荼毘(僕のヒーローアカデミア)

登録日:2021/01/28 Thu 20:18:50
更新日:2025/03/03 Mon 08:28:03
所要時間:約 10 分で読めます




付せろ ゴミなら燃えて俺の薪となれ


荼毘(だび)漫画僕のヒーローアカデミア』のヴィラン。


性格:つかめない
誕生日:1月18日
身長:176cm
好きなもの:不明

概要

黒いコートに黒ズボン、白いシャツを着こんでるなど随分シンプルな格好をしたツギハギだらけで黒髪の青年。
まるで皮膚を失ったかのように筋線維が覗かせている顔や、連合に加入した後からは腕のリング*1などが特徴。

開闢行動隊ではリーダーを務め、敵組織『敵連合』に所属する他のメンバーの本名が明かされている中、彼だけは「明かすべき時になったら明かす」とメンバーにすら明かしていない。

冷静沈着、というよりも冷めたような態度が目立ち、基本的に声を荒げたりする様子がない。
シニカルで誰に対しても皮肉をいい、自身の個性で涙腺も焼いてしまったために泣くことが出来ないと語る。

しかし、人を焼き殺すことに関して現在は全く躊躇いは無いなどヴィランらしくイカれてた内面を持っている。

初対面の死柄木弔を「気色悪い」と称したり、トガを終始「イカレ野郎」と呼ぶなど非常に口が悪いため、連合の面々とは折り合いが悪いようにも見えるが、
「リーダー」と呼んで死柄木の指示に従う他、トゥワイスに対しては何と気に掛ける描写がある。
異能解放軍との戦闘の際は11万以上との乱闘中にもかかわらず、周りのメンバーの様子をしっかり見ているなど案外仲間達との連携やコミュニケーションを取れてはいるようだ。

ステインの信奉者で、「ヒーロー殺しの意志は俺が引き継ぐ」と称していることから今の社会を壊すつもりでいるらしい。

死柄木が目指す「全ての破壊」とは別の目的があるらしく、自身の目的のためには死柄木も連合もどうでもよいと語るなど、あくまで連合については利用しているだけのようだ。

総じて連合の中では仲間想いとは言い難い人物ではあるが、連合の面々もそんな彼の性格は承知しており、また荼毘も仕方なくとは言え助けたりもするので結局は互いにフォローを入れ合っている。
そもそも荼毘は自分の思想に合わない連中はその場で容赦なく焼き殺すような男なので、逆に自身が連合メンバーをそうしないところを見るからに(利用価値があった点を鑑みても)多少は仲間意識もあるのかもしれない。
また消極的な態度こそ目立つが、他のメンバーがダラけている中一人仲間集めに注力していたり、無理矢理招聘された上で勝ち目の見えない異能解放軍との戦いにも身を投じたり、挙句解放軍をなるべく殺さないように立ち回るという無茶苦茶な指示*2にも一応従ったりするなど任務自体は真面目に実行している。

作中ではMr.コンプレスと何かとセットになっている描写が多い。
何かと自由気ままに動きがちな荼毘をコンプレスがフォローしているという関係性だが、対する荼毘もコンプレスのことを「Mr.」と敬称で呼んだり、彼の言葉には割と耳を傾けて指示に従うこともあったりと意外といいコンビのようにも見受けられる。


因みに魚が嫌いらしく、寿司が提供された時には一つも手を付けなかった。


個性:『蒼炎』

蒼い炎を体中から出すことのできる個性。
作中では主に掌から撃ち出すようにして発射する。

その火力と範囲は凄まじく、複数の人間を一瞬で焼死体に変えることなど造作もない。
地上最強の炎を操るエンデヴァー相手でも、最高火力技には遠く及ばないものの、彼の奥義・赫灼熱拳も一部の技は相殺出来る程であることからして、炎系統の個性としては世界有数と言って良い。
そのため、あらゆる作戦ではメインウェポンとして連合の面々に頼りにされている。
しかし、負担が大きいのか連発が出来ず、長期戦も苦手。戦闘が長引くと顔から出血したり、体中が焼けて焦げ臭くなり、これが危険信号となる。
また、足の裏からも炎を出すことが出来、これによって少しの間だけ宙に浮くことも可能な描写が見られた。
一方で個性に依らない体術・近接戦闘能力は、トップランクヒーローと比べると大分見劣りする。



来歴

初登場は林間合宿襲撃編の少し手前。
義爛の紹介でトガと共に敵連合に紹介されることとなった。
この時、死柄木のことを面と向かって「気色悪い」と思い切り罵倒したため当時は短気だった死柄木の反感を買うことになり、すぐさま殺し合いにもつれ込みそうになる。
死柄木の癇癪癖に呆れつつも、まだ敵連合に利用価値があると見出したのかその場から立ち去ることはせずにとりあえずは静観。
その後、緑谷出久との対話を経て悪のカリスマとして成長を遂げた死柄木が態度を一変させたことで敵連合として迎え入れられる。
襲い掛かってきた癖にその後リーダーぶっている死柄木に対しては悪態をついてはいたものの、連合の一員として最初の任務に臨む。

次の登場は林間合宿編。
冷静な態度を買われたのか、「開闢行動隊」のリーダーに抜擢される。
林間合宿中の雄英生徒を襲撃した際は冷静に状況を分析した上でメンバーに指示を与え続け、自身は炎とマスタードの「ガス」と合わせて生徒たちの攪乱を担当。
トゥワイスに作らせた自身の分身は教師陣に襲撃しての足止めを担当したりなど八面六臂の活躍を見せ、結果最終目標である爆豪誘拐を成し遂げて見せた。
なお、轟焦凍と対峙した時は「哀しいなあ 轟焦凍」とどことなく意味深な台詞を吐いており……。

