その後、新橋駅で改札を出て南田くんと合流し、新橋駅で2回目の日付印を押してもらう。そして2人で品川駅に行って改札を出て六角くんと合流し、品川駅で3回目の日付印を押してもらう。その後は3人が全員で同じ行程を取ればよい。帰りは品川駅で改札を出て六角くん解散、新橋駅で改札を出て南田くん解散、とすればよい。


有効区間、列車

JRの在来線全路線において普通列車が利用可能。また、鉄道路線から転換したJR運営のBRT(気仙沼線・大船渡線日田彦山線)や、JR西日本が運航する宮島フェリーも乗車可能。

なお、普通車指定席に関しては指定券を購入すれば利用可能。「普通列車に指定席?」と思う方もいるかもしれないが、一部地域には都市間輸送や空港アクセスなどの観点から指定席が連結されている列車や全車指定席の快速として運転されている観光列車などがある。全国各地では蒸気機関車の動態保存を兼ねて蒸気機関車牽引の観光列車が運転されているが、これもJRで運転されているものに関しては現状全列車が快速なので18きっぷ+指定券で乗車できる。
また、正確には指定席ではないが、北海道や東海地区の一部に運行されている座席定員制のライナーは制度上普通列車となるため、対応する乗車整理券を購入すれば利用可能である。

グリーン車に関しては自由席であればグリーン券を購入すれば利用可能。「普通列車にグリーン車?しかも自由席?」と思う方もいるかもしれないが、東京近郊で比較的長距離を走る路線には国鉄時代からグリーン車自由席があり、これが現在でも引き継がれている。また、一部地域では特急型車両が普通列車として運行される際にグリーン車自由席が営業される場合があるがこれもグリーン券を購入すれば利用可能。

注意点として、特急列車には「18きっぷ+特急券」では乗車できず、特急列車に乗車したい場合は乗車券も購入する必要がある。また、この規定のせいで特急列車しか走行列車がない博多南線、また季節運行の上越線ガーラ湯沢支線は路線ごと利用不可になっている。また、普通列車でもグリーン車指定席は「18きっぷ+グリーン券」では乗車不可である。

また、JRではない路線は利用不可能。
一見当然だがこれが曲者となる場所があり、傍からはJRに見えるがJRでない区間、逆にJRに見えないがJRである区間、JRが運行主体の列車がJR以外に直通する区間、逆にJR以外が運行主体の列車がJRに直通する区間などが存在する。



ただし、この乗車可能列車にはごく一部に例外がある。



【利点と欠点】

利点

1.有効範囲の広さ
なんといってもJRの普通列車でさえあればどの路線でも利用できるというシンプルかつ高い利便性が強みである。
もちろんJR各社では地域や期間を区切って様々なタイプの企画乗車券を出しているが、中には「2人以上でないと使用不可」「そもそも地域限定でしか販売していない」「エリアが狭い」などの制限があるものも少なくなく、「ぼっちじゃ無理だろ!」「ウチの近所で発売してたらよかったのに!」「行きたいところが絶妙にエリア外!」などの事態が発生することがままある。

対して18きっぷの場合、通用区間はJRが通ってさえいれば文字通り全国であり、年齢制限や人数制限なども存在しない。そのため、自分の環境に合わせて柔軟に対応できるのである。


2.価格の安さ
5回分で12,050円ということは、1回分で頭割りすると2,410円となる。

この場合、元がとれる距離は、往復の場合
  • 本州3社の幹線→71km以上
  • 本州3社の地方交通線→65km以上
  • JR北海道管内の幹線→51km以上
  • JR北海道管内の地方交通線→47km以上
  • JR四国、JR九州管内→(換算キロベースで)61km以上

という計算になる。具体的に言うと、札幌からだと光珠内、塩谷、植苗など、仙台からだと東福島、石越など、東京からだと二宮や間々田、籠原など、名古屋からだと醒ヶ井、豊橋、美乃坂本など、大阪からだと加古川、野洲、和歌山など、高松からだと豊浜、板東など、博多からだと渡瀬、久保田、戸畑などまでとなる。
意外と近いと思う人も多いのではないだろうか?ちょっとした休みのお出かけレベルでも元が取れる計算となる。

