スピノサウルス(古代生物)

登録日:2022/07/13 Wed 5:39:00
更新日:2023/12/25 Mon 13:33:01
所要時間:約25分で読めます





スピノサウルスとは、中生代白亜紀後期のアフリカ大陸*1に生息していた恐竜の一種である。
スピノサウルス科に属し、獣脚類に分類される肉食恐竜であり、名前はラテン語で「トゲのあるトカゲ」を意味する。
ティラノサウルスギガノトサウルスと並んで大型肉食恐竜としても知名度が高いことで知られている。

●目次

●分類・特徴

先述の通りスピノサウルス科の恐竜でその代表ともいえる恐竜である。
鋭い歯の生えたハモやワニを思わせる細長いマズルを持った頭部を持っているが、最大の特徴は背中にある帆*2
恐竜含め背中に帆が生えた古代生物は数あれど、帆が生えた恐竜と言えば事実上スピノサウルスそのものと言ってもいいこの特徴は例に漏れず体温調節のために備わっていたと言われており、
単弓類のディメトロドンやエダフォサウルス、草食恐竜のオウラノサウルスにも似ているが勿論関係はなくあくまで収斂進化によるもの。
近年の研究においては背中だけでなく尻尾にもヒレがあったことが示唆されており、水棲傾向の強い恐竜であることがほぼ確定している。
頭部も含め全体的に長い体型なのもあるが全長はなんと17m肉食恐竜の中でも最大級であり、冒頭で挙げたティラノサウルスやギガノトサウルスを凌ぐ。
だがその後の研究でいくらか下方修正され、最小の推定値では12.6mと最長とは呼べなくなっている。ただし体重は最小値でも12トンと肉食恐竜最大なのは間違いなさそうだ。


●食性

詳しくは後述するが近縁種であるバリオニクスの復元図が参考にされた為、
かつては長い後足を持った二足歩行の恐竜とされ、他の恐竜を襲って食べる獰猛な捕食者であるとされていた。

しかし近年の研究においては近縁種や歯の構造から魚食性が強かったと言われており、
同時代にいたオンコプリスティスという古代のエイ*3や、バウィティウスという巨大なポリプテルス、マウソニアという巨大なシーラカンスなどを捕らえていた魚食性の恐竜であることが判明している。
一方で近縁種のバリオニクスの胃の内容物の化石からはイグアノドンの幼体や翼竜類が発見されており、魚しか食べなかったのではなく、機会があれば他の恐竜や翼竜も襲って捕食していた、或いはその死骸を漁っていたのではないかとも言われている。


●復元図の変遷について

そんなスピノサウルスだが時代が変わり研究が進むにつれて変身してきた復元図が変わり、
その生態についても変遷していたことでも有名である。
より研究が進む前は他の恐竜を積極的に襲っていた獰猛な捕食者とされており、
ディメトロドンとティラノサウルスを足して2で割ったような現在とは全く異なる姿で描かれていた。
これは化石が発見された当初は頭骨と帆の部分の化石しか見つかっていなかった上、
第二次世界大戦によってそれも破壊されてしまったことで研究が遅れてしまった*4という事情がある。

しかし戦後の発掘調査において新たな化石が発掘されたことやバリオニクスなどの近縁種の発見で停滞していた研究が進み、
魚食性の恐竜という当時としては革新的な学説がされるようになった。
このように当初は近縁種のバリオニクスの復元図を参考に復元した為か、
長い間ティラノサウルスやアロサウルスの様なムチの様な尾と長い後ろ足を備えた復元図で描かれていた。
図鑑においてもその復元図がよく描かれていた為、昔のその復元図の方がなじみ深い人も多いかもしれない。

…だが2020年、その学説を覆す大発見がされることとなる。
なんと従来よりもさらに状態のいい化石が見つかった上に、長らく見つかっていなかった尾の部分の化石が発掘されたのである。

