初代ナイトオウル


「キャプテンアクシスを倒した左フックは、まだ鈍っちゃいないぞ!」

アラン・ムーア原作、デイブ・ギボンズ作画によるDCコミック『ウォッチメン』に登場するヒーローの一人。
本名はホリス・メイソン。1916年生まれの元警察官で、現在は69歳
1930年代末から1950年代に活躍したヒーローで、1962年に引退してからは自動車整備工場を営んでいる。

『ウォッチメン』という作品の世界観を知る上で、最も重要な人物。
この世界におけるヒーローの滑稽さや、物悲しさを象徴する存在でもある。
また他のヒーローが狂人だったり外道だったり全裸だったりヘタレだったりする中、
(子供っぽいとはいえ)かなりの常識人であり、「良いおじいちゃん」でもあるので、ファンからは愛されている。
まあ、コスチュームはとってもダサいのだけど。機能性重視ってやつである。ダサカッコイイ

ちなみにモチーフは「ナイトオウル(直訳で夜のフクロウ。転じて『夜更かし』『夜警』の意)」の名の通りフクロウから。
ただ彼の後を継いだ弟子であるナイトオウルII世の方が、よりフクロウっぽいのだが。

また、この衣装と「ナイトオウル」という名前の元ネタは、デイブ・ギボンズが14歳の頃に考えたヒーロー。
外見的にはほぼそのままで、「自分でもどうしてこんな格好にしたのか分からない」と、
映画版DVDの特典映像にてギボンズ自身が語っていた。
短パンな所はロビンを意識していたらしく、二代目ナイトオウルがバットマンっぽい姿になったのも偶然ではないだろう。
その他、デザインは世界初のコスチュームヒーロー(スーパーマンよりも早い!)『ザ・ファントム』を髣髴とさせる。

モデルはチャールトンコミックスの初代ブルービートルであり、正体が警官であるなどといった共通点が存在する。
元々『ウォッチメン』は既存のヒーローを使用したストーリーで、モデル元(と二代目)がそのまま登場する予定だった。


キャラクター設定

ゴールデンエイジに活躍した、往年の名ヒーロー。
世界で二番目に登場したコスチュームヒーローであり、現在は隠居した好々爺。
それが初代ナイトオウル/ホリス・メイソンである。

ヒーローとしての能力は、皆無
彼は(というか『ウォッチメン』世界のヒーロー、ヴィランはただ一人の「超人」を除いた全員が)
鍛えた人間がコスチュームを着ただけであり、それ以上でも以下でもないのだ。
唯一の取り得は大抵の悪党なら一撃でノックアウトさせられる左フックのみ。
変わった装備といえば、愛犬のファントム程度。
だが彼が活動していた時代のアメリカでは、これで何の問題も無かったのである。

数々の犯罪者、ヴィランと戦い続けてきたナイトオウルであったが、
第二次世界大戦やベトナム戦争を経て1960年代に入り、世界が複雑になってしまった為、
自らの活動に影響を受けて二代目ナイトオウルを襲名した青年が現れた事に満足しながら、引退。

ホリスは確固たる道徳観念を持ち、自らの信念を貫き通した男である。
大なり小なり、多くのヒーローが矛盾や反社会性を抱いているにも拘らず、
ヒーローに対する子供っぽい憧れを除けば、随一の常識人かつ正義漢。
『ウォッチメン』に登場するヒーロー達の中で、
(血縁者を除いて)唯一、後継者の現れたヒーローという事実が、その証明である。

二代目ナイトオウルことダン・ドライバーグとは師弟・親友・親子のような関係で、二人でビールを片手に呑みつつ、
過去の活躍についてよもやま話をしてみたり、近所のスーパーで昔の宿敵とバッタリ遭遇して電話番号を交換してみたり、
物事がパンチ一つで片付く、明るくて単純な時代を駆け抜けた彼は、あまり客の来ない自動車整備工場を営み、
過去の思い出を懐かしみながら新たなヒーロー達の活躍を見守っている。

「ファントムのドッグフードを買いに行った先にぶつかったのが、
 スクリーミング・スカルだったのさ!」
「奴は更正して信仰の道に入った。結婚して、子供が二人できたそうだ」
「住所を交換したよ……良い奴だ」

