ショートケーキ

登録日:2012/04/05 Thu 23:42:42
更新日:2025/05/29 Thu 11:10:19
所要時間:約 3 分で読めます






ロボットけんきゅうじょは
ショート・ケーキでも つくってろ!



ショートケーキとは、洋菓子の一種。
そして、およそ「ケーキ」と呼ばれるカテゴリーの菓子の代名詞、ステレオタイプとして日本人に認知されている存在である。
和菓子界にも影響を与えていて、いちご大福の元祖である大角玉屋はショートケーキがヒントになっていたことを明言している。

日本人が思い付くであろう形はスポンジ生地に白い生クリームを盛り付け、生のイチゴをデーンと載せた姿だろう。
昭和30~40年代までは、常温でも比較的劣化が遅かったバタークリームかフォンダンを使用したこってりと甘いケーキが主流だったが、
電気冷蔵庫やハウス栽培によってイチゴのショートケーキが通年で提供し易くなり、クリスマスケーキの定番となって圧倒的な人気に繋がった経緯がある。
ちなみにショートケーキも時代による変化はある模様で、昔のスポンジ生地は現在よりも厚めに切っていて、シロップを打たなくても構わない程に水分が含まれていたほか、
当時のイチゴは酸味が強かったため、イチゴ自体に甘みを付ける加工が存在したり*1、生クリームに加える砂糖の量が多い傾向にあったという。

しかし実は、国ごとにショートケーキのスタイルはかなり違ってくるので、起源たるフランスから順に追って記載していく。
時にはテレビドラマの主題歌としても夢中にさせちゃうぞっ!


■フランス式ショートケーキ

ショートケーキの源流になったとされるのはフランスの菓子、フレーズ・バニーユで、これはイチゴのムースと言った風情の菓子。
アーモンドの香りをつけたスポンジケーキに生クリームやコンポート、更にはイチゴのムースなどを盛り付けたデザートである。
ちなみにフランスにもスポンジ生地のショートケーキは存在し、こちらはフレジエ*2と称している。
フランス人が好むピスタチオ入りのスポンジ生地やクリームを用いるフレジエ・ピスターシュというフレジエの原型も存在する。
現在のフレジエは、ジェノワーズとクレーム・ディプロマット*3を組み合わせていて、クレーム・ムースリーヌやマジパンを使用した物はクラシック・スタイルとされている。
イチゴを使った日本のショートケーキは、フランスでフレジエ・ジャポネと呼ばれている。
ちなみに日本でフレジエと表記されることは多いが、フランスにおける実際の発音はフレズィエだそうである。

■アメリカ式ショートケーキ

アメリカでショートケーキと呼ばれるのは、ビスケット生地を生クリームやイチゴで飾りつけた菓子である。
このビスケットはクッキーとパンの中間くらいの感覚で、源流はかのメシマズ紳士国のスコーンだと言われている。
イギリス版はスコーンかダービーショートケーキ*4、アメリカ版はバターミルクビスケットかクリームビスケットのレシピを流用して土台にすれば、疑似的に再現できる*5
日本のショートケーキの直接の源流はこれであり、故に未だにショート(さくさくした)ケーキを名乗っているのである。
ただしアメリカにもスポンジ生地を使用したショートケーキが確認されており、1913年当時のレシピも残されている。
不二家やコロンバンが開業する前から同国のチャイルズ・レストランで提供されていて、これが日本のショートケーキに影響を与えた可能性もあるという。
チャイルズ・レストランのショートケーキで使用されたスポンジ生地のレシピは、卵が少なくて牛乳は多いことからベーキングパウダーで起泡性を補っている。
ちなみに日本から逆輸入されたショートケーキも存在はする。

■日本のショートケーキ

現在もなお日本人にとって最も身近でありながら未だに高級菓子の代名詞として君臨し続けるケーキ界のチャンピオンである。
日本におけるショートケーキの発祥は、有力視されている二説と異説の計三種類が存在している。

