第33話のあらすじ
…偶然にも地球の怪獣ムルチを封印することに成功したメイツ星人は、
そもそもは地球の測量を目的にやって来た善良な宇宙人であったが、
彼は地球の大気汚染の影響で衰弱し、地中に隠した自らの UFOを呼び出せなくなったため、
母星に帰れず、心優しい地球人の孤児・佐久間 良に匿われ、廃墟で共同生活を送っていた。
佐久間少年はそんなメイツ星人に代わってUFOを探すため、一人で誰にも事情を告げず河川敷を掘り返しまくっているのだが、
そういった奇行や、少年の周囲で度々起こる怪現象(=メイツ星人が虐められる少年を守るために陰から使った超能力)に地域の市民は不信や畏怖を募らせ、
やがて暴徒と化した民衆から少年を庇ってメイツ星人は惨殺されてしまう。 *1
そして彼の施した封印から解かれたムルチが地中より復活し、暴れ出す……。
同じ宇宙人であり地球人でもある主人公・郷秀樹(= ウルトラマンジャック)は最悪の事態を避けようと奮闘するが結局失敗し、
上記の経緯故、人々の悲鳴に対しこの項目冒頭にもある怒りの呟き、
「勝手なことを言うな。怪獣をおびき出したのはあんた達だ!」を口にして一時は戦いを拒む。
しかし、やはり怪獣から逃げ惑う地球人を見捨てることは出来ず、郷はウルトラマンへと変身し戦闘を開始、
豪雨の中の激闘の末にスペシウム光線でムルチに止めを刺すのだった。
佐久間少年は、メイツ星人が死んだ後も穴を掘り続けた。
それを眺めていた郷と仲間たちは、少年がこの星に愛想を尽かし、地球に別れを告げようとしているのだと思わずにいられなかった……。
このエピソードは「11月の傑作群」の1つとされていて、ファンの間では特に高い評価を得ている。
また、宇宙人と疑われた少年に対して凄惨な仕打ちをする人々や正体を明かしたメイツ星人への仕打ちなど、
差別と偏見、異形の存在を恐れる人間の心に潜む恐ろしさを表現したシリーズ屈指の問題作とも言える。 *2
なお、「傑作群」という呼び名のため誤解されやすいが『帰ってきたウルトラマン』は別に 社会派作品や実験作品というわけではない。
他にも特撮ヒーロー作品としてストレートな方向で面白い話は多いので、誤解なきよう。
どちらかと言うと、「11月の異色作群」が正しい表現である。ストーリーや演出的に考えて。
とはいえウルトラシリーズは巨大ヒーローを扱った作品であるのは確かだが、
同時にSFとしての側面を色濃く持つ作品でもあって、 こういうエピソードが挟まれることは少なくない。
単なるヒーロー物と捉えず、違った視線で見ると面白いのではないだろうか。
「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、
一旦その手に刃を握るとどんな残忍極まりない行為をすることか」
後述のゾアムルチの存在もあり、よくメイツ星出身の怪獣と誤解されがちだが(当時の学年誌にもそう記載されたことがある)、
上述したようにれっきとした地球生まれの怪獣である
(ただしサブタイの「怪獣使い」に思い当たるのが他にいないので「当初はメイツ星人のペット設定だったのでは?」という説も存在する。
もっとも劇中描写を見る限り、仮にそうでも勝手にムルチが暴れてメイツ星人が止めていたとかいった状況だろうが)。
放映当時の70年代前半から現れ始めた、環境汚染によって生まれた奇形魚がモチーフなのだとか。
ついでに「メイツ星人」という名も、メイツ=mate(英)=「仲間、相棒」という皮肉ぶり。
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メイツ星人に対する悲しい現実 |
2001年に出版された「空想科学読本」シリーズの兄弟『空想法律読本』第1巻では、
「日本国憲法3章では宇宙人に基本的人権を認めていないので、
日本にいる限りメイツ星人に生命の保障をする必要は無い。
よって、宇宙人相手ならいくら残忍にブッ殺そうが民衆も警官も無罪!」
という非情の結論で〆られていた。哀れ。
尤も、宇宙人にも基本的人権を認めると、
ウルトラマンが活躍出来なくなってしまう(宇宙人を倒すと良くて過剰防衛、最悪殺人罪に問われる)ので 仕方ないとも言える。
なお、『空想法律読本』ではメイツ星人の検証以後は、「宇宙人にも人権を適応すべきだ!」と主張した上で、
(ウルトラマン含む)宇宙人も“人間”(=外国人)扱いし、人権を適応した上で検証を行っている。
宇宙人ネタを全て「人権が無い」で片付ける様な本じゃ売れるわけないし。
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ただしメイツ星人側に全く非がないのかと言えばそんなことはなく、宇宙人の侵略が頻発していた時代に、
