| 生年月日 |
宇宙新暦1012年8月19日 |
| 年齢 |
74アストラ歳(星年齢) 共立公暦3500年時点. |
| 出生地 |
星間文明統一機構 ロフィルナ行政管理区 |
| 人種 |
ハーフロフィルナ |
| 所属組織 |
フォレニア公国 |
| 主な階級 |
フェルフィア公爵 法務卿 スカラフィア統治代行 |
| 称号(新世界) |
名誉元首
中央公爵
先代公王格 |
| 異名 |
蒼潮華公(新世界) 海の貴婦人(公国内) 冷血母公(旧世界) |
概要
アリウス・グラン・フェルフィアは、
フォレニア公国における聖五貴族の一人である。
旧世界においては
アリウス・ヴィ・レミソルトの名で知られ、壮絶な武威とともにイドゥニア宙域を揺るがした指導者であった。
数千年にわたる権力闘争と戦乱を経て新天地に渡り、公国の建国に参画している。
旧世界の重圧から解き放たれた結果、かつての陰湿な支配者とは趣を異にする活動的な気質が前面に出るようになった。
自己紹介
あら、お客さん?いいところにいらしたわね。私は、アリウス・グラン・フェルフィア。海の向こうに広がるスカラフィアを預かっている者よ。……ああ、堅苦しい話はやめましょう。ここでは公爵も法務卿も関係ないの。波の音と潮風があれば、それだけで十分。私は貴方とお喋りがしたいだけなんだから。昔はね、わたくしの名を聞いただけで逃げ出す人が山ほどいたのよ?信じられる?……ふふ、信じなくていいわ。今の私は、ただの海辺好きのおばさんみたいなものだもの。お茶でもいかが?ミルズニアの運河沿いに、とびっきりの茶葉を仕入れてくれる船乗りがいてね。彼の淹れ方がまた絶品なの。……警戒しないで。毒なんて入ってないわよ。多分。ふふっ。ねぇ、貴方の話を聞かせて?来た理由でも、好きな食べ物の話でも、何でもいい。私ね、昔は人の弱みに付け込むのが得意だったんだけど、今はね、人の話を聞くのが好きになったの。……弱みが見つかったら?さあ、どうかしら。試してみる?
来歴
アリウスは、
ロフィルナ連邦共同体の公王として長きにわたる統治を担った。
第三次ロフィルナ革命に端を発する情勢の激変を経て、旧世界における公的地位の大半を退いている。
後期連合帝国の内政が移行期を迎えた頃、第一線を退いた
トローネの
宮殿惑星に招かれ、少数の旧友とともに新天地への移住を決断した。同1850年、一行はCP3星団への移動を開始する。約450年に及ぶ航行の間、かつての政敵や因縁深き者達との距離が否応なく縮まった。
ヴァンス・フリートンとの因縁は、膨大な時間の中で敵意の輪郭が擦り減り、腐れ縁として定着していく過程を辿っている。
メレザ・レクネールとの関係も、旧世界で刻まれた傷跡を携えたまま静かに変容を遂げた。同2300年に新天地へ到達すると、スカラフィアの開発を任されている。広大な海域と温暖な気候に恵まれた惑星において、行政首都ミルズニアの建設を主導した。白亜の建築群と運河が調和する水の都の礎は、建国前夜に築かれたものである。同2310年の建国宣言とともにフェルフィア公爵に就任し、法務卿として公国の法体系策定の中核を担った。旧世界で
ロフィルナ王国の司法人事を掌握し、
連邦共同体全体の法制度に精通していた経歴が、建国期の法整備に遺憾なく活きている。鎖国令のもとで星系内の秩序が固まりゆく500年の間、スカラフィアの海洋環境を活かした都市建設と島嶼間の海運業の発展を一手に引き受けた。同2810年の開国以降は、スカラフィアに駐留する
共立銀河連邦平和維持軍との連絡調整をフェルフィア家の管轄下で担っている。同3500年現在、ミルズニアの運河を小舟で巡り、島嶼の漁村に顔を出しては住民と談笑する姿が日常の風景となった。
人物
