スピリッツ・オブ・ファラオ(遊戯王OCG)

登録日:2024/11/02 Sat 00:08:22
更新日:2025/02/10 Mon 15:47:13
所要時間:約 7 分で読めます




古代エジプトを設定に盛り込んだ遊戯王
同作がカードゲームとして人気を博する事になるのは周知の通りだが、その中にはエジプト要素を含んだカードも多数登場している。
ファラオ、ホルス、アヌビス、スフィンクス、ピラミッド、etc…
この項目で紹介する《スピリッツ・オブ・ファラオ》もまた、そんなカードの1つである。

遊戯王OCGでは2004年2月26日発売の第3期パック「ファラオの遺産」が初出。

カードテキストは以下の通り。
《スピリッツ・オブ・ファラオ》
効果モンスター
星6/光属性/アンデット族/攻2500/守2000
このカードは通常召喚できない。
「第一の棺」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚に成功した時、
自分の墓地からレベル2以下のアンデット族通常モンスターを
4体まで特殊召喚する事ができる。


その外見や棺の存在から、「ツタンカーメン」を由来にしたと思しきモンスターカード。
古代エジプト繋がりとして、左右の方にホルスアヌビスの意匠も付いている。

アンデット族の特殊召喚モンスターであり、《第一の棺》以外の効果では特殊召喚できない。
これは一度《第一の棺》で出した後でも、蘇生や帰還ができないということ。今は珍しくなったが、当時はストラクの看板モンスターを中心によくあった「のみ召喚」モンスターである。

現在ではまったく珍しくなくなったが、アンデット族であるにもかかわらず属性は光。
「アンデットといえば闇、たまに土」という当時はそれはもう珍しく、そのイラストも相俟って特別感をぷんぷんとかもしていた。

目玉はなんといっても、特殊召喚に成功すると最大で4体までモンスターを蘇生できる効果。
世界一大きな墓地から王様が帰ってきたのだから、それに仕える人々だって帰ってくるのは当然だ。
だがしかし、肝心の蘇生対象の「レベル2以下のアンデット族通常モンスター」という条件が少々曲者。
2024年10月現在、該当モンスターにチューナーはいない。
そのため《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》をS召喚するか、あるいはランク1~2のX召喚L召喚の素材になる。

古いカードである故に展開制限や用途制限も無く、大量の物量を自由に使える点が心強い。

なんにせよ、一度に4体もモンスターの頭数を揃える優秀な効果であり、大量展開が珍しい3期当時でも複数の素材を使ってEXモンスターを出す現代でも通用するパワーカードであることは明白である。
エジプトを舞台にしたゲームらしいカードとして、《守護者スフィンクス》《墓守の偵察者》《王家の眠る谷-ネクロバレー》《エンド・オブ・アヌビス》《有翼賢者ファルコス》などとともに、
発売当時のデュエリストの間でたいへんに話題となった名カードである。



























   *   *
 *   + うそです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *


概要

このカードの本当の評価、それは辛辣を極めている。
「パッケージモンスター最弱」「遊戯王アニメの主人公にまでディスられたカード」など、散々な言われよう
(念押しするが、後者の評価は少し語弊がある。詳しくは後述)。
…まあ、肝心の《第一の棺》のテキストを開示していない記事構成の時点でバレているようなものだが。


ということで《第一の棺》の効果を確認してみよう。
《第一の棺》
永続罠
相手ターンのエンドフェイズ毎に「第二の棺」「第三の棺」の順に
カードを1枚手札またはデッキから自分フィールド上に表側表示で出す。
1枚でもフィールド上から離れると、これらのカードは全て墓地に送られる
全てのカードが自分フィールド上に揃った時、これらのカードを全て墓地へ送り、
手札またはデッキから「スピリッツ・オブ・ファラオ」1体を特殊召喚する。

