まどうほう/まこうほう
異世界各国で使用されている兵器。作動原理に魔法が用いられ魔方陣が展開されるのを除けば、地球の火砲とあまり違いは見られない。
単発のタイプは「魔導砲」、機関砲のように連射が利くものは「魔光砲」と呼ばれる。
魔導砲は
文明圏外国でも無理をすれば手に入るが、魔光砲は技術水準の高い兵器らしく、実用化しているのは
中央世界のみ。
ほとんど用いられていない。それ以前に知らない国も結構多い。
フェン王国は無茶をしてどうにか少数配備していた(「
剣神」参照)。
アルタラス王国も相当数配備していたが、それでもパーパルディアの型落ち品。非炸裂式の球形砲弾で射程も1km程度の代物だった。
イネルティア王国は射程こそ1kmだが炸裂式の砲弾を実用化しており、砲身寿命と引き換えに射程と弾速を上げることができた。
クルセイリース大聖王国が配備している。射程は2km未満と
飛空艦に使われている高度な魔導技術と比べるとだいぶ見劣りしており、威力もパーパルディアの
対魔弾鉄鋼式装甲をへこませる程度しかない。後に携帯式の砲という物が登場したが、おそらくは戦国時代の大筒と似たような物だと思われる。
主に
パーパルディア皇国の
魔導戦列艦の艦砲として用いられている射程2kmほどの炸裂砲弾を放つ魔導砲があり、コミカライズ版ではさらに艦対地攻撃用として、臼砲型の大口径短砲身の魔導砲も登場している。
皇国以外の国はこれより性能が劣る砲しか配備していない。
パーパルディア皇国は
地竜や騎兵で牽引する野戦砲タイプや
人が持ち運べるタイプも開発している。こちらは射程1km前後。詳細は不明だが炸裂するタイプとしないタイプがあるらしい。城門を破る程度の威力はあるが、
90式戦車の複合装甲には無力だった。
コミカライズ版では戦国時代の大筒のような大口径鉄砲や18世紀の野戦砲・・・ではなく、まさかの
迫撃砲形式(しかも臼砲のような設置型ではなく、
20世紀基準の設計)。
同時に明らかになったパーパルディア皇国のフランス大陸軍風の軍服も相まって、新世界らしい
ちぐはぐな技術体系を表している。ただし地球でも数人で携帯できる臼砲は17世紀には既に開発されており、見た目以外は物凄く不自然というわけでもない。なんならメジャーではなかったとはいえ現代の迫撃砲に近い見た目の代物は17世紀には既に開発されていたりする。
肝心の性能は不明だが艦載砲の性能を考えると見た目に伴った性能はないだろうと考えられる。
と思ったらゴトク平原では18世紀の野戦砲そのまんまの見た目の牽引式魔導砲を運用していた。
原作でも騎馬砲兵と描写されていたが、先の迫撃砲タイプとは状況に応じて使い分けているのか、あるいはデザインの変更があったのかは不明。
レイフォルは戦列艦に搭載していた。性能はパ皇製と大差ない模様。その他の
第二文明圏国家も同様と思われる。
ただし
ムーは例外。魔導砲は一切使っていない。
マギカライヒ共同体はムーの科学技術を取り入れた為か、科学融合魔導砲なる物を配備しており艦載用は射程3kmであり陸上型も牽引型魔導砲より優れている模様。
大口径化が進み、砲塔も発明されている。
魔導戦艦をはじめ様々な兵器に用いられている。
砲身に撃発用魔導回路を搭載し、発射時の魔法陣の展開を不要にしたので視認性が抑えられた。砲弾にも回路が組み込まれており、何やら複雑な原理で炸裂していると推察される(魔力の属性比率によって効果が変化?)。その影響なのか、砲弾は青い軌跡を曳く。
魔光砲も対空用として
実用化されており、書籍三巻で一足早く実力を披露している。対艦用については一切触れられていないので、低威力あるいは短射程と思われる。
艦隊級極大閃光魔法も対空にしか使われる気配がなく、多分そういうことなのだろう。撃つのがエネルギー弾なので可動部が少なく、連射に適していたのも対空用として発達した要因だろう…と思われていたが、実際にはミ帝の技術不足により実体弾であったことが判明。エネルギー砲は魔帝の産物である