爆豪を奪還するオールマイトらプロヒーローたちとの戦いでは、シンリンカムイの拘束を炎で燃やそうとするもグラントリノの延髄斬りでKOされ、オール・フォー・ワンの介入によって脱出するまでの間は気絶していた。

その後は新たな連合のメンバーを探すべく各地のヴィランと接触していたが、そのどれもが信念を持たないチンピラであるらしく、自身の思想に合わないとしてその全員を焼き殺している。
ただし、殺すこと自体に躊躇いはないが殺した相手の遺族の気持ちについては「考えすぎてイカレたよ」と独り言ちる。
「インターン編」では死柄木らと共に個性破壊弾奪取作戦で護送車を襲撃、Mr.コンプレスとの連携で警護にあたっていたプロヒーロー「スナッチ」をコンプレスの圧縮で閉じ込めることで彼を焼き殺した。

また連合に接触してきたホークスの窓口となっている他、氏子ドクターから最新型脳無こと「ハイエンド」の試運転などを任されている。
因みに氏子ドクターに対しては「氏子さん」と口の悪い彼にしては珍しくある種の丁寧な呼び方をしている。

「VS異能解放軍編」では死柄木たちと泥花市で合流し、氷を操る解放軍の幹部こと外典と交戦。無尽蔵に氷を操る彼と互角の戦いを繰り広げたものの決着はつかなかった。

超常解放戦線では外典と共に開闢行動遊撃隊「VIOLET」の隊長に就任する。
しかしその性格から部下達からの自身に対する評価はどこ吹く風の模様。

「全面戦争編」では部下に指示を飛ばすことなくトゥワイスを救うため本性を現したホークスと交戦。彼の背中を丸焦げにする重傷を負わせるもトゥワイスを救うことは出来なかった。
その後もホークスに攻撃を加え、足蹴にしたところで遂に自身の正体を語った。
尤も肝心のフキダシ部分は黒く塗りつぶされていたため読者には未だに正体が分かっていない。
そのままホークスを焼き殺そうとしたが彼の身を案じた常闇に阻まれてしまう。
追撃を掛けるも外典がヒーローに向けた攻撃で分断、その隙に逃げられたことで断念。
直後、連合の面々らと何故か解放軍幹部のスケプティックのみを引き連れ、動き出したギガントマキアの背中に乗り込み死柄木の元を目指すことになった。
どうやらスケプティックについては自身の悲願である「偽りのヒーロー社会崩壊」のための準備をさせるべく連れてきたらしいが……。


上記の通り文字通りホークスだけには自身の正体を明かしたが、当のホークスはその正体に驚愕していたらしく荼毘自身も「おまえはトゥワイスよりも、誰よりも、俺をマークしなければならなかった」と言い放っている。
因みにホークスを引き入れた張本人であるが彼の事については「最初から何も信じていない」とのこと。
そして公には明かされていない彼の本名まで知っていたことでホークスを更に驚かせている。
一体どんな思惑で彼を引き入れたのか、何故ホークスの本名まで知っていたのか……謎は深まるばかりであった。


『追記・修正を考えたことはないのか!!』

ハハ…

考えすぎてイカれたよ









【注意】この先には重大なネタバレが含まれています。


































しかし、来たる290話。遂にマキアが死柄木と合流し、出久たちヒーローも集まっている中で、遂に自身の正体を語った。




荼毘!!!

酷えなァ…そんな名前で呼ばないでよ…




燈矢って立派な名前があるんだから


顔はこんななっちまったが…身内なら気付いてくれると思ったんだけどなぁ




登録日:2021/01/28 Thu 20:18:50
更新日:2025/03/03 Mon 08:28:03
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CV:下野紘 / 白石涼子(幼少期)

その正体はエンデヴァー/轟炎司の長男であり、既に故人とされていたはずの「轟燈矢(とうや)(24歳※)。
実は黒い髪に染めており、地毛は母親譲りの白色の髪である。
染めていたことと継ぎ接ぎだらけの顔、何より既に死んだものと思われていたことでエンデヴァーを含む轟家の人物は彼に気付くことが出来なかった。

※正体判明時の年齢である。燈矢自身は妹の冬美と1歳差であるため。なお、公式ファンブックでは冬美の年齢が22歳とされているが、荼毘の正体判明時はそれから1年が経った頃なので現在の冬美の年齢は23歳である。したがって、燈矢は24歳である事が分かる。

明かされる過去、そして目的

彼の目的は「自身を捨てたエンデヴァーへの復讐」である。
轟家の第一子として生まれた彼は元々は父親譲りの赤い髪と、エンデヴァー以上とされる火力を備えていた。
母親の氷系統の個性は持たなかったものの、自身以上の火力を持つことからエンデヴァーは当初、燈矢をヒーローとして育てようと決意。
一方の燈矢もヒーローへの憧れがあったのか、寧ろ自分から父親に必殺技を教わろうとするなど良好な父子関係を築いていた。

ところが彼は成長するにつれて毛髪が母と同じ白へと変色していき、母親の「暑がり」な体質も受け継いでしまったことが判明。(正確には低温に耐性を持つが、高温には弱い体質)
長じるにつれて個性の負荷に耐える肉体に成長するのが通例だが、燈矢の高熱耐性は常人よりは格段に高いという程度に留まった。
その尋常でない火力に釣り合う域には至らないまま、遂には自分の炎で自分の体を焼いてしまうようになってしまった。

当然エンデヴァーは燈矢をヒーローに育てることを断念、日々の日課となっていた個性訓練もやめてしまった。
尤もこれは決して悪意を持って突き放したわけではなく、寧ろ息子を死なせたくないという父親として当然の感情からの行動である(奇しくもそれは『傷つくくらいならヒーローを目指さないでほしい』と涙ながらに懇願した緑谷出久の母親と重なる)。
しかし、一度は父親の期待を一身に受けてしまった燈矢からすれば納得できず、彼からすれば「捨てられた」に等しい仕打ちだと感じるようになってしまう。
加えてエンデヴァーは未だにNo.1ヒーローの座への未練を捨てきれておらず、そのために息子と向き合う時間を取れないでいた。

妹の冬美に相談しても、彼からすれば彼女は真面目に取り合ってくれない。そう受け取った燈矢は彼女の言葉を振り切ってしまう。
デメリットをも超えるほどのメリットを付ければ、父親もきっと考えを改める──そう考えた彼は止められているにもかかわらず隠れて個性訓練を行うようになる(こちらもまた母親の懇願を蔑ろにした緑谷出久と重なる)。
結果、徐々に火力は上がってきたものの当然火傷の方は酷くなってしまい、それが見つかる度に父親から叱責を受け、そしてまた父親の考えを改めさせようと訓練……と言った悪循環が形成されてしまった。


俺はもう(・・)「超えたい」って思ってるんだ!

