空想科学読本

登録日:2011/09/05 Mon 19:33:20
更新日:2020/03/19 Thu 00:44:08
所要時間:約 14 分で読めます










ゴジラは生まれた瞬間に圧死する。







空想科学読本とは、柳田 理科雄(やなぎた りかお)氏が書いた空想世界の考察本である。

その内容は「もし空想世界のあれこれを現代科学で無理矢理再現するとどうなるか」と言う小さい子供にとっては
夢をぶち壊す本であるが、ユーモア溢れる文や挿絵等から読者にウケて、ベストセラーシリーズとなった。

そもそもなんでこんなしょーもない本が世に出たのかと問えば、それは宝島社から『空想科学読本』の第一弾が世に出た1996年…
からさかのぼること1年、1995年まで遡る。
当時経営していた私塾『天下無敵塾』で教鞭を握っていた柳田は、天下無敵塾のチラシを書いていたイラストレーターのモリナガ・ヨウから
勧誘を受けて、宝島社から出た特撮のおかしな点に突っ込みを入れる本の第三弾『帰ってきた怪獣VOW』にて科学考証コラムを執筆することとなった。
(ちなみに内容はウルトラセブンの巨大化/ミクロ化、妖星ゴラス、ガメラの体重、冷凍光線、『特捜エクシードラフト』のバリアス7の最高速度の計五つ)
これが予想外にウケが良かったことから、明くる96年、天下無敵塾の経営に行き詰まりつつあった柳田は親友の近藤隆史から
「柳田、例の科学コラム面白かったから、今度はそれだけで1冊書いてみねーか?」と言われたのである。
経営難に苦しんでいた柳田氏は、塾を立て直すための一助になるんだったらとの思いで執筆を許諾。
そんなわけで書かれた『空想科学読本』は誰一人予想していなかった100万部を突破することとなったが、
印税を手にする前に天下無敵塾は倒産した。あらら。
以降は宝島社で2巻まで刊行していたが、宝島社が勝手に文庫化を推し進めようとしていたため柳田との仲が険悪になり、
メディアファクトリーに近藤氏が移籍したのに伴いレーベルもメディアファクトリーに移った。
ちなみに背表紙が灰色で黒文字(初版は黒字に白文字)であれば宝島社版、カラフルな背表紙に白文字であればメディアファクトリー版である。

『空想科学読本6』以降は読者からの質問に答えるのが中心になっており、『6.5』『9』、外伝の『ミドリ』などを除けば
毎週学校などにFAX配信している「空想科学図書館通信」を収録したものになる。
また、児童書レーベルの角川つばさ文庫からも、小学生向けの作品の考証が主に再収録された『ジュニア空想科学読本』が刊行されており、
2019年以降は本家ナンバリングとジュニア版の累計巻数が逆転するなど、
現在はどちらかといえばジュニア向けレーベルが主流になりつつある感がある。

その他、『空想非科学大全』*1『空想科学「漫画」読本』『ラジオ空想科学研究所』『空想科学のツイッター』など、
『空想○○~』を冠した柳田氏の著作だけでも膨大な数が現在に至るまで発表されている。
中には、読本シリーズと同コンセプトの作品を手掛けた他作家と、対談形式で記された共著『空想科学論争!』というのも。

近藤ゆたか氏のイラストも大半はもし使えばこうなりますと言わんばかりに
ウルトラ水流を発射したウルトラマンが強すぎる勢いが原因で転んで頭を打ったり、
ドラえもんがタケコプターを使うと体がバラバラになってタケコプターは付けている部分の皮だけが残ったり
など、
非常に現実的な描写が描かれている。



しかし、一部の検証は公式の設定を無視して研究している所も多々ある。
例えば、超常的能力や超科学など現代科学ではないものをはないものとして取り扱う(近年は無視する場合も注釈で公式の設定にも触れた上で考察しているが)。
後述する山本弘は「いくらコンピューターの原理が分からんからと言って、でかい算盤だと仮定する奴がこの世にいるか」と語っている始末である。

更に作者自身が多忙な事もあり、とにかく誤字脱字が山の様にある(『1』では隕石が光より速く落ちてくる、というとんでもない誤表記もあった)上に、
細かい設定を全く理解していないことも多い。
また、ファンタジーの知識にも疎く、「ドラゴン」と「ワイバーン」の差異がよくわからなかったこともある*2

