ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島

登録日:2011/11/28 Mon 10:07:34
更新日:2024/04/20 Sat 15:07:49
所要時間:約 8 分で読めます




もし君が───

もし君が───


海賊の中の

海賊の中の

海賊の中の

海賊ならば


信頼する仲間をつれてこの島に来るがいい───



今度の映画、もれなく

笑いがついてくる!!

ルフィ海賊団、愉快なオマツリ島で抱腹絶倒の大ピンチ!?


『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』は、2005年3月5日に公開され、『ONE PIECE』の劇場版第6作目。
監督を、今や日本を代表するアニメ監督となった細田守が担当している。
毎週火曜日にはワンピースデイと称して映画鑑賞の割引が行われた。

【概要】

予告編や、公開前のスタッフインタビューは、明るい作風を匂わせるものだったが、実は普段の『ONE PIECE』からはとても想像出来ないほど、暗く重々しい内容。
麦わらの一味が仲たがいを起こし、一時的にではあるがルフィが仲間全員を喪い、クライマックスでは一味ではなく新たな仲間を作って共闘する…など、『ONE PIECE』としては異例の要素ばかりの物語。
そこに、細田守独特のタッチで展開されるグロテスクなホラー演出が交錯する、劇場版ワンピースの中でもまさに異色の作品。
女の子が崖っぷちからグへッとなったりします。

映画ONE PIECEとしては珍しく時系列を推定できる描写が全く描かれていない作品である*1


【あらすじ】

ある日、「もし君が 海賊の中の 海賊の中の 海賊の中の 海賊ならば 信頼する仲間をつれてこの島に来るがいい」という手紙とエターナルポースを拾った麦わらの一味
彼らはそのエターナルポースに導かれてオマツリ島を目指す。

オマツリ島でスパリゾートや美女、ご馳走によりもてなされると思っていた一味。
だが、その島の主オマツリ男爵により、試練を言い渡される。

もてなしを受けるためにルフィ達は試練に挑む事になる。

試練その1「金魚掬い」、試練その2「輪投げ」を突破する一味。
だが、試練の最中オマツリ島の秘密を知ったチョッパーロビンが姿を消してしまう。
さらにオマツリ男爵の仲間によりゾロナミウソップサンジまでもがルフィの前から消えてしまう。

そしてルフィだけで挑む最終試練…決戦が始まる。


【オリジナルキャラクター】

・オマツリ男爵

声 - 大塚明夫
オマツリ島の主。
島を訪れた海賊団に「地獄の試練」という名のアトラクションを仕向ける謎の男。

元はレッドアローズ海賊団の船長。22年以上前にゴールド・ロジャーに会った直後、嵐で全ての仲間を失ってしまう。
オマツリ島に漂着し悲しみのどん底にいたが、後述のリリー・カーネーションに出会い、島にやって来た海賊を生贄として食べさせる事で仲間を復活させていた。
より強い海賊を生贄にささげるため、島をオマツリ島と称し、強い海賊を島におびき寄せる。

仲間を失った過去から、仲間意識の強い海賊団を嫌い、海賊の仲間割れの様子を見ることを好む。
そのため、試練を通して彼らが仲間割れするように策略を巡らせる。

弓矢の名手で、標的を自動追尾する矢や爆発する矢など、様々な矢を使いこなす。
ただの弓矢ではない事から覇気や悪魔の実の力ではないかと予想されるが劇場版では解明されていない。
(当時は覇気等は説明されていなかったが、原作で岩を砕く弓矢が登場した)
また、刺さった相手の肌の色が悪くなっていた為毒があるのかもしれない。

ルフィを精神的に追い詰めたのは男爵と赤犬ぐらいだろう。
ただし肉弾戦での実力はそこまでではなく、打ちのめされたにもかかわらず仲間を取り戻すために折れない精神力で立ち上がったルフィの渾身のワンパンを喰らい敗北(しかも渾身の一撃とはいえゴムゴムの力を使っていない普通のパンチである)。


・リリー・カーネーション

声 - 渡辺美佐
オマツリ男爵の肩にいる顔の付いた花で、甲高い声で片言の人語を話す。ロビンいわくオマツリ島の固有種。
人間を生贄にする事で死者を復活させる事が出来る「死と再生の花」。
リリーの力で甦った人間の頭には双葉がついている(ピクミンではない)。
リリーが死ぬ時、リリーが甦らせた人間は全て木になってしまう。
このことから、名前の由来は「輪廻転生」を意味する英語“Reincarnation(リーンカーネーション)”と思われる。

普段は可愛らしい姿をしているが、真の姿はとても醜悪。
食べた麦わらの一味を取り込んだ姿は間違いなくトラウマ。もはや子供向けではないレベル。
子供が見たら多分大泣きする。

男爵の肩に乗っているのが本体で、島の頂上にある巨大なミミズのようなモノから生贄を食べる。

このミミズのようなものがダメージを受けると、無数の矢に分裂し降り注ぎ反撃する。
(この矢は全て男爵が意のままに操れるので男爵の弓はリリーの力なのかもしれない)

