伝説の金属

登録日:2018/03/15 Thu 23:25:50
更新日:2024/12/29 Sun 17:59:56
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この記事では主にファンタジー系作品で多用される伝説の金属について取り扱う。



【架空の金属】

◇ミスリル◇

伝説の金属でおなじみその1。「魔法銀」などの名で呼ばれることも。
元ネタはJ・R・R・トールキンの『指輪物語』で「より強く、羽より軽い上に、銀より輝いている」不思議な金属で、極めて希少な存在とされる。
魔法との相性が非常によく、魔法使いの武具に使っても魔法の扱いを阻害しないとされる。
また、「銀」の性質を持っているためか聖なる力を宿しており、アンデッドに対して非常に有効であることも。
総じて希少性を除けば大きなデメリットはなく、バランスの良い素材として扱われることが多い。

ファイナルファンタジーシリーズ』では装備品として頻繁に登場することで有名。
ただしFF1以外は序盤に出てきて鉄シリーズよりは強いぐらいの不遇ポジ。FF1のFC版だけ序盤に出てきてしばらく使い続けられるレベルの一品。
あまりにも場違いな値段と強さ故に移植版では売られている街が変更されたほど。
ドラゴンクエストシリーズ』では一部作品に「ミスリルヘルム」などが登場するぐらいで、「みかがみのたて」や「ゆうしゃのたて(ロトのたて)」などが「ミスリル銀」で作られたとされている程度。
アトリエシリーズ』では「魔法銀」で錬金素材として登場する。
フルメタル・パニック!』では主人公側の組織の名前であり、ミスリルに敵対する組織の名前は実在する水銀合金の「アマルガム」である。

余談だが、トールキンの作品では他に『ガルヴォルン』という金属も登場する。
シンダール・エルフの一人「エオル」が創り出した金属で、薄く打ち延ばされてもあらゆる刃や矢を防ぐほどの堅牢さを誇ったという。
意味は「黒い輝き」で、その名の通り黒玉のように黒々と輝くという。
しかし、認知度や利用度はミスリルとは雲泥の差…
また、ホビットと同様に出典が創作ゆえ、著作権などの関係から名称をズラして使われることも多い。


◇オリハルコン◇

伝説の金属でおなじみその2。オレイカルコスとも呼ばれる。
元ネタはプラトンの書いた「クリティアス」という書籍の中のアトランティスに関する記述。
ちなみに創作ではよくアトランティスは超古代文明として描かれているが、プラトンの記述を見る限り、オリハルコン以外に特にこれと言って優れた技術がある描写はない。

また「アトランティスと古代ギリシャは互角に戦った」という描写もあるので、古代ギリシャにもアトランティスに匹敵する超古代文明があったはずであるが、
「海に沈んだ超古代文明アトランティス」の話はあっても「アトランティスと互角に戦った超古代文明ギリシャ」の話は滅多にない。ロマンの差

創作ではかなりイメージの変遷があった金属であり、クリティアスの表現を見る限り単なる銅の一種で「硬い」とか「不思議な性質を持つ」という事はなく、単なる装飾品として扱われている。
恐らくは、黄銅(真鍮)のことだったのではないかと現在では考えられている。
「金に次ぐ価値を持つ」とあるので希少な金属なのは間違いなかったようだが、逆に言えば金には劣る程度の常識的な価値しかなかったことになる。
その後、オカルトブームで超古代文明やアトランティスが取り沙汰されると共に、「オリハルコン」という不思議な金属の価値も飛躍的に高まっていったと考えられる。
おそらく、日本では手塚治虫原作の『海のトリトン』のアニメ版が「オリハルコン」の名前を広めたきっかけと思われる(オリハルコンは原作にはないアニオリ設定)。

多くのファンタジー作品に登場しており、アトランティスなんて影も形もない作品でも平然と登場する。金属どころか宝石として登場する場合もある。
元々曖昧な記述しかなかったこともあり、作品によっては性質が大きく変わり、場合によっては「液体金属」なんて例も。
もはや金属ですらないものすらあり、あさりよしとおの漫画『ワッハマン』に登場するオリハルコンは「光を物質化するまで圧縮したもの」である。
変わった所では富士見ファンタジア文庫黎明期から刊行されていた『風の大陸*1』に置いて、魔術的に重要な『太陽の金属』とされておりその正体は【白金】*2である。