『ウォッチメン』はヒーローが実在し、一人だけ超人が出現した世界を舞台にしているのだが、
引退後にホリスが執筆した自伝「仮面の下で」は、この歴史を知る上で極めて重要な資料となっている。

+ 原作ネタバレ注意
アメリカの片田舎、モンタナで生まれ育ったホリス少年は、12歳の時にニューヨークへと引っ越してきた。
しかし其処で待ち受けていたのは、都市特有の腐敗や悪徳といったものばかり。
祖父譲りの道徳観念を持っていた彼は、その現状にどうしても我慢できなかったのだという。
(後年になり、あの頃は田舎にも悪徳がある事に気づかなかったから、と笑いながら述べている)

その為、ホリス少年は父の職場である自動車整備工場で手伝いをする傍ら、
当時のアメリカで流通していたパルプ小説(ダイムノベル)にのめり込んで行く。
これはアメコミの元になった少年少女向けの安価な小説(今でいうに近い)で、
ドク・サベッジやシャドウといった、様々なヒーロー達が事件に挑み、悪漢達と戦う……といった内容だった。
確固たる価値観があり、勧善懲悪が貫かれ、道徳が本来の姿で存在している完璧な世界。
犯罪に塗れた現実とは程遠い内容に幼いホリス少年は魅せられ、憧れを抱きつつ成長していくことになる。

その結果、23歳になった時、ホリス・メイソンはニューヨーク市警の警察官となる道を選んだ。
彼の抱いた理想と現実とを摺り合わせるには、最も適した職業だったからである。
そして本来ならば、彼は心優しい一警官として生涯を過ごすはずだったのだが……。

コミックブック『スーパーマン』の発表。
そして、それに影響を受けた世界最初のヒーロー、フーデッド・ジャスティスの登場が、
ホリス・メイソンの人生──そして、『ウォッチメン』世界を大きく変えてしまう事になる。

彼は、自分こそが世界で二人目のヒーローになろう、と決意したのだ。

まず最初に悩んだことは、ヒーローとしての「名前」である。
新聞によって名付けられた「フーデッド・ジャスティス」に勝るとも劣らない、
ドラマティックで格好良い名前が欲しいと、ホリスは勤務の傍ら、頭を悩ませ続けた。
何故なら名前が決まらないことには、コスチュームだって考えられないのだから。

結局、いくら考えてもロクな名前を思いつかなかったホリスは、
夜遅くまでトレーニングしていた事から同僚に名付けられた、
「夜更かし屋(ナイトオウル)」というニックネームを拝借する事にした。

名前とモチーフが決まった以上、次はコスチュームである。
実際に活動するとなると、全身タイツというわけにはいかない。
厚く重く丈夫なのが良いのか、軽くて薄くて動きやすい方が良いのか。
マントをつけるべきか否か、顔はどうやって隠すべきか……。

色々と試行錯誤した結果、引っ掛けて転んだ為にマントは無し。
戦いやすいように手足を自由にし、その代わり胴体をしっかり守る事に決定。
顔はドミノマスクで隠し、鎖帷子と革のチョッキ、ヘルメットを着込むようになる。
更に最初はマスクを紐で留めていたが、敵に引っ張られて窮地に陥ってしまい、
それ以来、演劇で用いられる付け髭用の糊で固定するようにした。
+ 余談だが……
この「マント無し」というのは英断であった。
実際、後年になってダラー・ビルというヒーローが、
マントがドアに引っかかった所を射殺されてしまったのだ。

とはいえコレは銀行の宣伝用にデザインされた見栄え重視のコスチュームであった為、
ダラー・ビルに責任は無いのだが、この展開に対するインパクトは大きく、
他にも多くの作品で「マントは危ない」という事がオマージュされる事になった。*1

ちなみに彼の名を襲名したナイトオウルII世だが、
クチバシの様なマスク、茶色い鳥の羽を髣髴とさせる模様のボディと、
初代よりよりフクロウっぽくなったコスチュームを身に着けているが、
あろうことか立った状態で地に着く寸前の長いマントを付けている。
彼的にヒーローのコスチュームにマントというのは譲れなかったらしい。

