樋口真嗣

登録日:2021/07/11 Sun 01:47:58
更新日:2024/09/09 Mon 12:08:24
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樋口(ひぐち)真嗣(しんじ)とは、日本の映画監督・特技監督・演出家である。


【来歴】

幼少期は第一次・第二次怪獣ブームの隙間で『ウルトラファイト』を見て育ち、『ゴジラ対ヘドラ』の制作現場の写真を見て特撮制作に興味を抱き始める。
中学生の頃は当時大ヒットしていた『スター・ウォーズ』より、それらの便乗映画である『惑星大戦争』や『宇宙からのメッセージ』、また流行る前だった『機動戦士ガンダム』が好きだったという。

1984年版『ゴジラ』で、造型助手として初めてプロの特撮の現場に入る。
その後、特撮映画があまり作られなかった時期には美術館や博物館のアルバイトをしていたが、庵野秀明氏ら「DAICON FILM」の面々と知り合い、自主映画の制作を手伝うように。
自主特撮映画の『八岐之大蛇の逆襲』(監督:赤井孝美)では初めて特技監督を務めた。平成ガメラ以降の作品に繋がる演出が見られるので、機会があればぜひ鑑賞してほしい。
その後、DAICON FILMが発展したガイナックスで、岡田斗司夫氏に誘われ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の助監督を務める。
トップをねらえ!』では当初監督の予定だったが、『帝都物語』に参加するため降板し、結局庵野秀明監督作品となった(いちスタッフとしては樋口氏も参加)。

1990年には庵野監督作品である『ふしぎの海のナディア』で、島編のみを監督。
1991年には『ミカドロイド』で、商業作品では初の特技監督。翌92年には前田真宏氏、村濱章司氏、山口宏氏とともにアニメ制作会社のGONZOを設立。

1995年には、特技監督を務めた『ガメラ 大怪獣空中決戦』が高い評価を経て、特技監督・演出家として注目を集める。

2002年には『ミニモニ。THE(じゃ)ムービー お菓子な大冒険!』で本編の映画監督デビュー、その後は映画監督としての活動が中心となる。
2005年の『ローレライ』を始め、2015年に『進撃の巨人』2部作、翌16年に『シン・ゴジラ』(総監督:庵野秀明)など、特撮やスペクタクル要素の強い作品を監督。
2018年には『ひそねとまそたん』で久々にアニメの監督を務めた。


【作風】

樋口氏の特撮は、とにかく絵コンテ(映像の設計図的なもの)に忠実である事が特徴である。
従来のミニチュア特撮は円谷英二監督や川北紘一監督が多用していたように、まず広大なミニチュアを作り、その中に怪獣などを配置してカメラや照明の位置といった撮り方を決めるのが主流だった。
それに対して平成ガメラシリーズでは、ゴジラシリーズより予算が乏しく、作れるミニチュアが少ない事もあり、まず絵コンテでカメラアングルなどを決め、それに合わせて必要な分だけミニチュアを飾る方法で撮影を行った。
これにより樋口氏のアニメでの経験が活き、リアルかつ躍動感あふれる映像が作り上げられた。
また、従来のミニチュア特撮では怪獣の表情を撮すために、怪獣を正面からアップで撮ったカットが多かったが、平成ガメラでは下から見上げる視点で撮影を行い、さらにセット撮影感を減らすため、昼間のシーンは屋外にセットを組み、自然光の下で撮影を行った。
これらの手法はウルトラシリーズなどで元々行われていた手法ではあるが、より徹底して行う事により高い効果を生んだといえよう。

アナログ特撮のアイディアも豊富であり、例として
  • 『ガメラ1』のギャオスが旋回するシーンでは、尺の違う2種類の人形を使い、画面外に出た瞬間に大きい人形から小さい人形に切り替える事で遠近感を表現している。
  • ガメラ2 レギオン襲来』の走るジープからガメラを見上げるシーンでは、車ではなく建物のミニチュアを動かし、ガメラから遠ざかるジープを表現した。
  • 巨神兵東京に現わる』の巨神兵や『進撃の巨人』の超大型巨人は、大きな人形を文楽のように後ろから動かす手法が使われ、これにより着ぐるみともCGとも異なる独特の存在感を生み出している。

さらにCGをあまり発達していなかった時期から積極的に導入。
平成ガメラはシリーズが進むごとにCGが増え、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』ではミニチュア・デジタル合成・CGを組み合わせ、驚異の渋谷戦・空中戦・京都戦を完成させた。


……一方で、映画監督としての評価はあまり芳しいとは言えない。
これの原因の一つとして、「人柄の良さ」が挙げられる。
通常人柄の良さは美徳だが、それが災いして製作委員会やスポンサーの要求をどんどん入れたりしてしまうのだとか。
事実、当初は他の監督の予定だったが降板し、代わりの監督を引き受けた『進撃の巨人』など、ワケあり案件もチラホラ。
また、俳優の芝居が舞台演劇的に誇張されすぎているとの意見もある。


アニメの絵コンテも多数提供しており、特に有名なのは『新世紀エヴァンゲリオン』第八話「アスカ、来日」だろうか。
エヴァには、新劇場版シリーズにも4作全てに参加している。
近年では『キルラキル』や『進撃の巨人』第3シーズンにも参加。


【人物・エピソード】

ウルトラマンパワード』にも参加し、ハリウッドでレベルの高い特撮ができると意気込んで、美術の三池敏夫氏らと共にアメリカに渡るも、実際にはやる気のないスタッフであり、ミニチュアビルを三池氏と共に細かく飾る作業をしたりするハメに。
悔しさを覚えながら帰国するも、同じく『パワード』に参加していた脚本家の伊藤和典氏に誘われ、ガメラのリブートに携わることとなり、『パワード』での悔しさをバネに平成ガメラを作り上げた。

『シン・ゴジラ』では庵野総監督が当初予定になかったものの現場にほとんどの撮影で出向き指示を出す事になり、急に出てきてカメラの位置をミリ単位で調整するなどハードな指示をする庵野氏に樋口組のスタッフが反発。
しかし、樋口氏は庵野氏とスタッフ達を仲介し、なんとか撮影終了までこぎつけた。
製作初期に東宝上層部が作品内容に注文をつけ、庵野氏がそれを受けて降板しそうになった時に庵野氏の側に立ったのも樋口氏であり、樋口氏がいなければ作品が完成していなかったとさえ言えるかもしれない。

コロナ禍で仕事がいくつかなくなり、外食もできなくなった際、自宅でのお菓子作りを始め、ハマる。
その後はみるみる上達し、プロ並の腕前に。撮影の現場にも持っていき、好評を博しているという。
Instagramの樋口氏のアカウントから写真を見る事ができる。#モジャメガネ焼き菓子部 で検索!

庵野秀明氏とは盟友と呼べる仲であり、エヴァや『シン・ゴジラ』を始めいくつも共同で仕事をしている。
有名な話だが、碇シンジの下の名前は樋口氏の名前が元ネタになっている。
近年では庵野氏や同じく一緒に仕事をする事が多い特技監督の尾上克郎氏らと共に、福島・須賀川に「特撮アーカイブセンター」を設立した。

特技監督としての師匠は中野昭慶氏。また、田口清隆氏には師匠のように慕われるが、樋口氏としては「弟子をとった覚えはねえ」と舎弟扱いだそうである。


【主な作品】

監督作品


特技監督作品


PV演出

  • AKB48「真夏のSounds good!」
  • エレファントカシマシ「ズレてる方がいい」(犬童一心監督と共同)

その他




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最終更新:2024年09月09日 12:08