軍の高官(鋼の錬金術師)

登録日:2020/07/05 (日) 00:08:11
更新日:2020/07/21 Tue 00:31:07
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軍の高官(鋼の錬金術師)とは、アメストリス軍の上層部に所属する、将官以上の軍人たちである。
ここでは中央(セントラル)の大総統府に所属する、「ある共通点」を持つ高官のみを指し、東方軍など各方面の司令官などは除外する。


【概要】

序列としては大総統であるキング・ブラッドレイの次に位置するものの、独裁国家であり、さらにブラッドレイ自身に強いカリスマとリーダーシップもあるため、彼に対して意見する権力などはない。
立場としては皇帝である大総統の意志を忠実に実行する高級官僚のようなもので、これに対して各方面の司令官は封建諸侯のような立場と言える。

以下ネタバレ


























へぇ…

一般人を犠牲にしてあんたら高官が不老不死を得て世界を統一する……ねぇ

「ある共通点」とは、ブラッドレイがホムンクルスであり、「お父様」の部下であるという事実を知ったうえで従っているということ。
アメストリスがお父様の野望を実現するために作られた国家であることも、お父様の最終目的も知らされている。
というより、お父様によって不老不死を与えられることを条件に軍の兵士たちも国民も欺いている。
お父様との戦いがキンブリーによって「人間と新たな人間と名乗るホムンクルスとの勝負」と表現されている以上、そのお父様に付いているこの高官たちは「売国奴」というよりは「人類の裏切り者」と言った方が正確だろう。

軍の兵士や将校たち、あるいはホムンクルスたちも各々の想いや信念を抱えていることが描かれているのに対して、この高官たちは不死への欲望から兵士や国民を犠牲にして恥じない、純然たる悪役という立ち位置にいる。



【個別概要】


○レイブン中将

CV:宝亀克寿

「さぁ、早くこの穴を塞いでくれ。ブリッグズの諸君よ。君達は秘密を分けあった…同志だ」

褐色肌に髭面の初老の男。いつもニコニコと笑顔を浮かべ、「がははは」という笑い声が特徴的な豪快な男。
気さくな大人を装っているが、実際には狭量かつ小心で、人使いも荒い。普段は柔和な笑顔を浮かべているものの、時折針のように鋭い目つきを見せる。
ブラッドレイがホムンクルスだと知り、軍高官に味方を得ようとするマスタングの前に現れ、その鷹揚な態度で彼に「信頼できるかも」と思わせたものの、その直後にブラッドレイ本人の前に彼を案内し、本性を現した。

その後、エドとキンブリーを追うようにブリッグズに現れ、司令官のオリヴィエもろとも北方軍を取り込もうとする。
その際、ことあるごとにオリヴィエにボディタッチをしようとするなど、品性下劣な態度を見せつけてオリヴィエを激昂させている。

お父様による国土錬成陣を作成中のスロウスが北方軍と交戦して捕獲されたことを知り、大総統の権力を背後にしてオリヴィエにスロウスを地下に戻して穴をコンクリートで塞ぐことを強要。*1

オリヴィエがその言葉に従ったのを見て、オリヴィエと北方軍もまた自分たちの配下になったと確信するが、それは一時凌ぎのカモフラージュに過ぎず、工事の最中にオリヴィエに不意打ちで腕を刺され、

言ったでしょう。新たなイスなど不要と。
その腐りきった尻を乗せている貴様の席をとっとと空けろ。
老害!!

という啖呵とともに真っ向両断され、コンクリートの中に叩き込まれて文字通り「礎」となった。
オリヴィエに突然刺された直後、自らの拳銃を取り出して反撃しようとするなど、軍人らしい気骨もある模様。
オリヴィエからも、「貴方も昔は本気でこの国を想う若く気高い軍人であったでしょうに」という言葉を送られている。
東方司令部のグラマン中将とも旧知の仲で、彼にも不死を餌に勧誘したが一蹴された。



