自由惑星同盟(銀河英雄伝説)

登録日:2024/05/14 Tue 19:11:38
更新日:2024/10/05 Sat 03:00:43
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友よ、いつの日か、圧政者を打倒し
解放された惑星(ほし)の上に自由の旗を()てよう
吾ら、現在(いま)を戦う、輝く未来のために
吾ら、今日を戦う、実りある明日のために
友よ、謳おう、自由の魂を
友よ、示そう、自由の魂を

専制政治の闇の彼方から
自由の暁を吾らの手で呼び込もう
おお、吾ら自由の民
吾ら永遠に征服されず……

「銀河英雄伝説1 黎明篇」(創元版)第四章より抜粋

自由惑星同盟とは『銀河英雄伝説』に登場する架空の国家。

●目次

【歴史】

はじまり

ルーツは帝国歴164年あたりに極寒の惑星だったアルタイル星系第7惑星で強制労働をさせられていた農奴階級の人々。
かねてからいつの日かこの惑星から逃亡し、星々の彼方に民主共和制国家を築きたいと考えていた青年アーレ・ハイネセンは、とある偶然からこの星にはいくらでもあるドライアイスでもって宇宙船を建造し逃亡する事を思いつく。
彼らの目論見は成功し、ドライアイス製宇宙船『イオン・ファゼカス号』でもって約40万人で流刑地を脱出。その後、とある無名の惑星に着陸し80隻の恒星間宇宙船を建造。本格的な移住先探しの旅に出ることになる。

この移住先探しの旅は艱難辛苦に満ち溢れており、多数の人々が新天地を目にすることなく死亡*1。指導者だったハイネセンもその道中に事故で亡くなった。
ハイネセン死後は彼の友人だったグエン・キム・ホアが受け継ぎ、そんなグエンも老いて失明する頃になってついに安定した星々と可住惑星へとたどり着いた。
結局この旅は移動距離1万光年、54年間という凄まじいものとなった。後日、この旅は『長征一万光年』と呼ばれることになる。

長征一万光年を生き抜いた人々はバーラト星系にて見つけた可住惑星にて宇宙歴の復活と自由惑星同盟の建国を宣言。
彼らの最初の指導者を記念し、この星は『ハイネセン』と名付けられた。
ハイネセンには今もアーレ・ハイネセンの巨大な像が建てられている。それがハイネセンが望んでいた事かどうかは別として。

帝国との接触

安住の地を得て建国した彼らだが、当然ながら彼らは銀河帝国からの逃亡者であり、そのため銀河帝国の存在を知っていた。
そしていつの日か銀河帝国と接触する日が来ると考えており、開拓だけでなく軍備も整えていた。

はたせるかな、建国からおよそ120年後、ついに自由惑星同盟と銀河帝国は哨戒部隊同士の遭遇という形で接触。初戦は覚悟を決めていた同盟が奇襲して勝利に終わるも、撃沈寸前に帝国艦が緊急通信を発したことで帝国側に同盟の存在が露呈した。
これを受け銀河帝国は「100年以上前に脱走した奴隷たちの子孫」である「辺境の叛乱軍」を掃討すべく、第3皇子ヘルベルト大公を総司令官とした討伐軍を編成、出撃させ…ダゴン星域の会戦でものの見事に敗退した。

いずれにしろ、この事件により同盟の存在が銀河帝国の人々に暴露され、多数の人々が帝国を脱出し同盟へ亡命することになる。
無論同盟はそんな彼らを受け入れていったのだが、確かに彼らの多くは潜伏していた民主共和制の信奉者たちだったのだが、中には政争に敗れた貴族や単なる刑事犯といった保身しか考えていない人々も紛れ込んでいたのも事実。
このこともあり、多少の変質を余儀なくされることとなる。

さらに、ダゴン星域での会戦で負けたからと言って銀河帝国は引き下がる事はなく、以降、本編の時代まで150年近く慢性的な戦争が続くことになる。

本編開始時の情勢

建国からおよそ300年、かつての民主共和制への情熱はすっかり忘れ去られ、また銀河帝国との慢性的な戦争は国力に見合わぬ軍備の優先という不健全な社会を強いられた。
その結果、同盟内部では縁故主義が横行し、権威主義に傾斜した衆愚政治と化していた。
730年マフィアの活躍によって帝国に軍事的優勢に立ったと思われた時期もあったが、これらもパワーバランスを動かすには至らず、更に銀河帝国がイゼルローン要塞を設置した事もあり、ほぼほぼ膠着状態に陥っていた。

が、この時同盟にはヤン・ウェンリーが、帝国にはラインハルト・フォン・ローエングラムという英雄が生まれる。

イゼルローン要塞はヤンによりほぼ無血開城され、同盟の手に落ちた。
が、同盟政府、そして同盟市民はさらなる軍事的成功を求め、帝国領侵攻に踏み切る
結局返り討ちにされたばかりか、複数の艦隊が壊滅。これによりもはやどうしようもないレベルで戦力も減少。

そんな中でラインハルトの策謀に乗せられて内紛に明け暮れた挙句、
さらには中立地帯だったフェザーンも帝国に占領され、凄まじい勢いで不利っぷりは加速。
ラインハルト討伐による一発逆転を狙ったものの、最終的にはラインハルトの側近であるヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの奇策もあってこの策は失敗に終わり、同盟政府は名目上は講和、実質的には降伏を余儀なくされた。

終焉

そんな講和も様々な事件が起きた結果、わずか半年で破棄されてしまう。
同盟軍はマル・アデッタ星域にて最後の抵抗をするも敗退。自由惑星同盟軍宇宙艦隊司令長官ビュコック元帥、同総参謀長チェン大将も戦死。
これにより同盟軍はほぼ消滅し、さらに同盟元首たるレベロ最高評議会議長も保身を目当てにした同盟軍統合作戦本部長ロックウェル大将らにより殺害され、同盟は事実上崩壊。

ラインハルトらはハイネセンに上陸後、発せられた場所から「冬バラ園の勅令」として知られる勅令を発出。
この勅令により自由惑星同盟の存在は追認されたものの、銀河帝国に併呑される事が宣言され、名実ともに自由惑星同盟は消滅することとなった。

ただし、「エル・ファシル独立政府」や「イゼルローン共和政府」と言った、自由惑星同盟から独立して民主共和制を受け継ぐ勢力がその後も登場し、最終的にはイゼルローン共和政府がバーラト星系の自治権を帝国から認められる形となっている。
彼らを同盟の後継国家と呼ぶべきかは議論のあるところだろうが、自由惑星同盟の目指した「民主共和制の思想に基づく政体」そのものは、伝説の終了後も存続していくこととなった。