無断で地球に侵入して環境調査を行うのは侵略のためのスパイ行為と取られても仕方なくもある微妙な行為であり、
後述する『 ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』ではメイツ星の側でも、
「地球人の同胞に対する虐殺を追求しない代わりに、こちらの無断侵入と調査についても謝罪しない」
とされており、このメイツ星人の存在自体が故郷と地球の両方でタブー扱いされているという、これはこれで酷いことが語られた
……なんというか、とことん報われない人である。
余談だが『 ウルトラセブン』に登場する アンノン星人と ペダン星人は、
「地球の観測ロケットを侵略のためのスパイ行為と見なして報復攻撃に来た」と言う立場が逆の話である。
いずれもそれぞれの惑星に知的生命体はいない、という地球側の誤認が生んだ誤解であったが、
こちらもこちらで軽率と言えるだろう。前者は幸いにもセブンの説得で事なきを得たが、後者は……。
更にはメビウスの防衛組織GUYSが所持する歴代防衛組織の記録「アーカイブドキュメント」では、
メイツ星人事件や ジャミラの正体に関しては一般隊員閲覧禁止の「ドキュメント フォビドゥン」に分類されており、
(ジャミラの話ではあるが)公表しようとした人物に対しては非合法手段(冤罪)をもって排除していた
ここを開く際の「人権を保障出来ない」という警告は
そういう意味
である。
その『 ウルトラマンメビウス』では、強化型の ゾアムルチが登場している。
第32話『怪獣使いの遺産』にてメイツ星人ビオ(実は殺されたメイツ星人の息子)が連れてきた怪獣であり、
過去に密かに地球を訪れた際回収した、帰マンが倒したムルチの細胞を元に再生・改造した個体である。
ベースとなったムルチとは異なり、口から青い破壊光線を発射する。ビオの脳波によって操られており、彼の感情に応じて行動する。
ビオはメイツ星と地球との和平の使者として訪れ、ミライ(メビウス)に近付いてあくまで穏便にことを進めようとした。
だが、過剰に警戒したリュウ隊員に撃たれた *3ことで激怒、父の復讐も兼ねて円盤とゾアムルチによる破壊活動を開始。
その後、かつて殺されたメイツ星人と共に暮らしていた少年に昔会っていたという保育園の園長の説得と、
その教えを受けた子供達が見せた優しさに思い留まるが、理性では理解しても憎しみという感情自体は消せず、
メビウスに「私の憎しみを消し去ってくれ!」とゾアムルチを倒すよう懇願。
こちらも雨の中での戦いとなり、最後はメビウスのメビュームシュートを受けゾアムルチは倒された。
その後ビオは謝罪し、リュウも撃ったことを悔い改め和解。
握手を求められたことに対しては「父の遺産の咲かせた花を認めてから」と言い残したものの、
メイツ星と地球との間に、ひとまずの友好関係が結ばれた。ビオはミライとリュウに見守られ、地球を去る。
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小説版『アンデレスホリゾント』 |
この話の脚本を手がけた朱川湊人氏が書いた小説版『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』では、
ビオの目的はもっとストレートに、
平和使節を口実に地球に侵入し、わざと挑発的な言動を繰り返して攻撃を受けることで 「地球人は和平の使者も攻撃する野蛮な人種」ということにして地球攻撃の大義名分を手に入れ、 父の復讐を果たすことだと語られている。
最後も改心などはせず、彼と似たような境遇にある地球人が自らの命を投げ出そうとした所を助け、
地球人という存在全体を見極めるためにゾアムルチを地中に封印して地球に残っている。
なお、前述した通りメイツ星ではあの事件に関しては全てタブー扱いになっており、ビオは故郷に帰ると死刑は確実らしい。
(そもそも親善大使として行ったのに戦争を誘発しようとしたのだから、タブー扱い関係なく重罪であろう)
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ちなみに円盤を掘っていた少年は青年になっても諦めずに円盤を掘り続けており、
最終的には恐らくメイツ星に行けたと思われる……というより信じたいものである。
「彼は地球にさよならが言いたいんだ」
……と、メイツ星人について中心に語ったが、ムルチ(ゾアムルチ)からしてみれば、
せっかく生き返ったのに改造されて、更に故郷にやって来たと思ったら操られて殺されるという、
何とも不遇な生涯である。
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