○ガードナー中将

CV:糸博

「では『人を作るな』は? なぜ人を作る事を禁止している?」

痩せぎすの細面に眼鏡をかけた、学者のような雰囲気の初老の男。
ブラッドレイと取引し、ブリッグズの指揮権と引き換えに中央軍に席を得たオリヴィエに、ホムンクルス側が密かに開発している人形兵の存在を教えた。

19巻末の次回予告に冒頭の台詞とともに登場し、国家錬金術師の三大制限「金を作るな」「人を作るな」「軍に逆らうな」の理由をオリヴィエを通して読者に教えるという重要な役割を果たす。
ちなみに内容は「軍に逆らうな」は言わずもがな、「金を作るな」は経済の混乱を避けるため。*2
「人を作るな」の真実は「個人が強力な軍隊を持たないようにするため」、つまり人造技術を軍上層部が独占するためという、あまりにも身もふたもない理由であった。
無数に吊り下げられる人形兵をバックに佇むガードナーの場面は鬼気迫る迫力で、まさに軍上層部の闇といった雰囲気がある。
彼はレイブンやクレミンのようにあからさまに傲慢な態度こそ見せないものの、「戦場は(人形兵の動力にするための)大量の魂を手に入れる猟場となるのだよ」と嘯くなど、残忍さでは引けを取らない。

その後、後述のフォックスとともにオリヴィエを見張っていたものの、オリヴィエがフォックスの腕を切り裂いた瞬間、彼がオリヴィエに突きつけていた拳銃を向けられて自分の銃を抜くことすらできず、そのままあっさりと眉間を撃たれて殺された。



○クレミン准将

CV:勝沼紀義

「貴様ら下の者は知らんでいい。さっさと行け」

褐色の肌に禿頭の男。どこかモアイ像を思わせる、厚ぼったい唇と瞼が特徴の、典型的な部下を虐げる悪徳上官。
高官たちの中でも一際高圧的で、ことあるごとに部下に怒鳴り散らすなど、とにかく横暴。一番現実にいてほしくない、しかし残念ながらどこの会社にもいそうなタイプのクソ上司である。

セントラルにおける中央軍の実質的な指揮官でもあるようで、「約束の日」を前に決起したマスタングと、互いに部隊を率いてセントラルで交戦する。
その際、マスタングがブラッドレイ夫人を人質にしたことを知りながらも「大佐の部下ともども夫人には消えてもらえ」と即座に見捨てるなど、ブラッドレイに対してすら人間的な感情をかけらも抱いていないことが伺える。*3
この態度が、最初は決起したマスタングを恐れていた夫人をマスタングに協力させるきっかけともなってしまった。

マスタング側にブリッグズ兵が加勢し、さらに人形兵の暴走が始まると戦況は膠着状態に陥るが、ラジオ・キャピタルの放送で夫人が中央兵の殺意を証言し、ブレダ少尉が「上層部にブラッドレイを排除しようとする一派がいる」と宣言したことで、クレミンは不利な立場に陥る。
ブリッグズの戦車も現れて戦闘そのものも劣勢となると、逆上したクレミンはついに住民ごと砲撃を命じようとするものの、直後に作戦本部に乱入したバッカニア大尉に捕縛される。

その後、お父様による国土錬成陣の発動が近づくと、自分を捕らえているブリッグズ兵たちに「早く練成陣の中心へ行くんだ! ここではだめだ!」と、椅子に縛られたまま必死に足掻き、死への恐怖に怯えながら魂を奪い取られた。
その直後にホーエンハイムの策によってアメストリス人の魂が返還されると、クレミンもまた「……生きてる」と、涙と涎を垂れ流しながら生の実感を味わった。
何のかんので、最も目立った高官だと言えるだろう。

戦後、「悪しき錬金術の大実験を企てた軍上層部の暴走を防ぐためにマスタングとオリヴィエが決起し、ブラッドレイとセリムは混乱のどさくさで死亡した」というシナリオをスムーズに動かすため生き残ったエジソンと共に拘束・連行される。



