アデナウアー・パラヤ

登録日:2025/04/10 Thu 10:41:25
更新日:2025/04/26 Sat 08:27:56NEW!
所要時間:約 5 分で読めます




アデナウアー・パラヤは、宇宙世紀ガンダムシリーズの登場人物で、初登場は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』。
CV:嶋俊介(劇場版)/喜多川拓郎(カセット文庫版『ベルトーチカ・チルドレン』)/中多和宏(SDガンダムGジェネレーションシリーズ)


【概要】

地球連邦政府参謀次長でありクェス・パラヤの父親。
なお初期設定および『ベルトーチカ・チルドレン』では「地球連邦軍宇宙軍参謀本部の参謀次官」つまり明らかに軍人であるが宇宙の無重力に慣れていないジャブローラサのモグラである。
映画版では「地球連邦政府の参謀次官(参謀という役職は軍隊にしかない)」という軍人なのか文官なのか政治家なのかさっぱりわからん人。

立場と、そしてメインキャラの父親からして嘸かし立派な男と思われそうだが、その実態は地球連邦の腐敗の象徴とも言えるべき存在。
平時は他人に対して素直に感謝の言葉を述べるなど、紳士的な言動をしているが、どこか他人を見下している振る舞いが言動の節々に現れている。
また、作中での彼の役目はネオ・ジオンとの交渉であるのだが、5thルナの落下が迫っている緊急時に娘を呼び戻して同行させるのはまだしも、そのためにマンハンターを動員したり、愛人を同行させようとするなど公私の区別をつけていたとは言い難い。流石にルナツーには連れていけないとは判断していたが。
娘の事は父として気にかけていたのだが、その愛情は肝心の娘本人の意思までは全く尊重されておらず折り合いは悪い。子の心親知らず…。
愛人と娘の関係が非常に悪いにも関わらずこれといって対応した様子も無く、これらの総じて他者の感情を考慮しない性格が一貫して描かれており、最終的にこの「他者の気持ちを顧みない性格」はシャアの目論見を看破できなかったことに繋がったとも言える。

だがこれだけならまだちょっと情けないおっさんくらいで済む話だが、彼の真髄は度を超えた臆病さにある。
人間誰しも死を眼の前にすると冷静さを失うのだが、彼の場合は周りの人間に比べて凄くオーバーな怯え方をするのである。
シャトルに乗っていて戦闘に巻き込まれた際には端のほうに蹲り神への助けを請い続けたり、パイロット席を必死に叩いて逃げるように催促したり、ルナツー引き渡し時の奇襲に際しては旗艦に搭乗しているにも関わらず司令官に逃げるように訴えたりと、恥もプライドも投げ捨てて助かろうとする。
地球連邦という組織で生き抜くにあたってそれほどの「危機管理能力」が身についたのかもしれない…が、
父親というのは「偉大で強くてかっこよくあるべき」と思っていたクェスにとって、アデナウアーのそれは文字通り唾棄すべき姿であった。(実際に唾を吐かれている)

ただし、ダメ人間ではあるが職務として地球の平和のために活動しており、誰かを意図して傷つけたり殺害したりはしていない為、決して悪人ではない
ある意味ではリアリティのある人物と言えるだろうか。
それと他者の気持ちを顧みない性格や思い通りに行かなければすぐ冷静さを失うメンタル等は皮肉なことにクェスにも共通していることである。


【来歴】

シャア・アズナブルの地球への隕石落とし。
それから逃げ出すためにシャトルに乗り込もうとしていたミライ・ノアとその子供達が出会ったのが、このアデナウアー。
彼は政府高官の特権を使い、ミライ達が乗り込むはずだったシャトルの空席をキャンセルさせ、代わりに自分たちが乗り込もうとする……という横暴な言動を見せる。
とはいえ流石に「代わりに誰をキャンセルさせるか」までは彼が決めたわけではないようで、ミライの搭乗券がジョン・バウアーの紹介によるものだと知った時点で配慮を検討する*1
その上で、彼の愛人がクェスとの同伴を拒否したために、ノア家からは1人が──「ハサウェイ・ノア」が同行する事となる。これが後の悲劇に繋がるのだが、この時点では当然知る由もない。