【政治制度】

政治制度は(一応)民主共和制。
最高評議会議長が国家元首を務めており、その下に副議長、書記、8人の評議員がおり、計11人で日本の内閣に当たる最高評議会を構成している。
開戦などの重要な決定は最高評議会評議員の多数決によって行われており、逆に戦争を終結するかどうかの決定権は最高評議会議長が持つ。
具体的にどこまでが評議員による多数決で、どこからが議長に決定権が有るのかは不明だが、どちらにせよ最高評議会が自由惑星同盟の最高意思決定機関なのは間違いない。
議員は選挙でえらばれるようだが、選挙形態はよく分かっていない。ただ、選挙結果によって元首が引きずりおろされることは当然想定されているようだ。

また最高評議会とは別に日本の省庁に当たる国務・国防・財政・法秩序・天然資源・人的資源・経済開発・地域社会開発・情報通信の各委員会が存在しており、最高評議会の評議員が各委員会の委員長を務めている。

地方政治に関しては、各星系ごとに自治政府が置かれており、惑星の統治は基本的に星系政府が行っている模様。
一方で警察力の範疇を超える大規模な軍事力を持っているのは同盟政府のみであり、この点は大貴族が惑星の統治権のみならず独自の軍隊を持っていたゴールデンバウム王朝とは異なる。

【社会】

本編開始時の総人口は約130億人。そのうち約10億人が首都星ハイネセンに居住。
公用語に関しては文書・看板・電子モニターなどは基本的に英語で書かれている。(帝国はドイツ語)
ほぼ白人種のみで構成されている銀河帝国に対して自由惑星同盟は黒人やアジア系、中東系なども含む多様な人種で構成されている。
氏名も、ほぼゲルマン系の姓名ばかりの帝国に対し、同盟は白人系でもアングロ系・ラテン系・東欧系など多様で、日本風・中国風まで広く存在している。
これは自由惑星同盟が銀河帝国からの亡命者の子孫で構成されているのが原因と思われる。

ただし、だからといって差別が無いという訳ではないらしく、祖先の出身に由来する階級・階層意識やそれに基づく偏見や差別が存在する様子。
例えば銀河帝国からの亡命者であるワルター・フォン・シェーンコップは、口には出さないものの成長の過程で周囲から有形無形の差別を受けてきた事を匂わせており、ユリアン・ミンツの祖母はユリアンの母親が銀河帝国からの亡命者である事を理由に息子との結婚を認めようとはしなかった*2

首都である惑星ハイネセンなどでは、リニアモーター式の電車や道路から浮上して走る自動運転式のエアカーなど未来都市的な景観が見られる反面、食べ物や日常生活に関してはさほど変化はない。
また、銀河帝国との長きに亘る戦争によって、若手〜中年の働き盛りの人材を軒並み軍に取られ(そして戦死し)、徴兵前の子供と、除隊した傷病兵・高齢者ばかりという歪な社会構造と化している。
このため社会は慢性的な労働人口不足に陥っており、ハイネセン全体が頻繁に停電や渋滞を起こすなどインフラの衰退が見られる。
また市民による政治監視も機能不全に陥る衆愚政治状態で(ビュコック曰く「市民すら、政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった」)、有力者の子弟の間では兵役逃れや兵役中の任地の優遇が横行するなどコネによる不正が蔓延している。
トリューニヒトを糾弾したジェシカや、彼女に感化され死後組織されたエドワーズ委員会、同盟滅亡後に民主共和制復興を目指したロムスキーなど(ヤンやビュコック、シトレなど民主主義を信奉する軍人以外にも)政情を憂いる良き市民もいたが、作中では政治的な主導権を握る事は出来なかった。
この腐敗の末に同盟は「個人的なルートで政界首脳部に持ち込まれた」帝国領侵攻作戦という破綻に至る事となる。


通貨単位はディナールで、同盟の年間予算は推定4兆ディナール弱。*3


憂国騎士団

反帝国思想に凝り固まった極右団体で、帝国打倒の目的に従わない存在には暴力行為も辞さず現状を鑑みない過激派危険集団。
OVA版ではホッケー用の覆面をかぶった、いかにもカルトな団体として描かれている。また同じくOVA版でジェシカ襲撃に際し、夕日と共に同盟国歌の鼻歌で登場するシーンは「同盟の黄昏」を象徴する印象的なシーン。
ほぼトリューニヒトの私兵集団と化しており*5、反戦・反トリューニヒト派への弾圧をおこない、ヤンも自宅を襲撃されたことがある。またエドワーズ委員会の抗議活動を警察と結託して叩き潰すなど、物語を通じて悪行の限りを尽くした。
同盟が滅亡した後も存続はしていたが、ハイネセンで起こった大火災事件が彼らに引導を渡すことになる。
この火災事件自体は作業用のゼッフル粒子発生装置が原因であるれっきとした事故であったが、ハイネセンを占領していた帝国軍は「適当な犯人に責任と民衆のヘイトを押し付けるのが吉」と判断して生贄役に憂国騎士団を選定、さらにその過程で彼らと地球教の関与も発覚したことで徹底的な摘発の対象となって壊滅した。
作中ではその事に対してイゼルローン共和政府等の民主主義者から一切温情の類が無く、紛うことなく自業自得の末路を辿ったといえる。


【軍事力】

帝国と渡り合うほどの軍備を保有するが、文民統制原則に従い軍部の権限は抑えられ、軍の最高司令官は形式的には文民である最高評議会議長である。
OVA版では宇宙艦船は主にグリーンを基調とした角柱型の船が多い。
帝国軍の戦艦が曲線が多く優美なシルエットを持つのとは対照的に、アンテナが多く武骨なのが特徴。
DNT版でもグリーンの角柱型の船体は共通しているが、何故か船体にくびれがつき、そこに推進機が搭載された。それ以外にも特徴的なアンテナが減り、ブリッジが格納式になった。
共通して戦艦の性能自体には帝国と大きな差は無いが、ブリッジは要員が多く広い。
また、戦艦に惑星の大気圏へ降下する能力は無く、地上との行き来にはシャトルが必要。
これは支配下の惑星やその住民に対してその威容を誇示、時には武力行使する役割を持っている銀河帝国の宇宙艦隊に対し、
同盟軍のそれはあくまで宇宙空間における艦隊戦を行う防衛戦力である為。
余計な機能を省く事で必要な性能を落とさずコストを下げ、国力で勝る帝国に対抗する数を揃える意味もあるのだろう。

艦載機はスパルタニアンと言い、こちらも帝国のワルキューレと性能はほぼ同等。

首都星ハイネセンの周りには強力な迎撃性能を持つ無人戦闘衛星「アルテミスの首飾り」が回っているが、後にヤンに全部壊されてしまった。

帝国が巨大要塞や指向性ゼッフル粒子などを持つのに比して同盟だけの新兵器や特殊兵器はほとんどなく、上記のアルテミスの首飾りもフェザーンから購入したものである。
軍事の面では堅実、または地味といった感じが派手な帝国とは対比になっているといえよう。