旧世界時代の冷血母公は、政府関係者を陰湿な試練で追い込み、お茶会のクッキーを間違えただけで高級官僚をメンブレさせる存在として恐れられていた。人の弱みを見抜く眼力と、状況を掌握せずにはいられない支配欲は公国時代においても健在である。ただし、重圧からの解放を経て、陰湿さに代わるように直截的で活動的な気性が前面に出るようになった。旧世界では計算し尽くした上で人を転がしていたのに対し、思いついたら即座に動く傾向が強まっている。本人いわく「元気になっただけ」とのことだが、側近の見解は「尖った」の一語に集約される。品の良さは依然として備えており、公式の場では物腰穏やかな振る舞いを崩さない。しかし、くだけた口調が顔を出す瞬間がより頻繁に、より唐突に訪れるようになったため、「心臓に悪すぎます」という旧世界以来の側近の悲鳴は公国でも健在である。怒りの沸点が読めない点も変わっておらず、スカラフィアの漁師に塩水をかけられて大笑いしたかと思えば、フリートンが茶菓子の銘柄を取り違えただけで聖貴族会が凍りつくこともある。もはや天災の一種であり、五家の当主たちも長い付き合いの中で慣れ半分、諦め半分の境地に達しつつあるという。旧世界時代に培われた実戦経験は健在で、如何なる刺客も寄せ付けぬ覇気を保持するが、公国の平穏な環境において力が振るわれる場面は稀である。なお、美意識への執着が旧世界時代とは比較にならぬ水準に達しており、スカラフィアの海洋性気候が肌に良いという理由だけで統治代行の任を喜んで引き受けた疑惑がある。本人は否定している。側近は信じていない。()
交友関係
フォレニア公国の女公王。旧世界においてはアリウスが「トロちゃん」と呼んで可愛がり、幼き皇女の将来に期待を寄せていた。
先代皇帝の死後、抜け殻のようになっていたトローネのもとに歩み寄り、帝室の側近に妨害される直前の僅かな間に激励の言葉を紡いだ。その経緯は、両者の間に消えぬ紐帯を刻んでいる。公国においては形式上の主従関係が存在するものの、トローネにとって単なる臣下として遇し得る存在とは言い難い。旧世界で帝国名誉大公として遇された権威の残照が、そこにある。アリウスの側も主君への敬意を崩さぬ一方、
宮殿惑星を訪れた折には旧世界時代さながらの砕けた口調で語りかけ、トローネを笑わせている。トローネ主催の行事においてフリートンの隣に配置されても、穏やかに受け流す余裕を見せるようになった。旧世界における「アリウスの隣に立たされる地獄」は、フォレニアでは「アリウスが優しい顔で隣に立っている地獄」へと進化を遂げたらしい。被害者は変わらずフリートンである。
数千年来の腐れ縁にして、聖貴族会議長。旧世界では、かつての政敵であり、
焼きそばパンの使い走りを命じ、ムチで叩き、政権を吹き飛ばした相手でもある。CP3への長い航海のなかで敵意の輪郭が磨耗し、公国建国の頃には「愛すべき下僕」という呼称が一種の愛称として定着した。フォレニア時代の当たりは旧世界ほど鋭利ではなくなっており、政権交代に追い込むような仕打ちは影を潜めている。ただし、茶菓子の銘柄ひとつで重圧を発生させる程度のことは平然とやってのけるため、フリートンの胃壁は公国に入っても休まる暇がない。議長としての手腕をアリウスは内心で高く評価しているが、本人に伝える気配は微塵もなく、スヴェリナ産の工業製品の品質について小言を挟む形でしか意思疎通を図らないらしい。フリートンの側も、アリウスの小言が一種の信頼の証であると半ば諦めの境地で理解するに至っている。救いはない。
旧世界時代から親交の深い友人であり、レクネール家の当主。旧暦においては、外交交渉の場で苦戦した経緯を持つ。
公国時代に入って穏やかな親密さへと変化を遂げている。スカラフィアの海上祭儀に度々招いてはミルズニアの運河沿いで茶を囲む仲である。カルヴァーチの山小屋に隠居の身でありながら、アリウスの招きには律儀に応じて海洋惑星まで足を運ぶ姿は、旧世界以来変わらぬ両者の力学を物語っている。機嫌を損ねまいとするメレザの繊細な気遣いを、アリウスは優しく見守りつつ、時折わざとスカラフィア産の珍味を差し出して反応を楽しんでいるらしい。
フェトリーンド家の当主であり、クライヴァーチの統治代行にして技術卿。旧世界においては、オリジナルの