また、複雑な経路で旅行する場合、「乗り降り自由」という部分が効いてくる。JRのきっぷは一筆書きでなかった場合、基本的にその場で運賃が通しでなくなる。さらに途中下車制度も微妙な制限があったりして、使えなかった場合降りたら即運賃が通しでなくなる。となると、実際にはそんなに距離を移動しないのに、運賃の再計算がかさんで結果的に高いということもある。
しかし、18きっぷであればそのような複雑なことを考えずとも日付印を見せるだけで自由に乗降できる。これは通常のきっぷにはない利点である。

さらに、やろうと思えば東京から広島、仙台から名古屋、博多から大阪などの、常識的に考えれば新幹線やコトによれば飛行機すらも視野に入ってくるような区間でも1日2410円で移動できるという理論になる。鉄道での格安旅行では基本的に18きっぷが候補に入るだろう。

……これを1番に挙げなかった理由は後述。


欠点

1.時間がかかる
普通列車だけしか使えないため、当然ながら特急や新幹線よりも時間は圧倒的にかかる。昨今は在来線特急と普通列車だと最高速度がたいして変わらないこともあるが、それでも普通列車は停車駅が多いからその分時間がかかるし、乗り換えや待避など特急には存在しない時間を食う要素があったりもする。

東京-新大阪の場合、標準的な日中の「のぞみ」では2時間30分、さらに運転時分が短いダイヤも存在する。また、この区間では「こだま」利用の安価な旅行商品が存在するが、それでも4時間を少し切るくらいの時間で移動できる。

対して、普通列車の場合東京を5:20の始発で出たとしても新大阪着は14:02で実に9時間。東京を11:30に発車した「のぞみ」すら新大阪に14:00と先着してしまうほどである。
しかも、これは普通列車でも非常に条件がいい区間の話であり、区間によっては新幹線よりもさらに所用時間の差が拡大する。

つまり、せっかちな人、先を急ぎたい人にとっては長い移動時間がかなりのストレスになることが予想される。さらに、長時間乗車になってくると下の問題も発生する。

2.快適性が低い
皆さんの日々の通勤通学時間はどれくらいだろうか?総務省の「社会生活基本調査」によると、だいたい40分ぐらいが通勤時間の平均らしい。もちろん人によってはこれよりも短いだろうし、長いという人でも60分から90分ぐらいで、120分を越えてくる人は相当レアではないだろうか。

普通列車というのは、こうした日常の通勤通学やその他近場への移動を主な利用者として想定しており、5時間も6時間も続けて乗ることは基本的に想定されていない。

例えば、特急列車や新幹線であれば長距離乗車のために座りやすいリクライニングシートを置き、椅子にはテーブルも備え付け、静粛性は高く…というのが一般的だろう。だが普通列車の場合そんな快適性のための至れり尽くせりの設備は存在しない。言うなればいつもの通勤列車に何時間も揺られることになるため、列車に乗り慣れていないと相当の疲労が見込まれることになる。

時折18きっぷ系の書籍で「ローカル線にまでロングシートを使うのはいかがなものか」的文章を見かけるが、上述の条件で乗る奴がある意味異常なのであって、そんなことを書籍で堂々と主張するライターのほうがいかがなものかと言いたい。

さらに言えば、普通列車は座れるとは限らない。都市圏のラッシュにぶち当たってしまえば満員電車だし、そうでなくともある程度の都市だと中心部は日中でも利用客がいる。それに、18きっぷは利用者が多いため、シーズン中は普段は乗客が大量に押し寄せることなど想定していない区間に18きっぷ利用者が集中することもある*2。上と相反することを言うようだが、中には長距離乗車の快適性を追求するあまり都心部での立ちの乗車に向いていない車両もあるので、そのような車両で立たされると余計に疲労が増すことも…。

長時間乗車になる場合は自分の体力との綿密な打ち合わせが必要である。

3.総合的に安くないかもしれない
18きっぷというのは確かにきっぷそのものは非常に安いのだが、そのほかの部分で時間やお金を消費してしまう恐れがある。

例えば、東京から博多に移動しようとした場合、普通列車だけでは行けても平日ダイヤでは厚狭まで。休日ダイヤだと新山口どまりになってしまう。始発駅を東京から品川に変えたところで小倉までしか行けない。となると、一旦ホテルなどに宿泊して翌日に博多まで向かうことになる。