  • アメリカ起源説
不二家は1922年にショートケーキを発売していて、創業者である藤井林右衛門によって開発された。
1912年に洋菓子市場の視察で渡米した際に、ストロベリー・ビスケット(英米式ショートケーキ)に出会ったのがきっかけとされる。
翌年に帰国した後で来日した外国人菓子職人から製菓技術を吸収し、日本人好みに改良して誕生させたのが日本初のショートケーキである。
不二家広報室によれば、当時の詳細なレシピは残っておらず、当初からイチゴがのっていたかも不明だが、当時のショートケーキは以下の様だったという。
 フルーツとスポンジケーキ、クリームを使っているものを『ショートケーキ』と呼んでいたようです。
 スポンジケーキに、乳脂肪分40%前後の液体生クリームを泡立てたホイップクリームを飾ったもの。
クリームにオレンジ、イチゴ、レモンなどの果汁やコーヒーチョコレートなどを入れて味に変化をもたせたとされています。
 当初のスポンジは、ほぼカステラに近いものを使用していたようです。
同広報室は、スポンジ生地を採用した経緯について、以下のように回答している。
 林右衛門は和菓子のようにしっとりとしてやわらかい食感の方が日本人の好みだろうと考え、
カステラのようなふんわりとしたスポンジ生地にしたといわれています
 フランスの技術を取り入れて独自のショートケーキを作ったのではないかと考えられます。
なお社史によれば、カステラを土台にしたショートケーキの類似品は1922年の時点で既に存在し、他店で提供されていたその類似品を旧式と評している。

  • フランス起源説
不二家だけではなく、コロンバンも元祖を主張している。
コロンバンは渡仏修業経験のある門倉國輝が創業した洋菓子店で、1924年にショートケーキを発売している。
「現地の味のままだと、日本人には受けないのでは」という懸念から、カスタードクリームやバタークリームではなく乳脂肪分45%の生クリームを採用し、
土台の方も全卵と同割の卵黄を加えるカステラ生地に似たスポンジケーキへ変更して、現在よりも酸味が強いイチゴをのせた経緯があるという。
ただし当時のイチゴは通年で収穫できなかったため、夏場はマスカットや缶詰の黄桃などで代用している。
基本的なレシピは当初から変化していないが、イチゴの糖度と消費者の健康志向が高まった影響で生クリームの糖度は下げているという。
もっとも、留意点がある。
基になったとされるフレジエは、キルシュ*6入りのアンビバージュ*7を打ったビスキュイ・ジョコンド*8かビスキュイ・オ・ザマンド*9かジェノワーズ・オ・ザマンド*10の間に、
イチゴとクレーム・ムースリーヌ*11を挟み、食用色素で着色したフォンダン*12やパート・ダマンド*13で薄く覆い、仕上げにイチゴなどで飾り付けたのが一般的ではあるが、
これはフランス洋菓子界の父であるガストン・ルノートルが1966年に考案したバガテル(ニーナ)*14が原型で、門倉國輝が参考にしたフレジエとは異なる可能性がある。
1900年に記録*15されたフレジエ・デ・ボワは、キルシュ入りのアンビバージュを打ったスポンジ生地の間にフレーズ・デ・ボワ*16とクレーム・シャンティイを挟み、
淡い桃色のフォンダン、フレーズ・デ・ボワ、ピスターシュ*17を飾り付けた逸品で、こちらの方が日式ショートケーキに近い。

  • ドイツ起源説
バウムクーヘンを日本にもたらしたユーハイム所属の製菓マイスター・安藤明氏が唱える異説。
同氏の著作『ドイツ菓子大全』で「洋菓子の定番ショートケーキはエルトベアトルテという苺のトルテが原形である」と記載するとともに、
ドイツ版イチゴのショートケーキとしてエアトベアザーネトルテ(Erdbeer Sahne Torte)*18と称するデコレーションケーキのレシピを紹介している。
エアトベアザーネトルテはバリエーションがあり、土台はヴィーナボーデン(Wiener Boden)*19にミュルベタイク(Mürbeteig)*20を敷く場合とビスクヴィットタイク(Biskuiteig)*21のみ、
生地の間に挟むクリームはザーネクレメ*22あるいはエルトベアザーネ*23で、表面に塗る生クリームが日本よりも低脂肪*24で砂糖を加えない点*25は共通している。
日本のショートケーキやフランスのフレジエと異なり、スポンジ生地にケーキシロップを打たないので甘さ控えめになっている。
ただしケーキシロップを打つ場合も無い訳ではなく、オレンジリキュールの一種であるグランマニエ入りのシロップを使用するレシピも存在する。

■バリエーション

◆様々なフルーツのショートケーキ

イチゴだけにとらわれずバナナやキウイ、ブルーベリーなどのショートケーキも存在している。
だが、やはり生クリームに一番合うのは酸味と甘味の釣り合いが見事なイチゴであるのは変わりない。

◆様々なクリームのショートケーキ

◇チョコレートショートケーキ

生クリームか生地あるいはその両方にチョコレート、もしくはココアパウダーを混ぜたもの。
黒の効いた色彩にイチゴの赤が映えると、また白肌のショートケーキとは違う魅力が生まれる。
味わいもチョコレートの甘味、苦味が加わり贅沢である。

