倫理と法律を巡る考察
法律を作っているのは誰か。
永井均「倫理とは何か」(ちくま学術文庫)を読むにつけ、この本に書いてあるような哲学的な倫理の考察をしたことが一度もないであろうごく普通の一般的な人たちが、立法府の人間を投票によって気軽に選んでいることや、選ばれる方も同じように、倫理や法学を学んだこともないタレント議員が時として立法府の人間となったり、たとえ元は弁護士であっても、その中には現行法の知識を持っているというだけで倫理とは何かを考察したことがない者の方が多いであろうことに、現実社会は恐ろしいほどの危うさで成り立っているのだと戦慄せずにはいられない。倫理が何かを知らない者が法律を作る恐怖である。
とはいえ、理屈が先にあってからこの世が作られたわけではなく、現実世界の方が先にもう存在していたわけで、原初の混沌とした世界から少しずつ修正を加えて、今のような、どうにかこうにか人々か概ね安定した暮らしを営んでいる社会が作られてきたのだろう。
例えば、自転車を盗んだ者の刑罰が、死刑であってはならない理由は何か。
軽罪にも重罰を加えた方があらゆる悪を根絶できるのではないかと短絡的には考えられるが、これが否定される理由は何か。
あらゆる法案の一つ一つを国民投票で決定するよりも、法律を作製する人間を国民投票で選ぶ方が、合理的だとする根拠は何か。
そもそも、立法府の人間を選ぶための一票が与えられているという、たったそれだけのことで、民主主義国家に暮らす人民としての権利が保証されていることになるのだろうか。もちろん、何にも与えられていないよりはマシではあるのだが。
.
最終更新:2011年06月27日 15:11