これが曲者で、ホテル宿泊となるとどうあがいても5000円前後の出費は避けられない。24時間営業のネットカフェに宿泊するという人も多いが確実ではないし、野宿は危険を伴う。それなら、キング・オブ・深夜バス「はかた号」なら高い時期の正規運賃でも15,000円前後であり、そちらを使用した方がまだマシということにもなりかねない。さらに、JRが通っていない地域が目的地なのであればその部分に関しては18きっぷが使えないため、それなら最初から18きっぷ以外の手段を使った方が確実かもしれない。

また、忘れてはいけないのが5回分買わなければならないこと。「2回分しか必要じゃない!しかも余りを使ったり売ったりする当てもない!」となった場合、1回分の頭割りだと6025円という計算になる。これだと一気に価格面の優位性が消滅する(熱海-米原の片道利用でようやく25円得になるレベル)。

本当に安く上げるためには、自分の条件との照らし合わせが必要となる。

4.18きっぷだけでは移動が困難な場所がある
特に山がちな地域に住んでいる人だと、「隣の地域のことなんて全く分からない」という人もいるのではないだろうか?

しつこいようだが普通列車というのは日常利用のためのものである。がしかし、裏を言えば日常利用の人がいなければそもそも普通列車は走っていないということとになる。

それが元々人口の少ない地域を走る路線というならばまだ諦めもつくが、世の中には「特急は都市間輸送や観光輸送のために何本も走っている。しかしその区間は日常の流動が少ないため普通列車は全然ない」という区間が数多くあり、18きっぷ旅行の場合それが「難所」として立ちはだかることがある。

上手く限られた普通列車に時間を合わせられない場合特急列車でその区間をパスするのが定石だが、忘れてはならないのが18きっぷの場合乗車券も買い直す必要があること。これがかさむと結果として安くなくなる場合があるので注意が必要である。


5.輸送障害に対する補償が一切ない
3.や4.にも関連する欠点である。
いくら安全性や定時性に極めて優れる日本の鉄道網と言えど、事故や車両不具合などといった理由による遅延・運休というものは残念ながら日本全国どこかで何かしら起きているものである。18きっぷの利用期間を考えると、梅雨や台風(夏季)・雪(冬季/春季)といった天候的な理由で輸送障害が発生することも少なくない。

この場合の乗車券等に関する取扱いというのは旅客営業規則に定められており、例えば「乗車列車が2時間以上遅延した場合に運賃料金の払い戻しを受けられる」や「輸送障害で運行不能な際は他路線(場合によっては他社路線)での振替輸送措置を受けられる」などといったありがちなケースというのは全て当該規則に根拠がある。

が、これは普通乗車券や定期乗車券などといった通常の乗車券に対するルールで、青春18きっぷも含む特別企画乗車券には独自の規則が定められている。
そしてざっくり結論だけ言えば、18きっぷはいかなる理由があっても(重要)払い戻しや振替輸送などといったあらゆる補償を原則として受けられない

元々がフリー乗車券であることから、都市部のJR線であれば別の路線から迂回することで時間のロスはあれど回避することはできるだろう*5が、問題はそういった手段が使えない地方路線。
新幹線や並行他社線を使えるならまだマシな方で、下手をするとロクな代替手段も存在しない陸の孤島で立ち往生という最悪の状況すら起こり得るのである。こうなると最早安く旅をするとか以前の問題。

上記は言わば「極まった」ケースであるが、「短時間乗り換えなどを前提の無茶な旅程を組んだ結果、乗っていた列車が遅延したがために接続すべき列車に乗り遅れた」ということは十分に起き得る話。当然、長距離の旅程であればあるほど何らかのトラブルに遭遇する危険性は増していく。

1日をフルに使う旅程を組むと些細なトラブルで総崩れともなりかねないため、ある程度のマージンをあらかじめ確保しておき、ゆとりのある旅を心がけよう。

【18きっぷに向いている人】

まず何といっても一日中列車に乗っていたい鉄道ファンには最適である。とにかく列車に乗りたいという人にとっては、お金のことをあまり気にすることなく好きな列車に乗り放題というのは何にも代えがたい。

知らないところやあまり有名でないところにとにかく行ってみたい、という人もいい。普通列車、特に遠い地域の列車に延々と揺られて車窓を眺めたり、場所が変わればそれぞれに個性がある列車を色々と乗り継いだり、知らない駅で途中下車してみたりしていると、きっぷの名前に「青春」とつくだけのことはある、と思えそうである。