フラウと定期的に茶会を開いていた。そんなアリウスにとって、フラウから分離して独自の人格を得た『フラン』との交流は、旧来の関係の延長線上にありつつも新たな色合いを帯びている。両者の茶会は公国時代も継続しており、内容は相変わらず超常的で常人には理解し難い。ドラグシアの学宮群を訪れたアリウスがフランの研究室で半日を過ごし、何を話したのか一切明かさぬまま上機嫌で帰途についたという逸話が有名である。聖貴族会の席で語られ、フリートンが頭を抱えたこともあった。()技術卿としてのフランの知見が法務卿の判断を補佐する場面では、両者の連携が五家合議の実効性を底上げしている。
レクネール家の首相職を務め、カルヴァーチの実務を取り仕切る人物。メレザの一番弟子として
令咏術の修練を積んだ経歴を持つ。フォレニア建国期にカルヴァーチの山岳開拓を担った気概をアリウスは買っている。メレザが隠居に近い立場を取る中でカルヴァーチの行政を一手に引き受ける働きぶりに対し、聖貴族会の席上で折に触れて肯定的な言及を行っており、フリートン議長が「うちの惑星の話をしているときに他所を褒めるのはやめてほしい」と渋面を浮かべる一幕もあった。()エレイナ自身はアリウスの存在に萎縮する様子もなく、率直な物言いで接するため、アリウスは「遠慮のない子は好きよ」と上機嫌で返している。
ヴィスプローメ騎士団の団長にして、トローネ公王の最も近き側近。
旧世界において連合帝国の近衛騎士団を率いていた経歴を持つ。アリウスとの関係は、ともにトローネを支える立場として公国建国以前から築かれてきた。
宮殿惑星への訪問時にアリウスがトローネと砕けた会話を交わす傍ら、セルブラーナが微動だにせず控えている光景は公国の日常風景のひとつとなっている。
私的な交流が頻繁にあるわけでないが、トローネの安寧という共通の目的において、無言の信頼で結ばれた関係にある。
旧世界時代に一時契約を取り交わした。謎の親友。公国時代においても茶会に誘っては茶化すなどの交流が続いている。
時折スカラフィアの海上にふらりと姿を現しては、ミルズニアの茶店で向かい合う姿が目撃されている。
旧世界において人ならざる存在との交流を通じ、世界の在り方を語り合っていた両者の関係は、新天地においても本質的な変化を見せていない。
世界平和のためにスケープゴートにされた少女。旧世界時代にアリウスが受けた大恩は、数千年を経た公国時代においても決して忘れられていない。
スカラフィアのフェルフィア公爵邸には、彼女に纏わる品が大切に保管されているという。
聖玄羅連邦の皇将。
湧羅戦争の戦後処理を通じて間接的に名を知り、捕虜の丁重な返還を主導した麗の姿勢にアリウスは深い関心を寄せた。旧世界時代の外交経路を介して数度の書簡が交わされており、直接の面会が実現したのは1000年以降とされる。互いに永い歳月を生きた不老の指導者として、親しい者を見送る痛みや、理想と現実の狭間で判断を重ねる苦悩において通じ合うものがある。公国時代においては星団間の距離が隔てるものの、麗の名はアリウスの語彙の中に折に触れて現れる。スカラフィアの茶店で「お茶が冷めるのを眺めるのが好きな人がいてね」と語った際、側近は相手が誰であるか察したが、問い返す度胸は持ち合わせていなかった。焔喰らいの病に蝕まれながらも国を率い続ける麗の在り方を、アリウスは同志に対する敬意をもって見つめている。
故ルドラス大公との間に生まれた実の娘。旧暦時代における政略の生贄として、
ヴァンス・フリートンのもとに嫁がせざるを得なかった己の無力を、アリウスは数世紀にわたって呪い続けた。
和解は
イドラム二世の説得と、ヨバンナ自身が紡いだイドルナートの一節によって果たされている。
公国時代においては、フリートン家の基盤を支える存在としてスヴェリナに在り、母娘の関係は穏やかなものとなった。
スヴェリナを訪れた折にフリートン家の食卓に招かれ、ヴァンスが茶を淹れる横でヨバンナと談笑する光景は、旧世界の修羅場を知る者にとって隔世の感がある。
