苦渋の選択(遊戯王OCG)

登録日:2021/12/12 Sun 00:00:07
更新日:2025/04/04 Fri 21:26:12
所要時間:約 4 分で読めます





マジックカード「苦渋の選択」

苦渋の選択だと?


企業家たるもの、常に選択を迫られている。それが例え苦渋を強いられる選択であろうとな


ふぅん…貴様が窮して選択することなど碌なことではあるまい


通常魔法
自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。
相手はその中から1枚を選択する。
相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる。

概要

《苦渋の選択》とは「Magic Ruler -魔法の支配者-」に収録された遊戯王のカードである。

デッキからカードを手札に加える「サーチカード」の一種。
ただし、カードの選択権は相手にある為、狙ったカードを手札に呼び込むことは難しい。
例えば、手札誘発や通常召喚で効果を発動する《ジャンク・シンクロン》など、手札に握ることに意味があるカードを選んだとする。
この場合相手はそのカードを選ばず墓地に落とす事が目に見えているので優勢にならない。
サーチ目的で運用する場合、「同名カード最大枚数+相互互換や蘇生カード等」から5枚選択し、そこから選ばせるという形になるだろう。
総じてサーチカードとしてみると不安定で、実用には値しないカード……ではない。


このカードの真価は、一見デメリットの「選ばれなかった4枚のカードを墓地に送る」ことにある。

OCGは「墓地アドバンテージ」なる言葉がある程に、「墓地を利用する戦法・概念」が豊富。
「墓地肥やし(ギミックに必要なカードを墓地に用意すること)」の手段をプレイヤーが重要視するのも必然である。
その中で《苦渋の選択》は、遊戯王全体で見ても屈指の墓地肥やし能力を持っていると評価されている。

参考に、他の墓地肥やしカードを例に挙げる。
先ずは「一度に複数枚墓地を肥やす」効果について。
これについては(2021年現在)《隣の芝刈り》や《混沌魔龍 カオス・ルーラー》等が特に挙げられる。
ネックな部分は、前者は専用のデッキを構築する必要がある点(当該記事参照)、後者は《混沌魔龍 カオス・ルーラー》を出すまでに手間がかかる点。
なによりも、「デッキの上から無造作に墓地へ送る」都合上、墓地肥やしの成果がどうしても水物になる
(とはいえ、前者は最大で20枚もの墓地肥やしが可能な点、後者は手札増強も見込めてなおかつ自己蘇生可能な切り札級モンスターという点から、いずれも活躍している)。

逆に狙ったカードを墓地へ送る効果は、《おろかな埋葬》や《ライトロード・ドミニオン キュリオス》などが存在する。
これらの場合は運に左右されにくい一方、1枚だけしか墓地に送れない事が多い
(たった1枚でも強いから頼りにされているし、《ラヴァルバル・チェイン》が惜しまれつつも禁止になるわけだが)。

それに対して《苦渋の選択》は、以下の通り圧倒的な利点が存在する。
  • 一切の発動条件と発動後の制約が無い
  • デッキから好きなカードを5種類選ぶことができる
  • ほぼ狙い通りのカードを 4枚も墓地に送れる (同名カードを選べば片方を確実に墓地に置ける)
  • 墓地肥やしのオマケで手札が1枚増えるので、効果解決後も手札が減らない
  • よって事実上消費無しで5枚分のデッキ圧縮が可能

強欲な壺》は無条件で2枚ドローという分かりやすいアドバンテージを生んでいる。
それで言えば《苦渋の選択》は(多少デッキを選ぶとはいえ)5枚ドローに等しいアドバンテージを生み出している。
そのため「《強欲な壺》を鼻で笑う位アドバンテージを稼いでいる」ことになる。
また強欲な壺は「禁止されていないなら入れない理由がない」イレギュラーな性質が問題となっている。
それを考慮しなければ《苦渋の選択》は、人によっては 最強の魔法カード と称される事も。