火をつけたのはお父さんだ!

自分の野望を背負わせてしまったことから燈矢の気持ちを誰より理解していたエンデヴァーは息子を強く止めることが出来ず、そもそも自分はヒーロー一筋の人生を生きてきたが故にそれ以外の世界を見せることが出来ない。
けれども、このまま放っておけば燈矢は自分で自分を焼き殺してしまう……苦悩の末、エンデヴァーは苦渋の決断を下す。
「燈矢よりも適性を持った子供──即ち、望んでいた『半冷半燃』の個性を持つ子供を作ることで燈矢に諦めさせる」ことだった。
妻の冷もこれには大反対したものの、憔悴しきったエンデヴァーの姿やそれ以外の方法を思いつかなかったこともあり、結局承諾してしまう。
やがて燈矢の髪が真っ白に染まる頃には弟である夏雄、そして遂に「半冷半燃」の個性を持つ末弟の焦凍が生まれてしまったのである。


お父さん 俺も超えられるよ 

ほら…こんなに強い炎が出せるようになったんだ 

俺のこと見てよ

だが、当然というべきかこの行動は燈矢を更に追い詰めてしまう結果となってしまった。
自分より勝る弟が生まれたのなら、それを超えればいいと尚更個性訓練に打ち込むようになり、更に火傷は悪化。
父親にもっと自分を見て欲しいとうわ言のように呟きながら自らを焼き続ける燈矢は、いよいよ家族が怯えるほどにまで狂ってしまう。
これにはエンデヴァーも語気を強め、「家族と遊び、学校で友達を作り、別の夢を持て。ヒーロー以外にも生きる道はある」と何とか諭そうとする。


学校の子は皆ヒーローになるってさ…!

……わかるはずないだろ…!

俺はお父さんの子どもなんだから

しかし、学校のクラスメートは誰もが「ヒーローになる」という夢を語っていた。
しかし、自分は語ることさえ許されない。
父親に自分を見て欲しいがあまり、遂にはまだ生まれて間もない焦凍を自身の炎で焼き殺しかける。

この襲撃は瀬戸際で止められてしまったが、以後エンデヴァーにとって燈矢は決して捨て置けない問題と化してしまった。
自身は当時NO.2ヒーローとして多忙を極めていたことから燈矢に掛かり切りというわけにもいかなかったので、妻には燈矢を見張るように言い聞かせ、家政婦も雇うなどして燈矢が平穏に生きられるように、ある種の隔離措置を行うことにした。
しかし、この時点で冷からは「逃げているだけじゃないの……?」と非難の言葉を投げかけられてしまうも、エンデヴァーは返す言葉もなく、結局この隔離措置(と言うよりも事実上の育児放棄)を敢行することに。


……それから5年後、燈矢は大人しくなり、家族とも遊ぶようになった。
……表向きは。
一方の父親はと言えば5歳になったばかりの焦凍を個性訓練に連れ出すばかり。
焦凍からすればこれは地獄にも等しい仕打ちだったが、対する燈矢はそれこそが本来望んでいた父親との関係であった。
彼は結局、父親から託された野望を捨てきれずに今まで燻らせていたのだ。
個性訓練に駆り出される弟の姿を見てその野望は再燃。
また隠れて個性訓練するようになった。
冷も慌てて止めに掛かるも、彼の憎悪の籠った視線に言葉を失い、結局止めることは出来ずそのまま見送ってしまった。

またこの間、自身の存在意義を見出せず、弟である夏雄に泣いて縋ることで辛うじて安定を保っていた。
尤もその内容は寝ようとしている夏雄に夜な夜な家族や父親への不満、失敗作である自分達の境遇を嘆くなど、最早愚痴の範疇を超えていた。
夏雄も辟易としていたものの、突き離そうとすればヒステリックに喚きだすので仕方なく聞き入れる他なかったようだ。
逆に言えばこうしなければならないほど、燈矢の精神面は追い詰められていたということでもある。

訓練の末、彼は感情を昂らせることにより炎の温度は上がることに気付き、炎の色も赤から蒼へと変わった。
……しかし、彼にとっての「感情の昂り」とは「嫉妬」であった。
強い炎を出せば出すほど、頑張っても父親に見てもらえないことが悲しくて涙が溢れ出てしまうのだ。
自分の体を焦がすことさえ気にならないほどに。

それでもこの火力なら今度こそ認めてもらえるだろうと、個性訓練の成果を見せようとエンデヴァーがよく使用していた修行場へ父親を呼び出す。
当然エンデヴァーはまた隠れて個性訓練をしていたことに気付き、息子を止められなかった冷を激しく責めた。
父親の剣幕と母親への仕打ちに子供たちは泣いて怯えるばかり。
始めはこの結婚に彼女なりに納得、母親としての人生を全うしようとしていた冷もすっかりやつれきってしまい、燈矢に向き合えなかった。
そして呼び出されたエンデヴァーも、結局燈矢とどう接していけばいいのか分からなかったため逃げるように燈矢からの呼び出しに応じることなく、誰一人として彼の元へ向かえなかった。