また、少なくとも本編で確認できる限りは後方勤務の職員に至るまで全員が男性兵士だった帝国軍に対し、同盟軍は女性兵士も多い。


【国民】

政治家

  • ロイヤル・サンフォード
物語開始時の最高評議会議長。
「政界の力学がもたらす低級なゲームのすえ、漁夫の利をえた」人物で、人望が無く精彩を欠くため、調停役として一周まわって逆に議長に選出された。
だが、どこぞの三流政治業者とは違い、自分自身で考えて行動することができる。
…そのせいでたかが支持率の為だけに帝国領侵攻作戦を可決してしまった
フォークとは個人的なコネがあったが故に個人で不正に持ち込まれた作戦を軍部の作戦として承認してしまうなど、軍事的にはロボスと同様に事実上フォークの傀儡と化している。
当時はトリューニヒトは閣僚の一人に過ぎず、フォークに至っては多数の参謀の一人に過ぎなかった事を考えると、彼こそが自由惑星同盟滅亡の真の元凶と言える。
帝国領侵攻作戦の失敗の責任を取って辞任し、その後は登場しない。

  • コーネリア・ウィンザー
最高評議会議員の一人で情報交通委員長。当時の同盟最高評議会で唯一の女性議員であり、作中通しても珍しい女性の政治指導者である。
前任者の贈収賄事件により帝国領侵攻作戦の出征を決める議会のわずか一週間前に議員の一員となった新参者であるが、トリューニヒト同様の主戦派で最高評議会議長の座を狙う野心家。
原作地の文で「40代前半の、優雅で知的な美しさをもつ優雅で魅力的な女性で、声には音楽的なひびきがある」と評されており、レベロが警戒している。

しかし、トリューニヒトと異なり戦争に関しての嗅覚や先見性は皆無である上、「どれだけ犠牲が多くとも、たとえ全国民が死んでも成すべき崇高な大義がある」と、過激な主戦論を口にする、ある意味ではトリューニヒト以上に危険な存在。
彼女の安っぽいヒロイズムと支持率上昇を狙う政治家たちの野心が合わさって帝国領侵攻への採決を強行させることになり、無謀な出征は決まってしまった。

その結果はひたすら支出ばかりが増えて浪費していく最悪な状況となり、追加物資の検討会議に「軍は何をしているのか」「サンフォード議長が余計なことを言ったから…」と責任転嫁の怒りと恨みばかりを募らせ、その上で保身を優先して「せめて少しでも軍事的成果をあげてもらってから撤退」と遠征継続に賛成した。
藤崎版に至っては「自分達が地位を失うから何とかしろ!」とはっきり開き直る始末である。
結局、帝国領侵攻作戦は得るもののない大失敗に終わり責任を取って辞職。

道原版においては責任を追及してくるマスコミに対して「人命以上に尊重するべきものがあるのが分からないの?」「自分なりに責任は取ったんだから満足でしょう?」と、この期に及んで逆ギレして逃げ出す醜態を見せつけた。
その後はサンフォードと同様に一切登場しない。


最高評議会議員の一人で国防委員長。
天才的な弁節とイメージ戦略の巧みさを誇る政治家。
民衆を「主権者たる市民」と敬う姿勢を見せるものの、その行動は「自分自身の福祉の為」で「私に力を与えてくれるなら専制主義を信奉する」とまで豪語する、民主主義への熱意や信念はカケラもない「腐敗した民主政治の象徴」的な存在。
憂国騎士団や地球教、各メディアと癒着して自己の肥大化のみを目的とするが、その政治手腕や嗅覚、先見性は本物で、ヤンをして妖怪じみた不気味さを感じさせた怪物的な男。
サンフォードの後継として最高評議長に就任。同盟を滅亡へ直進させる。
…一方で同盟陥落後もある計画を進めており…?
詳細は単独項目参照。


  • ジョアン・レベロ
最高評議会議員の一人で財政委員長。
物語開始時から同盟政府の財政委員長を務めており、無能な政治家や汚職まみれの政治家ばかりの同盟政府にあって、数少ない政治家としての能力と良識を持った人物だった。
バーラトの和約後トリューニヒトが政権を投げ出したため、滅亡に瀕した同盟政府の議長に就任。
責任感あっての行動であったが、帝国優位な不平等条約下での国家運営であり、政治的な緊張状態が続いたことで次第に精神的に追い詰められていく。
歴史の悪役となる覚悟を持って功労者のヤンを生贄にしてでも同盟を守ろうとしたが、逆にこれがラインハルトによる自由惑星同盟完全併合の引き金となってしまう。
マル・アデッタ会戦で同盟軍が敗れ、帝国軍がハイネセンに迫る中で政治家としての矜持を取り戻すも、保身を図った軍部によって殺害されてしまった。

  • ホワン・ルイ
最高評議会議員の一人で人的資源委員長。腐敗した同盟政府の中にあって数少ない良識な政治家。
ヤン・ウェンリーが査問会で政治的リンチにかけられる中で唯一味方をし、旧知の友であるジョアン・レベロがヤンが独裁者になるのではと内心危険視したりする中でも客観的な視点からそうはならないと説得したり、バーラトの和約後に帝国の策略でヤンが不当に逮捕されようとされる中で擁護したりした。
しかし心労でノイローゼになってしまったレベロを止めることはできなかった。
後のオーベルシュタインの草刈りで逮捕されている。

  • ウィリアム・オーデッツ
元TVキャスターでトリューニヒト派に属する国防委員会委員。
バーラトの和約の破棄後、レベロの特使として侵攻してくる帝国軍へ派遣されるも相手にされず、あろうことかラインハルトを侮辱する挑発までしてミッターマイヤーの部下に銃殺されかける始末。
その後、フェザーンでもラインハルトに無視されるが、ルビンスキーにそそのかされてロイエンタール叛意の噂を流して帝国を混乱させ後の騒乱の火種の一つを生み出したが、そのまま用済みとして口封じに始末される。

  • ネグロポンティ
トリューニヒトの後任の国防委員長でトリューニヒトの腰巾着その1。
トリューニヒトの指示でヤンの査問会を主宰するが、帝国軍が襲来してきたことで「戦時に不用意な査問会を開き対応を遅らせた」扱いになり、辞任を余儀なくされる。
トリューニヒトは一応天下り先を提示はしたがその後は知らんぷり。ネグロポンティは自らヤンに頭を下げにいく羽目になった。