まあ、ここら辺に関しては柳田氏自身の全く知らなかった作品を読者からの投稿で取り上げたり、そもそも原作未見の読者の為にはしょってる部分もあるので仕方ない。


更に、「そこに突っ込むの!?」という独創的すぎる切り口も本作の見どころである。
基本的に本作は「科学」の視点から創作物にアプローチしているが、
  • 人口が半分死んだら葬式と墓参りはどうなるのか
  • なぜ007の悪役はあんなに007に銃弾を当てることができないのか
  • サザエさんはドラ猫が咥えたような魚を一体どうするつもりなのか
  • 『ラストサムライ』で主人公たちが見上げている富士山は大きすぎやしないか
  • ウルトラマンタロウ』に出てくるZATのZがあらわす「Zariba」とは何なのか
  • 横山版三国志で徐庶孔明のことを「彼に比べれば私など満月と蛍」と言ったがそれはどのくらい明るさが違うのか
  • ハイキュー!!』に出てくる体育館の床はキュッキュと言い過ぎではないのか
  • のび太の担任の先生はなぜあんなに何度も道端で生徒と出くわしてしまうのか
  • コナン君事件に遭遇し過ぎではないのか(※読者からの質問)
などといった、はっきり言って本筋には全く関係のない部分に延々紙面を割くことも多く、読者の腹筋を粉砕してきている。


ちなみに、上記のゴジラの圧死に関しては、実は「ゴジラの身長体重は科学的に正しい」と訂正され間違いであった事が判明した。
ティラノサウルスの推定身長体重からの計算という方式によっていたのを、ゴジラの人形を沈めて体積を測るというより正確な方式に変更したゆえのことであるのだが。

これらの間違いに関しては本人も後書きや注釈等でしばしば謝罪している。
また、完全とは言えないが増版や新装版などの機会があるたび、修正がなされたり、注釈が追加されたりすることも多い。






なお間違いの指摘は柳田自身も歓迎している。
科学とは一人の力でなく皆の協力で発展していくものなので、科学的な部分でも各作品の設定部分でも気になるミスを発見した人は
アンケート葉書などで遠慮なく指摘してみよう。


なお、表紙は『非科学大全』や、『歴史読本』及び旧『法律読本』などの別作者の執筆した空想科学研究所関連書籍も含め
モリナガ・ヨウ氏がフィギュアを製作したジオラマ写真(隻眼のハカセと美人の助手のアレ)だったが、
『空想科学読本16』以降はリニューアルされ、近未来的なイラストに変更されている。











近年は全国の高校の図書館や図書室に毎週無料で配信している空想科学図書館通信の原稿を元に『ジュニア版』を出版している為、
年3巻ペースで新刊が出るなど、一時から考えると刊行ペースが異常に早まっている。
だが、あまりに『ジュニア版』が好調なので本編の『空想科学読本』は発行元から中々企画が通らない状態にある、と担当がぶっちゃけている。
実際最新刊の『空想科学読本17』が出たのは2016年で、もう4年近く新刊が出ていない。
そもそも『空想科学読本』は書店のどこの棚においてもしっくりこないらしく、返品が多いので書店側も扱いに困っているらしい。
(逆にジュニア版はしっかり角川つばさ文庫に所属しているので、児童文学の所においておけば自然と売れる)
担当曰く「子供とその親、中高生の頃に図書館通信を読んでいた若者世代以外は、もう『空想科学読本』が廃刊になってると思ってる人もいる」とのこと。


また、内容が内容なので批判の声もある。



断っておくと本シリーズは決してフィクション作品の挙げ足とりを目的としたものではなく、読者に科学技術への興味を持ってもらう事が主な目的である。
また、現代科学の視点から空想の世界を考察してトンでもない結果が出てくるということは、
逆に言えばそれだけ作中のヒーロー達が凄い事をやっているのだということでもある。この辺りについては柳田氏自身も自著の後書きでその事に触れている。
(ちなみに刊行当時は今ほど文筆の仕事に慣れておらず、『空想科学読本』の初稿を担当に見せた所、「これじゃただの揚げ足取りじゃねーか!」と叩き返されたと述懐している)

例えばタケコプターは実際には反重力で飛んでいるという設定があるが、
裏を返せば『現代の科学では不可能なタケコプターを22世紀の未来の科学の産物である反重力が可能にした』と言う事でもある。
『現実の科学で不可能な事を実行できる』という事は、それらが『現実の科学を超えた存在』という何よりの証明でもあるのだ。
空想科学シリーズがキッカケで理科や科学の授業、取り上げられた多くの作品に興味を持った人も多いのではないだろうか。
つまるところ山本氏の批判は、スタートラインからして間違っていたと言っても過言では無いだろう。