必死の思いで呼び出した父親は結局姿を見せないことに燈矢は絶望、悲しみの涙を溢れださせてしまう。
なんとか涙を堪えようとしても、悲しみは涙となって溢れ出すばかり。
しかし、彼は忘れていた。
自身の感情の昂りに反応して、炎の温度が上がることを。
父親を求めるあまり、悲しみが頂点を超えた時。
瞳から滂沱のように溢れ出した、涙のような業火。


あれは熱かったな

ま自業自得だよな

火力の上げ方しか教えてくれなかったもんなあ


遂に炎は彼自身の体を飲み込んでしまったのだ。
だが、止めることすらできない。何せ火力の上げ方しか教えてくれなかったのだから。
溢れ出した悲しみの炎は自身のみならず、修行場、果ては山全体を焼くほどの大火事となってしまい、燈矢は地獄のような業火の中に消えていった。
炎の温度は二千度を超えており、残されるはずだった灰も上昇気流によって吹き散らされ、後に残ったのは下顎部の骨の一部のみ。
エンデヴァーも当初は必死に捜索した模様だが、結局見つけられずに死亡扱いとなってしまった。

燈矢と向き合うこともないまま彼を追い詰め、そして死なせてしまったこの事件は轟家に決して癒えることのない深い焦げ跡を残した。
エンデヴァーも「俺が殺したも同然だ」と罪悪感を抱き続け、このトラウマから逃げるように焦凍の育成に傾倒するようになってしまい、冷の精神も一気に追い詰められてしまう。
冬美も悲しみ、燈矢と一番繋がりのあった夏雄に至っては父親を激しく憎むようになってしまったのである。


しかし、誰もが知らなかった。知る由もなかった。燈矢がまだ生きていたことを。
瀕死状態の彼は、一人の「絶対悪」に拾い上げられた。
そう、悪の権化たるオール・フォー・ワンに。
弔に何かあったときのためのスペアとして救われ、氏子ドクターの再生治療を受けなんとか一命をとりとめ、彼が所有する児童養護施設らしき場所へと移された。
しかし、目が覚めるまでに実に三年間も昏睡しており、治療の結果顔も声も別人のように変わり、何より肝心の個性も本来の最大火力すら出せなくなっていた。
この時点ではまだ「家族に酷いことをしてしまったから謝りたい」「父も事情があって来られなかったのかもしれない」と家族への純粋な想いを持っており、燈矢は家族の元と戻ろうとしていたのである。

そんな彼に待ったをかけたのはAFO。
彼の個性と心の歪みに価値を見出したAFOは「自分の家族となれば個性を元通りに出来るかもしれない」と持ち掛ける。
ところが他人の思い通りに生きることを拒み、何よりも父親を求める燈矢は療養先である養護施設から脱走しようとするも、施設員に取り押さえられそうになり激昂し個性を発動、院に失火し出奔(幸いにも死人は出なかった)*3、そのまま我が家へと帰った。

そこで見たものは、仏壇に置かれた自分の写真。つまり、自分は既に死んだものとして荼毘に付されていたということを思い知らされた。
そして三年前と変わらず、焦凍に執着する父親の姿を目の当たりにしてしまう。
燈矢からすれば父親の身勝手な野望で生み出されたにも拘らず失敗作として捨てられたも同然の仕打ちであり、以来エンデヴァーに深い憎しみを抱くようになってしまう。
以後はエンデヴァーへの復讐として彼の人生を踏みにじるべく、憎しみの炎をともし続ける復讐者──「荼毘」と名を変えて行動し始めた。*4


復讐者「荼毘」として

復讐を始めるにあたって彼がまずターゲットにしたのは焦凍だった。
最初はエンデヴァーの操り人形である焦凍が大成した頃に殺してエンデヴァーを絶望させるつもりだった。
ヒーローを憎むようになったことでステイン信奉者となり、そこから彼と繋がりを持った敵連合に接触。連合の力を借りて様々な事件を起こそうとする。
この接触に誰よりも驚いたのは彼に治療を施した張本人である氏子ドクター。
自分達の手を離れてしまったことで「一ヶ月もしない内に死ぬだろう」と見立てており、そのまま放置していたがそれから数年経過した今でも生きていたためである。
そんな彼に興味を抱いた氏子ドクターは荼毘と二人きりになる機会を拵えるべく、九州でハイエンドの試験運用を手伝うように指示。
荼毘の方も薄々ではあるが自分を治療したのが氏子ドクターであると察していたらしく、その甲斐あって顔合わせに成功する。*5
荼毘曰く、戻ってきたのは「葬式(死に場所)に丁度いい場所だったから」とのこと。
そして振り返った荼毘の悍ましい視線を受けてドクターは悟った。
彼が今日まで生きてこられたのは憎しみと言う名の炎を灯し続けてきたからだと。

その悍ましい狂気のみを頼りとして荼毘は連合の一員となり、数々の事件を起こす。
その末に神野の一件でエンデヴァーが繰り上がりにNo.1ヒーローになったことで(経緯はどうであれ)悲願達成して幸せ絶頂にいる彼を絶望させようとエンデヴァーそのものへ標的を変更した。


言われなくてもずぅっとお前を見てた

どうしたらお前が苦しむか人生を踏み躙れるか
あの日(・・・)以来ずうううううううっと考えた!