ドラゴンクエスト3』において王者の剣の素材アイテムとして有名。なんで牧場にオリハルコンが落ちてるんだ
ちなみにドラクエで最もよく登場しているオリハルコン製の武器は「オリハルコンの牙」である。メカバーンがたまに落とすドランゴ引換券の相棒
8』では錬金システムでの強力な武具や道具の材料となる。
ダイの大冒険』でも最強クラスの武具の材料として登場しており、オリハルコンでできた敵キャラも登場している。

仮面ライダー剣』では初期からのライダー2人の変身エフェクト(で有名なアレ)が「オリハルコンエレメント」、ライダーアーマーの装甲が「オリハルコンプラチナ」製とされている。
後者こそ超硬度の金属のようだが、前者に至ってはエネルギースクリーンともはや実体ですらない。

遊戯王シリーズでは遊戯王デュエルモンスターズのドーマ編にて「オレイカルコス」の名称でカード名や鉱石名等として登場しつつ*3、続編GXにて、「オリハルコンの眼」と別名称かつ全く別の存在として登場したりもしている。

悲惨な扱いのオリハルコンの一例としては『スレイヤーズ』が挙げられる。
この作品では全く強くなく、希少かつ魔法的に優秀な特性を持つので取引価格は高いものの「総オリハルコン製の剣」などは小枝一本斬るのがやっとというなまくらになってしまう。


◇アダマンチウム◇

伝説の金属でおなじみその3。「アダマント」「アダマンティン」「アダマンタイト」などの名で呼ばれることも。
本来は「アダマント」で「壊れない」という形容詞だが、そこに鉱石を意味する「-ium」「-ite」を着けて創作された金属。

特性は一言で言うと硬い。なにしろ語源がダイヤモンドと共通ですから。
ミスリルやオリハルコンと比べると、魔法的な特性よりもひたすら物理一辺倒な無骨さを持つイメージが多い。
それだけに、単純な物理性については非常に優れていることが多く、脳筋系武具の素材として出番がありがち。
また、非常に重いために扱える人が限られてしまったりと、癖のある性質を秘めていることもある。
なお、アダマントは「磁石(lapis adamans=慈しむ石)」を意味する語として用いられたこともあるので、特に古い文献ではどのような意味で用いられているのかは慎重に判断する必要がある。

元ネタはギリシャ神話における最硬の素材「アダマス」に由来されると言われ、ギリシャ神話に置いての神々の武具の材料として使われているとされており
ゼウスの頭をかち割ったアダマスの斧*4や、ペルセウスの怪物退治にヘルメスが授けた「ハルぺー」もまたアダマス製とされている。

尚、古代ギリシャは青銅器文明*5である事から、アダマスの正体は「鋼鉄」だと考えられている。*6

近年のフィクションではジョナサン・スイフトの『ガリバー旅行記』で、「飛ぶ島"ラピュータ"」の底面を構成する物質として登場する。
ラピュータは厚さ200ヤード(約182m)の1枚のアダマントの板により支えられており、これを磁石でコントロールすることで空中を思い通りに動かすことができるという。
その性質や文脈からみて、このアダマントは上述の磁石を意味している可能性も高い。
指輪物語では「アダマンティン」として名前だけ登場しており、金属の名前として広まったのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』から(D&Dでは「アダマンチウム」を使った合金が「アダマンティン」)。
『ファイナルファンタジーシリーズ』では「アダマンタイト」がエクスカリバーの素材として登場した他、アダマンタイト製のカメ「アダマンタイマイ」というモンスターがいる。
アメコミではウルヴァリンの材質である合金のアダマンチウムが有名。


◇ヒヒイロカネ◇

「緋緋色金」などとも書く、数少ない日本由来の伝説の金属として根強い人気を誇る逸品。「青生生魂(アポイタカラ)」とも。
ただし、その元ネタはすさまじく胡散臭く、『竹内文書』という書物で内容は

  • 古代日本には空飛ぶ船があった
  • 天皇家は世界を支配していた
  • キリストはかつて日本に来て日本で亡くなった

といった地上最強の男ゆで理論民明書房が如き文章が真面目に書かれている。
なお、オリジナルの文章は戦時中に戦災で焼失し現存しないとされる。胡散臭さのバーゲンセール

竹内文書には特に具体的な性質について記述はないので、創作でも大体好き放題に扱われている金属。
とりあえず「赤い」という特徴は概ね共通するが、それ以外にほぼ共通点はないと言っていいだろう。
和風繋がりで日本刀などの素材に用いられることもあるが、この金属を前面に押し出すと真っ赤な刀身の刀などというド派手な代物になってしまうのが難点。
もしくは、オリハルコンの別名や亜種として扱う作品もちらほら。