また、「安ければ不便でも全然OK」というタイプであれば、このきっぷでの格安旅行も十分可能。実際、繁忙期に格安で移動できる手段というのは限られていて、格安旅行の代名詞と言っていい高速バスも繁忙期には軒並み高騰し、たまにある格安は争奪戦というのが相場である。そんな中で18きっぷは繁忙期に利用可能な数少ない商品かつ実質価格がかなり安く、遠方であればあるほどそのメリットは大きくなる。中には「そもそも安くに移動しようとすると18きっぷしかねえ!」みたいな地域も存在し、そのような地域の人にとっては18きっぷは心強い存在である。

それと、そもそも普通列車しか存在しないような地域の場合「特急に乗れない」というデメリットは消滅するのにも要注目。

飛行機を使って長距離移動する際にも使える。東京と大阪の二大都市の近郊にはそれぞれLCCの発着が多い東京(成田)・関西空港が存在しており直結するJRの駅がある。
特に有効なのは東京駅から成田空港に行き、飛行機に乗って新千歳空港を経由して札幌駅に行く場合。正規運賃よりも安く済むのでこれだけで元が取れる。
関西の場合は大阪やJR難波・天王寺からだと微妙に元が取れない(三宮や京都等から使う場合は大丈夫)。大阪市内からでも札幌に着いた後に小樽に行くとかすれば問題無いが。
JRの駅は無いが比較的駅から近い仙台空港や小松空港、北九州空港、福岡空港、長崎空港などを利用する場合も検討できるだろう。

逆に、長い移動時間や待ち時間、乗り換えが苦痛だという人にはこのきっぷは向いていない。また、「電車の旅と言ったら快適な車内と美しい車窓と美味しい駅弁と絶品の地酒が必須だよね」みたいな人も残念ながら向いていないだろう。何回でも言うが普通列車は日常利用のためのものであって「観光客のために至れり尽くせりのおもてなし」などしてくれないし、車内での飲食や飲酒などは周囲に迷惑をかけるおそれもある。旅行となると途端に羽目を外してしまうような人ではなおさら。
特に新幹線や特急が近くにあると、「みんな特急で快適に移動しているのに、なぜ自分だけ遅くて乗り心地の悪い鈍行で…」という精神状態になってしまう人も少なくない。安さだけに飛びついても、時間がかかることや決して優雅で快適とは言い難い道中にイライラしてしまってはせっかくの休日のクオリティは下がるばかりで、コトによっては「鉄道旅行」そのものに対して悪印象しかなくなった、という事態にもなりかねないのだ。

また、普通列車の旅は正直体力や時間を消耗するため、「やっと1日だけ取れた休日で…」とか「旅先でやりたいことがいっぱいあるんだけど…」というような旅行では本当に18きっぷが適切なのか要検討である。

いずれにしても、18きっぷの旅を楽しむためには、自分の旅の目的とそれに合った計画が必要である。何にしても「自分で旅行の計画を立てられる」というのが18きっぷ旅行に際して先立つものであろう。


【具体例】

さて、ここまでお題目を大量に並べ立てていたがそれでは面白くないので、実例を紹介して机上旅行をしてみよう。

ここでは、東京駅から大阪駅まで普通列車のみで移動する…というのはあらゆるサイトでやりつくされているし、本当の意味で東京駅から乗って大阪駅で降りる、という旅行は限られているだろうからもっと具体的かつアニヲタっぽく…上野芝駅周辺に在住の大学生が『とある』シリーズの聖地巡礼で立川まで行く、というのをやってみよう。条件はこうだ。

  • 出発日は平日。
  • 使うのは「青春18きっぷ」だけで、他の交通手段は一切使わない。
  • 朝は無理なく7~8時頃発の列車に乗りたい。
  • 11時~13時ぐらいのどこかで1時間ぐらい飯の時間にしたい。
  • 到着した当日は何もしないから到着は夜になっても大丈夫。

というわけで、組んでみたのが以下のスケジュールである。

上野芝 7:16発 普通天王寺行き
三国ヶ丘 7:23発 直通快速天王寺行き
大阪 8:12発 快速米原行き
米原 10:30発 普通大垣行き
大垣 11:11発 新快速豊橋行き
豊橋 12:39着
豊橋 13:42発 普通浜松行き
浜松 14:27発 普通興津行き
静岡 16:03発 普通熱海行き
熱海 17:30発 普通高崎行き
川崎 19:20発 普通立川行き
立川 20:19着