そしてこれが《第二の棺》《第三の棺》の効果である。
《第二の棺》
永続魔法
このカードは「第一の棺」の効果でしかフィールドに出す事ができない。

《第三の棺》
永続魔法
このカードは「第一の棺」の効果でしかフィールドに出す事ができない。

つまり《スピリッツ・オブ・ファラオ》を召喚する手順は以下の通り。
  1. 自分のターンに《第一の棺》をセットします。
  2. 次の相手ターンのエンドフェイズに《第一の棺》の効果を発動し、デッキor手札から《第二の棺》を発動します
  3. さらに次の相手ターンのエンドフェイズに《第一の棺》の効果を発動し、デッキor手札から《第三の棺》を発動します
  4. その直後に《第一の棺》の効果で、三種類の棺を全て墓地に送りようやく《スピリッツ・オブ・ファラオ》を特殊召喚します
  5. なお《スピリッツ・オブ・ファラオ》の蘇生効果に備え、手順1~4の間にレベル2以下のアンデット族通常モンスターを忘れずに墓地に送っておきましょう


お判りいただけただろうか?
このカード、とんでもなく運用難易度が高いことに…

1.棺カードの除去
《スピリッツ・オブ・ファラオ》を特殊召喚するには、三種類の棺カードがすべて自分フィールドに揃わないといけない。
しかし棺カードには耐性が全くないため、サイクロン》一発であっさり破綻する
《第二の棺》《第三の棺》共々、ただ場にいるだけで《スピリッツ・オブ・ファラオ》運用の補助をしない、という点も苦しい。
イタズラに魔法・罠ゾーンを圧迫することになるので、カウンター罠などを駆使して守るのも少しやりづらくなってしまう。

もっともこの除去に脆い点は、《スピリッツ・オブ・ファラオ》登場当時はそこまで大きな問題点ではなかった。
なにせ発売と同年の2004年9月から長い事《サイクロン》が制限カードに指定。
そのうえ前年の2003年1月には《魔導戦士 ブレイカー》も制限カードに、さらに2007年3月には禁止カードに指定されている状況であった。
魔法・罠カードを1枚だけ破壊する効果でこの措置なので、《大嵐》《ハーピィの羽根帚》も同様に制限・禁止指定を受けていた。

無論他にも魔法・罠カードを破壊する効果はあったし、一枚でも棺が破壊されると瓦解する点に変わりはない。
それでも「リスクは有るし難しいけれど、達成するだけなら決して無理難題ではない」ではあった。

……まあ当時は当時でそこまでして出したところでという今以上に致命的な問題があったのだが、それについては後述。

2.迂遠な道のり
前述の手順をご覧の通り、《第一の棺》をセットしてから《スピリッツ・オブ・ファラオ》を特殊召喚するまで4ターンも要する。
素引きした《第二の棺》《第三の棺》を《第一の棺》の効果の代わりにフィールドにおいて時間短縮、とはできない。
つまり必ず4ターンを費やさないと達成できないということである。
難易度は置いておくとしても、これは登場当時の基準で見ても「遅い」と言わざるを得ない。

この召喚には《ウィジャ盤》とよく似た内容の手順を踏むことになっている。
あちらは様々な強化が後付けでなされ、達成の暁には特殊勝利という豪華な内容。
それに対してこちらはローレベバニラアンデの蘇生に留まり、棺の保護と墓地肥やしを一緒にやらないといけない。
この点でカードとLPを守ることだけ考えデッキ構築すればいい《ウィジャ盤》よりも、よっぽど負担が大きくなっている

???「やることが…やることが多い…!」

3.蘇生効果後の立ち回り
ここまでの長い道のりの果てにある効果が、ローレベバニラアンデを4体まで蘇生。
大量展開と言えば聞こえはいいが、以下の通り即効性のある類似効果の存在から実用性には疑問符が付く。