ジェルビア連邦共同体の公王。アリウスが旧世界で直々に指名した継承者であり、事後処理を委ねた相手でもある。公女時代には泣き虫で負けず嫌いだった少女が、2500年の歳月を経て穏やかで芯の揺るがぬ指導者へと変貌を遂げた。アリウスは旅立ちの際、長年の薫陶の成果を信じてロフィルナ圏の全てをリティーアに託している。公国と旧世界の間には星団間の距離が横たわるため、直接の面会は極めて稀である。それでも、長距離通信を介した書簡のやり取りは途絶えておらず、リティーアからの便りにアリウスが返す言葉は短いながらも温かいものであるという。かつて公女の失点を幾度となくフォローし、旅立ちの背中を押した恩師と、託された重責を静かに全うし続ける教え子。母と娘としての関係性も認めており、距離によって薄れる気配を見せていない。
エルクール大公国の女大公。旧暦時代の第二次ロフィルナ革命において戦火を交えた相手であり、戦後処理の過程で和解して以降は本音を語り合える数少ない家族の一人となった。公国時代においてロフィーリアは旧世界に留まり、リティーアとともにロフィルナ圏と旧帝国圏を繋ぐ広域秩序の形成に尽力している。アリウスにとっては旧世界に残した信頼の錨のような存在であり、ロフィーリアにとってのアリウスもまた、一族粛清の苦悩を知る数少ない理解者であった。新天地と旧世界に分かれた今も、長距離通信を通じて近況を交わす関係が続いている。映画女優としての栄達をアリウスが知った際には、「あなた、本当に何でもやるのね」と笑ったという。
戦闘能力
旧世界時代のアリウスは、ファラネヴェ駆動剣術を極めた達人として、またグラヴィス調律器による重力操作の使い手として、「一人で軍勢を凌駕する」と評される戦闘力を誇った。公国時代においても技巧と経験は失われておらず、スカラフィアの海岸で駆動剣術の型を演じる姿が、たびたび目撃されている。ただし、平時に発揮し得る力は旧世界時代と比較して大幅に低下した状態にある。能力の大半を
トローネ公王への祝福に充てており、
令咏術の召属性を重ねた契約関係を通じて膨大な晶気を恒常的に譲渡しているためである。反応速度、重力制御の精度、攻撃の射程と威力、いずれも平時には微かな残り火のごとく抑えられている。かつてレベル100の精鋭と謳われた戦士が、レベル1の状態で日常を過ごしているに等しい。契約の縛りを解けば本来の力が蘇るが、トローネに捧げた祝福を引き剥がすことを意味する以上、滅多なことでは行わない。万一、公国の存亡に関わる危機が生じた場合には、解放の度合いに応じて旧世界時代の戦闘力が層を成すように回復していく。完全な解放に至った暁には、冷血母公の異名が過去の遺物ではなかったことを新天地にもまざまざと知らしめることになる。
フェルス・ファラネヴェ
公国時代におけるアリウスの専用武器であり、旧世界で振るった
レミソルティス・ファラネヴェの後継として新たに鍛造された。第2世代ファラネヴェ。先代が刃渡り約1.2mの細身の長剣であったのに対し、刀身にやや幅を持たせた設計となっている。刃の中央から切先にかけて薄紫の発光を帯びる意匠が施され、柄と刀身の接合部には円形の晶気制御機構が左右に配された。ホログラムシートの展開と、書き込みを補助する装置である。刀身は先代と同じく
イドゥニス晶鋼を基盤とし、内部に
液状半導体と小型晶化炉を組み込んだ構造を継承している。鍛造にあたっては、フェトリーンド家のフランが技術監修を務め、ドラグシアの研究施設群で蓄積された工学的知見が反映された。先代との最大の差異は、アリウスの契約状態と連動する出力制御機構にある。トローネへの祝福に能力の大半を捧げている平時においては、炉が休眠状態に近い低出力で駆動し、晶気の放射も極めて微弱な水準に留まる。刀身の発光は淡く、剣全体が眠りについているかのような静けさを見せる。契約の拘束が段階的に緩められると、休眠していた炉が覚醒し、半導体の循環が加速するにつれて刀身の発光が強まっていく。完全な解放に至れば先代を凌ぐ出力を発揮し、重力操作との同期も旧世界時代の水準を取り戻す。刀身の輝きの強さが、そのまま、冷血母公の覚醒度を示す指標となっている。平時のアリウスが携えて歩く姿は、スカラフィアの住民にとっては装飾品の一種にしか見えていない。イドゥニア星域を震撼させた力が、今は穏やかな海風のなかで眠りについている。
語録
「ふりーとんさん?聖貴族会の議事録にまた誤字があったわよ。三箇所。……ああ、別に怒ってないわ。怒ってないけど、ミルズニアの運河にね、とっても冷たい水が流れてるの。知ってた?」
