劇場版の物語はTVシリーズの3年後が舞台になっており、この機体に至る変遷はそれより少し遡る。
エステバリス
元々『機動戦艦ナデシコ』シリーズには、 「エステバリス」という人型ロボットが存在する。
名前の由来は夏咲き福寿草、その学名から。花言葉は「優しくも悲しい思い出」。
エステバリスは、母艦である相転移炉艦、開発当時におけるナデシコ級戦艦の支援を目的として、
ネルガル重工により開発された汎用人型機動兵器である。
操縦システムにIFS(Image Feedback System)を採用(とはいえ当時の地球側の機動兵器は大抵IFSだが)し、
オーバーテクノロジーであるディストーションフィールドを標準装備する等、
最新の技術がふんだんに使われており、様々な武装と、地形にあわせた各種フレームの換装により高い汎用性を誇る。
また、後述する動力部の撤廃から軽量、小型化に成功しており、全高6メートルのエステバリスは、
他作品のロボットと比べてもかなり小さい部類に入る( 最小という訳ではないが)。
兵器体系では戦艦装備の延長線上に位置し、戦艦装備の一形態、言うなれば付属物である為、
それ単体での運用は基本的に不可能。
というのもこのエステバリス、機体内に通常の内燃機関のような動力源を持たない。
動力は母艦である相転移炉艦からの重力波ビームによって供給され、その照射範囲内ならば、
(母艦が落とされない限り)半永久的に活動が可能。
この動力源を外部に依存する事によって、小型で大出力のジェネレーターを搭載を可能にした。
その反面、ビームの照射範囲外では僅かなバッテリーに頼る事になり、活動時間は非常に短い。
ただし、専用のバッテリーパックを搭載する事で、ある程度活動可能時間を延ばす事は出来る。
例外は月面フレームのみで、こちらは相転移エンジンを搭載しているのだが、当然ながら他のフレームと比べてデカい。
なんせ木連のジンシリーズと殴り合えるくらいである。
姿こそ人型をしているが、要するに汎用性が極めて高い戦艦砲塔のようなものと考えれば良い。
事実、エステバリスが搭載されたナデシコ級戦艦は、対空、対鑑攻撃をエステバリスに一任している為、
一様にして艦載武装の数が少ない。
劇中における戦闘では、エステバリスの支援による敵陣突貫から主砲グラビティブラストを ぶっぱするというのが、
ナデシコの基本戦術かつ必勝パターンであった。
ちなみに、主人公機であるアキトのエステバリスはショッキングピンクという 独特のカラーリングをしているのだが、
これは恐らく撫子の英名である Pinkにちなんだものと思われる。
派生機としては、
重力波の変換効率の上昇によりグラビティブラストを撃てるようにした「 Xエステバリス」(ただし、機体がパワーに耐えられない失敗作)、
出力・武装が強化された「スーパーエステバリス」、量産型の重力波アンテナを2倍に増やして出力を増加させた「エステバリスカスタム」、
単独ボソンジャンプを可能にした「アルストロメリア」などが存在する。
余談だが、エステバリスなど地球の機体に使われているIFSは、体内にナノマシンを入れるという関係上、地球では忌避する人も多い。
しかし、火星ではテラフォーミングにナノマシンが使われた関係で、重機にIFSが使われるほど普及していた為、
一般人のアキトもIFSを持っており、結果、地球にボソンジャンプしてからはパイロット崩れだと勘違いされていた。
劇場版でネルガルのライバル企業、クリムゾングループの「ステルンクーゲル」が統合軍の主力機として採用されているのも、
エステバリスより高性能だからというのもあるが、非IFS機だからという面も大きい。
木連では人体改造すらあった為あまり抵抗はない…どころか、自分の思った通りに動かせるというロマン要素が、一部の木連出身者を惹きつけるようだ。
その為、木連(若手将校を中心とした反クリムゾン派)との共同開発のゲキガンフレームなんて代物もある。
ブラックサレナ
ネルガル重工の協力の元、アキトはかつての愛機エステバリスに実験機としての改修を施す。
そして完成した「エステバリス・テンカワSpl」に乗り、劇中の敵である「火星の後継者」に単身戦いを挑むが、所詮は旧式量産型のカスタム機。