一つ目の類似カードは《トライワイトゾーン》。
あちらは種族を問わず星2以下の通常モンスターを3体蘇生できる通常魔法になる。
蘇生数こそ1体少ないものの種族指定が無いためチューナーも蘇生でき活用の幅は広い。
加えて墓地に該当モンスターが居ることを除けば「発動条件の無い通常魔法」であり、引いてすぐ使えるという圧倒的利便性を持つ。

もう一つ上げるなら、レベル2のシンクロチューナー《天輪の双星道士》。
蘇生対象は「チューナー以外のレベル2」でありし特殊召喚制限もつくが、代わりに効果モンスターも蘇生できる。
更にこちらはSモンスターなので、素引きを待たずとも素材さえ揃えばすぐに使用できる点が優位点になる。


先ほど「主にEXデッキの素材として消費することになる」旨を書いたが、似た運用がこれらでもできてしまう。
仮に通常モンスターに拘るとしても、墓地肥やしの手間が要らない《レスキューラビット》など選択肢は多い。

ここまででも散々嘆いているが、このカードの登場時点では、この問題点はより悲惨であったとも補足しておく
なにせ2004年と言えばアニメGXが放送開始した頃なので、L召喚はおろかS召喚すら存在しなかった。
蘇生したローレベバニラアンデの使い道はアドバンス召喚の素材か、打点強化や相手盤面を更地にできたうえでのアタッカー役と限られていたのだ。
《サウザンドエナジー》《トライアングルパワー》というローレベルバニラの攻撃力を強化するサポートはあるものの、ここまでやってさらにコンボパーツを要求される時点で頭が痛くなる。

???「できることが…できることが少ない…!」

追い打ちをかけるように当時のアドバンス召喚は、その多くが「実用に値せず」とされていた。
そしてアタッカー役にするにしても、該当する中で最高打点は《マーダーサーカス・ゾンビ》の1350。
次点で《ファラオのしもべ》《王家の守護者》の900。
仮に相手の場ががら空きで《スピリッツ・オブ・ファラオ》、《マーダーサーカス・ゾンビ》×3、
そして《ファラオのしもべ》or《王家の守護者》の一斉攻撃という大盤振る舞いをしてもなお、総ダメージ量は「7450」であり8000には届かない
打点強化込みなら可能だが、ここまでやってさらに(ry

4.デッキスロットの圧迫・手札事故
このカード一番の問題点。
コンボに必要なカードが多く、「手札、デッキ、墓地」と「居てほしい場所」がバラバラなので運用が困難どころでは済まない。
初動の《第一の棺》を中々引けない、デッキに居てほしい《スピリッツ・オブ・ファラオ》《第二の棺》を引いてしまった、
蘇生させる手はずのローレベバニラアンデが手札に固まり身動きが取れない…。
様々な事故の可能性が山積みになっている。

《第一の棺》は手札の《第二の棺》《第三の棺》も発動できるし、手札の《スピリッツ・オブ・ファラオ》も特殊召喚できる。
なので「素引きしたせいで止まる」とまではいかないが「素引きした分有効な手札が減る」ことに変わりはない。

まず、最低でも以下のカードが必要になる。
  • 《スピリッツ・オブ・ファラオ》
  • 《第一の棺》《第二の棺》《第三の棺》
  • レベル2以下のアンデット族通常モンスター

そしてこれに加えて、以下のカードも必要になる。
  • 《第一の棺》を手札に加えるカード ex.《ファラオニック・アドベント》
  • 棺カードを除去から守るカード ex.《身代わりの闇》
  • 「レベル2以下のアンデット族通常モンスター」を墓地に送るカード ex.《高等儀式術》
  • 手札事故を回避する手札交換カード ex.《打ち出の小槌》

ただでさえ必要なカード枚数が多いため、他所のデッキに出張しそちらのサポートを受ける方法も難しい。
むしろ出張先のデッキを不用意に事故らせる要因になる。

一つ一つの課題を解決するカードは有れど、問題点の方向性がバラバラなために全ての解決を賄うのは至難の業。
ただでさえ必要なカード枚数が多いところに多量の解決カードを入れれば、かえって事故の確率を上げるのは明白。


といった具合で、収録された当時ですら通用しないというのがこのカードの総評である。
二度の収録共にウルトラ以上で収録されていたために、「カスレア(遊戯王OCG)」の記事にも書かれている通りの始末となってしまった。


+ 昔話
遊戯王はシンクロ召喚の少し前から、一気にゲーム性が変わった。ファラオはこの「ゲーム性が変わる前のデフレ期」でさえ、十代にバカにされたという風評がついて回ったカードである。
実際にはどれくらい弱かったのだろうか?