◇抹茶ショートケーキ

生クリームか生地あるいはその両方に抹茶を混ぜたもの。
甘さ控え目で和風の味わいと渋い緑色は年齢を重ねるごとに良さがわかるようになる。大人が集まるパーティーに向いているかも。
イチゴもよく合うが、栗の甘露煮や甘納豆など和の甘味を代わりに入れても良い。

◇コーヒーショートケーキ

スポンジ生地、クリーム、シロップに、コーヒーエッセンス、コーヒーリキュール、コーヒーパウダーなどのいずれかを加える大人の味。
ベースとなるクリームは生クリーム以外にバタークリームやカスタードクリームが使用される場合があり、生クリームや牛乳にコーヒー豆を浸して風味付けするレシピもある。
胡桃やバナナなどと相性が良いほか、チョコレートやココアと組み合わせることもある。

◇ヨードグッブストルタ(グレッドトータン)

スウェーデンの古典的なレイヤーケーキで、イチゴが旬を迎える夏至祭(ミッドマンソル)の頃に製作される習慣がある。
日本のショートケーキと異なり、スポンジ生地の切断面にシロップは打たないでイチゴジャムか潰してグラニュー糖と和えたイチゴを塗り、
スポンジ生地の間に挟むクリームはヴァニリエクレーム(カスタードクリーム)を使用することが多い。
ヴァニリエクレームはコクを強めるために、牛乳の一部を生クリームで置き換えたり、冷却前にバターを溶かす場合もある。
ホイップした生クリームで表面を覆い、イチゴなどで飾り付ける点は日本のショートケーキと変わらない。

◆ミニサイズのショートケーキ

日本のショートケーキは大きなホールケーキを放射状に切り分けたタイプが主流なのに対して、直径10cm程度の丸い生地で作ったタイプ。
ホールケーキの豪華さはないが、ミニチュア感が可愛らしく、自分だけのために作られたかのような特別感がある。
市販のケーキにもあるが、マフィン型を使用したり、市販のスポンジケーキを型抜きすれば家庭でも作ることができる。切り分けの大きさで揉めることがないという利点もある。

◆グラスショートケーキ

透明なグラスにスポンジケーキ、生クリーム、イチゴ(などの果物)を重ねて盛り付けたもの。
家庭でも簡単に作ることができ、より手軽にスポンジケーキを蒸しパンやカステイラに置き換えても作れる。これも切り分けの大きさで揉めることがない。
イチゴの断面をグラスの側面に張り付けると見た目も美しい「萌え断」になる。
亜種としてはグラスの代わりにジャー(蓋付きの透明な瓶)に詰めたショートケーキジャーもある。

◆ドーム型ショートケーキ

文字通りドームのような半球形をしたもの。
かまくらケーキやイタリアンショートケーキとも呼ばれる。
何故イタリアンなのかは、スポンジ生地を使用するイタリアの伝統菓子ズコットを参考にしているからである。

ボウルを使えば家庭でも意外と簡単に作ることができる。
コツは植物性のホイップクリームは柔らかくて崩れやすいため動物性の生クリームを使うこと。
表面の生クリームはざっくり塗っても様になるのがありがたい。

◆ショートケーキロール(ルレ・オ・フレーズ)

生クリームとイチゴを巻いたロールケーキ。
ショートケーキと言って良いのかという疑念はあるものの、ケーキ生地・白いクリーム・イチゴの組み合わせはショートケーキを連想する人が多いのも確かである。
ちなみにロールケーキ生地とスポンジケーキ生地はちょっと違うので、思いつきでスポンジケーキを巻こうとすると崩れる。
一例を挙げると、卵1個(全卵50g)あたり薄力粉30g・グラニュー糖30g・バター5g・牛乳5mlという配合比のスポンジケーキ生地に対して、
ロールケーキ生地は卵1個(全卵50g)あたり薄力粉10g・グラニュー糖7.5g・バター7.5g・牛乳15mlで、薄力粉とグラニュー糖の使用量が減少している。
小麦粉とグラニュー糖の割合が多いロールケーキも実在こそするものの、巻く時に使うクリームなどの量を抑えることで成立させているので、
ブッシュ・ド・ノエルのように巻いた後でデコレーションする必要がある上、生地のしっとりふんわり感は普通のロールケーキよりも劣っている。

■ショートケーキが好きなキャラクター


■ショートケーキをモチーフにしたもの


■イギリスのショートケーキ(※余談)