「火星の後継者」が使用していた当時の新鋭人型機動兵器「 夜天光」・「六連(むづら)」を前に敗北。
ちなみにテンカワSplは一次フレームそのものが蓄電池となっている為、重量・バランスを変える事なく大容量エネルギーの確保に成功、
また、その素材がCCによく似た組成でできている為に単独ボソンジャンプが可能と、後のアルストロメリアのひな形といえる。
機体が大破しつつも奇跡的に生還したアキトは、敵が常に複数で行動している点から、
対多数戦闘をコンセプトに「エステバリス・テンカワSpl」をメインユニットとして更なる改造を開始。
以後、戦闘を重ねる度に修復、同時に大規模な改造を重ねるうち、次第にエステバリスは
本来のそれとは大きく掛け離れた機動兵器「ブラックサレナ」へと変貌を遂げる事となる。
以上の事から分かるように、ブラックサレナとは一つの機動兵器の名称ではなく、
エステバリス・テンカワSplに改造を重ねた状態その総称を指す。
よって、単にブラックサレナと言っても改造の段階によって様々な形態が存在する。
ただし、小説でエリナがサレナタイプのテストパイロットにとリョーコをスカウトしているので、
元となる構想そのものはあったと思われる。
最初に完成したブラックサレナはS型(ストライカータイプ)と呼ばれ、大型ミサイル・130mmカノン砲を装備している。
さらに対弾性能の向上と単機での長期運用を可能にする為、エステバリスの外部にジェネレータ内蔵の重装甲が取り付けられた。
火力に重点を置いた改造、それも急造であった為、結果機動力が損なわれる事になった。
このタイプは拠点侵攻において多大な成果をあげたものの、機動力重視の白兵戦仕様であった夜天光に再び敗北。
強大な火力だけでは夜天光には勝てない事が分かり、以後は機動力を重視した改造が施される事になる。
再度改装されたブラックサレナはA型(アーマードタイプ)と呼ばれ、耐弾性と機動力の両立という、
ブラックサレナの改造コンセプトはこの段階で固まったと言えるだろう。
全身への増加装甲により耐弾性、機体剛性を高めており、S型の脚部スラスターを肩部装甲に取り付けるという変更がなされている。
武装は火力重視のS型から一転し、試作型の小型ビームガン2挺のみ。
また腕部がビームガンで使用できなくなる為、手の代用として尻尾であるテールバインダーに、アンカークローとマジックアームが搭載された。
その後は更にスラスターを追加し、A型の装甲を更に厚くしたA2型(アーマード2タイプ)へとその身を変貌させる。
漆黒のカラーリングと、頭部、肩部に刻まれた赤いエンブレム。
機動時の抵抗を減らす為か、全体像は曲線の目立つ有機的なシルエットに変わっており、
その威容から元のエステバリスを想像する事は不可能。
このA2型こそ劇場版でブラックサレナとして登場しているものであり、
改造の限界に達したとされるブラックサレナ事実上の最終形態である。
限界まで機体剛性を高めた結果、脚部、及び腕部の関節稼働域は極端に狭くなっており、武装もハンドカノン2挺のみ。
本来、エステバリス最大の長所であった汎用性を捨てた分、強襲、対多数戦闘の2点に完全に特化されており、
その性能は艦隊の集中砲火を受けつつ、その防衛ラインを単機で突破し切る程。
ちなみに両腕部に装備しているハンドガンだが、試作兵器という事もあり、やや連射性に難があるもののその威力は高く、
光学兵器でありながら、機動兵器サイズのディストーションフィールド程度なら容易に貫通できる程の威力がある。
なお、A2型で改造の限界に達したブラックサレナに汎用性を付加する為、
外付けの高機動ユニットが劇中で使われた1種の他、3種ほど作られており、その中の一つにはドリルがついたモノもある。
余談だがこのブラックサレナ、劇中でその名を明かされない為、映画を見ただけでは機体の名前は分からない。
スパロボや、他ゲームなどで初めてその名を知ったという人もいるのではないだろうか。
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