まあそこは二代目、危険性については承知しており、原作では大きく広がらない流線型のデザインになっている
(また厚みもあり、硬質そうな描写で簡単に翻りそうにもない)ほか、
映画ではマントを翼にして滑空してみたり、ショルダーに収納したり、ハイテクさを披露している。

こうして1939年にデビューしたナイトオウルは、最初こそ犯罪者を退治していたものの、
やがて宿敵モーロックをはじめとし、スペースマン、キャプテン・アクシス、モブスター、スクリーミング・スカルなどなど、
ヒーローの登場に起因して出現した、多くのコスチュームヴィランと対決するようになる。
世界最初のヒーローチーム「ミニッツメン」にも創立メンバーとして参加し、正にゴールデンエイジを迎えたのだった。

……ところが。

ミニッツメンのメンバーが1人去り、1人死に、1人が引退し……と徐々に数を減らしていき、
ヒーローの数が減るのに伴って、元から数の少なかったヴィラン達も姿を消し始め、
残った者も、単純な強盗や馬鹿馬鹿しい作戦などからは手を引き、実入りの多い詐欺や売春斡旋などに転向。
悪党と戦う爽快感は無くなり、吐き気を催すような邪悪な犯罪との戦いだけが残ってしまった。

そしてDr.マンハッタンの登場によって、世界が昔とは変わってしまった事をホリスは実感する。

「世界は左フック一発では片付かなくなってしまった……」

そう呟き、ホリス・メイソンは正体を公表し、引退。
かつての自分の活動に影響を受けた青年が、ナイトオウルII世としてデビューする事に満足感を抱き、
自分にとって最も幸福だった少年時代の思い出から、自動車整備工場を経営することを決意する。

また、その傍ら自伝『仮面の下で』を執筆。
これがベストセラーとなった為、現在では悠々自適の隠居生活である。
過去の思い出を懐かしみながら、のんびりと…………。


+ しかし、その最期は──(原作ネタバレ注意)
ナイトオウルII世らが刑務所に囚われたロールシャッハを脱獄させた際、
その時の目撃証言が「梟の格好をした男」だった事から、不良グループが自宅を襲撃。
ちょうどハロウィンの夜で、子供達の為のお菓子を用意していたホリスは鍵を開けており、
暴行を受け、抵抗するも虚しく惨殺されてしまうという……非業の最期を遂げた。

+ ミニッツメンについて
左からシルエット、モスマン、ダラー・ビル、初代ナイトオウル、手前がコメディアン、奥がキャプテン・メトロポリス、
初代シルクスペクター、フーデッド・ジャスティス……以上の八名で構成された、世界最初のヒーローチーム。
ヒーローとしての輝かしい活躍とは裏腹に、様々な暗い面も持ち合わせており、それも『仮面の下で』で述べられている。

シルエットはレズビアンである事が発覚して追放され(後にかつての敵組織に恋人共々寝込みを襲われ死亡)、
キャプテン・メトロポリスもフーデッド・ジャスティスとのホモが発覚(当時アメリカでは同性愛は差別・偏見が酷かった為)、
モスマンは後に学生時代社会主義の友人とつるんでいたせいか世間の赤狩りの追求の精神的重圧により酒浸りになった末精神病院に入り、
ダラー・ビルは銀行強盗に射殺されてしまい、コメディアンは初代シルクスペクターに対しレイプ未遂を起こし、
フーデッド・ジャスティスは「正義の名の下に暴力を気軽に振るいたかった」サディストだったり
(コメディアンのレイプ未遂を止めたのも彼だが、その名目で彼をボコボコにし後年恨まれ射殺される)、
初代シルクスペクターも芸能界ばかりに呼ばれメンバーと疎遠になり、最後はマネージャーと出来ちゃった結婚で引退……。

彼ら全員が、各々の理由から世界を良くしようと戦っていたはずなのだが……。

+ 宿敵モーロックについて
モーロック、モーロック・ザ・ミスティック。本名エドガー・ウィリアム・ジャコビ
『ウォッチメン』世界のゴールデンエイジに暗躍した、最も有名なヴィラン。