以下、このスケジュールのポイントを挙げる。

  • 米原
東海道本線の大垣-米原は前後の区間に比して乗客の数が少ないため、列車本数も30分に1本の普通列車のみとなる。普段はそれでいいのだが、「18きっぷ」期間中の場合、この30分に1本の普通列車に同じ18きっぷ利用者が集中することになる。特に接続がよすぎる場合、その前後の区間でも同じ列車に人が集中しているため、結果的に急に利用客が少なくなる区間に入る乗り継ぎ駅で大混雑してしまいやすい。人が多いと座席の確保は困難だし、そもそも乗り換え時間が短いと予定通りの乗り換えも怪しくなる。
今回の場合、あえて接続のよすぎる新快速ではなく、道中に追い越され米原でも接続にやや時間がある快速で米原にアプローチする形にしてみた。この区間の快速列車にはあまり利用が集中しないため、余裕を持って乗り換えができる。

  • 豊橋
何度目か分からないが普通列車というのは日常利用のためのものであり、基本的に車内で駅弁を広げなければならないほどの長距離乗車は想定していないしそのための設備もない。クロスシートであれば問題ないが、ロングシートであれば車内で駅弁を食べるのは困難を極める。もちろんかなり無理をすれば車内で食事をすることが不可能ではない場合もあるが、それでも臭いが広がったり車内を汚したりする恐れがあるものを食べるのはマナー的に好ましくない。
長距離移動の際に食事が必要な場合はどこかで休憩をとるのが賢明である。乗り継ぎが悪い部分があれば強制的に休憩を取れるかもしれないが、なまじ乗り継ぎがいいとどんどん次の列車に乗れてしまうため、意図的に休憩を取らないと強行軍になりがちである。
休憩の際は事前に購入するか、可能な限り大きい駅を選ぶようにしよう。今回は東海道本線がメインのためあまり問題にはならないが、特に地方だと、駅が「車で乗り付けて特急に乗り換えるだけの場所」と化していて、主要駅に見えたのに駅前にはコンビニの一軒もない…という事態もしょっちゅう発生するので注意。幸い豊橋は駅ビルがあるし、駅周辺も繁華街であるため、食事の確保には困らないはずだ。

  • 静岡
静岡について土地勘のある人は「あれっ、途中の興津行きって興津まで乗るんじゃないの?」と思った人もいるはずだ。結論から言うとこのスケジュールでは静岡で乗り換えるべきである。
何故かというと、静岡で乗り換えても、興津で乗り換えても、結局乗り換えた先は同じ列車になってしまうのである。この場合、途中駅の興津からでは座れないかもしれないのだ。
このように、列車の運行形態によっては乗り換え先の列車の始発駅で降りた方がよい場合もある。今回の場合静岡なので分かりやすいが、静岡地区の場合下りは興津、上りは島田で乗り換えるというケースも発生する。可能であれば時刻表を見て確認しよう。

  • 川崎
このスケジュールだと川崎着は18:50で、帰宅ラッシュのピーク時間帯にぶつかってしまう。こうなってしまうと、到着後すぐの列車では座るどころか普通に乗車するのもちょっと大変である。このようにラッシュのピークにあたってしまう場合、ある程度列車を見送ってでも余裕を持って乗れる列車を見極めた方がよい。
幸いにも川崎は関東屈指の大都市で駅周辺の店舗の数も非常に充実している為、ここで夕食を取ってラッシュを避けるのもありだろう。
乗り換え先の南武線は東京近郊の通勤路線のため本数の心配は全く不要であり、川崎は始発駅のため列の前の方に並んでいればほぼ座れる。またここまで来れば目的地まではあと1本というところのため時間的にはかなりの余裕があるはずだ。


【類似商品】

青春18きっぷの他にも、普通列車利用を条件に安く利用できるフリーきっぷがいくつか存在する。ここではその中でも18きっぷに近い性質を持つきっぷについて紹介する。

◇秋の乗り放題パス
青春18きっぷの秋季バージョンとでも言うべき商品。異なる点は主に3つあり、有効期間が「連続した3日間」であること、複数人でシェアできないこと、小児用設定があること。利用期間が10月のうちのおおよそ半分だけと18きっぷに輪をかけて短い上に、実質価格が1日あたり200円少々高い。以上の理由から18きっぷと比べてしまうと利便性は低く感じられるが、秋に普通列車の旅をしに行きたいという方はぜひ。