登場作品は『仮面ライダーカブト』の主役ヒーローの装甲材(「ヒヒイロノオオガネ」なる強化版も)、『吉永さん家のガーゴイル』の自動石像の装甲、『Dies irae』の聖遺物の素材などなど。
グランブルーファンタジー』では素材アイテムとして登場し、ゲーム内における最も貴重なアイテムであり、主にゲーム内の最上級キャラの加入素材として使用される。
不定期に開催される『決戦!星の古戦場』という所属する騎空団(他ゲームで言うクラン)の対抗戦や『四象降臨』というイベント、もしくはいくつかの高難易度マルチで極々々低確率でドロップする。余りのドロップ率の低さにマルチで入手することは通称『脱法』と呼ばれる。
今日もお空ではヒヒイロを求めたきくうしさまが強大な星晶獣を血祭りにあげている。


◇アンオブタニウム◇

英語で「Unobtainium」、名前は英単語のobtainable(手に入れられる)に否定形(un)と金属元素の接尾語(-ium)を合成したもの。
つまりは「入手不可能な金属」の意で、ある単一の元素ではなく、「架空の金属」の総称の様に用いられる。
元々は創作ではなく工学や思考実験で用いられ、人工衛星の打ち上げもままならなかった時代には、「宇宙の過酷な環境・用法に耐える理想的な金属」の意味でも使われていた。
そこから、「実在しないもの(ないものねだり)」という意味を含んだ揶揄にも用いられる様になった。

創作ではファンタジーよりどちらかと言えばSFに多く登場し、その名の通りに大抵は極めて希少なレアメタルという扱いである。
映画『ザ・コア』では地底探査船の外殻に使われた素材として登場しており、チタンとタングステンの合金で、熱と圧力をエネルギーに変換できる能力を持っている。
映画『アバター』ではストーリーの根幹を担う物質として登場。
常温超電導の性質と極めて強力な磁力を持ち、地球の困窮したエネルギー事情を救う可能性があるとされる。
地球での取引価格は1kg当たり2000万ドル(同質量の金の約400倍の値段)というアンオブタニウムの名に相応しい超希少物質。


◇神珍鉄◇

「神珍鐵」とも表記される。
元ネタは『西遊記』の孫悟空が持つ「如意棒(正式名称:如意金箍棒(にょいきんこぼう))」の材質とされている金属。
ただ、「神珍鉄」もまた器物としての名前であり、材質の方は『九転鑌鉄』と言われることも。

◇銀◇

実在の金属だが、魔法力を帯びた金属としてファンタジーで武器に採用される。
インカ帝国には製鉄・製鋼技術が無かったので、高強度の銀合金が使われていた・・・と伝わっているが、後世では銀自体が柔らかく展性が高い、その上高価で貨幣や高級日用品としての需要が高い、即ち武器にはあまり向かない素材と思われていた。
しかし、電気伝導性が高いので電線や導電金具素材として研究が進められた結果、合金の割合によって発条としての性質を帯びたり、非常に高い抗張力≒強度を発揮する事が判明した。
銀を主成分とした高強度合金による武器、と言う物は技術と原料供給体制が整えば理屈としては十分に成立する。




製鋼

高品質な鋼の量産技術も、幾度か失伝やそれに近い危機に陥っている。
製鋼技術が後退した時代には、かつて作られていた高品質鋼材や其れを使った製品そのものが伝説扱いされていた。
以下はその代表例。

◇ダマスカス鋼◇

他の伝説の金属と違い、実在していたが製造法が歴史の彼方に消えてしまったというガチのロストテクノロジー。
インドで作られ、シリアのダマスカスで売られていたことからこの名がついた。別名は「ウーツ鋼」。
紀元前から作られており、そのすさまじい切れ味と「決して錆びない」という不思議な特性、そして一種異様な刃紋から特にヨーロッパで高い人気を誇った。
が、遅くても20世紀に入る頃には製造法が失伝してしまう。現在売られている「ダマスカス鋼」とされる製品は、当時のそれを完全再現できていない。
表面に浮かぶ木目状の模様が最大の特徴で、その再現に多くの研究者が挑んでいる(「木目状の模様」をした包丁なら販売されている)。
最近の研究では、現代の最新技術であるカーボンナノチューブらしき構造が確認されたという報告もあり、いまだに深いロマンを宿している金属である。