実はたびたび酷評される「出すまでの手順」自体は、当時は全然問題にならなかった。
というのも、対戦相手のエンドフェイズに《第一の棺》を発動すれば、次のターンが始まるとほぼ同時に《第二の棺》を出せる。つまり棺の破壊におびえなければならないターンは実質そこから1ターンだけなのだ。
当時は《サイクロン》《大嵐》が制限、《ハリケーン》は特殊なデッキでのみ用いられるカードという認識。《大寒波》に至っては自分が魔法・罠を使えないデメリットの方が大きい始末。余裕をもって耐えられる。
なんならアニメのアビドス3世みたく相手に接待してもらえる可能性もある。これが冗談でも何でもない。
理由は「《サイクロン》がもったいないから」「いったい何をしてくるのか楽しみだから」「十代の『なんだよ、手間暇かけた割に普通じゃないか』というセリフを言ってみたいから」。
出てくるのが2500の実質バニラなのでまったく怖くないというのもある。当時はそういう素朴な時代だったのだ。

なので、出すことだけを考えると当時は《魅惑の女王LV7》や《漆黒の魔王LV8》(どちらも効果モンスターとして運用する場合)、《不死王リッチー》《神鳥シムルグ》《E・HERO エリクシーラー》などの方がよほど難しかったのである。
むしろ無駄にレアカードや昔のカードが多くなるため、そのせいで値が張ることの方がよほど問題になった。
攻撃力2500というのも頼りないかもしれないが、下級モンスターに殴り負けることはほとんどない。愚民どもは道を開けよ、ファラオのお通りだ。

さて、ここまででも「エアプの頭の中にしかなさそうな話」という感じだろうが(実際に使用していた人間の感想である)、むしろ本当の問題はここから。
先述の「デッキスロットの圧迫・手札事故」という部分が、当時は今以上に重くのしかかってきた。
ファラオはその性質上、「ファラオ自身」「第一の棺」「第一の棺から持ってくる棺2種類」「ファラオでよみがえらせるしもべモンスター(できれば複数)」の4種類をデッキに投入しなければならない。
そしてこれらのカードすべてが手札の中で激烈に腐る。ファラオと棺は手札では役に立たないし、しもべも最高攻撃力が1350のバニラ《マーダーサーカス・ゾンビ》でできることなんてたかが知れている。なにせリクルーターにも負けるのだから。
さらに《打ち出の小槌》はほぼ必須だが下級アンデットはできる限り墓地に置いておきたい、かといってデッキから直接墓地を肥やす手段を使うと肝心のファラオ自身や《第三の棺》が墓地に落ちて召喚ができなくなるかもしれない、という構造的な矛盾を抱えやすく、この相反する2つの需要をうまく満たせるカードがせいぜい《苦渋の選択》(禁止カード)くらいしかない。
デッキにこの「ファラオセット」がだいたい合計10枚、デッキの1/4を占める。この事故を補強するためのカードやフィニッシャー枠(《サウザンドエナジー》など)が大体5枚。ゆうに15枚がファラオのために割かれる。
手札が「レベル2以下のバニラ」と「実用性のない召喚条件カード」。まるで買ってきたオリパでそのままデュエルをしているときのような悲惨さだ。