元々はステージマジシャンだったのだが、如何なる経緯によるものか、暗黒街の顔役へと出世。
タキシードを着込み、手品のトリックを利用し、大規模かつ派手な犯罪を引き起こした。
ミニッツメンとは幾度と無く戦いを繰り広げたが、やがて金融詐欺・売春クラブ経営といった、ありふれた犯罪者へと転落。
1960年代にDr.マンハッタンとの対決を経て、最終的にはコメディアンによって逮捕された。
10年間の服役中に改心し、出所後はピラミッド宅配会社に勤務。
現在は退職して、小さなアパートで年金暮らし。更に末期癌を患っている。

+ しかし、その最期は──(原作ネタバレ注意)
原作中盤にオジマンティウス=エイドリアン・ヴェイトの手によって、
ロールシャッハに殺人罪の濡れ衣を着せる為だけに殺害されてしまった。

また末期癌に関してもDr.マンハッタンに濡れ衣を着せる為、エイドリアンに人為的に発病させられたものだったりする。
尤も、仮にこれら二つの要素が無かったとしても、最終的にSQUIDによって死んでいただろうが……。
如何に相手が人類最高の天才であり、年老いているとはいえ、往年の名悪役の末路としては悲惨の一言であろう。

+ 映画版では

尺の都合などの問題から、通常公開版では出番がザックりとカットされてしまっている。
予告編では出てる筈のシーンが削られてる辺り、広報担当者は何を考えていたのか……。
一応ディレクターズカット版、アルティメット版などでは色々と収録されているが、
あろうことか今現在、日本での発売予定は無い。パラマウント仕事しろ。
日本語吹替は 金尾哲夫 氏が担当。

その代わり、彼の自伝である『仮面の下で』がドキュメンタリーとして撮影されている。
これが中々できの良い番組内容となっており、原作ファンならばニヤリとできるネタも多い一方、
原作とも微妙に異なる映画版『ウォッチメン』の世界を理解する、大きな助けとなる筈だ。
『ウォッチメン』に触れるなら、先に見ておいて損は無いだろう。


MUGENにおける初代ナイトオウル

SQUIDを製作したpH10氏によるキャラクターが存在していた。サイズ的にはチビキャラとなる。
ヴェイト社製アーケードゲーム のスプライトが流用されており、極めて原作再現度が高かった。
現在は公開場所であったニコロダの閉鎖により入手不可。
原作再現の為、基本の攻撃方法はゲーム通りにパンチ、キック、ジャンプパンチ、ジャンプキックの四つのみだが、
普通の人間がこんな攻撃くらったら、ガードなんか無駄」という、
極めてウォッチメンらしいリアリティある理由で全てガード不可。
またゲージを消費することで、ストライカーとして宿敵モーロックを呼び出すことができる。
アーケードではボスとして登場するモーロックは投げナイフを五本放つのだが、
これも「普通の人間がナイフ刺さったらガードしてても痛い」という理由で、やっぱりガード不可。
攻撃を受けると消滅してしまうのだが、対戦相手の背後から登場するので、上手く使えば中々の立ち回りができる筈だ。

3ゲージ消費ガード不可の10割パンチ「伝説の左フック」も実装されている。
原作ゲームにくらべてややサイズも大きくなり、MUGEN界隈の悪党とも渡り合える。
ただまあ、本当に鍛えた常人でしかないので、パンチとキックしか技が無いのは仕方ない所
それでもガード不可な辺り、やっぱりゴールデンエイジのヒーローを舐めちゃいかんという事か。

出場大会

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*1
『ウォッチメン』から多大な影響を受けている2004年のディズニー映画『Mr.インクレディブル』でもそういう描写が見られた。
また、現実でも日本の特撮番組『秘密戦隊ゴレンジャー』(原作:石森章太郎)の雑誌撮影会で、
飛行用としてベルト側面に付いているロケット「バーディー」(彼や彼女ではなく、特撮用にガスバーナーを内蔵)を使用した所、
長いマントに引火してしまいあわや…という事故が起きたそうである。
当然、その後すぐに短いマントに変更された。マントはリアルに危険。

そもそもマントの本来の目的は、移動時に直射日光や寒さを避けるためのものであり、戦闘開始前に脱ぐものである。
余談だがライダーマフラーも、本来は(風にさらされた事で出た)鼻水をぬぐうためのものである。
そもそも格闘戦時に長いマフラーなんてしてたら首を絞めてくれと言っているようなものである


最終更新:2022年01月26日 03:21