聖貴族会の事務処理を巡って。笑顔で。フリートン議長の胃が軋む音が聞こえたとか聞こえなかったとか。
「海の色をね、旧世界では見たことがなかったの。こんなに澄んだ青は、戦場の空にも、宮殿の庭園にもなかった。……ふふ、だから私、スカラフィアが好きなのよ」
海岸にて。誰に言うでもなく。
「トロちゃん、また寝てたでしょう。クッションの跡が頬についてるわよ。……いいのよ、公王様だって休む権利はあるんだから。でもね、聖貴族会の前には、ちゃんと顔を洗ってちょうだいね」
宮殿惑星への訪問時に。トローネ公王の頬をつつきながら。
「メレザさん、あなたが作ったあの山の薬草茶、とても美味しかったわ。……それで、カルヴァーチの山小屋の周りに生えてる例のキノコ、あれは本当に食べられるのかしら。エレイナさんが心配していたわよ」
メレザとの茶会にて。心からの関心と、一匙の悪戯心を込めて。
「スカラフィアに来て一番驚いたのはね、誰も私の名前を聞いて逃げないこと。嬉しいような、寂しいような……いえ、嬉しいのよ。本当に。多分」
漁村にて。地元の漁師との会話のなかで。
「フランさんとのお茶会の中身?ふふ……内緒。知りたい?知りたいなら、まず貴方がスカラフィアの海を泳いで渡ってきてちょうだい。それくらいの根性がないと、あの話にはついてこれないわよ」
フェトリーンド家との茶会の内容を問われて。にこやかに。
「ねえ、セルブラーナさん。トロちゃんのこと、いつもありがとうね。……あなたがいるから、私は安心して海で遊んでいられるの。感謝しているわ。本当よ」
ヴィスプローメ騎士団長に。珍しく率直な言葉で。セルブラーナは無言で頭を下げた。
「昔の私なら、ここの程度の不手際で重役を三人くらい更迭していたわね。……冗談よ?冗談に決まってるじゃない。……ねえ、なんでそんな顔するの」
スカラフィアの行政報告を受けて。後貴族会の官僚が蒼白になった。()
「ヨバンナ。母さんね、あなたのお父さんの淹れるお茶が実は嫌いなの。でもね、あの人が一生懸命淹れてる姿を見るのは……まぁ、悪くないわ」
スヴェリナ訪問時に、娘に。フリートンが背後で固まった。
「わたくしが今、何を考えているかって?……ふふ。旧世界では百人の政治家がこの問いに怯えたものよ。でもね、今は本当にただ……お腹が空いてるだけなの。ミルズニアの市場に行きましょう」
同行する側近に。安堵の溜息が三つほど聞こえた。
「あのね、法務卿に就いてから気づいたことがあるの。法律って、作るのは楽しいけど、守らせるのは面倒なのよ。……特にね、議事録に誤字を三箇所も入れてくるような議長にはね」
フェルフィア公爵邸にて。来客に向けた雑談のなかで。
「旧世界ではね、私が動けば法を超えるなんて言われたものよ。……ここでは法を作る側だから、超える必要がないの。便利な世の中になったわ」
法務卿としての職責について問われて。冗談なのか本気なのか判別がつかない微笑とともに。
「あの剣?ああ、フェルス・ファラネヴェのこと?今はね、ほとんど飾りみたいなものよ。大事な力は、もっと大事な人のために使っているから。……何に使ってるかって?野暮なことを聞くのね」
フェルス・ファラネヴェについて尋ねられて。柔らかく、しかし有無を言わさぬ口調で。
「あら、ふりーとんさん。随分と素直な感想をお持ちのようね。……ええ、旧世界の頃とは違うわよ。1世紀かけて余分なものを全部落としたの。筋肉も、脂肪も、ついでに貴方への遠慮もね。……で?もしかして、前の方が良かったなんて仰るつもり?わたくし、聞こえなかったことにして差し上げてもよくってよ。今なら、まだ間に合うわ。さあ、もう一度だけチャンスを上げるから、最初から言い直してちょうだい?」
スヴェリナの港でアリウスを出迎えたフリートンが、久方ぶりに見る彼女の姿に「最近お痩せになられて……」と口を滑らせた直後に。旧世界時代の腹筋が割れるほどの鋼の肉体を知る男の、率直な驚きではあったのだろう。しかし、女性の体型変化に関する言及が、どれほどの地雷であるか。数千年を生きて、なお学習できていないらしい。アリウスは微笑んだまま一歩踏み込み、低く、静かに、鈍器のごとき精度で言葉を連ねた。港湾施設の気温が3度ほど下がったと、居合わせたフェルフィア騎士団の団員が証言している。フリートンは以後、アリウスの外見に関する一切の所感を封印したとのこと。()