参考までに、墓地肥やしを軸に戦うデッキが《苦渋の選択》を使うとご覧のあり様である。



5枚全てを墓地に送りたいカードで構成しておけば、どれが手札に加わろうと、残りの4枚によって莫大な墓地リソースとなる。
死刑宣告もいいところである。

もっと単純な使い方にしても「《ダーク・アームド・ドラゴン》や霊神の条件を簡単に満たす」「カオスのコストを調達する」等々挙げればキリがない。
そもそも圧倒的な墓地肥やし性能に目が行きがちではあるが、
「カードの種類を問わない」「コスト・発動条件が無い」「そのターン中に効果を使える」点で、サーチカードとしても頭一つ抜けた性能にはなっている。

このカードは2005年3月を最後に禁止カードから解除されたことはなく、まず復帰されない永世禁止カードとして認知されている。
前述の通り、現在最前線で使用される墓地肥やしカードですら、《苦渋の選択》の前では手粘になるので致し方ない。
仮にエラッタされるとしてもターン1制限及び発動後の制約と「自分のデッキの上からカードを5枚ドローして相手に見せる。」くらいは最低限必要だろう。
それでも無理というなら「相手に選ばれなかったカードは全て裏側表示で除外」「相手が自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる」とかになりそうだが。


アニメの活躍



俺にカードの説明は不要だ!

俺がその中から1枚だけ選んで残りは墓地に捨て、俺が選んだ1枚だけが貴様の手札に入る。

さあ、さっさとそのカードを見せろ


ふふ…これは釈迦に説法だったな…ではしっかり見てもらおう

選択すべき5枚のカードはこれだ
BGM:神の降臨


《封印されし者の右足》
《封印されし者の右腕》
《封印されしエクゾディア》
《封印されし者の左腕》
《封印されし者の左足》

乃亜編では海馬剛三郎が使用。
エクゾディアパーツを全て取り出し、社長を戦慄させた。
さらに瀬人が選んだ《封印されし者の右腕》を裏守備で出して戦闘破壊させることで全てのパーツを墓地に送っている。
剛三郎がこれを行った理由は、墓地にエクゾディアがあることを条件とする《エクゾディア・ネクロス》召喚のための準備。
つまり、事実上どれを選んでも結果は変わらないという模範的な使い方を披露している。
もし現代で同じことをすれば、《闇の量産工場》や《補充要員》を使い速攻サルベージによる1キルを狙うだろう。


遊戯王デュエルモンスターズGX』では万丈目準が使用。
この時の彼は、デュエルの素人である兄・長作とのデュエルにて『モンスターカードは元々の攻撃力が500未満のものしか使用できない』
というハンデ(さらに自分の意志で攻撃力0のモンスターだけを使用した)を受けており、攻撃力500未満のモンスターカードを調達すべく、古井戸の中に捨てられたカードをかき集め、デッキとして使用している。
つまり誰かが《苦渋の選択》をゴミとして捨てた…とよく言われているが、
実は件の井戸は「モンスターが捨てられている井戸」と紹介されており、該当シーンではモンスターカードしか映っていない。
さらに万丈目は「元々の攻撃力が500未満のモンスターを《おジャマ・イエロー》以外持っていない」という理由でこの井戸を頼ったので、
魔法・罠カードに関しては自前の可能性が高く、「《苦渋の選択》まで捨てられていたか」は不明。
ただ「あの」アカデミア生徒なら捨てかねないというのがなんとも…

次のターン、私の総攻撃は決まっているが…念には念を入れ

モンスター以外のカード《サンダー・クラッシュ》だ

この時選んだカードは「《サクリファイス》《キャッスル・ゲート》《ものマネ幻想師》《王立魔法図書館》《サンダー・クラッシュ》」の5枚。
壁モンスターと《暗黒の扉》で攻撃を止められ続けていたこともあり、対戦相手の長作は魔法カードの《サンダー・クラッシュ》を選ぶ。
しかしこれが仇となり、《サンダー・クラッシュ》でおジャマ三兄弟を爆☆殺しダメージを受けたばかりか「墓地のモンスターの数×300の攻撃力を持つ」《カオス・ネクロマンサー》の攻撃を受け、長作は敗北した。
長作の選択次第ではデュエルの展開が変わりうる五択だが、《サンダー・クラッシュ》を選びたくなる状況を作っていたため心理戦で勝利したとも言えるだろう。