アトラタテス砲しか現在判明していない。
魔導砲、魔光砲どちらも発射前に高速で自動呪文詠唱が行われる。魔導回路の影響で何かにつけて光る。特に魔光砲は全弾曳光弾だったり発射前に粒子を吸い込んだりでかなり目立つ。確かに綺麗ではあるが、これでは夜間に敵へ自分の位置を知らせているようなものである。科学文明船も夜に発砲したらそれなりに目立つが……。
地球の歴史における類似兵器(参考情報)
実はいうと地球での中世末期から18世紀にかけて、大砲は大きくは進歩していない。
いや、製造技術は進歩している(最初期は鉄枠を樽っぽく鍛造したりしてた)ものの、基本性能は中世時点より大きく進歩しておらず、画期的な進歩を遂げたのはフランス王国末期、そしてそれを最大限活用したのがナポレオンだったりする。
まあ転移世界との大きな違いは炸裂弾の有無……ではなく、カノンと榴弾砲の違いが無いことだろう。
地球ではまず射石砲という、石製実体弾を飛ばすカタパルトや投石器の発展版として運用されている。
その後、進化の過程で、長砲身&軽量弾で長射程を飛ばすカノン(Cannon)・火縄に点火した爆弾を高角度で敵陣内に放り投げる臼砲(Mortar)・対歩兵用の臼砲と同じ爆弾を飛ばす榴弾砲(Howitzer)に分裂していく。榴弾砲は結構後だが。
で、炸裂弾についてだが、地球には当然、接触して発動する魔法なんて存在しておらず、18世紀以前の起爆は爆弾よろしく火縄しかない。
だから砲身が長いカノンに爆弾に火縄つけてごろごろ装填とか
危なっかしくてできるわけもなく、短砲身の榴弾砲や臼砲しか使われていない。
そんでもってそれの射程についてだが……当たり前だが、どちらもとりあえず激突前に打ち込める射程、500~1000m程度しかない。
射程そのものは
文明国にすら劣るレベルである。
実体弾のカノンに限れば実は地球での中世時点で2km近くは飛ばすパ皇レベルの大砲は存在してはいる(アルマダ海戦時のファルコネット砲は1.5km、バジリスクと呼ばれる重青銅砲は6.0kmを謳っていた)。
ただまあ、有効射程かどうかは別問題であって……最大射程はだいたい高角度つけての発砲で、平射に比べれば命中率は激減。まず当たらない
ファルコネット砲はあまりにも小さい実体弾だし、そもそもライフリングもない、実体弾の大砲が2km先で命中率込みで有効かといわれるとね……
直撃すれば死ぬけど直撃しない限り死なないし。
だから艦載砲なんか撃沈じゃなくて大量の砲弾での人員殺傷が主だったし、野砲はあくまで映画パトリオットよろしく、横陣を切り裂くものであって、歩兵を粉砕するものじゃない。
劇中の
防衛装備庁で大砲は19世紀相当の技術、といっている理由はこの
着発信管相当の技術と炸裂弾頭の存在。
弾着と同時に炸裂する弾がカノンに採用されたのは19世紀初頭、そして大規模に運用されたのがクリミア戦争であり、南北戦争のときからなのだ。
それ以前は大量に打ち込んで船を戦闘不能にする大砲が、
船を撃沈する兵器に変貌した瞬間であり、目に見える敵を撃つ戦場の女王が遥か彼方から吹き飛ばす戦場の魔王へと進化し、ミニエー弾と共に戦場の悲惨さを一気に凶悪化させた元凶である。
仮に19世紀の地球の国家が戦った場合、当時のイギリス(大英帝国)でも大惨事だったのだ……
以下、それぞれ代表的な大砲のデータ表。
最初に中世期。
射程にやたらムラがあるのは、砲弾や運用方法に違いがあるため。
特にカノン砲については19世紀末になるまで平射砲のため、長距離間接射撃そのものが想定外である。
分類 |
中世期カノン |
臼砲 |
中世期重カノン砲 |
名称 |
カルヴァリン |
Pumhart von Steyr |
Queen Elizabeth's Pocket Pistol |
年代 |
15世紀 |