伝説で語られる作り方では、焼き入れの際奴隷の体に突き刺して焼き入れを行うという衝撃の制作方法で、奴隷の魂が乗り移って金属が硬くなるそうな。
ちなみに中世になると「赤毛の少年の尿で焼き入れを行うこと」に変化している
なお、日本刀に見られる「刃紋」とダマスカス鋼の木目状の模様は性質が全く異なる。

ONE PIECE』に登場する首領クリークは「ウーツ鋼」製の武具を纏っているが、これはウーツ鋼の特徴である木目がなく、さらに「ダイヤモンドより硬い」らしいので名前だけ借りた別物。
とはいえ、作中初期のルフィのゴムゴムのガトリング+ブレット+バズーカ2発でやっと砕けるくらいなので相当な硬さではあるようだが。

上記ヒヒイロカネと同じく、ダマスカス鋼も『グランブルーファンタジー』における素材アイテムとして採用されている。
ヒヒイロカネがキャラの加入素材として使用されるため武器の上限開放を行うのは専らこちら。
だがこちらも非常に貴重な素材アイテムとなっており、ダマスカス鋼の直接入手はイベント報酬ぐらいしか手段がない。
そのため、プレイヤーがマルチから回収できるのはダマスカス鋼の素材アイテム*7のそのまた素材のアイテム*8となっている。

上記ヒヒイロカネと同じく、『仮面ライダーカブト』の戦闘員ゼクトルーパーの主要武器『マシンガンブレード』の 銃身下部からは厚さ3㎝の鉄すら切り裂くウーツ鋼製のブレードが展開する


◇ノリクム鋼◇

ダマスカス鋼同様に実在していたものの製造法が歴史の彼方に消えてしまったが、近代になって再現と量産化に成功した素材。
ローマ帝国の快進撃を支えた伝説的な素材で、ノリクム(現在のオーストリア)で製造されていた。
中世になって技術の後退と資源の枯渇によって失伝されていたが、製鋼時のスラグの調査から通常の炭素鋼より多量の1%強のマンガンを含んだ合金鋼である事が判明。
20世紀初頭の英国で艦船・橋梁用素材として有名なデュコール鋼として復活し、同盟国の日本にも技術導入が為された。
マンガンを主添加物にした合金鋼は炭素分が多めのデュコール鋼と同等素材のSMn433構造鋼や発条・耐衝撃工具・機械部品に使われるSUP6、SUP7発条鋼等が規格化されており、現代文明を支えている。


◇玉鋼◇

「たまはがね」。ダマスカス鋼と同じく実在の金属だが、半ば伝説化している存在。
現在でも主に日本刀の材料として製造されてはいるが、やはり製造法に失伝した部分が多く、作り方のわかっていない日本刀は多い。
日本伝統のたたら製法で作られており、ごくわずかに不純物を含むのが特徴。
日本刀の特性である「柔らかく粘り強い鋼」と「硬く鋭い鋼」を組み合わせた製法はこの玉鋼があってこそ。
なお、名前にもある通り本来は日本刀にだけ用いられる素材ではなく、大砲の玉などに用いられていた金属である。

創作では、やはり日本刀の素材として要求されることが多く、単なる「鋼」とはレベルの違う最高級の素材の一つ。
漫画『神力契約者M&Y』では主要人物の一人が巨大な杭を「土」「水」「風」の力で玉鋼に生成し撃ち込むという技「白虹閃」を見せた。






追記・修正は伝説の金属に思いを馳せながらお願いします。

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最終更新:2024年12月29日 17:59

*1 滅び往く古代アトランティス大陸を舞台とした冒険ドラマ作品

*2 知っての通りプラチナの加工難易度は相当に高いのだが、前述の通り作品に『魔術要素』が存在するので何とでもなるのであろう。

*3 ドーマ編ではプラトン関連の用語やモチーフが多い。

*4 猜疑に駆られ妻メーティスを飲み込んだゼウスは激しい頭痛に見舞われ、痛みに耐えかね頭を斧でかち割るとアテナが飛び出して来た

*5 クレタ島のタロスこと「青銅の巨人」が分かり易い例だろう、鉄が安定して作れるのであれば「鉄巨人」とされるべきである。

*6 鉄自体は既に存在していたがあまり品質は良くなかったようだ、ただ鉄を作れていたのなら偶然の産物として【鋼】が存在していたと考えられる

*7 通称『カスカス』

*8 通称『カスカスカス』