イギリス人がショートケーキと聞いて、おそらく頭に思い浮かぶのはビスケットである。
長方形のショートケーキビスケット、円形のフルーツショートケーキ、正方形のノーフォークショートケーキやキャラメルショートケーキなどで、ティータイムのお供になっている。
ショートケーキビスケットはバターの風味が強いプレーンビスケット*26で、フルーツショートケーキのフルーツとは小粒で酸味の強いカランツ(干し葡萄)を指している。
ノーフォークショートケーキはビスケットとスコーンの中間的な食感で、コーニッシュ・ヘヴァ・ケーキと同様にラードを使用し、製法もショートケーキビスケットとは異なる。
こちらも生地にカランツを入れているが、叩き潰されたハエのようにも見えることからSquashed fly cakesという食欲が唆られない呼び方もある*27
キャラメルショートケーキはチョコレート・キャラメルトフィー・ショートブレッドの三層構造で、ミリオネラ・ショートブレッドやウェリントンスクエアとも称される。
上記以外に絞り出しタイプもあり、ダッチショートケーキはコーンスターチ入りのビスケット生地をS字1.5文字分絞り出していて、表面積の半分程度にチョコレートが掛かっている。





追記・修正は、イチゴを最後にとっておく方がお願いしちゃうぞっ!

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年05月29日 11:10

*1 日本のショートケーキに限った話だけではなく、アメリカ式ショートケーキのイチゴもグラニュー糖でマリネする例は珍しくなかった。

*2 フランス語で、イチゴの木という意味である。

*3 クレーム・パティシエール(カスタードクリーム)とクレーム・フェッテ(加糖せずに泡立てた生クリーム)を混ぜ合わせた物で、ゼラチンを加える場合もある。

*4 ショートブレッドの一種で、小麦粉:バター:グラニュー糖の配合比が3:2:1の生地に、僅かながら卵や牛乳も加えている。神戸松蔭女子学院大学が、舶来のレシピを基に再現したこともある。

*5 スコーンやビスケットに使うバターミルクはプレーンヨーグルトと牛乳を2:1の比率で配合すれば代用可能で、クリームビスケットに用いるダブルクリームは日本だと乳脂肪分48%の生クリームが該当する。

*6 サクランボを発酵させて作る蒸留酒で、香り付けで使用されている。

*7 生地をしっとりとさせるために塗るシロップ。

*8 全卵・純粉糖・アーモンドプードル・薄力粉を攪拌してからメレンゲと合わせて溶かしバターを加えるスポンジ生地。

*9 全卵・卵黄・純粉糖・アーモンドプードルを攪拌してからメレンゲと合わせて薄力粉を加えるスポンジ生地。

*10 共立て法で作るアーモンドプードル入りのスポンジ生地。

*11 クレーム・パティシエール(カスタードクリーム)とクレーム・オ・ブール(バタークリーム)を混ぜ合わせた物で、クレーム・シャンティイ(加糖して泡立てた生クリーム)よりも濃厚な口当たりである。

*12 高温で煮詰めたシロップを冷ましてから再結晶化するまで攪拌させた物で、使う時は湯煎してシロップと合わせて緩める。

*13 マジパンのことで、基本的にはアーモンドと砂糖を練り合わせて作る。

*14 イチゴだけでなく、クーリー・ド・フワンボワーズ(ラズベリーソース)も挟んでいた。

*15 菓子職人のピエール・ラカンによる著作で、邦題は『フランス菓子の歴史的・地理的な覚書』。

*16 エゾヘビイチゴのことで、香り高い小粒の野苺である。

*17 ピスタチオのこと。

*18 同氏以外の著書では、エルトベアザーネクレームトルテと紹介されている場合があり、表記揺れしている。オーストリアではクリームのことをオーバース(Obers)と称していて、ウィーン風の表記に従うとエルトベアオーバーストルテになる。

*19 小麦澱粉や油脂を使用するスポンジ生地の土台。

*20 フランスのパート・シュクレに相当する生地で、底生地として使用する場合とクッキーとして焼成する場合でレシピが異なる。

*21 小麦澱粉は加えるが、油脂を使用しないスポンジ生地の土台。

*22 ゼラチン入りのバニレクレメ(カスタードクリームの一種で、卵黄の使用量が少なめになっている。)とシュラークザーネ(ホイップした生クリーム)を混ぜ合わせた物。

*23 ゼラチン入りのイチゴピュレとシュラークザーネを混ぜ合わせた物。

*24 乳脂肪分は、日本が40~45%に対して、ドイツは32~35%程度であっさりしている。

*25 仮に入れる場合でも、生クリームの5%に留まる。日本は通常10%で、控えめにする時でも6%程度は加える。

*26 メーカーによってはジャムサンドやチョコレートコーティングなどのバリエーションが存在し、形状も長方形ではない場合がある。

*27 カランツをハエの死骸に例えるのはイギリス人の恒例らしく、エクルス・ケーキもSquashed fly cakesと呼ばれていて、東ハトのオールレーズンが参考にしたガリバリティ・ビスケットはSquashed fly biscuitsと言われることがある。