  • ウォルター・アイランズ
ネグロポンティの後任の国防委員長でトリューニヒトの腰巾着その2。
三流の政治業者だったが、同盟の危機に際して民主主義国家の政治家として覚醒し、役立たずのドーソン、行方知れずのトリューニヒトにかわって奔走。
混乱する議会を極めて格調高い弁舌で纏め上げ、現実的な行動指針を定めた上で軍部に協力を要請。
ヤンを含めた残存戦力がその力を最大限発揮できる環境を政治家の立場から何とか整え、バーミリオンでのヤンの勝利に全てをかけた。
ハイネセンが急襲された際には降伏を主張するトリューニヒトを「恩人であるトリューニヒトを売国奴に貶めたくないという思い」と合わせて必死で止めるが、
トリューニヒトはこれまでのアイランズの汚職の様子を晒し上げつつこれをガン無視、更に地球教徒に制圧させた事でアイランズはショックで昏倒。
廃人同然の状態で病院に担ぎ込まれ、フェードアウトした。
しかしながら降伏までの短い期間で示した政治家としての活躍は何ら恥じるところのない素晴らしいものであり、
彼の名は「半世紀の惰眠よりも半年間の覚醒」という形で後世に記憶されることになる。

軍人

「エル・ファシルの英雄」と呼ばれる若き天才戦術戦略家。
第13艦隊を率いてイゼルローン要塞無血占領、救国軍事会議打倒と武勲を重ね、後に元帥に。
曲者揃いの第13艦隊(ヤン艦隊)を率いて、民主主義最後の砦として戦う。
「不敗の魔術師」と異名を持つが、当人は退役して年金で生活するのが夢の、カビと埃を友にしていた生活無能力者。
怠け者の元帥、首から下は不要な男、部下や同僚からは散々に言われるが、当人もかなりの毒舌家。
ついでにコーヒー嫌いで紅茶党(ブランデー入りの)
彼およびヤン艦隊に所属する人物についての詳細は単独項目参照。


  • アレクサンドル・ビュコック
二等兵から元帥まで約50年も銀河帝国と闘い続けた叩き上げの名将。通称「呼吸する軍事博物館」。
軍曹時代には第二次ティアマト会戦で戦艦シャー・アッバスの砲術下士官を務めていた。
ヤンがブルース・アッシュビー謀殺疑惑について調査していた時には准将となっている。

作中本編では当初中将として第5艦隊司令官を務めており、アムリッツァ星域会戦後は辞職した上層部の代わりに大将に昇進し宇宙艦隊司令長官に就任した。
第一次ランテマリオ会戦前に元帥に昇格するが、本人はこれを「生前の二階級特進で、生きて帰ってくるなという事か」と冗談めかして言っている。
その後バーラトの和約が締結されると兵役を引退し隠居生活を送るが、再度の大侵攻が起こると老体に鞭を打って軍部へ出頭。この時、家で黙って立ち上がるビュコックに対して、同じく黙って軍服を持ってくる奥さんのシーンは涙の一言に尽きる。ちなみに二人の息子がいたが共に戦死している。
そして始まった自由惑星同盟最後の戦いであるマル・アデッタ星域会戦では、初手こそ嬉しい誤算から優勢を得たが次第に戦況は逆転。ウォルフガング・ミッターマイヤーをも驚愕させる手腕を見せたが、物量差から艦隊運用もできなくなるほど弱体化する。最期は降伏勧告こそされるがこれを固辞し、自らの信念を語って座乗艦リオ・グランデと最期を共にした。
その戦い方にはラインハルトに敬意を抱かせ、ランテマリオ星域を通過する全将兵に敬礼を命じるほど。

ヤンの数少ない思想の理解者で、彼も民主主義の原則を徹底して守る主義者だった。
それ故に腐敗した政治家やトリューニヒト派の軍人からは忌み嫌われていたが、多くの部下は彼を慕いその最期を偲んでいる。
フレデリカより戦死を伝えられたヤンは、熱い紅茶の紙コップを握りしめて「無理やりにでも連れてくるべきだった」と悔やんでいた。
その緻密で豪胆な高い指揮能力は同盟側は元より帝国側にも高く評価されたが、一方で「本質的には戦略家よりも戦術家」と評する声もあったという。

作戦参謀。初登場時は26歳の准将で、士官学校を首席で卒業したエリート――と肩書だけならば相当な俊英に思えるが、
その実態は「ヤンへの対抗心&嫉妬に端を発するこじらせた英雄願望と、思い通りにならないと癇癪を起こして他人のせいにする幼児未満のメンタリティを兼ね備えてしまった愚物」で、職務も実績よりも口先とコネで何とかしようとするという、およそ軍人向きではない問題児。
読者からも何故コレが主席になれたのか疑問符が付くレベルの無能ぶりをさらし続けるアムリッツァ会戦の大戦犯。
彼の詳細な無能ぶりは個別項目で。

  • ラザール・ロボス
宇宙艦隊司令長官を務めるピザデブなボケ老人初老の元帥。母親が帝国からの亡命者の家系出身である。
大雑把ではあるが戦術展開能力に優れる指揮官として評価されていたが、本編開始時点ではその有能さは一切発揮されず*6、もっぱら無能指揮官の代名詞として無能参謀とセットにされている。
帝国領侵攻作戦では無気力で、準備段階ではフォークが我が物顔で好き放題に振舞うのを許してしまった。
作戦実行中も味方が危機に陥る中、フォークの専横を許して自分は敵襲以外は起こすなと軍令を敷くなどやりたい放題。
しまいには帝国軍の襲撃で半数以上の艦隊が崩壊する中で、グリーンヒルの撤退進言を拒んで同盟政府の意向を優先しアムリッツァ星系に部隊を集結し反撃を命令している。
藤崎版ではさらに「上の命令にただ黙って従っていればいい。そうすれば政治家になれる」と政府の犬に成り下がっている。

作戦後、敗戦の責任を取って本部長のシトレ元帥と一緒に辞任するが、シトレは巻き添えを食らったと周りから同情されたのに対して誰もロボスのことを気にかける者はいなかったという……。

  • ドワイト・グリーンヒル
本編開始時の統合作戦本部次長兼宇宙艦隊総参謀長で、フレデリカの父。階級は大将。
本来は良識的な軍人の一人としてヤンを含め数多くの軍人達からも信頼される有能な人物。

……なのだが、無能なフォークや無責任なロボスと同様に実際は同盟衰亡の元凶の一人。

帝国領侵攻作戦では
  • 無根拠な楽観でフォークを擁護する
  • 具体的な作戦実行においても前線に放り投げた(あるいは彼なりの作戦の可能性もあるが、その結果は大敗である)
  • ロボスの「昼寝で起こすな」という命令を前線からの緊急通信時にまで守ろうとしてしまう
といった、軍人として職務放棄としかいいようのない振舞いが目立った。
侵攻作戦後は国防委員会査閲部長へ左遷されるが、今度は救国軍事会議のトップとしてクーデターを起こすという、瀕死の同盟にトドメを刺す行為に走ってしまう。
おまけにそれはラインハルトの策略の手のひらの上だったのだから救いようがなかった。

