ヒルダ・ビダン

登録日:2025/03/01 Sat 21:30:48
更新日:2025/03/16 Sun 17:33:33
所要時間:約 9 分で読めます






「あなたは何やってるんです!そんなところで!」


「ヒルダ・ビダン」は『機動戦士Ζガンダム』の登場人物。
主人公カミーユ・ビダンの母親。
フランクリン・ビダンは夫。
CV:高島雅羅


【人物】

職業は地球連邦軍の技術士官。
階級は中尉。
専門としているのは材料工学。
(イヤな思いをする)家庭のことなんか考えなくていいと思える程度には充実した仕事が出来ていた模様。
明らかになっている所では、ガンダムMk-Ⅱの装甲や、実は序盤にしてグリプス2(グリーンノアⅡ)で作られていたドゴス・ギアの建造計画にも関わっている。
……この設定は旧TV版放映当時から存在していたのだが、カミーユが最初に両親の作ったMSに乗ったという話は有名でも、最後には母親の作った(関わった)戦艦に挑んだという話はそこまでは知られていないかもしれない。

……尚、後述の理由から夫フランクリンとはある理由(すっとぼけ)から全くコミュニケーションを取れていなかったために、
折角の革命的な発明であるムーバブルフレームを以て誕生したMk-Ⅱが従来通りの装甲材で完成されたことになってしまったとも分析されていたりする。ビダン夫妻の不仲でMk-Ⅱの立場が微妙!

クワトロ「Mk-Ⅱは所詮Mk-Ⅱだということか」

尚、カミーユ曰く“次のMSには新しい素材(恐らくはガンダリウム合金)を使いたい”と言っていたとのことだが、それはフランクリンの設計ではないMSである可能性が高い。それを“母親の仕事ぶり”として少し嬉しそうに話してしまっているカミーユに涙。

【劇中でのヒルダ】

初登場は第2話。
ティターンズの青年士官ジェリドに(長らくコンプレックスを抱いていたとはいえ)「カミーユ?女の名前なのに……なんだ男か」とバカにされたと思い、殴り付けた後に逮捕・勾留された後にヒルダが迎えに来るということで解放が決まっていたのに尋問官の余計な一言があったとはいえ尚も抵抗して本格的に逮捕されそうになった所でジェリドのMk-Ⅱ墜落のドサクサで脱走していた息子を迎えに来ていたものの、上述の通りで色々と暴走してしまった息子に置き去りにされてしまっている。*1

容姿は、カミーユをそのまま性別を変えて相応の年齢にしたような━━ということで、カミーユは母親の生き写しだったということが判明。

尚、複雑すぎて設定付けた富野由悠季でもないと理解し難い部分も多いのだが、カミーユは単に女っぽい名前を恥ずかしく思っている……のではなく、その名前が違和感が無いほどに中性的な自分の容姿をも嫌悪しているという設定である。

それが、劇中でも語られる通りの空手にホモアビス(個人用装備型飛行機)にミニMS━━と、嗜好を意識しつつも男らしいと言ってもらえるであろう分野での活動に走らせていたと考察できれば、第1話にて自分を追いかけてきたファに「カミーユ!」と呼びかけられても中々反応せずに“それが自分の名前”だと思われたくないという発言に繋がっている。

……この、不自然なやり取りについては単に女みたいな名前にコンプレックスがあるという程度の理解の仕方ではカミーユというナイーブすぎる少年を語れない。*2
……割と、本気で病んでないか?

尚、カミーユがそうして優れた才能を発揮できるようになった頃には家庭環境が冷え込みに冷え込み遂には父母ともに息子には無関心となっており全く褒めて(男として認めて)貰えることはなかった模様。

それが、浮気親父のフランクリンはともかく、ヒルダにまで当たりが強い理由となっている。
この辺の詳細は後述。

その後、カミーユが更に暴走して墜落したMk-Ⅱに乗り込んだ上に、現在の連邦軍の情勢では過激分子として警戒されているエゥーゴと合流するという事態にまで発展。
この事態を収めるべく、ティターンズの指揮を執るバスク・オムが考えついたのが例の悪魔の所業とも呼べる人質作戦なのであった。

Mk-Ⅱを盗んだカミーユが軍内部でも名前を知られていたフランクリンとヒルダの息子だと確認したバスクは、二人を敵MSを近くで見られる&新しい素材を入手できる可能性があるとして、かなり強引に騙してアレキサンドリアに乗船させると真の目的を気づかせない内に発進。
━━こうして、夫妻を逃げられない状況に追い込んでおいてから強制的にカミーユ(延いてはエゥーゴ)へ向けた人質とする。
……しかも、バスクは初めからエゥーゴと交渉してやる気など更々なく、全面的に自分達の言い分を認めない限りは人質への何かしらの接触行動を起こした時点で二人を容赦なく殺害するつもりであり、先ずはヒルダが犠牲となったというだけの話である。