その方法とは彼の抹殺ではなく、エンデヴァーがこれまでヒーローとして積み上げてきたものすべてを否定すること。
九州でのハイエンド戦やインターン編で起きた事件を誘導し、トップヒーローとしての充実感や家族との絆を認識させることで一度はエンデヴァーを持ち上げ、その後自身の正体や自身を含めた家族に対する仕打ちを世間に公表することでエンデヴァーは勿論、ヒーローそのものへの信頼を失墜させようという計画だった。

スケプティックを連れてきたのもそのためであり、予め録画しておいた自身の身の上話や仕込んでいたカメラで撮影した「ホークスが容赦なくトゥワイスを殺害するシーン」をスケプティックのハッキング能力を用いて全国のテレビやネットに流させた。
ホークスを率いれたのも、恐らく彼がヴィランを害したという証拠を掴み、ヒーローへの信頼を失墜させる足掛かりにするためだったと思われる。
そのためにホークスの経歴を調べて回ったらしく、彼の名前を知っていたのもこのためらしい。
というのもホークスの父親は強盗殺人を犯した指名手配犯で、その彼を確保したのもエンデヴァーだったからである

ホークスに「誰よりも俺をマークしなければならなかった」と語ったが、まさにその通りである。
なにせ荼毘の存在そのものが「No.1ヒーローであるエンデヴァー最大のスキャンダル」と呼べるのだから。



九州では死んじまわねえか肝を冷やした!
「星のしもべ」や「エンディング」を誘導して次々におまえにあてがった!!
念願のNo.1はさぞや気分が重かったろ!?
世間からの賞賛に心が洗われただろう!?
子どもたちに向き合う時間は“家族の絆”を感じさせただろう!!?
未来に目を向けていれば正しくあれると思っただろう!!?

知らねェようだから教えてやるよ!!!



過去は消えない



これらの衝撃的な事実を満身創痍のエンデヴァーや焦凍の前で明かし、二人を絶望のどん底へと突き落とし、更には世間に動揺を与えることにも成功。
復讐の総仕上げとして彼らを自分の手で焼き殺すべく、父親仕込みの「赫灼熱拳」で殺そうとする。
だがそこに自身が死を確認したはずのベストジーニストが駆けつけ、彼の妨害を受けてしまう。
直前の放送で彼は堂々と「ホークスは自分らに取り入るためにジーニストを殺害した」と宣言してしまっており、前述の告発について綻びが出てしまった。
それでも構わず荼毘は自身を縛るワイヤーや駆けつけた波動ねじれを焼くなど凶行を続け、焦凍と交戦。
怒りに震える彼を、自身の圧倒的火力で一蹴した。
しかし肝心のエンデヴァーの心がまだ壊れ切っていないことに加えてマキアに一撃を決めた直後に気絶してしまったため、これ以上続けても意味はないと断念。
コンプレスの手を借りて死柄木らと共にその場から脱出した。


仲間の死を利用した荼毘であるが、一応補足しておくと当初はトゥワイスを助けようとしており、荼毘自身も上記のように自身の計画のために必要としていたことから最初から見殺しにするつもりはなかった。
しかし結局は助けられなかったのであくまでトゥワイスの死を無駄にしないように計画をシフトしただけである。
尤も、荼毘は連合については「どうでもいい」と語っているので実際の彼の真意は相変わらずぼかされたまま。
そんな荼毘だが、最終決戦編では「“俺たち”のために」と自身だけではなくわざわざ同じく社会の爪弾き者となってしまった連合のメンバーについて言及したりするなど、心のどこかでは連合に対する仲間意識を抱いていた模様。


上記の経歴を経て現在はヒーローそのものを憎んでいる。
ステインの信奉者となっているのもこのためだと思われる。尤もステインはあくまで「正しき社会のため」という信念があったのに対し荼毘にはそんな信念など欠片もないので信奉者となったのも単に現代ヒーローを否定し続ける姿勢だけを評価したからの模様。

登場初期からどちらかというと冷めた態度が目立っていた荼毘だが、正体を現してからは人を焼いては高笑いするなどその隠されていた狂気を露にしていた。
自分の目的である復讐のためなら仲間や自分自身、果ては嘗て泣いて縋った家族の命すら厭わないなど、その狂気は連合の中でも死柄木と比肩するくらいに悍ましいものである。
また長女の冬美が産まれた時点で彼は幼稚園通いだったため、実年齢は25歳前後だと思われるが、エンデヴァー以外の価値観・世界を見ようとしないまま大人になってしまったためにその精神年齢は少年の頃から止まったままも同然である。
「父親に見てもらいたい」という暗い炎を燻らせた結果、氏子ドクターからは「魔王すら見放した偏執狂の死炎」と称された。

因みにネット上では荼毘の正体に関しての考察が行われており、割と早い段階で燈矢なのではないかという予想もあった。
そのため正体発覚そのものに関しては衝撃が少なかった読者もいた模様。
しかし問題はその正体が明かされたタイミングである。
死柄木やギガントマキアの暴走を抑えらず、未曽有の被害を出してしまった失態によりヒーローへの信頼が揺らぐ中、誰よりも奮起し誰よりも心の拠り所となるべき存在である、現在の「平和の象徴」ことエンデヴァーにとっての最大のスキャンダルが明かされてしまったのだ。

最早轟一家だけではなく、世間に与えた衝撃は大きいと言わざるを得ない。
「全面戦争編」では終盤に差し掛かり、先の予想もつかない怒涛の展開が続く中、荼毘の登場により事態はより一層混迷を極めることになる……。


