倫理とは何か 終章












あとがき







私の考察
 こういう本が出版され、どこの本屋にもは売っていないにしても、比較的大型の書店に行けばたやすく買えるのは、私にとっては救済である。安心である。息苦しさからの解放である。永井均さんには心から感謝する。
 おそらく、私は永井さんがいなければ、永井さんの著作と出逢わなければ、この世を生きる寄る辺なさに絶望して死を選んでいただろう。
 私には、この世には生きる価値が何処にもないことを論理的に断言してくれる人が必要であった。自分の内で考えただけの論理で納得することは容易にできることではない。自分の考えは間違っているのではないか、自分は狂っているのではないかという疑いや惑いに常に取り憑かれるからだ。
 他者からの意見も合わせ、この世は生きる価値がないと論理的な確信を得ることによって、そこから生への僅かな望みが生まれてくることはあり得る。現に私がそうだからだ。絶望を確信することで絶望から逃れられるのだ。いや、もう少し正確に云うならば、私は、自分の思いを正確にまとめられない寄る辺なさに絶望していたのであって、この世に生きる価値がないことそのものに絶望していたわけではない。
 この世には生きる価値がないのではないかと漠たる思いの中に何年も漂い続けることの方が、精神を回復不能なまでに疲弊させてゆく。おそらく、夏目漱石の「行人」はこの心理をお兄さんに投影して書いたものだろう。






























永井均「倫理とは何か―猫のアインジヒトの挑戦」(ちくま学芸文庫)
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最終更新:2011年08月30日 06:15
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