さらに当時は、アンデット族を4体蘇生できたとしても「それで何をするんですか?」と言われると答えに窮した。
今でこそシンクロやエクシーズの素材というルール的な考え方があるが、この時代にそんな便利なものは存在しない。
つまり最高攻撃力1350のボンクラバニラを集めて、彼らで勝利につながる何かをしなければならない。
しかし妙に凝ったことをしようものなら、ただでさえファラオセットでデッキを10枚近く占拠されている状態がもっと事故だらけになってしまう。
当時はよく《高等儀式術》で墓地を肥やすことが提唱されたのが、《高等儀式術》はレベル4や8を素材にする場合はデッキに何の負担もかからない優秀な儀式魔法なのだが、
レベル2以下を素材にする場合は途端に事故率が跳ね上がるのでリスクが高いのでほぼ専用の構築が必要になってくるし、そもそも儀式召喚自体が「手札に特定のカードが2枚必要」という厳しい召喚方法。
間違ってもデッキの15枚近くを専用パーツが占めるようなデッキに入れていい代物ではないし、その儀式モンスターで殴ってるうちにファラオが出てくる前に勝負がついてしまうという意味で矛盾が生じる。

そのためたいていの場合は事故回避も兼ねて《サウザンドエナジー》のような単純な強化手段を使うことになるのだが、これだと攻撃力が2350止まり。帝やショッカーにも勝てないというのは当時としては「フィニッシャーとしては心もとない」。
理想的に動いても、何気なく出てきたモンスターにやり込められてしまう可能性がある。どうすればいいのだ。

ここで使われたのが《ヘルバウンド》《骨ネズミ》というレベル1のバニラを《トライアングルパワー》で補強するという方法。
「攻撃力が2400~2500になるので打点が結果的に向上し、帝ラインを超えられる」
「《死のデッキ破壊ウイルス》(エラッタ前)の媒体にできる」
「攻撃力1350でできることなんてたかが知れている以上、事故率という意味では差が生じない」
「合計強化点は最大8000であり、そのターン中に相手を仕留められる可能性が高い」
という点から使われた。
この場合でも《ワイト》は攻撃力が低すぎる(たった200の差なのに……)ので採用を見送られることが多かったが、《ワイトキング》と組み合わせる剛の者が採用することはあったようである。

さて、長々と説明したが、このようにデッキ自体をどれほど合理的に組んでも構造的におかしくなってしまうのがこのファラオデッキである。
そのためわざわざ棺を妨害しなくても相手が勝手に手札事故を起こしてあっぷあっぷしているのでほぼ勝ててしまう
ファラオはここが本当に弱い。他のカードと組み合わせるということがその構造上ものすごく難しい。何なら光属性のせいで《ダークゾーン》などを共有できないこと自体キツい。
当時のカードゲームは「他のカードと組み合わせた際のシナジーで戦う」というデザインだったが、ファラオはこの部分にさえ支障が生じているのだ。
冗談でも何でもなく《ビッグ・コアラ》《フロストザウルス》が立っているだけでデッキ自体が詰む。「出すのが難しい」というより「デッキを回すのが難しい」「出してもそもそもレベル6~7のバニラにすら勝てない」。
出すのはそんなに難しくないと豪語しても、「そこまでする価値はあるんですか?」と言われたら話題を逸らして誤魔化さないといけなくなる。
これではカードのデザインとして矛盾を感じざるを得ない。どうにかしてファラオを用いる方法はあるだろうか?

「あったよ!ファラオを用いる方法が!」「でかした!」

《第一の棺》の効果は、「毎ターンのスタンバイフェイズに、デッキから不要牌を1枚取り除く」と書いてあるのと同じである。つまりエコなデッキ圧縮が可能。
この性質を用いてデッキ圧縮を行う【エクゾディア】デッキが、かつてのニコニコ動画に投下されていた。申し訳程度にファラオも出てくる(しもべなし)。
え、使う意味?……ま、まぁその人の動画の中でもあんまり人気なかったんで……。
これではカードのデザインとして矛盾を感じるのが当然だ。