生まれ持った「歪み」

実際のところ、燈矢が語った境遇は嘘ではなく、悲惨な人生を送ることになってしまったことや、その元凶がエンデヴァーであることは紛れもない事実。
だが一方で燈矢に全く問題が無かったと言えばそうでもない。
エンデヴァーが彼にヒーローの道を諦めさせようとしたのは悪意などではなく、父親としての愛情があったからであり、その後の彼や家族からの説得も至極真っ当なものだった。
それを聞き入れなかったのは燈矢自身に宿った強い執着心を始めとした心の「歪み」である。
しかしその「歪み」も元を正せばエンデヴァーが己の野望のために燈矢を産み、彼に自身を超える「個性」と自分の「野望」を託してしまったことに起因する。
炎熱系最強クラスの「個性」と野望に対する「執着心」、野望のためならば自身や周りを厭わない苛烈な面など、彼はエンデヴァーの「負の面」をすべて受け継いでしまった子としか言いようがない。
もっとも、それは裏返せば目的達成のために努力を厭わない強靭な意思を持つという事でもあり、決して悪い面だけではない。
事実、荼毘は数多のハンディキャップにもかかわらず独力で焦凍を上回る火力を操り、本家に比べれば精度が粗いとはいえ、エンデヴァーの赫灼熱拳を習得している。
燈矢とエンデヴァーの大きな差異としては、エンデヴァーが歪みながらも悪と戦い人を救う「ヒーロー」を志していたのに対し
燈矢は父親に褒めて貰う事、認めて貰う事が大きな動機であった事だろう。
(これは荼毘となった現在でも、形こそ反転したものの一貫している。)
嫉妬が殺意に、殺意が行動に変わるまでの異常な早さも相まって、体質の問題がなければ彼が真っ当なヒーローになれたかは疑わしいという声もある。
(ただし、その生い立ちや何年も父に無視され続けた事、自分が死んでも何も父が変わっていなかった事で、本当に自分は要らない子だったのだと突き付けられた絶望が、荼毘となった背景に有る事も当然考慮されるべきであろう)

だがもしも家族が親身に彼と向き合い、その「負の面」と戦い続けていれば「荼毘」は生まれなかったのではないかと、後の轟家の面々に強い後悔を残すことになる。
そもそも子供が抱える問題は親を始めとした家族が向き合い、戦っていくべきものなのだから。
だからこそ、轟家は決意する。皆で彼を止めようと――。


最終決戦


そして遂に迎えた最終決戦の日、オール・フォー・ワンの『ワープ』による手引きで連合の仲間たちと共に出久の前に姿を現した。
この際の荼毘は髪も元の白髪のままどころか、装いも真っ白なボロボロのコートを纏っているなどこれまでとは打って変わって死に装束のような白一色となっている。*6

しかし直後、ヒーロー側も物間が黒霧の個性『ワープゲート』をコピーすることで同じく大量のヒーローたちを召喚。
その中には当然、荼毘の最終目標であるエンデヴァーや焦凍もいたために大歓喜。死柄木の指示も無視して念願の復讐を果たそうとするが、ヒーロー側の作戦により荼毘たちはバラバラに分断され、『ワープゲート』によってオールマイト像にまで飛ばされてしまった。
しかも目の前にいるのはエンデヴァーではなく焦凍とそのサイドキック三名。*7
最初こそテンションも下がってしまったが、焦凍に自身の原点を話すうちにボルテージも上がっていき、やがてコンクリートすら溶解させるほどの業火を身に纏う。


アレの大切にしているもの全てを焼き尽くす


それが俺の生まれた証だ!!


全身火達磨、炭の化け物となりながらも遂にエンデヴァー以上と言われた地上最強の炎を以て焦凍たちに襲い掛かった。
始めこそ凄まじいまでの火力や炎による超加速で焦凍を押していたが彼が『赫灼熱拳・燐』*8を発動してからは形勢逆転。
これまでとは逆の発想による極限の冷気によって荼毘の熱も中和されていく。



歪んだレールが正道に交わることはない

超人社会の限界!

俺たちが! そうなんだよ!

これ以上は平行線だ!!

灼けて死ねよ!! 俺たちのために!!

それでも執念で耐え凌ぎ、『赫灼熱拳・燐』が切れた瞬間を狙って火山の噴火を思わせるような特大の炎ですべてを焼き尽くそうとする。
しかし、バーニンたちが焦凍の盾になったことで防がれてしまい、また『赫灼熱拳・燐』の再発動を許してしまう。
そして遂に究極の冷気とでも言うべき焦凍の必殺技『大氷海嘯』を受け、全身を氷漬けにされた。
こうして荼毘は最終決戦における最初の脱落者として確保され、その復讐劇は幕を下ろした……










―――はず、だった。



これ(・・)で合ってるよな? 焦凍



なんと荼毘は二発程度しか技を受けていないにも拘らず、『赫灼熱拳・燐』の要諦を理解し、独自に真似て見せたのだ。
これにより更なる火力の獲得にも成功し、自力で解凍。
再び辺りを火の海にし始め、やがては急激な温度上昇により天候すら変え始めてしまう。
だが『赫灼熱拳・燐』を習得したことでただでさえ今にも焦げて崩れそうな体の炭化を更に早めてしまい、このまま焦凍と交戦を続ければ最終目標であるエンデヴァーとの決戦まで保たないと判断。
焦凍との戦闘を放棄し、スケプティックからエンデヴァーのいる位置を聞き出して自力で飛ぼうとする。
が、更に間の悪いことにスピナーが黒霧奪還作戦に成功してしまったせいで黒霧による『ワープゲート』が現れ、荼毘の望み通りエンデヴァーのいる郡牙山荘跡地まで一瞬で到達する。
『エンデヴァーが大切にしているものすべてを焼き尽くす』という自身の望みは完全に叶わないながらも、せめてエンデヴァーに自身のすべてを見せようとエンデヴァーすらも焼くほどの炎で襲い掛かるのだった。

しかも、これですらまだ絶望の序の口でしかなかった。
更なる火力を獲得したことで荼毘の中に凄まじいまでの熱エネルギーが集まり始め、一種の巨大な爆弾となりつつあったのだ。
彼の体が崩れると同時に閉じ込められていた熱エネルギーも解放され、山荘跡地に結集したヒーローやヴィランたち、しかも間の悪いことにシステムダウンによって地下に閉じ込められていた避難民たち諸共消し飛ぶという最悪の状況が出来上がりつつあった……。


地獄の家族会議


極大の炎を身に纏った荼毘に対抗できるのは最早エンデヴァーだけ。
エンデヴァーも彼を止めるため、そして彼を見るためにAFOの対処をホークス達に任せた。
今度こそ、荼毘――否、息子である燈矢と向き合うために。
だが燈矢の火力はエンデヴァーですら焼いてしまうほどであり、燃え広がる炎の所為で敵味方関係なく被害を被り始める。
これ以上い被害を広げないため、エンデヴァーは自身を囮として燈矢をおびき寄せるべく移動する。
その間も燈矢に止めるように説得を続けるのだが―――。


お゛ ど ぉ゛さ ん   見゛ で


この時点で彼の意識は朦朧としており、自分を見てもらうことしか考えられない有様だった。
改めて己の罪を思い知らされたエンデヴァーは、せめて被害を出さないよう、道連れ覚悟で燈矢をなるだけ上空へ連れ出そうとするが、そこへ一人の女性が駆けつける。


冷!!!?