結局シャトルは無事発進したものの、彼らの乗っているシャトルはロンド・ベルとネオ・ジオンの戦闘空域に入ってしまう*2
その際、危機に気づいて席から立っていたクェスを見ず知らずの少年であるハサウェイが守り、気を使うなどしていたのだが、本来それを娘にやらなければならないアデナウアーは機内の隅の席でガタガタ震えて神様にお祈りするだけ
この時点で元々無かった父親の威厳は完全に崩れ去り、クェスは「新しい父親」への渇望を更に強くする。
視聴者にとっても、この一連の流れで「あ、コイツダメだ」となるのは間違いないだろう。
ちなみに小説版では態度が変わっており、シャトルのコックピットへの扉を何度も強く叩いて「信号弾を上げるように!」とヒステリー気味に絶叫するというものになっている。
クェスから見限られてしまうのは原作と一緒なのだが、実はこちらのほうがはるかにまともな態度であり、結果的に見ればシャトルを救ったと言っても過言でなかった*3*4
前述の通り小説版の彼は「荒事に慣れていない官僚」ではなく「エリート軍人」であるためそのくらいやっても不思議ではない身分ではあるのだが。

そんな娘のことを知ってか知らずか、アデナウアーはネオ・ジオンとの交渉を進める。
結果、シャアの「和平する」という言葉を疑う事なく信じ込んで小惑星アクシズを売り払ってしまう。
シャアが5thルナを落とす前に連邦政府には事前に話を通しているため、ちゃんと連邦政府上層部は検討する時間は充分にあったので
アデナウアーに交渉の全権を託しているとはいえ 本当にアデナウアー1人の裁量で和平を決めたとは考えにくい
「アクシズまでは提供してもいいから和平を結ぶ」までは連邦上層部の結論でありその条件で和平条約を締結してくることがアデナウアーの役割だったのだろう。
その通りにうまく交渉が成立しているので、本人としては不満や疑惑を持つことはなかった。
一方で、一年戦争中にシャアと直接やりとりをしたからか彼の本性を知っているカムラン・ブルームは独自の行動を取り、密約を知ったロンド・ベルのブライト・ノアからは非難されるが、もうネオ・ジオンとの戦争なんか起こらないと思い込んでいたアデナウアーはこう言ってしまう。

「当たり前だ。貴官らが地球の危機だと判断したら、いつでも動け」

無責任、かつ抽象的な言葉である。
……が、皮肉にもアデナウアーのこの言葉のお陰でロンド・ベルは本領を発揮する口実を得る。

そうして、ネオ・ジオン艦隊の投降を見届けるために、連絡が取れなくなったクェスを放ってルナツーに赴く。
一応ブライトに「数日ホテルで待っているように」と伝言を頼んではいるのだが、
そもそも地球連邦政府高官の娘が地球に隕石を落としたシャアに誘拐される(和平条約を結んだとはいえ調印の 直後 )
しかも未成年の娘自身が希望したとはいえシャア側からは連絡もしないという 洒落にならない外交問題が発生しており
このブライトとの会話の直後にそれを伝えられたはずなのだが アデナウアーは娘を気にかける様子はない。
それどころか『ベルチル』では本気でクェスのことを見捨てており「新しい人生をシャアと共に歩んでくれればそれでいい」と思っていた。
????「これで若い恋人とうまくいくね」

クラップ級巡洋艦のブリッジで「これで敵は本物の宇宙人だけ」「(そうなったら軍人には)海のゴミ掃除の仕事がある」などと呑気に艦長の怒りを買っていたところ、ネオ・ジオンからの奇襲攻撃を受ける。

「バカなーッ!! 条約違反だッ!!」

と叫ぶも時既に遅し。
乗っているクラップの艦長も戦うことを決意。
無論命の危機に瀕したアデナウアーは「なんで逃げん!?」と絶叫するも*5、その直後ビーム攻撃を受けて喧嘩してたクラップ艦長と仲良く宇宙の塵となった。

そのビームを撃ったのが娘のクェスだった事を知らずに逝けたのは彼にとっては幸せだったのかもしれないが。

こうしてまんまとルナツーの核弾頭を確保したシャアがアクシズを落とそうとするマジのガチで地球の危機が発生したため、アデナウアーの言質をとっていたロンド・ベルはネオ・ジオンとの決戦に赴くのであった。


【総評】

いいトコなし

ただ、適当に発したと思われる「当たり前だ。貴官らが地球の危機だと判断したら、いつでも動け」という言質が巡り巡って地球を救ったというのは事実である。(元々ロンド・ベルの性質上この発言があろうとなかろうと行動はできるが、後々アデナウアーから言質を取ったと主張できる)
無論、彼ら政府高官連中がシャアに騙されずにアクシズを売り払わなければそもそも地球の危機なんか発生しなかったのは事実ではあるが、なんというか結果オーライであろう。
だがアムロ・レイが行方不明になっているのでこの人辺りからしたら理不尽な結果ではあるかもしれない。