このように、実は使うこと自体は案外簡単で、わざわざ使うだけの価値がまったくなかったということの方がよほど問題だった。
デュエマのGR召喚みたく、融合デッキ(現エクストラデッキ)から出せる専用のモンスターがいるだけでだいぶ事態は好転しただろうに。
デッキの使用者自身が《ファラオのしもべ》になる感覚でプレイするのが一番いいってことでさぁ、終わりでいいんじゃない?(適当)。

なお、当時イラストの雰囲気が似ているカードに《エンド・オブ・アヌビス》というカードがあり、こちらは通好みのカードとして人気が高かった。
レベル6で攻撃力2500というのは帝を一方殺できるし、召喚条件も制限も特に存在しない。当時はそれほど頻繁に蘇生を行わなかったものの、効果自体は《黄泉ガエル》などに刺さるためなかなか強力だった。
ファラオより出すのが簡単、効果も強い、攻撃力は同じなので、「これ効果か召喚条件が入れ替わってんじゃねーか?」なんて冗談半分で疑われたりもしたものである。
流石に通常召喚可能なモンスターでこの効果というのは、当時の遊戯王としてはオーバーパワーかもしれないが……
まぁあの時期のアンデットはレベル4~6を軸にした戦略が強かったので、ローレベルのバニラの採用を強要するという意味では案外アリだったのかもしれない。

現在でも画像掲示板では、《第一の棺》の画像が貼られると《第二の棺》が出てきたタイミングで《サイクロン》の画像が貼られるという定番ネタで用いられている。


救世主の到来

しかしコナミはこのカードを見捨ててはいなかった。
登場から20年が過ぎたのち、《スピリッツ・オブ・ファラオ》に手を差し伸べる有能Lモンスターが登場した。
それが《光なき影 ア=バオ・ア・クゥー》である。

リンク・効果モンスター
◤ ▲ ◥
 
リンク4/闇属性/悪魔族/攻2800
【リンクマーカー:左/右/左下/右下】
悪魔族モンスターを含むモンスター2体以上
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分・相手のメインフェイズに、手札を1枚捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールドのカード1枚を破壊する。
●このカードをエンドフェイズまで除外し、自分の墓地から光・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
(2):自分スタンバイフェイズに発動できる。
自分の墓地のモンスターの種族の種類の数だけ自分はドローする。
その後、ドローした数だけ自分の手札を選んで好きな順番でデッキの下に戻す。


召喚条件は「悪魔族を含むモンスター2体以上」と緩く、《スピリッツ・オブ・ファラオ》で蘇生させるアンデット族を混ぜることで墓地肥やしになる

(1)の効果はカード破壊か光or闇の蘇生で、相手の妨害を狙う効果になる。
前半の破壊効果は《フルール・ド・バロネス》などの棺を破壊するカードの召喚阻止、
後半はこのカードのL素材にもできる《深淵の結界像》を蘇生してやはり相手の妨害に繋げることになる。
この時は後々《深淵の結界像》を破壊して《スピリッツ・オブ・ファラオ》の特殊召喚を阻害しないよう注意したい。
そしてこの効果は手札コストを要するため、手札にあるローレベバニラアンデを墓地に送る手立てにもなる

なおこの後半の効果で一時除外した場合、メインモンスターゾーンに戻るため《スピリッツ・オブ・ファラオ》で蘇生できるモンスター数が最大3体に減る。
これはデメリットではなく、墓地肥やしのノルマを減らせるメリットと捉えよう。

(2)は手札交換効果。
《スピリッツ・オブ・ファラオ》《第三の棺》を素引きした場合でもデッキに戻す手立てになり、事故回避に大いに貢献する
また種族をばらけさせれば多めの枚数ドローできるため、初動の《第一の棺》を引き当てる手立てにもなる

纏めると、複数の解決手段を提示し、すべての要素が《スピリッツ・オブ・ファラオ》の為にある待望の1枚であり、大幅な運用面の改善を成し遂げた救世主といえよう。
他に有意義な使い方は五万とあるし初手の事故に対応できてない?仰る通りでございます。