15世紀 |
15世紀 |
種別 |
カノン |
臼砲 |
カノン |
運用可能砲弾 |
実体弾のみ |
榴弾、実体弾 |
実体弾のみ |
射程 |
最大6.0km,有効射程1.5km |
射角10度にて500m |
5.5kg砲弾で公称射程7マイル、現代の試射で1km |
次は近代以降。
ここからようやく転移世界で多く使われる魔導砲に近くなる。
というか命中率を除けば、1~2kmが交戦距離のパ皇戦列艦に勝てるのは南北戦争のあたりしかない。
まあライフル砲だと逆に長射程で命中&撃破するレベルになってしまうが。
実際の運用にもよるが、なんだかんだいって
パーパルディア皇国も列強ではあったのだ。
分類 |
近代榴弾砲 |
近代艦載砲 |
近代野砲 |
近代ライフル砲 |
名称 |
6インチ榴弾砲1764型 |
ペクサン砲 |
1853年型12cm榴弾野砲 |
Parrott rifle |
年代 |
1764年 |
1823年 |
1853年 |
1860年 |
種別 |
榴弾砲 |
カノン |
野砲 |
ライフル砲 |
運用可能砲弾 |
榴弾、榴散弾 |
装弾筒付き着発炸裂弾 |
榴弾、実体弾、キャニスター弾、ぶどう弾 |
キャニスター弾、実体弾、着発炸裂弾etc |
射程 |
1.2km |
20kg砲弾で有効射程1.2km |
射角5度で1.5km |
ものによる。一般的な10ポンドで600-5000ヤード |
その後、第一次世界大戦で出現した新たな兵器である航空機と戦車(Battle Tank)を排除するため、超高初速の砲である「対戦車砲」「対空砲」が出現する。
対戦車砲は、現在ではアメリカの呼称である“Anti-Tank gun”が一般化しているが、同じ英語圏でもイギリスは当初、高初速砲の意味で“Quick-Fire gun”と称しており、大戦前の日本はどちらかと言うと同じ君主制のイギリスを模倣していたことから、これをほぼ直訳して「速射砲」と呼んでいた。また、ドイツ語の“Panzerabwehrkanone”(略称“Pak”)も有名である。砲弾として「面を制圧する」従来の砲弾に対して「装甲をブチ抜く」徹甲弾なるものが出現したのもこの時期からである。
対空砲、或いは「高射砲」と呼ばれる対航空機用の砲は、ベトナム戦争あたりになって電子制御が当然になる以前は、「敵航空機の予想進路上に空中で炸裂する榴弾を撃ち上げる」という代物で、その性質も命中を期待すると言うよりは、「弾幕を張って敵航空機の操縦員に心理的なプレッシャーを与えて進路を妨害する」というものだった。これは当初、想定高度から時限式信管をセットして撃つという対空砲の当時の技術的限界で、VT信管を実用化していたアメリカですら「敵攻撃機の撃退は戦闘機によるものがもっとも効果的」と位置づけていた。英訳は“Anti-Aircraft gun”が主流。
分類 |
初期対戦車砲 |
初期対空砲 |
名称 |
九四式三十七粍砲 |
十一年式七糎半野戦高射砲 |
年代 |
1934年 |
1922年 |
種別 |
速射砲(対戦車砲) |
高射砲 |
運用可能砲弾 |
榴弾、徹甲弾 |
高射榴弾、目標弾 |
射程 |
6,700m(九四式徹甲弾) 7,000m(九四式榴弾) |
射程10,900m 射高6,650m |
…………身内贔屓するなコノヤロー、と聞こえてきそうだが、実際に戦車や航空機が脅威となったはずのヨーロッパの国々では、総力戦となった第一次世界大戦後の経済疲弊に伴う軍縮ブームで、とりあえず第一次世界大戦中に開発された高初速の砲を転用しておけば良しとされていて、早いうちからこの新世代兵器への対応を真剣に研究していたのは意外にも日本なのである。ヨーロッパやアメリカでこの種の砲の研究開発が本格化するのは、ナチスの台頭により戦争の危機が見え始めた1930年代後半以降になる。