そこから更なる解析や研究が進んだ結果ムチの様な尾と長い足を持ち、他の恐竜を積極的に襲っていた二足歩行の獰猛な恐竜という定説が一転。
全体的に胴長体型で泳ぐことに適したヒレの様な縦長の尾を備え、後ろ足に関しても寧ろ短足気味で立ち上がることもできる四足歩行の魚食性の恐竜と、これまでの定説以上に水中生活に適応した姿の復元図となったのである*5
???「ヨツンヴァインになるんだよ、あくしろよ…」*6

さて読者諸兄は「水中生活」と聞いてオヤ?と思った方もいるのではなかろうか。
そう。大英帝国はネス湖のネッシーである。
1933年に「発見」されたネッシーは、その鎌首をもたげたような姿から、水中に住む恐竜だと思われていた。
実は当時、竜脚類などの巨大な恐竜は水中*7でカバのように暮らしていたのではないかと思われていたのである。
しかし、化石が発掘されるにつれて、恐竜はほぼ完全な陸生生物であり、行水や食事で水中に浸かる程度だったとされ、ネッシーが恐竜であるという説は完全に否定された。

ところがここにきて「恐竜は半水生や水棲もいた」*8説ががぜん注目されるようになり、
「水中に恐竜なんかいねえしww昭和かww」といったツッコミは鳴りを潜めるようになったのである。
じゃあネッシーの正体はスピノサウルスなのかって?
残念!ネス湖の水からは爬虫類のDNAは一かけらも見つかりませんでした*9
現実は最悪である…。
4割ほどネッシーの話になっているが気にしてはいけない。


●近縁種の恐竜

スピノサウルス科に属する恐竜は世界各地から発見されている。
以下に代表的な種を記載する。

◇オスタフリカサウルス・クラッシセラトゥス(Ostafrikasaurus crassiserratus)

分類:バリオニクス亜科
生息場所:タンザニア
生息年代:ジュラ紀後期
知られている限り最も最古とされるスピノサウルス科の恐竜。
当初は「ラブロサウルス(Labrosaurus)」という名前だった。
現在発見されているのは歯の化石2本である(実際は8本あったが、そのうち6本は後にケラトサウルス科の恐竜の歯だと発覚した)。

◇バリオニクス・ワルケリ(Baryonyx walkeri)

分類:バリオニクス亜科
生息場所:イギリス
生息年代:白亜紀前期
バリオニクス亜科の最も代表的な種。
名前は「重厚な鉤爪」を意味し、その名の通り前足についている巨大な鉤爪を使って魚を捕らえたと考えられている。
また、胃の中からイグアノドンの幼体の化石が見つかったことから、魚だけでなく他の動物も食べていたと推測される。

◇スコミムス・テネレンシス(Suchomimus tenerensis)

分類:バリオニクス亜科
生息場所:ニジェール
生息年代:白亜紀前期
全長は約11mほど。
頭部の形がワニに似ていることから、「ワニもどき」を意味する名前がつけられた。
同じ地域にはアベリサウルス科の肉食恐竜や、巨大な肉食ワニのサルコスクスなどが生息しており、彼らと激しい生存競争を繰り広げていたと思われる。

◇イリタトル・チャレンゲリ(Irritator challengeri)

分類:スピノサウルス亜科
生息場所:ブラジル
生息年代:白亜紀前期
「イリテーター」とも表記される。
化石は翼竜のものではないかと考えられていた。また、「アンガトラマ(Angaturama)」と呼ばれていたことも。
化石商が見つかった頭骨に石膏で細工を施していたため、研究者が修復に苦労したことから、「苛立たせるもの」を意味する名前がつけられてしまった。人間が勝手に名付けたとはいえ、いくらなんでも可哀想過ぎる。
ちなみに、種小名の「challengeri」は、コナン・ドイルの小説『失われた世界』の主人公チャレンジャー教授に由来する。

◇オキサライア・クイリムボエンシス(Oxalaia quilimboensis)