やはりアニメでの出番も、獲得した墓地アドバンテージを活かした戦術に繋げている。

また『遊戯王VRAINS』第32話では島直樹が見ていたネットの禁止カードをもじったハンドルネームの1つに「苦渋の洗濯」という名前が確認できる。


余談

遊戯王に限らず、TCG全般において「相手に選択権があるカードは弱い」という不文律がある。
例えばこのカードをご覧いただきたい。

No.44 白天馬スカイ・ペガサス
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/獣族/攻1800/守1600
レベル4モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
相手は1000LPを払ってこの効果を無効にできる。
払わなかった場合、対象のモンスターを破壊する。

このカードは「1000LPを減らすか、対象のモンスター1体を破壊するかを相手が選ぶ」効果を持っている。
必然的に「相手にとって都合がいい方(=自分にとって都合が悪い方)が適用される」のは、選択権が相手にあるので当然の事。
どうしてもモンスターを破壊するなら、相手に選択権を与えずに破壊する効果を使えば確実。
逆にどうしても相手のLPを減らすなら、相手に選択権を与えずにダメージ効果を使えば確実である。

とにかく適用される効果が不安定で、ゲームを思い通りにコントロールできない。
これが「相手に選択権があるカードは弱い」の理由である。


《苦渋の選択》が強い理由は、(相手が選ぶといっても)選択肢が五択に見せかけた事実上一択「くたばれ」になること。
どれを選んだところで「相手の墓地が潤って有利になる結果」が全く変わらないことにある。
なにせ手札に加えられるカードこそ相手が選ぶが、選ぶ選択肢のカードは自分が決められるのだから。

「苦渋」というカード名も、当初は「4枚墓地に行くリスクを呑んで、自分が苦渋の末に五枚のカードを選ぶ」という意味合いだったのだろう。
現にこのカードの登場当初も、活用法は「単純な蘇生」など限られたものであった。

しかし墓地にカードが溜まることがメリットになった今では、
「墓地アドが溜まるリスクを呑んで、相手が苦渋の末に1枚のカードを選ぶ」という意味合いにすっかり変わった…と言われている。
尤も「発動を許した時点でどの道負け確」だと考えると、この意味合いも微妙にあっていない。


昔はどうだったのか?

さて、このカード実の所よく「昔は強さが分からなかった」と言われる定番のカードだったりする。
一応言っておくとこのカードは似たような評価をされるかつての《キラー・スネーク》のように「入手手段が限られていたから実際に活躍する場を見れず強さが想像できなかった」とか、
生還の宝札》や《レスキューキャット》のような「昔は弱かったがカードプールの変遷で出世した」とかいったカードではなく*1
このカードは一般パックのノーマルとして登場し、カードゲームの理論が円熟した2000年代の中頃にはすでに「相手が苦渋の選択をする」「何もかもがおかしいカード」とよく言われていた。

では何故強さが理解されなかったかと言うと、これは当時のTCG業界の方針や時代背景が多いに関わっている。
前述の通りこのカードが真価を発揮するには選択肢が五択に見せかけた事実上一択を突き付けられることにある。
つまり、わずかでも相手に逃げ道がある選択を突き付けると途端に弱くなる(上にあげられている様々な「選べ」コンボのうち1枚を《サイバー・レーザー・ドラゴン》あたりにしてみると分かりやすいかもしれない)。

忘れてはならないのが遊戯王OCGというのが当時連載中の少年漫画原作のカードゲームであるということ。
ファンの主流は小学生中学生といった年齢層であり、まだインターネットが電話回線で行われていたような時代にそういった子供たちがなけなしのお小遣いでカードを買い求めていたようなゲームだったのである。
個人単位で見ればカードに投入される資金、収集できる情報量ともに圧倒的に乏しい時代であり、このカードの真価を発揮できるような完璧なデッキなどそうそう組めなかったのだ。

たとえば「手札にどうしても《シーザリオン》が欲しいけど2枚しか持ってないんだよな…残りの3枚どう選べばいいんだろう…」
という悩みを持った時、やカード知識が豊富な人なら
「まず《シーザリオン》を3枚デッキに入れて、さらに蘇生カードを2枚選べばいい」
「《シーザリオン》と、ほぼ同じ役割を持てる《レインボー・フィッシュ》あたりを合わせて5枚選べばいい」
そもそも《シーザリオン》より《ヂェミナイ・エルフ》だろう
なんて答えがすぐに出てくるだろう。
しかし多くの小学生の懐事情ではそれが無理で、どう頑張っても残りの3枚をどう選ぶかという苦渋の選択を強いられる。
「4枚墓地に行くリスクを呑んで、自分が苦渋の末に5枚のカードを選ぶ」なんてことすらできない。常に十分な選択肢がデッキの中に眠るということがないのだ。
仕方なしに《魔法剣士ネオ》などを提示して、それを選ばれてガッカリする……理想値からは程遠い不完全なデッキでこれを使うと、そんな評価に落ち着くカードである。