全てを悟った際には「これ以上の抵抗は同盟にとって害となる」と幕引きをしようとしてリンチ元少将に殺害されている。

彼なりに本気で同盟のことを考えていたし、周囲に振り回されていた面も強いのだが、同盟滅亡への道は彼の善意で舗装されてしまった。

  • ドーソン
クブルスリーの後任の統合作戦本部長。
小心で陰気な性格で、第1艦隊後方主任参謀在任時は艦隊各艦のダストシュートをあさって無駄を発表するというような小役人タイプ。
先述した後方主任参謀の他にも、士官学校教官や憲兵隊司令官、国防委員会情報部長を歴任し、統合作戦本部次長を経て本部長に就任したが、おおよそその重責に見合う人望や能力はないと言われていた*7
そんな人物が何故ここまで栄達したかというと、実は一部政治家とのコネがあったと言われている(そのためトリューニヒト閥とされることも)。
もっとも機密保持の必要な類の任務では無能ではなかったとされており、銀河帝国正統政府の亡命受け入れではその手腕を発揮している。

本編では救国軍事会議のクーデター時に負傷したクブルスリーの代行として初登場し、ヤンにクーデターの鎮圧を命じた...のだが、自分よりも年下なのに同階級のヤン*8への個人的嫉妬心からそれぞれ離れた4か所のクーデター鎮圧を命じるという何とも残念な姿勢を見せる。
その後は辞任したクブルスリーの後任として本部長に就任、だったのだが直後にラグナロック作戦が発動。
あからさまな狼狽はしなかったものの、現実から逃避して日常業務ばかりを行い、統合作戦本部を実質的な機能停止に追い込んでしまった。
それでもビュコックの叱咤激励等々で統合作戦本部の機能を回復させていたものの、最後はバーラトの和約に伴い軍事上の最高責任者としてただ一人監獄にぶちこまれた。

  • ロックウェル
ドーソンの後任の統合作戦本部長で有名なトリューニヒト派。
同盟滅亡が迫って切羽詰まった末、帝国高等弁務官レンネンカンプの首席補佐官フンメルに扇動されて上司のレベロ議長を見限り、自ら部下たちを引き連れて議長のオフィスに押し入り、射殺。その首をラインハルトに差し出す形で降伏。
裏切り・非武装人の殺害という卑劣な方法に対面したラインハルトが嫌悪感を示す中、自己弁護のために謁見の場に居合わせていたファーレンハイトが敗軍の将から取り立てられた例を引き合いに出したことが決定的となり、そのファーレンハイトに任せる形で処刑を言い渡される。*9
「新雪」(原作小説)/「山の清水」(石黒OVA)と評されたビュコックに対し、ロックウェルらは「下水の汚泥」とまで酷評された。

  • グレドウィン・スコット
帝国領侵攻作戦でイゼルローンから占領惑星に物資を運ぶ輸送艦隊の司令を務めた人物。
同盟政府が必死の思いで送り出した補給部隊であったがスコットは護衛任務を楽観視しており、補給担当のキャゼルヌの心配する声を聞き流してイゼルローン出発後は艦橋を離れて個室で三次元チェスを楽しんでいた。
チェックをかけるタイミングで敵襲が入るも「前線で何かあったのか?」と間抜けな発言をして部下から呆れられる始末。
知らせを受け慌てて状況を把握しその圧倒的大軍に驚愕するが、キルヒアイスが指揮する4万隻を相手に護衛艦がたったの26隻ではどうすることもできなかった。その後護衛艦は全滅とあるので戦死したものと思われる。
フォークと合わせて同盟軍の末期ぶりと司令部の侵攻作戦楽観を象徴する人物の一人。

後にヤンはこのキルヒアイス艦隊と戦闘に入り、ケンプ艦隊との連戦かつ4倍の戦力差がありながらも1割の損害*10でどうにか撤退に成功している。
しかし低速の輸送艦隊を守りきるのは至難の業。キルヒアイス率いる4万隻が相手では、仮にヤンやビュコックが1個艦隊1万隻で護衛していたとしても物資は諦めざるをえなかったであろう。
だからといってスコットの無警戒楽観ぶりが許されるわけではないが。

  • ウィレム・ホーランド
外伝に登場する人物。ロボス元帥麾下の軍人で、救国軍事会議が擁していた第11艦隊の前任の司令官。
第六次イゼルローン要塞攻略戦では彼が立案した作戦とフォークの作戦が似ていたという理由から採用された経緯があり、アッテンボローからは「作戦の内容じゃなくて、提案者の名前で決まるのかよ?」と呆れられた。
そもそも彼は前線指揮官であって、参謀ですらないにもかかわらず自信満々に自分が考えた作戦で軍全体の行動を制御しようとしており、こちらも完全にヒエラルキーを無視した越権行為に及んでいる。

フォークと似たり寄ったり、というか脳筋にしたような人物で極めて自信過剰で自己中な性格。
自分を勝手にブルース・アッシュビーの再来」とのたまって英雄視したり、ビュコックやウランフといった先任の名将達にも礼節を尽くさず逆にはっきりと侮辱するなどフォーク以上に尊大な男。
ロボスの余計な訓令を忖度して軍が民間人を守らず逃げたグランド・カナル事件では民衆からの批判に対しても「軍事のわからない奴の発言」と吐き棄てて自分達を正当化しようとしたことすらあるほど。*11

第三次ティアマト会戦では先覚者的戦術と、いうよりただ無秩序に暴れ回っているだけに等しい。で帝国軍を翻弄していたがビュコックからの後退命令も全く聞き入れず自分勝手に進撃を続けた結果、後方で機を窺っていたラインハルトの反撃で一瞬にして自分の旗艦もろとも艦隊を総崩れにされた。ざまあ
彼に付き合わされた11艦隊の生き残りは辛うじてビュコックとウランフによって救助されたので、フォークのように同盟全体に迷惑をかけることはなかったのが幸い。

協調性もなく勝手に自滅したアホでしかなかったものの「敵陣を抜けて帝都オーディンを直接攻略する」と一応、目標を立てていた点だけはフォークよりわずかにマシかもしれない。

藤崎版では部下たちが信奉するカリスマある指揮官として見られ、「先覚者的戦術」も艦隊ドクトリン*12に沿って力を生かす手法であり、また部下たちがついてくるからこそそれが可能になっていた。
また、ラインハルトが機を窺っているのを理解しており、後退命令に従って後退しようにも出来ない*13為、
エネルギー切れの前にラインハルト艦隊に喰らい付く事で反撃を抑える事を企図しての特攻を行うも届かず立ち往生した所に反撃を受けた形に改変された。
ラインハルトも「敵ながら評価すべき点が多々あった」と評するなど、「良将ではあったが、相手が悪かった」という形になっている。