今作の最大のトラウマ要員。


◆オマツリ男爵の部下◆

・ムチゴロウ

声 - 草尾毅
第1の試練「金魚すくい」にて対戦。

・ケロジイ

声 - 青野武
第2の試練「輪投げ」にて対戦。
かなりの実力派でゾロ、サンジに完勝したがウソップの罠により……

・ケロショット

声 - 佐藤正治
第2の試練「輪投げ」にて対戦。

・ケロデーク

声 - 八奈見乗児
第2の試練「輪投げ」にて対戦。
やられる度にメカをパワーアップさせていった。

・ケロコ

声 - 山本圭子)
第2の試練「輪投げ」にて対戦。ちょっと年下。

・DJガッパ

声 - 池松壮亮
第3の試練「射的」にて対戦。語尾に「プ」をつけるのが特徴。
頭の皿が爆弾になっており、それを投げて戦い、ナミ、サンジを続けざまに倒し、ゾロの鬼切りを直撃するもリリーの力で不死身の為全く動じなかった。
今作でもトップクラスのトラウマ要員。

・コテツ

声 - 綾小路翔
サンジと鉄板焼き対決をして特製焼きそばを調理するが、サンジに奪われモダン焼きにされる。


◆海賊◆

・お茶の間パパ

声 - 国本武春
家族で構成された小さな海賊団「お茶の間海賊団」の船長。
とても頼りない性格だが、子ども達を喜ばせるために頑張っている。
今作で一番の男…いや漢。

・ローザ

声 - 大本眞基子
お茶の間海賊団船員。お茶の間パパの長女。
反抗期で、父親を嫌っている。

・リック

声 - 阪口大助
お茶の間海賊団船員。お茶の間パパの長男。

・デイジー

声 - 永井杏
お茶の間海賊団船員。お茶の間パパの次女。
母親譲りの優れた聴覚を持っており、耳がとてもいい。
リリーに食われた麦わら一味の声を聞いてルフィに伝えていたりする事から、もしかすると見聞色の覇気を使っていたのかもしれない。

・ブリーフ

声 - 安原義人
「チョビヒゲ海賊団」の船長。
彼以外の海賊団員は全員オマツリ男爵に捕まり、リリーの生贄となってしまった。
たった1人になっても決して諦めずに新たな仲間を探し求めつつ、島に秘密基地と地下通路を作り出して男爵への復讐の機会を窺っている行動力の化身。
今作の漢その2。


【制作の裏側】

細田守の初長編作品である。
このあと氏は、『時をかける少女』『サマーウォーズ』などの長編を立て続けに世に送り出し、名監督としての地位を不動のものとする。

また、制作するにあたって原作を読み、加えて本作より前にテレビ1本をやって勉強するよう言われ、
アニメオリジナルの「海軍要塞編」の内、2004年7月18日に放送された第199話「迫る海軍の捜査網!囚われた二人目!」の演出を手掛けている。

この頃の細田は、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』等で高い評価を得ていたものの、
監督を務めるはずだった『ハウルの動く城』で、トラブルが重なった末に制作が一時頓挫しついには降板するという騒動が起こってしまい、
「もう業界でやっていけないのでは」というぐらいのところまで追いつめられていた。
今作は氏にとって、『SUPERFLAT MONOGRAM』などイベント用映画などで地道に活動を重ねた末に、『ウォーゲーム』以来実に5年ぶりに掴んだチャンスであった。

そんなわけで、今作の陰鬱な作風には『ハウル』のゴタゴタで氏が感じた思いなどがテーマとして込められている。
それらは簡単に言えば「仲間を失うつらさ」や「大事な仲間を失っても、新しい仲間と一緒に前へ進んでいける」と言ったようなものである(インタビューなどでも語られている)。


なお、今作の脚本担当である伊藤正宏氏の個人ブログには
脚本中にあった笑い要素がほとんど削られ、替わりに、作品の背後にのみ流れていた悲劇性だけが強調された作品に仕上がっていたこと、試写会に至るまで改変された事実を知らされなかったうえ、「子供がメインターゲットの映画で、あんな陰気な作品を書く奴にシナリオは任せられない!」と風評被害をうけ悔しい思いをしたことが告白されている。

そのことに同情を受けたかどうかは不明だが、監督が降ろされた一方、
伊藤正宏氏は翌年のワンピース映画『ONE PIECE THE MOVIE カラクリ城のメカ巨兵』にも引き続き脚本を依頼され、

「伊藤さん、ようやく、春が来ましたね!今度の作品なら甥っ子さんや姪っ子さんたちにも安心して見せられますね?」

と、原作者である尾田栄一郎氏からコメントをもらっている。


一方、細田はWEBアニメスタイルの2005年8月8日のインタビューにおいて、
脚本を最後まで書いてもらえず、シナリオ打ち合わせでも帰納法的に「ラストがこうならば、最初はこうなんじゃないのかな」という全体像を考えることがあまりできなかったと明かしている。