○フォックス

「調子に乗るな女郎! 貴様らブリッグズの山猿どもなどひねりつぶして――」

CV:ふくまつ進紗

黒髪の坊主頭に鋭い視線と口髭の男。大総統府の、ブラッドレイとお父様不在の会議室で、ガードナーとともにオリヴィエを見張っていた。
「まだマスタングは捕まらんのか。何をやっとるのだクレミン准将は」と、自分は指一本動かそうともしないで、働いているクレミンにケチを付けていた。
笑顔で挑発を続けるオリヴィエに凄みをきかせるが、蛙の面に小便であった。
密かにオリヴィエが招き寄せていたブリッグズ兵がマスタングに加勢して参戦すると、オリヴィエに拳銃を向けて兵を引かせようと脅すが、百戦錬磨の達人オリヴィエには全くかなわず、銃を向けていながら引き金を引く暇すらなく居合切りで銃を握っていた腕を切り裂かれた。この場面はグロいので注意
そのまま傷口に剣をねじ込まれ、つい数刻前得意げに語っていた「変化するために痛みを伴うのは仕方の無い事だ」という屁理屈を、その身にそっくりそのまま返される羽目になった。

その後、右腕を半ば裂かれた重傷のまま、オリヴィエに剣を突きつけられて中央兵の前に引き出され、兵を引かせるよう強要されるものの、足を突き刺され、直後に殺されかねない状況の中で兵たちに閉門を命じるなど、土壇場で根性を発揮。
オリヴィエからも「腐ってはいるが根性無しではないようだ」と称賛されたが、その直後、オリヴィエに不意打ちで掌打を放ったスロウスの誤爆を受けて叩き潰された。肝心のオリヴィエには避けられてしまうなど死に甲斐のない最期であったが、後述の短い白髪に口髭の男に比べれば、一瞬で死ねただけ、まだましかも知れない。



○短い白髪に口髭の男(名称不明)

高官たちの中でも特に出番の少ないモブの一人。
いつまで経ってもマスタングたちを倒せないことに業を煮やし、人形兵を起動させる暴挙に出る。
起動した人形兵に「よーしよしよし、いいか、パパの言う事聞けよ」となだめようとするが、その直後、複数の人形兵によってめちゃめちゃに噛み千切られ、自業自得とはいえ高官たちの中でもとりわけ凄惨な末路を辿った。
彼自身はそれで終わったものの、彼のしでかした行為そのものは始まったばかりに過ぎず、暴走した人形兵はさらに戦場に泥沼の混乱をもたらしていくことになる。



○短い白髪にほうれい線と鷲鼻の男(名称不明)

高官たちの中でも特に出番の少ないモブの一人。
クレミン率いる作戦本部にも大総統府の会議室にもいなかった、この状況で一体何をしていたのかよくわからない人。*4
作戦本部が陥落した時、部下を連れて大総統執務室にこもり、そこを本部にしようとする。
そして大総統のイスを前に魅惑され、「この危機を乗り切れば」と、自分がそのイスにすわることを夢想したが、その瞬間、部屋に乱入してきた人形兵たちによって、短い白髪に口髭の男と同様の末路を辿った。
ちなみに大総統のイスは後にその場にやってきたオリヴィエからは、「こんな狙撃され易そうな場所に座る奴の気が知れんわ」と酷評された。
ブラッドレイなら狙撃されても避けられるかも知れないが、他の奴には無理であろう。



○エジソン准将

CV:天田益男

「おまえらは我々の命令を聞くように作られてるんじゃなかったのか! あのお方は我々にウソを言っていたのか!?」

サンタクロースを思わせる豊かな白髭に眼鏡の高齢の男。
顔だけ見れば温和なおじいちゃんといった風情で、態度そのものは主な出番の中では終始怯えた態度しか取っていなかったため詳しい性格は不明。しかし、発言の節々から、彼もまたホムンクルス側の高官たちの独善的な考えに染まり切っていたこと自体は見て取れる。
顔こそ初期から出ていたものの、高官たちの中では、主な出番は最も遅い。大総統府を占拠完了したオリヴィエたちに彼の尋問が行われたのは、お父様とホーエンハイムグリードたちとブラッドレイの死闘がすでに始まった後のことである。

