構造を書き出してみる。
一.生きること。図書館の女。尼ヶ崎。5-12.8
二.彫眉。セイ子ねえさん。アヤちゃん。13-31.19
三.臓物。向かいの部屋。晋平。32-40.9
四.はがき。さいちゃんの怒り。41-46.6
五.詩。アヤ子の兄。晋平蜂に刺される。47-60.14
六.過去。さいちゃんの酒。61-69.9
七.新興宗教のちらし。童話。電話ボックス。さいちゃんへお礼の言葉。70-84.15
八.アヤちゃんの背中。セイ子ねえさんのお礼。85-90.6
九.アヤちゃんからの櫻桃と忠告。91-95.5
十.晋平の蝦蟇。絵を描くのは嫌い。96-101.6
十一.蝦蟇が死んだ。晋平の石で怪我をする。彫眉にどやされる。102-107.6
十二.京都の病院に行く。晋平。知らない女。電話ボックスで鎌をかける。監視。108-122.15
十三.タクシー会社。アヤちゃん。123-130.8
十四.血だらけのコック。彫眉の箱。セイ子ねえさんの盆栽。131-135.5
十五.淀川の土手。アヤちゃんとの情交。136-141.6
十六.裸身の残像。142-144.3
十七.アヤちゃんの残像。セイ子ねえさんの忠告。145-152.8
十八.アヤちゃんに動きはない。晋平の折紙。箱のこと。153-163.11
十九.山根。セイ子ねえさん。164-180.17
二十.山根の要求。晋平消える。仕事は終わり。アヤちゃんもいないらしい。181-190.10
二十一.さいちゃんは来ない。箱を運ぶ。アヤちゃんのメモ。191-199.9
二十二.部屋を去る。駅を彷徨う。アヤ子と落ち合う。連れ込みホテル。迦陵頻伽。200-223.24
二十三.アヤちゃんと彷徨う。224-250.27
二十四.アヤちゃんと別行動。再び落ち合う。赤目四十八瀧。251-271.21
主人公の年齢と出来事
空襲の前の日に生まれる。酉。昭和二十年。
会社を辞める。二十七歳。無一文になるまで失業生活。
二十代の終わりに無一文になる。二十九歳。
物語の舞台。尼崎の出屋敷へ来る。今から十二年前。失業して六年目。三十三歳。冬。
三十四歳。夏。物語の終わり。
昭和五十八年夏。再び東京へ戻り会社勤めをする。三十八歳。九年間世を失い、十一年ぶりの会社勤め。
四十三歳。肝臓疾患。今から二年前。
現在。東京に戻ってから七年。四十五歳。
こういう私のざまを「精神の荒廃。」と言う人もいる。が、人の生死には本来、どんな意味も、どんな価値もない。その点では鳥獣虫魚の生死と何変わることはない。ただ、人の生死に意味や価値があるかのような言説が、人の世に行われて来ただけだ。従ってこういう文章を書くことの根源は、それ自体が空虚である。けれども、人が生きるためには、不可避的に生きることの意味を問わねばならない。この矛盾を「言葉として生きる。」ことが、私には生きることだった。
一.より抜粋
…が、そういう話の合間に、当然、私をちらりと見遣る。私も見る。見るのが恐いような美人である。目がきらきらと輝き、光が猛禽のようである。私は目を逸らす。
併しその目を逸らすふりのうちに、この若い女の全身を見て取る。すると女は目敏くそれと察知して、右手で軽く胸をかばうような仕種をし、また私を見遣って、目を伏せる。その目を伏せる時にだけ、この女の中に隠されているらしい暗いものが顔に現れる。伊賀屋の女主人が目の隅で、鋭く私を返り見る。私は横を向く。併しその瞬間、も一度、女の姿を窃み見る。見ずにはいられない美貌であり、黒髪が匂うようである。
二.より抜粋
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最終更新:2014年02月20日 18:19