  • シドニー・シトレ
物語開始時の同盟軍統合作戦本部長にして元帥。
ヤンの士官学校在籍時にはその校長を務めており、ヤンの才能を早くから見抜いていた。それ故にヤンが第13艦隊司令官になるとイゼルローン要塞攻略という無理難題を押し付け、第7次イゼルローン要塞攻防戦で見事に攻略を成功させる。
これにより軍内部での権威はロボスを凌ぐ事になったが、そのロボスが同盟政府の支持率回復を狙った帝国領土侵攻作戦を強行したため、その失策の責任を取るのに辞任する羽目となった。
以降は惑星カッシナに移住し果樹園を営む*14。ただし完全に表舞台から姿を消したわけではなく、救国軍事会議のクーデターに対する反対運動に参加、グエン・キム・ホア事件では拘束されロイエンタールと面会するなど、精力的に民主主義復権のために活動している。
オーベルシュタインの草刈りで拘束された上、収容先のラグプール刑務所暴動で負傷しているが、何とか生き延びている。

  • クブルスリー
辞任したシトレ元帥の後任となった統合作戦本部長。
シトレ同様に良識的な軍人でヤンを高く評価しており、彼を統合作戦本部の幕僚総監に就任することを望んでいたが、最前線を任せられる人材が他にいないということで実現しなかった。
救国軍事会議のクーデターが発生する直前、不正に現役復帰を直訴してきたアンドリュー・フォークにぐうの音も出ない正論を叩きつけるも、キチガイである彼は逆ギレして銃撃し負傷させる。
療養生活が終わった後に復帰するも、軍の高官はビュコックなど少数を除いて政治家にすりよる人物ばかりになっており、孤立感を深めて引退を選んでしまった。

  • ウランフ
同盟軍第10艦隊の司令官。アッテンボローの上司。モンゴル系騎馬民族の末裔で「ウランフ」でフルネーム。
当時の同盟ではビュコックとツートップを張るほどの有能な軍人で、第3次ティアマト会戦では敗走する第十一艦隊を共に援護して帝国軍を寄せ付けずラインハルトを感心させ、第4次ティアマト会戦でも乱戦下に置かれた際に整然と状況を理解し戦域突破を試みようとした。
無謀な帝国領侵攻作戦では惑星リューゲンに進駐。ヤンからの撤退提言に対し当初は難色を示すもすぐに同調するも間に合わず、ビッテンフェルト率いる黒色槍騎兵艦隊と交戦状態に入る。不利な状況ながら互角に渡り合い奮戦するが覆すには至らず、無事な艦隊だけでもとアッテンボローに後を託すもウランフは脱出しきれず戦死してしまう。
彼が生きていればヤンも大いに楽ができたとボロディンと共にその死を惜しまれた。

  • ジャン・ロベール・ラップ
ヤンの士官学校時代の友人にして、ジェシカ・エドワーズと恋仲にあった。
アスターテ会戦では第6艦隊の参謀を務める。数で勝る状況ながら帝国軍の各個撃破戦法を読んでいたものの、艦隊司令官に軽んじられ意見具申を跳ね除けられてしまったため事前の対策がマトモにできないまま戦死してしまった。
学生時代には首席のワイドボーンと比較しても将器として勝るとヤンから評されたその才覚から、ここで戦死しなければ間違いなくヤン艦隊に迎え入れられたであろうことから最初期に死亡したことが惜しまれる人物の一人。
OVA版ではやたらデカい鉄柱に突き刺さって天井で死亡するという若干シュールな最期を迎えた。
ノイエ版ではジェシカと幼馴染という設定が追加された。

  • スーン・スールズカリッター
初登場はラグナロック作戦で、OVA版ではビュコックの副官のファイフェルが心臓発作で倒れた旨を報告した際、ビュコックに名前を聞かれそのままファイフェルに代わる副官として登用される。
バーラトの和約を経ても退役せず軍隊に在籍し続け、再度の侵攻では復帰してきたビュコックを統合作戦本部ビルの受付で待っていて、見つけた瞬間に帽子が落ちるのを気にも留めず駆けつけていた。だが実際の作戦では「これは大人のパーティだから30歳以下の未成年は参加できない」と当時27歳だった彼の参加が認められず、パトリチェフら元ヤン艦隊の面々と共にイゼルローン要塞へ残存艦隊の幾らかを向かわせている。
その後はヤン艦隊の幹部として活動し、ラインハルトとヤンの会談が成立すると道中の護衛として参加。地球教徒と首席が仕掛けた暗殺行為に果敢に立ち向かうがヤンを守り切れず、短期間の間に上官を二人も失ってしまった。
以後はアッテンボロー麾下の艦隊戦力に加わり物語最終話まで生存している。

士官学校ではあのアンドリュー・フォークの次席という成績だが、彼とは違ってそれなりに有能。フレデリカ・グリーンヒルも次席卒業だったが、作中ではやたら次席卒業生が優秀である。

彼は自分の名前がコンプレックスで、ウォルター・アイランズやビュコックからはだいぶ誤魔化された呼び方をされている。*15
周囲からは「苗字が3つあり、異なる父親が3人もいるのさ」と嘲笑の的にされていたのもあり、ビュコックからの「スール少佐」という略称を気に入り、後に「スーン・スール」と正式に改名している。

  • チュン・ウー・チェン
通称パン屋の二代目とあだ名される軍人らしからぬ風貌の少将→大将。士官学校の教授から副参謀長に転任後、ランテマリオ会戦の直前にオスマン中将が過労で倒れたため繰り上がり同盟軍最後の宇宙艦隊総参謀長に就任する。
バーラトの和約締結後は総参謀長兼宇宙艦隊司令長官代理としてビュコックの後釜に据えられていた。

才覚はヤンに近い柔軟な思考と知略を発揮する有能な人物で、ラグナロック作戦時にはヤンをイゼルローン要塞から呼び戻そうと提案する柔軟性を発揮。ランテマリオ会戦では敵艦隊の一部をも盾にして防御陣を築くという奇策も見せた。

第二次ラグナロック作戦前には約五千隻の艦隊と元ヤン艦隊メンバーを纏めてヤンの元へ送りつけ、自らは30歳以下の者は参加できない最後の出陣にビュコックと共に最期まで運命を共にした*16
なお妻子がいるようで妻子はヤンの元に送られた。

  • パエッタ
ヤンが第2艦隊の幕僚として所属していた際の司令官。
有能な指揮官ではあるもののワンマン気質な性格もあって当初はヤンの進言を聞き入れなかったために度々窮地に陥ってしまう。
しかし、ヤンのことは内心ではちゃんと認めており、アスターテ会戦で負傷した際には指揮権を彼に託したことがヤン艦隊の誕生のきっかけにもなる。