プロットができた段階から参加したが、それを見て「なんじゃこりゃ!?」となり一度は「これは自分にはできないかも」と思ったらしい。
この時の内容は「『オマツリ島があって、色々試練を与える』というイベント仕立ての面白さが全てで、『めちゃイケ』的なムードの、その場その場で面白がらせていくバラエティ的な作り」だったらしく、原作の面白さとは別物のプロットだと思って戸惑ったという。
今回の脚本の伊藤氏は、正に『めちゃイケ』をはじめ数々のテレビ番組を手掛ける放送作家である。

また、最初の脚本ではもっと試練がたくさんあり、ひとつひとつの試練も長かったほか、
ルフィと仲間のことについてはそこを狙いにしてはいなかったため、仲間は大事といった当たり障りのないものになっていた。
そのため、イベント中心の内容をアニメーションの面白さとして定着させることが難しく、
「キャラクターの動機とか、気持ちの変化とかを、サブプロットとしてコンテの中に織り込んでいかざるを得なかった」として、
絵コンテを描きながら考えていった結果、出来上がったのが今回の映画だった。

プロデューサーの狙いや意図についても、「バラエティで構成作家をやっている人に脚本を書いてもらってるから、バラエティ的なアイディアがあれば、アニメのシナリオっぽくなくて面白い、毛色の違ったものになるだろう」
「前作(『ONE PIECE 呪われた聖剣』)が、割と大人っぽい感じだったから、もっと笑いの多いものにしたいという意図があって、そのプロットを選んだんだと思う」と推測している。


更に、同人誌(解説本)の『詳説?どれみと魔女をやめた魔女』(2008年の第2版以降)において、同作の演出担当としてインタビューを受けた際に、
「僕の作品が脚本と変わってしまう場合って、例えばあまり良くないから変えたとかではないんですよ。」
「あ、はっきりと『あれは良くないから変えた』と言えるものは『ONE PIECE』の映画だけです。ははははは(爆笑)。」
「作劇に素人の方がシナリオなんて……伊藤(正宏)さん、きっともうアニメのシナリオなんて書きませんよ。だって下手ですから。」
など、これだけに留まらない伊藤氏に対する本音をいろいろと暴露している。





こうした背景で生まれた「ルフィが今までの仲間を失い、新たな仲間を作る」「終始雰囲気が暗く普段のワンピース映画と異なる」という物語は、原作・テレビアニメを重視する視点で見ると、ともすれば憤慨ものであった。
絵柄自体が普段のアニメとかなり違うこともあって、原作ファンからの受けはあまり良くなかったと言ってよい。*2
また、本作のエンディングはONEPIECE映画にしては珍しく「黒い背景にスタッフロールが上にスクロールするだけ」というあまりにも味気ないものになっており、その後のルフィ達の動向やルフィと共に戦った仲間達がその後どうなったのかと言った後日談が語られることが無いので、消化不良感が否めない問題点もある*3。主題歌自体はかなり篤い歌になっているだけに、黒背景のみなのはあまりにも勿体無い。

後に原作のシャボディ諸島編から頂上戦争編の終わりで「ルフィは仲間や大事な人を失うと心が折れる所まで行ってしまう」
「仲間たちがまだいることを支えとして再起する」という点が明確化されており、
結果的にテーマに並べた「大事な仲間を失っても、新しい仲間と一緒に前へ進んでいける」という点は少なくともルフィにおいては否定された。
その後もワノ国編などで仲間を失う事を決して許さない点が強調されている。




しかし実際に観てみると笑いあり、涙あり、話のテンポありと細田守監督らしい作品である。
監督ブランド・スタッフのネームバリューに支えられてる至極の一品。

実は、作画・美術方面の制作陣の大半が当時のGAINAXのスタッフが揃っている為、事実上は東映アニメーションとGAINAXの共同制作である。

ちなみに細田守監督の師匠筋である幾原邦彦監督の作品群のパロディも多分に含まれており、それも事前に知っていればニヤリと出来ること受け合い。
ワンピース映画としても、無数にある作品の中のバリエーション・異色作という前提で観る分には、むしろ充分な内容と言えるだろう。


もし君が 海賊の中の 海賊の中の 海賊の中の 海賊ならば 信頼する仲間をつれてこの項目に来るがいい





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最終更新:2024年04月20日 15:07

*1 メンバー的にはアラバスタ後、空島後の二択だが。前作は手配書、次作はウェイバーやエピローグ描写で空島後と示されている。

*2 しかし、その後原作でも後に頂上戦争編で仲間を失った代わりに、かつての敵と共闘する展開があり、ある意味では先の展開を予見していた内容ではあった。

*3 前作は劇中で流れた叙事詩的なムービーシーンを流すというものではあるが、ルフィ達が旅立つところで物語は終わり、劇中の登場人物の動向もしっかり描かれているので違和感はない。