それは現在、雄英の地下で避難しているはずの妻、そして燈矢の母こと冷だった。
実は前述した、システムダウンで地下に閉じ込められていた避難民の中に轟一家もいたのだ。
避難誘導を担当していた生徒たちのお陰で地上に脱出できたのだが、そここそが山荘跡地の近くだったのである。
特大の蒼い炎を見たことでそこに息子がいると確信した冷は近くにいた移送用ロボに頼み込み、燈矢の元へと向かった。
「家族全員で燈矢を止める」―――その誓いを果たすため、母としての矜持のため。
冷は自分の身が焼けてしまうのも厭わず、個性で息子を冷やし始める。
加えて同じく駆け付けた冬美と夏雄も同じく大火傷を負いながらも、思いの丈と自身の個性をぶつけながら燈矢を冷やそうとした。

体が炭化し、殆ど骨と皮だけになりながら、更には右腕まで崩れ落ちた燈矢。
その最中で彼が感じたのは痛みや苦しみなどではなく、父親を始めとした家族全員が自分を見てくれていることへの歓喜。


こんな簡単なことだったら

もっと早くにぶつけられていたら


もっと 早くに


そして、本当の意味で家族とぶつかり合わなかったことへの後悔だった。
過去の燈矢は自分の愚痴を夏雄にぶつけていたもののそれは一方的なものであり、彼を始めとした家族からの言葉に耳を貸そうとしなかった。
それは燈矢自身が家族との対話―――すなわち、ぶつかり合いを避けていたことを意味する。
そして家族も、燈矢を恐れ、または踏み込めず、時に辟易し、そして逃げ出したことで燈矢とぶつかり合おうとしなかった。
けれどもそれが今、互いに傷つくことを恐れずに全力でぶつかり合うことで初めて家族が一つとなり、自分を見てくれた。
あまりにも遅すぎた喜びと後悔の中、燈矢は遂に臨界点を突破しようとした―――。







……だが、まだ終わっていなかった。何故なら、まだもう一人いたから。






ぶつけたい事 言いたい事


まだ あるんだ



それは何百キロも離れた先から、飯田と共に駆け付けた男。
先程まで夢見ていた幸せな一家の中で、一人だけ省かれていた存在。
自分からすべてを奪い、父親に次いで憎んでいた弟―――轟焦凍だった。

彼もまた父親を恨み、あわや燈矢と同じ道を行きかけた者だった。
けれども、彼は燈矢と同じにはならなかった。
それは全力でぶつかってくれる友だち(A組のみんな)がいたから。
故に焦凍も時に級友と全力でぶつかり合うことで互いを高め合うことが出来た。
そしてその経験と想いがあったからこそ、家族ともぶつかり合い、忌避していた父の炎を自分のものとして受け入れられた。
だから焦凍もまた、燈矢にぶつける。
ぶつかり合うことで手に入れた力―――『赫灼熱拳・燐』を。

焦凍一人だけでは燈矢には敵わない。
だから焦凍はその場にいた家族全員の力を借りて、最大級の『大氷海嘯』をぶつけた。
その一撃はこれまで戦場を覆っていた暗雲を吹き飛ばし、戦場に集っていた誰もが目を奪われるほどの規模と輝きだった。
それはまるで、絶望の終焉を表しているかのように。

……澄み切った青空の下で、燈矢は外側と内側の両方から完全に氷結していた。
最早自分の手で炎を灯せることすら出来ないほどに。


死んじまえ クソ親父

死ね……

みんな…… 俺も……

死んじまえ


ロクに動けなくなった燈矢は、まるで子供が駄々を捏ねるかのように家族への恨み言を吐き続ける。
怨嗟の言葉を受けたエンデヴァー―――否、轟炎司はボロボロの体を引きずりながら彼の元へ這いより、あの日約束した場所へ行けなかったことを謝った。
それでも燈矢は尚も恨み言をぶつけてくる。


…大嫌いだ…

お父さんなんか…! 家族なんか…!


轟炎司は父親として、言い訳することなくそれを受け止めた。
これからも彼がぶつけたいであろう恨み辛みをすべて聞かせてほしいと願った上で、家族全員に、一人一人に謝り、そして家族全員が仲良く地に伏せるのだった。

こうして荼毘―――轟燈矢の暴走は本当の意味で終わりを迎え、スピナーに次ぐ敵連合二人目の脱落者として確保された。
しかし、彼の暴走は終わっても地獄は終わらない。
何故なら燈矢が荼毘として多くの人を巻き込み、傷つけ、そして殺してきた過去は消えないのだから。
そして荼毘を生み出したのは父を始めとした轟家であることもまた事実。
彼によって傷つけられた人やその遺族が轟家に誹謗中傷を浴びせることは想像に難くない。
果たして、これからの轟家に待ち受ける運命とは……。