ヤンが査問会に呼び出されていた対ガイエスブルグ戦では当初、新たに所属していた第1艦隊を率いて増援に向かうことになっており、パエッタも借りを返そうと意気込んでいたが、国防委員長に就任した直後のアイランズが戦力を出し渋ったために再びヤンと共に肩を並べて戦う機会が失われてしまった。

その後は退役したのか、オーベルシュタインの草刈りでは逮捕されており、収監施設で起こった暴動では巻き込まれて死亡している。

  • ルグランジュ
救国軍事会議のクーデター時点での第11艦隊司令官で、救国軍事会議に加わってその唯一の機動戦力を担った。
しかしヤンの敵ではなく、ドーリア星域会戦でヤンに敗れて自決した。
決して無能者ではなく、劣勢が決まっても粘り強く戦い続けていたが、同盟にとってそれは敵味方の死者を増大させる行為でしかなかった。

  • ラルフ・カールセン
第一次ラグナロック作戦時に新設された第15艦隊の司令官。士官学校卒ではないたたき上げ。
ビュコックと同じく老いながらも勇猛果敢な軍人で、帝国のビッテンフェルトに匹敵する攻撃力と鉄壁ミュラーに匹敵する粘り強さを併せ持つ同盟末期の勇者の一人。
モートンと共にランテマリオ会戦で活躍後、ヤン艦隊に合流してバーミリオン会戦に参加。
後にマル・アデッタ会戦にて戦死する。

  • ライオネル・モートン
元第9艦隊の副司令官。カールセンと同じく士官学校を出ていない。
同艦隊はアムリッツァ会戦でミッターマイヤーに壊滅的な損害を受けた艦隊だったが、司令官のアル・サレム中将負傷後に混乱する艦隊を纏めて撤退戦を生き抜いた手腕を評価され、
対ガイエスブルグ戦でヤンに与えられた寄せ集めの増援艦隊の分艦隊司令官を務める。
その後は少将から中将に昇進、新設された第14艦隊の司令官に就任しランテマリオ会戦に参加。
同会戦後に残存戦力を率いてカールセンと共にヤン艦隊に合流した。
共にバーミリオン会戦で奮戦し、ラインハルトを追い詰めるも参戦したミュラーに押し返されて戦死してしまった。

  • サンドル・アラルコン
対ガイエスブルグ戦でヤンに与えられた寄せ集めの増援艦隊の分艦隊司令の一人。
艦隊指揮官としては申し分のない人物だが、過激な軍国主義の持ち主で民間人虐待の疑いも持つ。
救国軍事会議のクーデターに参加しなかったのは幹部の一人と仲が悪かったかららしい。
最終的にグエン同様、調子に乗り過ぎてヤンの命令も無視して敵を深追いし、戦死してしまった。

  • マリネッティ&ザーニアル
アラルコンと同じく対ガイエスブルグ戦でヤンに与えられた増援艦隊の分艦隊司令たち。階級はいずれも准将。
モートンやアラルコンと比べるとやや経験不足な様子で、後にランテマリオ会戦ではミッターマイヤーの威嚇攻撃に驚き見境なく攻撃して混乱してしまう。

  • オーブリー・コクラン
バーミリオン星域会戦の折り、ミュラーが接収を命じられていた物流基地の司令。
彼の部下達は帝国軍に物資を渡すのを拒絶しこれを放射線で汚染するつもりであったが、
彼は基地に保管された物資があくまで民需用であった為それを損壊するのをよしとせず、無抵抗で基地を明け渡した。
当初は彼の判断を怯懦と見たミュラーから嫌悪感を抱かれるも、事情を知った後は一転して好感を抱かれている。
この際に帝国軍への勧誘も受けたがこれは軍人として拒否、代わりに基地の人員の安全と民間人の生活保護を確約させている。

これは市民の生活と財産を守るべき民主国家の軍人として良識的な判断かもしれないが、先がある。
このためミュラーは予定より早く接収を完了でき、決戦場へ急行することができた。
ミュラーが到着した時、ラインハルトはヤン艦隊にあと一歩のところまで追い詰められており、ミュラーの救援で九死に一生を得ることができた。
つまりコクランが良識と良心にもとずいて基地を明け渡さなければ、或いは最終的に明け渡すにせよ
多少なりとも交渉で時間を稼いでいれば、ラインハルトは確実に戦死し、自由惑星同盟の滅亡は回避されていたのである。*17
歴史的な皮肉が多々盛り込まれる銀英伝の物語の中でも、善意が最悪の事態を招いた例として最大級のものである。

尚、その後コクランは部下から上記の行為を利敵行為であると告発され、極地にある未決犯収容所に送られている。
同盟末期の政治的混乱から存在を忘れられ半死半生の状態となっていたが、同盟滅亡後に彼の存在を思い出したミュラーによって助け出され、後日その麾下で主計監を務めたという。

官僚

  • ビジアス・アドーラ
  • クロード・モンテイユ
  • グレアム・エバート・ノエルベーカー

上からハイネセン首都政庁参事官・財政委員会事務局国庫課長・最高評議会書記局二等書記官。
いずれも中堅以下の官僚にすぎなかったが、帝国による同盟併呑時に、それぞれなりに自らの意思を口にして、同盟の法律に忠実に職務を実行する(=同盟人ではない帝国の要求を通さない)という形で公然と帝国に反抗心を示した。
いずれも一度は投獄されるが、それを知ったラインハルトは「彼らが中堅以下の地位にいるようだから同盟が滅びた」と評し、全員を釈放している。

民間人

  • ジェシカ・エドワーズ
ヤンの士官学校時代からの友人の一人。
原作小説では描かれなかったが、OVA版では音楽学校の教師をしているであろうシーンがある。
反戦的でヤンにも度々軍を辞める事を勧めているが、結局聞き入られることは無かった。
同じく友人だったジャン・ロベール・ラップとは婚約関係にあったが、アスターテ星域会戦でラップが戦死してからは反戦運動に身を投じるようになる。その後は補欠選挙に出馬し多数の妨害をヤンと潜り抜け当選する。
救国軍事会議のクーデターが発生すると、ハイネセンスタジアムに集まった20万人もの市民集会を開き抗議活動を行う。
だが事の鎮圧に向かったクリスチアン大佐が市民へ向けて傲慢かつ横暴な態度で解散を強制しようとして反抗し、激怒した大佐によって殴殺されてしまう。
この死はその場にいた市民の怒りを爆発させるきっかけとなり、スタジアムの虐殺と呼ばれる救国軍事会議が市民からの支持を失う決定打となった。
彼女の死を聞いたヤンは、沈痛な思いで黙祷を捧げた。