また、柳田氏も上述のような様々なミスの指摘に対しては前向きな態度を見せているため、氏に対して何かしら言いたいこと等があれば変に騒ぎ立てたりせず、
お手紙や公式サイトのフォームなどを利用して「礼節を守った上で」一言送るべきである。

柳田氏は空想科学を題材にしたラジオ番組やテレビ番組へ定期的に出演されている他、全国の学校やイベントでの講演活動や質問大会を積極的に行っている。
もし参加できる機会があれば柳田氏に直接質問をぶつけてみよう。またアンケート葉書や空想科学研究所公式HP、公式Twitterでも質問を受け付けている。
面白い質問なら次作で採用される……かもしれない。

その他、番外編にあたる「空想科学漫画読本」シリーズや、
「ゴジラVS柳田理科雄」、「イナズマイレブン科学研究所」、「進撃の巨人 空想科学読本」等では各作品の原作者サイドからの許諾、協力、要請を受けての研究、執筆を行っている。
また映画のパンフレットや公式ファンブックに寄稿していたりと割と各作品の製作サイドからは好意的な扱われ方をすることも多い。
(…と言う扱いであるが、柳田氏は研究所所長から「『銀魂』の試写会を見に行く!? お前が行ったら着席拒否されるぞ!」と言われたことがあるとぶっちゃけている)

さらに『空想科学大戦!』という『読本』シリーズをモチーフにした「科学的に正しいフィクション」では
巨人、改造人間、スーパーロボット、宇宙戦艦が数々の科学の壁にぶち当たって悪戦苦闘する姿をコメディに描きながら、
それでも命懸けで悪へ立ち向かっていく正義のヒーロー達への愛に溢れた傑作である。
端的に『読本』シリーズのスタンスを表現しているのみならず、お話としても純粋に面白いので、興味のある方はぜひ手にとって頂きたい。





なお、著者は宇宙センターのある種子島出身。地元では秀才でありあこがれの教授のいた京大を目指していたが東大にしか受からず、
結局やる気をなくして中退、塾講師に生きがいを見出し始めたあとに冒頭に至る。
ご先祖には種子島版エルトゥールル号遭難事件というべきドラメルタン号漂着事件で活躍した羽生太平がいる。

名前はこれからは科学の時代ということで付けられたとのこと。
つまり、著者の名前「柳田理科雄」は本名である。






追記・修正は科学的に検証してからお願いします。

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*1 内容は実質いつもの「科学読本」なのだが、タイトルのせいで番外編と勘違いする人が多かったのか、あまり売れなかったらしい。(空想科学読本3の「対照実験」の解説でそれとなく示されている)

*2 ドラゴンは四本足、ワイバーンは二本足。

*3 古い版では修正されていた時期があるのだが、何故か再び誤植されている。

*4 尤もこれは映像作品では全く描かれていない裏設定の類であり、長谷川裕一氏の『すごかが』でも核動力設定は無視されている。とはいえ、意図的に書籍設定を取り入れていない長谷川氏と異なり、柳田氏は大伴昌司氏の著作や仮面ライダースナックのカード記述などをむしろ積極的に検証に取り入れるスタンスのはずなのだが……

*5 この計算結果については、ザクが侵入したゲートの厚みとコロニーそのものの外壁の厚みの混同してしまった事で、コロニーの外壁を厚さ30㎝と仮定した場合の質量を基に計算していたのもこの検証結果となった原因の一つである。

*6 尤も、ストライカーユニットのプロペラは「飛行する魔法」が視覚化したものであって実体ではないため、「ストライカーユニットはプロペラで推進している」という根本的な誤解もされているのだが

*7 後に改訂版で「人類は滅亡しない」という結論になった。

*8 ジャイアント馬場が単位になっているのは作者がファンだからである。ちなみに宝島社の初版刊行時点ではまだ存命だった。

*9 例を挙げれば、山本氏は著作『クトゥルフ・ハンドブック』において、現在の観点では明らかにデマと判明している風説を鵜呑みにし、オーガスト・ダーレス氏を始めとするクトゥルフ神話の作家諸氏に対し人格攻撃を含んだ暴言や中傷を書き連ねるという行為に及んでいる。