分類:スピノサウルス亜科
生息場所:ブラジル
生息年代:白亜紀後期
見つかっている化石は鼻の先と上顎の一部。
名前の由来はアフリカの伝承に登場する太陽神「オシャライア」。
スピノサウルスに匹敵する巨体を持つと推定されていたが、2018年に化石を所持していた博物館で火災が発生し、数少ない標本が失われてしまった。
太陽神に名前を由来する恐竜が火に焼かれるとはなかなか皮肉である。

◇ケラトスコプス・インフェロディオス(Ceratosuchops inferodios)

分類:バリオニクス亜科
生息場所:イギリス
生息年代:白亜紀前期
2021年にリパロヴェナトルと共に新種として発表された。
名前の意味は「角のあるワニの顔」。その名の通り、目の上に角のような突起があったとされる。
種小名の「inferodios」は「地獄のサギ」の意味。

◇リパロヴェナトル・ミルネラエ(Riparovenator milnerae)

分類:バリオニクス亜科
生息場所:イギリス
生息年代:白亜紀前期
2021年にケラトスコプスと共に新種として発表された。
名前の意味は「川岸の狩人」。
種小名の「milnerae」はイギリスの恐竜学者アンジェラ・ミルナー氏に由来。


●創作・メディアにおけるスピノサウルス

体長15m~17mという現在知られている肉食恐竜の中では最大クラスであることもそうだが、
何より「背中に帆の生えた肉食恐竜」という他に類を見ない姿であることから優遇されている。
中でも『ジュラシックパークⅢ』でメインの恐竜を務めた上、ティラノサウルスをも凌ぐ強敵として描かれて以降、
他作品にも強い影響を与え、一時期はギガノトサウルスと並んで史上最大かつ最強の肉食恐竜という触れ込み優遇されていたほどである。

……というか、スピノサウルスが目立つようになる前までは、恐竜関係の創作においてプレデター枠はティラノサウルスの一強であり、
ライバルとなってくれる肉食恐竜が他に存在しないという問題点を抱えていた。
恐竜界一番人気のティラノサウルスは、基本的に主人公かラスボス級のキャラクターになりやすい。
二番人気のトリケラトプスは草食恐竜で善玉に回りやすく、主役系ティラノサウルスの相棒と言うポジションになってしまう。
ほかの有名どころであるステゴサウルスやブラキオサウルスなどもだいたい草食で、活発な主人公系や大暴れするラスボス格とはイメージがズレる。
プテラノドンなどはそもそも翼竜で、空を飛んでいる彼らは活躍する舞台が違い、ティラノとの対立構造を作りづらい。
このため、主要キャラクターを恐竜で統一した場合、ティラノを主人公に据えるとラスボス恐竜が微妙になり、
かといってティラノをラスボスに置くと主人公恐竜がマイナーになってしまうのである。
そんな中で、「ティラノサウルスと同格の体躯を備えた肉食恐竜」「背中の帆と水陸両用という個性」を持つスピノサウルスは、ティラノサウルスの対抗馬として非常に優れたキャラクター性の持ち主であったのだ。
創作界隈におけるスピノサウルスの躍進には、この辺の事情が絡んでいたものと思われる。

……しかしながら、研究が進むにつれてこれまでの二足歩行の獰猛な肉食恐竜という定説が覆ったことで、
どの作品でも優遇されていた全盛期に比べれば、現在の扱いは大分落ち着いている。
とはいえそれでも十分優遇されている方。
この新しい復元図の影響から近年ではモチーフにしたキャラクターも四足歩行タイプが浸透しつつある。
特に前述の『ジュラシックパークⅢ』の続編では、あくまで実物とは異なるデザインされたキメラ恐竜である可能性が示唆されたり、(実はジュラシックパークⅢ内でも言及されてるのだが)それどころかティラノサウルスに「絶滅」させられたことになっていたり*10と、そのイメージを広めた張本人が掌返しする始末である。

