H.P.ラブクラフト
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(H.P. Lovecraft, 1890年8月20日 - 1937年3月15日)は、アメリカの怪奇小説作家であり、「
クトゥルフ神話」の創始者として知られています。
その作品は、宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)を中心に展開され、後世のホラーやSF、ファンタジー文学に多大な影響を与えました。
概要
ラヴクラフトの生涯
ラヴクラフトは1890年、アメリカ・ロードアイランド州プロビデンスに生まれました。幼少期から
ギリシア神話や科学に興味を持ち、6歳頃には物語を書き始めています。しかし、家庭環境や健康問題に悩まされることが多く、精神的にも困難な時期を過ごしました。彼は生涯を通じて貧困に苦しみ、生前には大きな評価を得ることなく1937年に46歳で亡くなりました
ラヴクラフトの代表的な作品群は「
クトゥルフ神話」と呼ばれる一連の物語体系を形成しています。この名称は後世の作家
オーガスト・ダーレスによって体系化されたものであり、ラヴクラフト自身は特定の名前で呼んではいませんでした。
クトゥルフ神話の特徴は以下の通りです:
- 宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)
- 人類が宇宙規模で見れば取るに足らない存在であるという「宇宙主義」の思想が根底にあります
- 架空の地理と設定
- 擬似神話的存在
- 謎めいた書籍
- 「ネクロノミコン」など、実在しない書物が物語にリアリティを与える重要な要素となっています
これらの要素はラヴクラフト自身が体系化したものではなく、彼の作品が発展する中で自然と形成されていきました。
代表作
ラヴクラフトの作品には以下のような名作があります:
- 『クトゥルフの呼び声 (The Call of Cthulhu)』
- 『狂気の山脈にて (At the Mountains of Madness)』
- 『ダンウィッチの怪 (The Dunwich Horror)』
- 『インスマウスの影 (The Shadow Over Innsmouth)』
- 『闇に囁くもの (The Whisperer in Darkness)』
影響と評価
ラヴクラフトは生前こそ商業的成功には恵まれませんでしたが、その後の文学界やポップカルチャーへの影響は計り知れません。彼の作品は映画、ゲーム、小説などさまざまなメディアで取り上げられています。例えば、『死霊のはらわた』シリーズやゲーム『Call of Cthulhu』などがその例です。
また、彼の「宇宙的恐怖」という概念は従来のゴシック
ホラーとは一線を画し、人間存在そのものへの哲学的問いかけを含む新たな恐怖文学として再評価されています。
課題と批判
一方で、ラヴクラフトには
人種差別的な思想があったことも指摘されています。彼の作品や手紙にはその影響が見られ、この点については現代でも議論が続いています。
H.P.ラヴクラフトは、その独自性と想像力によってホラー文学を新たな次元へと押し上げた作家です。「クトゥルフ神話」を中心とした彼の作品群は今なお多くのクリエイターや読者に刺激を与え続けています。その一方で、彼自身の思想や時代背景についても理解することで、その功績と課題をより深く知ることができます。
ラヴクラフトの人種差別的な信念
H.P.ラヴクラフトはその文学的才能とともに、極端な
人種差別的思想を持っていたことで知られています。
彼の作品や書簡には、当時の社会的背景を超えてもなお際立つほどの偏見が反映されています。
- 詩「On the Creation of Niggers」
- この詩では、黒人を「半人間」として描き、人間と獣の中間的存在と位置づけています
- 移民や非白人への嫌悪
- ニューヨークでの生活中、彼は多様な移民コミュニティに対する嫌悪感を強め、「The Horror at Red Hook」などの作品でその感情を表現しました
- この短編では、移民や黒人を「混乱の元凶」や「怪物」として描写しています
- 異人種間結婚(ミスジェネーション)への恐怖
- 彼は異人種間の結婚や混血を「国の堕落」と見なし、それが多くの作品で暗喩的に描かれています
- 「The Shadow Over Innsmouth」
- 異形の存在との交配がテーマとなっており、異文化や異民族への恐怖が反映されています
- 「The Horror at Red Hook」
- ニューヨーク市の移民増加に対する嫌悪感が直接的に描写されています
- 背景と要因
- ラヴクラフトの人種差別的思想は、彼自身の育った環境や時代背景から影響を受けたものと考えられます
- 彼はアングロサクソン系白人至上主義者として、自身を「高貴な血統」の一部と見なしていました
- ニューヨークでの生活中、彼は多様な文化や民族との接触による不安から、さらに排他的な見解を強めました
- 批判と再評価
- ラヴクラフトの人種差別的思想は、彼の文学的遺産に対する評価を複雑にしています
- 近年、多くの批評家や作家が彼の偏見について議論し、その影響を認識しています
- 例えば、小説『Lovecraft Country』では、ラヴクラフト作品における黒人キャラクターへの偏見が逆転され、新たな視点が提示されています
- 一方で、一部の読者や研究者は「芸術と作家自身を分けて考えるべきだ」と主張しています
H.P.ラヴクラフトはホラー文学において革新的な貢献を果たしましたが、その作品には彼自身の極端な人種差別的思想が色濃く反映されています。この点は現在でも議論の対象となっており、彼の文学遺産をどのように捉えるべきかについて、多くの意見が交わされています。
H.P.ラブクラフトが創り出した
クトゥルフ神話は、彼自身の内なる不安感や
恐怖心を反映したものと考えられます。
- 自身の無力さと孤独感
- ラブクラフトの作品に共通するテーマである「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」は、人間が広大な宇宙の中で取るに足らない存在であるという認識から生じる恐怖を描いています
- この恐怖は、未知の存在や異次元の力に対する人間の無力さ、そしてその結果としての無意味感や孤独感を強調するものです
- 幼少期の家庭環境と健康問題、社会問題
- ラブクラフト自身の人生や思想も、彼の創作に大きな影響を与えました
- 彼は幼少期から家庭環境や健康問題に苦しみ、社会不適合者的な側面を持っていました
- また、科学技術の進歩や社会変化(例えば、移民増加や女性参政権など)に対して保守的な立場を取り、不安や嫌悪感を抱いていたとされています
- これらの要素が、彼の作品における「得体の知れない邪神」や「狂気」として表現された可能性があります
- 神経症やひきこもりと精神疾患
- さらに、ラブクラフトは狂気や精神崩壊というテーマにも強い関心を持ち、それらを作品に織り込んでいます
- 彼自身が神経症やひきこもり生活を経験し、狂気への恐怖感が強かったことが、このテーマ選択に影響したと考えられます
- クトゥルフ神話に登場する邪神たちは、人間の理解を超えた存在として描かれ、人間がそれらと接触することで正気を失うという描写が多く見られます
総じて言えば、ラブクラフトは個人的な不安感や時代背景から生じる恐怖心を創作活動によって昇華し、それを「邪神」などの形で具現化したと言えるでしょう。これがクトゥルフ神話という壮大な世界観となり、多くの読者や作家たちに影響を与え続けています。
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最終更新:2024年12月28日 11:05