◇北海道&東日本パス
青春18きっぷのJR北海道&JR東日本バージョンとでも言うべき商品。通称「北東パス」。
利用可能期間は基本的に青春18きっぷと同時期であるが、18きっぷと比べてやや期間が長いことが多い。
大きく異なる点としては、JRではJR北海道とJR東日本の区間でしか有効でない代わり、北越急行・IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道が全面利用可能いうことと、有効期間が「連続した7日間」でないとならないということ。子ども料金の設定があること。そして、北海道新幹線に関しては線内のみの利用であれば「北東パス+特定特急券」で全面的に利用可能ということである。
なお急行列車については対応する料金を支払えば全面利用可能だが、「はまなす」が現役だった時代ならともかく現在JRでは定期急行列車が運転されていないためあまり意味はない…。

価格は11330円で、7日で頭割りにすると1618円と端数。5日間だけ使用するとしても日割りで2266円となりここで18きっぷより安くなる。つまり、有効区間内のみの利用かつ、5日以上使う当てがあるのであれば18きっぷよりお得といえる。

なお、2018年度分より「北海道&東日本パス北海道線特急オプション券」が発売されている。これは大人6000円で北東パスと同時使用することにより北海道新幹線の普通車指定席の空席とJR北海道管内の在来線特急の普通車自由席が乗り放題になるというもの。ただし、JR北海道で独自に設定している繁忙期と被ってしまう場合は使用できない。

◇旅名人の九州満喫きっぷ
青春18きっぷの九州バージョンとでも言うべき商品。通称「旅名人」。
まず、このきっぷは「発売期間は通年。発売日から3ヶ月間のうちの3日分有効」。有料特急に使えない制約は18きっぷと同様である。
そしてこのきっぷ最大のポイントは、「九州島内に存在する鉄道会社で全面的に利用可能」ということである。
九州限定の代わり、九州の鉄道でさえあれば利用可能*6という威力は絶大であり、青春18きっぷでは行くことが不可能な太宰府や平戸、島原などにも行けるし、福岡では地下鉄、長崎や熊本、鹿児島などであれば街歩きに便利な路面電車も全面利用可能である。
販売価格を3(有効日数)で割るとニアリーイコール3,667円となり18きっぷの1日あたり単価より1,200円以上高いが、JR以外にも有効であることや通年発売(年末年始やお盆などのピークシーズンも可)であることのメリットは大きく、十分に比較検討の対象となりうる。
なお、九州以外のJR駅や旅行代理店で買うことはできず、JR九州ホームページからの購入申し込みもできない。
……と、これまではある程度人気があったが、2025年4月以降は1日あたり単価が4,000円に上がるうえに長崎電気軌道が適用除外になるため、ズバ抜けて優位とも言えない状況になった。

なお、日付またぎの扱いはJRとそれ以外で異なり、JRでは18きっぷと同じく日付をまたいで最初の停車駅まで有効、それ以外の鉄道会社では終電まで有効となる。
西日本鉄道や島原鉄道では特急や急行を独自に運行しているが、これらに関してはJRのものと異なり料金不要のため利用は問題なく可能。

はじめての追記・修正を、人は一生、忘れない。
(※元ネタは2013年夏季分の宣伝ポスターのコピー)

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最終更新:2025年03月18日 09:54

*1 特定の条件付きであるなら外国人旅行者向けの「Japan Rail Pass」の方が広い。

*2 例を挙げると、東海道本線下り列車では熱海駅で15両編成から3両編成の列車に乗り換えということがある。上り列車では米原駅で12両編成の新快速から4両編成の普通に乗り換えということがある。

*3 極端な例だが、海崎駅から宗太郎駅を乗車券上の最短距離で移動する場合、始発で出発しても到着するのは翌朝の6:54。わずか35kmの市内移動のために終電をまたぐ必要がある。

*4 JR在来線で南九州へ移動するルートは肥薩線もあるが、2020年7月の豪雨災害で不通となっている。不通でなかったとしても、県境越えの人吉-吉松間が1日3往復の普通列車のみで特急列車への代替もできないため、ヘタするとこちらよりも難所になるかもしれない。

*5 当然ながら他社線に乗るためには当該区間の乗車券が別途必要

*6 ただし、運営者がJR西日本である山陽新幹線と博多南線には使えない。