ただ、日本はその後がいけない。自国はほとんど戦禍に巻き込まれず、一方で世界的な需要の高まりに対して生産力を提供して経済発展し、アメリカやイギリスと肩を並べたと思いこんで増長しきり、結果破滅への途を歩むことになる。
ただ、太平洋戦争(大東亜戦争)での旧軍の高射砲・速射砲に関しては戦後は逆に自虐のあまり過小評価しすぎているきらいがある。なんのかんのB-29を何機も撃墜しているし、またヨーロッパのような大陸の平野と違って、入り組んだ地形の島嶼が戦場の太平洋地域では思わぬところに日本軍の速射砲や野戦高射砲が巣を作っていて、そこへ米軍戦車がノコノコやってきて大惨事という事態が結構起きていたりする。
じゃあ現在はどうなのかと言うと……一応、呼び分けとして「カノン」「榴弾砲」「迫撃砲」は残っているものの、可搬型の小型迫撃砲を除けば
ほとんど区分はなくなっている。
大量消費の第二次世界大戦が行われた結果、いちいち砲と砲弾が別々だと補給が隘路になるという問題が発生した。その一方で、より有利に戦闘を運ぶために榴弾砲は長射程化のため高初速を得るための長砲身化が進み、カノン砲との差異がほとんどなくなった。迫撃砲も牽引砲のクラスだとやはり長射程と高威力を目指して大口径・高初速・長砲身化が進んだ。
本作に登場する「
99式自走155mmりゅう弾砲」など、榴弾砲を名乗りながらその性能など砲身長が52口径と、第二次世界大戦の感覚だとどっからどう見てもカノン砲である。また牽引式迫撃砲のベストセラーとされているFH70 155mm迫撃砲がこれまた39口径とアメリカのM198 155mm榴弾砲と大差ないし、だいたいにして射撃する155mm NATO弾は榴弾砲のそれと共通だったりする。
対戦車砲は戦車の重装甲化により、人力で運用するものは限界に達していた。第二次世界大戦末期に開発された
成形炸薬弾は従来の徹甲弾よりはるかに簡便な取り扱いのできる小型ロケット弾が主流となった。本作に出てくる
84mm無反動砲はこれである。
対空砲も、超音速ジェット機時代に入って人力で照準することは難しくなり、また装薬で発射する“Gun”ではその飛行高度に対応できなくなった。照準を行うレーダーシステムと一体化した自走高射機関砲としてドイツの『ゲパルト』、日本の87式自走高射機関砲(本作未登場)、旧ソ連のZSU-23-4『シルカ』などが登場したが、最終的には誘導を受けて自ら飛翔していく「対空ミサイル」に置き換えられていき、姿を……消すはずだった。
2022年に発生したウクライナ-ロシア戦争では大型自爆UAV(ドローン)による根拠地攻撃の応酬が行われている。敵航空機や亜音速巡航ミサイルを前提に開発された対空ミサイルはそりゃ撃てば当たるが、これらと比べて1桁以上安価なUAVに高価なミサイルを使うのはコストパフォーマンス激悪もいいところで、特に対空ミサイルの弾数が限られていたウクライナには深刻な問題だった。
そんな中、ドイツがゲパルト対空戦車の供与を決めた。この頃、ドイツはNATO加盟国の中では慎重派で、戦略上の価値が低い(と思われていた)ゲパルトの供与は、イギリスやポーランドなど積極派からのプレッシャーに対するアリバイ作りではないかと思われていた。
ところが、ウクライナ軍に配備されるや、さんざんウクライナを苦しめてきたイラン製自爆型UAV「シャヘド 136」や亜音速巡行ミサイルを多数撃墜するなど、その評価を一転させた。撃っているのは35mm高射砲弾なのだから、ミサイルより遥かにコストは低く、逆に撃ち落とされる方が高くつくようになった。新しい時代の兵器と既存の兵器に対抗する手段として、消え行くかと思われた高射機関砲が存在感を放ったのである。
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〔最終更新日:2024年01月10日〕
最終更新:2024年01月10日 01:32