…とはいえ、落下する小惑星とニアミスしたり、戦闘に巻き込まれたりという災難の直後に、(ちゃっかり戦艦を使って)交渉の場に駆け付けているので、なんやかんやで与えられた職責自体は果たそうと地味に仕事はこなしている。
単なる無能が上に行けるほど連邦も甘くはないということかもしれないが、相手の腹の中を全く読まないという彼の性格で権謀術数渦巻いてそうな連邦という組織で上に行けたのは幸運だったのか不運だったのか…。

本人とは関係ないが、最初のシャトルに乗せたハサウェイくんと娘の邂逅が巡り巡って後の騒動の原因となってしまい、その結末によりまたブライトを不幸へと大貶める事となる。
そういう意味では長きに渡る「不幸な物語の始動役」というのが、彼に与えられた役目だったのかもしれない。
と同時に、娘はカミーユ・ビダンと何処か共通点があり、「カミーユはなんとか導けたのにクェスはそうじゃなかった」というシャアの変化を表すメタファーも兼ねている為、アデナウアーも何処かカミーユの父であるフランクリン・ビダンとにている節がある。


【外部作品での扱い】


スーパーロボット大戦シリーズ

逆シャアのシナリオが再現された場合は登場頻度が高い。
第2次αで初登場するも、大体がお騒がせ役。
もう一人の味方側のお邪魔キャラ三輪防人以上に権力があるが、その分無茶振りも多く、もはやシリアスなギャグ状態のやり取りを繰り広げる。
特に有名なのが三輪長官へのこの台詞

「大空魔竜戦隊を火星へ向かわせる代わりに、そちらへジム部隊を派遣する」

完全無欠のスーパーロボット部隊の代わりがジムかい量産型νガンダムでも量産型ガンダムF91でもヘビーガンですらなくジムかーい。
ただジムという字面が強いだけで実は割と間違った判断ではなかったりする。
というより、正確にはRGM-79ジムではなく自軍でも運用しているジム・カスタムジム・キャノンⅡの事だと思われる。
ちなみに上記で上げたMS達はメイン武装のビームライフルの適応が空Bなので地上戦にはやや不向きだが、ジム・カスタムとジム・キャノンⅡはメイン武器のジム・ライフルの適応が空陸Aでビームでもないので海中への対応もある程度はマシと、
ヴェスバーのような大火力こそないものの地上戦での安定性は高く、むしろ極東支部に送り込むMS部隊としては最適解とすらいえる。
実際、ジム部隊は極東支部付近の戦線を維持する成果を上げた。
それとこの発言を持ってαナンバーズは一時的に三輪長官の元を離れることが出来たのも追い風である。
聞いた人間が呆れたり絶望したかのような反応していたのも事実だが

また、ルートによってはアデナウアーの交渉が実を結ぶ事もあるなど「高圧的で鬱陶しいけど三輪長官ほどじゃない」「卑怯も姑息も使いこなす狸親父」という変なポジションとなっている。
ただ途中から行方不明になっちゃうけど。

第3次Z時獄編でも登場し、ブライトとハサウェイに対して「せっかく親子が再会したのだ 少しでも一緒の時間があったほうがいいだろう 娘も彼がいたほうが喜ぶだろうしな」と珍しく粋な対応を見せた。宇宙魔王軍や各種のテロといった脅威もある情勢なのでアデナウアーも家族の大切さを原作より理解できているのだろう。
こっちも途中から行方不明になっちゃうけど。

なお原作通り死亡する事は少なく、2025年現在のところその末路を辿るのは「DD」のみである。
そういう意味では原作では死んでないのにスパロボでは宇宙の塵になりがちな三輪長官とは真逆の存在と言えるだろうか。





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最終更新:2025年04月26日 08:27

*1 アデナウアーはバウアーに何かしらの借りを作っているような台詞がある。また、シャトルの案内をしていた職人に「こちらが政治特権で割り込んだ」という発言もしている

*2 『ベルトーチカ・チルドレン』においては、故意にアデナウアー達を脅かして交渉で優位に立つためにシャトル航路付近で戦闘を行ったとブライトはみなしている。仮に交渉が失敗してアクシズが手に入らなければシャア達は詰んでいたので、アデナウアー達を殺害する気はなかったのだろう

*3 シャトルの船長は近くで戦闘が開始されたことにすっかり怯えてパニック状態になっており、民間船であることを示す信号弾を撃つべき状況だったのにそれをしていなかった。しかも流れ弾がシャトルを掠める非常に危険な状態であった。

*4 実際、信号弾を確認したネオ・ジオンのMSはシャトルを巻き添えにしないよう、即座に近くから撤退してくれた。

*5 艦長曰く「味方がやられているでしょうが」とのことだが、「貴官を守らねばならない」という理由で後方にいたため微妙に掌がえしだったりする