その他相性の良いカード


  • 《ファラオニック・アドベント》
永続罠をサーチできるため、《第一の棺》にアクセスしやすくなる。
爬虫類族、悪魔族、天使族のいずれかが必要になるが、後述の《宣告者の神巫》でそこも補える。

  • 《高等儀式術》
デッキの通常モンスターを墓地へ送ることで儀式召喚できる儀式魔法。
デッキの通常モンスターを墓地へ送り蘇生する手立てとなる。
サーチ手段が必要になるが、《宣告者の神巫》で《虹光の宣告者》を墓地へ送ることでサーチが可能となる。

  • 《宣告者の神巫》
召喚時にデッキかEXデッキから天使族を墓地へ送ることができ、リリースされると下級天使族を呼べる。
上記の2枚と組み合わせることで《第一の棺》にアクセスしつつ墓地肥やしが可能。
儀式召喚する儀式モンスターと合わせても必要枚数が3枚で済む。

  • 《トレジャー・パンダー》
通常モンスターをリクルートできる下級モンスター。
魔法カードを墓地に貯め、《ワイト》などをリクルート、L素材にすることで蘇生先の確保が可能。
《第一の棺》を墓地に置いてあれば《トロイメア・グリフォン》をL召喚し、その効果でセットしアクセスできる。
必要素材が多少増えるが、《ライトロード・ドミニオン キュリオス》を経由することで《第一の棺》を墓地へ送ることも可能。

  • 《身代わりの闇》
「フィールドのカードを破壊する効果」を無効にし、デッキからレベル3以下の闇属性モンスター1体を墓地へ送る通常罠。
棺カードの保護と《スピリッツ・オブ・ファラオ》の蘇生準備を両立できる。
ただし前述の《高等儀式術》で「デッキから通常モンスターを吐き切る」効果とは噛み合いが悪い点には注意。
また、相手が破壊する効果を使うこと前提のため、墓地に大した枚数のカードがない状況では相手が破壊してこない場合がある他、《スピリッツ・オブ・ファラオ》の効果を無効にしてくることを狙っている場合などでは、肝心の墓地肥やしができない可能性もある。

お互いに1ターン中の召喚・特殊召喚を2回までに制限する永続罠。
一見すると自分のターン中に《スピリッツ・オブ・ファラオ》の特殊召喚と、その効果による通常モンスターの特殊召喚の2回を行い、その後の通常モンスターを素材に特殊召喚する動きができない様に見える。
しかし、実は《第一の棺》による《スピリッツ・オブ・ファラオ》の特殊召喚とその効果による通常モンスターの展開は相手のエンドフェイズに行われるため、自分のターンでは丸々2回特殊召喚が可能なのである。
相手の展開を制限することで棺が揃うまでの時間稼ぎと、破壊するモンスターの展開抑止も可能。
よく気づいたと感心するしかない……。

アニメの活躍


カードを1枚伏せて、ターンエンド。
見せてもらうぜ、王様!

デッキから、魔法カード《第三の棺》発動!

これらのカードを全て墓地に送り…《スピリッツ・オブ・ファラオ》を攻撃表示で特殊召喚する!

《スピリッツ・オブ・ファラオ》…?


《スピリッツ・オブ・ファラオ》
攻撃力:2500

え、攻撃力2500?