作中では理性ある政治家としての描かれ方をしている彼女であるが、その政治的主張には若干の無理と矛盾があるのは良く言われる所。
実際の所、彼女はあくまでラップを喪った悲しみを拭うために平和主義にのめり込んだ向きも強いと思われる。
彼女の死後、支持者によってエドワーズ委員会が発足し、政府要人の腐敗を問い質すも、憂国騎士団と政府によって弾圧され潰えた。

  • フランチェシク・ロムスキー
エル・ファシル独立政府の主席。本業は医師で、エル・ファシルの奇跡の際には脱出計画を遂行するヤンに協力していた。
自由惑星同盟から同じく離脱したヤンを迎え入れ、イゼルローン要塞再奪取作戦の拠点と一宿一飯を提供する。
ヤンを帝国に売り渡すことを提案した部下を諌めるなど本質的には善良な人物であるものの、政治家としては凡人で所々でヤンの足を引っ張ったり意見が合わなかったりしており、最期の地球教徒の襲撃でも結果的には足手纏いとなってしまった。

  • エンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ
国立自治大学の学長。長ったらしくて覚えづらい名前。ヤン提督曰く「覚え切れたら敬意に値する」らしい。
歴代政権のブレーンとして長らく政治家達の悪巧みに知恵を貸しては裏から操ってきた。
しかも自分の提案が失敗すると逆に責任逃れをするという極めて狡猾。
ウィンザー夫人と同じく「戦争は社会と文明を活性化させるからもっとやろう(意訳)」と過激な思想を持つ危険人物。
自治大学はトリューニヒトの出身校であり、数多くの腐敗政治家達を輩出してきたため、彼もまた同盟が腐敗する要因となった元凶*18と言える。
ヤン・ウェンリーを政治的リンチにかける目的で開催した査問会の発案者で、同盟降伏後もレベロに接近して査問会での恨みも含めてかヤンを帝国に売り渡して始末しようと悪巧みを企む。
その後「オーベルシュタインの草刈り」で逮捕されており、収監施設で起こった暴動に巻き込まれて死亡。何気にトリューニヒトと深い関わりがありながら、トリューニヒトよりも後に破滅した数少ない人物。

【国歌】

自由惑星同盟には「自由の旗、自由の民」という名前の国歌がある。
その歌詞の内容からして専制主義を敷く銀河帝国とゴールデンバウム王朝に対するアンチテーゼが盛り込まれている。また勇壮かつ高揚感に溢れた音楽と文章に書かれており、戦没者慰霊祭やグエン・キム・ホア事件の会場でも歌われるなど戦意高揚の手段としても使用されている。
小説版ではその歌詞は当然ながら日本語で記述されているのに対し、OVA版では英語になっており内容も完全に意味の違う歌詞になっている。Die Neue These版では流れていない。
OVA版では同盟サイドのBGMとして何かと用いられるシーンが多い……のだが、それ以上に憂国騎士団の鼻歌が印象的など、やたら嫌なイメージがついてしまいがち。
一方でイゼルローン共和政府の樹立宣言後にオリビエ・ポプランから端を発した合唱シーンは終盤屈指の名シーンとして語られる事が多く、善きにしろ悪しきにしろ民主主義のシンボルとして自由惑星同盟出身者の拠り所となっている。

【余談】

セガサターンで発売された戦略シミュレーションゲーム版では、銀河帝国を打破し銀河統一を果たすというエンディングがある。
これは自由惑星同盟側の勝利エンディングなので正史に対するIf展開とも呼べるのだが、その内容は『勝利に湧き上がり街中で軍事パレードをする同盟軍』『苦渋の顔で首都星オーディンを見るヤン』『不敵な笑みを浮かべるルビンスキーとド・ヴィリエ』とやたら不穏。


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最終更新:2024年10月05日 03:00

*1 ハイネセン到達時には約16万人にまで激減していた。

*2 ミンツ家は長征一万光年の頃から続く『由緒正しき』家柄を自負している為。藤崎版では両親の死後、残ったユリアンを引き取る際に彼の持っていた両親の写真を全て焼き捨てている。

*3 帝国領侵攻作戦の予算が2000億ディナールで、同盟年間予算の5.4%ほどという。逆算すると3兆7000億ディナールとなる。

*4 しかしその後、店員がヤンの存在に気付くと客と同盟国歌を店内で合唱し始め、ヤンをドン引きさせた

*5 原作では警察からは明らかに手加減されているが、軍政畑のトリューニヒトとの関係は噂止まり。一方OVAや藤崎版では関係が明示されている。逆にDNTでは反トリューニヒト的な救国軍事会議のクーデターに構成員が参加している

*6 その理由も年齢による耄碌から、好色が昂じて帝国のハニトラで貰った性病が頭に回ったまで諸説ある。

*7 本編では救国軍事会議の面々に「大将に昇進したのさえおかしい程度の男」と言われ、本部長代行に就任した際にはビュコックに「自分が統合作戦本部長を兼任した方がマシ」と皮肉られていた。おまけに外伝では「建国後の30年か50年くらいの外敵がいない時期だったら無難に務まっただろう」とまで酷評されている。

*8 この時ドーソンは50代後半だったが、一方のヤンは30歳だった。

*9 なお、ロックウェルをそそのかしたフンメルもこれら卑劣な小細工がラインハルトにばれ、更迭されて帝国に送還された

*10 しかもこの損害も司令部の無茶な集合命令で隙ができたことが大きい

*11 ちなみにヤンは本件について戦死した将兵への賛辞を引き出そうと誘導する取材に対し「グランド・カナルに必要だったのは百個の勲章よりたった一隻の僚艦(みかた)だったと思いますよ」と素っ気なく答え、結局記事化はされなかった。

*12 帝国側なら「呼吸する破壊衝動」ビッテンフェルトの黒色槍騎兵艦隊の攻撃・破壊力重視、「疾風」ミッターマイヤーの機動力重視、「鉄壁」ミュラーの防御重視といった艦隊能力の特色。

*13 後退の隙を突かれると確信していた

*14 OVA版では養蜂

*15 ちなみに原作者はスールズカリッターの名を「夢に出てきた人物から取った」と言っている。

*16 ビュコックは当初彼もスーン・スールらと共にヤンの元へ送ろうと考えていた

*17 尤も、ラインハルトが皇帝だったからこそ比較的穏便に降伏できたことも事実。ラインハルトの戦死によって同盟としては多少長生きしただろうが、どの道この時点で戦力差は圧倒的であり後継者次第ではもっと悲惨な敗戦を迎えた可能性もある

*18 ヤン言う処の『ありもしない愛国心を振りかざして安全圏から戦争を賛美し利益を享受しつつ国民将兵に犠牲を強いる最も醜悪な、宇宙の平和のためには帝国との不毛な戦争よりも先に駆除すべき寄生虫』の典型例