前述した『ジュラシックパークⅢ』での扱いから、同じ肉食恐竜としてティラノサウルスとセットで扱われることも多い。

『古代王者恐竜キング』では第3紀から強さ2000・水属性・必殺わざはグーで登場。バトルタイプは第5紀まではあいこタイプ、2007第1紀+〜第4紀+はそっこうタイプ、激闘!ザンジャークはゆうきタイプ。ショルダーネームは「伝説の狩猟者」。
初登場したバージョンでは同時に登場した超わざ「トラジェティオブザボール」のカードにも描かれた。

2007第2紀からアクト団の固有名詞付き恐竜「スピノ」が超あいこタイプ・必殺わざはチョキ・強さ1600で登場した。
テレビアニメでは第1期では超わざはもっぱら「ショックウェーブ」を使っていた。もっとも、第1期では他の超わざは「フタバメガキャノン」しか使わなかったが。

激闘ザンジャークではディノテクター恐竜も登場。「スピノ」はラッキー7タイプ、固有名詞なしのディノテクター恐竜はパーパータイプ。

★スピノサウルスをモチーフにしたキャラクター等

キャラ名等 登場作品名等 備考
スピノサパー ゾイドシリーズ
ダークスパイナー
ジェノスピノ
ページワン ONE PIECE 動物系悪魔の実「リュウリュウの実 モデル“スピノサウルス”」の能力者
セビエ→セゴール→セグレイブ ポケットモンスター スカーレット・バイオレット モチーフにはこれこれも含まれると思われる
スピノモン/バイオスピノモン デジモンシリーズ
ダイノシャウト トランスフォーマー ギャラクシーフォース
スコーン トランスフォーマー ロストエイジ
デスリュウジャー獣電竜 トバスピノ 劇場版 獣電戦隊キョウリュウジャー ガブリンチョ・オブ・ミュージック
キョウリュウネイビー 帰ってきた獣電戦隊キョウリュウジャー 100years after スーツはデスリュウジャーの流用
騎士竜 スピノサンダー 騎士竜戦隊リュウソウジャー 水棲生物のモサレックス(モササウルス)と、ヒレを持つディメボルケーノ(ディメトロドン)の合体形態
ゴールドスピノバイスタンプ&仮面ライダーリバイ ゴールドスピノゲノム てれびくん超バトルDVD 仮面ライダーリバイス 2号ライダーはじめました♪ 仮面ライダー2号とのダブルモチーフ
スピノ佐ェ竜 ドラグ恐竜剣 名前が登場した回のコロコロコミックで本種の特集記事が掲載された

追記・修正は泳ぎ回ってからお願いします。

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最終更新:2023年12月25日 13:33

*1 現在では主にエジプトやリビア、モロッコなどの北アフリカ地域で化石が見つかっている

*2 実は帆ではなく巨大なコブがあったとする説も

*3 勘違いされやすいが実はノコギリエイではない

*4 当時収蔵されていたドイツの博物館が空襲で焼け落ちてしまった

*5 指骨が貧弱である事から、四足歩行に対して否定的な意見も今なお少なからず存在する

*6 一応、ティラノ顔だった頃から胴長短足であった事は知られており、四足歩行の復元もそこそこ見られていた。ある意味原点回帰

*7 「古代王者恐竜キング」で秘属性とわざカードの恐竜を除いて水属性に設定されたのはその名残かもしれない

*8 事実2016年と2022年に、それぞれハルシュカラプトルとナトヴェナトルという半水棲の羽毛恐竜が発見されている

*9 そもそもネス湖は透明度3mと非常に濁っており、植物性プランクトンが光合成しづらいため何十メートルもある生物が生き続けるのは困難である。現在ではネッシーは大きめのウナギか何かではないかと言われている他、スピノサウルスの化石は北半球からは発掘されていない

*10 設定のみで本編での言及はなし