なんだよ…手間暇かけた割に普通じゃないか…



アニメ遊戯王GXの40話「H・E・R・O(エイチイーアールオー)フラッシュ!」にて登場。
セブンスターズの一人アビドス3世*1遊城十代相手に使用。

アビドス3世は生涯無敗の記録を持つ「デュエルの王」として崇められていた。
しかし実際に十代とのデュエルで見せた内容は、あまりにも平凡で強者らしからぬ動揺と窮地の陥り方。
そしてデュエル中に発覚した事実…それはアビドス3世の無敗伝説は対手の接待によるものであった。

アビドス3世自身がこの真実にショックを露わにするも、
「デュエルは本気でやるから楽しい」「本気でやろうぜ」という十代に触発されたことでアビドス3世は「本気」で挑む。
そして十代相手に三種の棺をすべて揃え、《スピリッツ・オブ・ファラオ》を見事に特殊召喚したのであった。

結局《ヒーローフラッシュ!!》の直接攻撃で決着がついたため、《スピリッツ・オブ・ファラオ》自体は最後までフィールドに残っていた。


先のやり取りの通り、よりによって前述の「本気でやろうぜ」のやり取りの後なのに特殊召喚された時には十代からも軽んじられた反応を返されている。
そのため「十代から直に貶されたカード」という汚名が先走りしているが、これはあくまで「攻撃力2500」と手間だけを見ての評価。
その後の蘇生効果を発動された際は普通に驚き、《サウザンドエナジー》による強化も含めた一斉攻撃で一度は窮地に追いやっている。
実際このカードを使った蘇生からつなげたコンボや、相手の除去に対応するための《マジック・ジャマー》*2などの採用など、アビドス三世はこのカードにかなり向き合っている。
接待されていたとはいえ、実力そのものはかなり高いものだったことがうかがえるであろう。
また、決着も《ヒーローフラッシュ!!》によるダイレクトアタックによるものだったため、実はこのカード、きれいにコンボに決められたうえで攻略されていない。
というか効果まで含めて総括するなら「手間暇かけた割に普通」という評も実態に即していないし。なにより、主人公相手とはいえコンボを決めきったうえで倒しきれなかったという、決定力のなさも露呈しているのだが

負けはしたものの、これまで「偽物の無敗記録」しか持たなかったアビドス3世にとって「本気で勝負させてくれる」機会を得たうえで、
十代相手に《スピリッツ・オブ・ファラオ》を召喚し鍔迫り合いするだけの実力を示す決定的な勝負であった。
勝負の後はとても満ち足りた様子で、十代との100年後の再戦を約束し天に返ることになった。

ちなみにアビドス3世の回想で使用した手の内は《キラー・スネーク》《アポピスの化身》《ヘラクレス・ビートル》と、統一性がまるでない。
エジプトらしい雰囲気重視だとしても、何故カブトムシ…。

余談

2023年7月22日に発売されたAGE OF OVERLORDでは「ホルス」というテーマが登場している。
そのテーマでは「棺」と名の付く永続カード、そしてそれを条件に蘇生するモンスターという《スピリッツ・オブ・ファラオ》との共通点が見られる。
ただしあちらの場合、「棺」自体がホルスモンスターの墓地肥やしをするので展開に貢献し、「置物」ではなく「エンジン」として機能している。
挙句蘇生するモンスターも「棺」があれば自己蘇生し、要の「棺」をサーチする効果も持っている有能集団である。

「ホルス」テーマは「ホルスの黒炎竜」のリメイクであると同時に、《スピリッツ・オブ・ファラオ》のリメイクとしてデザインされたものなのかもしれない。

また、このカードが弱いとされる要因の多くは《第一の棺》による特殊召喚手順にある。
召喚条件を無視して《スピリッツ・オブ・ファラオ》を特殊召喚できるカードがあれば、展開の遅さや事故率を下げ効果を使いやすくはなる。
現状は対応するものは特殊召喚効果を使えない《青天の霹靂》しかないが、今後カードが増えれば対応するものも出てくるかも知れない。


何千年もの間アニヲタwikiを編集し続けているオタクのミイラ。
その魂は今も追記・修正を求めている。



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最終更新:2025年02月10日 15:47

*1 ちなみにCVは当時新人だった宮野真守氏が演じている

*2 手札のアンデット族を捨てて発動するため、本体の蘇生効果を活かしている。カードwikiにもしっかりとしたシナジーがあると評価されていた