エピソード
- スカラフィアの海で泳ぐのが日課。遺伝子強化された肉体で沖合まで往復する姿を漁師たちは当初畏怖していたが、いつしか「海のお姉さん」と呼ばれるようになった。74アストラ歳である。()
- 美意識の向上に伴い、スカラフィアの海洋性気候が肌に与える効果について独自の研究を行っている。論文にまとめる気配はない。
- ミルズニアの運河を小舟で巡るのが趣味で、水先案内人を置かずに自ら操舵する。運河の管理官いわく「公爵閣下の操舵は正確すぎて逆に怖い」とのこと。
- フリートンがスヴェリナから届けた工業製品の梱包に「取扱注意」と書いてあったのを見て、「あら、あなた自身のことかしら」と返信した。フリートンは三日間返事を寄越さなかった。
- トローネ公王の宮殿惑星を訪れる度に手土産としてスカラフィア産の海産物を持参する。トローネは喜ぶが、セルブラーナが検品に半日を要するため、到着から食卓に並ぶまでに相当の時間がかかる。
- 聖貴族会の合議中に突然「今日の海が綺麗だったの」と発言し、議事が一時停止した。フリートン議長が「議題に戻ってください」と言うまでの沈黙を、メレザは「公国の平和を象徴する一分間」と評した。
- 旧世界時代に周囲の部下をイケメンとイケオジで固めていた趣味は公国でも健在であり、スカラフィアの神識府には何故か容姿端麗な官僚が集中している。人事権の濫用を疑う声に対し、アリウスは「実力で選んでいるわ。見た目は……まぁ、おまけよ」と述べた。信じる者はいない。
- フランとの茶会の後に毎回上機嫌で帰ってくるため、側近が内容を探ろうとしたが、アリウスは「知らないほうが幸せよ」とだけ答え、追及を許さなかった。
- カルヴァーチのエレイナを訪ねた際、山岳地帯の急斜面を涼しい顔で登り切り、息を切らすエレイナに「体力が足りないわね。メレザさんに鍛えてもらいなさい」と微笑んだ。エレイナ(変態)は官能的な表情()を浮かべた。
- 旧世界では賭け事を嗜み多くの高官を餌食にしていたが、公国時代は対戦相手がフリートンに偏っている。勝率は依然として圧倒的。負けた際には素直に褒めるが、フリートンが勝った日の翌日には必ず聖貴族会で厄介な議題が持ち上がるため、「勝つと怖い」という噂が絶えない。
- スカラフィアの水上祭儀において自ら祭壇に花を供える慣習を始め、島嶼の住民たちから「海の貴婦人」と呼ばれるようになった。旧世界の「冷血母公」を知る者は、変貌に目を疑ったという。
- 鎖国期間中、スカラフィアの沿岸部で発見された未知の海洋生物に名前を付ける権利を主張し、「ふりーとん貝」と命名した。抗議は握り潰された。
- 旧世界時代からの訓練習慣は途切れておらず、海岸で駆動剣術の型を演じる姿がたまに目撃される。漁師たちは「朝の体操」だと思っている。フェルス・ファラネヴェの刀身がうっすら光るのを見ても、「今朝は綺麗ですね」で済まされている。
- ミルズニアの市場で値切り交渉を行い、店主を圧倒した。店主いわく「あの笑顔で値切られたら断れるわけがない」。公爵としての威光は一切使っていないと本人は主張する。
- フェルス・ファラネヴェを携えたまま市場で買い物をする姿が目撃されているが、スカラフィアの住民にとっては「公爵様のお洒落な杖」くらいの認識らしい。かつてイドゥニア星域で何を成した剣なのか、知る者は新天地にいない。
- 開国後にスカラフィアを訪れた共立銀河連邦の役人が、アリウスを地元の貴族令嬢と勘違いして口説きにかかった事件がある。フェルフィア騎士団が即座に取り囲んだが、当のアリウスは上機嫌で「久しぶりに口説かれたわ」と笑い、役人を許した。その男は後日、相手の正体を知って三日間寝込んだという。
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最終更新:2026年04月24日 22:51