そして、エゥーゴとの交渉役(実際は最後通告)にエマ・シーン、通告が受け入れられていない段階で人質と接触しようとした場合に人質の方を殺す役目ジェリド・メサという、訓練校上がりのド新人士官詳細を一切も告げずに汚れ仕事をやらせようというのだから、バスクもジャマイカンも好い面の皮である……というか本当に人の心があるのか疑うレベルである。

尚、この時に常識の範疇からエマは作戦に使用される小型カプセルが「強力な爆弾か?」と聞き、後の様子からジェリドも呑気にそれを信じていた模様。
ジャマイカンが(今回の件が問題となっても責任を押し付けて切り捨てるつもりだったのか)何の感慨も見せずに「そんなところだ」と流していたのもあるが、実態は生身の母親入りカプセルである━━これを迷いもなく発想し、その命令を顔色一つ変えずに下せるバスクとジャマイカンの非道さが際立つ。
……実行するのはド新人の士官共(エマやジェリド)なので自分は手を汚すこともないと割り切っているし責任も負わせられるとの算段からの態度だったかもしれないが。

【ヒルダの最期】

エマはエゥーゴの旗艦アーガマへと参上後にブレックスへとバスクへの親書を届けるが、そこで怒り心頭のブレックスに親書の内容を読むように言われたことで、自分が本当に破廉恥な作戦に加担していたことにショックを受ける。

そして、アーガマ内でも悪い偶然が重なり、

  • カミーユがノーマルスーツの数が足りなかったことで、パイロットスーツを装着させられていた
  • ブレックスがアーガマ周囲のハイザックを撃墜して、交渉決裂を告げることを命令
  • この事態にパイロットスーツを着ていたことからカミーユが側に居ることに気づいていなかったクルーが、思わず「ガキの母親が人質になっている」と発言してしまう
  • それを聞いてカミーユがMk-Ⅱで飛び出してしまい、ヒルダを助けようとする
  • それを見越して待機していたジェリドが、カプセルの中身が爆弾だと思い込んだまま、ザク・マシンガン改でカプセルを破壊
  • 生身の状態で宇宙空間に放り出されたヒルダが死亡

━━と、最悪とも呼べる結末となった。

その後、母親を殺されたことで怒りと哀しみで混乱したカミーユがジェリドに襲いかかるのを何とかエマが制止。
これを機にブレックスは反撃を指示するが、これには人質と聞いた時点で懸念を示したクワトロは勿論、先ほどはブレックスに賛同していたヘンケンも制止に周り、バスクの思惑通りにMk-Ⅱ毎にカミーユの身柄を奪われてしまうことに。

……しかし、ここでエマに何かしらの希望めいた物をを感じていたクワトロとヘンケンの期待通りに、すぐ後にエマはカミーユとフランクリンを連れてアーガマに戻ることになる。

尚、エマはギリギリまで生身の人間をカプセルに入れた状態で人質に使うという異常な作戦が行われたと信じたくなかったようで、あれは本物ではなくホログラムだと主張していたものの、アレキサンドリアに帰投後にカミーユの言う通りにMk-Ⅱの指についたヒルダの血か欠片を確認しており、それが、この直後のティターンズの離脱に繋がった。*3

一方、ヒルダを知らずに殺害した後で「イヤな感覚」を味わったジェリドだったが、帰投後に真実を知り、その後一転して落ち込むカミーユと対面した際には、

「俺は知らなかったんだ」
「まだオッパイが恋しい年頃だったんだもんな」
「殴ってもいいんだぜ」

と、この件をダシに挑発するという最低な行為をし、挙げ句カミーユに言い負かされる。
もっとも、意図としては悪意でなく、

「罪悪感はあるが、だからってカミーユに謝りたくない、そもそも軍人の俺は上官からの命令には逆らえない。だからせめてワルとして叩きのめされる事で贖罪しよう。」

という心象からきた発言とも解釈できるが、少なくとも表面的には最悪なやり取りであり、この場に居合わせたエマはますますティターンズへの心象を損ねたことであろう。

【マザーコンプレックスの果てに】

本編の時点でビダン家の家庭環境が極めて悪化しているのは当然のようにフランクリンの浮気が直接的な原因ではあるのだが、カミーユの台詞を見ていくとそうさせたのはヒルダにも責任があると認識していたことが解る。

本編時点でフランクリンが懸想してたのはマルガリータなるピンク髪の若い女だが、カミーユの台詞には「前から愛人を作っていた」というものがある。
これは、マルガリータとは案外と長い付き合いなのか、まだまだ旺盛なのに妻に相手にされない寂しさからマルガリータ以前にも愛人を作っていたという意味なのかは不明。
何方にせよ、愛人を作れたことで男としての自信を付けてしまったフランクリンだからこそ、あそこまで横柄に振る舞えてしまえるようになった(末に調子に乗りすぎて死んだ)とも想像できる。

