バルゴン


1966年に公開された大映の特撮映画『大怪獣決闘ガメラ対バルゴン』に登場する怪獣
乙女座を指す言葉ではない。バッコーンなんてもちろん問題外
別名「冷凍怪獣」。身長80m、体重70t。
昭和ガメラシリーズ最初の敵怪獣であり、ギャオスよりも歴史の古い古参である。
亀に対してワニトカゲのような姿、口からの炎に対して冷凍液、背後への甲羅に対して熱光線と、ガメラと対になるような特徴を持つ。

ニューギニアの孤島にある魔境「虹の谷」で千年に一度誕生すると言い伝えられている伝説の怪獣であり、
巨大なオパール状の卵から誕生し、本来は10年近い年月を経て成長するとされている。
劇中の個体は、虹の谷の巨大な宝石の噂を聞きつけた小野寺という小悪党にオパールと間違えて盗まれた卵が、
日本への途上にマラリアと水虫を患った小野寺の治療の際に卵の状態で医療用の赤外線を浴びたため、
孵化後わずか数時間で異常成長した変異個体であり、赤外線を好む性質を持っている。
宝石を主食としており、特にダイヤモンドの放つ光に引き寄せられる習性がある。

背筋に並ぶ光り輝く7つのプリズムからは「悪魔の虹」という異名の虹色の殺人光線を放つ。
この光線の威力は凄まじく、あらゆる物質を蒸発させる(ただしガメラはまともに浴びたが耐えているので限度はある模様)が、鏡に反射する性質がある。
また、カメレオンのような長い舌を持ち、人間に巻きつけて捕獲、そのまま丸呑みしたり、
建造物を破壊するほどの強烈な突きを放つ事もできる。
これは元プロボクサー・ファイティング原田が放つパンチの20万倍とされる。
この舌の先端からは零下100度の霧状の冷凍液を噴射する能力を備えており、
ガメラの火炎放射とぶつかり合っても一方的に打ち消してガメラを凍結させた程。
加えて普段から冷気を放出しているらしく、バルゴンの歩き回った周辺が凍結している描写がある。
また、普通冷凍怪獣は熱に弱い設定だったりするが、こいつは「赤外線(=熱線)で急成長する」「赤外線を好む」というくだりで分かるように、
人間がやや熱いと感じる程度の熱なら苦手ともせず、さらに高温のガメラの火炎放射が直撃した際も、流石にダメージこそ受けたが決定打にはならなかった。
食欲を優先する傾向こそあるが、劇中にて鈴鹿(三重県)の基地で自身を攻撃するミサイルの発射準備が完了しかけた時、
遠く離れた大阪にいながらも本能的に察知し、悪魔の虹で先制攻撃して全滅させるなど、知能も低いわけではない。

唯一の弱点として水に触れると溶けてしまう体質である事が挙げられている。冷凍怪獣なのに?*1
このため、現地では湖に特殊なダイヤモンドを沈めてバルゴンを水の中に招き入れて自滅させていたという。
しかし、この個体は上記の誕生経緯から、赤外線を当てて増幅されたダイヤの光でなければ認識できなくなっている。
故に、この性質が判明する前に行われたバルゴンの誘導作戦も一度失敗している。

大阪にて上記の「悪魔の虹」を使った際にこれを見て飛んできたガメラと激突し、一進一退の攻防を繰り広げるが、
冷凍液にてガメラを完全に凍結させ、一度はこれを退ける。
その後、ニューギニアのカレンという女性から部族が代々バルゴンを殺すのに村人が用いた巨大なダイヤモンドが提供され、
対策本部が誘導作戦を行うが上記の性質により一度失敗。
なぜか殺人光線を研究していた地元の科学者から強力な赤外線照射装置の提供を得られ
改めてダイヤを組み込んだ赤外線照射装置による誘導作戦が立案され、計画実行までバルゴンを足止めするため、
人工雨が用いられたが、水に弱いバルゴンはこの時のダメージで冷凍液を吹く力を失ってしまう。
計画が実行されると、強まったダイヤの光によってバルゴンの誘導は見事成功し、琵琶湖畔までたどり着く。
しかし、これを聞きつけた小野寺が欲に駆られて「自分はダイヤを貰う権利がある!!」とダイヤを強奪しようと乱入し、
この混乱の最中にバルゴンは水に入り切る前に逃亡しようとした小野寺をダイヤごと捕食。
作戦は失敗に終わったばかりか、バルゴン討伐の要であるダイヤも失われてしまう。