上述のモブ二人と同様、人形兵に食い殺されそうになった所をイズミに助けられ、そしてそのまま捕虜にされて内幕をあらいざらい吐かされた。
その時、イズミの前でこともあろうに、幼き日のエドとアルが必死の思いで真髄を会得した「一は全、全は一」という言葉を自分たち軍高官の都合のいいように解釈して見せるという、虎の尾を踏み龍の逆鱗に触れるごとき真似をしでかした挙句、便所スリッパではたき倒された。
その後、真実を知った中央兵たちから階級章や制帽を三行半代わりに投げつけられ、がっくりとうなだれた。

全てが終わった後はクレミンと共に事件の首謀者として国民の前に突き出された。彼らがその後どうなったかは描かれていないが、大総統の死に関与したクーデターの首謀者となれば、極刑は免れないと思われる。



○ゲルトナー

CV:てらそままさき

「アームストロング少将がおらずともこの戦果、すばらしい! さすが一枚岩と名高いブリッグズだな!」

黒髪と黒い口髭の男。うっすらと長めのもみあげも顎まで生えている。
レイブン中将を斬って、その後任の座を要求したオリヴィエの代役としてブラッドレイから派遣された新任の北方軍司令官。
ドラクマの侵攻の際にマイルズたち北方軍がドラクマ軍を瞬殺した光景を見てその実力を賞賛したり、
東方軍との合同演習では北方軍を褒めたグラマンに「仕上げたのは私ではなくアームストロング少将なのですが」「東軍こそ良い面構えの者が多いですね」と発言するなど、態度は冷静かつ温和なもの。

「約束の日」の人類とホムンクルスの決戦以降の動向は不明。マイルズらが行動を起こす際に捕縛か抹殺されたと思われる。



【余談】

軍の高官たちに共通する思想として、

「物事は大きな目で見なくてはならない。自分たちの計画は世界のためになることだ」
「選ばれた者である自分たちが高みに登り、アメストリスが世界を変える」
「世界は疲弊している。誰かが生まれ変わらせる必要がある」

といった弱肉強食思想らしきものがある。
特にホムンクルスたちやお父様と考えを共有していた様子はないため、高官たちが自分たちの人類への裏切りを正当化するために作った思想なのだと思われる。
あるいはイシュヴァール、あるいは地下道やブリッグズで、敵も味方も信念や命をかけて生き抜いてきた中、安全な場所でぬくぬくと強者に守られながら弱肉強食を口にする彼らの態度は笑止千万でしかないが、悲しいことながらこうした腐敗高官はいつの時代、どこの国にもいるものである。
その人間の普遍的な業を描くという意味でも、軍の高官たちの描写もまた『鋼の錬金術師』の人間描写に深みを与えることに寄与しているのかもしれない。

また、
「国民や兵士を犠牲にして高官が不老不死を得て世界を統一する」
という計画をエジソンが供述していたが、全てが成就した時にお父様やホムンクルスたちが高官たちを切って捨てはしないかという疑問もある。
ラストエンヴィーは人間そのものを見下していたが(例:「今の繁栄も自分達の力だけで成し遂げられたと思ってやがる!」というエンヴィーのセリフなど)、その中に、自分自身のものでもない力で威張る人間の典型である高官たちが入っていないとは思えないのではないか。

実際クレミンが囚われていた時もお父様は躊躇なく国土練成陣を発動していたが、これの場合は非常事態だからやむを得ずそうしただけで、全てが順調に行っていたならちゃんと高官たちにも不死を与えていた可能性もないとも言い切れない。
そして引き続き人間社会を治めるための道具として高官たちを仕えさせることも有り得たかも知れないが、作中における彼らの無能かつ無責任な様子を考えると、やはり用が済んだらそのままお払い箱となっていた可能性も低くなさそうである。

余談の余談ながら、『バッカーノ!』でもよく似た状況で、錬金術師のセラードが権力者たちを協力させて不死の薬を作ろうとしていたが、彼の場合、事が成ったら権力者たちのことは早々に切り捨てようと算段していた。



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最終更新:2020年07月21日 00:31