そのヒルダに関して、カミーユは“技術ってなんだよ、それで家庭を作る訳でもないのに(意訳)”という発言をしているのだが、アニメ本編では両親の死亡イベントの頃に発言しているそれを、アニメよりも更に心理学的なメタファーやアプローチを以て再構成している小説版ではハマーン・カーンキュベレイに重ねている。
これは、十分に母親の愛情を受けたと感じられず不満を抱えていたカミーユが、それでも大人になることを迫られて“乗り越えるべき母親の影”が、既に存在していないヒルダの替わりに、女性性の暗黒面のようなハマーンとキュベレイと重なってしまったからだろう。
アニメでも、小説版程はあからさまではないもののハマーンとのニュータイプとしての感応の際には唐突なイメージとしてヒルダとの思い出が湧き上がっている。

実際、表向きは強がっていても物語の途中までのカミーユが何処となくというか割とあからさまにレコアやエマに不必要な位に懐こうとしていたのは“そういうこと”だったのだろう。
レコアには流されてしまったが、エマに関しては解った上で突き放していた場面すらがあった。(勿論、エマの自意識過剰でしかない場面もあったものの、そこそこ的を射ている。)

【Defineでは】

そんな感じで「まだギリギリセーフであるが母親としては半ば失格」みたいな扱いだったヒルダさんだったが、漫画版『機動戦士Ζガンダム Define』では夫のフランクリンとともに性格がかなり改善…というより悪いところをオミットされた
少なくとも行方の知れなくなった息子カミーユを必死に探す姿は原作とは違う。
カミーユも両親の開発したmk-Ⅱの事を誇りに思っている節もあり、ビダン家の親子間は「単なる思春期の反抗期」レベルに落ち着いている。
そしてティターンズの卑劣な作戦のために原作と違いフランクリンと共にカプセルで宇宙空間に放出される。
カクリコンの出世欲の為に眼の前で両親共々命を散らした際には、幼い頃の両親と共に過ごした記憶がフラッシュバックし、カミーユは当分の間立ち直れなくなるのであった。

が、それはそれとしてこのヒルダさん、どうにもガンダムmk-Ⅱの開発データをカミーユへの教育に使った節がある。
『チタン合金セラミック複合材でガンダリウム級の装甲強度を持たせろ』と当時の技術では無茶振りされて、何とか凝った複合方法でノルマを達成したものの「こんな手間のかかる製造方法取ってたら大赤字になるわ!!」と叱責された憂さ晴らしにデータを持ち出して息子の教材にしてしまった。
字面は強いが、これもある意味では激情にかられると何をしでかすかわからないというカミーユの母親らしい描写と言えよう。

なお、両親の死の一件で落ち込んだカミーユだったが、原作とは逆にエマがカミーユの顔を胸に沈める勢いで抱きしめて慰めている。
なおエマさんはこの状況をからかった挙句、さらに「固くなってるわよ」とか言い出して思考回路がショートしたカミーユは「僕は本当はロベルト中尉が好きなんです!」とぶっ飛んだ発言をしてしまった

【余談】

ヒルダの中の人の高島雅羅女史は聖戦士ダンバインにて主人公ショウ・ザマの母親であるチヨ・ザマの中の人を担当しているが、チヨの方は『自身のキャリアしか頭にないヒステリックな性格で、自己保身のために自分の思い通りにならない息子を赤の他人扱いする』という更に問題のある母親として描写されていた。カマリアといいヒルダといいチヨといい御大は母親になんか嫌な思い出でもあるんだろうか*4
また、夫婦仲が冷え切って父親のシュンカが不倫してるところまでビダン家と同じだが、不倫相手のヨーコ・川原はむしろショウに親身に接してくれる数少ない存在であり、シュンカもチヨよりは親の情がある描写がされ最終的にはショウの親離れを受け入れチヨと別離した。





「いけませんか!?こんなこと言って!でもね、僕は両親に追記修正をやって欲しかったんですよ。そう言っちゃいけないんですか?子供が!?」

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最終更新:2025年03月16日 17:33

*1 それにしても兵隊や尋問官に逆らうのともかく、逃走の為に軍の車まで盗んでいる。捕まっていたらどうなっていたのだろうか。

*2 中性的ならともかく“女性性”という表現は行き過ぎてる印象もあるだろうが、この表現は新訳『Ζ』での富野による絵コンテのト書きにハッキリと書かれているので、富野の中では“カミーユの中には認識できる程の女性性があるが必死で否定している”……ということになっているらしい。

*3 そもそもエマはティターンズを「ジオンの残党を狩るための組織」と発言するなど、思想主義者ですらないことが描写されていた。また、この確認の時点では既に事実を悟ると共に覚悟を決めていたようで、その最終確認という気持ちがあったか。

*4 どちらかというと富野監督は「男性っぽく振る舞う女性」に懐疑的であり、当時の認識である「男は仕事をし女は家を守る」というものを破るのは「悪い母親」と言った描写もあった。富野風に言うのなら「男の振りをするくらいならまず母親をやってください」という感じか。だがF91のモニカの描写の際には夫のレズリーがシリーズ最高レベルの父親だったとはいえ「まだマシ」レベルの母親となり、やがて母親は愛情溢れながらも男のようにバリバリ働くという作品が増えてくる。ある意味では御大の難解な思考と時代によって移り変わるそれを読み取るファクターとも言えよう