しかし、バルゴンの虹で破壊されたミサイル基地で、唯一溶けずに残されていた自動車のバックミラーから、殺人虹光線が鏡に反射する事が判明。
自衛隊により、その反射を利用した巨大反射装置による「バックミラー作戦」が決行される。
この作戦はバルゴンに重傷を負わせる一定の成果を上げたが、それでも致命傷までには至らず、
さらに人類の手口を学習したバルゴンが自主的に殺人虹光線を封印した事で、この作戦も手詰まりとなってしまう。

だが、人類がバルゴン相手に奮闘して稼いだ時間により、氷漬けにされていたガメラが自力で息を吹き返し、
このタイミングで琵琶湖に飛来してバルゴンを強襲。そのためバルゴンは、
  • 先のダメージで冷凍液が使用不可
  • 反射されるのを恐れて殺人虹光線の使用を躊躇している最中
  • 弱点である水が豊富にある琵琶湖付近
という非常に劣悪な状況下でガメラと戦う事になる。
そのような状態でも噛み付きや舌による突貫攻撃などで善戦するが、
ガメラのタフさと生命力に徐々に追い詰められ、最終的に琵琶湖に引きずり込まれて融解してしまい敗北した。

+ 漫画・小説などでの活躍
近藤和久氏による漫画で、平成三部作の世界を舞台とした『大怪獣激闘ガメラ対バルゴン-COMIC VERSION-』にも登場。
ガメラやギャオスと同様に超古代文明が作り出した生体兵器の一種で、四神における青龍に相当する存在である。*2
登場経緯は上述の映画とほぼ同じだが、ガメラに合わせて体が巨大化しているぶん能力のスケールも増しており、
舌からの冷凍液は海を凍らせて氷山を築き、プラズマ火球を相殺して防ぐほどにパワーアップ。
「バルゴンの虹」も長距離砲撃してきた護衛艦隊もろとも海を叩き割り、津波で沿岸一帯を洗い流す程の威力を誇る。
加えてその瞳には催眠術のような力があり、目を合わせた人間の欲望を刺激して凶暴化、人質として利用するなど知能も高い。
これほど強大にもかかわらずまだ成長途上で、「バルゴンの魂」と呼ばれる宝石を食べて完全体になればガメラでも敵わないとされる。
「バルゴンの魂」を利用した作戦で海上に誘き寄せられてなお海を凍らせて作った氷山の上でガメラを圧倒するが、
謎の少女アヤが「バルゴンの魂」ごとバルゴンの弱点の角にしがみつき、そこにプラズマ火球が直撃して頭部を吹き飛ばされ絶命した。

なお、本作は先述したように平成三部作の世界という設定で描かれており、
レギオン戦後イリス戦前を描いた『ガメラ2.5』と言うべき作品だが、
夢オチとも解釈できる結末なので、平成三部作の時系列において本当にこの戦いが起きたのかは定かではない
(アヤの存在も実在性が不確かな精霊のように扱われている)。

やはり平成三部作の世界観を引き継いだ小説『聖獣戦記 白い影』では鎌倉時代の日本に出現。
弘安の役で活躍した御家人・龍造寺家清を守護する勾玉によって操られ、対馬小太郎が操る白虎ことジャイガーと死闘を繰り広げた。
本作では善良な人物である家清に操られている為、シリーズで唯一善玉怪獣扱いされているのが特徴。
また、飛行能力を使用しているほか、水に弱い設定は無いのか日本海上で戦闘を行っている。

また、2006年公開の『小さき勇者たち~ガメラ~』の敵怪獣であるジーダスは、「トカゲ系の怪獣」「舌を武器としている」点がバルゴンと共通している他、
同作の蕪木統文氏版ノベライズ本では「Gバルゴン」が登場している。

+ 余談
実は日本の怪獣映画としては初めて、人間が怪獣に食べられるシーンを披露した存在である
(前年の東宝の『フランケンシュタイン対地底怪獣』では人間が怪獣に食い殺されるが、捕食シーン自体は無い)。