つまり実は完全な運用ができて初めて強いカードであり、強さが分からなかったのは小学生だから知識が不足していたというより、
「完全なデッキが組めないと強さが分からなくて当然のカードだったから」というところが大きいと言えるのである。

なお、現代のプレイヤーからしてみれば「ストラク買えば良いのでは?」「シングルカードショップなりに行けよ」と思われるかもしれないが、
《苦渋の選択》登場当初は、ストラクチャーデッキすら存在していなかったし、そもそもシングルカードショップが地方には殆ど存在すらしていなかった
という時代背景も考慮する必要があるだろう。

関連カード

有名な禁止カードだけあってオマージュカードが複数出ている。

苦渋の転生
通常魔法
自分の墓地から、相手はモンスター1体を選ぶ。
このターンのエンドフェイズ時、そのモンスターを墓地から自分の手札に加える。

単にサルベージするだけなら手札1枚を惜しまず、《死者転生》を使った方が確実。
そのため、ノーコストで墓地のモンスターを回収できる効果として、《ガーディアン・エアトス》や《ダーク・アームド・ドラゴン》など、
墓地のカードの内容が重要なカードと組み合わせるといいだろう。
イラストは樹海を彷徨う《戦士ダイ・グレファー》が分かれ道に差し掛かったところ。どうやら左が漆黒の魔王、右がドラゴン・ウォリアーへ繋がる道のようだ。

苦渋の決断
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
①:デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を墓地へ送り、その同名モンスター1体をデッキから手札に加える。

城之内がアニオリで使ったカードとは別物。一応オマージュの中では選択の面影を残している。
通常モンスターを複数積みする必要があるため事故率がちょっと上がるが、墓地に送りづらいバニラペンデュラムや、魔鍵軍貫などの「デッキの核となる通常モンスター」を確実に手札に置きつつ墓地に送り込む用途がある。
ただしその都合上、同名カードが2枚ともデッキになければ使えないので、バニラ御用達の《レスキューラビット》とは相性が最悪なのに注意。

イラストはおジャマ三兄弟のうち、《おジャマ・グリーン》と《おジャマ・ブラック》が溺れてサメに襲われているのを《おジャマ・イエロー》が慌てた様子で見ているところ。
どうやら《おジャマ・イエロー》は《おジャマ・グリーン》を見捨てて《おジャマ・ブラック》を助けたようだが……。

苦渋の黙札
通常罠
①:自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターと元々のカード名が異なり、 元々の種族・属性・レベルが同じモンスター1体を自分のデッキ・墓地から選んで手札に加える。

苦渋シリーズ初の罠カード。
リリースコストに加えてサーチ先が「名前だけ違って種族・属性・レベルが全部同じモンスター」なので、デッキ構築の時点で意識しておく必要がある。
そのため、彼岸幻影騎士団など、属性・種族が統一されたカテゴリデッキで真価を発揮する。特にこれらのカテゴリは墓地で効果を発動する連中も多いので相性が良い。
ただしトラップカードなのでテンポアドで損をすることは注意。サクリファイスエスケープにも使えることは覚えて置くといいかもしれない。

イラストはどこかの遺跡で宝を入手した後、番人に襲われた《おジャマ・ブラック》を《おジャマ・イエロー》が見捨てて逃げているところ。
ちなみにこの《おジャマ・イエロー》も後で罠に引っ掛かっているのが《トレジャー・パンダー》のイラストで判明している。


アニヲタの選択
自分が立てた項目を5つ選択して相手に見せる。
相手はその中から1つを選択する。
相手が選択し項目1つを追記・修正して、残りの項目の編集を相手に押し付ける。

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最終更新:2025年04月04日 21:26

*1 現在思い浮かぶ使い方と比べると当時の使い方は全然弱かったのは事実。