◆個性:『蒼炎』

上述の通り、荼毘改め燈矢は父エンデヴァーの個性「ヘルフレイム」の温度を更に高めた個性を持っている。
ホークスの個性「剛翼」の羽根はエンデヴァーの炎に晒され続けても数十秒以上持ち堪えるが、荼毘の炎の前には容易く燃え尽きてしまう。
炭素繊維は元々鉄より耐熱性は低めとはいえ、橋梁用の巨大ケーブルの束だろうと瞬く間に溶断してのける。
高校二年進学間近の段階の焦凍の赫灼熱拳は鉄塊だろうと溶解させることが出来るが、その弟の最大火力を軽く一蹴した。
奥義たる赫灼熱拳をも扱い、スペック上は地上最強と言われる父の炎をも凌駕、中遠距離限定の単発火力ならば地上最強の一角を張れるだけの力を発揮する。

ただし、父のような高い練度のコントロール技術は修めていないため、細かい調整は非常に不得手。
体質に合わない個性を無理に使っていることも変わらないので、特に赫灼は実質的な自滅技となり、通常時も火力をかなり抑えた立ち回りを強いられる。*10
そのためか対無機物・個性・モブには十分な効果を発揮する一方でネームドキャラに対してはすこぶる効き目が悪い。殺そうとした攻撃で炎がカス当たりになって仕留め損なうケースが多数見られる。
また、強力な遠距離攻撃として一目置かれるだけに、通常の火炎放射片手で振り払われたり直撃してもさほど効かなかったり、強豪の耐久力の高さを誇示する為の当て馬とされることも。

故に、荼毘が猛威を発揮できるのはあくまで自身の身を厭わない全力解放に踏み切った時に限られる。
また、細かい調整こそ不得手ながらも元来燈矢は天性の素質を持っていたらしく、見ただけで炎に関する技の要諦を理解、自分の技として使用することが出来る。
これによって焦凍の『赫灼熱拳・燐』も会得し、更なる火力を手に入れることに成功した。
だが、この『赫灼熱拳・燐』は炎と氷で自身の体温を安定させるというもの。
つまり、自身の大火力に釣り合うだけの冷気が必要であり、氷の個性を発現できなかった燈矢には本来扱えないはずの奥義である。


◆使用した技

  • 赫灼熱拳 ジェットバーン
凝縮された炎を文字通りジェット噴射の如く撃ちだす技。
赫灼熱拳の中では基本技と目されているが、この技一つだけでも焦凍の最大火力を優に凌ぐ。


  • 赫灼熱拳 ヘルスパイダー
凝縮された炎を糸状の光線にして指から放つ。
エンデヴァーのものは威力は勿論のこと範囲や精密性にも優れている一方、荼毘の場合は火力こそ格段に上だが見よう見まねで習得した影響か炎が太く、狙いもかなり大雑把と粗が目立っている。
尤も、これは炎による超加速に繋げるための目晦まし的な意味合いもあったため、寧ろわざと雑に放った可能性もある。


  • 赫灼熱拳 プロミネンスバーン
自身の最高火力を放つことで全てを焼き尽くす、エンデヴァー最大の必殺技
荼毘も使えるようだが、残念ながら作中では放つ直前に妨害を受けてしまい、結局この技を放つ機会は訪れなかった。
代わりに最終決戦編の焦凍との対決では地面に手を当て、自身の炎でコンクリをマグマのように溶解させ、地面から火山の噴火を想起させるような特大の炎を噴き上がらせる技を放っている。


◆余談

荼毘を演じている下野紘氏は今でこそ悪役での出演も多くなっているが、荼毘が登場した当時は悪役を演じる機会があまりなかったとのこと。
この荼毘としての出演は下野氏のキャリアを更に広げるのに一役買っていると言えよう。
また下野氏は、荼毘としてのある種最大の見せ場とも言える「ダビダンス」の回は原作を読んでから「早く演じたかった」と語っており、待望のダビダンス回はそんな氏の情熱と技術をすべて込めた神回に仕上がっている。
更に最終決戦編の荼毘VS焦凍の回でも下野氏が「命を削りながら演じた」と語っていた通り、まさしく命を削りながら戦う荼毘を見事に表現した。
どちらの回も視聴者から非常に好評であるため、機会があれば是非その目で下野氏の本気を視聴してほしい。





ザ!!自業自得だぜ


さァ一緒に堕ちよう轟炎司!!


アニヲタWiki(こっち)息子(おれ)と追記・修正しようぜ!!!



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最終更新:2025年03月03日 08:28

*1 作者がコンロから発想を得てデザインしたとのこと

*2 後から来るギガントマキアにぶつける駒とするため。死柄木が解放軍を殺し始めたことで「リーダーが殺しているのなら俺もいいよな」とすぐ取りやめたが

*3 ただし燈矢からすれば治療してくれたとはいえ得体のしれない相手であり、親に連絡を取ろうとも知れない誘拐犯も同然の相手。脱出するために強引な手段をとっても無理からぬことではある。

*4 この件を機に燈矢は死に荼毘が生まれたと彼は述懐している

*5 荼毘がドクターのことを「氏子さん」と丁寧な呼び方をしているのは彼が命の恩人だったからだと思われる。尤も、荼毘としてはそれ以上の感情もないようだが

*6 作者によればこのコートはスケプティックが自身のハッキング能力と手元にあった個性データを元に無人となってた旧デトネラットの工場を操作して作り上げた超耐火仕様とのことで、真っ白な色は父親への純粋な復讐心が込められたとのこと

*7 バーニン、オニマー、キドウとそれぞれの個性によって荼毘の炎熱に対抗できるメンバーで固められていた

*8 簡単に説明すれば心臓を炎と氷で包み込むことで全身の体温を安定させるというもの。炎を出す際は冷気によりどこまでも熱量を上げられ、冷気を出す際は逆に炎を利用することでどこまでも温度を下げられる

*9 元より戦いが終わったらケジメをつける為に引退するつもりであったとの事。

*10 焦凍のプロフィールにパワーA・テクニックAと記載されている一方、彼はパワーB・テクニックD・執念S+