バルゴンの外見のモデルになったのは前作『大怪獣ガメラ』の撮影所長との事。
なんでも前作のラッシュチェック(カットごとを繋いだムービーの最終確認)時に、
完成度に不安を抱くと同時に大映社長の永田雅一氏に怒られるの恐れて逃亡した人らしい。

本作の興行成績そのものは上々であったが、怪獣映画の主な需要であった子供達からはドラマパートが長くて退屈と不評であり、
これを受けた制作スタッフは、前作でガメラが灯台を襲った際に、子供を手のひらに乗せて助けたシーンが観客の子供に大反響だったのを参考に、
続編の『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』以降、子供の主要キャラをドラマパートに盛り込みつつ、
本格的に年少を対象にした娯楽映画の路線に進む事にしたという。

また、2023年Netflix配信の3Dアニメ『GAMERA-Rebirth-』では、他の昭和ガメラ怪獣が復活を遂げたにも拘らず唯一ハブられた。
シリーズ初のライバル怪獣なのに……。
ファンの間では四足歩行のトカゲ型怪獣という点がジャイガーと被る事や、
同作における他怪獣にはバイラス戦で閉じ込められた檻やジャイガーの幼体の登場など、原典オマージュが多々見られる一方で、
バルゴンは原典が先述した通り子供がメインの作劇ではなかったためオマージュを組み込むのも難しかったのではないか、と推測されている。
一応、監督のインタビューでは出なかった理由こそ語られてはいないが、
悪意あるものではないとの事に加え、続編が出せればあるいは…といった、次回作への登場を匂わせる発言も見られる。

2024年公開の『ゴジラxコング 新たなる帝国』に登場した怪獣シーモは冷凍ブレスを使用する四足歩行の怪獣で、
全体像の特徴はアンギラス、肩の結晶体はスペースゴジラなど、数々の東宝特撮怪獣と酷似した要素を持つが、
公式が公言しているわけではないものの、上記の類似点からファンの間ではバルゴンも裏モチーフとして含まれているのではという意見もある。

パロディ関係の話になるが、口論の時にギロンを戦わせたり、モスラモゲラのパロディ怪獣が出たりと、
作者の特撮趣味が明らかな漫画『しあわせのかたち』では、某有名RPGがモチーフの話で竜化魔法「ドラゴラム」を唱えた際、
本来火竜と化して炎を吐くべき所を、バルゴンに変身して敵を氷結させてしまう場面があった。

余談だが、近い時期に他社から一字違いの怪獣が登場しており、当時は怪獣乱立の象徴としてネタにされたとか……。
ついでに言えば30年後にも円谷の方似た名前かつ虹関連の怪獣が登場している。


MUGENにおけるバルゴン

カーベィ氏の製作したキャラが公開中。
スプライトはgojira92氏によるもので、ベースになっているのはアンギラスのようだ。
キャラ自体は同じくカーベィ氏の手掛けたマグラーをベースとしている模様。
技は噛みつきや舌攻撃など原作の動作を基にしたものが多く、特に舌攻撃はリーチはそれなりに優秀。
超必殺技は「冷凍液」や「悪魔の虹」などの飛び道具が目立つ。
「悪魔の虹」は原作同様発生は遅めだが、範囲が広いのと「冷凍液」で相手を凍らせた状態で発動する事も可能なため、
原作同様強力な技となっている。一方で、放物線上に放つ為、相手が近すぎると当たらない事も。
AIもデフォルトで搭載されている。

2025年にはkMIKEj氏が描いたスプライトを用いたものに更新され、アニメーションは「OPTPiX SpriteStudio」を用いて作られたものになった。

出場大会



*1
ニューギニアという雨の多い土地でも今まで生きていた事や、
後述の漫画版の最終決戦も考えると、水を凍らせて危機を回避するための能力なのかもしれない。
なお、現実の北極圏にも(周囲を冷却する能力はないが)体液が不凍液のため氷河に潜って凍らず生きているが、
真水に触れると浸透圧により身体が破裂して死んでしまうコオリミミズという生物が実在する。

*2
この事について語られるシーンにおいて、イメージで本作のバルゴンの完全体と思しき姿が描かれている他
(平成第3作目では玄武に相当する存在がガメラ、朱雀に相当する存在がイリスとされている)、
ジグラやジャイガーといったバルゴン以外の昭和ガメラ怪獣も生体兵器として存在していた事が示唆されている。


最終更新:2025年04月19日 19:59